遊戯王GX―とあるデュエリストたちの日々―   作:masamune

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第二十七話 爆炎VS英雄、……愚者の狂想曲

〝ルーキーズ杯〟三日目は、一回戦から大波乱だった。

 二日目に行われた一回戦で、文字通りの『格の違い』を見せつけたプロデュエリストたち。今日も盤石の勝利を掴むものと思われた彼らの一角が、敗北したのだ。

 敗亡したのは、昨年の『新人王』――神崎アヤメ。

 勝利したのは、何の実績もも持たぬ『凡人』――夢神祇園。

 デュエル自体は、終始アヤメの優勢だった。ただ、最後の一手。本当に僅かな可能性に賭けた祇園が勝利したというだけで――

 

「素晴らしいデュエルでしたね。夢神選手の逆転劇は見事でした」

「あそこで決められなければ、その時点で敗北は確定的だった。結果的にはブラフになった伏せカードを目の前にしながら、それでも踏み込んだ少年の勇気の勝利だ」

 

 ルーキーズ杯の実況である宝生アナウンサーの言葉に、烏丸澪は頷きながら応じる。実際、あのまま決められなかったら祇園は敗北していただろう。

 アヤメの使う『剣闘獣』のデッキには、『炎星』というカテゴリのカードも一緒に組み込まれている。終ぞ出てこなかったが、それらのモンスターも並んでいれば洒落にならない状況になっていた。

 

「……全く、やはり面白いな。次々と他人を巻き込んでいく」

 

 飛び抜けた才能があるわけではない。彼自身は平凡な少年だ。だが、その心と強い意志には多くの者が惹かれていく。

 だからこそ、アヤメも最後に微笑を浮かべていたのだろう。

 

「さて、次の試合ですが……注目のプロ対決です」

「〝ヒーローマスター〟響紅葉と、〝爆炎の申し子〟本郷イリア。横浜と福岡はリーグが違うため、二人の対戦経験はないな。イリアくんがプロに入った年から紅葉氏は長期療養に入ったわけだから……」

「かつての全日本チャンプと、桐生プロと並び称され、俗に『桐生世代』と呼ばれる世代の代表的なプロである本郷プロ……」

「30歳以下の所謂『若手』では間違いなく上位の二人だ。特にイリアくんは現日本ランキング32位。今年中に30位以内に入るとも言われている」

「楽しみなデュエルですね」

「全くだ。……さて、興奮冷めやらぬ中、次の試合開始は20分後だ」

「それでは、今後も実況は私、宝生と」

「解説は烏丸でお送りさせてもらう」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 特別観戦席――選手のみが立ち入れる部屋に祇園が入ると、真っ先に遊城十代に声をかけられた。十代はまるでわがことのように喜び、興奮した様子で言葉を紡ぐ。

 

「凄かったぜ祇園! やっぱめちゃくちゃ凄ぇな!」

「あはは……本当にどうにか、だけどね……」

 

 苦笑を零す。危ない橋をいくつも渡り、どうにか渡り切れた。相手次第で終わっていた場面はいくつもいくつもあった。

 それを『幸運』と受け取るか、それとも『実力』と受け取るかは個人の考え方によって違うのだろうけれど……。

 

「今回の勝利は間違いなくあなたのものです。胸を張ってください。そうでないと、負けた私の立場がありません」

 

 振り返ると、そこには祇園の対戦相手であった神崎アヤメが立っていた。彼女は微笑し、今日はありがとうございました、と軽く一礼してくる。

 

「私の未熟の再確認となりました」

「あ、い、いえ! 僕の方こそ、その……勉強になりました。応援されることの意味、ようやくわかった気がします」

 

 応援する側だった頃には、ずっと気付かなかったこと。

 託されるということの意味。

 ……ようやく、一歩だけ彼女へと近付くことができた気がする。

 

「それならば良かったです。やはり後輩の成長を見るのは嬉しいですから」

「そっか、神崎プロはアカデミアの出身なんだもん……です?」

「ふふ、話し難いなら敬語でなくても大丈夫ですよ、遊城さん。……夢神さんは元々は本校の生徒だと伺いましたから。未熟ながらも先輩として、少しだけアドバイスを送らせていただきました。そこから何かを汲み取って頂けたなら、それは何よりです」

「はい。本当にありがとうございました」

 

 頭を下げる。本来なら試合中にわざわざ相手にアドバイスをする義理などないのだ。だが、アヤメは自分に声をかけ、気付かせてくれた。

 背負ったことのないプレッシャーで見失いそうになっていた、夢神祇園の〝強さ〟を。

 自分にできるたった一つの、〝諦めない〟ということを。

 

「そっか、成程な。でもやっぱ、プロって凄ぇなぁ……」

「うん。正直、『戦車』があったら最後の逆転もできなかったんだよね……」

「『戦車』?」

 

 十代が首を傾げる。祇園は頷きを返した。

 

「うん。『剣闘獣の戦車』っていうカードなんだけど……知らない?」

「いや、知らねぇ」

「そ、そう」

「――剣闘獣が場にいる時、相手モンスターの効果の発動を無効にして破壊することができるカウンタートラップです。ご存知でしたか」

「はい。剣闘獣と戦う時には気を付けるカードっていうことで覚えていました」

 

 頷く。祇園のデッキは効果モンスターが主体だ。故に、効果無効の類に関しては細心の注意を払っている。

 まあ、それでもどうしようもない時はどうしようもないが。

 

