その二つ名で呼ばないで!   作:フクブチョー

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Myth42 私たちを心配しないで!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイズが階層主を撃破した二日前、ダンジョンの大穴を蓋するギルドではちょっとした騒ぎが起こっていた。

 

「班長〜!怖かったですぅ〜」

 

ギルドで働く猫人の職員、ミィシャは涙ぐみながら上司に泣きつく。班長と呼ばれた犬人の男性は労わるように彼女の頭を撫でた。

 

「また24階層関連の依頼か?」

「はい、モンスターがいっぱい出てきてて、クエストなんて悠長なこと言ってないでミッションにしろって……班長は何かご存知で?」

「ここ何日か、似たような依頼がギルドに出されている。まだ日が経っていないから上層部の目には止まってないようだが」

 

先ほどの冒険者の必死さから見て、こちらが想像している以上に事態は逼迫しているらしい。命がかかっているのだから、懸命になるのは当然だが、それにしても余裕のない様子だった。

 

「重要案件として報告すべきか。報告書にまとめて上に提出しろ」

「了解っ……て、あれ?」

 

小走りにデスクへと向かったミィシャから不安げな声が上がる。つい先ほどまでここにあった書類が無くなっていたのだ。

 

「フロット……まさかお前、無くしたのか?」

「い、いえ!そんなはず……確かにさっきまでここに!?」

 

慌ててデスクの下などを探し始めるミィシャを見て、嘆息する。ついさっきまであったものが無くなる。人間生きていれば、そんな事態に陥ることはザラにあるが、この早業には流石に呆れた。

 

「こ、これはきっと幽霊の仕業です!私のせいじゃありません!」

「くだらん噂話で誤魔化そうとするな。紛失した依頼書は何としてでも見つけ出せ」

「ホントなんです!目撃者だっているんです!黒いローブの幽霊が夜な夜なギルドに現れるって!本当に私はなくしてないんですよー!班長〜!」

 

涙交じりに班長にすがりつく。実は彼女の言い分はまるっきり外れているというわけでもない。依頼書は幽霊、とは少し言いがたいが、限りなくそれに近い者が所持していたのだから。

 

「…………手を打たなければならない」

 

黒衣に身を包んだメイジ。ウラノスの腹心である人物は、闇の中に姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョン10階層、『迷宮の武器庫』。駆け出し冒険者の中でも、少し腕を上げてきた連中が狩場とするその場所に、本来いてはならない人物が2名、剣を持って佇んでいる。

一人は男だった。東方の衣服に身を包み、ローブを纏っている。光すら反射する煌やかな白髪を赤い紐で纏め、翡翠色の瞳を宿す美剣士。

もう一人はプラチナブロンドのロングヘアに白いアーマーを纏った美少女。

リヴィエール・グローリアとアイズ・ヴァレンシュタイン。冒険都市オラリオの中で間違いなく五本の指に入る凄腕の剣士が、ギルドで幽霊と呼ばれている黒衣のメイジと対峙していた。

 

「…………リヴィ、どうする?」

「取り敢えず敵意はなさそうだ。話だけでも聞いてみよう。この間合いだ。俺とお前なら大丈夫だろう」

 

その言葉に納得したのかアイズは剣を下げる。リヴィエールも柄に掛けていた右手を外した。

 

「感謝する」

「───で?お前は一体何者だ?」

「そうだな。以前、ルルネ・ルルーイに接触した人物、と言えばわかってもらえるだろうか?」

 

その一言で二人に戦慄が走る。リヴィラの街で運び屋の依頼をしてきたクライアント。真っ黒なローブに性差の判別がつかない見た目。確かに彼女が言っていた特徴と一致する。

 

「お前があの時の依頼者か?ならあの宝玉を渡したのも……」

「いや、それは違う。あの宝玉はハシャーナが下の階層で採取してきたものだよ。アレを彼女に届けて貰いたかったのだが」

「アレについて、何か知っているのか?」

「残念ながら。私が知りたいくらいでね」

 

声色から嘘を付いている音は感じられない。おそらくコイツはレヴィスとは別軸で動いているのだろう。

 

「本題に入ろう。単刀直入に頼む。リヴィエール・グローリア。そしてアイズ・ヴァレンシュタイン。君たちにクエストを託したい」

「クエスト?」

「24階層でモンスター異常発生というイレギュラーが起こっている。これを調査、或いは鎮圧してきてほしい。君たちなら可能なはずだ」

「ダンジョンのイレギュラー鎮圧?」

 

依頼内容に疑問符が浮かぶ。モンスターの異常発生の鎮圧など、クエストレベルの仕事じゃない。ミッションとしてギルド上層部に報告し、正式に討伐隊を組んで当たらなければならない事態のはずだ。それを俺たち二人に?

