その二つ名で呼ばないで!   作:フクブチョー

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Myth46 被害者を増やさないで!

 

 

 

 

 

 

私は、才能というものが何なのかわからなかった。

コンドウさんは私に剣の才能があると言ってくれた。教えてくれた事は大概すぐにできるようになった。けれどそれは自分にとっては当たり前のことだった。あんなもの見て、真似れば形にはなる。出来ない方が不思議だった。こんなものが才能とは私には到底思えなかった。

 

コンドウさんにも一度聞いたことがある。才能とは何なのか。あの好々爺の答えは───

 

『好きに勝る才能はねえさ』

 

だった。たしかにそれも一理あるかもしれない。何に取り組むにしても、そこに愛が無ければ上達はないだろう。けれどそれを真理と思う事はどうしても出来なかった。だって、剣が好きでも全く上達しない人種も、確かに存在していたから。

 

才能に関して、答えは出ないまま、天才女剣士『ソウシ・サクラ』は歳を重ねる。片田舎からオラリオへと進出し、コンドウさんに付き従って冒険者となり、腕を磨いていく。天賦の才を持つ剣士として、【天剣】などと呼ばれるようにもなった。しかし、いくら天才と呼ばれても、二つ名がつけられようとも、才能の正体はわからなかった。大体、斬り合いなんて気合いが全てだ。気魂で負けてしまえばいくら技術が高かろうが、スペックが高かろうが意味はない、と本気で思っている。

 

「新しい組織?」

 

そんなある日、ならず者ばかりの闇派閥はぐれ冒険者を纏める為に新しい武闘派組織を結成する事をコンドウさんから聞く。そして幹部補佐を務めるように指示された。

 

「ああ、まだガキンチョらしいが、冒険者歴はお前より長い。ワシも少し話したが、頭もキレるし、剣才は下手をすればお前以上かもしれん。お前はもうワシなどより遥かに強い。ワシがお前に教える事はもう何一つないが、あの少年ならば……」

 

答えを持っているかもしれない。そう期待する。

 

そして少女は運命と出会う。

 

彼は本当にまだ子供だった。自分も世間一般からは子供と言われる年齢だが、彼はそんなレベルではない。歳は恐らく二桁を超えたかどうか。間違いなく10代前半。砂色のローブに暗色系の和装。艶やかな黒髪が背中まで伸びている。容貌は凄まじく整っており、その美しさゆえに性差が乏しい。少女だと言われればソウシは信じただろう。

 

───若いとは聞いてしましたが、ここまでとは……

 

初めて彼に出会った時、ソウシは驚いた。こんな可愛らしい少年が本当にコンドウさんが言うほど強いのか。噂に尾鰭がつくと言う事例はいくらでもある。

そしてソウシは更に驚いた。真実は噂を遥かに凌駕していたのだ。

 

『剣の究極は刀を己の体の一部とする事じゃ』

 

コンドウの教えだ。故にソウシはひたすら素振りを叩き込まれた。柄が手に吸いつくようになるまで。剣を己の一部と思えるようになるまで。剣とは素振りに極意があると今でも思っている。

 

しかし、今、更なる至高の境地をソウシは見た。少年が振るう剣。それは自身の一部どころか、身体全体を一振りの刀としたかのような。

今まで強いと思った剣士は何人かいたが、これほど研がれた刃を持ち、澄んだ剣気を放ち、真っ直ぐな瞳をした、剣身一体という言葉が似合う者はただ一人として存在しなかった。

 

才能とは一体何なのか。剣才を持って生まれたソウシには分からなかった。

しかし、白桃髪の少女はこの時、確かな答えを見た。コンドウは好きに勝る才能はないと言ったが、それだけでは足りない。好きなだけで一向に上達しないという人種をソウシは何人も見てきた。剣に愛されるだけでも足りない。それでは精々、【天剣(自分)】止まりだろう。あの領域にはとても辿り着けない。

華奢と呼ばれる自分よりも遥かに小さな少年に本気で憧れた。

剣を愛し、剣に愛される、本物の天才に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソウ……!」

 

