その二つ名で呼ばないで!   作:フクブチョー

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Myth2 ツンデレと呼ばないで!

 

 

 

 

何本もの黒い蛇矛が、燃え盛る炎の中でうずくまる女性に突き刺さっている。その女性は太陽の輝きのごときプラチナブロンドの髪を腰まで伸ばし、均整のとれた肢体はまるで奇跡のようなプロポーションを誇っている。豊かな胸元を大きく露出する純白のドレス姿はまさに女神の美しさだ。

それ故にただただ凄惨の一言に尽きるその姿もゾッとする程魅力がある。白い肌に流れる血の赤さが獣性を煽り、睨みつける強い瞳が嗜虐心を刺激した。

その隣には艶やかな黒髪に黒のローブ、そして漆黒の刀を持った騎士が膝をついていた。彼もまた鍛え抜かれた完璧な戦士の身体を持ち、顔はまるで作り物ではないかとさえ思える美貌をした男だった。それもそのはず。彼は容貌の美しさでは神を除けば種族一と呼ばれるエルフの……それも王族たるハイエルフの血が流れているのだから。歳は青年と呼べるかどうかというくらいだろう。

 

「バ……ロール………貴方という(ヒト)は」

 

かつて天界で非道の限りを尽くし、捨て置けなくなった自分が戦い、下した神の名を憎々しげに叫ぶ。あの時、もう二度と身動きできないようにしておくべきだったと太陽神は心から後悔していた。

 

「いやあ、申し訳ない。私としてもここまでやるつもりはなかったのだがなぁ。いやいや、流石は暁のファミリア!太陽神ルグに【剣聖】リヴィエールだ!君たちには幾ら感謝してもしきれないよ!誇っていい。このオラリオを救った英雄は間違いなく君たちだ!」

 

倒れる二人の周囲には多くのモンスターの死骸がある。そのどれもが今までダンジョンで確認された事のない新種。ガラスのような透明な容器が破壊され、破片があちこちに散らばっている。その中心に立つのがルグにバロールと呼ばれた壮年の男。かつて天界でルグに敗北した悪神。顔立ちは比較的整っているが、額に不気味な一文字の切り傷のような線が走っている。

 

「お礼と言ってはなんだが、君の枷を一つといてあげようルグ!君のその素晴らしい太陽の力、私が解き放とう!」

「くっ……うぁああああ!?」

 

悩ましく、艶かしい嬌声がルグから上がる。ゾクゾクとした快感がまるで蛇のように身体に進入し、自分の体が自分のものでなくなったかのような感覚に支配された。

 

「さあ、私の目を見ろ!」

 

精神が乱れた瞬間に額についた単眼が見開かれ、その視線がルグに注がれた。その瞬間、女神から眩い光が解き放たれる。

 

「アルカ……ナム」

 

自分の主神が放ったオーラに吹き飛ばされ、地に這いつくばる黒髪の剣士がその力の正体を呟く。超越存在の彼女達ならば誰もが持つ、下界では使ってはいけない神威。彼女の場合は太陽の力。周囲の空間を揺らめかせ、激しく大気を鳴動させる。その光と熱はまさに太陽の名に相応しい威光を放っている。

 

「はははは!素晴らしい!そう、それこそが君の力だ!私がかつて敗北し、そして求めた絶対の光!さあ、今こそそれを寄越せ!」

 

光に向けて手を三つの目を持つ男が手を伸ばす。彼が天界で敗れたこの力を手に入れるためには彼女を暴走させる必要があった。意識のない状態でのアルカナムはひどく不安定に発動する。奪うにはその不安定による隙を突くしかない。そのために作り出したあの黒い矛はすでに彼女の体内に埋まっている。あとはそれを取り出せば彼の計画は完成する………

 

「ーーーーーっつあ!?」

 

バロールの手が弾かれる。傷つけられ、精神を支配されかけても彼女の心はまだ死んではいなかった。暴走する自分の力を必死に制御し、強い瞳でバロールを睨んでいる。

 

「ーーーーははは……流石だ、ルグ。下界に降りて、愛した人間が出来たせいで君はすっかり腑抜けてしまったかと思っていたのに。そう、その目だ。その目だけはあの頃と変わらない」

 

