遊戯王GX―とあるデュエリストたちの日々―   作:masamune

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第一話 入学試験、黒鎧の竜

 デュエルアカデミア。あの決闘王武藤遊戯永遠のライバルにして、世界に三枚しかない『青眼の白龍』を全て有する伝説のデュエリスト、海馬瀬人がオーナーを務める学校だ。

 昨今、就職するにしても進学するにしてもデュエルの腕が重要となっており、それに伴ったデュエリストの育成とレベルを底上げするために創設された機関だ。

 そして、アカデミアで結果を残すと誰もが憧れる夢の職業――プロデュエリストになることさえ夢ではない。それ故に、毎年凄まじい数の受験生が訪れる。

 試験内容は筆記と実技。実技が優先されるとはいえ、筆記が全く駄目というのは問題だ。まあ、大半がDMに関する基礎知識の問題なので全く解けないというわけではないのだが――

 

(……81番、か)

 

 筆記の順位がそのまま受験番号の数値になるとは『彼女』から聞いたことだ。流石にあのKC社をスポンサーに持つだけはあり、その辺の情報は詳しい。

 彼女によると筆記は一応の足切りで、本命はこの実技試験だという。だが、実技だって自分は自信がない。

 

(勝ったのだって、数える程だもんなぁ……)

 

 昔から、彼女に勝てた試しがなかった自分としては不安で仕方がない。一応、カードショップの仲間内ではそれなりに勝率が良いが……そんなものは井の中の蛙だ。現に、さっきの受験番号一番のデュエルは見事だった。隙のないプレイングは素直に凄いと思ってしまったほどだ。

 その後のデュエルは一気に緊張してきて見ていないが、それでもきっとここにいる人たちは自分よりも遥かに強いのだろう。だって81番だ。少なくとも80人、自分より強い人がいるということになる。

 だけど――黙っていても、蹲っていても何もできない。怖いけど、約束したから。必ず、辿り着くって。

 

『受験番号81番、試験会場へ』

 

 ――呼ばれた。そう思ったのと同時に、肩が震えた。

 緊張する。本当に怖い。こんな大勢の前でデュエルするのは、初めてなのだ。

 だけど、と自分に言い聞かせる。彼女は、毎日のようにこれ以上の人の前で戦っている。それに追いつくために、ずっと追いかけてきたあの背中に並ぶために、ここへ来たのだ。

 だから。

 だから、僕は――

 

「……頑張るよ」

 

 呟いて。

 試験場へと、足を踏み入れた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 足を踏み入れ、試験官と向かい合う。会場全てが自分を見ているように感じる。いや、実際は五組くらい同時に行われているので自分になど視線は向いていないのだろうが……。

 

「私が試験官の鴨沂(おうき)だ。緊張せず、実力を出し切ってくれ」

「は、はい。よ、よろひくお願いします」

 

 ……噛んだ。思いっ切り噛んでしまった。

 思わず祇園は顔を背けてしまう。それを見てだろう、鴨沂は苦笑を零すと、さあ、とデュエルディスクを構えてこちらへ掌を差し出した。

 

「存分にかかってきたまえ。では――決闘」

「デュ、決闘」

 

 こちらも慌ててデュエルディスクを構え、カードを五枚ドローする。LPが表示されるのを確認し、次いで手札を確認。悪くない手札だ。……ミスさえなければ、それなりに勝ちに行けると思う。

 先攻後攻はランダムだ。デュエルディスクに表示されるのだが……相手になったらしい。まあ、どちらかというと後攻の方が回し易いのでありがたい。

 

「では、私のターンからだ。ドロー。……ふむ、まずは『ブラッド・ヴォルス』を攻撃表示で召喚」

 

 ブラッド・ヴォルス闇☆4 攻/守1900/1200

 

 ソリッドビジョンにより、斧を持った筋骨隆々の悪魔がまるで実体化したかのように出現する。……本当に凄い技術だ。デュエルディスクは高くて買えなかったので、祇園は今まで数えるほどしかデュエルディスクでデュエルをしたことがない。今回も受験生用のディスクを借りている状態だ。

