その二つ名で呼ばないで!   作:フクブチョー

18 / 60
Myth15 昔の事は言わないで!

 

 

 

 

 

乾杯を交わした後、リヴィエールとベルの会話は比較的弾んだ。ベルはまだ冒険者になって半月である事やヘスティアとの出会いはファミリアの入団を散々跳ねられまくった後に拾ってもらった事など、ほぼベルが語り続け、リヴィエールは聞き役に徹していた。時々、冒険者としての自身の経験に照らし合わせた話やアドバイス、そして…

 

「リヴィエールさんは…」

「ウルスだ」

 

時々このような訂正を入れる程度。すみませんと謝ると、続けた。

 

「ウルスさんは、恋人とかいるんですか?」

 

目をキラキラさせながらそんな事を聞いてくる。白髪の剣聖が語る話はどれもまるでお伽話を聞いているような、ワクワクする話ばかりだった。そしてそのどれもが間違いなく彼が上級冒険者である事を示している。剣聖の事は一般に公開されている範囲でエイナにも聞いていた。今でも冒険者にその名を知らない者はいない。寧ろルグ・ファミリアが消滅する以前にオラリオに住んでいるなら彼の事を知らないものなどいないのではないだろうか。

そんな憧れた最高クラスの冒険者が目の前にいるのだ。ベルにとって最も彼に聞いてみたい質問だった。

 

「…………いねえよ」

 

迷ったが、そう答える事にする。新米にヘタにダンジョンに夢をもたせてはいけない。ちょっとした迂闊な一歩で死んだ奴を何人も見てきた。

 

「えー!ヴァレンシュタインさんとは違うんですか?あんなにお似合いだったのに!」

「ちが「違いますよ?」

 

否定しようとしたリヴィエールの言葉が女性の声で掻き消される。決して大声ではないにも関わらず、重く二人の耳に響いた。

 

「ウルスさんは今、誰ともお付き合いなされてませんから。ねぇ?」

 

いつの間にか隣に座っていた鈍色髪の少女がニッコリと笑顔を向けてくる。ああ、と返すのが精一杯だった。振り返る事は怖くてできない。

 

「で、でも、絶対にただならぬ関係ってエイナさんが……」

「違いますよ。本人がそう言ってるんですから」

「…………ハイ」

 

それ以外ベルには言えなかった。そしてリヴィエールも否定はしない。その事に関しては事実だ。

 

「でもウルスさんもそろそろ特定の人と関係を作ってもいいんじゃありませんか?例えば酒場で健気に働く裏表のない可愛い町娘とか」

「そんな知り合い俺にはいねえ」

「またまたぁ、手の届くところにいますよ?ほら」

 

擦り寄ってくるシルをあしらう白髪の美男子を深紅の瞳の少年が尊敬の眼差しで見つめる。自分の夢の体現者の姿を彼に見た。

 

苦笑するリヴィエールの顔つきが急に変わる。次の瞬間、どっと十数人規模の団体が酒場に入店してきた。

その団体――ファミリアの主神を筆頭に小人族、アマゾネス、狼人、エルフ、ドワーフ、ヒューマン、エトセトラ。

様々な他種族が同時に来店し、案内された席へと歩いていく。

考えるよりも先に身体が勝手に動いていた。リヴィエールはカウンター席の裏に隠れる。完全に気配も絶った。目の前にいる彼の姿がベルは薄くなったようにさえ感じた。

 

「…………何やってるんですか?」

「話しかけるな。今の俺は世界の一部で世界はお前の一部だ」

「…………よくわかりませんけどわかりました」

 

小声で声をかけてきたシルに対し、人差し指を立てながら小声で返す。

 

気配を絶ったまま、刀を取り出し、その刀身に映る反射で団体客を見る。先頭に立つ赤髪の女神、それに続くドワーフや小人族。そして……天使と見まごう美しさを持つ金髪の少女。

 

もうわかるだろう。ロキ・ファミリアだ。

 

ーーーー何であいつらが此処に!?