弾かれた腕を押さえながら3眼の男が笑う。微笑う、嗤う、嘲う。

 

「私を倒した女神の目だ!!」

「っ、ぁああアァアアア!!!」

 

バロールが指を鳴らす。黒い雷が彼女の体内を暴れまわり、焼き尽くす。

 

「ル………グ……」

 

立て、剣を握れ、あの男を斬れ。何度も何度も自分の身体に命じる。しかし持ち主の意思に反し、身体はピクリとも動かない。

 

「うーむ、君はどうやら痛みじゃ折れないみたいだなぁ……困った。何を壊せば一番君に効くのだろう」

 

ーーーー何の為に強くなった!それだけを考えて生きてきたじゃないか!ルグは今あんなにも強く戦っているじゃないか!

 

『リヴィ!一緒に始めましょう!』

 

頭に響く彼女の声。

 

「まも……る………今度………こそ」

 

必死に剣の在り処を手で探り、掴む。軋む身体に鞭を打って肘を立てた。

 

「なるほど、コレか」

 

いつの間にかバロールが手に持っていた黒い矛がリヴィエールを貫く。腹と口から血が噴き出た。

 

「えっ…………?」

「ーーーーゴブッ」

「そんな……リヴィ……ぁ……イやぁああああああ!!!?」

 

止められていた波動が再び爆発する。壁は吹き飛び、地は焼かれ、血は蒸発する。

 

「ハハハハハ!!やはりコレか!?こんな小人が君の心の支えだったのか!?だとしたら君の目も随分曇ったモノだ!」

 

何度も、何度も矛を刺す。見せつけるように、踏み潰すように。

 

「どうした剣聖!かの太陽神が眷属というのならば立って見せろ!いつまで無様に転がっている!」

「や……ヤめて……バロール。ヤメ……ぁあああ」

 

突き刺されながら、リヴィエールはなんとか手を動かす。地面を這う。バロールに近づくために。

 

「そうだ!足掻け!うごいてみせろ!もしかしたら、まさか、そんな哀れな希望を彼女に見せてやってくれ!」

「もう……やめ………リヴィ………リヴィ……」

 

リヴィエールが動けば動くほど、抵抗すればするほど、バロールは愉悦の笑みを浮かべ、矛を振り下ろす。決して一撃では死なないよう、急所を外して。

その姿をルグに見せつけた。

 

「ああ、いいよ!リヴィエール!君は綺麗だ!その無様!弱さ!君の母を思い出す!君のように、無力で、愚かで、美しい女だった!」

 

狂気に満ちたバロールの声は良く聞こえない。痛みさえも感じることができない。身体に入る異物感のみ、なんとなくわかった。

 

「君はコレで全てを失う!あの女のように!」

 

ーーーー俺が……弱い………俺が……失う……

 

 

 

『オレハムリョクダ』

 

 

 

知ってるよ、そんな事

 

【集え、大地の息吹ーー我が名はアールヴ】

 

緑色の光がリヴィエールを覆う。物理、魔力属性から対象者を守る補助防御魔法。僅かだが身体の傷も癒す。

緑光の加護(ヴェールブレス)】リヴェリアから盗んだ、唯一の補助魔法。

 

黒剣を握る。今度は力強く、身体に力を込めて。

 

「もう何も……失くさない…」

「そんな………バカな……ゾンビか、貴様は!!」

「今の俺が弱いなら………俺はここで………」

 

限界()を超える!!

 

力任せに剣を振る。それは剣聖が振るうにはあまりにお粗末な太刀筋。しかしそれでもバロールを弾く程度の威力はあった。

 

崩れ落ち、剣を支えに膝立ちになる。最後の力を振り絞った一撃だった。

 

「こ、この死に損ないが!アルカナムを使えないと思って良い気になりやがって……!もういい、ジワジワと殺してやろうと思ったが、コレで!!」

 

顔面目掛けて振り上げたバロールの腕。しかし振り下ろされる事はなかった。

 

「…………?」

 

不思議に思い、右手を見ると肘から先が消し飛んでいる。

 

「あ、ああ……ぁあああああ!!」

 

激痛と灼熱がようやくバロールを襲う。まるで腕の中に溶岩を流し込まれたような痛みと熱にバロールはのたうち回った。

 

