その二つ名で呼ばないで!   作:フクブチョー

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Myth4 ママと呼ばないで!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静寂が辺りを支配する。リヴィが語り終えた時、発言できる者は誰一人いなかった。彼の口から語られたのはそれほどの悲劇だった。

 

「…………コレが今までの俺の全てだ」

 

黙り込んでいる訳にもいかない。向こうから何か言うのは困難だろうと察したリヴィエールはこちらから口を開いてやった。

 

「他に何か聞きたい事はあるか?ここまで来たら何でも話してやるぞ」

「…………新しいファミリアに入ったのか」

 

やはりというべきか、最初に口を開いたのはフィンだった。流石は【勇者(ブレイバー)】。勇敢な小人の予想通りの態度に笑みがこぼれた。自分の知る彼と変わっていない事が少し嬉しい。

 

「名前を貸しているだけみたいなものだけどな。俺自身滅多にファミリアに帰らない」

「君ほどの使い手が………君なら他にもっと選択肢があったろう。失礼を承知で言うがなぜそんな零細ファミリアに…」

「決まっている。メリットがあるからだ。それが無ければ俺は動かねえよ」

 

無所属のはぐれ冒険者の存在はそれ自体がイレギュラーだ。どうしても目立つ。かといって自分の実力に見合った大きなファミリアにリヴィエールが入ってしまっては確実にビッグニュースになる。

黒幕に自分の生存はまだ知られたくないリヴィエールにとって、それは避けたい事だった。冒険者が世間的に名前を出さない最も有効な方法は名前の売れていない小さなファミリアで身の丈にあったダンジョンで探索する事だ。

そういう意味でヘスティア・ファミリアは非常に勝手が良かった。構成員は今の所自分しかいない上に、主神もまだ下界に降りてきて日が浅い。このファミリアに誰か冒険者が入ったところでなんのニュースにもならない。あとは此方が派手な動きをしなければいいだけの事。しかもリヴィエールにとって身の丈にあった階層は50層近辺の深層。誰かと遭遇する率は更に低くなる。

 

「俺にとって、今のファミリアは隠れ蓑。ステイタスの更新をしてもらう代わりに此方も相手に利益を献上する。ギブアンドテイクの関係に過ぎない」

「…………その事、主神は?」

「知ってるさ。頼りねえ奴だが一応神だぞ。あいつは最初から俺の目的なんか気づいている。その上で手を組んだ」

 

半分真実で半分嘘だ。あの小さな手を支えたい。朝焼けの中で思った事は彼の本音だ。もしヘスティアになんらかの窮地が迫ったのなら、何を置いても助けに行くだろう。しかしそれだけが彼女のファミリアに入った理由ではない。至上の目的は別にある。

 

いつかこの手で遂げなければならない復讐。

 

今はそのための準備の時間。だからこそ彼は今も深層に潜り続け、最前線で戦っていた。ルグが望まない事だというのはわかっている。それで彼女が帰ってくるわけでもない。それもよく知っている。しかしそれを遂げなければ自分は前に進めない。コレはリヴィエールがつけなければならないケジメだ。

 

「俺の神はルグだけだ」

 

悲しみと憎しみがないまぜになった目がフィンを捉える。勇気ある小人は目を逸らして息を吐いた。そうしないとたじろいでしまいそうだったから。

 

「主神が聞いたら泣くよ?」

「フィンに言われたくないな。あんただって信じる神はロキじゃないだろう?」

 

金髪の少年は痛い所を突かれ、黙り込む。彼らの種族で信仰されていた神、フィアナの存在を本物の神の降臨により否定された小人族は衰退の一途を辿っている。

存在が否定された今でもフィンはこの架空の女神を信じており、一族の復興を目指して日々奮闘していた。彼のこの不屈の精神をリヴィエールは友人として尊敬している。

 

「ちょっとリヴィエール…」

 

苛立った様子でティオネが一歩前に出る。アマゾネスの典型とも言える彼女が想い人を攻撃するような言葉を無視する事などありえない。それをよく知っているリヴィエールは慌てて手を振った。

 

