ドサリ
暗闇の中でそんな音がする。闇に目が慣れてくるとそこには膝から崩れ落ちた女性と淡く光る鏡がある事に気づくだろう。
倒れているのは暗い中でも凄まじい存在感を放つ銀の美女。この世の何よりも美しいと言われる美の化身。フレイヤが細かく身体を震えさせ、身悶えするように己を抱きしめていた。
「コレだから貴方は最高なのよ、リヴィエール」
頬を蒸気させ、瞳を情欲に潤ませ、小指を噛んで鏡を舐めるように見つめていた。
鏡の中にいるのは漆黒の髪を腰まで伸ばし、額に極彩色の宝石が埋め込まれた青年。瞳の色は琥珀色へと変貌し、黒塵は若者のすべてを黒く染め上げている。
「いつも貴方は私の想像を超えてくれる」
人とハイエルフ、愛と憎しみ、強さと弱さ、相反する全てが混ざった、長き時を生きる彼女が見たことがないと断言できる色。混ざっているのに透き通っている矛盾を抱えた魂。悲劇という闇が混ざる事で彼の黒に一層の深みを与え、そして今、魔物という新たな色が混ざる事で、内に秘められていた彼の黒が堪えきれず、とうとう吹き出した。闇より黒い、透明感さえ感じる漆黒。何もかもを吸い込むような黒淵はついに呪いと魔物まで呑み込んでしまったのだ。
「なんて、美しい……」
人によっては恐ろしくさえ映るだろう今のリヴィエールを、美の化身は美しいと評した。ただ一つの信念のためにあらゆる物を利用し、磨き上げた彼の姿は斬るという一念の下、鍛え抜かれた一本の刀に似ている。刀は武器であると同時に、美術品でもある。強く、怖く、美しい。美と畏れは表裏一体だ。
「さあ、見せてちょうだい。貴方のすべてを」
鏡の中で戦士がこちらに向けて、漆黒の剣を振るった。
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スキル【咎人】
・超常の力の行使
・背負った咎の重さにより効果上昇
神を殺すという考えうる限り最大のタブーを犯した事により発現したリヴィエール・グローリアの最後のスキル。
以前から進めていた自分にかけられた呪いに対する対策。戦えば戦うほど魔物化が進む原因として黒塵が関係するということには、三年ほど前に辿り着いていた。しかし、そこから先の対処が一向に進まなかった。共に研究を進めていたペルセウスもお手上げ状態で、出来るだけ魔法は使わずに戦うしか、対策は立てられなかった。
しかし、何も分からなかったわけではない。
三年をかけて自身にかけられた呪いを調べ上げたリヴィエールは、この呪いの最大の問題点を看破していた。
それは、黒塵が体内に蓄積するという点である。
冒険者をやっていれば大なり小なりみんなあの黒い塵を身体に受ける。しかし、そんな彼らに何の影響もないのはたとえ一瞬身体に受けてもすぐに体外に流出するからだ。
アスフィとの共同研究の結果、体内に蓄積した黒塵を体外に放出する事には成功した。しかし話はそこまで。たとえ少しの間、体外に出せても時間が経てば再び吸収してしまう。
呪いの解除は少なくとも、人間の手では不可能に思えた。
しかし、このスキルの発現によって、状況は大きく変化する。
【咎人】の効果は超常の力の行使。魔法やファルナもその一つに含まれるが、限定しているわけではない。そこで、解呪を当面、諦めたリヴィエールは呪いを利用できるのではないかと考えた。
アスフィの手によって作られたバングルとスキル、そして呪法の併用により、リヴィエールは呪いを利用し、力に変えることを、その天賦の才で成し遂げたのだった。
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鮮血と共に黒塵が舞う。黒を纏った人間が女を斬り伏せていた。人間は男。二十歳になるかどうかという歳の頃の青年。着物と呼ばれる和装に身を包み、漆黒の剣を構えている。反りは浅く、鋒は諸刃。刀と呼ばれる東洋の武器だ。黒髪が腰まで伸び、黒を着ている青年の名前はリヴィエール・グローリア。若くして歴戦の魔法剣士である。
対峙しているのは人間の女に酷似した魔物。艶やかな紫がかった黒髪に白皙の肌。目を合わせたらたちまち魅入られてしまいそうな妖艶な美貌。羽織ったマントはすでに引き裂かれ、申し訳程度に豊満な肢体を覆う薄布はボロボロになっている。彼女は人間ではない。古くは妖精、そして今は魔物となった怪物。今も昔も、彼女はリャナンシーと呼ばれている。
彼女の肢体が吹き飛ぶ。態勢が大きく崩れ、隙のできたその頬げたにリヴィエール渾身の拳がめり込んだ。リャナンシーは外壁に叩きつけられる。リヴィエールは距離をとった。
「リ……ヴィ…?」
自分を守るように眼前に立つ彼の背中に向けて金髪金眼の少女が愛称を呟く。名を呼ばれた青年は瞳だけを彼女に向けた。
───っ!?