暗闇の中から現れた少女を見て、長い白髪を真紅の組紐で束ねた青年は彼女の名を呟く。いや、正式には愛称だ。呼ばれた少女は嬉しそうに微笑み、一度礼をする。

 

「ご無沙汰しておりました。先輩(マスター)。随分と成長されましたね。最期に会った時は私より華奢だったのに」

「……それなりに年月は経ったからな。ふつうに食って寝てればデカくもなる。お前は変わらないようだがな」

 

かつてのパートナーは記憶の中の姿とまるで同じだった。変わったことといえば、浅葱色の服が随分とボロボロになっていることくらい。

 

「流石ですね」

 

心からの賞賛がソウシから贈られる。何について褒められたのか、リヴィエールの明晰な頭脳を持ってしてもわからなかった疑問は続く言葉で解消される。

 

「私がこうしている事に全く動揺を見せていない」

「死んだはずの人間が生きていた、なんて事、あの時代でとっくに慣れている」

「はは、それは確かに」

 

───まあ、自らの手で斬った相手が生きていた、というのは初体験だが。

 

当たり前だが、リヴィエールも清廉潔白な冒険者というわけではない。自分の手を血で汚した経験は幾度となくある。意外と甘い 【剣聖】は、戦えなくなったものにトドメを刺さずに終わらせたという事もいくらかあった。しかし、誰を生かし、誰を死なせたかはしっかりと把握している。ソウシは後者に当たる。現状は彼を動揺させても何らおかしくない状況だ。

 

「俺を恨んでいるか?」

 

問いかけたかつての師の言葉に対し、弟子はゆっくりと首を横に振る。

 

「死合に至った経緯はともかく、勝負自体は尋常でした。立ち合いの結果に感情を持ち込むのは恥である、と考えています」

「…………」

「貴方とこの場で死合わない理由にはなりませんが」

 

ソウシが腰の刀を抜き放つ。薄暗い中で妖しく輝く刀の名は乞食清光。ソウシの昔からの愛刀だ。

 

───よく直せたな

 

あの惨殺事件の死闘で傷つき、リヴィエール自身が折った刀だ。刀の先端部分……日本刀で言うところの帽子を切り飛ばした。修復は難しい筈だった。恐らく時折潜ってくるハイ・スミスでも拉致ったのだろう。構えはあの頃と変わらず、平青眼。

 

「…………お前とはあまり戦いたくないんだがな」

「お気持ちはお察ししますが、そんな寂しいこと言わないでくださいよ。貴方以外にこの猛りを鎮められる剣士はいません」

 

気が進まないのか、一応剣に手を掛けはしたが、抜かないリヴィエール。その態度を見たソウシは明らかに殺気を立ち上らせた。

 

「先輩、私を満足させてください。さもなくば、私は周りにいる木偶から斬ってしまいそうです」

「…………それは困るな」

 

アイズか、それともヘルメス・ファミリアの連中か。どっちでも困る。戦いはどうやら避けられないらしいと察したリヴィエールは、反り浅く、細身の刀身の片手剣を抜く。まるで海の漣が纏われたかのように薄青く輝く剣の銘はフラガラッハ。かつてのルグの佩剣であり、彼女の神友であったヘファイストスから譲り受けた宝剣だ。

 

「行きますよ」

 

言い終わると同時にソウシの姿が搔き消えた。甲高い金属音が洞窟の中で高らかに響き渡る。二つの剣が撃ち合った傍らで、この戦いを先導した半妖精、リャナンシーは妖艶な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

───始まった……

 

赤髪の調教師を牽制しつつ、蜂蜜色の髪の剣士は傍らで口火を切られた戦いを思う。影の奥から新手が現れた事に【剣聖】の一番弟子、アイズ・ヴァレンシュタインは気づいていた。

 

───相手の女剣士、強い。なんとかリヴィのフォローに回りたいけど……

 

長剣を構え直す女を見やる。戦局はアイズが優勢に進めていたが、一瞬足りとも気は抜けない。この手練れ相手ではワンミスが致命傷になるだろう。放たれる威圧感は増すばかりだった。

 

静かに機先を伺う両者だったが、おもむろに赤髪の女が口を開いた。

 

