恐怖公の冒険   作:タクミ( ☆∀☆)

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恐怖公の冒険、最終話!

出会いと別れ。挫折と苦悩。

恐怖公はまた一回り大きくなる。(脱皮じゃないよ)


王都リ・エスティーゼ編

恐怖公は王都リ・エスティーゼに着き、情報収集をしていた。

 

「フム、さすがは王都ですね。人間の数も街の大きさもエ・ランテルとは段違いですね。もう少し人手を増やしますか。」

 

《眷属召喚》!

 

すると、恐怖公の周りから眷属達がワサワサと発生する。もう毎度お馴染みの光景である。眷属達は一斉に王都中に散らばっていった。ゴ○ブリを一匹見かけたら百匹はいると言われる。しかし、恐怖公では一万匹でも足りないだろう。侵入を許した時点で諦めるしかない。

 

恐怖公が路地を散策していると、ゴミのように捨てられた布袋に目が止まる。本能的に興味が惹き付けられる。恐怖公はカサカサと近づくとボロボロになった人間の女性だった。恐怖公は内心目的のものではなかったと舌打ちをしながら立ち去ろうとした。しかし、恐怖公のマントに何かが引っ掛かたような軽い感触があった。どうやって捻っているかは不明だが、恐怖公はマントの方を振り返った。まだ微かに意識のあった女性が恐怖公のマントを掴んでいたのだ。正常な思考回路ならゴ○ブリのマントなど触りたくもないだろうが、彼女にはその判断もつかないほど憔悴しきっていた。彼女の生存本能がそうさせたのであろう。

 

「・・・マントを放しては頂けませんか?」

 

恐怖公は静かに伝える。今はアインズ様の命で王国に潜入中であり、やっかいごとを起こすわけにはいけないのである。しかし彼女の反応は無い。そしてもう一度問う。

 

「放して頂けませんか?」

 

口調を強めるがやはり反応は無い。仕方なく振り払おうとすると、強面の男が近付いてきた。

 

「おい!何やってんだ!?」

 

娼館の従業員である男は娼婦である女がもぞもぞ動いていたのを見て逃げ出そうとしているのかと来ただけであった。男が女を確認すると、女の手元に王冠とマントを身に付けたゴキブリが立っていることに気付いた。男は一瞬たじろいだ。しかし、裏の商売に身を置いている彼は一瞬にしてこのゴ○ブリは金になると判断した。

 

「へ、へっ、(ゴ○ブリ)逃げんじゃねぇぞ!」

 

恐怖公はてっきりこの女を連れ出そうとしていることを言っているのだと勘違いをした。厄介事に巻き込まれてしまったと後悔する。

 

「いえいえ、我輩はこの女性に興味はありません。どうぞ連れてってください。」

 

我輩は関係ないですよ、と伝える恐怖公。しかし男はただの立つ着飾ったゴ○ブリと思っていたが喋っていることに更に驚く。更に金になると。

 

「うるせー!大人しくしろ!!」

 

恐怖公は察した。目の前の男には話が通じないと。出来れば騒ぎは起こしたくないのですがと顔と前肢を振ってヤレヤレとジェスチャーをする。

 

《眷属召喚》

 

男が恐怖公に手を伸ばそうとするといきなりゴ○ブリが涌き出てきた。男はその数に自分の立場を理解した。男はダッシュで逃げ出した。その光景を尻目に恐怖公は未だにマントを掴む女性を見る。

 

「ヤレヤレ、どうしましょうかね。セバス殿に相談しますか。」

 

 

こうしてボロボロだった女性、ツアレニーニャ・ベイロンはセバスによって助け出された。実際に助けたのは恐怖公だがほとんど意識がないため良い所は全部セバスに持っていかれた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

王都リ・エスティーゼの某所

 

王国を裏で牛耳る八本指と呼ばれる闇の組織があった。現在、円卓に座っている九人の各部門の支配者達が会談し、情報共有していた。互いに利益を食い潰すこともあり、決して仲の良い関係ではない。しかし、会議に参加しなければ裏切りと判断され粛清されてしまうからだ。

定期的に開催される会議だが、いつもと様子が違う。彼らの片手にはスリッパが握られていた。

 

パンッ!!