「って、ちょっと待てよ。ヘラクレイノスは魔法・罠を無効にするんだろ? そんなの無敵じゃねーか!」

「無限に使えるわけじゃないから完全無敵っていうわけじゃないけど……確かに強力だよ」

 

 しかも『剣闘獣の戦車』は『剣闘獣エクイテ』の効果で回収することもできる。故に真の意味で強力無比といえるだろう。『天罰』が似たような効果でありながら手札コストを要求する点からも、その強さはよくわかる。

 

「……そういえば、何故『戦車』がないとあの場面で判断されたのですか?」

 

 アヤメが問いかけてくる。祇園はえっと、と前置きしながら言葉を紡いだ。

 

「『ダーク・アームド・ドラゴン』を『神の警告』で破壊されたのを見て、そう判断しました。『戦車』があるなら効果に対して使った方が相手の墓地を減らせますし、警告も残ってLPを減らすこともないので」

「……成程、素晴らしい洞察力です。益々チームに欲しくなりました。如何ですか、学校を中退して今期ドラフトで『東京アロウズ』に入団するのは? 流石に下位指名になるとは思いますが、便宜を図ることはできますよ?」

 

 事実上のスカウトだ。しかもアヤメの目は本気である。

 プロデュエリスト――それも、『東京アロウズ』という名門チームからの誘いは素直に嬉しい。

 ――けれど。

 

「いえ……その、お誘いは嬉しいのですが……今はまだ、力が足りません」

 

 今日実感した。一度や二度、どうにか勝つことができたとしても、それを恒常的に行うことはできない。

 夢神祇園にとって、プロの世界はあまりに遠い。

 

「そうですか。……では、もし気が変わったならば昨日お渡しした番号にご一報ください。二年後のドラフトではお待ちしています」

「その時に見捨てられていないよう、頑張ります」

 

 苦笑する。二年後、自分が強くなれているかどうか……不安は常に付きまとう。

 だが、アヤメは首を左右に振った。

 

「大丈夫ですよ、あなたなら。……それでは、私はインタビューがありますので、これで。夢神さんも受けておいた方がよろしいと思いますよ。後で捕まりたくないのであれば」

 

 失礼します――そう言って、部屋を出て行くアヤメ。それを見送り、十代がもったいねぇなぁ、と祇園に向かって言葉を紡いだ。

 

「プロになるチャンスだったのにさ。祇園はプロを目指してるんだろ?」

「うん。でも、やっぱり力不足だから。今プロに入っても、活躍できずに引退するのが関の山だよ」

「そうか? 祇園なら大丈夫そうだけどな」

「大丈夫じゃないよ。……正直、勝てたのは奇跡だったんだから」

 

 正直、今でも実感が湧かないくらいだ。『新人王』に勝てたなど。

 ……まあ、次があれば確実に負けるのだろうが。

 

「ふーん。でも、控室も俺たちだけになったなぁ」

「他の人たちはどうしたの?」

「美咲先生は試合終わるとほとんど同時にどっか行っちまったぜ。紅葉さんと本郷プロは試合で、他の人たちは応援席で応援してるみたいだ」

「そっか……そういえば紅里さんと菅原先輩も応援席で見たもんね。じゃあ、僕も応援席に行こうかな?」

「俺もそうしようかな。なあ、祇園。折角だからアカデミアの皆のところに行こうぜ? レッド寮の皆、お前と会いたがっててさ」

 

 部屋を出ながらそんな言葉を交わす。えっ、と祇園は驚きの表情を浮かべた。

 

「いいのかな? 僕、退学になったのに……」

「退学なんて不当なもんだろ。誰も納得してないし、それに皆心配してたんだぜ、祇園のこと。だから行こうぜ」

「……うん。わかった」

 

 頷く。アカデミアの人たちには本当に迷惑をかけた。だから、負い目があったのだが――

 

「その、十代くん。……ありがとう」

「ん? 気にすんなって。友達だろ?」

 

 笑う十代。その背に、もう一度頭を下げた。

 本当に……自分は、恵まれている。

 多くの人に、助けられている。

 ――そして、観客席の方へと歩いていると。

 

「……クロノス先生?」

 

 十代が不意にそんな言葉を紡いだ。ほとんどの来場者が観客席にいるせいで、ロビーにはほとんど人がいない。一応、試合を見ることのできるモニターはあるが……そこにある椅子に一人座る人物は、俯いた状態でモニターから視線を外している。

 

「む……?」

 

 アカデミア本校技術最高責任者――クロノス・デ・メディチが十代の言葉に反応して顔を上げる。そして、祇園へ視線を向けると、勢いよく立ち上がった。

 驚く祇園と十代。クロノスは祇園の前にまで来ると、おお、と言葉を漏らした。

 

「シニョール夢神……本当に、嘘ではなかったノーネ……」

「え、ええと、お久し振りです、クロノス先生……」

 

 若干怯えながら言葉を紡ぐ祇園。正直、この先生に対してそこまでいい印象はない。レッド寮を見下しているし、十代のことを『ドロップアウトボーイ』と呼ぶ教師だ。祇園は直接会話したことがほとんどなかったが、良い評判は聞いていない。

 だが、今目の前にいるクロノスはアカデミア本校にいた頃のクロノスとは印象が全く違った。自信に満ち溢れたいつもの表情は消え、どこか悲しげな表情をしている。

 

「……私をまだ、『先生』とシニョールは呼んでくれるノーネ……?」

「それは……そう、です。だって、お世話になりましたし……」

 