「使わないのか?」

 

何を?とは問わない。わかっている。

 

「必要ない」

 

アイズははっきりと告げた。『(エアリアル)』は使わない。先の戦いでこの強敵から得た教訓。培った技術のみであれほどの強さを得られるならば自分も例外ではないはず。

長く共にあったお陰で、無意識のうちに魔法に頼り過ぎていたと自省したアイズは、今一度原点に立ち返る事で更なる高みを目指した。

全てはもっとずっと先の目的のため。遥か遠い最愛の剣士の背中にたどり着くために、必要不可欠な行程。

 

これはレヴィスを強者と認めているからこその決意。それは間違いなく真実だ。しかし、真実とはいつも一つではない。この決意にはもう一つの真実がある。

 

 

貴方など通過点

 

 

剣は対話なり。口下手なアイズや捻くれ者のリヴィエールはそれがさらに顕著だ。本人より余程雄弁に自身の心情を語ってくれる。今のアイズの剣は、レヴィスに対し、お前など眼中にないと高らかに宣言していた。

そしてこの赤髪の調教師はその程度が聞き取れぬほど、鈍な使い手ではない。

 

「舐めるな」

 

傲岸不遜でありながら、表情は常に冷徹だったレヴィスの荒々しい美貌が、かつてない屈辱に晒され、初めて憤怒で歪んだ。

 

地を蹴り砕いたレヴィスは弾丸となってアイズに迫る。蜂蜜色の髪の少女も剣を振り上げ、疾駆する。

風となって駆ける中、銀と紅の剣が交差する刹那の時で、アイズは思う。愛しい剣士を。

 

───今度は私の番だ

 

ウダイオスと戦った時、リヴィエールは見届けてくれた。力尽くで止められてもおかしくないあの状況で、自分を信じてくれた。ならば今度は私が彼を信じる番だ。

 

───リヴィはどんな相手にだって負けない。私の今の役目はリヴィを心配することじゃない

 

目の前の強敵を倒す事。それこそが彼を守る事に繋がると信じる。

 

「勝って、リヴィ」

 

その呟きは激突した金属音で掻き消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

役者たちが揃い、演目を立ち回り始める中、これらの上演を比喩表現抜きで遥か高みから見物している者がいた。鏡の中には二人の剣士が映し出され、目にも留まらぬ速さで剣戟を交わしている。その動きを完全に見切る事は彼女には出来ないが、それでも魂を見る事は出来る。闇の中で淡く輝く美の女神はホゥと恍惚の息を吐いた。

 

「煌めく才能のぶつかり合い……ああ、なんて美しいのかしら」

 

鏡の中に映し出されているのは【剣聖】と【天剣】。かつて命をかけて戦った二人の天才。まさに6年前の再現と言いたいところだが、実際はまるで異なる。二人の剣はあの頃とは比べ物にならないほど進化している。冒険者であるリヴィエールはともかく、ソウシはどうやって実力を上げたのか、フレイヤには少し不思議だったがそんな事はこの美しさの前では瑣末な事だった。

しかし……

 

「こんなものじゃあないわよね」

 

彼の闇はこんなに浅くない。彼の黒はこんなに淡くない。それは先日のリャナンシーとの戦いで証明されている。恐らく、彼の底を引き出すのに、この白桃色の髪の少女は足りないのだろう。

 

「ほら、もっと頑張りなさい。【私の黒】の弟子を名乗るのならば」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───強くなったな……

 

手に伝わる痺れとともに思う。パワーが格段に上がっている事や異様なほどタフになった事ではない。ソウは典型的な速度特化の剣士だ。人を殺すに力などいらない。骨まで断つ必要はなく、急所さえ切ってしまえばいい。そのような信念のもと、磨かれた殺人剣が【天剣】ソウシ・サクラの剣だ。この二つの向上は恐らくロクでもない力によるものだろう。死んだと思っていた彼女が生きていた理由に関係あるのかもしれない。なんであれ、彼女の信念に背くパワーアップだ。そんなものがいくら上がろうと、リヴィエールはソウシの剣に恐れは感じない。