 

1年前なら、リヴィエールはこの店で彼女らが宴会することに疑問は持たなかった。

豊穣の女主人はかつてロキ・ファミリアが祝宴の場としてよく使っていたお気に入りの店。しかしこの一年、ロキ達はこの店を一切使っていなかった。

理由はもちろんかつて黒髪だった剣聖。何かと行動を共にすることが多かった彼は昔、よくルグに引っ張られてロキ達の打ち上げにこの店で参加させられていたのだ。

しかし、黒髪の剣士が行方不明となってからは此処は使わなくなった。ココで宴会などをすると、ルグやリヴィの事を思い出さずにはいられないからだ。それはロキにとっても辛いことだったが、それ以上にアイズやリヴェリアにとって辛いことだった。

どれほどの祝いの場であろうと、彼のことがよぎる度に二人は沈み込む。そんな姿を見たくないロキは1年前からずっと祝宴の場は此処以外で行っていた。そして理由までは知らなかったが、ロキ・ファミリアが此処に来なくなった事は、店の二階をねぐらにしている白髪となった剣士は知っていた。

 

ーーーーそれがなんでいきなり此処で……くそっ、打ち上げの場所くらい聞いておくんだった。

 

刀ごしに彼らを見ていると一人の女性が視界に入る。その人物は緑色の髪を束ねたハイエルフ。誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡している。その姿を見て、彼らがこの店に来た理由の全貌を察した。

 

ーーーーあいつ……バラしやがったな

 

コレは事実とは少し異なる。確かに彼女には自分の潜伏先を教えていた。しかしリヴェリアはその事を誰にも話していない。

リヴェリアはただ、打ち上げの場所を豊穣の女主人にしようと提案しただけなのだ。

 

急な提案にロキも若干戸惑ったが、リヴィエールが生きていた今、あの店で祝杯を挙げる事に抵抗を感じる子供達はいない。もともと行きつけの酒場だったのだ。この提案を却下する理由はロキにはなかった。

 

周囲の客も彼らがロキ・ファミリアだということに気付いたらしい。これまでとは異なった色のざわめきが広がる。

 

「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん!今日は宴や!飲めぇ!!」

 

主神ロキの音頭の後に、一斉にジョッキをぶつける音が聞こえる。匍匐前進でなんとか店の裏の廊下へと回りこむ事に成功した。ここなら一般客はまず入ってこれない。ひとまずは安心だ。持ってきたピザを口にしながら、さてはてどうするかと考える。

逃げるにしても位置が悪い。正面の出入り口を通ればまず気づかれる。裏口からなら恐らく逃げられるが、それはできない。まだ支払いを済ませていないのに完全に店から出る事となってしまう。とゆーか逃げるという行為自体気に入らない。あいつらにはこの二週間でもう一生分気を使った。これ以上煩わされたくない。

こうなったら堂々と無視するか、とも考えたが、却下する。一度、誘いを断った手前、もし居ることがバレればあの女神に何をされるか…考えただけでメンドくさい。

 

「団長、つぎます。どうぞ」

「ああ、ありがとう、ティオネ。さっきから、僕は尋常じゃないペースでお酒を飲まされているんだけど、酔い潰した後、僕をどうするつもりだい?」

「ふふ、他意なんてありません。さっ、もう一杯」

「本当にぶれねえな、この女……」

「ガレスー!うちと飲み比べで勝負やー!」

「ふんっ、いいじゃろう。返り討ちにしてやるわい」

「ちなみに勝った方はリヴェリアのおっぱいを自由に出来る権利付きやァッ!」

「じっ、自分もやるっす!?」

「俺もおおお!」

「俺もだ!!」

「私もっ!」

「ヒック。あ、じゃあ、僕も」

「団長ーっ!?」

「リ、リヴェリア様……」

「言わせておけ……少し外す」

 

盛り上がっていく彼らの声を聞きながら笑みが漏れる。変わらない、奴らの喧騒。昔はあの輪の中に自分もいたのだ。

 

ーーーーやいバーニング・ファイティング・ソードマスター!飲め!ウチの酒が飲めへんやつにアイズたんはやらへんでぇ!

