その二つ名で呼ばないで!   作:フクブチョー

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後半に主人公の設定を少し書き加えました。少しは短篇っぽくなったと思いますので読んでみてください。よろしくお願いします


本編
プロローグ 暁の剣聖と呼ばないで!


広大な地下迷宮。通称『ダンジョン』。

世界に唯一のモンスターがわき出る『未知なる穴』。

数多の階層に分かれ、その広く深過ぎる『穴』の全容を掴んだものは誰一人いない。

 

それは、未知なる資源と未知なる体験と未知なる危険。あらゆる可能性が眠る場所。

 

そして、その『未知』に挑む者達を人は『冒険者』と呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ロキ・ファミリア】

 

精鋭が集う第一級ファミリア。

仲間達とダンジョン遠征に出ていた彼らは見たこともない新種のモンスターと交戦していた。

まるで芋虫のようなモンスターは、体内から腐食液を吹き出し、体内の体液に関しては鉄の武器すらも溶かした。

一匹ならまだしも、群れでやってきたそれに、リヴェリア・リヨス・アールヴは苦戦を強いられていた。

ファミリアの主力たる面々はクエストに出ており、今この場にいる一線級の使い手はリヴェリアのみ。そしてこの芋虫達は何百匹という恐ろしい数だった。いかなハイエルフといえど所詮は後衛。この状況を打開するには少なくとも一人、手練れの前衛が必要だった。

 

それでも彼女は的確に指示を出す。密集陣形を味方に取らせ、希望の言葉で鼓舞し、動けるもの達に指示を出した。

 

しかし結果はジリ貧。少しずつ、だが確実に虫達は彼らを飲み込んでいく。

 

ーーーー全滅……

 

最悪の二文字が過ぎったその時だった。

 

 

『やれやれ、本来なら関わり合いたくないところだが……』

 

何処かから声がかかる。その声音をリヴェリアは知っていた。

 

ーーーーなんだ私は……ついに耳までヤツにやられたのか

 

1年前、行方不明となったあの時から、リヴェリアは彼の幻を何度も見た。艶やかな黒髪をした後ろ姿の別人を見てその名を呼んだ事はもう両手の指では数え切れない。

その彼の声がこの窮地で聞こえてしまった。幻聴と思っても仕方ない事だろう。

 

しかし、その思い込みは巻き起こった漆黒の炎の爆発が否定した。

 

「アンタの窮地とあっては無視も出来んか」

 

爆炎の中にいたのはリヴェリアが思い描いた少年。記憶の中の彼より少し凛々しい。それもそのはず。一年の時が経っているのだ。一年とはヒューマンにとって外見が少し変わる程度に成長するには充分過ぎる時間だ。

あの黒のローブ。漆黒の長剣。そしてあの炎。本質はまるで変わっていない。間違えるはずがない。

ただ一つ彼女の記憶と明らかに違うのは彼を包む色に逆らうかのように白い髪色のみだった。

 

「リヴィ!!」

「やあリヴェリア、息災かい?」

 

ニヤリと挑戦的に笑うリヴィエール。後ろの魔法部隊からもざわめきが起こる。

 

「彼があの………【暁の剣聖(バーニング・ファイティング・ソードマス)】…「その二つ名で呼ぶなぁ!!剣聖と呼べ剣聖と!!」ごはぁっ!?」

 

嫌いな名前を呼ぼうとした人間を一人蹴り飛ばす。しばらく二つ名について激昂していたが、すぐにモンスターの大群へと向きなおった。

 

「積もる話もあるだろうが取り敢えず後だな。フィン達は?」

「クエスト中だ。直に戻ってくると思うが」

「アイズも一緒か?」

「ああ」

「OK。それまでに片付ける。手伝ってもらうぞ師匠。詠唱の用意をしておけ」

 

それだけ言い残すと再び虫の群れへと飛び込む。同時に捲き起こる大爆発。虫の大群が目に見えてその数を減らしていった。

 

『天を照らすは不滅の光』

 

黒剣を振るいながらリヴィエールも詠唱を始める。戦闘を行いながら魔術を発動させる高等技術。先天的な魔法と剣の才能の二つを併せ持つ者のみが可能とする並行詠唱。この力を持つ者を魔法剣士と呼ぶ。