 祇園が直接世話になったことは授業以外でほとんどないが、祇園にとって教師とは無条件で尊敬する相手だ。クロノスもその例に漏れることはない。

 そもそも、アヤメに聞かれた『退学』の一件においても祇園は誰一人として恨んでいない。自分が未熟で弱かった――ただそれだけなのだと認識しているのだ。

 だが、クロノスにとってはそんなことを言われるのは予想外だったらしく――

 

「……私は、シニョールに謝らなければならないことがあるノーネ」

 

 そして、クロノスは祇園に向かっていきなり頭を下げた。

 そのまま、クロノスは真剣な声色で言葉を紡ぐ。

 

「本当に……申し訳なかったノーネ……!!」

 

 いきなりのことに。

 祇園は、十代と顔を見合わせることしかできなかった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

〝爆炎の申し子〟――最初に彼女のことをそう呼んだのは誰だったのか。本郷イリアは、今更考えても仕方がないことに思いを馳せる。

 今でこそ多くの属性、種族のモンスターが増えて認識が変わったが、昔は『炎属性』といえば所謂『バーンカード』のイメージが強く、実際、そういうカードが多かった。

『バトルシティ』ではバーンカードが禁止とされた背景から、世間的にバーンカードに対する風当たりは強い。マシにはなったものの、イリアの学生時代はそういう方向から否定の言葉を投げかけてくる者が多かった。

 

(それが許せなくて、アタシは証明してきた)

 

 炎属性のモンスター。父がデザインし、生み出してきた数多くのモンスターたちの強さを。

 そして今、ここに立つことができている。

 

(この大会も裏で色々面倒なことになってるみたいだし、正直興味もなかったんだけど……この試合は別)

 

 ――響紅葉。〝ヒーロー・マスター〟と呼ばれる、最強のHERO使い。

 彼が全日本選手権で優勝した時のことは未だに覚えている。当時はまだ学生で、テレビの前から応援していた。

 当時弱小カテゴリと言われていた『HERO』の力を全国区に示し、認識させたデュエリスト。

 その姿は、奇しくも。

 イリアが目指すものに、酷く似ていたから。

 

「本郷プロ。こうしてデュエルをするのは初めてだね。よろしくお願いするよ。……お手柔らかに」

「こちらこそ。全日本チャンプと戦えるなんて光栄です」

「はは、所詮は『元』だよ。――さて、やろうか」

 

 その言葉に頷き、互いにデュエルディスクを構える。先行は――イリア。

 

「私のターン、ドロー。……私はモンスターをセット、カードを一枚伏せてターンエンドです」

 

 動き出しはこんなものでいい。解説席から澪と宝生の言葉が届いた。

 

 

『さて、響プロと本郷プロの試合が始まりました』

『イリアくんは無難な立ち上がりだな。とはいえ、互いに相手のデッキがどういうものかは理解している。……どう出るかな?』

 

 

 そう、こちらが紅葉のデッキが『HERO』であることを知っているように、相手もこちらのデッキのことについては知っている。

 とはいえ、プロのデュエルはエンターテイメント性を要求される。メタを張るつもりはない。普通にデュエルすればいいだけだ。

 

「僕のターン、ドロー。……僕は魔法カード『増援』を発動! デッキからレベル4以下の戦士族モンスターを一体、手札に加える! 『E・HERO エアーマン』を手札に加え、召喚! そしてエアーマンの効果により、デッキから『E・HERO オーシャン』を手札に加える!」

 

 E・HERO エアーマン☆4風ATK/DEF1800/300

 

 現れる風のHERO。『HERO』におけるエンジンであり、このカードがどのタイミングで出てくるかで状況は大きく変わる。

 

「バトル! エアーマンで攻撃!」

「セットモンスターは『フレムベル・パウン』です。このカードが戦闘によって破壊され、墓地に送られた時、デッキから守備力200のモンスターを一体手札に加えることができます。……『炎王獣キリン』を手札に」

 

 フレムベル・パウン☆1炎ATK/DEF200/200

 

 炎を纏う小型の猿が破壊され、その効果を発動する。戦闘破壊されるという受け身型のトリガーを必要とするものの、サーチ効果は強い。

 

「成程。……僕はカードを伏せ、ターンエンド――」

「――エンドフェイズ、リバースカードオープン! 罠カード『鳳翼の爆風』! 手札を一枚捨て、相手フィールド上のカードを一枚指定して発動できる! 選択した相手のカードを持主のデッキの一番上へ戻す! 手札から『ヴォルカニック・バレット』を捨て、伏せカードをデッキトップへ」

「……ッ、ドローロックされるか……」

 

 紅葉の伏せカードがデッキトップへ送られる。これで伏せカードはなくなった。

 

「私のターン、ドロー。……私は墓地の『ヴォルカニック・バレット』の効果を発動。墓地にこのカードが存在するメインフェイズにLPを500ポイント支払うことでデッキから『ヴォルカニック・バレット』を手札に加えることができる。『ヴォルカニック・バレット』を手札へ」

 

 ヴォルカニック・バレット☆1炎ATK/DEF100/0

 イリアLP4000→3500

 

 LPのコストを要求するものの、常に文字通りの『弾丸』を補充できる優秀なカードだ。イリアは手札を確認すると、更に、と言葉を紡いだ。

 

