その二つ名で呼ばないで!   作:フクブチョー

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Myth43 マスターと呼ばないで!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は現在より少し遡る。そう、まだルグ・ファミリアが存在していた時だ。たった一人の構成員のみにも関わらず、その成長速度は凄まじく、到達階層は大手ファミリアに引けを取らない。ロキやフレイヤに所属する歴戦の猛者達と【剣聖】はたった一人で渡り合っていた。

まさに日の出の勢い。暁のファミリアと称えられ、羨望と嫉妬の両方を集めていたルグ・ファミリア。しかし、光が強ければ、闇も濃くなる。ルグとリヴィエールは眩いスポットライトの下にいたが、オラリオ全体は暗闇に囲まれていた。

 

邪神を名乗る過激派ファミリア、通称『闇派閥』が台頭をはじめ、様々な犯罪活動を行い始める。その凶悪さは凄まじく、冒険者、一般人、モノ関係なしに多くの傷跡を残した。まさにオラリオにおける暗黒の時代である。

しかし、戦士達もただ闇の台頭を許すだけではなかった。

自身の力を示すため、哀れな弱者達を守る正義感、気に入らない連中をぶっ飛ばす。理由は様々だが、目的が一致した神々と冒険者達はモンスターだけでなく、闇派閥と戦う決意をする。その中心となったのが、力の誇示や権力の獲得を目的としたロキ及びフレイヤ・ファミリア。秩序と正義感のために立ち上がったのがアストレア。この二大ファミリアが中心となって手を取り合い、暗黒期の終結へと乗り出したのだ。

 

闇と光。二つの大派閥がせめぎ合い、日に日に緊張感が高まる日々の中のある日、艶やかな黒髪を背中まで伸ばした剣士が場末の酒場を訪れていた。口元はマスクで隠し、ローブのフードを目深に被っている。この辺りでは身元を隠した者など珍しくないが、今座っている少年はどう見てもまだ十代半ば。この様な治安最悪の場所に子供一人で座っているだけでも充分目立つが、彼が注目を集めている最大の要因はそれではなく、少年の足元に転がっている多くの冒険者達だった。

 

───ったく、絡むなら相手を見てからにしろよな

 

フードの奥で辟易とした表情を浮かべているのは幼き日のリヴィエール・グローリア。実は最近、彼は軽く変装をして闇派閥に潜入していた。これは内部の情報を集めて一網打尽にするというロキの作戦の一環である。

 

『何をするにしてもまずは情報やろ』

 

その言葉を否定するものは一人としていなかった。そして情報とは鮮度が高いほど良い。連中の奥深くに潜り込む者はどうしても必要だった。

しかし、問題となったのが誰を潜り込ませるか、である。敵組織の内部に入り込まなければならないのだ。雑魚では話にならない。かといって、フレイヤやロキの幹部では名前も顔も売れすぎている。潜入など不可能だ。

闇派閥においてでも頭角を現すことができる実力者で、かつあまり顔が売れていない冒険者。そんな矛盾する条件を満たしている人物が必要となる。

そこで白羽の矢が立ったのがリヴィエール・グローリアだった。ルグ・ファミリアは最小の構成員のみであるため、彼のことを詳しく知るのは友人、知人のみであるし、時折彼が成した偉業がニュースになっても、名前が書かれるだけだ。リヴィエールは名が売れ始めて比較的日が浅い。出版や印刷技術が乏しいオラリオにおいて、彼の顔と名前が一致するのはまだ少数だ。名前はともかく、顔がまだあまり売れていない。条件としては最高と言えた。

 

『なあ、頼むわリヴィエール。やってくれ。お前の力がいるんや』

 

ロキに潜入を頼まれた当初、リヴィエールは闇派閥との対立にそこまで興味はなかった。オラリオで悪行などあって当たり前。もちろん騙す方が悪いが、騙される方にも責任があると思っていたからだ。

 

