遊戯王GX―とあるデュエリストたちの日々―   作:masamune

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間章 東西対抗戦 後篇

 

 全日本ジュニア選手権大阪予選で、初めてその男を見た。

 当時の自分は準決勝で敗北し、あと少しで全国大会だったということもあり悔しさから決勝戦を見る前に帰ろうとしていた。

 だが、未練があったのだろう。少しだけ見て行こうと会場に足を向け、そして、目撃した。

 ――菅原雄太。堂々と優勝の栄誉を受け取った、その男を。

 自分を倒した相手のことなどもう覚えていない。ただ、彼の名前だけは忘れなかった。

 その後、一度だけ彼とデュエルする機会があったが、一方的に倒されるだけだった。流石にジュニアでも全国クラスのデュエリストである。しかし、悔しさはなく――むしろ、どこか嬉しかった。 

 

 そして迎えた、アカデミアウエスト校の入学式。

 全国から多くのデュエリストが集まるウエスト校の入学式は、かなりの大人数で行われる。ただ入学式など自分にとっては退屈なだけで、つまらないものだった。

 しかし、その場所で。

 

(……菅原、雄太)

 

 隣で退屈そうに欠伸を漏らしているその男に、気付いた。

 周囲に視線を送ると、何人かの生徒が菅原へと視線を向けていることに気付く。当たり前だ。関西の同世代で彼を知らない者はいない。かの〝帝王〟や〝プリンス〟にこそ一歩劣る印象を与えるものの、全国区において間違いなく彼はトップクラスの実力者なのだから。

 

(うわ、マジか)

 

 自身の中の感情がどういうモノかはわからない。ただ、焦った。

 ある意味では憧れとも言える人物が、隣にいて。

 

(わいのこと覚えて――いや、ないか。一度デュエルしただけやし、瞬殺されただけで――)

 

 自嘲気味にそんなことを考える。その思考が届いたわけではないだろうが、その男はこちらへ視線を送り。

 そして、驚いた表情を浮かべた。

 

「山崎、か? 忍者使いの」

 

 その、言葉を耳にした瞬間。

 

 ――この男について行こうと、そう決めた。

 

 

 …………。

 ……………………。

 ………………………………。

 

 

 カードとセットを封じ込める『ダーク・シムルグ』と、魔法カードの発動を一度伏せてからのみ可能とする『魔封じの芳香』。このコンボは決まってしまえばその効果は単純だ。

 要は、遊城十代というデュエリストはリバースモンスター、魔法、罠の使用を封じ込められたということである。

 

「へへっ、やっぱ全国のデュエリストって凄ぇな……! 一ターンでこんなモンスターが出るなんて! 凄ぇワクワクするぜ!」

「ワクワク、ねぇ。自分がどう思おうが勝手やけど、わいは反撃を許すつもりはあらへん。さっきも言うたけど、何もできずに消えてくれや」

「そいつはどうかな、俺は手札から『E・HEROキャプテン・ゴールド』を捨て、フィールド魔法『摩天楼―スカイスクレイパー』を手札に加えるぜ!」

 

 十代がデッキよりHEROの戦場たるフィールド魔法を手札に加える。それで、と山崎壮士は肩を竦めた。

 

「発動できひんのにどないするつもりや?」

「これは次の準備だ! 『カードガンナー』を召喚! 効果発動! デッキトップからカードを三枚墓地へ送り、攻撃力を1500ポイントアップする!」

 

 カードガンナー☆3地ATK/DEF400/400→1900/400

 

 落ちたカード→ネクロ・ガードナー、ギャラクシー・サイクロン、H-ヒートハート

 

 墓地へ送られる三枚のカード。なっ、と山崎が声を上げた。

 

「ギャラクシー・サイクロンやて!?」

「前に同じように魔法、罠を封じられたことがあってさ。対策で入れてたんだ。ただ、このターンは発動できない。俺はターンエンドだ」

 

 十代がターンエンドを宣言する。ちっ、と山崎は舌打ちを零した。

 

(ふざけた豪運やな……、ドローだけやないんか……?)

 

 彼の豪運については今更どうこう考えるつもりはない。そうであると受け入れるだけだ。いるのだ、稀に。彼のように〝何か〟を味方につけているかのようなデュエリストは。

 

(次のターン、魔封じの芳香が叩き割られるのは確実や。そうなると――)

 

 幸い、保険は用意できていた。後は、それを紡ぐだけ。

 

「手札より『成金忍者』を召喚や! 一ターンに一度、手札から罠カードを捨てることでデッキから忍者を一体、守備表示で特殊召喚できる! わいは手札から『スキル・プリズナー』を捨て、『忍者マスターHANZO』を特殊召喚! 効果によりデッキから『赤竜の忍者』を手札に加える!」

 

 成金忍者☆4光ATK/DEF500/1800

 忍者マスターHANZO☆4闇ATK/DEF1800/1000

 

 二体の忍者がフィールドに並ぶ。バトルや、と山崎は宣言した。

 

「ダーク・シムルグでカードガンナーを攻撃!」

「墓地のネクロガードナーの効果を発動! このカードを除外し、攻撃を無効にする!」

「なら成金忍者で攻撃や!」

「くっ……! カードガンナーが破壊されたため、カードを一枚ドロー!」

 

 十代LP4000→3900

 

 微々たるものだが、ダメージが入る。だが、山崎の表情は苦いままだ。

 

(やっぱりある意味で一番厄介なんはこの一年坊やったか……!)

 

 文字通りの〝奇跡〟の如きドロー。ここまでくればそれはもう偶然ではない。全ては必然。あの〝ルーキーズ杯〟で見せた実力は本物なのだ。

 

「……わいはターンエンドや」

「俺のターン、ドロー!」

 

 遊城十代――この少年に対する情報から山崎が導き出した対策は二つ。

 一つは、完全に封殺すること。ノース校と本校で行われた対抗戦では実際、遊城十代は紫水千里にあと一歩まで追い詰められていた。あのデュエル、後一ターンの時間があれば勝敗は逆転していただろう。

 故に山崎も同じ手段を取った。だが、こうも容易く切り崩してくるとは。

 

「俺は墓地のギャラクシー・サイクロンの効果を発動! 魔封じの芳香を破壊するぜ!」

「くっ……!」

 

 手札より使えないのなら、墓地から発動する。酷く単純な回答だが、それをこうも容易く。

 

「魔法カード『E-エマージェンシーコール』を発動! デッキから『E・HEROエアーマン』を手札に加え、召喚! 効果により、デッキから『E・HEROフェザーマン』を手札に加えるぜ! 更に『融合』を発動! エアーマンとフェザーマンで融合、風属性モンスターとHEROの融合により、暴風纏いしHEROが降臨する! 『E・HERO Great TORNADO』!!」

 

 E・HERO Great TORNADO☆8風ATK/DEF2800/2200

 

 風が舞い、竜巻を引き裂くように一体のHEROが現れる。

 

「トルネードの効果発動! 融合召喚成功時、相手フィールド上のモンスターの攻撃力を半分にする!」

「…………!」

「更に魔法カード『融合回収』を発動! 素材となっていたエアーマンと融合を手札に加え、魔法カード『O―オーバーソウル』を発動! 墓地から通常モンスターのHEROを蘇生する! フェザーマンを蘇生し、もう一度『融合』を発動だ! 手札の『E・HEROバーストレディ』と融合し、来い、マイフェイバリットヒーロー!! 『E・HEROフレイム・ウイングマン』!!」

 

 E・HEROフレイム・ウイングマン☆6風ATK/DEF2100/1200

 

 現れたのは、竜頭の腕を持つHEROだ。十代が最も大切にするヒーローであり、同時に最大の信頼を置くモンスターでもある。

 

「来たな、そのHEROが……!」

 

 フレイム・ウイングマンはそのレベルに対して攻撃力が低い。だが、その効果はそれを補って余りあるほどに凶悪極まりないモノだ。

 

「いくぜ、バトルだ! フレイム・ウイングマンでダーク・シムルグへ攻撃!!」

 

 通せばそれだけで勝負の方が付きかねない状況。だが、山崎に焦りはない。

 

「永続罠『機甲忍法フリーズ・ロック』! 自分フィールド上に忍者が存在する時、相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる! バトルフェイズは終了や! 更に相手は表示形式の変更が不可能となる!」

 

 要は永続罠の『攻撃の無力化』である。これで十代は、また超えなければならない壁が一つできた。

 

「くっ、ダークシムルグのせいでカードが伏せられない……! ターンエンドだ!」

「わいのターン、ドロー!」

 

 遊城十代に対する二つ目の対策。それは、『次のターンを与えないこと』。

 ふざけた話だが、この少年は追い詰められれば追いつめられるほど、その土壇場で神懸かった豪運を魅せる。ならば、その状況を作らせなければいい。

 あの〝ルーキーズ杯〟で祇園がしたのも同じ理屈だ。何かを引く、引ける可能性を残して十代のターンに移行するのではなく、『勝敗の決定権をこちらのターンで握る』ことが必要なのだ。つまりは、一ターンを耐える術を与えないまま、こちらの総力を以て押し切るということである。

 

(〝ルーキーズ杯〟の時は夢神が結果としてそういう状況に持っていっとった。偶然とはいえ、互いの総力を懸けてやり合って、その結果として夢神のドローで決着が着くようになっとったんや)

 

 流石の〝ミラクル・ドロー〟も、相手のドローにまでは干渉できない。そこが穴だ。

 

(ここで押すのが定石やけど、中途半端に追い込むのが一番最悪や。そうなると、わいがすべきなんは――)

 

 相手モンスターの掃除。まずはそこからだ。

 

「魔法カード『マジック・プランター』を発動。永続罠を一枚墓地へ送り、カードを二枚ドローするで。フリーズロックを墓地に送り、ドロー。――わいはダーク・シムルグと成金忍者を生贄に捧げ、『究極恐獣』を召喚!!」

 

 究極恐獣☆8地ATK/DEF3000/2200

 

 現れたのは、圧倒的な暴力の気配をその身に纏う恐竜だ。山崎はHANZOを攻撃表示に変更すると、バトル、と宣言する。

 

「究極恐獣はバトルフェイズ開始時、全てのモンスターに攻撃しなければならない。――トルネードとフレイム・ウイングマンへ攻撃!」

「うわっ!?」

 

 その暴力により、二体のHEROが喰い散らかされる。そこへ追い打ちをかけるように、HANZOの暗器が煌めいた。

 

 十代LP3900→2800→1000

 