 

「ったく、いくら闇の組織って言ってもほとんどこの国を牛耳っているんだからこんな薄暗い所でこそこそとやらなくても良いんじゃない?」

 

「そうだな、確かに」

 

パンッ!!!

 

 

とりあえず次の会談場所は変更することが決まった。

 

そして、議長が次の議題へと進める。

 

「ヒルマ、前に注文していた分が遅れているぞ!」

 

ヒルマと呼ばれた色白の女性は麻薬部門のトップだ。キセルをくわえ、高級娼婦の退廃的な雰囲気を出している。

 

「あぁ、ごめんなさい。・・・すぐに持っていくわ。」

 

ヒルマは悪びれもなく答えるが、内心焦っていた。彼女が所有する麻薬栽培施設で問題が起こっているからだ。最近、何かと邪魔をしてくる冒険者ではない。畑が虫に食い尽くされていたからだ。しかも畑だけではない、既に収穫し倉庫に保管していたやつまで徹底的にだ。もう人の意思が介入しているのでないかと疑いたくなるぐらいである。まだ、冒険者に襲撃されたとなれば、組織全体として対応していくことができる。しかし、害虫被害で栽培に失敗では単に自己管理責任だ。今は栽培施設の衛生管理の見直し、害虫の駆除の徹底、従業員の躾と一からスタートしたばかりだ。

ヒルマは話を変えようと売春部門であった問題について尋ねる。

 

「それはそうと、娼婦に厄介事が起こったみたいね?」

 

ヒルマの質問に奴隷売買部門のコッコドールが答える。

 

「えぇ、どうやら帝国から来た商人が匿っているらしいのよ。ただ居合わせたお店の従業員が何やら怯えてるみたいで、頭がおかしくなったのか体を掻き毟っていて要領を得ないのよ。ゴ○ブリが喋ったとか追いかけてくるとか。」

 

「それ、禁断症状出てるんじゃない?」

 

「えぇ、かもしれないわね。」

 

「まぁ、そいつはどうでもいい。逃げ出した娼婦とその商人から金は取れそうか?」

 

 

こうして八本指は悪巧みを計画し会議を終了しようとした。

 

各部門の長は最後に腕を組み今まで沈黙を貫いてた警備部門の長、ゼロを見る。内心、何も言わないのに何で居るんだよと思いながら・・・。ゼロが重い口を開き何か発しようとした瞬間、ゼロのスキンヘッドの頭にゴ○ブリが落ちてきた。思わずヒルマの部下がスリッパでゼロの頭を叩く。何で叩くんだとヒルマは部下を睨んだ。しかし部下も条件反射としか言えなかった。

その後、ゼロは必殺の正拳突きをかましヒルマの部下はこの世を去った。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

恐怖公はまた都市の散策をしていた。

するとまたボロボロに倒れている者を見つける。ある意味、凄い確率である。正に主人公補正というやつだ。

しかし、今回はツアレの時とは違う。何故なら今回は人間ではない。メスゴ○ブリだ。

恐怖公は迷う。また厄介事を起こすわけにはいかない。すでに屋敷にはセバスが保護したツアレがいるのだ。恐怖公は迷う。すると、メスゴ○ブリが恐怖公を見つける。恐怖公とメスゴ○ブリの目があった。恐怖公は一瞬にして心を奪われた。

人間にはゴ○ブリの違いなど全く分からないが、恐怖公から見れば艶のあるストレートの触覚、スラリと伸びた脚、キレイな小顔。正に恐怖公のタイプであった。

思わず声をかけてしまう。

 

「大丈夫ですか、お嬢さん?」

 

「ジョジョ、ジョウジ・・・」

 

「そうですか、今何か食べるものを持ってきますね。」

 

どうやら彼女は空腹で倒れているみたいだ。そう言って恐怖公は餌を探しにいった。とある部屋で見つけた黒い小部屋の中にあったゼリーを手渡す恐怖公。

 