「ーーーーよくも……」

 

波打つ波動の中、荒れ狂う激情の中でルグはそれだけを言った。

さらに言うならルグは今、己の力を暴走させてなどいなかった。湧き上がる太陽の力の奔流をコントロールしていた。

 

リヴィエールが立ち上がった姿。神の理不尽という名の敵を斬り捨てた光景がルグに冷静な思考と静かな憤怒を与えてくれた。

その上で彼女はアルカナムを使う事に何の躊躇もなかった。

本来であれば今回、ルグは被害者だ。無理矢理に使用させられたアルカナム。異形の新種を屠った眷属。褒められこそすれ、責められる事はまずありえない。事の顛末が明らかになればルグは追放、もしくは強制送還などされないだろう。

しかし今は違う。明らかに自分の意思で神の力を使ってしまった。これは明らかな違反。その事をルグは充分すぎるほど理解していた。

 

ーーーーでも、もういい。

 

今この敵を屠れるなら、彼の敵を消しされるのなら、それだけでいい。

 

そんな事は目の前の敵を許す理由にはならない。

 

「リヴィを傷つけただけでも許せないというのに……私を利用した上で、リヴィを殺そうとしてくれたな。一体どうしてくれるんだ?なぁ、バロール」

 

太陽の光を右手に集中させる。その光は槍の形状となった。いつもの人を包み込むような柔らかな太陽はもうどこにもいない。ただ相手を焼き尽くし、消し飛ばす煉獄の炎のみがバロールの前にあった。

しかしそんな事を気にする余裕は今のバロールにはない。

 

「い、痛い……痛い激痛(いた)苦痛(いた)辛苦(いた)いイタぃいいいい!!」

 

失った右手を抱えて、もがく。その姿は醜悪の一言に尽きた。

 

「………痛い?痛いだと……………私の息子(リヴィエール)の痛みは……こんなものじゃなかったぞ!」

 

光の槍が放たれる。額の目に槍は突き刺さり、炸裂する光は絶叫と共にバロールを飲み込み、その姿をチリ一つ残さず消しとばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一撃の下、バロールを屠った後、波打つ波動をそのままに、ルグはリヴィエールと相対した。

 

「ル………グ……」

「ありがとうございます、リヴィ。全て貴方のおかげです」

 

金色のオーラをそのままにルグは笑顔を見せる。それはいつもの優しい彼女の笑みだ。オーラがリヴィエールを包み込み、僅かだが傷を癒す。

太陽の光は全てを焼き尽くす煉獄の炎のみではない。恵みを与える光もまた太陽だ。今の彼女のアルカナムなら彼の傷を癒す程度の事は容易だ。

 

「リヴィ。時間がありません。聞いてください」

 

青年の頬に手を添えながら、優しく囁く。

 

「暴走させられた神の力(アルカナム)は二度と元には戻りません。いずれ私は太陽そのものになってしまいます」

 

告げられたのは残酷な未来。このままでは自分たちどころか、この世界全てを滅ぼしてしまうと彼女は言ったのだ。

 

「そんな………だって今、現に」

 

コントロール出来ているじゃないか。そう言おうとしたのがわかったのか、彼女はゆっくりと顔を横に振り、苦笑する。

 

「一時的に小康状態にさせているだけです。いずれ堰き止めている堤は破壊され、力は際限なく溢れ出します」

「そんな………」

 

神の力の威力にリヴィエールはただ絶望する。満身創痍である事などもう忘れてしまった。立ち尽くし、ルグの手を握る。

 

「なんとかならないのか!何か手はないのか!?」

「大丈夫です、一つだけあります」

「なんだ?何でも言ってくれ!あんたを救うためなら俺は」「完全に暴走する前に、私を天界に送還する事です」

 

まるで何でもない事のように告げられた方法に絶句する。人の手でそれを行う方法など、たった一つしかない。

その方法は聡明なリヴィエールはとっくに思いついていた。その事にルグも気づいていた。だからこそ太陽の眷属はそれ以外の方法が語られる事を期待していた。しかしそれは裏切られた。掴んでいた手が力なく落ちる。

 