 そのLPが大きく削られる。対し、山崎のLPは未だ無傷。

 

「俺はカードを二枚伏せ、ターンエンドや」

 

 だがその表情に未だ警戒の色を含ませつつ、山崎は宣言した。

 

(これで『詰み』にする前準備はできた。揃えばまず、敗北は有りえへん)

 

 この状況から敗北した経験は山崎にも数度しかない。しかもその数回は菅原や二条といった、全国でもトップクラスのデュエリストが相手の時だけだ。

 

(もし、これを超えてくるんやったら)

 

 認めざるを得ないだろう。遊城十代という少年は、一年生という身でありながら全国クラスの実力を有していると。

 

「へへっ、凄ぇ……! やっぱ凄ぇな! 俺のターン、ドロー!!」

 

 ドローしたカードを見る十代。彼は笑みを浮かべ、来たっ、と言葉を紡いだ。

 

「ピンチの時にこそ、ヒーローは駆けつける! 魔法カード『ヒーロー・アライブ』!! 自分フィールド上にモンスターがいない時、デッキからE・HEROを特殊召喚する!! 来い、『E・HEROシャドー・ミスト』!!」

 

 シャドー・ミスト☆4闇ATK/DEF1000/1500

 十代LP1000→500

 

 現れたのは漆黒のHEROだ。十代は更に、と言葉を紡ぐ。

 

「魔法カード『R-ライトジャスティス』を発動! 自分フィールド上のE・HEROの数だけ、相手フィールド上の魔法・罠カードを破壊する! 右の伏せカードを破壊!」

「――――ッ、チッ! リバースカードオープン、永続罠『安全地帯』! モンスターを一体選択して発動でき、選択したモンスターは戦闘及びカード効果で破壊されず、効果の対象にもならんくなる! ただしこのカードが破壊された時、選択されたモンスターも破壊される! わいは究極恐獣を選択や!」

「え、でもそれじゃあ――」

「安心せぇ。――もう一枚のリバースカードを発動! 永続罠『忍法 超変化の術』!! 自分フィールド上の忍者と相手モンスターを墓地へ送り、そのレベルの合計以下のドラゴン、海竜、恐竜族モンスター一体をデッキから特殊召喚する!!――『白竜の忍者』を特殊召喚!!」

 

 白竜の忍者☆7光ATK/DEF2700/1200

 

 現れたのは、白き装束に身を包む白き忍だ。同時、ライトジャスティスの光が炸裂する。

 果たして、結果は――

 

「な、安全地帯が破壊されてない!?」

「白竜の忍者がいる限り、わいの魔法・罠は破壊できひん。残念やったな」

 

 ライトジャスティスの効果は不発に終わり、更に十代の場からモンスターが消える。ぐっ、と十代は呻くが、彼もただでは終わらない。

 

「墓地へ行ったシャドー・ミストの効果だ! このカードが墓地へ送られた時、『E・HERO』を一体、デッキから手札に加えることができる! 『E・HEROスパークマン』を手札に!」

 

 その様子を見て、山崎は内心焦りを募らせていた。白竜の忍者と安全地帯――揃えばまず突破は不可能となるこの組み合わせが決まればそれで詰みへと持っていける公算が高かったし、それを狙っていたのだが……結果として阻まれた。

 

(欲張ったんが仇になったか……? いや、超変化は本来除去として使うべきもんや。出た瞬間のシャドーミストに使うのはあまりええ選択やなかった)

 

 一手、ズレた。それが致命とならなければいいが――

 

「へへっ、やっぱ凄ぇなぁ……。けど、ここは勝たせてもらうぜ!! 『E・HEROエアーマン』を召喚し、効果でデッキから『E・HEROクレイマン』を手札に加え、『融合』を発動!! エアーマンとスパークマン、クレイマンの三体で融合だ!!――『V・HEROトリニティー』!!」

 

 V・HEROトリニティー☆8闇ATK/DEF2500/2000→5000/2000

 

 現れたのは、赤き体躯を持つHERO。かの〝ヒーロー・マスター〟も用いるモンスターの効果は、山崎も知っていた。

 故に、悟る。

 

(……詰んでたんは、こっちやったか)

 

 序盤からの、微妙なズレ。奇跡的な落ちに加えて、こちらのタイミングが微妙にズレる攻防。

 ――ああ、そうだ。

 いつの間にか、一番最初に危惧した状況となっていた。

 

「トリニティーは融合召喚に成功したターン、攻撃力が倍となり、モンスターに三回攻撃ができる!! 山崎さんの究極恐獣は今、戦闘では破壊できない。けど、ダメージは通るよな?」

 

 楽しそうな笑みを浮かべる十代。これを、狙っていたのか。

 

(こんなん……称賛しか浮かんでこんわ)

 

 結果論と呼べるレベルのミスしかしなかったはずだ。だが、結果としてそれが敗北へと繋がった。

 

「バトルだ! トリニティーで究極恐獣へ攻撃!!」

 

 そして、HEROの拳が振るわれる。

 

 ――ギリギリの状況へ追い込んだ上で、逆転のワンターンを許すこと。

 それが、遊城十代と相対する上で最もしてはならぬことであったはずなのに――

 

 山崎LP4000→-2000

 

 LPが、0を刻む。

 

「ガッチャ!! 楽しいデュエルだったぜ!!」

 

 心の底からの笑みを浮かべる十代。そんな表情をされては、こちらも頷くしかない。

 

「強いなぁ。わかっとったつもりやったけど……」

 

 立ち上がり、苦笑を零す。そうしてから、山崎は画面へと視線を向けた。

 そこに映るのは、彼の仲間たち。

 

「――すまん、総大将。負けたわ」

 

 その姿を眺め、彼はポツリと呟いた。

 

 勝者、アカデミア本校一年、遊城十代。

 ――アカデミア本校、一勝目。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 丸藤亮と二条紅里。二人は共に相手の姿以外の情報を全て消し去っていた。

 一進一退の攻防。互いに背負うは己を含めた全ての誇り。

 故にこそ、全力で相対する。

 

「ランページ・ドラゴンの効果を発動! デッキから『プロト・サイバー・ドラゴン』と『サイバー・ドラゴン・ドライ』を墓地へ送り、三回攻撃を可能とする! 更にサイバー・ドラゴン・コアを召喚! 効果により、デッキから『サイバー・ネットワーク』を手札に加える!」

 

 LPでこそ負けているが、モンスターの質はこちらが上。ここは、力で押し切る。

 

「いけ、ランページ・ドラゴン!! 三連打ァ!!」

「ライフストリーム・ドラゴンの効果発動!! このカードが破壊される時、代わりに墓地の装備魔法カードを除外することで破壊をまぬがれることができる!」

「何だと!?」

「スーペルヴィス三枚を除外~!」

 

 耐え切られた――その事実に亮は歯噛みする。何かあるとは思っていたが、こういうことだったのか。

 

(装備魔法を何度も使い続けたのもこれが理由か……! 全て想定した上で……!)

 

 だが、ランページ・ドラゴンで攻め込んだのは正解だったと言える。そう長くは相手も持たないはずだ。

 

「俺はカードを二枚伏せ、ターンエンドだ」

「私のターンです、ドロー。――魔法カード『思い出のブランコ』を発動! 墓地から通常モンスター扱いとなっているギガプラントを蘇生し、デュアルです~!! そして効果により、墓地からローンファイア・ブロッサムを蘇生!! その瞬間、地獄の暴走召喚を発動します!!」

「なっ……!?」

「三体のローンファイア・ブロッサムの効果をそれぞれ発動します~!! それぞれ自身を生贄に捧げ――」

 

 ローンファイア・ブロッサム☆3炎ATK/DEF500/1400

 ローンファイア・ブロッサム☆3炎ATK/DEF500/1400

 ローンファイア・ブロッサム☆3炎ATK/DEF500/1400

 

 その手を振り上げ、宣言する紅里。ゾクリと、亮の背筋に悪寒が奔った。

 あれだけの展開を見せ、力を見せ、それでも。

 それでも――まだ、先があるというのか。

 

「『桜姫タレイア』、『プチトマボー』、『ギガプラント』を特殊召喚!! そして、レベル6のギガプラントにレベル2、プチトマボーをチューニング!! シンクロ召喚、『スクラップ・ドラゴン』!!」

 

 桜姫タレイア☆8水ATK/DEF2800/1200

 プチトマボー☆2闇・チューナーATK/DEF700/400

 ギガプラントホイ6地ATK/DEF2400/1200

 スクラップ・ドラゴン☆8地ATK/DEF2800/2000

 

 僅か、二枚の手札。そこから、これほどの展開を。

 

「墓地のスポーアの効果を発動! 墓地のコピー・プラントを除外し、レベル2となって蘇生します!」

 

 スポーア☆1→2風・チューナーATK/DEF400/800

 

 だが、まだ紅里は止まらない。

 

「デュアル状態のレベル6ギガプラントに、レベル2のスポーアをチューニング! シンクロ召喚! ブラック・ブルドラゴ!!」

 

 ブラック・ブルドラゴ☆8炎ATK/DEF3000/2600

 

 現れるのは、漆黒の体躯を持つ黒竜だ。強大なモンスターの登場に、会場が湧く。

 

「……流石だな」

「いいえ。まだですよ~?――スクラップ・ドラゴンの効果を発動です。一ターンに一度、自分と相手のカードを一枚ずつ破壊できる。私が破壊するのはブルドラゴとランページ・ドラゴンです」

「何!?」

 

 吹き飛ぶランページ・ドラゴン。だが、それは予測できていたことだ。スクラップ・ドラゴンが出た時点でそうなることはわかり切っていたのだから。

 故に疑問なのはブルドラゴだ。攻撃力3000のモンスターを、どうして――

 

「ブルドラゴは破壊された時、墓地からデュアルモンスターをデュアル状態で蘇生します。――ギガプラントを蘇生し、効果発動! ローンファイア・ブロッサムを蘇生! そして効果により、『姫葵マリーナ』を特殊召喚!!」

 

 姫葵マリーナ☆8炎ATK/DEF2800/1600

 

 現れるのは、四季姫の一角。

 始動はたった二枚の手札からだ。それが、たった一瞬で。

 

 ライフストリーム・ドラゴン☆8地ATK/DEF2900/2400

 ギガプラント☆6地ATK/DEF2400/1200(デュアル状態)

 スクラップ・ドラゴン☆8地ATK/DEF2800/2000

 桜姫タレイア☆8水ATK/DEF2800/1200→3100/1200

 姫葵マリーナ☆8炎ATK/DEF2800/1600

 

