その二つ名で呼ばないで!   作:フクブチョー

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Myth32 どっちが強いと言わないで!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今まで戦ってきた中で一番強かった戦士は誰?』

 

オラリオのとある日。ある冒険者二人が、違う場所で同じ質問をされていた。

一人は全てを吸い込むような黒髪に翡翠色の瞳を宿した少年、【剣聖】リヴィエール・グローリア。もう一人は煌めくプラチナブロンドのロングヘアの美少女、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。共に凄まじい勢いで頂点へと上り詰める、今最も注目を集めている冒険者である。

 

「なんだ突然」

 

ギルドで質問を受けたリヴィエールは少し眉をひそめ、質問をしてきた相手を見返す。亜麻色髪の美少女エイナ・チュールは屈託のない笑顔で問いかけていた。

 

「だって気になるじゃない。あ、ルグ様はダメよー?戦闘面で、一番強かった人を教えて」

 

同じ質問をされたアイズも不思議そうに仲間を見ていた。聞いてきたのはアマゾネスの少女、ティオナ。側にはレフィーヤとティオネもおり、二人とも興味津々という顔で答えを待っていた。

二人とも十を数えるほどの時間、逡巡した後、口を開いた。

 

「一番強かったのはやっぱりリヴィ。一太刀も届かなかった」

「…………認めるのは少々シャクだが……多分、アイズだ」

 

出てきたのはお互いの名。その答えは問いかけた者たちにとって少し意外な物だった。確かに今やこの二人はオラリオで知らぬ者はいないとまで言えるビッグネームだ。その強さは折り紙つきだろつ。しかし二人とも今だ発展途上。彼らの名前が高らかに轟いているのは期待値が込められているのも否定できない。単純に強さだけでいうならフィンやリヴェリアの方がまだ上のはずだ。

 

そんなことを考えているのが表情からわかったのか、リヴィエールは自嘲気味に笑い、アイズはまるで華が咲いたような笑みを浮かべた。

 

「単純に戦闘力だけの話じゃなくてな…」

「リヴィの強さはそういう強さじゃないんだ」

 

正直、戦闘力だけなら自分達より上はまだまだいるだろう。いずれ全て蹴落としてやるつもりではいるが、それは今ではない。

 

「普通の戦士は不利になったら退却を考える。成果を譲歩する。妥協する」

「でもリヴィはそれをしない。敵が自分より明らかに強くても絶対引かない。逃げない。諦めない」

 

何年も冒険者をやってきた2人は今まで何人もの戦士と出会ってきた。強いと思える者も何人かいた。アイズも、リヴィエールもその内の1人である。

 

しかし、強者たちの括りの中で、2人は明らかに異質だった。うまくは言えないが、強さの概念というか次元というか、根本が違うことを感じ取っていた。同類のみが感じ取れる匂いだったのかもしれない。

 

「強い奴ってのは大概、何かに取り憑かれているような信念がある。狂った部分が無い奴は基本的に冒険者に向いていないと言っていい」

 

理性を持っただけの普通の人間では本物にはなれない。フィンもリヴェリアもヒリュテ姉妹も。もちろんアイズとリヴィエールもそういった狂った何かを持っている。理性を持ちつつ、正しくイカれている者こそがこの人外魔境で上に登ることができるのだ。

 

「でもリヴィはそれだけじゃないんだ。狂った何かを持ってはいるけど、それ以上に暖かい何かを持ってる」

「そういった外から動かせない何かを持ってる奴は戦闘力にも影響をもたらすのかもしれない。俺はあいつと戦って思い知った」

 

お互い、出会うまではそんな事は思っていなかった。守りたい人がいる。譲れない何かがある。そんな事を言う人間達は何人も目の前で死んだ。

 

【強かった……今まで戦った誰よりも】

 

脳裏に蘇るのは2人が初めて戦った記憶。あれは確かゴライアスに1人で挑もうとしたリヴィエールをアイズが止めようとした時だった。

 

『俺は強くならなくちゃいけないんだ。だからどいてくれ、アイズ』

『イヤだ。リヴィが行くなら私も行く。それさえ認めてくれないなら私は力尽くでも貴方を止める』

『なら勝負だな。【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン』

『うん、やろう。【剣聖】リヴィエール・グローリア』

 