「手札より魔法カード『炎王の急襲』を発動! 一ターンに一枚のみ発動でき、相手フィールド上にモンスターが存在し、こちらにモンスターが存在しない時、デッキから炎属性の獣族・獣戦士族・鳥獣族モンスターを一体特殊召喚する!――来なさい、爆炎の王!! 『炎王神獣ガルドニクス』!!」

 

 爆炎がイリアの背後に火柱となって立ち昇り、徐々に鳥の形へと変化していく。

 そして、轟音が響いた時――そこに、紅蓮の怪鳥が姿を見せていた。

 

 炎王神獣ガルドニクス☆8炎ATK/DEF2700/1700

 

〝爆炎の申し子〟の切り札であり、レベル8の最上級モンスターだ。

 

「『炎王の急襲』で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化され、エンドフェイズに破壊されるわ。――私は更に手札から『炎王獣キリン』を召喚!」

 

 炎王獣キリン☆3炎ATK/DEF1000/200

 

 次いで現れたのは、角を持つ炎の馬だ。炎をを纏う二体の獣を従え、バトル、とイリアは宣言する。

 

「ガルドニクスでエアーマンに攻撃! そしてキリンでダイレクトアタック!」

「――――ぐうっ!?」

 

 紅葉LP4000→2100

 

 一気にそのLPが半分近くまで削られる。アヤメは更に、と言葉を紡いだ。

 

「私はカードを一枚伏せ、ターンエンド。――エンドフェイズ、ガルドニクスは破壊される」

 

 吹き飛ぶ炎の怪鳥。だが、これでいい。

 ――ガルドニクスの本領は、ここから発揮される。

 

「僕のターン、ドロー!」

「――スタンバイフェイズ、墓地のガルドニクスの効果を発動! このカードがカードの効果によって破壊されたターンの次のスタンバイフェイズ、このカードを蘇生する!! 甦れ、『炎王神獣ガルドニクス』!!」

 

 炎王神獣ガルドニクス☆8炎ATK/DEF2700/1700

 

 再び蘇る炎の怪鳥。同時に、効果はここでは終わらない。

 

「ガルドニクスの効果発動! このカードがこのカード自身の効果で特殊召喚に成功した時、このカード以外のフィールド上のモンスターを全て破壊する!」

 

 モンスターリセット効果。単純故に強力無比な効果だ。

 だが、紅葉の場にはモンスターはいない。いるのはイリアの場のキリンのみだが――

 

「破壊されたキリンの効果を発動。このカードが破壊され墓地へ送られた時、デッキから炎属性モンスターを一体墓地へ送ることができる。――二体目の『炎王神獣ガルドニクス』を墓地へ」

 

 これで準備は完了。紅葉が、成程、と言葉を紡いだ。

 

「順調に墓地は肥えているようだね」

「本領発揮はこれからです、響プロ」

「なら、どうにかするしかない。――僕は魔法カード『戦士の生還』を発動! 墓地の戦士族モンスターを一体、手札に加える! エアーマンを手札に加え、召喚! そしてエアーマンの効果により、デッキから『E・HERO ザ・ヒート』を手札に! そして魔法カード『融合』を発動! 手札のザ・ヒートとエアーマンを融合! HEROと風のモンスターにより、暴風纏いしHEROが現れる!! 『E・HERO Great TORNADO』!!」

 

 E・HERO Great TORNADO☆8ATK/DEF2800/2200

 

 暴風を纏うHEROが姿を現す。その風が、ガルドニクスへと襲い掛かった。

 

「トルネードの効果発動! このカードの融合召喚成功時、相手フィールド上のモンスターの攻撃力を半分にする! ガルドニクスの攻撃力を半分に!」

 

 炎王神獣ガルドニクス☆8炎ATK/DEF2700/1700→1350/1700

 

 ガルドニクスの攻撃力が大きく減る。バトル、と紅葉は言葉を紡いだ。

 

「トルネードで攻撃!」

「――リバースカード、オープン! 速攻魔法『炎王円環』! 一ターンに一度のみ発動でき、自分フィールド上の炎属性モンスターを破壊し、墓地の炎属性モンスターを一体特殊召喚する! 自分フィールド上のガルドニクスを破壊し、墓地のガルドニクスを蘇生!」

 

 炎王神獣ガルドニクス☆8炎ATK/DEF2700/1700

 

 元の攻撃力となったガルドニクスが現れる。紅葉はくっ、と小さく呻いた。

 

「トルネードで攻撃だ!」

 

 イリアLP3500→3400

 

 ガルドニクスが破壊される。だが、紅葉の表情は浮かないままだ。

 

「ガルドニクスの効果発動! このカードが戦闘で破壊された時、デッキから『炎王』を一体特殊召喚できる! 『炎王獣バロン』を特殊召喚!」

 

 炎王獣バロン☆4炎ATK/DEF1800/200

 

 現れる後続のモンスター。くっ、と紅葉は呻いた。

 

「僕はカードを二枚伏せ、ターンエンドだ!」

「私のターン、ドロー。……スタンバイフェイズ、『炎王円環』で破壊されたガルドニクスを蘇生。効果により、トルネードを破壊!」

 

 炎王神獣ガルドニクス☆8炎ATK/DEF2700/1700

 

 まるで不死鳥の如く蘇るガルドニクス。これにより、紅葉の場が再び空く。

 

「ガルドニクスでダイレクトアタック!」

「リバースカード、オープン! 罠カード『ガード・ブロック』! 戦闘ダメージを一度だけ無効にし、カードを一枚ドローする!」

 

 攻撃は通らない。残念、とイリアは息を吐いた。

 