 

『集え、我に導かれし漆黒の華。尽きぬ炎は愚者を嗤う。黄泉への黒き灯火、邪なる火燐は剣に宿る。咲き誇れ、漆黒の大輪。グローリアの名の下に!!」

 

【燃ゆる大地!!】

 

漆黒の炎が剣の振り下ろしと共に放出される。その威力はまさに燃える大地。今の一撃で約半数は撃退した。

 

討ち漏らした残りをリヴィエールの剣が屠っていく。見る見るうちに虫達は追い詰められる立場へと変わっていった。

 

チラリとリヴィエールが後方を確認すると本隊はすでに態勢を整えており、魔導士部隊の反撃の用意が整っている。流石だ。

 

ーーーーさて、残り半分はリヴェリア達に任せて俺はトンズラさせてもらうーーーーっ!?

 

風が舞い上がる。それと同時に陰る金色。この風をリヴィエールは知っていた。

 

ーーーーくそ、こんなに早く来るんだったら無視してりゃ良かった。

 

しかしもう遅い。此処まで接近されていたならもう自分の炎は見られただろう。ならリヴィエールがいる事に気づくのも時間の問題……

 

と白髪の騎士が思考を巡らせた時には上空から飛翔してきた想像通りの人間が降ってきた。

 

金髪金眼の女神様と見紛う美貌を持つ少女、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

「リヴィエールっ!!」

 

空から【剣姫】が風をまとって飛んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クエスト中に起こった新種のモンスターとの戦闘。それには勝利を収めることが出来た。しかしフィンから告げられたのは本体の危機。仲間を守る為に、金髪金眼の美少女、アイズ・ヴァレンシュタインは疾風となってダンジョンを駆けていた。

 

間にあえ。その一心で、走っていた彼女の心中は支配されていた。

しかし心の中を別の思いが一気に侵略する。

 

遠目から見えた黒い炎。一度燃えれば相手を焼き尽くすまで消えない火。こんな物を扱える人間をアイズは一人しか知らない。

 

ーーーーまさか……まさか…!!

 

これ以上速く走れないという限界の速さで駆けていたにも関わらず、更に速度が少し上がる。今の彼女の心は1年前に消えた彼の存在で埋め尽くされていた。

 

魔法エアリアルを発動させ、炎の発生源に飛翔する。ただ真っ直ぐに、彼のもとに。それだけを願って翔んだ。あと数メドルが信じられないほど長い。

 

それでも距離は詰められていく。ついに心を支配していた予想通りの人物がその姿を見せた。

 

「リヴィエールっ!!」

 

アイズが呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

感極まった声を上げるアイズに気まずそうな表情を返す。しかしそれも一瞬。背中合わせに立った二人はすぐに目の前の敵へと思考を巡らせた。

 

「後ろ、任せるぞ。アイズ」

「任せて、リヴィ」

 

遅れて続々とロキ・ファミリアの精鋭達が駆けつけてくる。ヴェアウルフ、ベート。アマゾネスヒュリテ姉妹。ロキ・ファミリア団長、フィン・ディムナ。

タイマンなら負けはしないだろうが、リヴィエールでさえ出来れば戦いたくない猛者達だ。

 

「リヴィ!」

「わかってる!!」

 

背中合わせでお互いを守りながら戦うリヴィエールとアイズ。

 

「蹴り殺してやるぜクソどもがぁあああああ!!」

「やーい、こっちだーー!!」

 

その光景を見てしまったベートがイライラを虫達にぶつけていた。ティオナは楽しそうに戦っている。

 

そしてティオネは……

 

ーーーーリヴィエールがいたのは驚いたけどさすがの強さ。本陣を守ってくれた事には感謝しなくちゃ。それにひきかえコイツら苛つくわね。しぶといし、武器は溶けるし意外としぶとい………糞狼は黙れ千切り殺すぞ。あーもうとにかくマジで………

 

 

めんどくせえ

 

 

「なぁっ!?」

 

近くに偶然いたリヴィの目には素手でこの芋虫に手を突っ込む彼女が見えてしまった。腐食液を出す彼ら相手に自殺行為にしか見えない攻撃。リヴィエールの反応は至極真っ当だ。

 

「じたばた………してんじゃねえ!!」

 