「………ウソだと………言ってくれ」

「リヴィ、私を「わかったもういい!ならせめて何も言わないでくれ!!あんたとなら一緒に死んでもいいよ!だから頼むルグ!お願いだから!!」

 

激昂する眷属の首に手を回し、愛しい青年をギュっと抱きしめ、言った。

 

 

「リヴィ、私を殺して」

 

 

眷属の願いを無視して語られたのは予想通りの方法。考えうる限り、最悪の手段。

 

「なんで………こうなっちまうんだよ」

 

絞り出されるように出てきた涙交じりの言葉。一度全てを失い、一人で生きて、彼女と出会い、人間にしてもらい、家族となった。

 

もう二度と失わない。たとえ俺がどうなろうと、あんただけは。

 

そう思ってひたすら強くなったというのに……

 

ーーーー俺はまた………全てを失う

 

「全てなんかじゃ、ないじゃないですか、リヴィ」

 

両頬に手を添え、正面を見させる。涙に溢れる緑柱石の瞳がルグの蒼い瞳を捉えた。

 

「貴方には沢山友だちが出来たじゃないですか。ライバルも、師匠も、居場所も、全部貴方が貴方の力で作ったんです。貴方が守ってきたんです。何も失ってなんかいないじゃないですか」

「…………全部あんたがくれたんじゃないか」

 

居場所も、ライバルも、家族も、人の心も……全部。

 

名前もないような場所で野良犬のように生きていた。あそこで彼女と会わなければ、自分は今も野良犬だった自信がある。

 

「私はなにもしていませんよ。知ってるでしょう?私がなんと呼ばれてるか」

 

『ツキの女神』

 

なにも知らない連中は彼女をこう呼ぶ。月と運のツキの両方の意味を込めてこの名がついたそうだ。一見良い意味に取られそうだが、その真意は太陽(リヴィエール)に照らされるだけのたまたま眷属が強かったラッキーな女神という意味。

 

優柔不断で自己主張の少ない、流されがちな彼女につけられた皮肉な名前だ。

 

「他の奴がなんて呼ぶかなんて……どうでもいいよ。そんな事言う奴俺が全部ぶったぎってやる」

「こら、そんな怖い事言う子を眷属にした覚えはありませんよ」

 

駄々をいう子供を諌めるかのような優しいいつも通りの彼女の声音。それが尚更リヴィエールの悲しみを煽った。

 

ーーーーならせめてもっと俺を罵ってくれ。もっと俺を責めてくれ。俺が弱いからこんな事になったんだと殴ってくれよ。優しくなんか……しないでくれ

 

「できませんよそんな事。私はウソをつくのが嫌いなんです。知ってますよね?」

 

自分の心を彼女が読める事に疑問など何もない。それだけの信頼と絆、つながりを長い時をかけて神と眷属は育んできた。

 

「リヴィエール……」

 

それは眷属にとっても同じ事が言える。

 

ーーーーいい子だから、これ以上私を困らせないで?

 

自分を撫でる手と表情でルグの心は何の狂いもなく伝わった。震える手で拳を握る。

 

「俺………あんたから大切なものいっぱい貰ったのに………何一つ返せてないじゃないか」

「何を言ってるんですか!怒りますよ!与えられていたのはいつだって私でした!」

 

涙を溢れさせる眷属の前に、本当に怒ったような、プンプンと頭に擬音がつくような顔で子を見上げる。

 

「今でも忘れませんよ。この腕に収まるくらいしかなかった貴方の鼓動を初めて感じたあの時を。自分の体でもないのに心から震えたあの瞬間を」

 

怠惰で退屈な神の世界にうんざりしていた。それは下界に降りてもさほど変わらなかった。何もかもがセピア色に写っていたあの頃、小さな少年を腕の中に抱き、一緒に暮らし始めたあの瞬間から、ルグの世界には色が付いた。

 

「貴方の存在が、言葉をかければ返ってくる返事が、光の速さで遂げていく成長が、全てが嬉しかった。貴方こそが私の生きた証で、誇りでした。太陽神で、貴方に会えて、本当に良かった!!」

「ルグ……ぅああ……ぁああああ!!」

 

胸の中に顔を埋め、臆面もなく涙を流す。今や主神より遥かに大きくなった身体を丸めて。主神も眷属を優しく抱きしめた。

 