ドクンっと心臓が大きく一つなる。見たことも無い琥珀色の瞳からは何も感じ取れなかった。ただ、冷たく、黒い目。自分が彼に抱いている感情とはまるで逆の想いが彼女を支配した。
「…………悪いな、怖いか?アイズ」
自嘲と共に彼の口から漏れたのはこちらを思いやる言葉。自我が保たれているということ以外、ほぼ魔物と呼べる彼の容貌を見て、恐怖しない方がおかしいだろう。アイズを責める気はリヴィエールには全くなかった。
「心配するなと言っても無理な話かもしれないが……それでも言わせてくれ」
優しい言葉をかけてくれる声音はいつもの彼と変わらない。
「心配するな」
その言葉はアイズだけでなく、リヴェリアにも向けた言葉だった。
「すぐに終わらせる。待ってろ」
リャナンシーが吹き飛んだ方向へと飛ぶ。あっという間に小さくなり、見えなくなった。
ブルリとアイズの体が震えた。押しつぶされるようなプレッシャーがなくなったからか、腰が抜けたように崩れ落ちる。震えた理由は恐怖だけではなかったが、それも大きな理由だった。
───リヴィを怖がった……私が?
怖れられた事はアイズにもある。強いは怖いだと彼女も知っている。それだけの業を重ねてきた自負もある。仲間に怖れられた事すらアイズにはあった。だからこそ、仲間に怖れられる辛さを自分は誰よりも知っているはずなのに。
───あんな目をしたリヴィ、初めて見た
瞳の色が違うとか、容貌が異なるとか、そう言ったうわべの事ではない。
百パーセント、殺すという明確な意思が込められた瞳。今まで戦士としての彼や優しい兄貴分としての彼しか知らなかったアイズは彼の優しくない戦いというものを見たことがなかった。
───あの眼を思い出すと、リヴィが誰か知らない人になってしまったような気がした…リヴィの目に私なんて映ってないと、感じてしまう。
「リヴィ」
少し離れた場所で、18階層全体を揺るがすような衝撃が起こった。
▼
裂帛の気合いと共に青年が追撃を加える。リヴィエールの振り下ろしとほぼ同時にリャナンシーは風の魔法を発動させた。
大気がはじけ、突風が渦を巻く。次の瞬間には彼の間合いの遥か外に降り立っていた。その豊かな胸から腹部にかけて裂傷が刻まれている。胸を手で押さえつつ、恍惚とした表情で若者を見つめた。青年の頬からも一筋赤い雫が伝う。ジュクジュクという音と共に、傷は塞がった。外れた肩の怪我も治っている。再生力も変身の効果の一つにあるらしい。ますます自分に近づいている。
「躱してるはずなんだけどねぇ」
彼のスキルにより、身体能力は確かに向上している。しかし目に見えて驚くほどではない。数値に変えれば、2割程度といったところだろう。体感は倍に感じるが、魔法によって劇的に能力を底上げしている自分にとっては見切れない程ではない。それなのに、変身して以降、彼の斬撃は一太刀も避けきれていない。
「黒塵を剣に纏わせることで間合いを伸ばしてるわけね。凄いわぁ。私の呪いをこんな形で使役するなんて」
「言っただろう。四年前と同じだと思うな、と」
この四年で大きく成長したリヴィエール・グローリア。一分の隙も見せず、慎重に間合いを詰める。一瞬の油断が、この女には命取りだ。
魔物の手から放たれた火球を斬りふせる。煙幕に紛れ、リャナンシーは風刃を繰り出していた。
カグツチを上下に振るう。斬撃と共に、斬れ味を纏った炎の刃が飛翔する。風刃と炎刃がぶつかり合い、凄まじい熱風を巻き起こした。
「炎の形態変化だけでなく斬撃のエンチャントまで……努力の好きな天才って、これだから始末に困るわよねぇ」
「お褒めに預かり恐悦至極……と言いたいところだが、小手先の手妻上手と言われたようで、少し不愉快だな」
チャキリ、と刀を鳴らす。半身に構え、腰を落とした。
「さにあらず、という証拠を見せるが、構わないな?言っておくが俺の剣は荒いぞ」
「お母さんより?」
「てめえの身体に聞いてみろ!!」