 ブラッド・ヴォルス。攻撃力1900と四ツ星モンスターの中では最高クラスの攻撃力を持つモンスターだ。おそらく、試験官――鴨沂のデッキは単純なビートダウンなのだろう。

 だが、ブラッド・ヴォルスのみならどうにかできる。幸い、打ち破るための手札は揃っているし――

 

「そして私は『悪魔の口づけ』をブラッド・ヴォルスに装備。これにより、攻撃力が700ポイントアップする」

「ええっ!?」

 

 ブラッド・ヴォルス 攻1900→2600

 装備魔法によりブラッド・ヴォルスの攻撃力が上がったのを見て、思わず声を漏らしてしまう。鴨沂が首を傾げた。

 

「何かね?」

「い、いえ、すみません……」

「? そうかね。では、私はカードを一枚セットしてターンエンドだ」

 

 鴨沂がターンエンドを宣告する。後ろの観客席から「2600か……」、「厳しいな……」、「アイツ終わったな……」などという声が聞こえてきた。

 

「え、えっと、ドロー」

 

 それを振り払うように声を出し、カードをドローする。一応、祇園のデッキには攻撃力2800のモンスターがいるのだが、それはまだ手札にないし……そもそもあのモンスターは特殊な条件下でしか召喚できないモンスターだ。今はどうしようもない。

 普段なら諦めモードに入る状況。しかし、今日は諦めてはいけない。諦めは、最悪の結果を生む。

 

「すぅー……はぁー……」

 

 深呼吸をする。これも教えてもらったことだ。落ち着くにはこれが一番いい。

 手札を確認する。とにかく、やれるところまでやるしかない。

 

「僕は手札から『バイス・ドラゴン』を守備表示で特殊召喚します」

 

 バイス・ドラゴン闇☆5 攻/守2000→1000/2400→1200

 現れたのは、紫色の体躯をしたドラゴンだった。しかし、ドラゴンという名に反して体が小さい。……効果の所為だろう。

 鴨沂がバイス・ドラゴンをみて、む、と眉をひそめた。そのままこちらへ言葉を飛ばしてくる。

 

「五ツ星モンスターを生贄なしで召喚……成程、効果モンスターか。サイバードラゴンと似たような効果かな?」

「そ、そうです。相手フィールド上にモンスターが存在して、自分フィールド上にモンスターが存在しない時、手札から特殊召喚できます。その代わり、攻撃力と守備力が半分になってしまいますが……」

「成程、デメリット付きか。あまり使用者を見たことがないカードで驚いた。続けてくれ」

「は、はい」

 

 頷き、手札を見る。後ろの方から、嘲笑するような笑い声が聞こえてきた。

 

『折角の上級モンスターを攻守半分にして召喚?』

『ただの雑魚じゃねぇか』

『レベル低いなぁ』

 

 その言葉に、思わず俯きそうになる。だが、寸でのところで思い留まった。……このデッキは、『彼女』が手伝ってくれたデッキだ。忙しい中、自分からのメールにきっちり答えてくれて、教えてくれて。

 負けてばかりの自分。大会に出たことはほとんどないが、自分の実力は把握している。きっと場違いなのだろう。だが、それでも諦めてはいけない理由がある。彼女が信じろと言い、自分はそれに頷いた。なら、自分ではなく彼女の言葉を信じる。

 今でも言葉を交わす『彼女』が約束を覚えていてくれるかどうかはわからない。だが、それでもいい。それでも、約束を縁に頑張ってきたのだ。

 ――故に。

 ここで退くことは――できない。

 

「僕は更に、ドラゴン・ウイッチ―ドラゴンの守護者―を守備表示で召喚します」

 

 ドラゴン・ウイッチ―ドラゴンの守護者―闇☆4 攻/守1500/1100

 続いて現れたのは、黄色の髪をポニーテールにした女性だった。魔法使いの衣装で身を包んだその女性は片膝をつき、腕を組んだ状態で現れる。祇園のフェイバリットカードであり、キーカードである。

 

「僕はカードを一枚伏せ、ターンエンドです」

 