「誤解するなよ?別に皮肉ったわけじゃない。アンタのその夢と精神を俺は尊敬している。コレはマジだ」

「知っているとも。君は僕の夢を聞いたときに笑わないでいてくれた数少ない人間の一人だからね」

 

小人族の再興。コレを聞いたらたいていの人間が笑うだろう。非力な小人族の扱いは基本的に弱者だ。一族の人間の自虐的な風潮も手伝って、見下されることも多い。小人族全体で一纏めにしなかった者は本当に数えるほどの者しかいなかった。

 

「フィンにとって一族の再興が目的のように、俺には俺の目的がある。冒険者をやる理由なんてそれで充分だろう」

「………………そうかもしれないね」

 

いらない事を聞いてしまったとフィンは悔やんだ。ここまで話してくれただけでも感謝すべきなのに、彼の今のファミリアを零細などと呼んでしまった上に誇りを傷つけるような事まで言ってしまった。それは彼が最も嫌っていたことのはずなのに。羞恥で顔が熱くなる。

 

「しかしなんでこんな深層まで一人で遠征を?リヴィの力を疑うわけではないがソロでは危険だろう?」

 

空気を変えるためか、急にリヴェリアが話を変えた。

しかしこの質問はなんらおかしくはない。オラリオ有数の実力を持つロキ・ファミリアでさえパーティを組んで来る場所だ。しかも一時的とはいえ全滅しかかったほどの危険区域。リヴェリアのこの心配は一見正しい。しかしリヴィエールはそんな彼女の言葉を笑って否定した。

 

「後ろの連中に聞こえてないだろうから言うが、こんな集団パーティ組んでる方が俺にとってはよほどリスキーだ。ベートじゃないけど、足手まといと、この深層で戦いたいとは俺も思わないね」

 

たとえこの深層で先ほどリヴェリア達が陥っていた多数対少数の状況に自分がなろうと、リヴィエールは全員斃せる自信があるし、生き残れると心から言える。ダンジョンは広い。袋小路に追い込まれる事などまず無いし、たとえ倒せない数だろうと敵だろうと、自分の能力なら最低、逃げる事は出来る。

 

「…………誰もがお前のように強くない」

「知ってるよ。だからそちらのやり方を否定する気はない。今回は状況が少々特殊だったしな。お互いにとって」

 

お前の窮地でなかったら俺は関わろうとは思わなかったぜ、と言外に言う。目立ちたくないというのは今まで散々言ってきた。こんな大人数の前に姿を見せるなど普通なら絶対にやらない。

それも今は後悔しているが。現在進行形で。

 

「ーーーー余計な事を言ったな。俺がここに来た理由だったか。強竜と戦いに来たんだよ」

 

なんでもない事のようにリヴィエールが言ったセリフに皆驚愕する。

51階層に存在する『カドモスの泉』。その泉の番人とも言える強竜は絶対数が少なく、『稀少種』と称されている。

その力は51階層最強。他層で出現する階層主と呼ばれるモンスターを抜きにすれば、現在発見されているモンスターの中でも間違いなく最上位に君臨する。

 

そんな怪物とリヴィエールはソロで戦いに来たと言ったのだ。

 

「な、なんて無茶なマネを……」

「そこまで驚くような事でもないだろう。やり方次第でお前らなら出来るさ。まあ今回はあの新種に既にやられてて徒労に終わったがな」

 

唯一の収穫はこいつがタダで手に入った事か、と懐から素材を取り出す。

 

『カドモスの皮膜』。頑強な防具の素材になり、また回復系のアイテムの原料としても重宝されている。しかるべきところに持っていけば800万ヴァリスはくだらないドロップアイテムだ。

 

「リヴィエールも手に入れてたんだ」

「まあ放置する意味もないしな。棚からぼた餅が落ちてきたんなら食うさ」

「強竜と戦いに来た目的は……ランクアップか?」

 

ランクアップ。神が認める偉業を成した者に与えられるさらなる高次への器の昇華。それは経験値を積むだけでは達成できない。それこそ強竜をソロで打ち倒すくらいの事をしなければリヴィエールクラスのランクアップは成されない。

しかし白髪の剣士は師のセリフを笑って否定した。その笑顔には自嘲が混ざっている。

 

「まさか。今の俺のランクアップに強竜程度が足りるわけがない。ホントに小遣い稼ぎだよ」

「リヴィ……お前、今レベルは?」

「…………それを聞くのはマナー違反だぜ?」

 

自嘲気味に笑った後、リヴェリアに向けて人差し指を口の前に立てる。その態度はもう答えたような物だった。それはつまり現在、リヴィエールはリヴェリアが以前に知っていた彼のレベルではないという事。

 

ーーーーレベル7か!?

