その二つ名で呼ばないで!   作:フクブチョー

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Myth12 恥ずかしいと言わないで!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、今後アミッドと顔合わせづらいなー……」

「やり過ぎだぞ、ティオネ」

 

ロキ・ファミリアの要件が終わり、報酬の万能薬と凄まじい金品を抱えながらディアンケヒト・ファミリアから出てきたリヴィエール達は、メインストリートを歩いていた。帰路へと向かう中、アマゾネスの妹は先ほどの恐喝まがいの交渉を思い出して息を吐き、白髪の美剣士は整った眉を顰めていた。

 

「これくらいもらっておかないと割に合わないわよ。アミッドだってわかってるわ」

「アミッドさんの知らないところで、また厄介な冒険者依頼がくるかもしれませんね……」

「無いとは言えない推測だな」

「う゛っ……」

 

どうやら今後の事まで考えが及んでいなかったらしい。確かに今レフィーヤが話したifは大いにあり得る可能性だ。流石に良くなかったという自負が生まれたのか、褐色の肌に後悔の汗がにじむ。

 

「…………まあお前ら相手に無理難題ふっかけたら痛い目見る事は連中も分かったはずだ。そこまで無茶な事はしねーだろうさ」

 

多少は反省した事がわかったからか、リヴィエールは今度はティオネのフォローに移る。その一理ある言い分に、ティオネはホッとした表情を見せた。

 

「と、とにかくさっさとホームに報酬置いて、今度はリヴィエールの換金に行くわよ。いつまでも持ち歩いているのは流石に怖いし」

 

今彼女たちが持っている金品の合計は価値にして3000万ヴァリスを越える。ならず者が集団で襲いかかってきても何ら不思議で無い数字。ロキ・ファミリアの中でも手練れの四人、そしてオラリオ最強と呼んで差し支えないリヴィエールがいるとはいえ、外をうろつくには確かに危険だ。

 

「……ティオネ、ごめん、武器の整備に行ってもいい?」

「あ、【ゴブニュ・ファミリア】のところ?あたしも行くー!大双刃(ウルガ)壊れちゃったし!」

 

遠慮がちにアイズが訊ねる。今回の遠征で武器を失ったティオナもその提案に同意した。

 

「しょうがないわね。私とレフィーヤはホームに荷物を置いてくるわ。余計な面倒も起こしたくないし。リヴィエールはどうする?」

「そうだな、俺はーーー」

「アイズと一緒ね。わかったわ」

 

問答無用でアイズとの同行を確定させられる。

 

『じゃあ聞くなよ!』

 

男が女の買い物に付き合わされた時に思う事ベストスリーに入る言葉が喉元まで出かけたがなんとか飲み込む。今日1日、今日1日の我慢となんとか言い聞かせた。

 

「じゃあ、ゴブニュ・ファミリアでの用件を済ませた後、ドロップアイテムの交渉ね。行くわよ、レフィーヤ」

「あ、はい。アイズさん、ティオナさん、また後で」

「あ、おい!ちょっと待て!万能薬三つ置いて行け!俺の報酬だろーが!」

「チッ、覚えてたか」

「ったりめーだ!!」

 

万能薬を携えるティオネから三つ分エリクサーを受け取る。全く油断も隙もない。

 

「ごめん、リヴィ……付き合わせちゃって」

「ああ、いーよ別に。今日1日は付き合うって言ったの俺だしな」

 

ーーーーそれに、一応ゴブニュに聞いておきたい事もあるからな…

 

気にするなという意味を込めてポンポンと頭を叩く。真っ赤になって俯くアイズを見て、少し驚く。1年前と同じ妹扱いで頭を撫でてしまったが、思春期の少女に気軽にしていい所作ではなかった……かもしれない。

 

ーーーーてゆーかこいつ、随分色気づいたな

 

以前は頭を撫でるくらいでこんな表情をする事はなかったのだが。

 

ーーーーたった1年で……いや、若者(オレたち)が変わるには充分すぎる時間か…

 

撫でる手を止める。今後は少し扱い方を変えようかと少し思った。少しだけ。出来ればもう関わらないのがベストなのだから。

 

「ほーら二人とも〜。イチャつくのは用事終わってからにして行くよ〜」

「ティ、ティオナ!」

 

ーーーーそこでそういう返しをする辺りはまだまだ幼いな。

 

先に行くティオナに追いつくために少し駆け足で歩く。アイズもそれに続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