 大型モンスターが、五体。

 それも、全てが強力な効果を持つモンスター群だ。

 

(流石に全国最強……これほどか)

 

 舌を捲くしかない。こんなものを見せられては、ただ純粋な称賛が浮かぶだけだ。

 

「バトルです。――ライフストリーム・ドラゴンでサイバー・ドラゴン・コアを攻撃~!」

「――ッ、リバースカードオープン! 和睦の使者! このターンの戦闘による俺のモンスターの破壊とダメージを無効にする!」

「む~……。ターンエンドかな~?」

「ならばそのエンドフェイズ、永続罠『サイバー・ネットワーク』を発動する! 自分フィールド上にサイバー・ドラゴンがいる時、デッキから光属性、機械族モンスターを一体除外できる! 俺はサイバー・ドラゴンを除外だ!」

 

 これで準備は整った。だが同時。

 

「…………」

 

 こちらを見据える紅里の瞳に、亮は戦慄を覚えた。

 まるで、こちらの戦術を全て見透かしているかのような――

 

(……いや、大丈夫だ。たとえそうだとしても、俺にできることは変わらない)

 

 信じたデッキと、信じた想い。

 何より、唯一の三年生として。時を置かずこの場を去る先達として、やり切らなければならないことがある。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 これで準備は万事完了。手札を確認し、〝帝王〟は威風堂々と言葉を紡ぐ。

 

「迷いはない。全国頂点の力……俺の全てをぶつけるのに相応しい。――魔法カード、『オーバーロード・フュージョン』発動! 自分フィールド・墓地の機械族モンスターを除外し、闇属性機械族モンスターの融合召喚を行う! 俺は地獄の暴走召喚によってフィールドに増えたサイバー・ドラゴンコア二体を含めたフィールド上と墓地のモンスター10体全てを除外し、キメラティック・オーバー・ドラゴンを融合召喚!!」

 

 キメラティック・オーバー・ドラゴン☆9闇ATK/DEF?/?→8000/8000

 

 現れるのは、十の首を持つ機械竜。ある意味では歪にさえ見えるその竜は、その首全てで猛々しき咆哮を上げた。

 

「キメラティック・オーバー・ドラゴンは融合召喚成功時、このカード以外の自分フィールド上のカードを全て墓地へ送る。そしてこの効果で墓地へ送られたサイバー・ネットワークの効果発動。除外されている光属性・機械族モンスターを可能な限り特殊召喚する。――サイバー・ドラゴンを三体を特殊召喚!!」

 

 サイバー・ドラゴン☆5光ATK/DEF2100/1600

 サイバー・ドラゴン☆5光ATK/DEF2100/1600

 サイバー・ドラゴン☆5光ATK/DEF2100/1600

 

 現れるのは、サイバー流の象徴。機械の竜が、フィールドを埋め尽くす。

 

「これが俺の全力だ。――魔法カード『パワー・ボンド』発動!! サイバー・ドラゴン三体で融合!! 来い、『サイバー・エンド・ドラゴン』!!」

 

 サイバー・エンド・ドラゴン☆8光ATK/DEF4000/2800→8000/2800

 

 次いで降臨するのは、三つ首の機械竜。

 その威容は彼の伝説、青眼の白龍が究極体にも似ていた。

 

「…………ッ」

 

 流石の紅里も表情に陰りが浮かぶ。当然だろう。この攻撃力を正面から打ち破る術などほとんどないと言ってもいいのだから。

 

「キメラティック・オーバー・ドラゴンは素材の数だけモンスターに攻撃できる。今回は十回まで攻撃が可能だ。また、サイバー・エンド・ドラゴンは貫通効果を持つ。……だが、サイバー・ネットワークが墓地へ送られたターン、俺はバトルフェイズを行うことができない。俺は『一時休戦』を発動。互いにカードを一枚ドローし、次の相手のエンドフェイズまでダメージは0となる。俺はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 今の自分にできる最強の一手だ。この二体のモンスターを前に、どう出るつもりか。

 

「私のターンです、ドロ~。……スクラップ・ドラゴンの効果を発動します」

「速攻魔法、『禁じられた聖杯』を発動。その効果は無効にさせてもらう」

「むー、そうですよね~」

 

 苦笑を浮かべる紅里。スクラップ・ドラゴンの効果を用いれば、そのままゲームエンドもあり得た。だが、だからこそ対策は出来ている。

 灯りは自身の手札を見ると、ふう、と息を吐いた。同時、全てのモンスターの表示形式が変更される。

 

「私はカードを一枚伏せ、モンスターを守備表示にしてターンエンドです~」

「俺のターン、ドロー。――バトルだ、キメラテック・オーバー・ドラゴンで攻撃!! 十連打ァ!!」

 

 十つ首を持つ異形の機械竜が咆哮する。最初の獲物は――姫葵マリーナ。

 

「マリーナへ攻撃、粉砕! タレイアへ攻撃、粉砕! ギガプラントへ攻撃! 粉砕! スクラップ・ドラゴンへ攻撃、粉砕! ライフストリーム・ドラゴンへ攻撃! 粉砕!!」

「――――ッ!!」

 

 装備魔法を除外することで戦闘破壊を免れる効果を持つライフストリーム。だが、墓地のカードが足りない。

 がら空きになるフィールド。そこへ、サイバー流最強の切り札の一撃が迫る。

 

「サイバー・エンド・ドラゴンでダイレクトアタック!! エターナル・エヴォリューション・バースト!!」

「罠カード『ガード・ブロック』!! 戦闘ダメージを0にして、カードを一枚ドロー!」

 

 しかし、それすらも紅里は凌ぎ切る。

 だが、亮はやはり、としか思わない。ここを凌ぐから――凌ぎきれるからこそ、彼女はIHにおいて頂点に君臨したのだから。

 

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「私のターンです、ドロー。――『貪欲な壺』を発動です~。パワー・ツールを三枚とスクラップ・ドラゴン、ライフストリーム・ドラゴンをデッキに戻し、二枚ドロー。……『シード・オブ・フレイム』を召喚。そして速攻魔法、『炎王円環』を発動です。炎属性モンスターを破壊し、墓地から炎属性モンスターを蘇生します。私が蘇生するのは、姫葵マリーナ。そしてシード・オブ・フレイムがカード効果で破壊された時、墓地からレベル4以下の植物族モンスターを一体蘇生し、相手フィールド上にトークンを一体特殊召喚します。私はローンファイア・ブロッサムを蘇生」

 

 シード・オブ・フレイム☆3炎ATK/DEF1600/1200

 姫葵マリーナ☆8炎ATK/DEF2800/1600

 ローンファイア・ブロッサム☆3炎ATK/DEF500/1400

 

 シードトークン☆1地ATK/DEF0/0

 

 再びの展開。流石だ、と亮は何度目かもわからない呟きを零した。

 

「ローンファイア・ブロッサムの効果により自身をを生贄に捧げ、『ダンディライオン』を特殊召喚。――魔法カード、『フレグランス・ストーム』を発動~。自分フィールド上の植物族モンスターを破壊し、カードを一枚ドロー。私が引いたのは『椿姫ティタニアル』です。もう一枚ドロー。そしてマリーナの効果発動。植物族モンスターが破壊された場合、相手フィールド上のカードを一枚、破壊できます。サイバー・エンドを破壊」

 

 ダンディライオン☆3地300/300

 

 流れるような除去。そして。

 

「これが最後です。――魔法カード『ブラック・ホール』。全てのモンスターを破壊します」

 

 おそらく今のフレグランス・ストームで引き込んだのだろう。強力な全体除去カードにより、全ての場が空いた。

 

「私はターンエンドです~」

 

 これで、互いにカードはほとんどない。亮の手札はなく、伏せカードは『ダメージ・コンデンサー』だ。ここで何かしらのカードを引けなければ、詰みとなりかねない。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 そして、引いたカードを見て。

 亮は、笑みを浮かべた。

 

「魔法カード、『死者蘇生』発動!! 甦れ――『サイバー・エンド・ドラゴン』!!」

 

 サイバー・エンド・ドラゴン☆10光ATK/DEF400/2800

 

 最後はやはり、このモンスターだ。

 見れば、紅里は一度拳を強く握り締め。

 

「……私の、負けですね~」

 

 そう、微笑んだ。

 

「ああ。――サイバー・エンド・ドラゴンでダイレクトアタック!! エターナル・エヴォリューション・バーストォッ!!」

 

 紅里LP4000→0

 

 そのLPが0を刻む。

 決着は、ここで着いた。

 

「いいデュエルだった。ありがとう」

「こちらこそ~」

 

 歩み寄り、笑顔で握手を交わす。

 互いに全てを出し切ったデュエルだった。会場からは、ただただ惜しみない称賛の拍手が送られる。

 

「ですが、まだまだ終わりじゃないですよ~?」

 

 笑みを浮かべ、亮へとそう言葉を紡ぐ紅里。亮が怪訝な表情を浮かべると、笑みのまま紅里はモニターへと視線を向けた。

 

「私たちには、頼りになる後輩がいますから」

 

 頂点同士の戦いは、〝帝王〟に軍配が上がった。

 だが、戦いは未だ継続している。

 

 勝者、アカデミア本校三年、丸藤亮。

 ――アカデミア本校、二勝目。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 相手は一度大きく深呼吸をすると、ゆっくりとこちらを見据えてきた。これが彼なりの覚悟の定め方なのだろう。

 

「俺のターン、ドロー!……モンスターをセット、カードを一枚伏せてターンエンドだ!」

 

 相手――万条目準はそう宣言した。ほう、と烏丸澪は笑みを浮かべる。

 

「一ターン目は様子見か。ならば、私のターン。ドロー。……私は手札より、『魔轟神レイヴン』を召喚。効果発動。一ターンに一度、手札を任意の枚数捨てることで捨てた枚数につきレベルと攻撃力が400ずつアップする。私は『暗黒界の軍神シルバ』を捨てる。シルバはカード効果によって捨てられたため、特殊召喚される」

 

 魔轟神レイヴン☆2→3光・チューナーATK/DEF1300/1000→1700/1000

 暗黒界の軍神シルバ☆5闇ATK/DEF2300/1400

 

 二体のモンスターが並び立つ。澪は微笑を称えたまま、軽く手を振った。

 

「レベル5、暗黒界の軍神シルバにレベル3、魔轟神レイヴンをチューニング。――深淵に座す王よ、その欲望が欲するままに敵を喰らえ。さあ、降臨せよ。――『魔轟神ヴァルキュルス』」