強くなったと感じる理由はたった一つ。一太刀のキレが凄まじく向上している事だった。

 

もともと速さとキレに関して、ソウシはリヴィエール史上最強クラスだった。それがまだ上があったかと感じるほど鋭くなっている。単純なスペックアップではこうはならない。

恐らく、気が遠くなるほどの時間を剣の素振りに費やしたのだ。

剣の極意は素振りにあるというソウシの言葉はリヴィエールも概ね同意している。剣の一つの究極は刀を身体の一部とすること。その境地にたどり着くための唯一の方法が素振りなのだから。

 

最期の戦いから、6年。たった一人で薄暗いダンジョンの中で型を反復し、技を磨いた。孤独の中、目に見えにくい向上の鍛錬がどれほど苦行か、リヴィエールは誰よりもよく知っている。

 

───このキレに加えて、スキルも健在。元々対人戦において真価を発揮するタイプだったが……

 

そのコンボの凶悪さに舌を巻く。

先程から瞬間移動をしているかのような爆発的な加速を何度も体験していた。ソウシのスキル『縮地』。歩行術の一つで相手の死角に入り込みつつ、瞬時に間合いを詰める体捌き。それだけでも充分に厄介だが、ソウシの縮地にはスキルの恩恵による爆発的な加速がある。体感では本当に間合いが縮まったかのような、瞬間移動の如き錯覚を引き起こす。並の使い手なら何が起きたのかも分からず殺されているだろう。

無論、並ならだが。

 

「遅いよ、ソウ」

 

間合いを詰めるソウシに突進し、彼女の打ち込みを柄で弾く。態勢を崩しつつも、縮地で間合いから逃れようとしたが、リヴィエールの踏み込みの方が早い。ほぼ同時に放たれたように見えた上段斬りと返し斬りがソウシの胸元を切り裂いた。

 

「…………硬いな」

 

半身になってフラガラッハを構え、間合いを図る。リヴィエールの刃はほんの僅かにしか食い込んでいなかった。この手応えは覚えがある。リヴィエールがネメアーの獅子と評したあの頑強なレヴィスの肌と同じだ。

 

「流石ですね。『縮地』の一歩目とはいえ、私よりも速いなんて、やっぱり先輩は素晴らしいです」

「俺もスピードにはそれなりに自信がある…ん………え、一歩目?」

「では今度は縮地の二歩目。行きます」

 

信じがたい事実はドンっと足音が鳴った瞬間、証明される。目にも映らぬ速度領域の中、二人は剣を合わせた。

 

「凄い!二歩目にも付いてきますか!」

「おいおい、さっきのでまだ『音超え』でこれで『無間』かよ。嘘だろ、まだ早くなるのか?」

「もっともっと楽しませてください!先輩!」

 

超高速領域の中でも二人の剣は全く衰えない。剣尖は常に流動的に奔り、太刀筋は非常に流麗。まるで水のような剣捌きだった。

そしてそんな流麗な動きをぶち壊すかのような、唐突に繰り出されるこの技を、リヴィエールは誰よりもよく知っている。

剣を合わせるソウシの威圧感が格段に増す。気配が明らかに変わった。

 

「一歩音超え……二歩無間……三歩絶刀」

 

───来る

 

本気になったソウシの技は決まっている。唯一にして絶対の必殺技。初見殺しの殺人剣。

 

「無明――三段突き!」

 

それはまるで一突きに見紛うほどの高速の連突き。それも二段ではなく三段突き。これを躱せるものなど、オラリオ広しといえど、数える程しかいないだろう。

目の前のこの男はその数える程の一人なのだが。

 

「なっ!?」

「アマテラス」

 

三つの突きどれもを完璧に捌いてみせたリヴィエールはカウンターを叩き込む。今度はソウシの身体が大きく抉れる。黒炎を纏った剣から繰り出された一閃は白桃髪の女剣士を穿った。

 

───手応えは、あった

 

大技の後で生まれた、千載一遇の好機。フラガラッハにアマテラス纏わせた今の一撃は殺すつもりで放った。そんじょそこらのモンスターなら骨も残るまい。しかし……

 