石造りの平屋。場所はメインストリートに挟まれた路地裏。立地は控えめに言っても良くない。こんな所で店を構えようと思えるヤツはそうそういないだろう。

しかし立地の悪さを補って余りある質の良い品を生産するファミリアがこの区画には存在する。本当に腕の良い料理屋は看板にこだわらないという例の典型。

路地奥に飾られているエンブレムには三つの槌が刻まれている。

 

【ゴブニュ・ファミリア】

 

武器や防具、装備品の整備や作製を行う鍛冶のファミリア。ファミリアの活動は多岐にわたる。リヴィエールやアイズが所属しているのは迷宮探索で利益を上げる探索系ファミリア。現在オラリオに存在するファミリアの多くがこの形態である。次に多いのがディアンケヒト・ファミリアのような商業系。他にも様々存在するが、そのどれを生業としてファミリアを形成するかは主神の趣味次第である。

ゴブニュ・ファミリアもその例に漏れない。装備品の整備、作製を行う鍛治のファミリア。

知名度や規模は【ヘファイストス・ファミリア】をぐっと下回るものの、作り出す武具の性能そのものは勝るとも劣らない、最高品質。まさに質実剛健のファミリア。依頼を受けてから武器製作に取り掛かる事が多く、コアなファンやオーダーメイドが多いのも特徴の一つである。まさに上級冒険者向けのファミリアと言えるだろう。

 

「どんな強力な剣も持ち主に合わなきゃ鉄くずだ!」

「剣はもう一つの腕と化せ!」

「ハンマーに生命を込めろ!」

 

一流の職人たちの怒号と熱気が入り口からでも伝わる。この熱さはリヴィエールは嫌いではない。

 

「ごめんくださーい!」

「ください……」

 

怒号に負けない大声でティオナが叫ぶ。続いてアイズが、最後にリヴィエールが中へと入った。

 

「いらっしゃい……って、げえぇっ!?【大切断(アマゾン)】!?」

「ティオナ・ヒリュテ!?」

「あのさぁ、二つ名で悲鳴を上げるの止めてほしいんだけど……」

 

まるでモンスターにでも遭遇したかのような反応が返ってくる。仮にもうら若き乙女であるティオナはリヴィエール程ではないが、自分の二つ名を嫌っている。それに加えてこのリアクション。不快に思っても無理ない事だろう。

 

「親方ぁあああああ!壊し屋(クラッシャー)が現れましたぁあーー!!」

「くそっ、今日は何の用だ!?」

「また武器を作ってもらいにきたんだけど」

「ウ、ウルガはどうした!? 馬鹿みたいな量の超硬金属(アダマンタイト)を不眠不休で鍛え上げた専用武器(オーダーメイド)だぞ!?」

「溶けちゃった」

「ノオォォォォォォォーーーーー!?」

 

ーーーーもはや漫才だな、このやりとり

 

1年前と変わらない………いや、1年前より確実に酷くなっている。鍛治の苦労を少し知っているリヴィエールは気の毒にと心から思う。

 

「行くぞ」

「うん」

 

横目で阿鼻叫喚の様子を見やりつつ、二人は奥へと向かう。老人の風貌をした一柱の男神がそこにいる事を二人とも知っていた。

 

「何の用だ」

 

あまり機嫌の良くなさそうな声が訪問者へと向けられる。体格は細身、しかし引き締まっている。

短剣を丹念に磨いていた神――ゴブニュはちらりと視線を送ってきた。

 

「…………ん?」

 

視線がフードの男を捉える。この男神にしては珍しい、驚いたような表情。

 

「………リヴィエール」

 

この男神との付き合いは結構長い。黒刀、カグツチを手に入れてからは滅多に世話になっていないが、それ以前には何度もここの武器を使っていた。ついでに剣以外も扱えるようにと武器の事については飛び道具からカイザーナックルまで全てこことヘファイのところで教わった。

 

「よぉ、ゴブニュ」

 

フードを取り、マスクを外す。神に嘘は通じない。隠す意味もないだろう。

 

「生きていたか」

「ざんね………」

 

言いかけた言葉が止まる。咎めるような視線を隣から感じ取ったからだ。見なくても、アイズの表情がわかった。咎めるような、悲しいような、この短期間で何度も見てきた……させてしまったあの表情。

再会を果たした友人達は皆俺が生きていた事に喜んでくれた。励ましの言葉をくれた。そんな言葉に耐えられなくて……ごまかすために生きていたかと聞かれれば、残念ながらといつも答えていた。

 

『冗談でもそんな事、言わないでください!』

 