体から魔石を抉り出す。凄まじいと同時に恐ろしい。腐食液は彼女に少なからず掛かっている。怒りが痛みを忘れさせているのだとしても自分には出来ない戦い方だ。

 

「次はどいつ……「じゃねえ!!相変わらずだなお前も死にてえのか!!」

 

戦いながら頭からエリクサーをぶっ掛ける。完治には至らないだろうがコレで死にはしまい。

 

「リヴィエール!てめえ何しやがる!」

「いーからフィンのとこに行け!ちゃんとした治療してあいつに怒られてこいこのアマゾネス!!」

 

頭に登った血がフィンの名前で一気に落ち着く。こんな戦い方は彼が最も望まないものの一つだ。リヴィエールも、勿論ティオネも知っている。

真っ青な表情で後方へと下がっていった。

 

「まったく、いつか死ぬぞお前ら。こんな戦い方してたらよ」

「死なないよ。誰も死なせない。そのために私がいる」

「ああそうかい!!」

 

また一匹斬り伏せる。数も減ってきた。そろそろ頃合いだろう。

 

「アイズ、ムラクモをやる。合わせろ」

「わかった」

 

アイズの剣、デスペラートに風がまとわれる。そしてリヴィエールの黒刀、『カグツチ』からも漆黒の炎が湧き出た。

 

「エアリアル!」

「アマテラス!」

 

風が炎を纏い、竜巻となる。二本の剣は一箇所に集まっていた虫の群れへと向けられる。

 

『ムラクモ!!』

 

漆黒の炎の竜巻が虫の大群を飲み込む。風が止んだ時、残ったのは焼け野原のみだった。

 

歓声がダンジョンの中を響く。それほどまでに追い詰められた厳しい勝利だった。

 

「なんとか片付いたか」

 

リヴェリアから安堵の呟きが漏れる。ひとまず片はついたが勝利と呼ぶには負傷者も多い。実際リヴィエールが助けてくれなければどうなっていたことか。

素直に喜べはしなかった。

 

「リヴェリア!!」

 

中腹から凄まじい速度で駆けつけたのは脳裏に浮かんでいた青年、再会の喜びが先行し、彼の切羽詰まった表情は見逃してしまった。

 

「ありがとうリヴィ、助か……「礼なんぞ言ってる場合か!!あれ見ろ!!」

 

リヴィエールが指さした先には芋虫達が足されたような六Mほどの大きさの、上半身が人の上体を模しているような人型の巨大なモンスターが現れたのだ。挙句には、爆発する光る粉――爆粉を撒き散らす。

腐食液だけでも厄介だったものが、巨大化し、爆粉をも使うようになったのだ。

 

「なんだ、アレは」

「あんたが知らんもんを俺が知るわけなかろうが」

 

自分より遥かに長い時を生きるハイエルフ。彼女が知らないことなど神を除けばまず誰も知らないと言っていい。

 

これからの行動を思い、息を吐く

 

「とっとと撤退の指示を出せ。乗り掛かった船だ。時間は稼いでやる」

「な!?何を言ってるリヴィ。私達も」

「馬鹿、冷静になれ。今のあんたの部隊でロクに戦えるやつなんざあんた以外いねえだろうが」

 

その言葉にリヴェリアは何も返せない。元々本陣は中堅以下が過半数を占める後方支援部隊。リヴェリアを除けばこの50階層でまともに戦える戦力はいない。しかも負傷者までいる。戦力どころか足手まといだ。

 

「だが……っ!!」

 

爆粉が撒き散らされる。反応の遅れたリヴェリアは食らう覚悟で目を閉じたが、想像した衝撃は全く来ない。目を開けると白髪の剣聖が黒い炎を展開し、リヴェリアを守っていた。

 

「ぼさっとするな【九魔姫(ナイン・ヘル)】!!指示を出せ!副団長!!」

「ーーーーっ!?」

 

滅多に彼から呼ばれない二つ名と地位の名前が叫ばれる。

 

ーーーーこんな時だけ……くそっ、卑怯者め。

 

感情論など言えなくなってしまったではないか。

 

「撤退だ!殿は|暁の剣聖《バーニング・ファイティング・ソードマスター》に任せる!速やかに引け!!」

「その名で呼ぶなっ!!剣聖と呼べ剣聖と!!」

 