 

 迅雷が轟き、一柱の魔王が顕現する。

 かつての戦争において、事実上戦局を最悪の状況まで混乱させる原因を作った者。

 己が快楽がために、他者を殺戮した忌避すべき存在。

 

 

 魔轟神ヴァルキュルス☆8光ATK/DEF2900/1700

 

 

 醜悪な笑みを浮かべ、〝王〟の背後に堂々と。

 その存在は、屹立していた。

 

「更にヴァルキュルスの効果を発動。一ターンに一度、手札の悪魔族モンスターを捨てることでカードを一枚ドローできる。私は『魔轟神クシャノ』を捨て、ドロー。――バトルだ、ヴァルキュルスでセットモンスターへ攻撃」

「セットモンスターは『おジャマ・ブルー』だ! このモンスターが戦闘で破壊された時、デッキから『おジャマ』カードを二枚手札に加えることができる! 俺は『おジャマカントリー』と『おジャマジック』を手札に加える!」

「良い一手だ。――私はカードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

 笑みと共に宣言する。ヴァルキュルスもまた、口元に笑みを浮かべていた。

 ただ、その笑みの意味は大きく違ったが――

 

「囀るな、欲望の王。この場において貴様の語る時間はない」

 

 静かに、呟くように〝王〟が告げる。その言葉の意味がわかったのだろう、万丈目がごくりと唾を呑み込んだ。

 

「どうした? キミのターンだ。安心するといい。これは闇のゲームではなく、殺し合いでもない。ただのゲームだよ。ただキミは、己の持てる全力を紡げばいいだけだ」

 

 対峙した者でしか、きっとわからないだろう。

 この圧倒的で、絶対的な雰囲気。島に滞在している際の彼女は誰かを害することなどなかったし、むしろ戦いに赴く者たちを気遣うことさえしていた。故に、知る機会がなかったのだ。

 一度彼女と対峙したならば、そこに見出せる答えは一つだけ。

 ただ、相手に敗北という結末だけを。

 それだけしか、ないのだ。

 

「……ッ、俺のターン、ドロー! おジャマ・カントリーの効果を発動! おジャマジックを捨て、墓地からおジャマ・ブルーを蘇生する! そしておジャマジックが墓地へ送られたことにより、イエロー、グリーン、ブラックの三体を手札に加える!――『融合』を発動! 三体の雑魚共を融合し、来い、『おジャマ・キング』!!」

 

 おジャマ・ブルー☆2光ATK/DEF0/1000→1000/0

 おジャマ・キング☆6光ATK/DEF0/3000→3000/0

 

 現れるのは、おジャマの王。ほう、と澪が吐息を零した。

 

「おジャマ・キングがいる限り、相手はモンスターゾーンを三つ封じ込められる! そしておジャマ・カントリーは場におジャマが存在する時、フィールド上のモンスター全ての攻守を反転させる!!」

 

 ヴァルキュルスの守備力は僅か1700。このままでは容易く突破されるが――

 

「バトルだ! おジャマ・キングでヴァルキュルスへ攻撃!」

「……良い一手だ。ただ、一つ。過ちがあったとすれば――」

 

 澪の場の伏せカードが開かれる。

 現れたのは――永続罠、『デモンズ・チェーン』。

 

「――〝王〟の名で、私に挑んだことだ」

 

 無数の鎖によって動きを封じられれるおジャマ・キング。ぐっ、と万丈目が呻いた。

 

「俺はターンエンドだ!」

「私のターン、ドロー。――ヴァルキュルスの効果を発動。手札の『魔轟神クルス』を捨て、カードを一枚ドローする。そしてクルスが捨てられた時、墓地からレベル4以下の魔轟神を一体、蘇生する。私は魔轟神レイヴンを蘇生。更に魔法カード『手札抹殺』を発動。私は四枚のカードを捨て、四枚ドロー」

「くっ、俺は四枚捨て、四枚ドロー」

 

 万丈目の捨てたカードの中には、『速攻のかかし』が含まれていた。成程、あれで防ぐつもりだったか。

 

「私が捨てた四枚は、『暗黒界の龍神グラファ』、『暗黒界の術師スノウ』、『暗黒界の狩人ブラウ』、『暗黒界の軍神シルバ』だ。スノウの効果で暗黒界の門を手札に加え、ブラウの効果で一枚ドロー。グラファの効果でおジャマ・ブルーを破壊し、シルバは自身の効果で蘇生される。そしてシルバを手札に戻し、グラファを蘇生」

 

 暗黒界の龍神グラファ☆8闇ATK/DEF2700/1800

 

 一瞬で手札が七枚となる。澪は言葉を続けた。

 

「さあ、準備は整った。――レベル8、暗黒界の龍神グラファにレベル2、魔轟神レイヴンをチューニング。さあ、いざ仰ぐといい。これが天に覇を唱えし蒼天の龍――『天穹覇龍ドラゴアセンション』だ」

 

 まるで無限であるかのように広がる、蒼穹。

 底から舞い降りるのは、純白の神々しさを纏う龍。

 

 天穹覇龍ドラゴアセンション☆10光ATK/DEF?/3000→8600/0

 

 その圧倒的な攻撃力に万丈目が目を剥く。澪は微笑と共に言葉を紡ぐ。

 

「ドラゴアセンションはシンクロ召喚成功時、手札の枚数×800の攻撃力となる。本来なら5600だが、今回の場合、キミのおジャマ・カントリーの効果により、ドラゴアセンションの攻守が反転した状態からその効果が適用される」

 

 蒼天に座す、覇者の龍。

 その威容は、正しく相対する者の心を震わせる。

 

「聡明なキミならば気付いているだろうが、私はまだ通常召喚を行っていない。更に『暗黒界の門』が手札に加わっている上、シルバもまた手札にある。更なるモンスターの展開は可能だ。その伏せカードも、こうして破壊できる。――『サイクロン』を発動」

「くっ、『リビングデットの呼び声』が……!」

 

 これで万丈目を守るカードは存在しなくなった。

 

「一思いに終わらせよう。ドラゴアセンションで、おジャマ・キングを攻撃」

 

 万丈目LP4000→-4600

 

 そして、デュエルが終わる。

 それは至極当たり前の結末だったはずだった。今の万丈目準では、〝最強〟には及ばない。それは彼自身とて理解していたのだ。

 

「くそぉッ……!」

 

 拳を握り締め、彼は呟いた。

 絶対的な差だ。烏丸澪という存在は、今の一手でそれだけのモノを見せつけた。

 多くの者はそれで心折れたし、膝を屈してしまった。

 

「俺は……!」

 

 だが、この者は心が折れていない。

 

(面白い)

 

 彼が語った、〝最強〟になるという意志は。

 決して、偽りではなかったのだ。

 

「今日のこの敗北を、悔しいと思うのならば」

 

 一枚のカードを投げ渡しつつ、澪は言う。

 

「いずれ、私を倒しに来るといい」

 

 背を向け、言い放つ。

 投げ渡されたカードを受け取った少年は、ただ黙してその背を見つめていた。

 

 勝者、アカデミアウエスト校三年、烏丸〝祿王〟澪。

 ――ウエスト校、一勝目。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 歓声が聞こえてくる。モニターに視線を送ると、十代と亮が勝利し、万丈目が敗北したところだった。

 

「……一勝、二敗か。リードされた経験はIHでもなかったな」

 

 ポツリと呟くのは、眼前に立つ相手――沢村幸平だ。現在彼の場にカードは存在せず、手札こそ四枚あるがそれだけだ。

 だが、その背後には不気味に揺らめく七つの灯が浮かんでいる。

 

「『魔導戦士ブレイカー』でダイレクトアタックだ!」

「手札より『速攻のかかし』を捨て、バトルを無効に。そしてバトルフェイズは終了となる」

 

 苦渋の想いでの宣言も、こうして容易く防がれる。ぐっ、と三沢大地は唇を強く引き結んだ。

 

 三沢LP4000

 沢村LP2000

 

 LPを見れば三沢の方が上。だが、それを喜ぶことはできない。減じている2000ポイントという数字は、彼が削ったモノではないからだ。

 

 魔導戦士ブレイカー☆4闇ATK/DEF1600/1000

 魔導戦士ブレイカー☆4闇ATK/DEF1600/1000→1900/1000

 ヴェルズ・サンダーバード☆4闇ATK/DEF1650/1050→1950/1050

 

 三沢の場に並ぶ三体のモンスター。今回彼が使用しているのは所謂『メタビート』に属するデッキだ。一枚一枚、カードパワーが高いカード群を用いてビートダウンを行うスタンダートなデッキである。

 更に伏せカードは二枚あり、それぞれ『奈落の落とし穴』と『聖なるバリア―ミラーフォース―』である。通常ならば頼りになるカードだが、この相手にはあまりにも相性が悪過ぎた。

 

「……ターンエンドだ……!」

「俺のターン、ドロー」

 

 沢村の背後に灯る灯火の数がまた一つ、増えた。これで数は――八つ。

 

「魔法カード『一時休戦』を発動。互いのプレイヤーはカードを一枚ドローし、次のお前のエンドフェイズまでありとあらゆるダメージが0となる。ターンエンドだ」

 

 灯火の数が増える。これで――九つ。

 

「俺のターン、ドロー。……カードを伏せ、ターンエンドだ」

 

 灯火の数が増える。数は――十。

 

「俺のターン、ドロー。……カードを伏せて、ターンエンド」

 

 灯火の数は、十一。

 

「俺のターン、ドロー! ブレイカーの効果を発動! 自身の魔力カウンターを取り除き、伏せカードを破壊する!」

「チェーン発動だ。罠カード『和睦の使者』」

「くっ……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

 灯火の数は、十二。

 

「俺のターン、ドロー。カードを伏せ、ターンエンド」

「エンドフェイズ、伏せカード『サイクロン』を発動! その伏せカードを破壊」

「『威嚇する咆哮』が破壊される」

 

 灯火の数は、十三。

 

「俺のターン、ドロー! バトル、ブレイカーでダイレクトアタック!」

「『バトル・フェーダー』。このモンスターを特殊召喚し、バトルフェイズを強制終了する」

「くっ……ターンエンド、だ」

 

 灯火の数は、十四。

 

「俺のターン、ドロー。『ゼロ・ガードナー』を召喚。ターンエンド」

 

 灯火の数は、十五。

 

