遊戯王GX―とあるデュエリストたちの日々― 作:masamune
今回はミスターサー先生、まことにありがとうございます。
DMの競技人口はかなり多い。それこそ老若男女問わず多くの人間が触れ、生活の一部と化しているくらいだ。
それ故に子供でもDMに触れる者は多く、カードショップにはいつも子供たちの笑い声が響いている。
だが、DMには複雑な側面もあるためかどうしても子供と大人では実力に差が出てしまう。それこそ『史上最年少プロ』桐生美咲や『史上最速のタイトルホルダー』烏丸〝祿王〟澪といった例外もいるが、逆に彼女たちが取り沙汰されるというくらいに差があるのも現実だ。
そのことから、開かれる大会は時としてU-15という縛りを設けることがある。中学生以下――つまりはジュニア大会に出る資格がある者のみを対象とする大会だ。
全国ジュニア選手権の選考会としても行われることは多いが、それとは別に子供たちに『楽しんでもらう』ことを目的とする場合も多い。
現に、今回大阪で行われるU-15大会の会場も子供たちの笑顔と笑い声で溢れていた。
「兄ちゃん、この効果処理どないすんの?」
「えっと、同時に処理するからチェーンが組まれるんだよ。どっちもターンプレイヤーの発動したカードだから、チェーンの順番は好きに組める」
「夢神さん、なんかエアーマンの効果使えへんって言われたんやけど……」
「リビングデッドの呼び声をサイクロンにチェーンしたの? わかりにくいかもしれないけど、それだと発動しないんだ。『タイミングを逃す』っていって、エアーマンの効果は任意効果……まあ、『できる』であって『する』じゃないから、サイクロンの処理のせいで使えないんだ」
「お姉ちゃん、オネストと収縮の処理がわからへん……」
「えっとね~、収縮は元々の攻撃力を半分に下げるだけだからアップ分は変動しないんだよ~」
「あっ、揃いました!」
「へっ? 揃たって、自分さっきからドローばっか……」
「エクゾディアです!」
「はぁ!? マジで!? え、嘘やろ!?」
大会開始前のフリーデュエル。大人の大会だとここで自分の手の内を明かしたくないという者も多く、大会によってはギスギスした空気が漂うこともあるが、純粋にデュエルを楽しみにして参加している子供たちにとってはむしろこの時間こそが一番楽しいのだろう。
普段澪が小さなカードショップで月1000円というほとんどボランティアに近い感覚で開いているデュエル教室。そこに通う子供たちと妖花を連れ、夢神祇園はウエスト校の先輩でもある二条紅里と共に大会の会場に来ていた。
「みんな元気だね~」
「デュエル教室の子たちは人見知りもしませんから……凄いですよね」
初対面であり、それこそ年上であっても何の躊躇もなく声をかけてデュエルをする姿には感心してしまう。初対面の人間と話すことが苦手な祇園としては彼らのそういう姿勢は本当に尊敬するし、羨ましいとさえ思う。
未だに人と関わることには恐怖を覚えてしまうから。
「そういえば、今日はありがとうございます。無理を言って来て頂いて……」
「いいよ~。みーちゃんにも頼まれたしね~」
「ですが、予定があったんじゃ」
「ゆーちゃんに誘われてたけどね~。断ってきたよ~」
あはは、と笑う紅里。男泣きする菅原の姿が一瞬脳裏を過ぎり、すぐに消えた。
元々今日は保護者の役割として自分と澪が来る予定だったのだが、澪がペガサス会長に呼び出されて東京に行ってしまったので急遽紅里に頼んだのだ。
とはいえ、元々は澪と紅里が中心になってやっていた教室なので、祇園の方がおまけなのだが。
「あっ、そろそろ時間みたいだね~」
「みたいですね。初心者のデュエル教室も終わったみたいですし」
「配布デッキはガジェットだったかな?」
「美咲がCMで出しているものですね。ちょっと高いですけど、ワンセット揃ってて強いと思います」