「…………リヴィ、すみません。もう少しこうしてあげたいのですが…そろそろ限界です」

 

回していた手を解く。それはもういくら言葉をかけても答えないという意思表示。10年以上付き合ってきた彼女に初めて取られる拒絶の行動。

 

「あんたのいない世界で……明日からも生きろって言うのかよ」

「私の最初で最後のワガママです」

「何が最初で、だ。偉そうに。メシも金も何もかも俺にさせてきたくせに」

「ふふん、神ですから!」

 

豊かな胸を張る。違いないとようやくリヴィエールも笑みをこぼし、地に落ちていた黒刀を拾った。

 

鞘に収め、腰だめに構える。

 

【居合斬り】

 

極めれば斬れないモノはこの世にないとさえ言われる斬撃の技術。この刀を打った鍛治師に教わった技術。

 

納刀する数瞬の間に思い出が脳裏に蘇る。

 

 

 

 

 

 

【助けてくれてありがとうございます。初めまして、私はルグ。太陽神ルグです。貴方の名は? 】

 

別に助けた覚えはない。邪魔だったからどかしただけだ。それよりサッサと帰んな。おのぼりさんが来るような所じゃねえんだよ

 

【…………凍ったような目をしていますね。太陽神として興味深いです。その氷、私が溶かしてあげましょう】

 

いらねえからとっとと失せろ

 

 

 

 

ーーーールグ……俺の……神

 

 

 

 

【どこ、ここ】

 

私の家ですよ。そして今日から貴方の家です!まあ友神に借りただけで10年近くほったらかしだったそうですが

 

【帰る】

 

あ〜!待って待って待って下さい!一緒に掃除しますから〜〜!

 

 

 

 

 

ーーーーリヴィ……私の子

 

 

 

 

 

【リヴィ!聞いてください!】

 

うるせえな、なんだよ

 

【私、ファミリアを始める事にしたんです!】

 

ふーん、やれば?んじゃ俺働いてくるから

 

【一緒にやりましょう、リヴィ!私は貴方と始めたいです!】

 

…………わかったから首抱きしめないで

 

 

 

 

 

ーーーー貴方がいてくれたから今の俺がある

 

 

 

 

 

凄い凄い!凄いですよリヴィ!もうランクアップです。レベル2ですよ!わずか半年。最速記録です!

 

【別に興味ないよ……で、ランクアップしたらなんか貰えんの?】

 

ええ!二つ名が付きます。大丈夫、任せてください。張り切ってカッコいいの貰ってきますからね!

 

【…………期待しないで待ってるよ】

 

 

 

 

ーーーー私は太陽神ですけれど貴方こそが私にとって太陽でした……

 

 

 

 

 

…………何それ

 

【だから二つ名ですよ。太陽神の眷属の剣士という事で、暁の剣聖(バーニングファイティングソードマスター)

 

なにその二つ名!?バーニングとソードマスターはともかく、ファイティングどっから来た!?

 

【あ、アレ?地上の子はこういうのを好むと聞いていたのですが……】

 

明らかにバカにされてつけられた名前だろ!!

 

【あ、剣聖ともつけられてましたよ?コッチはロキが勧めてくれたのですが】

 

ロキ?だれそれ

 

【悪友ですよ】

 

 

 

 

 

ーーーー思えばあいつらとの付き合いも二つ名(コレ)がきっかけだったなぁ

 

 

 

 

 

【魔法?】

 

ええ、発展アビリティで魔導が目覚めて……それにこの魔力量……前から気にはなっていたんですが……リヴィ、お母さんの名前オリヴィエですか?

 

【え?なんで知ってんの?俺も名前以外知らないのに】

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーあの時はびっくりしましたね……

 

 

 

 

 

 

 

 

【これやるよ、ルグ】

 

ネックレスとアイリスの花?一体なんで……

 

【…………今日は、その……アレだろ】

 

私達が初めて出会った日。

 

リヴィ……嬉しいです。絶対大切にします。えっと、この花の花言葉は確か………

 

 

貴方を大切にします

 

 

えっとリヴィ?コレ、意味わかって……

 

【…………うるせえな、コレでも感謝してるんだよ、あんたには】

 

……っ、デレた!ついにリヴィが……クララがデレた!