「俺のターン、ドロー! 魔法カード『地砕き』を発動!」

「さっきも同じことをしただろうに。ゼロ・ガードナーを生贄に捧げ、効果発動。このターン俺のモンスターは戦闘破壊されなくなり、更にダメージも0となる。まあ、今回はダメージだけだが」

「俺は……ターンエンドだ」

 

 灯火の数は、十六。

 

「俺のターン、ドロー。……カードを一枚伏せ、『カードカーD』を召喚。効果発動、カードを二枚ドローし、エンドフェイズとなる」

 

 灯火の数は、十七。

 

「俺のターン、ドロー!」

「スタンバイフェイズ、『覇者の一喝』を発動。相手スタンバイフェイズにのみ発動でき、相手はこのターンバトルフェイズを行えない」

「……ッ、カードを一枚伏せ、ターンエンド……!」

 

 灯火の数は、十八。

 

「俺のターン、ドロー。……『ゼロ・ガードナー』を召喚」

 

 その瞬間、『詰み』であることを三沢は悟った。

 あの灯火を止める術が――ない。

 

「さて、打つ手はあるか?」

「俺のターン、ドロー!」

「ゼロ・ガードナーを生贄に捧げ、効果を発動――」

 

 だが、サレンダーはしなかった。それだけはしてはならなかった。

 その矜持を汲んでくれたのだろう。相手は最後まで、サレンダーを薦めることはしなかった。

 

 そして、二十の灯火が沢村の背後で渦を巻く。

 

 終焉は、ここに訪れた。

『終焉のカウントダウン』――特殊勝利という暴力が、相手を一度も傷つけることなく、勝者を決める。

 

「IHで、俺たちは先輩たちに何度も助けられた。その恩返しってわけじゃないが……ここで負けることは、ありえない」

 

 有り得てはいけない――そう言い切ると同時に、ソリッドヴィジョンが消えていく。

 三沢は、一度俯くと、くそっ、と呟いた。

 

「……やっぱり、全国は広いですね」

「そうだな。俺でも勝てない人は、大勢いた」

「まだまだ、研究が足りないか」

 

 苦笑を零し、三沢は手を差し出す。その手を沢村が握り返すと、彼は深々と頭を下げた。

 

「ありがとう、ございました……!」

「……こちらこそ、だ。恨み言をぶつけない奴は、身内以外じゃお前が久し振りだったよ」

 

 勝者、ウエスト校二年、沢村幸平。

 ――ウエスト校、二勝目。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 状況は五分。残る戦場は三つ。

 否が応にもプレッシャーを感じる現状。しかし、藤原雪乃には関係ない。

 

「私の先行、ドロー。手札より『リチュア・アビス』を召喚。召喚・反転召喚・特殊召喚成功時にデッキからアビス以外の守備力1000以下のリチュアを手札に加える。私は『シャドゥ・リチュア』を手札に加え、更にシャドウ・リチュアの効果を発動。このカードを捨て、デッキから『リチュアの儀水鏡』を手札に加える」

 

 リチュア・アビス☆2水ATK/DEF800/500

 

 サメの頭を持つモンスターが現れる。儀式カテゴリ『リチュア』――儀式使い自体が珍しいためか、相手である最上真奈美が眉をひそめる。ふふっ、と雪乃は笑みを浮かべた。

 

「私はカードを二枚伏せ、ターンエンド」

「私のターンです、ドロー。……手札より、『イエロー・ガジェット』を召喚。効果により、『グリーン・ガジェット』を手札に加えます」

 

 イエロー・ガジェット☆4地ATK/DEF1200/1200

 

 ガジェット――単純であるが故にそれだけ安定した強さを持つカテゴリーだ。更に、と最上は言葉を紡ぐ。

 

「手札の『グリーン・ガジェット』と『マシンナーズ・フォートレス』を捨て、マシンナーズ・フォートレスを特殊召喚」

「リバースカード、オープン! 罠カード『激流葬』! フィールド上のモンスターを全て破壊!」

 

 マシンナーズ・フォートレス☆7地ATK/DEF2500/2000

 

 マシンナーズの主力兵器も、しかし、激流には逆らえない。

 フィールドが空く。だが最上は特に感情を見せぬまま、淡々と手を進めた。

 

「私はカードを二枚伏せ、ターンエンドです」

「私のターン、ドロー」

 

 対し、雪乃も余裕の笑みを崩さない。共に見目麗しき美少女だが、その表情は大きく違った。

 

「悪いけれど……私も負けたくない。一気に決めさせてもらうわね。手札より『リチュア・ビースト』を召喚。召喚成功時、墓地からレベル4以下のリチュアを蘇生するわ。私はシャドウ・リチュアを蘇生」

 

 リチュア・ビースト☆4水ATK/DEF1500/1300

 シャドウ・リチュア☆4水ATK/DEF1200/1000

 

 二体のモンスターが場に並ぶ。更に、と雪乃は言葉を紡いだ。

 

「シャドウ・リチュアは水属性モンスターの儀式召喚に使用する際、このカード一枚で生贄の条件を満たせるわ。私はリチュアの儀水鏡を発動。――降臨せよ、『イビリチュア・ジールギガス』!!」

 

 轟音が響き、地の底よりそれは現れる。

 打ち砕かれ、地を這いながら。それでも尚、本能によって蘇った一つの魔王。

 

 イビリチュア・ジールギガス☆10水ATK/DEF3200/0

 

 凄まじい方向を響かせ、その魔王が力を示す。

 

「……レベル、10」

「驚くところはそこじゃあないわ。――ジールギガスの効果を発動! LPを1000ポイント支払い、カードを一枚ドローする! それが『リチュア』カードだった場合、フィールド上のカードを一枚デッキに戻す! 私はLPを1000ポイント支払うわ!」

「それは通しません。速攻魔法『禁じられた聖杯』。攻撃力を400上昇させる代わりに、モンスターの効果を無効にします」

「あら、残念」

 

 雪乃LP4000→3000

 イビリチュア・ジールギガス☆10水ATK/DEF3200/0→3600/0

 

 フフッ、と笑みを零す雪乃。けれど、と彼女は言葉を紡いだ。

 

「この攻撃が通れば私の勝ち――。バトルよ、リチュア・ビーストでダイレクトアタック」

「罠カード発動、『リビングデットの呼び声』。墓地の『グリーン・ガジェット』を蘇生し、効果発動。『レッド・ガジェット』を手札に」

 

 グリーン・ガジェット☆4地ATK/DEF1400/600

 

 現れる歯車のモンスター。あら、と雪乃は微笑んだ。

 

「その程度じゃあ、私の攻撃は防げないわよ。ビーストの攻撃を続行、そしてジールギガスでダイレクトアタック!!」

「――――ッ」

 

 最上LP4000→3900→300

 

 最上のLPが大きく削り取られる。雪乃はターンエンド、と宣言した。

 

(最上真奈美……彼女の『除去ガジェット』は有名。確かにアドバンテージの稼ぎ合いなら向こうに分があるわ。けれど、私の伏せカードはモンスターの破壊を伏せぐ『我が身を盾に』だし、手札には『速攻のかかし』がある)

 

 相手のデッキに爆発力はないはずだ。ならば、次のターンで――

 

「……ふう」

 

 ふと、相手が零した吐息に。

 雪乃は、自身の背中が凍えたのを感じた。

 

「手札より、『レッド・ガジェット』を召喚。効果により、イエロー・ガジェットを手札に。――魔法カード、『トランス・ターン』発動。モンスター一体を墓地へ送り、そのモンスターと同種族、同属性でレベルが一つ高いモンスターを特殊召喚します」

 

 墓地へ送られたのはレッド・ガジェットだ。

 レベル5、地属性、機械族。

 現れる、モンスターは。

 

「使いたくは、ありませんでしたが。――這い出でよ『サイバー・オーガ』」

 

 サイバー・オーガ☆5地ATK/DEF19001200

 

 現れたのは、鬼の姿を持つ機械のモンスター。

『サイバー』の名を持つ〝鬼〟の登場に、会場がざわめいた。

 

「バトルです。サイバー・オーガでビーストに攻撃。その瞬間、手札の『サイバー・オーガ』の効果を発動。このカードを捨てることでサイバー・オーガの戦闘を一度だけ無効とし、更に攻撃力を2000アップします」

 

 サイバー・オーガ☆5ATK/DEF1900/1200→3900/1200

 

 鬼の攻撃力が上昇する。だが、戦闘はこれで終わりだ。

 

「……それじゃあ、私には届かないようだけれど?」

「ご心配頂かずとも大丈夫です。――速攻魔法『ダブルアップ・チャンス』。攻撃が向こうとなったモンスターを、もう一度攻撃力を倍にして攻撃可能とします」

「…………ッ!?」

「ご容赦を。これ以上続けると、私が不利になるようでしたので」

 

 サイバー・オーガ☆5ATK/DEF1900/1200→3900/1200→7800/1200

 

 攻撃力、7800。

 ある意味で『サイバー』の名に相応しい力を宿したその鬼が、その全力を以て敵を喰らう。

 

「お疲れ様でした」

 

 優雅な一礼。それと共に。

 

 雪乃LP3000→-3300

 

 敗北者が、決定した。

 

「常に支えられてきたのが私たちです。ならばここが、唯一の恩返しの時。……敗北は、できません」

 

 最後まで表情を変えずに言い切った最上の言葉に、ふっ、と雪乃は笑みを零した。そして。

 

「ああ、悔しいわね……」

 

 小さく、彼女は呟いた。

 

 アカデミアウエスト校、三勝目。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

続々と決着がついていく中、IHにおいて大将の立ち位置にいた菅原雄太は笑みを浮かべた。その表情は酷く嬉しそうである。

 

「頼りになる後輩共やなぁ。これなら来年も心配なさそうや」

「おや、それは勝ちを譲ってくれるということかい?」

 

 先行の菅原がカードをドローすると同時に、天上院吹雪がおどけるように肩を竦める。阿呆、と菅原は笑った。

 

「折角自分レベルの相手とやり合えるんや、最初っから最後まで――全開や!!」

 

 何年も待った。かつて追い続けた背中。IH団体戦において頂点に立ったからこそ、その背に手を伸ばそうと思った。

 

(戦績は少しの負け越し程度でも、〝帝王〟と〝プリンス〟は悔しいけど俺より格上や)

 

 だが、それで諦めたくはない。

 強くなりたいと願い、戦い続けた日々は嘘ではなく。

 自分を慕ってくれる後輩たちに、胸を張って会うために。

 