ーーーーアイズうんぬんはどうでもいいがその名で呼びやがったなこのウォール・ロッキー!返り討ちにしてやるから掛かってきやがれ!

ーーーーそうれすよ!リヴィはわらしがまもります!岸壁ロッキー、リヴィに手を出したくばわらしを超えてかられす!

 

ルグとロキが飲み比べで戦い、どちらが勝っても負けてもベロンベロンになって眷属に甘え始める。

 

ーーーーリヴィ〜、のんれますか〜

ーーーーそれなりにな……ってうわ、抱きつくなよこんな所で。

ーーーーリリィ〜♡チューしましょ〜、チュー

ーーーーやだよ……ほらベタベタするな。

ーーーーちっちゃい頃してくれたじゃないれすか〜。ホラ、ン〜〜♡

ーーーーちょ、やめろってマジで。うわ、酒くさ……

ーーーーエヘヘ、リリ可愛い〜〜。食べちゃいたい。がぶ

ーーーーげっ、マジで噛んできやがった。ちょ、ほっぺた吸うなって………こらアイズ!お前もマネすんな!てお前まさか飲んで……り、リヴェリアこいつら何とかシロォ!…

ーーーーお姉ちゃんと呼ぶなら助けてやろう

ーーーーあぁ!?何たわけたこと言ってんだテメエ、歳考えてモノを…

ーーーーもう辛抱たまりません!むっちゅぅ〜〜♡

ーーーーリヴィ、首のところ、柔らかい………美味しそう。あむ

ーーーーお前ら、ちょ、なにする、やめ、リ、リヴェリア助けろぉ!

ーーーー…………(無視)

ーーーーた、たしゅけてお姉ちゃん!犯され……アッーーー!?

 

懐かしい声が脳裏に蘇る。

毎回馬鹿みたいに酔い潰れて、酒臭い顔を近付けて抱き着いてきた主神。

やめろだのなんだの言いつつも、柔らかく、暖かな感触が嬉しくて、引き剥がす事なんて出来なくて……

楽しかった。幸せだった。

 

ーーーー未練だ……なぁ

 

割り切ったはずの過去。事実、半月前までは割り切れていた思い出達。それなのにあの時、ダンジョンで再会を果たした時以来、自分はずっと迷っていた。関わらない方がいい。わかっているのに、あいつらと行動を共にし、あんなデートごっこまでしてしまった。事ここまで来たら、もう認めざるを得ない。

 

ーーーーやっぱり俺は、あいつらが大事なんだ…

 

失いたくない。守りたい。無条件でそう思える程度には、確実に。過去の存在と割り切れない程度には、絶対に。

 

ーーーーなんで、また出会っちまったんだろうな……俺たちは。

 

あいつらに会わなければ……リヴェリアが再会を喜んでくれなければ……

 

アイズにさえ会わなければ…

 

ーーーー俺もまだもう少し、割り切れたかもしれないのに

 

割り切るには、夢だと捨てるには、あの思い出は美しすぎた。少しずつ、軽い足音が近づいてくる。気配を断つ事はもうしていない。足音から来客の予想はついた。

 

「やあ、リヴィ。ごきげんいかがかな?」

「…………最悪だよ、リヴェリア」

 

緑髪のハイエルフが裏口へとつながる廊下で膝を抱えて座る。先ほどミアとなにやら話していたのには気づいていた。近づいてきている事も。

ロキやアイズ、その他団体がきていたら恐らく逃げていたが、リヴェリアなら良いかと思えた。どうせここにいることは話している。彼女には見つかるのも遅かれ早かれだったろう。

 

「今は二人きりだろう。リーアと呼んでくれ」

「どこが二人きりなんだよ……二、三歩歩けば人だらけじゃねえか」

「そう怒るな。悪かったとは思っている」

 