「ガジェットがそもそも強いからね~。〝決闘王〟は勿論、柊プロが国際大会で強さを証明したから……」
「WCSは日本代表惜しかったですね……」
「やっぱりアメリカは強いよね~」
チーム戦による四年に一度のワールドカップ。今回はDDも参戦し日本代表は優勝を狙ったが、惜しくもアメリカ代表に敗れてしまった。ちなみに澪は「興味がない」の一言で参加していない。らしいといえばらしい。
とはいえ澪は日本でも世界でもランキングは下位なので――そもそも大会に出ていないのでランキングが上がる機会が少ない――選出されても結局出場するのは難しそうではあるが。
「じゃあ、観客席に移りましょうか」
「うん、そうだね~」
スタッフの誘導に従って会場に向かっていく子供たちに激励の言葉を送り、客席へと歩いていく祇園と紅里。妖花もそうだが、デュエル教室の子供たちは澪の教えを受けているためか――澪本人は基本的なことしか言っていないとのこと――同年代の子たちより強い印象がある。実際、祇園が負けることも普通にあるくらいだ。
妖花は妖花で相変わらずのドロー運でエクゾディアを揃えるし、優勝は十分狙えるように思う。
規模としては百人以上が参加しているスイスドロー方式。優勝賞品はこの間祇園が美咲と共にデモンストレーションをした場で発表された新パックを1boxだ。この規模にしては賞品があまり効果ではないが、U-15ということを考えれば妥当だろう。
「そういえばぎんちゃん、本校に行くんだよね~?」
「そうしないと進級ができなくて……」
「でも、戻ってこれるんだよね?」
「……どう、なんでしょう?」
足を止め、紅里の言葉に対してそう返答を返す。
戻れることは嬉しいと思う。だが、何故かしっくりこない。
あの日、負けてはならなかった戦いで敗北し。
あの場所から立ち去った時。澪と出会ったあの日に。
「戻って、戻って、戻って……そんなことを繰り返してもいいのかなって、そう思うんです」
何もかもを、諦めてしまったはずだから。
「うーん、それはぎんちゃんが決めることだから」
こちらを振り返り、苦笑を浮かべる紅里。彼女は右手の人差し指を顎に当て、言葉を続ける。
「みーちゃんはきっと戻って来て欲しいと思う。でもね、ぎんちゃん。私もゆーちゃんも、みーちゃんも……卒業しちゃうんだよ?」
新たに来る者がいれば、去る者もいる。
それは……当たり前のこと。
「でも、本校にはぎんちゃんの友達もたくさんいるよね? それは大事なモノ。……国大は無理だけど、インターハイなら出れそうだからぎんちゃんと一緒に出れたらいいな~、って思うけどね~。でもそれはきっと、我がままだから……」
こちらに背を向ける紅里。そのまま、だから、と彼女は言葉を紡いだ。
「後悔だけは、しちゃダメだよ。……私はね、見ちゃってるんだ~。どうしようもなくて、どうにもならなくて……選択を間違え続けちゃった人を」
それが誰の事なのか。聞くべき気がして、だけど……聞けなかった。
「だから、ぎんちゃんがちゃんと納得できる答えを出さなくちゃ」
「……納得」
その言葉を、噛み締める。
「頑張って」
紅里の言葉に、はい、と頷いた。
◇ ◇ ◇
自販機で飲み物を買い、一息吐く。予選が終わり、もうすぐ決勝リーグが始まる状況だ。
流石というべきか、妖花はエクゾディアで見事に勝ち進んでいる。十六人の決勝リーグ進出者にはデュエル教室の子供たちも他に四人も進んでおり、大健闘といえる。
……ちなみに負けしてしまった子たちを先程まで慰めていたので、少々大変だった。
「夢神」
不意に自分を呼ぶ声が聞こえてきた。顔を上げると、そこにいたのはアカデミアにおいて〝帝王〟と呼ばれるデュエリスト。
――丸藤亮。
「丸藤先輩?」
予想外の人物に、驚きながら軽く頭を下げる。亮はああ、と頷いた。