「魔法カード『光の援軍』! デッキトップから三枚のカードを墓地へ送り、ライトロードを一枚手札に加える! 俺は『ライトロード・サモナー ルミナス』を手札に加え、守備表示で召喚!」

 

 落ちたカード→ネクロ・ガードナー、光の招集、ライトロード・パラディンジェイン

 ライトロード・サモナールミナス☆3光ATK/DEF1000/1000

 

 デッキトップからカードが墓地へ送られ、加えられたモンスターを菅原は手札に加える。更に、と言葉を紡いだ。

 

「ルミナスの効果を発動! 『ライトロード・アサシンライデン』を捨て、ライデンを蘇生! 更にライデンの効果により、デッキトップから二枚墓地へ送る!」

 

 ライトロード・アサシンライデン☆4光・チューナーATK/DEF1700/1000

 落ちたカード→ソーラー・エクスチェンジ、オネスト

 

 落ちたカードに僅かに眉を寄せ、菅原はターンエンドを宣言する。その瞬間、二体のモンスターの効果が発動した。

 

「ルミナスとライデンの効果を発動、デッキトップから五枚墓地へ送る」

 

 落ちたカード→ブレイクスルー・スキル、ライトロード・ビーストウォルフ、ライトレイ・ギアフリード、裁きの龍、創世の預言者

 

「ウォルフは自身の効果により、蘇生される」

 

 ライトロード・ビーストウォルフ☆4光ATK/DEF2100/800

 

 展開が完了する。運の要素が強いと言われるライトロードだが、菅原はだからこそ強いと考えている。元々複雑なコンボを考えるのは苦手で、デュエルになれば相手の対応について頭を悩ませるのが精一杯なのが現実だ。故にこそ、菅原雄太はライトロードが自身に一番合っていると考える。

 その戦法は、いつだってシンプルでわかり易く、直接的であるからこそ。

 

「……昔から変わらないようだね、キミは」

「そう言う自分は変わったようやな。獣戦士はどうしたんや」

「色々あったのさ。――さあ、思い出話はここまでだ。僕のターン、ドロー!」

 

 吹雪がカードをドローする。そして笑みと共に一枚のカードを発動した。

 

「キミ相手に出し惜しみは悪手だ。最初から全開でいくよ。――魔法カード『真紅眼融合』を発動! このカードを発動したターン、このカードの効果以外での召喚・特殊召喚ができなくなる代わりに手札・フィールド以外にデッキのモンスターを用いてレッドアイズとの融合を可能とする!」

「デッキ融合やて!?」

「僕はデッキの『真紅眼の黒竜』と『デーモンの召喚』で融合! 迅雷纏いて降臨せよ、『悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン』!!」

 

 轟音が響き渡り、一筋の雷が大地に落ちた。

 ソリッドヴィジョン――それはわかっている。だが、この威圧感は本当に映像なのかと疑いたくなるほどだ。

 

 悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン☆9闇ATK/DEF3200/2500

 

 王子の背後で翼を広げるその悪魔は、一種の神々しささえ纏っている。

 

「さあ、バトルフェイズだ――」

「ネクロ・ガードナーの効果を発動や! このターン、俺は一度だけ相手の攻撃を無効にできる!」

「むっ……」

「悪魔竜は攻撃時にこっちの動きを封じる効果がある。せやけど、ネクロ・ガードナーの発動タイミングはほぼフリーチェーンや。これは無効にできひんよ」

「バレていたか。ならば僕はカードを二枚伏せ、モンスターをセット。ターンエンドだ」

「俺のターンや、ドロー!」

 

 カードを引く菅原。そして引いたカードを確認し、確信する。

 動くならば――ここだ。

 

「ルミナスの効果を発動! 手札を『ライトロード・アーチャーフェリス』を捨て、フェリスを蘇生! そしてレベル3、ルミナスにレベル4、フェリスをチューニング! シンクロ召喚!! 『ライトロード・アークミカエル』!!」

 

 ライトロード・アーチャーフェリス☆4光・チューナーATK/DEF1100/2000

 ライトロード・アークミカエル☆7光ATK/DEF2600/2000

 

 現れるのは、大天使の姿をした竜に乗るライトロード。その能力は、その姿に違わず強力だ。

 

「ミカエルの効果や! LPを1000ポイント支払い、相手フィールド上のカードを一枚除外する!」

「それは通さない! 罠カード『スキル・プリズナー』だ! 対象を取るモンスター効果が発動した時、その効果を無効にする!」

「ちっ、やっぱりか――せやけど、読んでたでその程度は! 俺はレベル4、ウォルフにレベル4、ライデンをチューニング! シンクロ召喚! 『ライトエンド・ドラゴン』!!」

 

 ライトエンド・ドラゴン☆8光ATK/DEF2600/2100

 

 現れたのは、光の竜だ。祇園も用いることのある、強力な効果を持つドラゴン。

 

「ライトエンドは戦闘時、自身の攻守を500下げる代わりに相手の攻守を1500ダウンさせる効果を持っとる。コイツを相手に攻撃力で超えようと思ったら、3600以上の攻撃力が必要やで」

「ふふっ、それはどうかな? 悪魔竜は戦闘時、ありとあらゆる相手の妨害を許さない。多くのモンスターは自身の攻撃時のみに相手を封じ込めるけど、悪魔竜は相手が挑んできた時にさえ相手を封殺する」

 

 真紅眼融合のデメリットは大きいが、それを補って余りある効果だ。多くのモンスターが正面からの殴り合いではこのモンスターに敗北するだろう。

 

「ふん、出し惜しみはなし。全開でいく言うたはずやぞ。――墓地のブレイクスルー・スキルの効果を発動! このカードを除外し、相手モンスターの効果を無効にする! さあこれで道は空いた――ライトエンドで攻撃や!」

「――――ッ!」

 

 吹雪LP4000→3600

 

 吹雪のLPが削られる。更に、と菅原は言葉を紡いだ。

 

「ミカエルでセットモンスターを攻撃!」

「『カーボネドン』が破壊される」

 

 カーボネドン☆3地ATK/DEF800/600

 

 吹き飛ぶのは、小型の恐竜族モンスターだ。げっ、と菅原の表情に苦味が奔る。

 

「……俺はターンエンドや。ミカエルの効果が無効になっとるから、効果は不発になる」

「僕のターン、ドロー。魔法カード『紅玉の宝札』を発動。手札の『真紅眼の黒炎竜』を捨て、デッキからの枚カードをドローする。更にその後、デッキから『真紅眼の黒竜』を墓地へ。更に墓地のカーボネドンの効果を発動。このカードを除外し、デッキからレベル7以下の通常ドラゴンを特殊召喚するよ。――来い、三枚目の『真紅眼の黒竜』!!」

 

 真紅眼の黒竜☆7闇ATK/DEF2400/2000

 

 現れるのは、かの伝説が一角城之内克也が使用した可能性の竜。

 ステータスを見れば確かにブルーアイズには及ばないものの、成程確かに威圧感がある。

 

「更に永続罠『真紅眼の凱旋』を発動! 場にレッドアイズがいる時、墓地の通常モンスターを蘇生できる! 僕は通常モンスター扱いとなっている真紅眼の黒炎竜を蘇生し、再度召喚! デュアル効果を得る!」

 

 真紅眼の黒炎竜☆7闇ATK/DEF2400/2000

 

 流れるような展開。吹雪は更に手札を使用する。

 

「そして黒鋼竜の効果を発動! レッドアイズモンスターに手札・フィールドから装備でき、攻撃力を600アップする! これにより、黒炎竜の攻撃力を3000に!」

「……ッ、ミカエルを超えられたか」

「いくよ、バトルだ。――黒炎竜でミカエルへ攻撃! 破壊だ! そして黒炎竜が攻撃したバトルフェイズ終了時、黒炎竜の元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」

「はっ――――!?」

 

 菅原LP3000→2600→200

 

 一気に菅原のLPが削り取られる。野郎、と菅原が笑みを零した。

 

「やってくれるやんけ……!」

「キミ相手にLPを残すわけにはいかないからね」

 

 肩を竦める吹雪。だが、はっ、と菅原は笑みを零した。

 

「この程度、どうってことあらへんわ! 『ジュラゲド』を特殊召喚! 自分または相手ターンのバトルステップに特殊召喚でき、LPを1000回復する!」

 

 菅原LP200→1200

 

 現れたモンスターの効果により、菅原のLPが回復する。吹雪はくっ、と呻いた。

 

「僕はターンエンドだ」

「俺のターンや、ドロー!――来てくれたか、『裁きの龍』!!」

 

 裁きの龍☆8光ATK/DEF3000/2600

 

 降臨するのは、ライトロード最強の切り札だ。墓地のライトロードが四種類以上という条件でしか特殊召喚できないものの、その効果はまさしく強力無比。

 

「ジュラゲドの効果を発動! 生贄に捧げ、裁きの龍の攻撃力を次のターンのエンドフェイズまで1000上げる! そしてLPを1000支払い、効果発動!! 裁きの龍以外のカードを全て破壊する!! ジャッジメント・ゼロ!!」

 

 場の全てを更地にする、強力なリセット効果。この効果故に、ライトロード最強の切り札と謳われる。

 菅原LP1200→200

 

「『黒鋼竜』の効果を発動! デッキから『真紅眼の黒炎竜』を手札に加える! 更に『真紅眼の凱旋』の効果を発動! このカードが破壊された時、レッドアイズを蘇生する!」

「それがどうした! 裁きの龍で攻撃や!」

「くっ――」

 

 吹き飛ぶレッドアイズ。最強の龍は、その名に違わず圧倒的な力を行使する。

 

「俺はカードを二枚セット、ターンエンドや。エンドフェイズ、裁きの龍の効果でデッキからカードを四枚墓地へ送る」

 

 落ちたカード→ライトロード・マジシャンライラ、オネスト、創世の預言者、ライトロード・アーチャーフェリス

 

 ライトロード・アーチャーフェリス☆4光ATK/DEF1100/2000

 

 菅原のLPは残り200。しかし、フィールドには攻撃力4000の裁きの龍。

 対し、吹雪のLPは残り3600。手札は四。しかし、場には何のカードもない。

 

「僕のターン、ドロー!……さあ、決着を着けよう」

「上等や。全力で潰したる」

「それはこちらの台詞だよ。――魔法カード『死者蘇生』発動! 甦れ、『真紅眼の黒竜』! 更に真紅眼の黒竜を生贄に捧げ――『真紅眼の闇竜』を特殊召喚!!」

 