むくれてる顔も可愛いがな、と心中で呟く。リヴィの頬を人差し指でつついた。苛立ちが一気に膨れ上がる。もし相手がリヴェリアでなければ指を3分割に切り刻んでいたところだ。指を払う。

 

「そっけないな。私をお姉ちゃんと呼んで、一緒に眠った可愛いお前はどこに行った」

「……チッ」

「懐かしいな、憶えているか?ネヴェドの森の事を。昔の夢を見たお前が汗だくになって目覚めた時に、私の胸の中でお前が…」

「………死ね」

 

真っ赤になって顔を膝の中に埋める。何年も前の本人さえ忘れかけていた超マイナー情報をよく憶えているものだ。やっぱりこいつ、好きだけど大嫌いだ。

リヴェリアはご満悦の様子で弟分の肩に頭を乗せている。今まで疎遠となっていた反動なのか、ベタベタしっ放しだ。

 

「…………リヴェリア、いい加減離れろ」

「なんだ、良いだろう少しくらい」

「良くねぇよ」

 

お前達といるのは、怖い。守る強さも、失う覚悟も今の俺にはないから。

 

そんな思いに気づいているのか、いないのか、緑髪のハイエルフは笑いながら口を開いた。

 

「いいんだよ、こうするのも久しぶりなんだから」

「………………」

「こうしたかったよ、リヴィ。一年間、ずっと。もうこんな事が出来る相手、私にはお前しかいないから」

 

言っている意味は痛いほどわかる。強くなって、名を上げて、仲間を引っ張る立場となった彼女は他人に甘えるという事ができなくなってしまった。それはかつての剣聖も同じだった。

 

「リヴィ。お前の覚悟も、葛藤もわかる。強くあろうとする誇りも。だが私にだけは強がるな。私ももうお前にだけは偽りなんて纏わない。だからせめてその目で、ありのままを感じ取ってくれ」

 

お前は私のかけがえのない家族で、愛していた人の忘れ形見で、そして自分が愛している大切な人なのだ。

添えられた手からそんな言葉が伝わってくる。

 

彼の肩に頭を預け、グラスを満たす桃色の液体を口に運ぶ。修行の日々を森で共に過ごしたあの頃は二人の上背は同じくらいであったが、今は完全にリヴィエールが上回っている。彼の逞しさが寄りかかった肩から伝わった。

 

「…………バラしたのか?」

 

話題をそらすために、まずないだろうとは思いつつも尋ねる。もしそうならロキやアイズ辺りも自分を探したはずだ。それなのにこうして会いに来たのはリヴェリアただ一人。騒ぐことも、アイズやロキにチクる事もなく、ただ隣に座るのみ。自分以外、リヴィエールの居場所を知らない何よりの証拠だ。

 

「まさか、打ち上げは此処でやろうと提案はしたが、お前の事は一言も出していない」

「なら良い」

 

口にエールを運ぶ。いつもより苦く感じるのは何故だろうか。

 

「こないのか?」

「行ったら確実にメンドくせーだろ。絶対ゴメンだ」

 

それはリヴェリアも否定しない。酔っ払ったロキやベートほど面倒くさい相手もいない。

 

「…………何怒ってんだよ」

 

今度はリヴェリアが不機嫌そうに眉を顰めた。苛立ちが伝わる。

 

「なんでもない」

「あっそ」

 

言いたくないなら無理に聞く気はない。素っ気なく答えたリヴィはエールを口に運ぶ。いや、正確には運びかけた。頭に衝撃が来る。平手で叩かれた感覚だ。

 

「女のなんでもないをそのまま受け取るやつがあるか」

「…………」

 

ーーーーめんどくせえぇえ!!偽り纏わねえんじゃなかったのかよ!