槍と剣が撃ち合う。避けるのはほぼ不可能と判断したリャナンシーは武器による防御を選択していた。
風の魔法により、リャナンシーの速度は飛躍的に上昇している。並みの使い手では目視することすら不可能だろう。しかしリヴィも負けてはいない。先ほどまでは反応するのが精一杯だったが、今は完全についていってる。
───このままじゃ死んじゃいそうねぇ
どちらかはわからない。しかし、このままでは取り返しがつかない結果になることを妖精は感じ取っていた。このままでは自分が消滅させられるかもしれない。妖精リャナンシーとしてはそれも悪くはないが、
───どっちに転んでも困るわねぇ
今日までこんな姿になろうと生き残ってきたのはある目的を果たすためだ。そのために100年という時をリャナンシーは魔物として過ごした。その目的を諦めたくはない。そして、リヴィエールはリャナンシーにとっても重要な存在になりつつある。この若さで自分がわざと残した呪いの抜け道にたどり着き、見事に運用してみせたのだ。こんな所でこの天才を失うのはあまりに惜しい。
「ちょっと、不本意だけど…」
もう一つの優位性を使う事をリャナンシーは決断した。赤黒い槍が鈍く光る。
「輝きなさい、
閃光が彼の刀を撃った。
▼
───もうひと押し!
刀と槍が火花を散らして激突した。刀と槍と炎が虚空を薙ぎ払う死闘は未だ続いている。しかし、終わりは近いと黒髪の剣士は確信していた。リャナンシーと撃ち合いながら、リヴィエールは確かな手応えを感じていたからだ。
───武の腕では俺の方が上だ。魔法はリャナンシーが上だが、それも黒塵の力で拮抗させている。
この分析は正しい。リヴィエールはアマテラスとカグツチを駆使し、リャナンシーを確実に追い込んでいっていた。現に今も肩からわき腹までを黒刀が切り裂く。
「お前には聞きたいこともあるが、悪いな。お前相手に手加減してやるには心と時間の余裕がない」
トドメと言わんばかりにカグツチにアマテラスと黒塵を纏わせる。槍で防いでも炎がリャナンシーを焼く。チェックメイトと判断したリヴィエールは正しい。
リャナンシーは槍でカグツチを受けた。当然想定内。このゼロ距離の間合いからアマテラスを最大出力で展開すれば流石のリャナンシーも逃げ場はない。
「輝きなさい、
「……っ!?」
終わりだと言おうとした瞬間、彼女の持つ槍が鈍く光る。ゾクッと背中に嫌な感覚が走った。ヤバイと7つ目の感覚が警鐘を鳴らすと同時に飛び下がった。
間合いから離脱するリヴィエールの追撃に、リャナンシーが槍を投擲する。凄まじい速度で迫る死の槍の穂先をリヴィエールは剣で迎え撃とうとした。
───え……
衝撃は一瞬。
リヴィは剣を振り下ろした姿勢でその場に固まっていた。青年が握りしめていた黒刀は刀身半ばで途絶えていた。鋒は宙を舞い、硬質な音と共に地面に衝突する。
───カグツチが……折れた
ありえないと思うのと回避動作を取ったのはほぼ同時だった。飛び退いてリャナンシーの間合いから逃れる。刀身が半分になった剣を構え、美しい魔物に対する。来るなら来いと闘気が語っていた。それを虚勢と笑う気はリャナンシーには起こらなかった。確かに彼ならば折れた剣でも充分に戦えるだろう。
「牙が折れても剣は放さない、か。素敵よ、あなた」
感心したようにリャナンシーは目を細め、槍を降ろす。彼女にもう戦う気は無い。これ以上はお互いにとって無益なだけだ。
「リヴィ!」
遠くから、アイズの声が聞こえる。チラリと視線を向けるとリヴェリアと二人で猛然とこちらに向かって走っていた。
「バカ来るな!おま──」
「他の女なんて見てる余裕あるのかしら」
耳元でリャナンシーの声が囁く。折れた剣を後ろに向かって薙ぎ払うが虚空を斬る。背後から抱きすくめられた。
「つかまえた♡」
甘い声と匂いが全身をくすぐる。次いで耳を優しく噛まれた。リヴィエールは指一本動かせない。こいつが少し力を入れれば彼の体は八つ裂きになるだろう。アイズとリヴェリアにもそれはわかった。二人の動きが止まる。