稽古を含めれば、何度か剣を合わせた事はあったが、本気で戦ったのはこの時が初めてだっただろう。相手を殺してしまうことさえ頭にあったかもしれない。お互い一歩も引く事なく、力尽くでお互いを退けようとした。死闘の末、表面的に勝利したのはリヴィエール。剣を弾き飛ばし、武器の無くなったアイズの喉元に鋒を突きつけた。

 

『諦めろ!アイズ!今のお前じゃ俺には勝てない!』

『イヤだ!諦める事を諦めて!リヴィ!』

『目の前が例えどんな地獄であろうともう誰も失わない!誰よりも理不尽な存在に俺がなるんだ!どうしてわかってくれない!』

『目の前で例えどんな地獄を見せられたとしても貴方を1人にはさせない!だから止める!ここは絶対譲れない!』

 

黒の咆哮が金の少女に襲いかかる。白刃の鋒を澄んだ金の瞳が迎えた。

 

黒の少年が鋒を降ろす。意思が折れた……いや、折られたのは剣聖だった。

 

力の上では黒が勝った。しかし心の上では金が勝った。

 

どちらも勝利したと言える戦いだったが、2人の胸に去来したのはたった一つの言葉だった。

 

【敗けた】

 

『完敗だった……凄い剣士だって思った』

 

今思えば、アイズのことが特別になり始めたのはこの時からだったかもしれない。コンビを組むようになり、リューが加わってトリオとなり、最後にリヴェリアが加入してチームとなった。

 

「今の俺にとって、誰よりも理不尽な存在はあいつだ」

「私がどんなに強くなったとしても、きっと私はリヴィには勝てない」

 

自分の中に揺るぎない頂点がいる。だから自分達は奢らない。まっすぐ、誰よりも高みに向けて昇りつめることができる。

 

誰が相手でも、恐れず戦うことができる。

 

「それ、ヴァレンシュタイン氏に言ってあげれば?きっと喜ぶわよ」

「冗談。口が裂けても言うもんか」

 

調子に乗ってあの勤勉さが無くなっては困る。何故かはわからないが、彼女には堕落して欲しくない。他人には基本的に興味のない自分にしてはおかしな感情だと自覚していたが、それでも何故か、この心の声に逆らう事はできない。

 

───不思議な関係ね、貴方たちは。

 

リヴィエール・グローリアとアイズ・ヴァレンシュタイン。まるで風のようだと誰もが感じていた。そばにいるのに届かない。目の前にいながら、どこか遠い何かと繋がっている。そんな事を思わせる2人だった。

そしてそれは本人達すら感じていた。

 

その質問をされてから、暫くの時が経ち、よく似た二人は離ればなれになった。しかしどれだけ時を過ごしても、2人の中からお互いが消える事はなかった。

 

俺たち2人は…

私たち2人は…

 

とても似ているのに、どこか遠い。

 

懐かしい風の匂いがする人。自分の母親の影を2人ともお互いに重ねていた。

 

風のような人だった。誰にでも笑顔を運ぶ優しい風。風と共に歌を、愛を、幸せを届けてくれる人だった。

 

──会いたい…

 

会いたいよ、リヴィ

 

───けど会いたくない…

 

今の俺が、お前に会うのは怖い。

 

かつてと真逆の色になってしまった髪を掻き毟る。今の俺を彼女に見られるのは怖い。

 

独りにしないで、リヴィ。私には貴方しか…

 

巻き込みたくない。俺の隣なんて危険な場所にいさせたくない。

 

矛盾する心を抱えながら、2人は一年という時を過ごした。

 

しかし、人の縁とは不思議なものである。結局行き着くところに行き着くようにできている。

精霊と神巫。どれだけ2人が運命を拒んでも、2人を繋ぐ何かは絶ち斬れない。遠い糸に繋がった2人は再び出会った。

 

───ちょっと、妬けるわねぇ

 

時は戻り、現在。並び立つ2人の間に繋がる何かは、元妖精であるリャナンシーにだけは見えていた。四年前……いや、あの森で初めて出会った頃から見えていた彼の糸は、この子と繋がっていた。

 

「アイズ、出し惜しむなよ。エアリエル全開で行け。こいつらを人間と思うな。人の形によく似た魔物だと思え」

「うん」

 

槍が振るわれる。彼の剣に防がれた一撃は2人の間の空間を突き抜ける。ダンジョンの石畳は破壊できても、か細い見えない糸は切る事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アマテラス

 

黒い光が空間に灯される。その光に導かれてか、天の光に照らされた宝玉の中の怪物は覚醒を促される。

 