「夢神も来ていたのか」
「はい。デュエル教室の手伝いの関係で……」
「そういえばそんなことを言っていたな」
頷く亮。祇園が同じ質問を返すと、亮は会場の様子を映したモニターを見ながら言葉を紡いだ。
「サイバー流の門下生が参加しているからその応援だ。こちらにも来る予定があってな。丁度良かった」
「そうだったんですか……」
「それでだ、夢神。お前に声をかけた理由だが――」
「――それについては俺から説明させてもらおうかな」
横手から不意に声が聞こえてきた。見れば、そこにいたのはスーツを着た長身の男性だ。
随分と年若いが、どことなく漂う雰囲気には貫禄がある。
「えっと……」
「おっと、自己紹介がまだだったか。ロイ・スターリーだ。災害地用強化アーマーを専門に造らせてもらっている……まあ、技術者だ」
言いつつ、ロイがこちらへと名刺を手渡してくる。祇園が受け取ったそれには、『代表取締役』と書かれていた。
「夢神、祇園です」
そのことに驚きつつ、何度も頭を下げる。ロイはああ、と頷いた。
「知っているよ。〝ルーキーズ杯〟と発表会は見せてもらった」
「あ、ありがとうございます」
「そこでだ。……我が社をスポンサーに付けるつもりはないか?」
「スポンサー……?」
いきなりの言葉に首を傾げる。ロイはああ、と頷いた。
「いずれプロになった際、我が社をスポンサーとして欲しい」
「え、えっと……いきなり過ぎて……」
「まあ、それはわかっている。現実的な話としてはそこの丸藤くんと、後は先程会場で見かけた二条くんに優先的に話すつもりだったからな。できれば遊城十代――彼とも話をしたかったが、それは次の機会か」
うんうんと頷くロイ。そのまま彼は、では、と言葉を紡いだ。
「一つ、力を見せて欲しいが……構わないかな?」
「デュエル、ですか?」
「大会でも発表会でも実に素晴らしかったが、やはり直にぶつかってみるのが一番なのは間違いない。デュエリストならばデュエルを見るのが一番だ」
「俺も同じ名目で先程デュエルをした」
亮がそう言葉を紡ぐ。祇園は一度会場を移しているモニターに視線を向け、わかりました、と頷いた。
「良い返事だ。――いくぞ」
デュエルディスクを構える。会場の一角、休憩室で行われるデュエル。
周囲の者たちが集まり始める中、二人のデュエルが始まった。
「――決闘!!」
◇ ◇ ◇
「先行は俺だ、ドロー!」
ロイがカードをドローする。正直、相手の手の内がわからないので慎重にいきたいところだが、あまり悠長にいき過ぎると瞬殺される可能性もある。
「俺は手札より、速攻魔法『手札断札』を発動する。互いのプレイヤーは手札を二枚捨て、カードを二枚ドロー」
手札の『ドッペル・ウォリアー』と『レベル・スティーラー』を墓地に送る。正直ドッペル・ウォリアーについては手札に持っておきたかったが、この手札では仕方がない。
「俺はモンスターをセット、更にカードを二枚伏せてターンエンドだ」
「僕のターン、ドロー」
初手で守備モンスターというのは常套手段だ。さて、どうするか――
「相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない時、このモンスターは特殊召喚できる。『TGストライカー』を特殊召喚。更にレベル4以下のモンスターの特殊召喚に成功したため、『TGワーウルフ』を特殊召喚」
TGストライカー☆2地・チューナーATK/DEF800/0
TGワーウルフ☆3闇ATK/DEF1200/0
召喚権なしで展開される二体のモンスター。祇園は更なる一手を叩き込む。
「レベル3、TGワーウルフにレベルTGストライカーをチューニング! シンクロ召喚! 『TGハイパー・ライブラリアン』!」
TGハイパー・ライブラリアン☆5闇ATK/DEF2400/1800