『悪いが俺はアストレアが守りたい秩序にも、ロキが欲する権力にも興味はないんだ。興の乗らない喧嘩をする気はないよ』

 

だから以前、リューから共闘を頼まれた時はこう言って断っていた。以来リヴィエールはずっと中立の立場を守っていたのだが、ロキから頭を下げられた時、リヴィエールはその依頼を受けた。

 

『エエんか?闇派閥から余計な火の粉がルグに飛ばんようにするために中立を貫いとったんやろ?』

 

赤髪の邪神はこの黒髪の悪友が闇派閥に対して剣を取らなかった理由に気づいていた。

 

『勘違いするな。お前がダメなら次はリヴェリアあたりが来るだろう。一々断るのも面倒だから受けてやるだけだ』

『なら向こうについてもエエやろ。打診は相当あったはずや』

『そっちも考えなくはなかったんだがな。だがあっちには気に入らない連中が多すぎる』

 

過去の経歴、そして戦歴からリヴィエールは弱者の味方と見られる事が多い。しかし本人にその気は全くない。彼の神経に障る連中がたまたま悪人に多いというだけのことだ。それは根が善人の証拠なのだが、本人は認めないだろう。ツンデレ剣聖の名は伊達ではない。

 

こうして、リヴィエールはルグの護衛をロキ・ファミリアが担当するのを条件に、潜入任務を引き受けた。

 

さすがと言うべきか潜り込んで以降、リヴィエールは実に上手く立ち回った。派手には動かず、闇派閥でも問題のある用心棒や賞金稼ぎを倒し、コネクションを築いて、徐々に頭角を現していった。

 

【黒狼のウルス】

 

闇の世界でたった一人、のし上がっていく彼がそう呼ばれるようになるのに時間はかからなかった。

 

闇派閥でそれなりの地位を築き、数日。リヴィエールはとある人物と会うように命じられていた。闇派閥において、一匹狼の冒険者というのは珍しくない。先にリヴィエールが倒した【黒拳】や【黒猫】もそれに含まれる。しかし、そのような戦力分散は非常にもったいないと考えた闇派閥幹部は一匹狼達を一つ所に集め、新たな組織を作ろうとしていた。

その名も【セレクションズ】。闇派閥勢力の中でも腕利きのみを選抜して構成される新たな冒険者集団。まさに新撰組(セレクションズ)と呼ぶにふさわしい武装組織である。

そのメンバーにリヴィエール……いや、ウルスも幹部として選ばれている。今日はその話をする為、この店に呼び出されていたのだ。

 

───まあ、流石にこの場でそんな話をするとは思えないが……

 

恐らく使いが来たのち、そう簡単に余人が入れない場所へと案内されるはず、とリヴィエールは読んでいる。予定された時刻より少し早く黒髪の剣士は来ていたのだが、この短時間で3回も絡まれた。もっとギリギリに来るべきだったかと後悔し始めていると……

 

「すみません!遅れました!」

 

酒場の扉が勢いよく開け放たれる。現れたのは場末の酒場にそぐわない可憐な少女だった。淡い桜色の髪に、少しハイカラな和装が特徴的な美少女。腰に差した剣から察するに、恐らくは剣士。体格は小柄で、華奢な雰囲気さえ感じるが、リヴィエールの目は彼女が相当の手練れであることを見抜いていた。

 

───彼女、強いな。その辺のチンピラとは明らかに違う。

 

自分を見る目に気づいたのか。それとも違う理由か、リヴィエールの瞳が乳白色の瞳とかち合う。その瞬間、少女の表情がパッと明るくなった。小走りで駆け寄って来る。

 

「遅くなって申し訳ありません。コンドウさんに言われて推参しました。あなたが、私の先輩(マスター)ですか?」

 