 

「無論、報酬は用意する。ことの原因も大体目星がついている。恐らく階層最奥の食料庫(パントリー)

 

説明を受けながら、リヴィエールは思考を張り巡らせる。イレギュラーの鎮圧は恐らく口実。コイツは俺か、アイズか、はたまた両方と接触する機会を伺っていたのだろう。

 

「リヴィ、知ってた?」

「いや、初耳」

 

しかし何故その調査を俺とアイズに?他派閥のファミリア、それも複数に依頼する?メイジという言葉を信じるならコイツはどこかのファミリアに所属している眷属のはず。仲間を頼らないのは何故だ?頼れないと見るのが妥当か?こいつ単体で見れば雑魚には見えないが……

 

「実は以前、ハシャーナを向かわせた30階層でも、今回と酷似した現象が起こった。リヴィラの街を襲撃した人物。そして宝玉と関わりがある可能性が高い」

 

アイズの肩が震える。相変わらず心根が素直だ。動揺を隠しきれていない。

 

───無理もない、か。

 

外に出していないというだけで自分も相当キテいる。

 

「アイズ……」

「わかってる」

 

動揺しつつも警戒は解いていない。ならば今何がわかっていなければならないかは、間違えてないだろう。

そう、この話は餌だ。俺たちにとって重要で、関心を引く話をワザとチラつかせている。これに食いつくということは、この黒衣のメイジの思惑通りに動かされるということに他ならない。

 

「事態は深刻だ。【剣聖】そして【剣姫】よ。力を貸して欲しい」

 

二人ともしばらく無言で立ち尽くす。さまざまな思考が脳裏をよぎった。

 

「…………リヴィ、どうする?」

「───放置するわけにもいかないだろう。ほかに手掛かりは無いんだ。掛けてみよう」

 

罠だったとしても構わない。相手の手のひらの上で動くというのは多少業腹だが、罠を仕掛け、確かな優位に立っている人間とは得てして隙が出来やすい。順調に進んでいるときこそ、危ないのだ。手の平を食い破り、利用する。俺たちならば出来るはず。

 

「恩に着る。出来れば今すぐにでも向かって欲しい。いいだろうか?」

「俺は良いけど……」

 

横目でアイズを見やる。案の定、返事を躊躇っていた。いくらリヴィが一緒とはいえ、この怪しさ満点の人物のいいなりに突っ走っていいものか、悩んだのだ。

 

「あの、伝言をしてもらっても良いですか?私のファミリアに」

「ん?ああ、なるほど。わかった。それくらいは頼まれよう」

 

へぇ、とリヴィエールは心の中で驚いた。

 

───てっきり秘密裏に進めて欲しいモノかと思っていたんだが、外部にクエスト内容を漏らすことを許したか。

 

これは本当に悪意はないのかもな、と判断する。無論、コイツなりの思惑はあるのだろうが、少なくとも、俺やアイズを嵌めるのが目的ではなさそうだ。

 

「へえ、【羽ペン】か。良いの持ってるな」

 

少量の血をインク代わりに出来るマジックアイテム。中々高価だったと記憶している。

 

「ねえ、リヴィ。あの白兎くんは大丈夫かな?」

「ほっとけ。駆け出しとはいえ、仮にも冒険者だ。過度な干渉は為にならん。俺たちは俺たちの冒険に専念しよう」

「───うん、そうだね。リヴィは手紙、書かなくて良いの?」

「んー……まあ大丈夫だろ。俺の行方不明はいつもの事だし」

「…………そうだったね」

 

一度責める目つきでこちらを睨むと、羊皮紙をメイジに渡す。

 

「まず、リヴィラの街によってくれ。協力者がそこにいる。酒場で合言葉を」

「わかった……ああ、一つ、聞きたいんだが」

 

濃霧の中に消えようとしていたメイジの背中に声をかける。足を止めた。

 