「墓地の『ヴォルカニック・バレット』の効果で、三枚目の『ヴォルカニック・バレット』を手札へ。……カードを二枚伏せ、ターンエンド。そしてバロンの効果により、効果で破壊された次のスタンバイフェイズに『炎王』を一体手札へ。……『炎王獣キリン』を手札へ」

 

 イリアLP3400→2900

 

 歓声が木霊する。そんな中、紅葉がドロー、と大声で宣言した。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

『今の攻防ですが、一瞬過ぎて何が何やら……』

『まあ、結論から言えばループ状態にしようとしたイリアくんのそれを、紅葉氏がどうにか止めたというところだな』

『ループ、ですか?』

『うむ。ガルドニクスは効果破壊された時、次のスタンバイフェイズ時に蘇ってフィールド上のモンスターを破壊する。『炎王円環』によってガルドニクスが破壊され、ガルドニクスが蘇った。……もし、紅葉氏がトルネードでガルドニクスを戦闘破壊しなかったらどうなっていたと思う?』

『効果破壊で蘇りますから……まさか、毎ターンスタンバイフェイズに全体破壊をするんですか!?』

『そうなる。それは免れたが、トルネードは食われた。そしてイリアくんの伏せカード……あれも十中八九、『鳳翼の爆風』のようなカードだろう。手札コストは揃っている』

『響プロは、今のドローで手札が四枚ですか……』

『そして伏せカードは一枚だな。……しかし、流石は互いに名を売るプロだ。これだけの動きを見せていながら、手札がしっかりと残っている。手札の重要性は二人とも理解しているようだな』

『ここから逆転……それもあの伏せカードを突破して、ですか』

『まあ、普通は難しい。だが、勘違いしないで欲しいのはあそこに立っているのはかつての全日本チャンプであるということだ。四年前、全日本選手権で無名の新人でありながらDD氏と清心氏を抑えて優勝した天才。――容易く終わるとは思えん』

『そうですね。――響プロが動きました!』

 

 

 モニターから聞こえてくる声から、一度意識を外す。十代は試合の経過がかなりに気になっているようだが、目の前のことの方が重要だと感じたらしい。それはそうだろう。あのクロノスが、もう生徒ではないとはいえ――いや、むしろ生徒でない相手に頭を下げる方が異常なのか――かつてのレッド生である祇園に頭を下げているのだから。

 

「えっ、あ、あのっ! 頭を上げてくださいクロノス先生!」

「しかし、私は……」

「事情がわからないです! どうして僕なんかに頭なんて……」

「そうだぜクロノス先生。どうしたってんだよ?」

 

 十代も困惑しながら言葉を紡ぐ。クロノスはゆっくりと顔を上げると、本当に申し訳ないノーネ、と言葉を紡いだ。

 

「私は……私たち教師陣は、我が身可愛さにシニョール夢神を見捨てたノーネ。教育者としてそれはあるまじきこと……本当に、申し訳なかったでスーノ……」

「見捨てた、って……どういうことですか?」

「シニョールの退学……あれは、どう考えてもおかしかったノーネ。……そこのドロップアウトボーイならいざ知らず、超優良生徒であるシニョールが退学になる道理などなかったのでスーノ。そもそもシニョールが廃寮に入ったぐらいで退学になるなら、シニョール如月などとっくに退学になってるノーネ」

 

 しっかりと十代と宗達を貶していることから、偽物ではないと判断する。……というか、この人の偽物なんて想像もできない。

 

「でも、制裁デュエルで僕は負けて……」

「……確かに、シニョールは制裁デュエルで負けたノーネ。しかし、本来あのデュエルは私が相手をする予定だったのでスーノ。急遽オーナーが来校してオーナーが行われることになったのでスーガ……私は、いや、私以外の教職員のほとんどはシニョールを退学にするつもりはなかったノーネ」

「えっ……?」

 

 どういうことだろうか。倫理員会で決定されたと校長から通達された退学の話……あれは、教師陣も納得してのことではなかったのか。

 

「元々、シニョールは入学当初の実技試験は優秀。しかし、筆記が悪いということで奮起を促すためにレッド寮に入れたノーネ。ほとんどのドロップアウトボーイは奮起せずにだらけるところを、しかし、シニョーラは他の寮の生徒と比べても一番に努力していたノーネ。アルバイトで学費を稼ぎ、レッド寮の食事を作り、最初は悪かった成績も徐々に上げ、月一試験ではシニョーラ藤原を倒したシニョールは、次の試験の結果次第ではラー・イエローへの昇格の話も持ち上がっていたのでスーノ。……廃寮侵入で一度見送ることになったのは、少し残念だったのでスーガ」

「……すみません」

 

 思わず謝ってしまう。だが、驚いた。自分のことをここまで評価してくれていたとは。

 正直、大した結果は残せていなかったのに――

 

「で、でもクロノス先生。あの時、俺たちに脅しかけてただろ? 退学にするぞ、って」

「ふん、ドロップアウトボーイが退学になったところで私は痛くも痒くもないでスーノ。あの言葉はドロップアウトボーイに向けたモノなノーネ。……それに、制裁デュエルはシニョールたちにとっていい機会だと思ったノーネ。シニョール夢神はともかく、ドロップアウトボーイたちはまともな努力もせずにだらける毎日。尻に火がつけば頑張るのではないかと思い、最初は賛成したのでスーノ」

 

 まあ、クロノスらしいといえばらしい。それに、祇園たちが校則違反をしたのも事実なのだ。

 