現れるは、白き法衣を纏う魔術師。シンクロデッキにおけるエンジンとも呼べるモンスターだ。
「そして、『ジャンク・シンクロン』を召喚。召喚成功時、墓地からレベル2以下のモンスターを効果を無効にして特殊召喚できる。墓地の『ドッペル・ウォリアー』を特殊召喚。更にライブラリアンのレベルを一つ下げ、『レベル・スティーラー』を特殊召喚」
ジャンク・シンクロン☆3闇・チューナーATK/DEF1300/500
ドッペル・ウォリアー☆2闇ATK/DEF800/800
レベル・スティーラー☆1闇ATK/DEF600/0
TGハイパー・ライブラリアン☆5→4闇ATK/DEF2400/1800
再び並ぶ、二体のモンスター。理想的な回り方とは言い難いが、仕方がない。
「レベル2、ドッペル・ウォリアーとレベル2レベル・スティーラーにレベル3、ジャンク・シンクロンをチューニング。シンクロ召喚! 『ドリル・ウォリアー』!」
ドリル・ウォリアー☆6地2400/2000
右手に巨大なドリルを装備したモンスターが姿を現す。優秀な効果を持つ戦士モンスターだ。
(……トークンが出せるけど、攻撃力400のモンスターが二体並ぶだけになる……。相手のデッキがわからない以上、安全策でいくしかない)
大ダメージを受ける可能性は出来るだけ減らしておきたい。そのためにドリル・ウォリアーという保険を用意したのだから。
「バトルフェイズ。――ライブラリアンでセットモンスターを攻撃!」
「セットモンスターは『ギアギアーマー』だ。このカードがリバースした時、デッキからこのカード以外の『ギアギア』と名の付いたモンスターを手札に加えることができる。『ギアギアーセナル』を手札に」
ギアギアーマー☆4地ATK/DEF1100/1900
――機械族!
セットモンスターを見、祇園は相手のデッキをそう結論付ける。それもギアギア――展開力とリカバリー力に優れたカテゴリーだ。
だが、ここはまだ踏み込むべき場所だ。
「ドリル・ウォリアーでダイレクトアタック!」
「ぐっ……!」
ロイLP4000→1600
伏せカードは反応がない。こちらを邪魔する類のカードではないのだろうか。
「メインフェイズ2、ドリル・ウォリアーのレベルを一つ下げて『レベル・スティーラー』を守備表示で特殊召喚し、手札の『ダンディ・ライオン』を捨てて『ドリル・ウォリアー』を除外。ダンディ・ライオンが墓地に行ったことで綿毛トークンを二体特殊召喚します」
レベル・スティーラー☆1闇ATK/DEF600/0
綿毛トークン☆1地ATK/DEF0/0
綿毛トークン☆1地ATK/DEF0/0
とりあえず、壁は確保できた。ここから相手はどんな手を打ってくるのか……。
「俺のターン、ドロー。……成程、〝ルーキーズ杯〟はまぐれではないようだ。ならば、こちらも全力をお見せしよう。――罠カード『ギアギアギア』を発動! デッキよりギアギアーノと名の付いたモンスターを二体、特殊召喚する! そしてこのカードの効果で特殊召喚されたモンスターはレベルが一つ上がる! 『ギアギアーノ』を二体特殊召喚!」
ギアギアーノ☆3→4地ATK/DEF500/1000
ギアギアーノ☆3→4地ATK/DEF500/1000
たった一枚のカードから現れる、二体のモンスター。使うだけでアドバンテージを取れる強力なカードだ。
「更にギアギアーノの効果だ。このカードを生贄に捧げることで、墓地に存在するレベル4モンスターを一体特殊召喚できる。『トラップ・リアクター・RR』を特殊召喚!」
トラップ・リアクター・RR☆4闇ATK/DEF800/1800
現れる機械のモンスター。手札断札で墓地に送っていたのだろうが、聞き覚えのないモンスターの登場に、祇園は眉をひそめる。ロイは更に続けた。
「更に残るもう一体のギアギアーノを生贄に捧げ、『サモン・リアクター・AI』を召喚!」