 真紅眼の闇竜☆9闇ATK/DEF2400/2000→4200/2000

 

 現れるは、闇纏う漆黒の竜。更に、と吹雪は言葉を紡ぐ。

 

「魔法カード『紅玉の宝札』を発動! 『真紅眼の黒炎竜』を墓地に送り、更にデッキからも『真紅眼の黒炎竜』を墓地に送って二枚ドロー! 手札より『黒竜の雛』を召喚! そして魔法カード『ミニマム・ガッツ』を発動!! 黒竜の雛を生贄に捧げ、裁きの龍の攻撃力を0にする!!」

 

 真紅眼の闇竜☆9闇ATK/DEF2400/2000→5100/2000

 裁きの龍☆8光ATK/DEF3000/2600→4000/2600→0/2600

 

 更に上昇する攻撃力。対し、裁きの龍の攻撃力は0となる。

 

「さあ、バトルだ!! ダークネスドラゴンで裁きの龍を攻撃!! ダークネス・メガフレア!!」

「ナメンな〝プリンス〟!! 罠カード『光子化』!! 相手モンスターの攻撃を無効にし、その攻撃力を俺のモンスターに加える!!」

 

 裁きの龍☆8光ATK/DEF0/2600→5100/2600

 

 力を失っていた龍が、方向と共に天高く舞い上がる。応じるようにダークネスドラゴンも舞い上がり、両者は天空で睨み合う。

 

「――読んでいたよ、菅原くん」

 

 だが、〝プリンス〟は揺らがない。

 

「キミが真っ向勝負に拘ることは知っているし、覚えている。あの亮を相手に最後まで正面からの殴り合いに拘ったのはキミだけだ。どれだけ愚かと笑われようと、その信念を貫き通したキミを僕は尊敬している」

「……だからなんや?」

「だから、このカードを切り札にした。――速攻魔法、『ダブル・アップ・チャンス』!! 攻撃を無効にされたモンスターをもう一度攻撃可能とし、更にダメージステップの間攻撃力を倍にする!!」

 

 真紅眼の闇竜☆9ATK/DEF5100/2000→10200/2000

 

 咆哮と共に天高く上昇していくダークネスドラゴン。いけ、と吹雪は宣言した。

 

「可能性の竜――その真価をここに示せ! ダークネス・インパクト!!」

 

 一万を超えた攻撃力。決まった、と誰もが思った。

 

「光の龍を打ち砕け!!」

 

 一撃が迫る。だが、その瞬間に。

 

「――負けて、たまるかァ!! 罠カード、『光の招集』!! 手札を全て捨て、捨てた枚数と同じ数の光属性モンスターを手札に加える!!」

 

 捨てた手札は一枚。そして、墓地に眠るのは――

 

「ダメージ計算開始時、『オネスト』の効果を発動や!!」

 

 

 響き渡る轟音。同時、天より一体の竜が堕ちてくる。

 

 

 真紅眼の闇竜☆9闇ATK/DEF10200/2000

 裁きの龍☆8光ATK/DEF15300/2000

 菅原LP200

 吹雪LP-1700

 

 勝者が決定される。ふう、と菅原は息を吐いた。

 

「……光子化超えてくるとかどういうことやねん」

「対応したキミが言うことじゃないだろう?」

「まあ、せやけど」

 

 肩を竦める菅原。吹雪は苦笑した。

 

「それにしても、これで五分になったか」

「ブランクある人間に負けると俺らの沽券に関わるからなぁ」

「まあ、後はアスリンに期待しようかな」

 

 そう言うと、振り返る吹雪。その吹雪に、そういえば、と菅原は言葉を紡いだ。

 

「アカデミア本校はワンキル推奨でもしとんのか?」

「ん、どうしてだい? 亮なんかは結果的にそうなっているけど、特にそういう戦術に特化して教えているわけではないよ?」

「そうなんか。ふむ」

 

 納得したように頷く菅原。そして彼は、ポツリと呟いた。

 

「……アイツを矯正したんは、正解やったか」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「……歪んでいた、だと?」

 

 二条紅里が呟いた言葉に、丸藤亮は眉をひそめた。はい、と紅里が画面を見つめながら言葉を紡ぐ。

 

「元々、ぎんちゃんのデュエルのスタイルはカウンター型。相手の手を耐えて、耐えて、分析して、その中で勝機を見出すモノでした。けれど、ウエスト校に戻って来た時、そのスタイルは大きく変わっていて……」

 

 最初に気付いたのは菅原だ。まるで己を顧みないかのような全力の展開と、攻勢。リスクとリターンの天秤が釣り合っていない状態での攻撃。

 その姿は、まるで。

 

「……何かを怖がっているみたい、って、ゆーちゃんは言ってて~……」

 

 詳しくは聞いていないが、澪から聞いた話によると祇園は相当厳しい戦いに身を投じていたのだという。そこでは敗北は許されず、故にこそ最短距離で相手を制圧することが必要だった。

 

「……そう、か」

 

 ポツリと、呟くように頷く亮。きっと心当たりがあるのだろう。だが、彼の心配は杞憂だ。

 

「でも、もう大丈夫です」

 

 団体戦は一人の戦いではない。それを、紅里たちは彼にしっかりと伝えた。

 

「ぎんちゃんは、強くなりましたから」

 

 曰く、〝シンデレラ・ボーイ〟。

〝ルーキーズ杯〟を皮切りに、あまりにも短い時間で全国クラスにまで名を馳せた一年生。メディアにおいて彼はそう評された。実際、傍目から見ればそう思えるだろう。多くの者に支えられ、彼はあそこに立っているのだから。

 だが、そもそもだ。

 灰被り姫――シンデレラの物語とは、一つの前提が存在している。

 

「――魔法使いがシンデレラに与えたのは、城に赴く手段だけだ。容姿も、ダンスの力も、話す力も、魔法使いは何一つ与えなかった……いや、違うな。施さなかった」

 

 不意に、第三者の言葉が響いた。現れたのは、〝王〟の名を持つ〝最強〟が一角。

 

「何故なら、シンデレラにはすでにステージで輝くだけの素養があったのだから」

 

 楽しそうに彼女は笑っていた。どこか誇らしげでさえある。

 

「みーちゃん、お疲れ様~」

「うむ。見ていたよ。惜しかったな」

「ごめんなさい~」

「構わんさ。……さて、キミもデータでなら知っているのだろうが、今の少年はセブンスターズとの戦いの時とは大きく違う。かつては薄く鋭い、切れ味だけのナイフしか少年は持っていなかった。しかし今は違う。ナイフの技術はそのままに、新たな武器を手に入れた」

 

 モニターに映る少年の表情は、いつも通り緊張に染まっている。だが、そこには不安と自信が同時に宿っていた。

 

「凱旋だ。魅せてみろ、少年。その真価を」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 相手のデッキはBF。純粋な展開力とそこから紡がれる攻撃力は相当なレベルだ。特に厄介なのがシンクロモンスター群であり、どのモンスターも面倒な効果を持っている。

 

「先行は僕です、ドロー。……モンスターをセット、カードを二枚伏せてターンエンド」

「私のターンよ、ドロー。……手札から永続魔法『黒い旋風』を発動。更に『BF―蒼炎のシュラ』を召喚。この瞬間、黒い旋風の効果を発動。BFの召喚成功時、デッキからその攻撃力以下のBFを手札に加えるわ」

「リバースカード、オープン。速攻魔法『サイクロン』。黒い旋風を破壊」

 

 BF―蒼炎のシュラ☆4闇ATK/DEF1800/1200

 

 BFのエンジンとも言える黒い旋風を破壊する。永続魔法は場になければ効果を発揮しないのだ。明日香は眉をひそめるが、バトル、とすぐに宣言した。

 

「シュラでセットモンスターを攻撃!」

「セットモンスターは『ドラゴン・ウイッチ―ドラゴンの守護者―』。手札の『ガード・オブ・フレムベル』を捨て、破壊を無効に」

 

 ドラゴン・ウイッチ☆4闇ATK/DEF1500/1100

 

 戦闘破壊時に効果を発揮するシュラも、戦闘破壊ができなければどうしようもない。

 

「……私はカードを一枚伏せ、ターンエンドよ」

「僕のターン、ドロー。……『増援』を発動、『ドッペル・ウォリアー』を手札に加え、『ジャンク・シンクロン』を召喚、効果でガード・オブ・フレムベルを特殊召喚し、墓地からのモンスターの特殊召喚に成功したため、ドッペル・ウォリアーを特殊召喚」

 

 ジャンク・シンクロン☆3闇・チューナーATK/DEF1300/800

 ガード・オブ・フレムベル☆1炎・チューナーATK/DEF100/2000

 ドッペル・ウォリアー☆2闇ATK/DEF800/800

 

 場に合わせて四体ものモンスターが並ぶ。だがその瞬間、炎に包まれた怪鳥が場を焼いた。

 

「シンクロはさせないわ! 罠カード発動、『ゴッドバード・アタック』! シュラを生贄に捧げ、ジャンク・シンクロンとガード・オブ・フレムベルを破壊!」

「…………ッ」

 

 チューナーモンスターが二体とも破壊される。流石にシンクロを使っているだけはある。どこを潰せばいいか、的確に判断してきた。

 

「僕は魔法カード『死者転生』を発動。手札の『魔轟神獣ケルベラル』を捨て、『ジャンク・シンクロン』を手札に。そして手札から捨てられたため、ケルベラルを蘇生」

 

 魔轟神獣ケルベラル☆2光・チューナーATK/DEF1000/800

 

 チューナーが場に出た。選択肢はいくつかある。だが、相手の伏せカード。アレを考えると……。

 

(召喚反応系じゃない。そうなると……)

 

 安全策を取る。まずは相手の出方を見る必要がありそうだ。

 

「レベル4、ドラゴン・ウイッチとレベル2、ドッペル・ウォリアーにレベル2、魔轟神獣ケルベラルをチューニング。――闇を、切り裂け――『閃光竜スターダスト』」

 

 閃光竜スターダスト☆8風ATK/DEF2500/2000

 

 星屑の龍が降臨する。バトル、と祇園は宣言した。

 

「スターダストでダイレクトアタック!」

「……ッ」

 

 明日香LP4000→1500

 

 明日香のLPが大きく削られる。祇園はターンエンド、と宣言した。

 