「……結局、何か理由をつけて退学にまではしないものだと思っていたノーネ……。そして私は、シニョール夢神の退学を止められなかったのでスーノ……」

「……退学は、僕が未熟だったからです。僕が弱かったから……」

「それは違うノーネ! そもそもオーナーに勝てる学生などいないでスーノ! シニョールは立派に戦った! デュエルとは青少年の希望であり光! そのデュエルで絶望を与えることはしてはいけないノーネ!」

 

 クロノスが言い切る。そして彼はもう一度、すまなかったノーネ、と言葉を紡いだ。

 

「シニョールの退学免除の署名、私も署名させてもらったのでスーガ、倫理委員会には受け取ってすらもらえなかったノーネ。……抗議しても、逆に脅されて……私は、逃げてしまったのでスーノ……」

 

 要は、保身のために祇園を見捨てたということだろう。……正直、そこまで気にするようなことでもないと思うが。

 

「大丈夫ですよ、クロノス先生。……最初は、退学になって途方に暮れましたが……どうにか、本当にどうにか望みを繋げることは出来ました。色んな人に助けてもらって……今は、大丈夫なんです」

「しかし、シニョールは私たちの所為で不要な苦労をしたノーネ。それは私たちの責任で……」

「……先輩に言われたんです。『お前はたった一度の人生も運や偶然で片付けるのか』、って。きっと僕が退学になったのは運命で、必然で、意味があることだったんです。苦労もしましたけど……でも、そこで出会って、手にしたものは確かにあるんです」

 

 多くの人に出会い、助けてもらって。

 夢神祇園は、こうして笑うことができているから。

 

「だから、もう気にしないでください。僕の退学は、僕自身のせいなんです。誰も悪くない。僕が弱かったのが、悪かったんです」

 

 結局、全てはそこに集約する。

 夢神祇園が弱かった――ただ、それだけなのだ。

 クロノスは祇園を見つめ、その瞳から涙を零す。

 

「本当に、本当に申し訳なかったノーネ……!」

「ええと……」

 

 おいおいと泣くクロノス。……正直、怖い。

 十代がそんなクロノスへ、へへっ、と笑いかけた。

 

「良かったじゃんか先生。祇園気にしてないってさ」

「ふん! 黙るノーネドロップアウトボーイ! そもそもシニョール夢神ではなくドロップアウトボーイが退学になれば良かったのでスーノ!」

 

 十代に対してはいつも通りの憎まれ口を叩くクロノス。本校にいた頃はよく見た光景なので、今更何かを思うことはない。十代も気にしていないようだし。

 クロノスはハンカチで涙を拭き、一度大きく鼻をかむと、祇園へと一枚の名刺を差し出した。

 

「もし何か困ったことがあれば、私に連絡すればいいノーネ。このクロノス・デ・メディチ、今度は絶対にシニョーラを見捨てることはしないノーネ」

「あ、ありがとうございます」

 

 名刺を受け取る。そこにはクロノスの連絡先がしっかりと書き込まれていた。

 

「それでは、シニョール夢神。影ながら応援してるノーネ。……悔いのないよう、全力で戦うのでスーノ」

「はい。ありがとうございます、クロノス先生」

「……やはり、先生と呼ばれるのは嬉しいでスーノ」

 

 クロノスは最後に一度だけこちらに頭を下げると、そのまま立ち去って行った。その背を見送ってから、そっか、と祇園の隣で十代が呟く。

 

「祇園の退学、クロノス先生も賛成してるもんだと思ってたんだけど……違うんだな」

「うん、そうみたいだね」

 

 校長室で鮫島校長と共に制裁デュエルの件を告げられた時はそう感じていたが……違ったらしい。まあ、クロノスの言い分もわかる。実際、十代たちはサボりまくっていたわけだし。

 おそらくだが、『見せしめ』の意味もあったのだろう。校則違反をする者や、だらけるレッド生に『制裁デュエル』というものを見せることで引き締めを図ったのだ。

 ……まあ、その結果として祇園は退学になったので、コメントはし辛いが。

 

「けど、だったらおかしいよな」

「おかしいって……何が?」

「だってさ、クロノス先生は祇園の退学について反対してたんだろ? 他の先生もそうだって言ってたし……なら、どうして祇園は退学になったんだ?」

「……倫理委員会の決定だから?」

 

 理由といわれても、正直それぐらいしか思いつかない。その決定の理由まではわからないが。

 

「そもそも倫理員会って何なんだ? 今まで疑問に思ってなかったけどさ」

「えっと、確か……『第三者の視点より学校運営を管理する』っていう名目で設置されてるはずだけど……」

「第三者かぁ……。でも、だったらますますおかしい気がするんだよな。廃寮に入ったからって即日で制裁デュエルを受けろー、だろ? いきなり過ぎないか?」

「うーん……」

 

 どうなのだろう、と思う。言われてみれば疑問に思う部分は確かに多い。

 だが、疑問に思っても仕方がないことだ。

 

「……まあ、過ぎたことだから。今更考えても仕方ないよ」

「そうかなー。って、紅葉さんの試合が!」

「あっ、待って十代くん!」

「先行ってるぜー!」

 

 走り去って行く十代。それに苦笑を零し、祇園はふと携帯端末を取り出した。

 クロノスの番号を登録しておこう――そんなことを思いながら操作する。

 ――不意に、その番号が目に入った。

 ほとんど反射的に、電話をかける。

 少しの呼び出し音の後、相手が出た。

 