「さぁ、お食べなさい。」

 

「ジョ、ジョウジ!!」

 

勢いよく食べるメスゴ○ブリ。そうして何故倒れたかを聞いた恐怖公はどうやら自分に原因があると知った。どうやら彼女の住んでいた棲みかに、別のゴ○ブリが入ってきたことを。そして食べ物の奪い合いが始まり、その侵入者はとても強く生存競争に負けたのだと。

恐怖公は苦悩する。ナザリックの命は絶対である。しかし、自分のせいで彼女が苦しんでいることに・・・。

 

 

 

 

同時刻

 

 

王都にある最上級の宿屋にある酒場兼食堂でリ・エスティーゼ王国最強の冒険者チームの一つ《蒼の薔薇》は食事をしながら会話をしていた。

 

「それにしてもこの前の麻薬栽培施設の襲撃には笑ったな。」

 

メスゴリラを連想させるほど屈強な女戦士、通称《童貞食い》のガガーランが話題を振る。それに答えたのは覆面をかぶりローブを羽織った如何にも怪しい姿のイビルアイだ。一部の人間しか知らないが、彼女はかつて一国を堕とした《国堕とし》であり、吸血鬼(ヴァンパイア)だ。

 

「うむ、まさか我々が麻薬を燃やす前に、既に害虫に食い尽くされているとはな。」

 

「馬鹿」「マヌケ」

 

ティアとティナが鋭く突っ込む。因みにティアはレズビアンであり、ティナはショタコンである。

 

「まぁ過程はどうあれ、結果は上手くいったわ。また次の施設を見つけ次第、襲撃しましょう。」

 

蒼の薔薇のリーダーであるラキュース・アルベイン・デイル・アインドラが纏める。彼女は王国貴族アルベイン家の令嬢であり、中二病患者だ。

 

とりあえず仕事の話は終わり、女子会が始まる。

 

そこでラキュースが得意気にある機械を取り出す。それは《かめら》と呼ばれる映像を切り取り保存できる道具だ。口だけの賢者と呼ばれるユグドラシルのプレイヤーが考案し、それを元に作られた機械だった。貴族であるラキュースがコネで手に入れ持ってきたのであった。

 

キャッキャッと盛り上がる女子達。お互いを撮りあったり、運ばれてきた料理を撮っていた。

 

ふと、ラキュースが立ち上がる。

 

「どこに行くんだラキュース?」

 

「ちょっとお手洗いに・・・」

 

 

 

ラキュースはトイレに入り、便座に座って用をたす。ふと何気なく床を見下ろした。

 

 

 

全てがほんの少しの気紛れで変わるような出来事だった。もし恐怖公がメスゴ○ブリに会わなかったら、もし会ってもさっさと見捨て立ち去っていたなら、もしラキュースがトイレに行かなかったから、いくつもの偶然が重なり恐怖公とラキュースは目が合った。

 

 

恐怖公は焦った。紳士である我輩がまさか女性のトイレに居たということに。しかも完全に状況は覗きである。これでは変態紳士ではないかと。

ラキュースは油断していた。普段の冒険中であれば睡眠やトイレなど無防備に近くなる状況は徹底して周囲を確認する。しかしここは王国の中であり店内だ。

恐怖公は慌てて弁明の言葉を出す。

 

「も、申しわ「キャ~~~~~~~~~~~~!!!!」」

 

ラキュースの悲鳴が店中に響き渡った。

 

その声にイビルアイとティアは即座に立ち上がった。ティアの手には《かめら》が握られ、この一瞬で何を想像したのか目を輝かせ口からヨダレが垂れていた。

 

「どうした、ラキュース!!」

 

イビルアイは勢いよくドアを魔法で吹き飛ばした。中にはラキュースとゴキブリが居た。正直、なんだと呆れつつもイビルアイは二百年前、魔神と対抗するために開発した殺虫魔法をかけた。明らかにオーバーキルだが、人間には効果はないのでラキュースの居るトイレ事かけても問題ないのだ。

 

蟲殺し(ヴァーミンベイン)

 