コレが闇派閥で最強の名をほしいままにする最強のコンビ。剣に愛された二人の天才剣士、【剣聖】リヴィエール・グローリアと【天剣】ソウシ・サクラの出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョン奥深く、中層域に位置する階層の最奥。その広い大空洞には異臭が立ち込めていた。肉が腐ったような、限りなく死臭に近い匂いが充満するその一角には、複数の人が動き回る足音と何かが蠢く音が断続的に響いている。

 

シャク

 

薄暗い、けれど血に似た赤の光がわずかに差すその場所に、赤髪の美女はいた。奇怪な色の果実を齧りつつ、緑色の瞳には苛立ちめいた不快な感情の色が宿っている。

アイズ達が調教師と呼び、戦った女が片膝を立ててその薄気味悪い場に座っていた。

 

「おいっ、冒険者の間でモンスターが溢れていると騒ぎになっているぞ!大丈夫なのか!?」

 

大型のローブで上半身を覆い隠した男ががなり立てる。口元まで覆った頭巾は目以外の全てを隠していた。

 

「うるさい、騒ぐな。食人花を貸してやる。有象無象はお前達でなんとかしろ」

 

静かな、それでいて深い怒りを感じさせる声音はローブの男を萎縮させるには充分すぎた。恐れを隠すためだろうか、それとも違う理由か。男は舌打ちすると闇の中へと踵を返す。先程まで男がいた場所に、赤髪の美女は食べかすを吐き捨てた。

 

「冒険者に感づかれるとは、運がないな」

 

男と入れ替わりに、白骨を利用して作られた兜を被った、白ずくめの男が現れる。先程のローブのヤツとは違い、不必要に調教師を恐れてはいなかった。恐らく、自身の技量に多少の憶えがあるのだろう。

 

「放っておいていいのか、レヴィス?」

「冒険者にいくら感づかれようが知ったことではない」

「そうですよ、雑魚の相手は雑魚に任せた方が効率的です」

 

陰気なこの場にそぐわない、明るい声が空洞に響く。軽い調子で光の下に踊るような足取りで姿を見せたのは少女だった。淡い桜色の髪に、煤けた和装が特徴的。彼女はまだ比較的人間のように見えたが、それでも見るものが見れば、只者ではないことはわかるだろう。一見、隙だらけに見える佇まいには、一本芯が通っている。

 

「貴様か。何しに来た」

「なかなか楽しそうな話を耳にしましてね。最近噂を聞きつけて、そこそこ手練れの冒険者があそこに集まって来てるそうじゃないですか。興味ありますよ」

 

腰の鞘がカチャリと鳴る。わずかにだが、瞳に殺気が宿った。

 

「下らんことに気をとられるな。我々の役目は『彼女』を守る事だ。勝手に動くことは許さん」

「その時は潰すだけだ」

 

手の中の果実がクラッシュする。彼女の握力ならこの程度は容易だろう。

 

「私は貴方の指図は受けませんよ。それにしてもレヴィスはいいですね。戦ったんでしょう?あの人と。私も早く会いたいですね。例の階層で待っていれば会えるでしょうか」

 

ああ、早く(ころ)し合いたいなぁ。あの夜のように……

 

懐から水晶を取り出す。そこには映像を記録する機能を持つ水膜が張られている。水晶の中には黒刀を振るう白髪の剣士が封じられていた。

 

「先輩❤︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大樹の迷宮』

 

19から24階層の区域を冒険者たちはそう呼ぶ。巨大な木の中を進むかのような迷路。10Mを超える高低差。領域特有の植物群の数々。その異名に恥じぬ自然のラビリンスは冒険者を魅了すると同時に、死へと誘う罠に満ちている。

 

黄金の穴蔵亭に陣取った客の大半はその迷宮へと向かうべく、集った冒険者集団であった。

 

「ウルス、依頼内容は以上ですね?」

 

その中でも明らかに格が違う一人の女性冒険者が前に出る。

アスフィ・アル・アンドロメダ。

オラリオで五人もいない『神秘』のアビリティを持つ稀代のアイテムメーカー。彼女の発明は多くの冒険者に様々なギフトをもたらしている。リヴィエールの黒塵を体外に放出させるバングルも、アイズの羽根ペンも元を辿れば彼女の作品だ。