目覚めよ(テンペスト)

 

精霊の命令が覚醒した怪物の耳に届く。命に従い、胎児が目覚める。

 

『───ァアアアアアアアアアアッッッ!!!』

 

背後からの叫声にアイズとリヴィエールは振り返った。胎児は宝玉の中でもがくようにのたうち、緑色の膜を突き破った。

 

「あら」

 

楽しそうにリャナンシーが笑うと同時に凄まじい速度で胎児は飛翔した。

 

「───っ!!」

 

声を上げる余裕もない。身体を大きく仰け反らせ、間一髪飛翔する飛礫を避ける。胎児の勢いは止まる事なく、壁に減り込んでいる食人花に噛み付いた。

 

「なっ!?」

『ォオオオオオオッ!!』

 

瀕死だった食人花が絶叫を上げる。胎児はまるでモンスターに同化するように寄生し、食人花もその姿を異形へと変貌させた。

 

「アレは……50階層の……」

 

───似ている……あの時の新種に

 

花の中から女体のようなものがメリメリと体皮を突き破り、現れる。10本以上もの足は次々と現れた食人花に繋がっており、まるで蛸のようだ。

 

───他のモンスターを取り込んだ。まるで強化種!

 

「ええい!全て台無しだ!」

「あら、そうかしら?こういうのも面白いと思うわよ。これだから外は楽しいわよねぇ」

 

その言葉が耳朶を打った時、ようやくリヴィエールは我に帰った。あの女型モンスターがこちらを見ていた事に気付いたからかもしれない。跳躍すると同時に足元が吹き飛んだ。

 

「アイズ!レフィーヤを!」

「うん!!」

 

飛ぶと同時にアイズはレフィーヤを肩に担ぐ。リヴィエールはルルネを横抱きに抱えた。そのまま広場に向けて一直線に駆け出す。

 

【──咲き誇れ漆黒の大輪。グローリアの名の下に】

 

レヴィスと戦いながらひっそりと詠唱していた魔法が完成する。暴れまわる触手を【燃ゆる大地】が吹き飛ばした。

 

「今だ、跳べ!」

 

断崖から2人の影が飛翔する。空中を飛ぶ際、動きはどうしても制限される。その隙を突かれては流石の2人といえどダメージは避けられない。リヴィエールが燃ゆる大地で足止めする事により、2人は安全に広場へとたどり着くことができた。

 

───ッつぅ!?

 

視界にモヤがかかり、頭の中で砂嵐のようなノイズが響く。思った以上に限界は早そうだ。燃ゆる大地は撃てて後二発。ノワールは一発が限度。

 

「リヴィエール!」

「リーア!レフィーヤ達を頼む!アイズ!」

「うん!」

 

荷物を下ろすと2人は再び駆け出す。その動きに連動するかのように新型も動き出した。やはり狙いは俺たち。発動している風とアマテラスに反応しているのか、はたまた違う理由か。ともかく態勢が整うまで引き付ける必要がある。

 

「どうする?斬り込む?」

「流石に数が多過ぎる。それにどう見てもさっきより強くなってる。一旦様子を見よう。戦うかどうかはそれから……クッ!?」

 

バク宙の要領で飛び上がる。リャナンシーの槍が空から降ってきた。

 

「泥棒猫と逃避行?私の目の前でそんな事するなんて野暮ねぇ、怒っちゃうわよ?」

「ホントに嫌なタイミングで来るなお前は!!」

 

黒槍と黒刀が重なる。アイズも赤髪の女と剣を合わせていた。

 

「お前は私だ。このままでは帰れん。付き合ってもらうぞ」

「───っ!!」

 

あっちでもタイマンの戦いが始まった。リヴィエールの見立てでは彼女はアイズより強い。ツーマンセルで戦うことでカバーしてやろうと思っていたのに、あの新種のせいで分断されてしまった。広場もパニックに近い。アレとまともに戦えるのはヒュリテ姉妹にリヴェリアとフィンくらいだろう。

 

───向こうのカバーに回ってやりたいが流石に手が離せない!