たちまち白い靄に包まれる室内。恐怖公は恐怖した。強力な毒だと確信をして。

 

「お嬢さん、逃げますよ!」

 

すると、メスゴ○ブリが先ほどより弱っていた。

 

「・・・ジョ、ジョウジ・・・」

 

なぜだ!先ほど美味しそうな食事を食べさせたばかりだと言うのに。まさかもうこの毒が効き始めたのかと。更に毒の魔法に警戒する。

恐怖公は弱りつつあるメスゴ○ブリを連れてトイレの隙間に逃げ出した。魔法詠唱者の顔をしっかりと小さい脳に刻み付けながら。

 

 

やがて、命からがらセバス達が滞在している屋敷の前まで辿り着いた。しかし、恐怖公にも先程の毒が回っていた。前肢()の中でどんどん弱っていく彼女、己の無力さを噛み締めながら恐怖公は気を失った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

・・

・・・

 

恐怖公は昔の夢を見ていた。

 

まだ恐怖公が幼い頃、人間にどこに行っても追われ理由もなく嫌われ殺されそうになっていた頃を・・・

 

もう限界だった。

 

何故、僕は何もしていないのにこんなに嫌われているのだろうと。誰にも愛してもらえない。誰からも必要とされていない。もういっそ・・・

 

そんなことを考えていると、ある御方達が手を差し伸べてくれた。お前は一人じゃないと。俺達の仲間になれよと言ってくださった。

 

そして、決意した。この方達のために生きようと。この方達の部下に相応しい男になろうと。

それからは死物狂いで強くなり、ナザリックに相応しいよう教養も身に付けた。そしてそれを認めて抱き、恐怖公と言う名誉ある名と装備、領域守護者という地位を頂いたのだ。

 

そう、あの輝かしい思い出を・・・(という設定)

 

 

 

 

恐怖公は目を覚ました。

 

目を開けると、そこは知らない天井が目に入った。真っ暗だが恐怖公は暗視(ナイト・ビジョン)をスキルとして持っているので問題はない。どうやらここは小さな部屋のようだった。

 

まだ、頭が働かない。ただ耳には話し声が聞こえ来る。どうやらアインズ様がいらっしゃっているようだ。デミウルゴス様やコキュートス様の声もする。不敬があってはいけないと体を起こそうとするがまだ力が入らなかった。

 

どうやらツアレについての話をしているらしい。まぁツアレ殿には特に興味もないので聞き流す。そこでふとメスゴ○ブリのことを思い出した。しかし、辺りを見回しても見当たらない。恐怖公は体を動かそうとするが、やはりまだ動かなかった・・・。

 

そうこうしている内に部屋が揺れた。ソリュシャンが引き出しを開けたのだった。どうやらここは引出しの中だったらしい。ソリュシャンが屋敷の前で倒れていた恐怖公を見つけ、保護してくれたらしい。ソリュシャンに礼を言うと同時にメスゴ○ブリについて訪ねた。

 

「あ、あの。ソリュシャン殿。我輩と一緒に倒れていた女性(メスゴ○ブリ)は居ませんでしたか?」

 

ソリュシャンはそんな者は居ないと答え、恐怖公の状態を確認すると引き出しを閉めた。恐怖公は落胆すると同時に、ツアレの時を思い出す。あの者は我輩達を捕まえようとしていた。あの者は人攫いなのだと。そして、彼が所属しているのは事前の調査で調べていた八本指であることを思い出す。恐怖公の怒りはピークに達していた。この体が癒えたら必ず取り戻すと。しかし恐怖公は勘違いをしていた。わざわざゴキブリを拐うような奇特な人間は居ない。

そしてもう一つ勘違いがあった。ソリュシャンは引き出しを閉めた後、恐怖公を拾った時のことを思い出していた。ソリュシャンの職業スキルであるアサシンで恐怖公の気配に気付いた彼女は玄関を開けると恐怖公が倒れていた。慌てて持ち上げようとしたが、一瞬躊躇し、手を止めハンカチを取り出す。さすがにダイレクトで触る勇気はなかった。恐怖公を持ち上げたとき、近くに死にかけのゴキブリが転がっているのを見つけたが特に興味もないので放置した。