 

現在のオラリオでは最強の一角と見なされているフレイア・ファミリアで唯一存在する最高レベル。リヴィエールはそれに辿り着いていると暗に示したのだ。

 

ーーーー喋りすぎたな。

 

懐にアイテムを戻しながら、余計な事まで言ってしまった事を少し後悔する。別にどのファミリアに入ろうが個人の自由なのだ。理由まで説明してやる必要はなかった。

 

嘆息し、立ち上がる。もう話す事は無いし、その気もない。それに深層とはいえ集団で固まっていれば目立つ。それは出来れば避けたい。

 

生きている事をいつまでも隠すつもりではない。いずれは自分の存在をさらけ出す事で真の敵を釣りだし、斬る。そのために重要なのはタイミングだ。もちろん最悪バレても手はある。とゆーか今回こいつらと会った事で少なからず噂は広まるだろうが、それ以上になる訳にはいかない。

 

「リヴィ……!」

 

緑髪のエルフの言葉を無視して帰ろうとする。今回の遠征で手に入れた大量の魔石や素材を隠していた場所に向けて、跳躍しようとしたその瞬間だった。

 

首の襟元を掴まれたリヴィエールは跳躍の勢いを食い止められ事により、慣性の法則が働き、首を支点に、足が振り子のように上がった。そのまま地面に落下する。

 

「〜〜〜〜〜」

 

打ちつけた後頭部と急激に締め付けられた首元を抑えてしばらく悶える。

 

「アイズ……首はやめろ首は」

 

赤くなった首筋をさすりながら至近距離で犯人(アイズ)を睨む。比喩抜きで死ぬかと思った。

 

急に顔を近づけられたからか、アイズは頬を紅く染め、目を逸らした。けれど指はローブをしっかりと掴んでいる。

 

なんとかしろ、とフィンやリヴェリアに目を向ける。振り払っても良かったのだがこの子にそんな事はしたくない。

 

「リヴィエール。よく話してくれた。君が無事で生きていてくれた事と今回仲間を助けてくれた事に改めて感謝するよ」

 

視線に反応したのか、団長であるフィンが今回の一件について謝辞を述べてくる。その行動にリヴィエールの眉が若干釣り上がる。今更そんな事を言って何になる。借りを作った事を改めて述べたところでファミリアには不利益しか無いはずだ。小さな巨人の意図が読めない。

 

「今回の遠征は僕らもここまでにして帰還しようと思う。君も随分な荷物だ。もうこれ以上の探索は無理だろう?」

「…………まあ、そうだな」

 

目敏い男だ。森林の裏手に隠したバックパックの存在には気づいていたらしい。フィンの背丈並みの大きさのソレは魔石やドロップアイテムでパンパンに膨れ上がっており、背負って帰るにはすこし困難なほどの大きさになっていた。

 

「なら協調しないか?お互いにメリットはあると思う」

 

ーーーーそう来たか……!

 

顔が引きつったのがわかる。恩を仇で返してきやがった。

フィンの意図を探るために話を聞き続けた事を後悔する。要するに依頼の名目でアイズやリヴェリア達と行動を共にさせようという腹だ。少年が笑顔を向けてくる。その可愛らしさと凛々しさの同居する顔立ちは見た目の幼さもあって天使のようだ。しかしリヴィエールには悪魔の笑みに映った。

 

「それを一人で持って帰るのは大変だろう?もし同行してくれるならウチのサポーター達に運ばせよう」

「ありがたい話だが遠慮させてもらう。普通に一人で持って帰れる」

「いくら君といえどこの深層でそのバックパックを背負いながら戦うのは無理があるだろう?」

 