うるさい、これくらいの仕返しはさせろ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総員撤退だ」

 

ほぼ同時刻、ロキ・ファミリアの団長も撤退命令を出した。不平の言葉も上がるが団長として聞き入れるわけにはいかない。

 

「月並みな言葉で悪いけど、あのモンスターを始末して最小限の損害に抑える方法は一つしかない」

 

小柄な少年の視線が中腹から戻ってきた金髪の少女に向けられる。

 

「アイズ、あのモンスターを討て。リヴィエールと二人でだ。彼も来ているんだろう?」

「ーーーーっ!?」

「そんなっ!?」

「団長!ご再考を!!」

「二度も言わせるな、リヴィエールはきっともう戦っているぞ。急げ」

 

小柄な少年とは思えない……いや、実際違うのだが、威圧のある言葉に全員が押し黙る。その頃にはアイズは既にモンスターへと走っていた。

 

「大丈夫だから」

 

この一言だけを残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だぁああ!くそっ!?とんだとばっちりだ!ココまでしてやるつもりなかったのに!!」

 

リヴェリア達の部隊を爆粉から守るために囮役を買って出る事になってしまった。黒炎は彼らに使ってしまっている。今は常に高速移動をする事でなんとか対応していた。

 

ーーーーチッ!この粉で広範囲攻撃やられたら俺の炎じゃ守りきれん。なら!

 

一気に懐にまで潜り込む。リスク上等、燃える男のインファイト。リヴィエールが選んだ戦術はコレだった。

 

「焼き切れろ!!」

 

一閃。敵の腕部に一撃を入れる。しかし薄皮一枚を焼くのみで斬れはしなかった。感心したように口笛を吹く。

 

「硬いな。面白い!」

 

驚くと同時に安堵する。これほどの硬さを誇るならうっかり殺しちゃう危険はゼロに近い。舞い散る爆粉が己を焼く前にリヴィエールは漆黒の炎で粉を燃やし切る。常に自分の周囲に炎を展開させることで爆粉への完璧な対策を行っていた。

 

そして爆発に紛れて金色の風が舞い踊る。

 

ーーーー来たか……流石だ。

 

舌をまく。アイズにではない。フィン・ディムナにだ。彼の立場なら自分でもこのカードを切る。実際に戦っていないにも関わらず、彼はこのモンスターの天敵を見抜いたのだ。

 

「リヴィ!」

「撤退状況は!」

「信号弾が上がる!」

「オーライ!時間稼ぐぞ。エアリアルを展開しろ!」

「うん!!」

 

風が舞い踊る。リヴィエールの炎以外にこの粉に対処できるものがあるとしたらそれは間違いなく彼女の風だ。吹きすさぶエアリアルは粉も、腐食液も、溶解液も全てを吹き飛ばす。

 

嵐のような乱撃を二人でお互いをカバーしながら防ぎきる。全ての脅威がエアリアルとアマテラスで防げると証明された今、此方から倒そうとしない限りこの攻防は幾らでも続けられる。二人にはその確信があった。

 

乱撃の中で上がった撤退完了の信号弾。目標撃破の許可。

 

「アイズ!貫くぞ!」

 

リヴィエールは黒炎の煙幕を展開した。

その意味を正しく理解したアイズは煙を利用して接近。リヴィエールも跳躍する。

 

完璧なフォローの中、アイズは想う。

 

ーーーー強くなりたい

 

大事な人達を守れるように。

二度と失くさないために。

そして……悲願のために。

『彼』のように……。

私はどこまでだって強くなる――

 

 

『アイズ、一つ秘伝を教えてやろう』

 

幼い彼が昔、得意げに語ってくれたこと。それは今もアイズの中で大切な教えとして秘められている。

 

『必殺技ってのはな、叫ぶと威力が上がるのだ!』

 

 

「エアリアル………」

 

最大出力!!