『――はい、どうされましたか?』

「あ、夢神、です。今お時間大丈夫ですか、神崎さん……?」

『ええ。取材も終わりましたので。……どうされました?』

 

 電話の相手――神崎アヤメは頷いてくれた。祇園は躊躇しつつも、言葉を紡ぐ。

 

「あの、聞きたいことがあって……以前、僕の退学についてお話を聞きたいと仰って、その、話しましたよね……?」

『はい。どうかなさいましたか?』

「その、さっき……本校の先生と会いまして。ちょっと、わけがわからなくなって。……教えて欲しいんです。何が起こっていたのかを」

 

 アヤメが知っているかはわからない。だが、彼女はアカデミア本校の卒業生だ。何か知っているかもしれない。

 

「倫理委員会って、何なんですか……?」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 大歓声の中、響紅葉は自身の手札を見る。手札は四枚、伏せカードは一枚。対し、相手はガルドニクスと伏せカードが二枚に、手札は三枚。

 厄介な状況だ。……だが、この手札ならどうにかできる可能性はある。

 

(ガルドニクスを吹き飛ばすとなると、次のターンはないものと考えた方がいい。……スタンバイフェイズにモンスターを全て破壊されては、打てる手も打てない。そうなると――)

 

 このターンの速攻で、勝負を決める!!

 

「僕は手札より魔法カード『戦士の生還』を発動! 墓地の戦士族モンスターを一体手札に加える! 『E・HERO エアーマン』を加え、召喚! 効果によりデッキから『E・HERO フォレストマン』を手札に加える!!」

 

 E・HERO エアーマン☆4風ATK/DEF1800/300

 

 現れたのは、方に二つの風を巻き起こす装置を背負ったHEROだ。このモンスターの登場に対し、相手の伏せカードの発動は――ない。

 

「更に手札から『融合』を発動! 手札のフォレストマンとオーシャンを融合! HEROと水属性モンスターの融合により、極寒のHEROが姿を現す! 『E・HERO アブソルートZero』!!」

 

 E・HERO アブソルートZero☆8水ATK/DEF2500/2000

 

 現れるは、『最強のHERO』の名をほしいままにするモンスター。その能力は強力無比であり、イリアの表情が僅かに歪んだ。

 

「仕方ないわね……! リバースカード、オープン! 罠カード『サンダー・ブレイク』! 手札を一枚捨て、フィールド上のカードを一枚破壊する! アブソルートZeroを破壊!」

 

 これでZeroの効果によってガルドニクスが吹き飛ぶが、次のターンで復活する。壁として残っていられる方が面倒だということだろう。

 実際、その認識は間違っていない。このまま放置すればまた一ターン稼がれることになるのだ。

 紅葉の手札は一枚であり、それなら防げると思ってのことだったが――

 

「――リバースカード、オープン! 速攻魔法『マスク・チェンジ』! 自分フィールド上のE・HEROを墓地に送り、融合デッキから同属性の『M・HERO』を特殊召喚する! これによりサンダー・ブレイクは対象を失い、不発となる!――『M・HERO アシッド』を特殊召喚!」

 

 M・HERO アシッド☆8水ATK/DEF2600/2100

 

 現れたのは、仮面を被った銃を持つHEROだった。そのHEROの登場に、会場が湧く。

 

「アシッドの効果発動! 特殊召喚成功時、相手フィールド上の魔法・罠を全て破壊し、相手フィールド上のモンスターの攻撃力を300ポイントダウンさせる!――だが、フィールドから離れたアブソルートZeroの効果によってその効果も関係なく相手モンスターを破壊する!」

「――――ッ、『次元幽閉』が……!」

 

 残る一枚の伏せカードが破壊される。Zeroがモンスターを、アシッドが魔法・罠を。

 相手のフィールドを根こそぎ喰らい尽くす、凄まじいコンボだ。

 

 

『響プロ、ここで『マスク・チェンジ』です!』

『紅葉氏の切り札、『M・HERO』だな。『E・HERO』だけを警戒していたらこういったモンスターを出してくる。それが紅葉氏の強さだ。……正直、このコンボを耐え切れる者はそういないぞ』

『これで本郷プロの場はがら空きです! このままだとLPが残り300という状態になりますが……』

『いや、紅葉氏の目を見るといい。……ここで決めなければ次のターンでガルドニクスに粉砕される。ここで決めに来るはずだ』

 

 

 流石に〝祿王〟。よくわかっている。だが、イリアもそう容易く終わらない。

 

「自分フィールド上に表側表示で存在する『炎王』が破壊された時、このカードは特殊召喚できる! 『炎王獣キリン』を守備表示で特殊召喚!」

 

 炎王獣キリン☆3炎ATK/DEF1000/300

 

 現れる焔の獣。最後の壁。

 ここで決める――そうでなければ、負けるのはこちらだ!