美しい魔物は満足げに頷くと、右手で彼の頬を触り、左手で腹から下腹部辺りを丁寧に撫でまわす。
「ふふ、懐かしいわねぇ、あなた。千のキスの続きでもしましょうか」
リヴィエールを抱きしめるリャナンシーの腕に力がこもる。彼女の吹きかける息が頬を撫でた。
「構うなリーア!俺ごと……」
「覚えてるぅ?四年前、私が言った事を」
足手まといになるのはゴメンだったリヴィエールは自分ごとこの魔物を滅ぼせと己の師匠に言おうとした時、意図を計りかねる発言がされる。どういう意味だと思案していると続きが語られた。
「私を愛して、受け入れて。他の全てを捨て去って。もちろん私も愛するわ。私のすべてであなたに尽くす。呪いを解いて、力を与える。惜しみない愛を力に変えて。私の知る全ても貴方に教えてあげるわ」
「……愛した男に才能を与える代わりに命を奪う妖精、リャナンシー、か」
リヴィエールは剣士であると同時に、楽士でもある。専門分野ではないが、詩を謳ったことは彼にもある。詩に詠まれるリャナンシーの事はそれなりに知っている。魔物となっても妖精としての特性は強く備えているらしい。
「どう?私を愛してくれる気になったかしら」
緊張で硬直していた左腕を動かし、彼女の手首を握る。
「アマテラス」
「あらぁ、残念」
左手から黒炎が巻き起こるより一瞬早く、背中を蹴り飛ばされる。態勢を整えながら剣を構えると、リャナンシーは遥か上空に浮かんでいた。
「貴方の成長に免じて、今日はこの辺りにしておいてあげるわ。元々戦う気は無かったわけだしね。それに…」
これ以上戦ったら、貴方が死んじゃうから。
「また会いましょう。私の愛しいリヴィエール。その時まで、どうか死なないで」
リヴィエールが反応する前に、リャナンシーは18階層の泉へと飛翔していく。
「っ、まっ」
彼女を追うべく走り始めたリヴィエールだったが、中断を余儀なくされる。黒塵が身体から剥がれ落ちた。全身を染め上げていた黒は霞のように消え失せ、瞳の色も琥珀から翡翠色へと戻る。髪は腰近くまで伸びたままだが、黒ではなく、最近見慣れ始めた白髪へと戻った。
───時間切れ…
彼が考えることができたのはそこまでだった。ドクンと大きく心臓が鳴る。スキルの副作用が来る。
───まずい、すぐにこの場を離れないと
あと少し、せめて人目のないところへと走ろうとしたその時
「リヴィ!!」
「っ、アイズ」
背中から抱きつかれる。振りほどきたかったが、今のリヴィエールにそんな力は残っていない。
「良かった……いつものリヴィだ」
───アイズ、今は……
背中に頭を押し付けて来る彼女に対して、今は焦りの感情しか起こらない。
───今ここで、こいつの、アイズとリヴェリアが見てる前で倒れるわけには……
そんな想いもむなしく、副作用がやって来る。
「あ、がァアアアアアっ!!」
強引にアイズを振り払う。それと同時に地面に倒れ飛んだ。体を内側から焼く激痛に、リヴィエールは地べたに血反吐をぶちまけ、のたうち回る。
「リヴィ!?」
「リヴィエール!どうした!?」
二人の声に応える事は出来ない。それをするためには心の余裕がなさすぎた。
「し、ししししァアアアアア!!」
うち回る姿はまさに発狂と呼ぶにふさわしい。手を内腑に直接突っ込まれ、抉り、引き裂かれる感覚が間断なく襲ってくる。
「ぐぅ……ぎぃっ、あ、あ、ぁあああああ!!?」
たまらず手首に噛みつく。肉を犬歯で突き破り、痛みの意識を移すことができればと無意識に体は己を痛めつける事を選択していた。
───痛い苦痛い激痛いイタイ抉れ抉れ抉れエグれるえぐれれれられれられれれれれ
頭の中でシンバルが鳴り喚く、ら皮膚の下でシャリシャリシャリシャリ無数の虫が這い回る。悍ましい感覚に気が狂いそうになる。
いっそ狂って仕舞えば楽になれるのだろうか?この痛みに耐えるのではなく、委ねてしまえば俺は終われるのだろうか?