 

豪風の中、アイズの背中に手が添えられる。

 

「今度は俺が合わせる。飛べ」

「………うん!」

 

背中から掛かる誰よりも頼もしい声。既に炎を展開しており、発射台の準備は完璧に出来ている。

 

「リル・ラファーガ」

「インドラの矢」

 

弓状に展開された黒炎の蔓がアイズを乗せて引きしぼり、放たれる。同時に加速する金色の風。

 

刹那、100メートル以上離れた相手にモンスターは全力の防御態勢を取る。この反応速度はモンスターならではといえる。

しかし……

 

爆炎により加速した閃光は止められない。

 

爆風と同時にモンスターに風穴が開く。倒された証と言わんばかりに、体液が飛び散った。

 

一筋の閃光となって貫いたアイズは上空から落下してくる。想像以上の加速にバランスを失っていたアイズは態勢を整えられないまま重力に逆らえず落下していった。

 

ーーーーっ!?

 

来る衝撃に備え、ぐっと身構え、目を閉じる。

だが、感じたのは衝撃ではなく、温かな抱擁。

ダンジョンの地面はこんなにも心地いいものなのかと、考えてしまう。

 

「……お前も相変わらずだな、詰めが甘い」

 

耳元から聞こえた声にハッと目を開いた。

目に飛び込んで来たのは白。次に見えたのは風に翻る黒。

そして黒い瞳が自分を見つめた。

 

「……大丈夫か?」

「……」

 

その言葉にアイズは返事をする事が出来なかった。ただただ、目の前の白い彼を見つめていた。昔、父が言っていたことが脳裏に蘇る。

 

ーーーーいつかお前だけの英雄に会えるといいな。

 

「!」

 

 トンと地面に着地した振動で、我に帰る。

そこで気付いた。白い彼に抱き抱えられていたという事に。

先ほどまでそれどころではなかった為、彼の存在を確かめる事が出来なかった。夢か現か確認するすべがなかった。しかし今、戦いが終わり、目の前に憧れた英雄が立っている。

 

「リヴィ」

「見事だった、アイズ。強くなったな」

「っ………」

 

その言葉を聞いて何度も何度も首を横に振る。彼を守れなかった自分にはその言葉は相応しくない。

 

「ーーーーあっ」

 

地面に下ろす。その声には寂しさが混ざっていた。

 

「…………帰ろうぜ」

「うん。リヴィも一緒に行こう、ね?」

「チッ」

 

本隊が撤退していった方向へ二人は歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイズ!!」

「アイズさん!!」

 

後方から聞こえた爆発音に誰もが不安の声を上げる。

その中で唇を真一文字に結び、信じるエルフがいた。

 

ーーーー大丈夫……アイズさんとリヴィエールさんなら……きっと

 

出来ることならあの場に残って一緒に戦いたかった。けれど今の自分の弱さではそれは出来なかった。

 

ーーーーだからせめて信じて待つって決めたんだ!

 

あの人達はどこまでも強い二人だから………追いつきたくても追いつけない。

 

風が彼女に吹き付けられる。同時に感じる熱。この力強く、優しい風と炎をエルフの少女は知っていた。

 

ーーーー私の誰より憧れる…

 

 

アイズ・ヴァレンシュタインとリヴィエール・グローリアなんだから!!

 

 

森の中から軽い傷をあちこちに負った二人が現れる。男はやれやれと言わんばかりに乱れた白髪を掻き、少女は決して逃さないように男のローブを指でちょこんと掴んでいた。

 

二人の姿を見た途端、安心したように駆け寄ってくる仲間達。

 

真っ先にティオナがアイズに抱きつき、レフィーヤが続く。皆が仲間の帰還を喜んだ。

 

その光景を見てリヴィエールは笑みが零れると同時に、懐かしさと後悔が胸に去来する。

 

自分が以前所属していた太陽神ルグ・ファミリア。自分と主神のみの最小限の構成だったにもかかわらず、その成長速度はまさに日の出のごとき勢い。オラリオでは暁のファミリアと呼ばれ、その名は知れ渡っていた。

最前線に潜っていたリヴィエールはロキのところと幾度となくぶつかった事がある。また今回のように組んだ事も。

 

だからこの光景は何度も見てきた。彼らはあの頃と何ら変わっていない。しかし自分は何もかも失ってしまった。

 

 

リヴィ、私を殺して

 

 

1年前、前主神と交わした最後の言葉。激昂のまま、彼女を斬ったところで彼の記憶は途切れている。

 

ーーーールグを斬った俺なんかがここに居る資格はない

 