エイナの、リューの、リヴェリアの、アミッドの言葉が脳裏をよぎる。今でも生き残った事の後悔はある。あの時、ルグを斬るくらいなら死んでおけばよかったと。バロールに殺されておけばよかったと、何度思ったかわからない。

 

だが、今日だけは……

 

「まぁな」

 

肩をすくめる。今日だけは後悔を口にするのはやめよう。喜んでくれた友に失礼だ。

 

その言葉にゴブニュは珍しく笑った。隣に立つアイズは彼の固い手を握る。

それ以上は追求してくれるなと視線で訴えた。何があったかは語りたくない。ここの所、趣味ではない自分語りが多すぎる。

 

「…………用件は?」

「いくつか聞きたい事があって来た」

 

懐に手を入れ、一枚の金属の欠片を取り出す。色は紫がかった黒で、その硬さはアダマンタイトに勝るとも劣らない。

この金属は1年前のあの夜、バロールが使っていた槍の欠片だ。見た事もない金属が使われており、どう見ても市販されている金属ではない。ヘファイに聞いてみたところ、知らないと言っていた為、期待してはいないが、ゼロではない可能性に賭けて問いかけた。

 

「この金属、何かわかるか?」

「…………アダマンタイトではない。だがそれ並みの硬度を持っている………間違いなく神が作った武具だ。どの神かまではわからんが…」

 

ヘファイと同じ意見だ。やはりそう簡単に尻尾は掴めないか。

 

「調べられるか?」

「やってみよう」

 

ゴブニュがテーブルに欠片をしまう。コレで今ある手がかりで打てる手は全て打った。

 

「もう一つ、ルグの居場所をバロールに教えた神を知っているか?」

「知らんな」

「…………そうか」

 

嘘はなさそうだ。まあ後者に関しては期待していなかった。

 

「俺の用件は終わりだ。アイズ」

「うん」

 

後ろで待っていた少女を呼ぶ。腰のレイピアを抜き取り、渡してくる。

 

「剣の整備を頼みに来ました」

「…………また派手に使ったな」

 

手渡された《デスペレート》をじっくり眺めたのち、ため息をつく。

 

アイズの愛剣《デスペレート》。

 

新種のモンスターの腐食液や体液にも耐えたこのレイピアは『不壊属性』の特性を持つ。リヴィエールが腰に下げているカグツチもその一つ。『決して壊れない』剣。

オラリオに一握りしかいない

上級鍛冶師(ハイ・スミス)によって鍛え上げられた特殊武装。

斬れ味や威力そのものは他の一級品装備に劣るが、戦闘中での欠損は有り得ない。

限りなく、一秒でも長く戦い続けるため、アイズとリヴィエールはこの武器を愛剣として選んだ。

だが、切れ味、威力の低下は発生する。

 

「刃がやけに劣化しているが、何を斬った?」

「何でも溶かす液と、その液を吐くモンスターを、何度も……」

「デュランダルは壊れずとも斬れ味は鈍る。リヴィエール、お前の剣も見せてみろ」

「ああ、ダメダメ。こいつの整備他人に任すと怒る女がいるから」

 

その者の名を椿・コルブランド。黒刀カグツチはリヴィエールの黒炎、アマテラスで金属を熱し、椿が鍛えたいわば二人の合作。デュランダルの特性を持ちながら一級武器に勝るとも劣らない威力を保持させる事に成功した彼女の最高傑作だ。椿はコレを我が子のように大事にしている。以前、此処で整備を頼んだ時はそれはもう烈火のごとく怒られた。あの剛力で首を閉められた時は死ぬかと思った。

以来、この刀の整備は決して椿以外にさせないことにしている。

 

「見るだけだ。何もせん」

 

職人にとっては一流の品を見る事も仕事に含まれる。リヴィエールも剣技はまず見て真似る事から始めた。

 

鞘ごと腰から抜き取り、渡す。熱した炎と同じ、漆黒の鞘に柄、そして刀身が妖しく輝く。反りは浅く、鋒は諸刃の片刃の剣。オラリオで現在最も多く使われているのは刃が分厚い、叩き斬る為の剣。アイズのレイピアは貫く剣。どちらも攻撃としては単純で別段特別な技術は必要としない。剣術の中で素人が使用して高確率で相手を殺せる技が突きだ。自分を省みず、全てを投げうって突きかかれば大抵の相手は屠れる。