サモン・リアクター・AI☆5闇ATK/DEF2000/1400
二体目のモンスター。名前に共通点があることから察するに、何か効果があるのだろうか。
「更に魔法カード『アイアンコール』 を発動。自分フィールド上に機械族モンスターがいるとき、墓地からレベル4以下の機械族モンスターを特殊召喚できる。俺は『マジック・リアクター・AID』を特殊召喚。ただし、このカードで特殊召喚されたモンスターは効果は無効になり、エンドフェイズに破壊される」
マジック・リアクター・AID☆3闇ATK/DEF1200/900
再び、似たような名を持つモンスターが現れる。一体このモンスターたちは何なのか。疑問に思う擬音を他所に、ロイがバトルフェイズの開始を宣言する。
「バトルだ。マジック・リアクターとトラップ・リアクターで綿毛トークンを破壊。そしてサモン・リアクターでライブラリアンに攻撃!」
「…………ッ!」
攻撃力の劣っているモンスターで攻撃してくる。その理由は一つしかない。
「わかっているようだな。手札より速攻魔法『リミッター解除』を発動! 機械族モンスターの攻撃力を二倍とし、その代償としてエンドフェイズに自壊する!」
サモン・リアクター・AI☆5闇ATK/DEF2000/1400→4000/1400
祇園LP4000→2400
ライブラリアンが破壊される。それを見届けると、ふん、とロイは笑った。
「そしてメインフェイズ2。サモン・リアクターの効果を発動。このカードとトラップ・リアクター、マジック・リアクターの三体を墓地に送ることで、デッキ・手札・墓地より『ジャイアント・ボマー・エアレイド』を特殊召喚する!」
ジャイアント・ボマー・エアレイド☆8風ATK/DEF3000/2500
現れるは、巨大なロボットモンスターだ。圧倒的な威圧感と気配を漂わせ、そこに屹立している。
「俺はターンエンドだ。さあ、どうする?」
その背に、巨大な戦闘機を従えて。
男は、微笑を零した。
◇ ◇ ◇
巨大なモンスターが放つ凄まじい威圧感に、祇園は知らず息を呑んでいた。『ジャイアント・ボマー・エアレイド』――聞き覚えのないカードだが、あれほどの難度が高い条件を持つ以上厄介な効果を抱えているはず。
「僕のターン、ドロー。スタンバイフェイズ、ドリル・ウォリアーが戻ってきます。更にドリル・ウォリアーの効果によりジャンク・シンクロンを手札に」
いずれにせよ、動くしか手段はない。
「『ジャンク・シンクロン』を召喚し、『ドッペル・ウォリアー』を蘇生!」
ジャンク・シンクロン☆3闇・チューナーATK/DEF1300/500
ドッペル・ウォリアー☆2闇ATK/DEF800/800
一枚からシンクロに持っていけるのはやはり強力だ。そのまま、いつものように手を打つ。
「レベル2、ドッペル・ウォリアーにレベル3、ジャンク・シンクロンをチューニング! シンクロ召喚! 『A・O・Jカタストル』!!」
A・O・Jカタストル☆5闇ATK/DEF2200/1200
現れるは、戦争の最中に産まれたとされる兵器。闇属性以外のモンスターを問答無用で破壊する効果を持つモンスターだ。
相手モンスターの属性は風。これならば破壊できると思ったが――
「ジャイアント・ボマー・エアレイドの効果を発動! 相手がモンスターの召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる! そのモンスターを破壊し、相手に800ポイントのダメージを与える!」
「…………ッ!?」
祇園LP2400→1600
カタストルが吹き飛ばされ、祇園のLPが削り取られる。相手モンスターの召喚・特殊召喚をトリガーとし、それを破壊してダメージまで与えるモンスター。
(……ッ、強力だ……。どうする……?)