しばらく情報交換をした後、二人は依頼内容を確認する。24階層の食料庫の調査及び大量発生したモンスターの駆除。アスフィの口から語られたクエスト内容に特に齟齬はなかった。

 

「ああ。しかしお前がこんなにキナ臭そうな案件に首を突っ込むとはな」

 

苦笑を浮かべながら心情を述べる。記憶している限り、あまりリスクを踏む事は好まないタイプだったはずだ。ローリスクハイリターンが彼女のモットー。恐らくのっぴきならない事情でもあるのだろう。

 

「そこの金に目のない駄犬がレベルを偽っていることをバラすと脅され、私達にまでしわ寄せが集まったのです」

 

犬人のシーフを睨みつけると眉間に寄ったシワを隠すように目元を揉む姿を見て、リヴィエールは笑ってしまう。いつも怜悧で凛とした彼女の美貌が崩れたのが何故か可愛らしく、少し可笑しかった。

 

「なるほど、税金ちょろまかしてるのがバレたら確かに色々と面倒だわな」

 

ギルドはオラリオに属する全てのファミリアからその等級に合わせて税金を徴収する。大手になればなるほどその金額は跳ね上がる。かつてたった一人で大手ファミリアと渡り合っていたルグ・ファミリアは最小の構成員にもかかわらず、等級はロキ達と変わらなかった。唯一の構成員であったリヴィエールは納税の苦労を人並み以上に体感している。

 

「この馬鹿っ!愚か者っ!脅されようが最後まで白を切れば良かったのですっ!面倒はヘルメス様のワガママだけで充分だというのに!」

「うう……許してくれよぉ〜」

「───フッ……」

「何がおかしいんですか」

 

微笑が白髪の剣士から漏れ出たのを聞き、ジロッとアスフィがこちらを睨む。

 

「失敬。アスフィのそんな顔、初めて見たから」

 

いつも冷静で聡明な彼女が頭を抱えて仲間に怒っている。普段からは考えられない姿を目の当たりにし、こんな面もあったのかと知れたのが少し嬉しかった。

 

「…………すみません、見苦しいところをお見せしました」

「いや、可愛いよ」

 

アクアブルーの髪の美女の頬がカッと赤く染まる。不意打ちでぶつけられた好意は無防備な彼女の心を的確に撃ち抜いた。

 

───まったく、この男は。相変わらずですね。良くも悪くも、女を刺激するのが上手です

 

嘆息しながら上気した頬をクールダウンさせつつ、苦笑する悪友を見やる。彼は人の心に入り込むのが異常に上手い。基本誰かを貶すこともしないが、褒めることも滅多にしないこの男が時折不意に口にする『可愛い』は卑怯なまでの威力を有する。ツンデレの高等テクニック、『ギャップ』。これには多くの女が犠牲になっていた。

そういうところはヘルメス……というより、恐らくはルグに似ているのだろうと賢明なアイテムメーカーは判断する。アスフィはあまりルグを詳しくは知らないが、あのヘルメスが『不思議な魅力がある、何故か憎めない』と言っていた。その感想は自分がリヴィエールに抱いているものとまったく同じだ。根拠とするには十分過ぎる。

 

「アスフィ様ってさぁ。不意打ちに耐性ない?」

「ヘルメス様の『可愛い』にも弱いもんね。酷い目に遭わされてる方が遥かに多いはずなのに」

「やっぱ押してばっかじゃダメなんだよ。優しさは小出しにしなきゃ」

「そこっ、浮つくんじゃありません!………ウォッホン!こうなっては仕方がありません。各員、全力で依頼に当たりなさい。特にルルネ、貴方には死ぬほど働いてもらいますからね!」

「わかったよぉ」

 