そう、恐怖公が言った女性(メスゴ○ブリ)とソリュシャンが考えた女性(人間)で認識違いをしていたのだ。そもそもソリュシャンにはゴ○ブリのオスとメスを見分ける方法なんて知らない。

 

そうして一方的に八本指に恨みを持った恐怖公は復讐を誓うのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

話は進み、デミウルゴが主導の王国進行が開始された。ナザリックに王国の資源を根こそぎ奪い、さらに王国を裏で操る八本指を掌握しナザリックが王国を裏で操るための計画である。ついでに拐われたツアレも救出すると言うものだ。

 

計画が開始されることをソリュシャンから聞いた恐怖公は自分の失態に気付いた。我輩やメスゴ○ブリの体を蝕んだ恐るべきマジックキャスター、イビルアイと彼女が使用する恐るべき魔法の存在を!必ず今回の作戦に邪魔をしてくるであろう一番の脅威を報告できていなかったのである。急いで今回の作戦の指揮官であるデミウルゴスに伝えなければと立ち上がる。まだ若干、体に違和感があるが動けないことはない。しかしこの部屋、引き出しが閉まったままであった。そこで恐怖公は常時発動型特殊技術(パッシブスキル)を使用する。

 

《監禁無効》

 

少しの隙間さえあれば脱出できるというスキルである。恐怖公はカサカサと引き出しの隙間から抜け出した。そして彼の愛馬であるシルバーゴーレム・コックローチを呼び出す。

 

「シルバー!!!」

 

恐怖公はシルバーに騎乗し、家を飛び出した。玄関のすぐ目の前に見覚えのあるメスゴ○ブリが倒れていた。慌てて近寄り抱き締める。しかし、すでに息を引き取っていた。ソリュシャン殿は恐怖公を助けた時、他に誰もいないと言った。しかし、今ここに彼女は倒れている。恐らく拐った後、死んでしまい見せしめに家の前に捨てたのだろう。別の漫画であれば、あまりの怒りに金色に輝いてたであろうが恐怖公にそんな能力はない。ただそれぐらいの怒りだった。そっとメスゴ○ブリを地面戻す。必ず仇はとると誓い。そして力強く駆け出していった。

 

 

 

 

 

ブレイン・アングラウスは興奮していた。自分を絶望の淵まで叩き落としたシャルティア・ブラッド・フォールンの爪を切れたことで。

これだけ聞けば、全く理解できていないだろうがブレインとシャルティアのレベル差を考えれば正に偉業だった。

 

「くっ!あはははは!刀で・・・そう、俺は奴の爪を切ったんだ!」

 

今一、その内容を理解できていない周囲は反応に困りながらもとりあえず凄いのだろうと考えた。今、彼らはデミウルゴスが発動した魔法《ゲヘナの炎》の中にいた。この魔法は悪魔を次から次に召喚する恐るべき魔法だ。その魔法を目眩ましに倉庫街から物資や人間をナザリックに運んでいた。そしてブレインと王国の第三王女ラナーに付いている兵士クライム達は悪魔の討伐と倉庫街の国民を救出するためにゲヘナの炎の中にいた。

 

ブレイン達の前に光る物体が高速で近づいてくる。ゲヘナの炎の中だ。まず間違いなく敵だろう。ブレインは重心を落とし、抜刀の構えをする。そして武技を発動させる。

 

《領域》

 

《神閃》

 

領域で彼の半径三メートル以内のことが全て知覚でき、神閃で神速の剣を振り抜くのだ。さらに武技《四光連斬》を併せ、シャルティアの爪を切った最終秘技《爪切り》が完成する。