このままでは刈り取られる。何か手を講じなければ――
「機械には目が無くてね。出す条件は厳しいが、出すことさえできればその制圧力は圧倒的だ」
見せてみろ、とロイは言う。祇園は一度息を吸い、効果発動、と言葉を紡いだ。
「ドリル・ウォリアーは攻撃力を半分にすることでダイレクトアタックすることができる。ドリル・ウォリアーでダイレクトアタック!」
「ほう……!」
ロイLP1600→400
あと一撃――そんなところまで追い詰める。
「そしてメインフェイズ2、墓地の『TGワーウルフ』を除外して『輝白竜ワイバースター』を守備表示で特殊召喚。更に手札の『スポーア』を捨て、ドリル・ウォリアーを除外」
輝白竜ワイバースター☆4光ATK/DEF1700/1800
このターンだ。ここさえ凌げれば、可能性はある。
「俺のターン、ドロー。……俺は手札の『強化支援メカ・ヘビーウェポン』を捨て、ジャイアントボマーの効果を発動。一ターンに一度、手札を捨てることで相手フィールド上のカードを一枚破壊できる。ワイバースターを破壊!」
「手札の『エフェクト・ヴェーラー』の効果を発動! 相手のメインフェイズのみに発動でき、このカードを捨てることで、相手フィールド上の表側表示モンスター一体の効果をエンドフェイズまで無効にする!」
手札誘発モンスターとして、おそらくは今後かなり重宝されるようになるであろうカードだ。このカードの有用性については美咲や澪も認めている。
「成程。ならば俺は『ギアギアーセナル』を召喚」
ギアギアーセナル☆4地ATK/DEF1500/500→1700/500
「バトルだ。アーセナルでレベル・スティーラーを、ジャイアントボマーでワイバースターを攻撃」
二体のモンスターの攻撃により、フィールドががら空きになる。
「ワイバースターの効果により、『暗黒竜コラプサーペント』を手札に」
「俺はギアギアーセナルの効果を発動。このカードを生贄に捧げることで、デッキから『ギアギア』と名の付くモンスターを一体守備表示で特殊召喚できる。『ギアギアーマー』を特殊召喚し、更に効果で裏側守備表示にしてターンエンドだ」
「僕のターン、ドロー! スタンバイフェイズ、ドリル・ウォリアーを特殊召喚!」
「ジャイアントボマーの効果により、破壊。800ポイントのダメージを受けてもらう」
祇園LP1600→800
やはりというべきか、ドリル・ウォリアーは破壊された。だが、これは『無効』ではなく『破壊』。故に効果自体は発動する。
「僕はドリル・ウォリアーの効果でジャンク・シンクロンを手札へ」
このターンだ。ここでどうにかしなければ、詰む。
(――やれるところまで、やるしかない)
どちらにせよ、できることは知れている。ならば、やれるだけやるだけだ。
「ジャンク・シンクロンを召喚し、効果を発動! 墓地からドッペル・ウォリアーを蘇生! 更にレベル4以下のモンスターの特殊召喚に成功したため、手札より『TGワーウルフ』を特殊召喚!!」
ジャンク・シンクロン☆3闇・チューナーATK/DEF1300/500
ドッペル・ウォリアー☆2闇ATK/DEF400/400
TGワーウルフ☆3闇ATK/DEF1200/500
一瞬で場に並ぶ三体のモンスター。これが真骨頂であり、基本。まずモンスターを並べなければどうにもならない。
「レベル2ドッペル・ウォリアーとレベル3TGワーウルフに、レベル3ジャンク・シンクロンをチューニング!! シンクロ召喚!! 『ジャンク・デストロイヤー』!!」
ジャンク・デストロイヤー☆8地ATK/DEF2600/2500
空より轟音を立てて大地に降り立つは、四本腕の巨大なロボットだ。十代などはこれを見た時目を輝かせていた。
「ジャンク・デストロイヤーの効果発動! シンクロ召喚に成功した時、チューナー以外に素材にしたモンスターの数までフィールド上のカードを破壊できる! 素材は二体、よってリバースモンスターとジャイアント・ボマー・エアレイドを破壊!」
「甘いな、罠カード発動! 『ゲットライド』! 墓地のユニオンモンスター一体を自分フィールド上のモンスターに装備する! 先程墓地に送った『強化支援メカ・ヘビーウェポン』をエアレイドに装備! これにより、破壊をヘビーウエポンが肩代わりする!」