しかしそんな安易な終わりを、この罪と咎に塗れた身体が許してくれるはずもなく───
「──ゴブッ」
粥になった内臓がトロトロと口端から漏れた。血管がぶちぶち切れていくのがわかる。
「───あっ、ああ、ァアアアアアっ!!」
とうとうカグツチを抜き放ち、半分になった刀身を己へと向ける。定めたのは自身の左目。正気を取り戻すため、剣で眼球を抉り取るという狂気に身を委ねようとしたその時だった。
「何やってんだよ、アンタは」
折れた剣を握る左手が強い力で止められる。強く掴まれる感覚に、少し正気が戻る。同時に衝撃が手に走り、俺の手から得物を奪った。
「───アイ、…シャ」
狂気から浮上した先に両の目が映したのは彼の秘密を知る数少ない人間の一人。
「お前……どうし、て」
「アンタの側に私がいるのに理由がいるかい?」
「…………はは、お前って、ホント」
いい女、と言えたかどうかはわからない。視界が暗く沈んだ。
▼
「無茶をしたね、リヴィ」
あの夜と同じだ。乱れた白髪。血みどろに沈む長身痩躯。そんな中で穏やかに眠る端正な顔つき。あの夜の街で出会った、あの時と。
「お前は……」
アイシャの背中に声がかかる。背後にいたのはリヴィエールが心から信頼できる数少ない2人であった。
「貴方には初めましてだね。イシュタル・ファミリア所属。アイシャ・ベルカよ」
「ロキ・ファミリア副団長。リヴェリア・リヨス・アールヴだ」
直に会ったのは初めてだが、アイシャは初対面の気がしない。顔立ち、瞳の色、佇まい、そして何より纏う高貴な覇気。腕の中で眠る彼とよく似ている。
「リヴィエールから聞いている。貴方があいつが心配していたアマゾネスか」
「へぇ、そりゃ驚きだ。リヴィエールが私を心配するなんて、ね」
「そのお前が、なんで此処に、そしてこのタイミングでいる?」
「私もこいつと同じ。こいつを心配して、探していたんさ」
あの怪物祭以来、一度たりとも連絡をよこさなかったこの男に一言文句を言うため、心当たりを調べ回っていた。どれもが空振りした後、彼女はダンジョンへと向かった。冒険者である以上、此処には必ず訪れる。意外と知られていないが、行方不明の冒険者を探すには、下手に動き回るより、リヴィラの街で張っている方が効率的なのだ。
半分に折れた剣をアイシャが鞘へと納める。吹き飛んだ鋒も拾った。
「これ直るのかなぁ。私武器の扱いは専門外だからなぁ」
まあ、いいか、と思い直す。彼ならば半分になった刀身でもかなり戦えるだろうし、しばらく戦えなくなったとしてもそれはそれでいい。少し彼は休息を取るべきだ。
「後の事は任せといて。こいつの事なら大丈夫、ただの仕様だから」
彼を抱き上げ、ダンジョンから出ていこうとするアイシャを止める事はアイズにもリヴェリアにも出来なかった。彼の今の惨状に関して、二人はあまりに無知だ。
「リヴェリア、何があった?リヴィエールは?」
レヴィスを退け、フィンが応援に駆けつけたのは、二人が闇の中へと変えてから暫くが経ってからの事だった。
アイシャがイケメン過ぎる…そしてリヴィエールがヒロイン過ぎる。励みになりますので感想、評価よろしくお願いします。