自嘲するように笑うとそのままこの場を去ろうとする。

 

しかし、そんな彼をアイズは見逃さなかった。ローブを再び掴む。

 

「あー!リヴィエール!どこ行くつもりなのよー!久しぶりに会えたんだから少しはゆっくり話そうよー!」

「お、おい、ティオナ…」

 

褐色の肌の身軽なアマゾネスが動きを止めたリヴィエールに飛びかかる。すると見知った顔がぞろぞろとこちらに集まってくる。

 

「良く生きていてくれた、リヴィエール。嬉しいよ、友として再会を祝福させてくれ」

 

金髪の少年が握手を求める。

 

ーーーーフィン……

 

「………ケッ。まあてめえがそんな簡単にくたばるとは思ってなかったけどよ」

 

顔を背けつつも、声音と態度に喜びを交えるヴェアウルフ。

 

ーーーーベート……

 

「その、さっきはありがと……リヴィエール」

 

ただでさえ薄着のアマゾネスが腐食液のせいでほぼ裸のような格好の豊満な肢体を持つもう一人のアマゾネス。

 

ーーーーティオネ……

 

「ご、ご無事で何よりでした!リヴィエールさん!」

 

少し自分に自信のない、勤勉かつ誠実なエルフ。

 

ーーーーレフィーヤ。

 

「リヴィ…」

 

手を差し出してくる金髪金眼の美少女。

 

ーーーー…………アイズ

 

「おかえり、リヴィ」

 

その言葉を発したアイズの姿に前主神の姿がダブる。声も髪色も、何もかも違うのに、その言葉を発した時の二人の表情が驚くほど似ていた。

 

『ほら、待っていますよ』

 

そんな声と共にトン、と背中を誰かに押される。一歩前に出ながら振り返るが後ろには誰もいない。

 

ーーーールグ……

 

声の主の名前を心中で呼ぶ。もちろん返事はない。しかし、心の中の彼女は笑ってくれた気がした。

 

「…………ああ、ただいま、皆」

 

まだ何も吹っ切れてはいないけど……それでも許されるなら、俺ももう逃げるのはやめよう。そう決意し、今度は自分の意思で一歩を踏み出す。アマゾネス姉妹を筆頭とした手荒い歓迎が彼を迎えた。

 

リヴィ、笑って

 

ルグの声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

地下50層にてロキ・ファミリア及びリヴィエール・グローリア、ダンジョン遠征を終了。この時点より帰還行動に移った。

 

 

 




後書きです。なんか思いついたので息抜きで書いてみました。連載するかは反響次第です。よろしくお願いします。



ちなみに主人公、プロフィールです

リヴィエール・ウルス・グローリア
Lv.6。二つ名【暁の剣聖(バーニングファイティングソードマスター)】もしくは【剣聖】
力:S 914 耐久:A 820 器用:S 958 敏捷:S 999 魔力:S 912
発展アビリティ:狩人:B 調合:F 剣士:S 精癒:I 魔導: A
《魔法》
【アマテラス】
 ・黒炎を生み出す事が出来る。一度燃えたら焼き尽くすまで決して消えない
【ノワール・レア・ラーヴァテイン】
【ウィン・フィンブルヴェトル】
【ヴェール・ブレス】
【モユルダイチ】

 《スキル》
7つ目の感覚(セブン・センス)
 ・第六感を含めたすべての感覚が研ぎ澄まされ、未来予知に近い超感覚を発揮する
 ・状況を問わず効果持続。
【王の理不尽】
効果と詠唱を把握する事でエルフの魔法全てを発現できる


ハイエルフと人間のハーフ。面倒を避けるため、ミドルネームは隠している。見た目は完全に人間のため、パッと見ではわからないが、魔力はエルフ、外見は人間という二種族の長所のみが出ているハーフエルフ。リヴェリアとリヴィエールの母親は従姉妹の関係に当たる。魔法の訓練に当たって、リヴェリアに弟子入りした時に発覚。この事はリヴェリアのみが知る秘密






とまあこんな感じですね。名前をリヴェリアに少し似せていたのはこういう理由があったのでした。それでは次があるかどうかわかりませんが、感想、評価よろしくお願いします。面白かったの一言でも頂ければ幸いです。


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