しかしリヴィエールの刀は違う。どんな物であろうと斬り裂く細身の剣。極めれば鉄をも両断する事ができる武器だ。モンスターの爪をも斬り裂くこの剣は攻撃速度という点において圧倒的なアドバンテージがある。だがその分扱いが難しく、技術を必要とする。鞘から剣を抜くのではなく、剣から鞘を抜き、腰で斬る。それが出来なくてはこの剣はただの鉄の塊と化す。

 

「…………流石、だな。剣聖の名に翳りはないようだ」

 

刀身を見たゴブニュが息を吐く。刀の見事さもそうだが、リヴィエールの腕を称賛してのため息だった。

アイズより遥かに多くのモンスターを斬り、無茶な使い方をしているにも関わらず、摩耗の度合いはアイズより遥かに軽い。刀におけるもう一つの特徴。それは三つの要素が高い次元でかけ合わされば、斬れ味は失われない事にある。

一つはもちろん剣の出来。二つ目は剣士の技量、三つ目が精神。その全てを兼ね備えているからこそ、彼は剣聖と呼ばれている。

 

「お前の事だ。心配はないとは思うが、手入れは怠るなよ」

「わかってる」

 

鞘を受け取り、腰に戻す。鍛治の神は再びアイズへと向き合う。

 

「切れ味を取り戻すまで時間がかかる。代剣を出してやるから、しばらくそれを使っていろ」

「武器の調達は自分で……」

 

言葉を遮り、ゴブニュはレイピアを取り出す。まだ遠慮していたアイズの代わりに受け取ったのはリヴィエールだった。鞘から抜き、刀身を見る。

 

「………いい剣だ」

 

単純な威力ならデスペレートを上回るだろう。値段にして四千万といったところか。鞘に戻し、アイズへと渡す。

 

「半端な武器じゃお前の腕に耐えられない。甘えとけ」

 

唯一アイズが甘えていい存在から甘えろと言われた。こうなっては彼女に抗う術などない。紅くなりつつも受け取った。

 

「振ってみろ」

 

指示通り、軽く振る。流麗な太刀筋だ。並みの冒険者ではこうはいかない。基本的に冒険者の戦い方は恩恵任せのごり押しが殆どだからだ。しかし今のは違う。リヴィエールと同じく、技術が体に染み込んだ太刀筋。

 

「…………今日はいいな」

 

太刀筋を見たゴブニュが呟く。二人とも頭にクエスチョンが浮かんだ。今のアイズの剣はリヴィエールの目で見ても見事なものだったが、あの程度なら1年前から出来ていた。改めて良いなと言うほどのモノでもない。アイズも良いと言われる心当たりすら思いつかなかったらしい。

 

「無駄な力みが今日に限って入っていない」

 

理由は想像がつくがな、と零し、ゴブニュがちらりとリヴィエールを見た瞬間、アイズの頬に赤みが差す。

 

ーーーーそんな目で見るなよ……ただでさえ俺はお前に弱いんだから

 

我ながらアイズに甘いという自負はある。幼い頃からずっと後ろをついてきた可愛い妹分だからというのも勿論あるのだが、リヴィエールにはどうも本能的にこの子に厳しくできない何かが存在するような気がしてならない。

 

「団員達には整備を急がせる。五日経ったら来い」

「わかりました……ありがとうございます」

 

アイズが頭を下げる。ゴブニュはふんっと鼻を鳴らして、作業に戻った。

 

「リヴィエール」

 

背中を向けた瞬間、呼び止められる。足を止める。アイズに先に行けと指示を出しておく。ティオナを連れて出て行った事を確認すると、リヴィエールはゴブニュに向き合った。

 

「剣姫の事をどう思う?」

「強くなったと思うよ、マジで。サシでやりあうなら十回に二回は俺が負けるんじゃねえかな(エアリアルありでならだけど)。良くも悪くもあいつは特別だ」

 

ーーーー俺と同じくな

 

「そうか、だがワシは違うな。ヤツを初めて見た時、ああ、これは死ぬ、と思ったものだ」

「………アイズが、か」

「ヤツはまるで抜き身の剣のような女だった。長生きは出来まいと本気で思っておったよ」

 

その考えは概ね正しい。もし、周りにリヴェリアやロキがいなければ、アイズはとっくに潰れていただろう。

 

「だがある日、あやつは変わった。ただ鋭いだけだったのが、しなやかにたわむ事が出来るようになっておった。だからこそヤツは今日まで折れておらんのだろう」

「…………」

「一年前、ヤツは昔に戻りおった。触れれば斬れるような鋭さと危うさを持つ一振りの剣に。それが今日はまた元に戻った」

「ゴブニュ、回りくどい。何が言いたい」

 