 

喉元まで出かけたが、何とか飲み込む。偽りと女心の複雑さは別らしい。口に出すと更に面倒くさくなる事を彼は身を以て知っている。

 

「どうしたんだよ…」

「…………さっきの会話聞いてたんだろう」

 

聞いてもわからなかった。首をかしげる。眉の不機嫌のシワが更に深く刻まれる。諦めたように息を吐いた。

 

「先ほど、ロキが言っていた飲み比べの事だ」

「…………あぁ」

 

ようやく思い当たる。確か賞品がリヴェリアの胸とか言っていた。

 

「俺が参加しても同じことだろう」

「しかしこのままでは私の胸が誰かに蹂躙されてしまいかねん」

「別にどうでもいい」

 

涼しい顔で出た言葉が本心である事にリヴェリアは気づいた。癪にさわる。彼とその母親以外に……異性で言えば彼以外に触らせた事のない、触らせたくもないというのに、この愛しい弟分はどうでもいいと言わんばかりの態度ではないか。

 

「どうせいつもの茶番だろーが。出来ねえ事は連中もわかってるだろ。悲しいねえ、男という生き物は」

 

わかっていても、ゼロではない可能性に飛び込まずにはいられないのだ。ましてその褒賞はこの世界で二番目に美しいハイエルフ。挑む価値は充分にある。

 

言い分に一応の納得を見せたからか、不機嫌そうにしながらも文句は言わない。持ってきていたジョッキをぶつけてきた。

その中身に酒が入っているのを見て驚く。基本的に彼女は酒を飲まない。精神に影響を与える飲み物をハイエルフは好まないのだ。その傾向はリヴィエールにもある。全く飲まないというわけではないし、アルコールに弱いというわけでもないが、好んで飲みたいとは彼も思っていない。

 

「お前と飲める時を1年待ったんだ。アレに参加しろとは言わんが、少し付き合え。私のリヴィ」

 

口の中に酒を含む。頬に手を添え、僅かに身を乗り出し、目を閉じた。意図を察したリヴィエールは苦笑を漏らす。この手の事に究極に奥手な彼女がこんな事を思いつくとは思えない。一体誰にこんなのを教わったのか。教わった所を想像すると愉快だった。

 

「…………仰せのままに、俺のリーア」

 

自分も口に酒を含み、顔を近づけ、体を傾けた。

 

「ん……こくっ」

「ちゅ……レロ」

 

一年以上の時を経て、交わされる二人の口づけ。口の中の酒をお互い飲ませ合う。舌を絡め、唾液を交換する、この世で最も官能的な乾杯。リヴェリアは両手を首の後ろに回し、彼を抱きしめ、リヴィエールも華奢な腰を抱きかかえた。

 

「…っはぁ………リヴィ、もう一度」

「ん……」

 

口に酒を含み、先ほどと同じように酌み交わす。二人の口元から酒精の混ざった唾液が垂れた。

 

「もう一回…」

 

この官能的な乾杯はジョッキの中の酒がなくなるまで行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……あの、アイズさん!」

 

意を決したような、男の声が酒場に響く。酌み交わす酒がなくなったからか、その声は奥に隠れる二人のハイエルフの耳にも届いた。

 

「オ……僕達と一献!していただけませんか!?」

 

その一言に二人とも青ざめる。そしてリヴィエールは若干羞恥で赤くなった。思い出したのだ。

 

「え……えと……私は」

「どうか一杯だけ!」

 

下っ端の団員達が宴会の浮かれた空気に乗っかり、ここぞとばかりにアイズに酒を勧めている。あわよくばお近づきになろうという腹なのだろう

 

「(おいリーア!あいつら止めて来い!アイズに酒はダメ!絶対!)」

 

少し不満そうな顔をしつつも、緑髪の保護者は立ち上がる。彼との二人きりをもう少し堪能したかったが、アイズが飲む事の大変さも自分は知っている。連中を止めた後、また来ればいいと思い直した。宴会に戻り、彼らをリヴェリアが止めたのを確認したところで、ようやく安堵の息をついた。

 