痛いところを突かれ、押し黙る。多数のモンスターに囲まれたため、持てる限りのアイテムを持ってバックパックは捨てていく。そういう事態に陥った事は何度かあった。

フィンの意図を理解したリヴェリアがムカつくほどの笑顔でコッチに寄ってくる。

 

「もちろんタダでとは言わない。今回の謝礼も含めて報酬は充分に払う。アイテム売買の交渉も此方で請け負おう」

「どうせギルドに世話になっているんだろう。お前は昔から金に頓着しない」

 

図星だった。アイテムの売却方法は大まかに言って二種類ある。ひとつはギルドで売却する方法。詐欺の危険がないかわりに買い取り値は最低価格。その値付けは実際の市場価値よりも低目に付けられている。

もう一つがファミリア同士の取引だ。こちらは商談次第ではかなりの高値で売れることも多い。が、買い手を見つけるのに結構な苦労をするし、やれ払いすぎただの気が変っただのといったトラブルもかなりある。そこまで金に執着のないリヴィエールは面倒を金で買っていると思ってギルドの最低価格の売却で済ませている。

ロキ・ファミリアには馴染みの買取屋がある上に、そのビッグネームも手伝っていつも多くの利益を魔石やドロップアイテムから上げている。故買をこいつらに任せたらいつもより遥かに高い利益を得られるだろう。

 

「…………そこまでしてもらうのは流石にまずいだろう。今回の件は気にするな。俺とお前の仲じゃないか」

 

全滅の危機を救ったのだ。本来であれば多額の謝礼を貰っていい活躍ではある。けれどリヴィエールはそんなものよりこの場から去る事だけを求めていた。

 

ーーーーヴァリスでは動かないか……

 

その事を悟ったフィンは攻め方を変えた。

 

「先ほどはティオネにエリクサーを使ってくれたそうだね。礼を言うよ。ありがとう」

「…………?」

 

また意図が読めなくなった。警戒心をあらわに小さな勇者を見下ろす。

 

「じつは今回、僕らはディアンケヒト・ファミリアのクエストでこの深層に来たんだ。カドモスの泉水を頼まれた」

「…………それで?」

「そのクエストの報酬はエリクサーでね。しかもディアンケヒト・ファミリア謹製の万能薬を二十、もらえる事になっている」

「へえ、そりゃ豪勢だ」

 

ディアンケヒト・ファミリアと言えばオラリオを代表する薬品ファミリア。ポーションの質の高さは有名だ。そこのエリクサーともなれば単価で50万はくだらない。

 

「協調してくれたらそのエリクサーを一つ……いや、三つ君に譲ろう。仲間の命を救ってもらったお礼としてはささやかすぎるけどね」

 

ぐらりと天秤が揺れる。今回ティオネに使ったエリクサーはリヴィエールが作ったものだ。品質は並程度でディアンケヒトのモノとは比べるべくもない。エリクサーは高価な上に金を出せば買えるというものでもない。手に入れられる機会があるなら確実に得ておくべきなアイテムだ。

 

ーーーーいやいや、これ以上こいつらに付き合わされるのはゴメンだ!

 

リヴィエールは頭を振った。確かにエリクサーは欲しいが、今どうしても必要なものでもない。こいつらと付き合うデメリットを考えればまだこちらに天秤が傾く。

 

ーーーーダメか…

 

零細ファミリアに属している以上、金はいくらあっても邪魔にならないはずだが、話を聞くところ、リヴィエールは今のファミリアにそこまで執着していない。報酬という利点だけでは動いてくれないとフィンは判断した。

チラリと緑髪のエルフを見る。自分達の中で彼の事を最もよくわかっているのは彼女だ。リヴェリアなら報酬とは違う、リヴィエールが動くに足る動機を提示してくれるかもしれないと思い、視線を向けた。

麗しきハイエルフはコクリと一度頷き、弟の前に出る。

 

「実は先ほどの新種との戦いで多くの武器が失われてしまってな。今まともな武器を持っているのはアイズくらいだ。このままでは深層から帰還する間、アイズ一人に戦闘を任せる事になりかねない」

 

リヴェリアの援護射撃はリヴィエールの最も弱い所にクリティカルヒットする。深層での前衛ソロの辛さは誰よりも自分が良く知っている。そんな大変な事をアイズにさせたくない。なんだかんだで彼女に甘いリヴィエールにとってこれ以上ない有効な攻撃だった。

 

ーーーーっ!