「私のターン、ドロー!……二枚目の黒い旋風を発動! そして手札より『BF-極北のブリザード』を召喚! 召喚成功時、墓地からレベル4以下のBFを特殊召喚する! 『BF―蒼炎のシュラ』を特殊召喚! 更に黒い旋風の効果により、デッキから『BF-上弦のピナーカ』を手札に!――レベル4、蒼炎のシュラにレベル2、極北のブリザードをチューニング! シンクロ召喚! 『BF-月影のノートゥング』!!」

 

 月影のノートゥング☆6闇ATK/DEF2400/1600

 

 現れるのは、大きな剣を持ったBFだ。その効果は正しく強大である。

 

「ノートゥングの特殊召喚成功時、相手モンスターの攻守を800下げ、更に相手LPに800ダメージを与える。更にノートゥングの効果により、BFの召喚権が増える。ピナーカを召喚、更に黒い旋風の効果により『BF-白夜のグラディウス』を手札に。魔法カード『闇の誘惑』を発動。カードを二枚ドローし、手札から闇属性モンスターを除外。『白夜のグラディウス』を除外し、場にBFが存在するため『BF―黒槍のブラスト』を特殊召喚! そしてレベル4、黒槍のブラストにレベル3、上弦のピナーカをチューニング! シンクロ召喚!! 天を舞いなさい、漆黒の翼! 『BF-アーマード・ウイング』!!」

 

 BF-上弦のピナーカ☆3闇・チューナーATK/DEF1200/1000

 BF―黒槍のブラスト☆4闇ATK/DEF1700/800

 BF-アーマード・ウイング☆7闇ATK/DEF2500/2000

 

 この圧倒的なまでの展開力こそがBFの強みだ。しかも、まだ終わっていない。

 

「更に残夜のクリス自身の効果によって特殊召喚!!」

 

 BF-残夜のクリス☆4闇ATK/DEF1900/300

 

 場に並ぶ三体の黒鳥。その力は、正しく強大だ。

 しかも、これで手札は二枚残っているのだから恐ろしい。疾風の翼、BF――その力はやはり相当なものである。

 

「バトル、ノートゥングでスターダストを攻撃!」

「スターダストの効果により、一度だけ破壊から守る!」

「アーマード・ウイングで追撃! そしてクリスでダイレクトアタック!!」

「……!!」

 

 祇園LP4000→3300→2500→600

 

 祇園のLPが大きく削られる。

 

「私はピナーカの効果を発動。デッキから『BF―月影のカルート』を手札に加え、ターンエンド」

 

 明日香がターンエンドを宣言すると、祇園は静かにカードをドローした。

 

「僕のターン、ドロー。相手フィールド上に飲みモンスターが存在する時、デュエル中一度だけ『アンノウン・シンクロン』を特殊召喚できる。そしてジャンク・シンクロンを召喚、効果発動。墓地からドッペル・ウォリアーを蘇生。――レベル2、ドッペル・ウォリアーにレベル3、ジャンク・シンクロンをチューニング。シンクロ召喚。『ジャンク・ウォリアー』」

 

 アンノウン・シンクロン☆1闇ATK/DEF

 ジャンク・ウォリアー☆5闇ATK/DEF2300/1300→3100/1300

 ドッペル・トークン☆1闇ATK/DEF400/400

 ドッペル・トークン☆1闇ATK/DEF400/400

 

 現れるのは、ジャンクの戦士だ。更に祇園は手を進める。

 

「レベル1、ドッペル・トークンにレベル1、アンノウン・シンクロンをチューニング。『フォーミュラ・シンクロン』。シンクロ召喚成功時、一枚ドロー」

 

 フォーミュラ・シンクロン☆2光・チューナーATK/DEF200/1500

 

 引いた手を札を確認する。そして、祇園はバトル、と宣言した。

 

「ジャンク・ウォリアーでノートゥングへ攻撃!」

「その攻撃は通るわ」

 

 明日香LP1500→800

 

 互いにLPが1000を切る。祇園はカードを一枚伏せると、ターンエンドを宣言した。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 明日香がカードをドローする。そして、手札のカードをデュエルディスクに差し込んだ。

 

「魔法カード『精神操作』を発動! フォーミュラ・シンクロンのコントロールを奪うわ!」

「フォーミュラ・シンクロンの効果を発動! 相手ターンのメインフェイズ時に、フォーミュラ・シンクロンを用いてシンクロ召喚ができる!――集いし願いが、新たに輝く星となる! 光差す道となれ! シンクロ召喚、飛翔せよ『スターダスト・ドラゴン』!!」

 

 スターダスト・ドラゴン☆8風ATK/DEF2500/2000

 

 星屑の竜が降臨する。だが、想定内、と明日香は呟いた。

 

「アーマード・ウイングでスターダスト・ドラゴンを攻撃! 相討ちよ!」

「リバースカード、オープン。――罠カード『バスター・モード』」

 

 一陣の風が、夢神を祇園を中心に駆け抜ける。

 その風は竜巻となり、星屑の竜が新たな進化を遂げる一助となる。

 

 スターダスト・ドラゴン/バスター☆10風ATK/DEF3000/2500

 

 セブンスターズとの戦いを終えた祇園たちには、今回の件の侘びとして理事長である影丸から様々な援助が行われた。

 その中で祇園に渡されたカードの内の一枚だ。事実上彼にしか使用が許されていないモンスター。

 

「攻撃力3000……!?」

「…………」

「けれど、その程度なら。アーマード・ウイングで攻撃! その瞬間、手札の『月影のカルート』の効果を発動! このカードを捨てることで、ダメージステップ時に攻撃力を1400ポイントアップする!」

「その瞬間、スターダストの効果発動! 相手の魔法・罠・モンスター効果が発動した時、このモンスターを生贄に捧げることでその発動と効果を無効にする!」

 

 ありとあらゆる効果をシャットダウンする圧倒的な無効効果。くっ、と明日香が呻いた。

 

「私はカードを一枚伏せてターンエンド!」

「エンドフェイズ、スターダスト・ドラゴン/バスターが帰還する! そして僕のターン、ドロー! 魔法カード『貪欲な壺』を発動! 閃光竜スターダスト、ジャンク・ウォリアー、ジャンク・シンクロン、魔轟神獣ケルベラル、フォーミュラ・シンクロンをデッキに戻し、二枚ドロー!――今、墓地の闇属性モンスターはドラゴン・ウイッチ、ドッペル・ウォリアー、アンノウン・シンクロンの三体! 『ダーク・アームド・ドラゴン』を特殊召喚!!」

 

 ダーク・アームド・ドラゴン☆7闇ATK/DEF2800/1000

 

 闇に染まった、鎧の竜。その咆哮が、大気を揺らす。

 

「ダーク・アームド・ドラゴンの効果を発動! 墓地のジャンク・シンクロンを除外し、セットカードを破壊!」

「『ミラーフォース』が破壊されるわ……!」

「アンノウン・シンクロンを除外し、残夜のクリスを破壊!」

 

 これで明日香のフィールドはがら空きになった。バトル、と祇園が宣言する。

 

「スターダスト・ドラゴン/バスターでダイレクトアタック! アサルト・ソニック・バーン!!」

「――――ッ!!」

 

 明日香LP800→-2200

 

 決着が訪れる。ソリッドヴィジョンが消えていくと共に、祇園はゆっくりと頭を下げた。

 

「ありがとう、ございました」

「……強いわね。本当に。今回は、私の負けよ」

 

 僅かに悔しさを滲ませつつ、明日香は言う。そして二人が握手を交わすと同時に、対抗戦は終わりを迎えた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「というわけで、5-2でウエスト校の勝利です~! ハイ拍手~!」

 

 視界の美咲がパチパチと手を打ち鳴らし、会場で大歓声が上がる。参加者たちはステージの上に立ち、その称賛を受け止めている。

 

「菅原さん、次俺とデュエルしようぜ!」

「いや待てや十代。その前に俺には先約があるんや」

「ふん、菅原雄太といったな。貴様はこの俺、万丈目サンダーが――」

「勝負や〝帝王〟! 二条の敵討ちや!」

「私死んでないよ~?」

「貴様ァ! 開始前の挑発は何だったんだ!?」

「いいだろう。こちらも吹雪の仇だ」

「じゃあ僕は二条さんと……」

「なんや二条とデュエルするんか王子様は?」

「いや、お茶でもどうかなと思ってね」

「…………兄さん……」

「あはは~、ごめんなさい~」

「……即答で断ったようだな」

「まあ、気持ちは何となくわかります」

「じゃあ祇園! デュエルしようぜ!」

「うん、いいよ。僕の方からお願いしたいくらい」

「いやあんたらそれ閉会式終わってからにしてや」

 

 あまりの自由っぷりに美咲が素でツッコミを入れる。だが全員聞いていない。

 

「……ま、ええか。それでは、今日のお祭はここで幕! お疲れ様でした~!」

 

 強引に締めにかかる美咲。会場中から拍手の音が響き渡り、それと共に対抗戦の幕が下りる。

 こうして、長い一日が終わった。

 

 

 

 …………。

 ……………………。

 ………………………………。

 

 

 

「ウエスト校に来たのは少年にとっていいことだったようだな」

「そうみたいですねー。ええ先輩に恵まれましたわ、祇園は」

「菅原雄太……彼は面倒見も良いし、コミュニケーション能力も高い。正直、あのメンバーを実質的にまとめているのは彼だ。後は山崎壮士だな。少年の歪みをきっちり矯正した」

「アレはウチも気になっとったんですけどね。本校に残るならどうにかしよう思てたんですけど」

「セブンスターズとの戦い。自分自身を過小評価し過ぎる嫌いのある少年ならばあの結論に行き着いてもおかしくはない」

 

 以前の祇園は一手一手を丁寧に、ギリギリで紡ぎ上げるデュエルをしていた。だがここ最近は初手からのリスクを無視した全力展開を行い、勝負を急ぎ過ぎているきらいがあった。

 だが、それも仕方がないと言える。敵は強大であり、実力も未知数。そんな相手に勝つためには、勢いで潰し切るしかなかったのだ。

 

「だがそれも変わった。強くなったよ、少年は」

「はい。本当に、強くなりました」

 

 どこか嬉しそうに、二人は笑う。

 

 

 祭が終わり、物語は新たな詩を刻んでいく。

 ずっと、こんな日々が続けばいい――きっと、誰もがそれを願っていた。

 ――けれど。

 いつだって、危機は音を立てずに忍び寄る――……




随分遅くなってすみません。
これと次の小話で、とりあえず第一期は終了。ようやくの第二期に入ります。
お付き合いいただけると幸いです。




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