 

【だぁれがクララだ!デレてない!やっぱ返せそれ!】

 

断ってあげます〜!えへへ、リヴィ、大好きです!!

 

【ウザい】

 

もう、可愛くない!けど可愛い!

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー人間って都合いいなぁ。腹立ったことも。付き合いきれねえと思った事も数え切れないくらいあったのに…

 

ーーーー生意気だとか、可愛くないとか、素直じゃないとか、不満もたくさんあったはずなのに……

 

 

『楽しい思い出しか見つからない』

 

 

この10年間で色んなことがあった。苦難も、厄介ごとも、試練もたくさんあった。

けどそれ以上に楽しかった。二人でいっぱい怒って、いっぱい苦しんで、いっぱい泣いて、そして……いっぱい笑った。

 

 

【リヴィ】

 

【ルグ】

 

 

二人の顔から笑顔と同時に涙が溢れる。二人とも愛しさと悲しさが溢れて止まらない。リヴィエールは負傷により、流れる緋色と涙が混ざり、まるで血の涙のようになっている。

 

「すみません。辛い役目をさせてしまいますね」

「…………いいんだ。俺がやるべき事だから」

 

俺がこの世で最もやりたくない事だけど、それ以上に俺以外の誰にもやらせたくないから……

 

「リヴィ、自由に生きてください。私の事を忘れて、と言えるほど私は出来た神ではないので……時々は太陽でも見て思い出してくれると嬉しいです」

「なら毎日見えないものの神になれよ。太陽なんざ絶対毎日見るだろうが」

「そんな事私に言わないでください。私だってべ、別になりたくて太陽神なんかになったんじゃないんですからね!」

「なんだよその唐突なツンデレ……」

「ツンデレはリヴィだけの専売特許じゃありませんよ?」

「ツンデレ呼ぶな!!」

 

最期だというのに二人のやりとりは驚くほど相変わらずで。出会った頃と変わらなくて……

 

「ふふっ」

「ははっ」

 

笑ってしまった。ようやく笑えた。

最後に脳裏に過ぎったのは二人とも同じ思い出だった。

 

 

 

【じゃーーん!見てくださいリヴィ!これが私達のファミリアのホームとエンブレムですよ!】

 

それは彼と彼女の二人だけのファミリアが発足した日。ファミリアを作るとルグが言ってから数日後、掘っ建て小屋にはルグ・ファミリアと共通語で書かれた簡素な看板と剣の鍔に太陽が刻まれたエンブレムが掲げられている。

 

【知ってるよ、俺が書いたんだし】

【デザインは私ですよ】

【実にわかりにくいパースだった】

 

顔に絵の具をいっぱい付けた少年が今までの苦労を思い出し、嘆息する。

しかし確かに達成感は少なからずある。誰かと共に何かを成した事など少年にとって初めてだったから。

 

【さあ、気合い入れていきましょう!】

【入れるのは主に俺だけどな】

【大丈夫ですよ、リヴィならきっと出来ます。凄いファミリアになりますよ!だって貴方は私の自慢の眷属ですから!】

 

年齢に不相応な、大人びた笑みを黒髪の少年が浮かべる。可愛げのない眷属をルグが抱き上げた。

 

【とにかく、ここからがスタートです!私達の伝説はこれからですよ!】

【伝説かどうかは知らんが、まあ今はとにかく走るさ】

 

 

いつか必ず来る、終わりの瞬間まで。

 

 

そうだ、知っていたはずだろう。必ず来るとわかってた時が来た。それだけだ。

 

ーーーーほら、最期なんだから……顔を上げろ、俺

 

ーーーー胸を張って、彼の目を見つめて……

 

この誇れる女神(眷属)に相応しい顔で!!

 

「さよなら、母さん。元気で」

「さようなら、リヴィエール。愛しています。私の自慢の、可愛い息子」

 

次の刹那、声にならない叫び声とともに漆黒の剣尖が鞘から放たれた。手応えだけが手に残る。

 

リヴィエールの意識は闇に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後書きです。いかがだったでしょうか?それでは励みになりますので感想、評価よろしくお願いします。面白かったの一言でも頂ければ幸いです

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