眉に苛立ちを滲ませる。まるでアイズが折れたら俺のせいだと言わんばかりではないか。

あいつはもうただの子供ではない。オラリオでもトップに入る冒険者なのだ。自分の行動を自分で決めることは出来るし、もし、それが間違っていたとしても俺のせいになど絶対にしない。過保護はアイズへの侮辱だ。

 

「今のお前はその折れるアイズに似ている。それだけが言いたかった」

「…………かもな」

 

そんな事は知っている。だからこそアイズに俺のようにはなるなと忠告したのだ。つんのめりながら走っている自覚はとっくにある。

 

「忠告する。生きろよ、リヴィエール。決して死に急ぐな。生きて、生き抜いて、死ぬまで生きろ。お前は、剣姫の希望だ」

 

フードを被る。もう話す事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーー、ようやく終わったぁ〜」

 

正午を過ぎ、ティオネ達と合流した後、ドロップアイテムの換金を済ませたリヴィエール一行。交渉はほぼティオネが担当。反省したのか、さすがにディアンケヒトでのやりとりほど強引な交渉はなかったが、それでも通常の換金より遥かに巨額を引っ張り出す事に成功していた。

 

「悪かったなティオネ。任せきりにしてしまって」

「何言ってんのよ。コレは私が団長に言われた任務なのよ。任せてくれないことの方がよっぽど悪いことだわ」

 

頭を下げるリヴィエールに笑って返すティオネ。行動理由がフィンすぎて少しアレだが、ココまで極められれば尊敬できるレベルだ。

 

「で?貴方この後予定はあんの?」

「報酬受け取ったら夜までは特に…」

 

魔石の換金の計算は今しばらくかかるらしく、報酬を合わせて纏めて渡すと言われ、少し迷った物の、彼の人柄を信じ、ドロップアイテムの金はロキ・ファミリアに置いてきた。管理はリヴェリアが行うとのこと。

 

「なら暇なのね。アイズ、しばらくリヴィエールと出歩いてきなさいよ。ちょうど今怪物祭の前で、結構露店もやってるし」

「え、ソレって……」

 

レフィーヤが頬を赤らめる。親しい男女が祭りを回るという行動の名称が彼女の頭には浮かんでいる。しかしリヴィエールとアイズにはその名称は浮かんできていなかった。

 

「デートしてきなさいってこと」

『ーーーーっ!?』

 

アイズから湯気が上がり、リヴィエールも眉をピクリと動かす。昔から二人で遊ぶことは何度かあったが、デートという呼称を使った事はなかった。意識してしまったからか、アイズは真っ赤になり、リヴィエールも気恥ずかしそうな顔をしている。

 

「…………って言われてもな」

 

頬をかきつつ、息を吐く。アイズと出歩くとなると確実に目立つ。今まではティオネ達もいた為、顔を隠していてもロキ・ファミリアの構成員だろうとそこまで注目はされなかったが、二人きりとなると話は別だ。絶対に剣姫と親しげに歩くフードの男の正体は誰だという話になる。それは出来れば避けたい。

 

「なによ、リヴィエールはアイズとデートしたくないの?恥ずかしい?」

「まあそれもゼロとは………って、違うぞアイズ。そういう事じゃなくてだな」

 

ティオネの言葉を信じたのか、目に見えて落ち込む金髪の少女。ズーンと音が鳴るほど俯いており、頭には黒い靄がかかっている。

 

「恥ずかしいんだ……」

「だから違うって、あぁもう!」

 

躊躇した理由を説明する。多少落ち込みは改善されたが、拗ねたような仕草は治らなかった。

 

「なら二人だって簡単には気づかれないようにすれば良いんじゃん。丁度そこに仕立屋もある事だしさ。行こうよ二人とも」

「えっ、おいマジで……ああ、もう」

 

二人の手を引くアマゾネス姉妹。振りほどく事もできたが、それをするとまたアイズを傷つける事になりかねない。観念したリヴィエールは引かれるがままに仕立屋へと向かった。

 

 

 

 




最後までお読みいただきありがとうございました。ちなみに女の買い物に付き合わさたときに思う事ベストスリー
1.どっちでもいい
2.どうでもいい
3.じゃあ聞くなよ
です。ちなみに個人の感想ですので異論は受け付けます。
励みになりますので、感想、評価よろしくお願いします。面白かったの一言でも頂ければ幸いです。

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