 伏せたカードはモンスターゲート。手札にトラップカードがないので、まあ……要はブラフだ。

 一応、ウイッチの効果で時間は稼げるはずだが……相手は試験官だ。予想外の手を打ってくる可能性がある。

 

「成程、ちゃんと特殊召喚と通常召喚については理解しているようだ。私のターン。ドロー。……私はジェネティック・ワーウルフを攻撃表示で召喚」

 

 ジェネティック・ワーウルフ地☆4 攻/守2000/100

 また鬼畜なモンスターが出てきた。四つ星で攻撃力2000のモンスター……中々に厄介なカードだ。というか試験官。ブラッドヴォルスやジェネティック・ワーウルフのカードって結構高いと思うのだが……。

 現在の遊戯王における主流は『ステータス至上主義』である。先程バイス・ドラゴンのデメリットに対して嘲笑が漏れていたように、多少優秀な効果があってもステータスが低ければ使われることが少なくなる。ブラッド・ヴォルスはあの海馬瀬人が使っていたカードということもあってかなり高価なカードだ。

 ちなみにこの現状に対して祇園は『まあそうだよね』といった感覚だが、プロデュエリストの親友――『彼女』によると『頭おかしいよみんな』とのことらしい。何でも、十円カードコーナーに『魔導雑貨商人』は有り得ないのだとか。

 ――それはともかく、ジェネティック・ワーウルフは厄介だ。祇園がどうしようかと思考を巡らせていると、攻撃の宣言が行われた。

 

「試験であるからといって、容赦はしないぞ。――ブラッド・ヴォルスでバイス・ドラゴンに攻撃!」

 

 試験官、鴨沂の宣言。祇園はすかさず叫んだ。

 

「無駄です! ドラゴン・ウイッチがいる時、相手プレイヤーはドラゴン族モンスターを攻撃できません!」

「ならばドラゴン・ウイッチに攻撃だ!」

「ドラゴン・ウイッチの効果発動! フィールド上のこのカードが戦闘及びカードの効果で破壊される時、手札からドラゴン族モンスターを捨てることでその破壊を無効にします! ハウンド・ドラゴンを捨てる!」

 

 手札からハウンド・ドラゴン――闇☆3・ドラゴン族――を捨てると、ドラゴン・ウイッチを突如現れた結界のようなものが守った。鴨沂はそれを受け、更に追撃を仕掛けてくる。

 

「ならばジェネティック・ワーウルフで攻撃だ!」

「手札からエクリプス・ワイバーンを捨てます!」

 

 再び、ドラゴン・ウイッチは守られる。その様子を見て、ほう、と鴨沂が声を漏らした。

 

「エクリプス・ワイバーンか……良いカードを入れているな」

 

 感嘆の言葉が聞こえるが、こっちにそれに応じている余裕はない。祇園はすぐさまエクリプス・ワイバーン(光☆4・ドラゴン族)の効果を発動する。

 

「エクリプス・ワイバーンの効果発動! このカードが墓地へ送られた時、デッキから光または闇属性のレベル7以上のドラゴン族モンスターを一体、ゲームから除外する! そして墓地のこのカードがゲームから除外された時、この効果で除外したモンスターを手札に加えることができる! 僕は――」

 

 デッキを取り出し、確認。とはいっても、このデッキに候補はそう多くない。

 そう――あのカードを。

 

「――僕は、〝ダーク・アームド・ドラゴン〟をゲームから除外します!」

「ダーク・アームド・ドラゴンだと!?」

 

 鴨沂が驚きの声を上げた。だが、緊張で心臓がすでに限界の祇園にその言葉は届いていない。大きく息を吸い、深呼吸をする。

 ――ゲームから除外された、黒き鎧持つ竜が咆哮した……そんな、気がした。

 

「くっ、私はターンエンドだ。……ダーク・アームド・ドラゴンとはまた厄介なカードを……」

 

 落ち着いてきたためか、試験官の言葉が耳に入る。……よし、大丈夫だ。ようやくいつもの調子に戻ってきた。

 祇園は凛とした表情でフィールドを見据える。手札は一枚、そしてこれは逆転が打てるようなカードではない。ならば、どうするか。

 ――答えは、一つ。ここで引くしかない。

 

「僕のターン、ドロー!……ッ!」

 

 引いたカードを確認。――よし、これなら!