「………お前、ウラノスの手の者か?」

 

返答はせず、霧に紛れ、姿を消す。図星か、と笑った。ようやく一矢報いたようだ。

 

「ウラノス?あの神様が関与しているの?」

「昨日エイナからギルドに届いているニュースや問題について、結構詳しく聞いた。だがパントリーのイレギュラーなんて一度も話題に上がらなかった。今奴から聞いた事態の規模から言えばミッションになって、大手派閥にクエストが持ち込まれてもおかしくない。それをギルド末端にまで情報規制出来る存在といえば、俺にはウラノスくらいしか思いつかない」

 

ギルドが情報規制をしている理由、恐らくそれは外部勢力を立ち入らせたくないから。何を隠しているかまではわからないが、内うちに済ませる為に私兵を送り込んでいる可能性は充分にある。

 

「そう思ってカマをかけてみたんだが。案外素直だな、あのメイジ」

「リヴィはあの赤髪の調教師が、ウラノス様と関わりがあると思ってるの?」

「直接の関与はなさそうだが……少なくとも、俺たちよりは事情に詳しいだろう」

 

となれば、ロキを巻き込んでみるのも、ありかもしれない。見返りはこの情報だけでも充分だろうが、クエスト次第でさらに引っ張れる可能性もある。

 

「リヴィ?聞いてる?」

「───ん?ああ、悪い。少し考え事をしていた。何?」

「身体、もう大丈夫なの?」

「ああ。傷自体はほぼ完治している。身体の方も、今日明日どうこうはならんさ」

 

心配するな、と一度頭を撫でる。いつもなら心地好さそうに目を細めるのだが、今回は少し不満そうにこちらを見上げていた。決して嘘はないが、誤魔化しが入った事がバレたか。

 

「さあ行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほぼ同時刻。ロキ・ファミリア本拠地、黄昏の館前で、とある神物が心底辟易した顔を浮かべて、立ち尽くしていた。赤髪に岸壁胸が特徴的なその女神の名はロキ。この黄昏の館の主にして冒険都市オラリオで頂点に君臨するファミリアの長だ。この女神にこんな顔をさせられる者は数少ない。

しかし、神とは一筋縄でいかない癖のある連中ばかり。たとえ力で劣っていようと、違う武器を携えている者たちなのだ。

 

「また来おった……」

 

ロキの前に立つこの男もその一柱。見目麗しいその神はデュオニソス。豊穣とワインの神。他の神には中々備わっていない気品と優雅さを自然に持ち合わせている。

 

「気になる情報を仕入れたんだ。どこかで腰を落ち着けてゆっくり話さないかい?」

 

図々しくも中に入れろとほざく男神にロキは「帰れ」と告げる。しかしエルフがチラと見せたワインの銘柄に心を揺り動かされた。流石は豊穣とワインの神。見事な一品だった。

 

「で?なんや?気になる情報言うんわ」

 

受け取った葡萄酒を早速開けて飲み始めるロキに、デュオニソスは24階層の現状を語った。

 

「やっぱりギルドは信用できんか?」

 

話を一通り聞いたロキは薄い目を開けてデュオニソスを見やる。肯定の意味を込めて見目麗しい男神は首を振った。

 

「………どうにもね。きな臭いところがあるのは確かだよ」

「まぁわかるけどなぁ。ウチの友達も不信感バリッバリやし」

 

情報交換した際に、リヴィエールが見せた剣呑な態度が脳裏に浮かぶ。聡明なあの男は、ギルドの不審にとっくに気づいている。早い所、こちらでなんとかしてやらなければ、暴発してしまいそうだ。

 

「で?結局自分、ウチに何させたいんや?」

「ははは、何かわかったら知らせると言ったろう?他意はないさ」

 

万人が見れば清々しい。しかし、ロキの目には胡散臭くしか見えない笑みを浮かべる。恐らくは面倒ごとを押し付けたいか、回避したいかが本音だろう。

 

───リヴィエールの奴に教えたったらソッコーで行くんやろけど……

 

危険かつめんどくさい事になるのは目に見えている。そんな所へ焚きつけるような真似をしたらお姉ちゃん(リヴェリア)妹分(アイズ)はきっと怒る。リヴィは何も言わないだろうが、彼も後で怒られる。

 