 

「クソッ、鈍ってんなマジで!」

「この私を食い止めておいてそんなこと言われたら、私の立つ瀬がないわねぇ」

 

漆黒の刀身が唸りを上げて大気を切り裂く。槍の穂先が刃を受け止めた。

 

赤黒い槍と漆黒の刀身がぶつかり合う。必殺の剣尖と鋭利な鋒が交錯した。幾度となく攻守が入れ替わり、正面から激突した。

 

「へぇ、強くなったわねぇ。私の可愛いあなた」

「どうかな?お前が弱くなったんじゃないか?」

 

金属音が鳴り響き、お互い距離を取る。今の交錯でお互いの力量は概ねわかった。

 

「でも私の(おまじな)いはまだ解けてないみたいねぇ。魔法、あと何発撃てるかしら?」

「何発だと思う?」

 

カグツチにアマテラスを纏わせ、斬りかかる。上段からの振り下ろしをリャナンシーは槍の柄で受け止めた。両足が大きく地面にめり込み、砕ける。何気なく受け止めたように見えた一撃だったが、凄まじい威力が込められていたことが周りの惨状からわかった。

 

「斬撃にアマテラスを乗せることで破壊力を上げたわけねぇ。あの頃より随分器用になったものだわ」

「その槍、一体何で出来てやがる」

 

普通の槍なら確実に砕けていたはずだ。それなのにヒビ一つ入っていない。デュランダルと遜色ない硬度を持っていることは間違いない。

 

再び槍と刀が激突する。無数の火花を散らしながら2人は耐えず動き回り、足場を変え、ステップを踏む。

 

「楽しいわねぇリヴィエール!やっぱりバトルはダンスだわ!」

「否定はしねえよ!」

 

一際甲高い金属音が鳴り響く。風の魔法を発動させたリャナンシーに吹っ飛ばされた。

 

───クソッ、やっぱ魔法はあっちが上か!

 

「っ!!」

 

地面が再び大きく揺れる。どうやら派手に食人花の変異体が派手に暴れているらしい。

 

───いや、そっちより……

 

先程から何度か肌を風が撫でていた。直接見てないからどっちが有利かまではわからないが、聞こえてくる音や殺気からかなり激しい戦いになっているのは間違いない。

 

「助けに行きたくて仕方ないって顔ねぇ」

 

またも心を読まれる。顔には出していないはずなのだが、一体どうなってるのか。人の心理を読む事は得意だが、読まれるのはあまり気分の良いものでは無い。

 

「今よそ見されたらあの雑魚達、殺しちゃうわよ」

 

その言葉が言い終わるか、終わらないかの瞬間、唸りを上げて黒刀が彼女の喉元を浅く斬る。リヴィが剣を振るのとリャナンシーが飛び下がるのはほぼ同時に見えたが、剣の方が僅かに早かった。

 

彼女は呆然として浅く血が出る喉元を撫でる。まるで珍しいものを見るかのように血の付いた掌を見つめていた。

 

「あまりナメるなよリャナンシー」

「まさか。貴方を侮った事なんか──」

「俺じゃない」

 

美しい魔物の言葉を遮る。

 

「俺の仲間に、雑魚なんていない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこから現れた、と問いただしたいところだが……始末する方が先決だな」

 

リヴィとアイズが激戦を繰り広げている頃、フィン達は唐突に現れた食人花を片付けていた。しかし、その矢先に現れたのは女性型新種モンスター。

通常の食人花とは明らかに違う怪物を相手にしてもリヴェリアとフィンはこ揺るぎもせず、冷静にその巨軀を見上げていた。

 

「レフィーヤ、以前行った連携を覚えているな?あれをやるぞ」

「わ、わかりました!」

 

歴戦の戦士達の集う、今地上で最も強いファミリアの冒険者達が突然現れた怪物に対処すべく、それぞれに動き出す。前衛が食人花の惨劇を阻み、大火力の後衛がトドメを刺す。堅実だが、未知の怪物相手には最大限の効果を発揮する最強の布陣で勇者達は事に当たっていた。

 

「【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ】」

 

リヴェリアが詠唱を始める。この彼女をリヴィエールが守り、アイズとリューが前衛で時間を稼ぐというのが、かつてゲイ・ボルグという異名で恐れられたチームの基本戦術。

 

「【押し寄せる略奪者を前に弓を取れ。同胞の声に応え、矢を番えよ】」

『‼︎』

 

魔力の反応を優先して襲う食人花と同じ習性を持つ女性型新種は、リヴェリアの膨大な魔力に反応し、フィン達を無視して猛進する。

 

「【帯びよ炎、森の灯火。撃ち放て、妖精の火矢】」

『ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ‼︎』

 

リヴィエールという最強の護衛がいないリヴェリアに女性型が襲い掛かるとーーーリヴェリアは退避した。

 