指揮官からのゲキに団員達は気合の声を出す。ルルネだけは力なく耳を垂らし、背筋を曲げていたが。

 

「ちなみにあなたの事はどう呼べば?」

「ウルスでもリヴィでも【剣聖】でも、二つ名以外ならお好きに」

 

憤然とこちらを睨みつける彼女に対して肩をすくめて答えを返す。

この一年、リヴィが正体を隠して行動していたことをアスフィは知っている。万能者と本格的に交流を始めたのは一年前の事件が終わった後。あの頃は迂闊にリヴィエールと呼ばせるわけにはいかなかったため、隠し名のウルスを名乗っていた。以来バングルが完成する約半年、ずっとウルスで通していたため、アスフィにとっては隠し名の方が馴染みが深いのだ。

 

「───?」

 

今度は碧眼の美女が笑みをこぼした。笑われる理由がわからなかったリヴィエールは頭の上に疑問符を浮かべる。

 

「まだ嫌なんですね。そっちの二つ名」

「うるさいな、ほっといてくれ」

 

何かを隠すようにそっぽを向く。二人同時に噴き出し、しばらくクスクスと笑った。ローリスクでことに当たる事をモットーとするアスフィとハイリスクを踏みたがるリヴィエール。一見すると正反対だが、何故か二人は馬があった。

 

「ガッ!?」

 

白髪の青年が飛び上がる。慌てて振り返るとそこにいたのは置いてけぼりにされていた金髪金眼の少女。

 

「痛っ、痛い痛い太腿痛い!アイズっ、何でっ……抓るな!そこは神経が我慢ならんところでぁああああ!」

「…………リヴィのそういうところが嫌い」

「そういうところって何だよ」

 

背後のアイズがまるで息を吐くように女を口説くこの男の大腿部を抓りあげ、鉄槌を下す。アスフィも部下たちに変な目で見られていたことに気づいたのか、一度咳払いする。抓っていた手を取り、取っ組み合いをしている【剣姫】と【剣聖】に向き合った。

 

「では、今は【剣聖】と呼ばせていただきます 」

「なら俺は【万能者(ペルセウス)】か?」

「やめてください。貴方にそんなかしこまった呼び方をされては背筋が寒くなります。いつも通りアスフィで結構ですよ。【剣姫】もよろしいですか?」

「はい」

「ちなみにそっちの戦力は?」

 

今回限りとはいえ、こいつらに背中を任せることになるのだ。秘密主義のヘルメス・ファミリアから多くのことが聞けるとは思っていないが、最小限の内容は知っておきたい。

 

「私を合わせ、総勢15名。すべてヘルメス・ファミリアの人間です。能力は大半がLv.3」

 

───なら24階層くらいは大丈夫か

 

と頭では思うのだが、直感が否と叫ぶ。こちらが予想している以上に事態は逼迫しているのかもしれない。

 

「改めて自己紹介を。私が中衛から全体の指揮をとります。アスフィ・アル・アンドロメダです。得物は短剣とアイテムを少々」

「【ロキ・ファミリア】アイズ・ヴァレンシュタイン。武器は片手剣」

「リヴィエール・グローリア。同じく片手剣。…………所属ファミリアとレベルは秘密で」

 

不信感がヘルメス・ファミリア全体を包む。リヴィエールの名前なら彼らは知っている。相当の腕利きな事も。だからこそ彼らには不安があった。最前線から離れての約一年で、剣聖に関してあまり良い噂は聞かない。ましてレベルはともかく、所属まで不明にするのはキナ臭い。白髪の剣士を本当にあの【剣聖】と思っていいのか、不信はあった。今の一言でそれが更に強くなった。

 

「だ、大丈夫。リヴィは私の3倍強いから」

「3倍は言い過ぎ。精々1.5倍程度だ」

 