さて、どうしたもんかと逡巡していると、頭に何か軽い衝撃が来る。巻き物が空から落ちてきたのだ。上空にはフクロウが飛んでいる。

 

「手紙かい?伝書鳩……いや、使い魔か」

「みたいやな……あー」

 

書面に目を通し、嘆くように手を仰ぐ。内容は簡潔だったため、読み終わるのに時間はかからなかった。

 

「アイズが24階層に行きおった……」

 

デュオニソスが紅茶を吹き出す。まさか勝手に騒動の中心に突っ込んでくれるとは、流石の彼も思わなかったのだ。

 

「クエスト頼まれて24階層へ……このタイミングじゃまさにやろ。『リヴィも一緒だから心配しないでください』て……無茶を言うなや!心配するわ!ホンマ似とんな、あの二人は!」

 

『聞いてくださいよロキ!リヴィったら酷いんですよ!!』

 

かつてルグがロキに愚痴ってきたことを思い出す。『出かける。待ってろ』という置き手紙一枚で二週間帰ってこなかった事があったらしい。

 

「ベート。あとレフィーヤ呼んで。至急や」

「二人だけで大丈夫なのか?持ちかけておいてなんだが、この件は相当危うい匂いがするぞ」

「しゃーないやん。今おる子らでアイズの力になれそうなんはあの二人しかおらん。まあリヴィエールもおるし大丈夫やろ」

「リヴィエール?【剣聖】もいるのかい?復活したという噂は聞いていたが」

「あ」

 

しもた、と思った時にはもう遅い。あいつの事を考えていたため、ポロっと出てしまった。まあええかと思い直す。あいつももう不必要に身を隠すことはしていないのだ。ならダンジョンの謎に迫ろうとするこの神に生存を知られるのは悪くない。情報の供給先はいくつあってもいい。

 

「フィルヴィス。君も24階層にロキの子達と向かえ」

「!?デュオニソス様、何を!?貴方様の護衛はどうなさるのですか?!」

「フィルヴィス、聞け。私情でロキを巻き込んだのは私だ。ならば私も誠意を見せる必要がある」

「しかし!」

「何より、私は今、ロキと【剣聖】の信用が欲しい」

 

この場で初めて、包み隠すことのないデュオニソスの本音が述べられる。剣聖の事はデュオニソスも知っている。自分やロキがファミリアの子供達を使ってようやく辿りつつあるダンジョンの謎に、たった一人で行き着いた男。赤髪の調教師の件といい、手練れは一人でも多く欲しい。彼を味方につけたいというデュオニソスの考えは正しい。事実、ロキも同じことをしている。

 

「信用は行動で勝ち取らなければならない。わかるだろう?フィルヴィス」

「………わかりました」

 

こうしてロキ・デュオニソスファミリア合同の臨時パーティが組まれることとなる。しかし、自分とアイズ以外全員バカだと思っている自尊心の塊、ベートとエルフ以外全員信用できないと思っているフィルヴィスの相性の悪さは中々最悪だった。

 

「足引っ張るようなら蹴り飛ばすからな」

「抜かせ、狼人如きが」

 

板挟みのレフィーヤは小声で呟いた。

 

「アイズさん、助けてください」

「助けに行くんは自分らやで。頑張ってな〜」

 

黄昏の館の扉が開く。するとそこには門番と何やら揉めている姿があった。

 

「なんや自分ら。どないした?」

「神ロキ。ちょうどいいところに。リヴィエール・グローリアのことを知りませんか?剣姫を助けに行ったところまでは存じているのですが」

「ちょっと酒場エルフ女。私が先に訪ねてきたんだ。質問は私が先だろ?待ってな」

「聞く内容は同じなんです。どっちでもいいじゃないですか、アマゾネス」

 

エルフとアマゾネス。どう考えても合いそうにない二人が、ひとりの男によって組み合わさっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらず逞しいな。この街は」

 

18階層へと辿り着き、街の小径を歩きながら、リヴィエールは思わず呟いていた。リヴィラの街で食人花が暴れたのはもう十日以上前である。それでも破損した店々がほぼ全て修繕され、街としての役割を取り戻しているのは驚くべき事だろう。ダンジョンの壁や水晶もほぼ完璧に再生されている。未知の代名詞がダンジョンとはいえ、どうやって水晶などの無機物が再生されるのか。リヴィエールは興味が尽きない。