『?』

 

女性型はその姿に違和感を感じる。派手な魔力放出、そして攻撃に対する全力逃走。これらは何の意味もない行動に見える。意味があるとすれば、

 

「ーーー【雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】」

『⁉︎』

 

ーーー囮。

中断された筈の詠唱が別の方向で続いている。

リヴェリアの強大な魔力を隠れ蓑にして、レフィーヤが魔法の詠唱を完成させる。

強力な魔導士を二枚用いた囮攻撃。

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】‼︎」

『ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアアァァァッ⁉︎』

 

炎矢の豪雨が女性型に降り注ぎ、全身を削り取る。

女性型ごと着弾地点を炎の海に変える爆炎。焼け焦げる怪物は絶叫を響かせた。

 

「畳み掛けさせてもらおうか」

「お供します、団長!」

「ーーーせぇーのッ‼︎」

 

前衛組が攻撃を仕掛けようとしたその時だった。

 

「「「⁉︎」」」

 

彼らの眼前に超高速の何かが飛来し、大きく土煙が上がる。舞い上がった土煙から間髪入れず、二つの影が飛び出した。

 

「リヴィエール!?」

 

空中で槍と撃ち合う。飛び出した1人は白髪の剣士。刀に黒い炎を纏わり付かせているからか、彼の体からも闇の陽炎とでも呼ぶべき揺らめきが立ち上っている。

 

甲高い金属音とともに2人とも弾け飛ぶ。しかしお互い空中で態勢を整え、まるで羽が舞い降りるかのように、柔らかく地面に降り立った。

 

『ァアアアアアーーーーーッ!!』

 

女性型の絶叫が辺りを包み込む。しかしそんな脅威を意にも介さず、リヴィエールは一つ小さく舌打ちした。

 

「邪魔ね」

「失せろ」

 

睨み合う戦士達が剣と槍を振るうと同時、斬撃を纏った炎が女性型の上半身を両断し、槍から放たれた赤黒い閃光がその上半身を消し炭に変えた。

 

フィンとリヴェリアは驚愕を隠せなかった。

 

───リヴィも強いが、あの女も桁違いに強い!こんな奴が無名で隠れていたなんて…

 

同様の想いはリヴィエールの胸にもあった。

 

───さすがに強い。渡り合うので精一杯だ。だが……

 

手応えも感じていた。あの時と違う。四年前はほとんど見えなかったリャナンシーの動きが今は見える。

 

───四年前は実力差ありすぎて相手の強さを図ることもできなかったが……

 

今はわかる。リヴィエールにとって、槍使いで最強はフィンだったのだが、格付けが変わった。この上でこいつには魔法がある。まるでフィンとリヴェリアを相手にして、いっぺんに戦っているかのようだ。全く反則もいいところ。

 

「そんなに派手に魔法を使っていいの?」

 

そんな彼女の言葉を無視し、息を整える事に集中する。確かにもう魔法については余力はない。だからその分、後先の事は考えなくてもいい。余力がないとはデメリットばかりではなかった。

 

「流石に強えな、リャナンシー。今まで何人もの強敵とヤって来たが、お前は間違いなく五指に入る」

 

もう一方、アイズとレヴィスの戦いも佳境に入っていた。エアリエルを使いながらも自分と互角に…いや、それ以上に戦う目の前の強敵の強さにアイズも内心で舌を巻いていた。リヴィエールのアドバイスに従っていなければ、とっくに負けていたかもしれない。

 

───強い、現時点で、恐らく私より…

 

けれどアイズの胸に焦燥はなかった。もちろんリヴィエールにもない。

 

『───だが』

 

異なる場所で、2人の言葉が重なる。槍の穂先と鈍色の剣尖が掴まれる。剣で受け止めたのではない。素手で掴んだのだ。そう、これはかの剣聖が得意とする防御術。先日、アイズ自身も目の前でやられたシラハドリである。

2人がこの技術を目の前の強敵に使えたのには理由がある。それは単純明快。

 

「アイズの方が強い!!」

「リヴィより弱い!!」

 

剣姫と剣聖の剣閃が真一文字に奔った。

 

 

 

 

 




後書きです。番外編更新するつもりだったのですが、アニメに煽られてこっちを更新してしまいました。原作と違い、アイズが勝っちゃいそうで作者自身困ってます。ダレカタスケテ……それでは励みになりますので、感想、評価よろしくお願いします。面白かったの一言でも頂ければ幸いです。

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