「───やはりか」

 

砂煙の中で立ち上がった姿を見たリヴィエールは嘆息する。たしかに手応えはあったが、命を絶った感覚はなかった。

 

「…………俺も大概だが、お前も相当、人間をやめているな」

 

深く斬り裂かれた首筋がゆっくりと再生していく。魔法でも使っていなければありえない治癒力。しかし、ソウシに魔法の才能は乏しかったはず。これは恐らく、スキルに近い能力だろうとリヴィエールは推察する。魔物化(モンスター・フォーゼ)を行った時、自分にも似たような現象が起こるゆえの推測だった。

 

「…………まさか今の私の三段突きをこうもあっさり捌かれるなんて……先輩、最高です」

「幸運なことに、突きの名手と手を合わせる機会は多かったんでな」

 

技の八割が突きであるレイピアを武器とするアイズや神速の槍使い、フィンとの対戦経験がリヴィエールには豊富にあった。三段突きとは行かなくても、近い領域の技は何度も体感している。

 

「ソレに仮にもお前の師を務めたんだ。お前の技は全て知っている。たしかにあの頃よりキレは増してるし、早くもなってる。だがもうお前の底は見切った。俺を殺したければ初太刀でソレを出すべきだったな」

 

もうソウシの速さにもキレにも慣れた。この6年、ソウシが自身を鍛え上げたのは認めるし、強くなったのも認める。だが6年の月日をリヴィエールはダンジョンの最前線で戦い続けてきた。どちらの6年の方が密度が高いかは火を見るよりも明らかだろう。

 

「やはり、このままでは貴方には勝てないようですね」

「…………このまま?」

 

ソウシの言葉に疑問を抱いたその時、リヴィエールは漸く気づく。急速に修復された傷跡から『黒い塵のようなもの』が立ち昇っていることに。

 

まさか、と思った時にはもう遅い。羽織で隠れていた彼女の右腕が露わになる。その腕にはびっしりと神聖文字が刻まれており、何らかの呪術的な処理が施されている事に、リヴィエールは気づいた。

 

「やめっ」

 

剣だこ塗れの華奢な手を可愛らしい顔に翳す。同時に右腕の刺青から黒塵が吹き出した。

黒い炎がソウシを包み込んでいく。その光景を、リヴィエールは愕然と見つめることしか出来なかった。

ソウシの風貌が変化していく。真っ先に変わったのは髪だった。色素の薄い白桃色の髪が砂に近い麻色へと変貌し、腰よりも長く伸びる。次の変化は目。瞳が灰色に近い真鍮色へと変わっていく。そして黒炎は彼女の肌を褐色に染め上げた。そして和装がはだけ、露わになった胸元に極彩色の魔石が妖しい輝きを放った。

 

吹き荒れる黒煙がようやく収まる。炎の中で新たに生まれたのは麻色の髪を腰よりも長くまで伸ばし、黒の和装に赤の帯を纏う、胸元に魔石に酷似した何かを埋め込まれた真鍮色の瞳の剣士。

この変身の正体を、彼は知っている。

 

「───魔物化(モンスター・フォーゼ)

 

キッと上空を睨む。先程から自分達の戦いを文字通り高みの見物決め込んでるリャナンシーに向けて放った怒気と殺気だった。

 

「ソウに施したのか、俺と同じ呪いを!リャナンシー!」

「私、気に入った子にお願いされたら弱いのよ」

「外道がっ……」

「余所見をするな、先輩」

 

ほぼ反射的に出した剣に衝撃が走る。あまりの威力に、受け切れず大きく後ずさった。

 

「…………ソウ」

「さあ、第二幕だ。私と遊んでくれ、先輩」

 

次の刹那、彼女の姿が搔き消える。リヴィエールの胸元に赤い線が奔った。

 

 

 

 

 

 

 

 




後書きです。ようやく更新できました。呪いの被害者はリヴィエール以外にもいたんですね。筆者もほんの数日前まで知らなかったです。ちなみに魔物化ソウシのイメージは勿論沖田総司オルタです。それでは励みになりますので、感想、評価よろしくお願いします。

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