「……あれ、アイズさん、お酒は飲めないんでしたっけ?」

「アイズにお酒を飲ませると面倒なんだよ。ねー?」

「……」

「えっ、どういうことですか?」

「下戸っていうか、悪酔いなんて目じゃないっていうか……ロキが殺されかけたっていうか、リヴィエールが犯されかけたっていうか」

「ティオナ、その話は……」

「あははっ!アイズ真っ赤ー!かっわいいー!」

 

金と白の剣士は異なる場所で同じように顔を赤くする。事実であるがゆえに本人も強く否定することが出来ない。

 

ーーーーアレは本当に食い千切られるかと思った……

 

無意識に首をさする。もう今ではすっかり消えてしまってはいるが、その時付けられた歯型は一週間ほど消えなかった。リヴィエールが髪を肩近くまで伸ばすようになった一因でもある。

 

ーーーーあ……

 

ようやく一人に戻ったからか、ふと、我に帰る。これほど物事に動揺したり、一喜一憂したのはいつ以来だろう。ただ、一人で冒険者をしていた頃にはありえなかったことだ。

 

ーーーー過去に……触れたからか。

 

決別したはずの記憶。もう2度と元には戻らないあの輝かしい思い出。失われて久しい、夢のような時間。

確かにもう同じ時は2度と来ない。あの時共にいたルグはいないのだから……

 

ーーーーけど、それでも……

 

失われていないものもあった。1年前と変わらないアイズ。まだ自分を愛してくれているリヴェリア。悪友であり続けてくれたロキ。全てリヴィエールにとって大切な人達ばかりだ。

 

ーーーーもう一度、あの記憶(ゆめ)を取り戻したいとは……まだ思えないけど……それでも。

 

それでも、今だけは、心地よいあの夢の中に……

 

目を閉じる。依然として、黒い炎は自分の中にある。それは感じ取れたけど、今だけはその炎は見えなかった。

 

 

 

 

 

 

似たような思いは金髪の少女にもあった。酒の席で仲間達の騒ぎを見ながら、今日1日のことを思い返す。

昔のようにまたリヴィエールと街を歩き、デートごっこをして、今は仲間達とこうして楽しい時を過ごしている。楽しかったと、いい日だったと心から思っている。こんな時を毎日過ごせたらと本気で望んでいる。

 

ーーーー不思議……

 

1年前から全く考えていなかったことが自然と浮かび上がることが不思議だった。必要なことは強くなること、強くなれる環境。それだけだった。そしてそれは今も変わっていない。彼の隣に立つ為に。今度こそ彼を守る為に。求めている事は強くなることだけだ。

それなのに、今はこんな日々が続いてくれれば、と思っている。此処に彼がいてくれれば、と求めている。

 

ーーーーダンジョンにいない時間が……

 

続いて欲しいと金髪の少女は願う。

 

ーーーー黒い炎を思わなくていい時間が……

 

あってもいいと白髪の少年は想う。

 

ーーーーリヴィと……

ーーーーあいつらと……

 

一緒にいたい。

 

よく似た二人が、同じ事を想い、二人の頑なな氷が溶けかけ始めた、その時だった。

 

「そうだ、アイズ!お前のあの話を聞かせてやれよ!」

 

酔いを声音にたっぷりと含ませた、人を馬鹿にする下品な音が、再び二人を闇に閉じ込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後書きです。中々話が進まない。ちなみに私はかつて女性のなんでもないを間に受けてそれはもう変な空気になったことがあります。ちなみに女性がめんどくさいと思う時ベストスリー

1.女のなんでもないは大抵なんでもなくない時

2.喧嘩すると絶対関係ない話を持ってくる時

3.答えの分かってる質問をしてくる時

です。三番目は私太った?とか聞いてくる時です。言えるわけねーだろと思います。
番外編ですが、おそらくリヴェリア、リュー・ストーリーは書くと思います。順序はまだ迷っていますし、アンケートもまだ継続中ですのでよろしくお願いします。励みになりますので、感想、評価よろしくお願いします。面白かったの一言でも頂ければ幸いです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。