 

「集合場所は黄金の穴蔵亭。岩壁に穴が開いた洞窟の酒場。リヴィ、こんなところに酒場があるなんて知ってた?」

「いや、酒場の名もこんな黄色の水晶も初めて見たな。ダンジョンというのは俺の想像以上に広い」

 

手に取った黄の光を生み出す水晶のカケラを砕く。木造りの階段をリヴィエールが先に歩き、すぐ後ろにアイズが続く。簡易的に設えられた木の扉を開く。「ありがとう」と一度リヴィに頭を下げると、アイズは酒場の中へと入った。

 

「へぇ、思ったより繁盛してるな」

 

賭博に興じる冒険者が複数のテーブルを使って屯している。二人は空いているカウンターへと足を向けた。隅から2番目の椅子をリヴィエールが引く。

 

「………リヴィ、なんか今日優しい」

「この程度剣士の嗜みだ」

 

エスコートのやり方はルグに散々叩き込まれた。その教育の成果もあって、女と同席する場合はほぼ無意識でレディファーストが発動する様になっている。

 

「あれ?剣姫と剣聖じゃないか、奇遇だな」

「お前は……ルルネ、だったか」

 

忘れかけていた顔と名前がなんとか一致する。リヴィラの一件で少し関わりがあった犬人の少女、ルルネ・ルルーイ。黒髪に褐色の肌。しなやかな肢体に戦闘衣のみの衣装はシーフを連想させる、身軽な軽装だった。

 

「前は二人とも世話になったな。お陰で死なずにすんだよ。礼に一杯奢らせてくれ」

「ありがとう。でも今日は仕事で来ているので遠慮させてください」

「仕事じゃなくてもお前に酒は飲ませねぇけどな」

「なんだ、【剣姫】は下戸かい?でもこの店を知ってるなんて通じゃないか」

 

雄弁に語りかけてくる犬人相手に相槌を打ちつつ、ドワーフのマスターを見る。無愛想な表情のまま、「注文は?」と問われた。

 

「「ジャガ丸くん抹茶クリーム味」」

 

アイズとリヴィエールが合言葉を告げた瞬間、派手な音が左隣から響く。驚いて横を見ると、ルルネが椅子からひっくり返り、腰を抜かしていた。

 

「あ、あんたら二人が援軍?」

「…………驚いたな。アンタもこの件に噛んでるのか。アスフィ」

 

騒然とする一団の中、1人凜とした気配を放つ相手にリヴィエールが視線を向ける。集団の中から歩み寄って来たのはアクアブルーの滑らかな髪に一房だけ白が差した短髪。瞳は髪の色に近い碧眼で銀製のメガネは彼女の知的な雰囲気を底上げしている。まさに知的美女という呼称が形になったかの様な女性だった。

 

「半年ぶりくらいになりますか、お久しぶりですね。そしてそちらは初めまして。【剣姫】。アスフィ・アル・アンドロメダです」

「あ、アイズ・ヴァレンシュタインです。よろしくお願いします」

 

握手を交わす。その傍らでアイズはリヴィエールに小声で耳打ちした。

 

「リ、リヴィ。今回の協力者って……」

「ああ。どうやらそうらしいな」

 

協力者といっても案内人の1人か2人だと思っていた。2人の予想は大いに外れる結果となる。

 

「ヘルメス・ファミリア。その中でも恐らく精鋭15名が今回のパーティだ」

 

援軍の数が多い事が吉と出るか凶と出るか。ヘルメス・ファミリアというところもまた性格が悪い。あの黒ローブ、間違いなく俺がアスフィにバングルの製作を依頼したことを知っている。ペルセウスに借りがある以上、彼らの危険を放置できない俺の性格もバレている。最悪欲しい情報だけ抜き取ってトンズラする事も考えていたのだが、それも不可能となった。このパーティを守るためにも、イレギュラーの解決に全力を注ぐしかない。

 

「気をつけろよアイズ。胡散臭い神の中でもロキはまだ性格良い方だが、ヘルメスはかなり性格悪い。秘密の一つや二つは抱える覚悟をしておけ」

「………大丈夫かな、このパーティ」

 

全く同感の意を込めて、リヴィエールは大きく嘆息した。

 

 

 

 

 

 

 

 




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