 

「最後の一枚だ! 魔法カード『ミラクル・フュージョン』を発動! 場か墓地の融合素材を除外し、『E・HERO』の融合モンスターを融合召喚する! 墓地のオーシャンとフォレストマンを除外し――来い、『E・HERO ジ・アース』!!」

 

 E・HERO ジ・アース☆8地ATK/DEF2500/2000

 

 現れたのは、『地球』の名を持つHERO。

 世界に一枚ずつしか存在しない『プラネット・シリーズ』の一角。

 

 

『これは……昨日の桐生プロに引き続き、新たなプラネット・シリーズです!』

『大盤振る舞いだな、紅葉氏。……さては、誰かに向けたメッセージか』

 

 

 大歓声が背中を叩く。紅葉は笑みを浮かべ、バトル、と宣言した。

 

「エアーマンでキリンを攻撃!」

「くっ、破壊されたキリンの効果によって『ネフティスの鳳凰神』を墓地へ!」

 

 効果が発動する。――しかし、結果は変わらない。

 

 

「二体のモンスターでダイレクトアタック!!」

「――――ッ!!」

 

 イリアLP2900→-2200

 

 決着の音が鳴り響く。紅葉はイリアへと手を差し出した。

 

「ありがとう。危なかったよ」

「勝てると思っていましたが、やはり全日本チャンプはお強い。……日本シリーズでお待ちしています」

「その時もまた、勝たせてもらうよ」

 

 笑みを零し、握手を交わし合う。それを終えると、紅葉は観客席の方へと拳を突き上げた。

 視線の先にいるのは、こちらを観客席から見下ろす少年――遊城十代。

 

「――上がって来い、十代」

 

 その言葉が、届いたわけではないだろうが。

 十代は、満面の笑みでこちらへと拳を突き出してきた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 観客席に辿り着くと、皆が一斉にこちらを見た。そして、笑みを浮かべてくれる。

 

「おお! 夢神! よーやったで自分! 大金星やないか!」

「思わず座布団投げるところやったで!」

「お前のくっさい座布団なんて迷惑やろうが」

「そもそも座布団やないしな」

「一時はどうなるかと思ったけど、ようやった! 準決勝も頑張るんやで!」

 

 バシバシと体中を叩かれる。少し痛いが、心地良い痛みだ。

 そのまま席に座ると、おめでとうございます、という声が聞こえてきた。見れば、妖花が満面の笑みを浮かべている。女生徒に囲まれている姿を見ると、おそらくここに連れて来られて一緒に観戦していたのだろう。

 

「凄かったです! 感動しました!」

「あはは……ありがとう。妖花さんも頑張って」

「はい! 精一杯頑張ります!」

 

 満面の笑みで頷く少女。その笑みを見ていると、重い気持ちが少し和らぐ。

 ……こんな暗い感情、消えてしまえばいいのに。

 

「ギンちゃん、大丈夫~?」

 

 不意にそんな声をかけてきたのは、二条紅里だ。彼女の問いに、祇園ははい、と頷いた。

 

「大丈夫ですよ?」

「顔色悪いから……辛いなら、そう言わなくちゃ駄目だよ~?」

「ちょっと緊張して、疲れただけですよ」

 

 微笑と共にそう返す。紅里はまだ首を傾げていたが、受け入れてくれたようだ。

 ――思い出すのは、アヤメとの会話。

 彼女が語った、真実の一端。

 

 

 

〝退学になったことに不審点がある、と?〟

〝……はい〟

〝ですが、退学はご自身の責任と言っておられませんでしたか?〟

〝それは、今も変わらないです。でも、いきなり謝られたりして……何が起こっているのか、知りたくて〟

〝……聞けば後悔することになるかもしれませんよ?〟

〝それでも、知りたい……です〟

〝………………『見栄』ですね〟

〝見栄……?〟

〝おそらく、ですが。私の聞いた話と今お伺いした話を統合すると、そういうことなのではないかと。倫理委員会の決定は、学校内の事というだけならどうとでも誤魔化せたのでしょう。『退学にするつもりはなかった』というのは、そういう意味だと思います〟

〝…………〟

〝ですが、オーナーが現れ、撤回ができなくなった。一度決定を下したものをそう簡単に覆すことはできません。プライドのある者なら、特にです〟

〝それじゃあ……〟

〝思っておられる考えで間違いはないかと。……肥大化したプライドによって、決定は覆らなかった。面子を汚されるのを恐れるが故に。それが真相なのでしょう。問題はもっと根深そうですが〟

〝…………〟

〝大丈夫ですか?〟

〝あ、だ、大丈夫……です〟

〝無理はなさらないでください。私も微力ながら力になりますし、桐生プロや烏丸プロを始め、あなたの味方は大勢います。決して、それを忘れないでください〟

〝……ありがとう、ございます〟

 

 

 

 意味はわかる。海馬瀬人はオーナーだ。その人物の前で一度決めた決定を簡単に覆していれば信用に関わる。要はそういうことで、だから祇園の退学は取り決め通りに行われた。

 退学の条件に付いては納得していたし、それは仕方ないと思う。

 ――けれど。

 

(何だろう……このもやもやした気持ち……)

 

 受け入れ、認め、そうして前に進んできたはずなのに。

 何故か……それを受け入れられない。

 

(退学は……僕が弱かったから。それ以外の理由は、ないはずで……)

 

 勝っていればよかった。それが全てだ。

 なのに、今更。

 今更、何を考えているのか――

 

 

『第三試合の組み合わせは、アカデミア本校推薦枠、遊城十代選手VS一般枠、新井智紀選手です』

『〝ミラクルドロー〟と〝アマチュア最強〟、楽しみなデュエルだ』

『ベスト4進出はどちらか。試合開始は二十分後です』

 

 

 実況席の声と、歓声が。

 酷く、遠いものに思えた。










別に誰かが許されるわけでもなく、過ぎてしまったことである以上取り返すことはできない。
そういう意味において、『自己満足』だったかもしれない一つの謝罪。〝謝罪とは己のためにするもの〟――そう言ったのは誰だったのか。



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