ブレインは《爪切り》の発動タイミングを見極め、向かってくる相手を待った。どんどん近づいてくる敵の正体を知覚する。なんと銀色のゴ○ブリに乗り、王冠被り、マントをたなびかせたゴ○ブリだった。ブレインは思い出す。ゲヘナの炎は悪魔を召喚する魔法だということを。ではあれは何だ?ゴ○ブリではないのか?確かに普通のゴキブリでは無いことは分かるが、どう贔屓目に見てもブレインの考える悪魔のイメージとは違う。ブレインの悪魔のイメージが崩壊する中、ゴ○ブリはすぐ手前までやって来た。ブレインは武技を発動させる。

 

《爪切り》

 

恐怖公も目の前に報告を邪魔する男を確認し、シルバーに命令する。

 

「シルバー!!!」

 

刹那の激突。全力と全力のぶつかり合い。勝敗は明らかだった。シャルティアの時とは違う。適当にあしらって受け流したわけではない。超貴重金属と貴重貴金属を使用した屈強なゴーレムではブレインの神刀には傷一つつかない。無情にも神刀は真っ二つにへし折られた。

 

恐怖公は脅威にもならない男に最早興味もなく、報告が先だと駆けて行った。

 

ブレインは真っ二つに折られた愛刀を見つめていた。自分より強い化物はいくらでもいることは知っていた。人間では決して到達できないほどの存在を。そして自分の弱さを理解した。自分にはない強さを持つガゼフやクライム、そして街で知り合ったセバスという男性の強さを。そして、先程のシャルティアとの再戦で自信も取り戻しかけていた。それがである。あんまりではないかと。神は俺にどれだけの試練を与えれば気が済むのだと聞きたい。取り戻しかけていた自信は再び崩壊し、あまつさえ相手は吸血鬼(ヴァンパイア)でもなく、ゴ○ブリだ。

 

「もういい・・・、故郷に帰ろう・・・」

 

そう、呟いたブレインにクライムは声を掛けることができなかった。

 

 

 

デミウルゴスが指揮する広場に着いた恐怖公は蒼の薔薇とイビルアイ、そしてイビルアイの魔法についてデミウルゴスに報告する。デミウルゴスは守護者クラスであれば問題は無いが戦闘メイド(プレアデス)では多少苦戦するかもしれないと判断した。

そんな中、マーレ・ベロ・フィオーレが八本指の長の一人、ヒルマの髪をブチブチと引っ張りながら歩いてくる。任務を全うしたことに安心したのか可愛らしい笑顔をしている。手に持っているものが無ければ、可愛らしい男の娘だ。どうやら八本指を屈服させるために連れてきたらしい。

恐怖公はもちろん事前の調査でヒルマの事は知っていた。怒りが再燃する。

そんな中、デミウルゴスからナザリックに隷属するよう、躾て欲しいとお願いされた。恐怖公は自分の手で仇を打てないことに残念に思いながらも、復讐する機会を頂けたことにデミウルゴスに感謝した。

ヒルマを眷属に運ばせシャルティアが用意したナザリックに繋がったゲートに向かう。

 

「せっかくです。我輩のおもてなしのフルコースでいくとしましょう!!!」

 

 




ナザリック地下大墳墓第九階層

副料理長が管理するショットバーに二匹、いや二人の男達が座っていた。一匹はサイズの問題でカウターの上に特性の椅子を置いて座っている。もし、人間が見れば間違いなくマスターに文句を言うだろうが、異業種ばかりのナザリックにそんなことを言うものはいない。

「・・うぅ、我輩が不甲斐ないばっかりに彼女を助けられませんでした・・・」

ゴッゴッゴッ 、げふーと音を出しながら酒を一気飲みする。恐怖公は大分酔っていた。彼の盟友であるコキュートスは静かに恐怖公の話を聞いている。コキュートスは武人であるため、余り恋愛のアドバイスはできないからだ。しばらくは仕事で忘れるしかないと、今度侵入者を連れてくる計画があることを伝える。
コキュートスの不器用な優しさに感謝する恐怖公。腹いせに殺される方は溜まったものでは無いが・・・
こうして男達の友情は深まって言った。



以上、最後まで読んで頂いてありがとうございました。

今回はラキュース、ブレインのファンに失礼をしました。申し訳ないです。

読んで頂いた方、評価して頂いた方、コメントを頂いた方本当にありがとうございました。

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