 

「リバースカードオープン! 『モンスターゲート』! モンスター一体を生贄に捧げ、デッキから通常召喚可能なモンスターが出るまでカードを捲り、そのモンスターを特殊召喚します! バイス・ドラゴンを生贄に!」

 

 カードをドローする。運の要素が強いが……きっと、どうにかなる。

 引いたカードは――死者蘇生、神の宣告、融合、聖なるバリア―ミラーフォース―……ヤバい、普段なら泣いてる。心なしか試験官も憐れんでいるようだ。

 だが、五枚目――

 

「――僕は『ロード・オブ・ドラゴン―ドラゴンの支配者―』を召喚します! そして墓地の光属性と闇属性のモンスター、『ハウンド・ドラゴン』と『エクリプス・ワイバーン』をゲームから除外し、手札から『ライトパルサー・ドラゴン』を特殊召喚! そして除外されたエクリプス・ワイバーンの効果により、『ダーク・アームド・ドラゴン』を手札に加えます!」

 

 竜の骨のようなものを被った男が現れ、更に胸に輝く装置のようなものから光を撒き散らす白銀のドラゴンが現れる。これで場にはモンスターが三体並んだ。

 ドラゴン・ウイッチ――ドラゴンの守護者-闇☆4 攻/守1500/1100

 ロード・オブ・ドラゴン―ドラゴンの支配者―闇☆4 攻/守1200/1100

 ライトパルサー・ドラゴン光☆6 攻/守2500/1500

 会場はいつの間にか静かになっている。いや、耳に入っていないだけか。

 ――いずれにせよ。

 

「更にロード・オブ・ドラゴンとドラゴン・ウイッチを生贄に捧げ――『真紅眼の黒竜』を召喚!」

「なっ、レッドアイズだと!?」

 

 真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)闇☆7 攻/守2400/2000

 試験官が驚く。それもそうだろう。あの究極に至った凡骨、城之内克也が使用した時価数十万円もするレアカードが登場したのだから。

 だがこれは、自分が尊敬するとある人から貰った――否、期待と共に託されたカードだ。だから自分は、期待に恥じないデュエルをしなければならない。

 

『おいおい、マジか……』

『どうしてあんな奴がレッドアイズを……』

『一瞬で上級モンスターが二体並んだぞ……』

 

 試験官はしばらくレッドアイズに見惚れていたらしいが――気持ちはわかる。初めてソリッドビジョンで見た時は、自分も固まってしまった――場の状況を確認すると、だが、と言葉を紡いだ。

 

「確かに見事なタクティクスだが、その二体では悪魔の口づけが装備されたブラッド・ヴォルスを破壊は出来んぞ」

「わかっています。だから――最後のこのカードです。今墓地にはバイス・ドラゴン、ロード・オブ・ドラゴン、ドラゴン・ウイッチの三体の闇属性モンスターがいます。そして墓地に闇属性が三体のみの時、このモンスターを召喚できる」

 

 そのカードを、デュエルディスクに置く。

 あの日、最後に共に戦った大会で商品として手に入れた、このカードを。

 

 

「――ダーク・アームド・ドラゴン特殊召喚!!」

 

 ――――――――!!

 

 迅雷が墜ち、漆黒の竜が現れる。底なしの闇のような体躯を包む、漆黒の鎧。圧倒的な威圧感。会場全てを制圧するような力を纏い、その竜は絶対的強者として君臨する。

 ダーク・アームド・ドラゴン闇☆8 攻/守2800/1000

 

「そして、ダーク・アームド・ドラゴンの効果発動! 墓地の闇属性モンスターを一体ゲームから除外することで、フィールド上のカードを一枚破壊できる! ロード・オブ・ドラゴンを除外し、伏せカードを破壊!」