デストロイヤーより放たれた破壊の光を、突如エアレイドに装備された支援メカが弾き飛ばす。これにより、エアレイドは破壊を免れる。
「さあ、どうする?」
「まだです。――ジャンク・デストロイヤーのレベルを一つ下げ、レベル・スティーラーを攻撃表示で特殊召喚!」
ジャンク・デストロイヤー☆8→7地ATK/DEF2600/2500
レベル・スティーラー☆1闇ATK/DEF600/0
頼りない攻撃力。だが、これでいい。
どの道、ここで超えなければどうにもならない。
「墓地のスポーアの効果を発動! デュエル中に一度、墓地の植物族モンスターを除外することで特殊召喚できる! ダンディライオンを除外し、レベル4として特殊召喚!」
スポーア☆4風・チューナーATK/DEF400/800
現れる、緑色の毛玉のようなモンスター。これが、勝利への布石。
「レベル7のジャンク・デストロイヤーに、レベル4スポーアをチューニング!! 星々を喰らう絶対なる竜!! その煌めきを今ここに!! シンクロ召喚!!――『星態龍』!!」
星態龍☆11光ATK/DEF3200/2800
現れたのは、星の煌めきを纏う巨大な竜。
あまりの大きさに、その頭部のみしかソリッドヴィジョンでは拝めない。
「レベル11の……シンクロモンスターだと……?」
「バトルです。――エアレイドに攻撃!!」
放たれるは、星々を喰らう竜の一撃。その圧倒的な一撃に、空を駆る爆撃機もなす術なく粉砕される。
「レベル・スティーラーでダイレクトアタック!!」
ロイLP400→100→-500
ロイのLPが0を刻み。
戦いは、決着を迎えた。
◇ ◇ ◇
「見事なデュエルだった。……俺もまだまだ修行が足りないようだ」
「ありがとうございました」
頭を下げる。ロイは頷き、それでは、と言葉を紡いだ。
「将来的にプロになるなら、今日のことを忘れないで欲しい。……それでは」
ロイが立ち去っていく。それを見送りながら、祇園はもう一度その背に向かって頭を下げた。
これが――決着。
「夢神」
会場に戻らないといけない――そう思っていると、亮が声をかけてきた。〝帝王〟と呼ばれる男はこちらをじっと見つめ、言葉を紡ぐ。
「お前と十代がプロに来る日を待っているぞ。ここでデュエルしたいところだが、友人との約束がある」
そのまま、亮はこの場を立ち去っていく。その背を見送り、祇園は小さく拳を握りしめた。
――プロデュエリスト。
遥か遠い場所だが、少しだけ〝視えた〟気がした。
いついかなる時であれ、世界は個人の事情を慮ることはない。
世界とは、己以外の全てで構成されているのだから。
今回は誠にありがとうございます、ミスターサー先生。ジャイアント・ボマー・エアレイドは一度使いたかったのですがどうもタイミングがなく、こういった形の登場と相成りました。
本当にありがとうございます。
というわけで、出せれば制圧力は高いはずのエアレイドさんです。デザインは好きなんですが、難しいですね。DDBみたいなのが来ても困りますが。
そして折角ということでスポンサーのお話です。今回は少々極端ですが、DMの市場を考えると有望なプロ候補に事前に声をかけるのは大事なお仕事。まあ、祇園くんの場合偶然いたから小中家と乞うくらいの感覚ですが。
ちなみに現時点でドラフトの評価順位は、
新井智紀>>他の大学有名選手≧丸藤亮≧二条紅里≧菅原雄太≧他のアカデミア生>>>>>遊城十代>防人妖花>>夢神祇園
と、こんな感じだったりします。カイザーはやはり高卒では一番人気。一年生の頃から活躍する紅里や、その紅里と同格である菅原もまた有望。十代と妖花ちゃんは大会で見せたドロー運による期待値です。その点、祇園くんは結果こそ出ているも実績は乏しく、二人に劣る状況。
スカウトとしては、十代くんは絶対チェック。祇園くんに関しては今後次第といったところ。アカデミアブランドもあるので。
私生活が忙しく更新がままならない状況ですが、見捨てないでくださると幸いです。
ありがとうございました。
※今回、ドリル・ウォリアーでミスがあります。ジャンク・シンクロンからは出せないです。修正も難しいので、今回は見逃して頂けると幸いです。今後ないように気を付けます。申し訳ありませんでした。