先程とは別の意味でざわつく。一級冒険者ともなれば、力量には自信を持っていて当たり前。まして相手はオラリオでも最強と名高いあの【剣姫】。その彼女があっさりと自分より強いと認め、彼も否定しなかった。驚くのも当然だろう。

 

「…………彼に関しては私が責任を持ちます。大丈夫。少なくとも悪人ではないですよ」

「アスフィさんがそう言うなら……」

 

最も不満そうな表情を見せていた小人族が渋々納得する。仲間の無礼をアスフィが詫び、手を差し伸べ、握手を交わした。

 

「貴方と【剣姫】がいてくれるなら心強い。短いパーティでしょうが、どうかよろしく」

「ああ」

「…………ちなみに、貴方ならわかっているとは思いますが」

「言われなくても口外はしないよ。ヘルメス・ファミリアの内情に興味はない」

「話が早くて助かります。【剣姫】も同様にお願いします」

「あ、はい」

 

実態をバラすなと釘を刺したのち、アスフィ達はリヴィラで最後の補給を済ませ、黄金の穴蔵亭を後にした。

 

そして一行はダンジョンの闇、生と死が隣り合わせの修羅場へと身を投じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祭壇に重々しい声が響く。そこは古代のしんでんを思わせる石造りの広間だった。ギルド本部地下に設けられたウラノスの祈祷の間。その存在を知っているのは極少数の正に秘密の部屋。そこに佇む老いた神は黒衣の人物を見下ろしていた。

 

「フェルズ、何故【剣聖】と【剣姫】に依頼を出した」

 

決してきつい口調ではなかったが、それでも威圧感をまとった声音で尋ねる。ロキやリヴィエールに無用な疑いをかけられている事に、ウラノスもフェルズも気づいていた。そしてそれは二人にとって望むところではない。不必要なリスクは今まで回避していたのに、今回に限って踏み込んだフェルズの意図を知りたかった。

 

「例の宝玉に対して、あの二人は過剰な反応を示したらしい。何か因縁があるのでは、と判断してのことだ。宝玉の正体を解明する糸口になるやもしれない」

 

その答えにウラノスは押し黙る。決して高いとは言えない可能性だ。唐突に体調が悪くなるということは誰にでもある。宝玉に反応して、ではなく、少し立ちくらみがしたと考える方がよほど現実的だ。

 

しかし、無視出来ない可能性でもある。考え込むようにウラノスは無言を続けた。

 

「それに30階層でのパントリーの一件はこちらだけで何とかなったが、同志たちにも大きな被害が出た。彼らにこれ以上負担をかけさせるわけにはいかない」

「…………」

「先の件で連中も神経質になっているはずだ。今度はおそらく番人が出てくる。下手をすればあの半妖精まで」

「例の調教師……そしてリャナンシーか」

 

主神の言葉にフェルズが頷く。

 

「あの半妖精は【剣聖】に呪いを施したと聞く。アレを受けてなお生き残っている魔法剣士。驚異的と言わざるを得ない」

「…………流石は【西の魔女(ウィッチ・オブ・ウィッチ)】の血を受け継ぐ者、というわけか」

 

そして彼もまた自分と同じ、母が仕えた精霊の血を継ぐと出会い、共に歩み始めている。縁とは不思議だ。いくら断ち切ろうと、やおら形を成し、新たな絆として繋がっていく。

 

「精霊【アリア】と神巫【オリヴィエ】。かつて焼き切られたはずの運命が、再び出会ったか」

「賭けてみよう、ウラノス。【剣姫】と【剣聖】というとびきりのイレギュラー。様々な奇跡が重なり、結晶して生まれた偶発性因子が引き起こす連鎖反応。神々を魅了した人類の可能性に」

 

 

 

 

 

 

 




最後までお読みいただき、ありがとうございます。オリキャラ登場させました。イメージはもちろんfgoの沖田総司です。大河では新撰組出るのかなぁ?それでは励みになりますので感想、評価よろしくお願いします。面白かったの一言でも頂ければ幸いです。

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