 

今度はリヴェリアがアイズにアイコンタクトを送る。ローブの裾を掴む金髪の彼女に、今だ!と目で訴えた。

その視線にアイズは戸惑う。もともとアイコンタクトが通じるほど心の機微に聡い子ではない。自分の感情もわからないことがままある少女だ。

 

どうしようとオロオロするアイズ。助けを求めて無意識にリヴィエールを見てしまった。

 

切れ長の目に緑色を宿したリヴィエールの瞳とぶつかる。髪の色は変わったけれど、エメラルドのように美しいその瞳は記憶の中の彼と変わっていない。

 

『長いだろう。リヴィでいいよ。よろしく、アイズ』

 

今よりもずっと幼い、艶やかな黒髪に緑柱石の瞳を宿した少年が大人びた笑顔で自分に言ってくれたこの言葉。お互いあの頃とは大きく変わったけれど、その不器用な優しさと瞳の色は変わっていない。

 

「リヴィ……」

 

視線の意味がわかったわけではない。けれど何かを言わなければ、という一心でローブの裾を引っ張り、彼の愛称を呼んだ。

 

「もう少し、一緒にいさせて」

 

ーーーークッソ……

 

上目遣い、おねだり、困り顔。このコンボに勝てる兄などこの世に存在するだろうか?

 

天秤が傾く。その心中が手に取るようにわかったリヴェリアは嬉しいような、寂しいような、複雑かつ皮肉な笑みを浮かべ、弟の肩をたたく。

 

「フィン、リヴェリア、お前らロクな死に方しないぞ」

「ああ悲しいねリヴィエール。僕は君にただお礼がしたいだけだというのに」

「お前にとっても悪い話じゃないだろう」

「やかましい。不本意だがお前の手のひらで踊ってやる。だが条件がある。一つは俺の存在を公表しないこと」

「わかった。約束しよう」

「もう一つ、深層ではアイズに戦わせるな。その代わり俺が戦ってやる。いいな」

「…………君がそう言うなら構わないが」

 

その言葉の意味がわからない。デスペレートを持つアイズは貴重な戦力だ。それをわざわざ外させるとは。

 

「リヴィ、私は…」

 

貴方と戦いたい、そう言おうとしたが止められる。リヴィエールがアイズの体を数箇所指でつついた。全力のリル・ラファーガの後遺症。ズキズキと痛んでいた箇所を的確につつかれ、我慢していた鈍痛が彼女の体に響いた。

 

ーーーー気づかれてた……

 

仲間の誰も気づいていなかったのに。アイズは心中で驚くが当たり前のことだった。全力のリル・ラファーガに加え自分のインドラまで付加したコンボだったのだ。痛んでいない方がおかしい。後は歩き方を見れば痛む箇所は大体わかる。

 

「冒険者なら身体を気遣うのも能力のうちだ。お前が虚勢を張るのは一向に構わんが…」

 

ポン、と艶やかな蜂蜜色の頭を叩く。

 

「俺にだけは甘えろ」

 

耳まで真っ赤になって俯く。彼の時折見せる唐突な優しさにはいつまで経ってもなれない。まして一年も経てば、その免疫はほぼ皆無となっている。彼の好意が嬉しく、恥ずかしかった。

 

「優しいな、お兄ちゃん」

「うるせえ、親バカママ」

「誰がママだ!」

 

無視してバックパックを背負い直す。ああ、リヴィ。お前はこいつらをあの時無視するべきだったのよ、という声が心の底から聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後までお読みいただきありがとうございました。次回ようやくベルきゅん登場。ちなみにまだリヴィはベルと面識がありません。それでは励みになりますので感想、評価よろしくお願いします。低評価ももちろん受け付けていますができればその理由もお聞かせください。よろしくお願いします。面白かったの一言でも頂ければ幸いです。

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