「ぐっ、ミラーフォースが……!」

「更にドラゴン・ウイッチとバイス・ドラゴンを除外し、ジェネティック・ワーウルフとブラッドヴォルスを破壊!」

 

 瞬く間にフィールドががら空きになる。……どうやら、これで終わりそうだ。

 

「全モンスターで攻撃!!」

 

 試験官・鴨沂 LP4000→-3700

 相手のライフが〇になり、デュエルが終了する。祇園はカードをデッキに戻すと、鴨沂に頭を下げた。鴨沂はふっ、と小さく微笑む。

 

「見事なデュエルだったよ。合否は期待していなさい」

「あ、ありがとうございました!」

 

 もう一度頭を下げ、逃げるように会場を後にする。

 心臓が高鳴る。気が付けば無傷で勝利だ。出来過ぎだが……気持ちいい。モンスターゲートで闇属性モンスターを出せなければどうしようと思っていたが、成功して良かった。

 PDAを取り出し、メールを打つ。――一言だけだ。

 

「――〝勝ったよ〟」

 

 たったそれだけのメール。

 だけど……それで良かった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 KC社アメリカ支部。そのデュエルルームに、携帯の着信音が響いた。携帯電話の持ち主はすぐに携帯を取り出すと、表示された文面を見て笑顔になる。

 

「なぁなぁ社長、祇園勝ったって!」

「フン、この俺様が直々にカードを渡したのだ。敗北など許されるはずがない」

 

 少女――それこそ『美少女』と呼ぶにふさわしい容姿をした一人の少女が発した言葉に、向かい合う位置に立つ男は鼻を鳴らして素っ気なく応じた。少女が、えー、と頬を膨らませる。

 

「何なんですかー、その反応。もっとあるでしょ、社長がカードを渡した相手なんですし」

「フン、貴様があの雑魚をどれだけ評価しているかは知らんが、俺にとってはあんな小僧興味もない。アカデミアで頂点にでもなるというのなら話は別だがな」

「……今ちょっとカチン来ましたよ社長。覚悟してくださいね?」

「いいだろう、かかって来い。貴様の使う脆弱な神の使いなど、我がブルーアイズの前には雑魚も同然!」

「ウチの子らまで馬鹿にしますか……わかりました、きっちり正面から叩き潰しますよって」

 

 殺気が漲り、互いが互いを睨み付ける。

 ――そして。

 

「「――決闘(デュエル)!!」」

 

 戦いが、始まる。

 

「俺のターン、ドロー!――フン、やはり勝利の女神はこの俺に微笑みかけているようだ。俺は手札より、永続魔法『未来融合―フューチャー・フュージョン―』を発動! 『F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)』を相手に見せ、デッキから『伝説の白石』二枚と『仮面竜』三枚を墓地に送る!」

「え、伝説の白石って――」

「そして墓地へ送られた伝説の白石の効果により、デッキから二枚の『青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)』を手札に加える! 更に――」

「ちょい待ち社長! タイム! タイムや!」

「……ふん、どうした。手短に話せ」

「どうしたも何もあれへんよ! 伝説の白石て! それ会長が開発中のカードやんか! まだ市場に出回ってないカードのはずやで!?」

 

 当然といえば当然の抗議である。伝説の白石――墓地に送られると『青眼の白龍』を手札に加えるというサーチカードだが、それはこの際どうでもいい。問題なのは、その効果欄に記された『チューナー』の文字だ。

 現在、不動博士という天才が研究中のモーメントという装置を利用してI社の社長にしてデュエルモンスターズの生みの親たるペガサスがここにいる二人と共に開発中の新たなる枠組みのカード。それが生まれれば環境が大きく変わるだろうとまで言われるそれらにおいて、『チューナー』というのは非常に重要になってくるのだ。

 そんな、まだ極秘のカードをこの男――海馬瀬人は何の躊躇もなく使っている。それが少女には驚きだった。

 

「まさか『例のカード』まで使う気やないやろな……?」

「安心しろ。『例のカード』までは持ってきていない。……どの道、発表は早くとも今年の冬になる。それまでは俺もおおっぴらには使えん」

「さいでっか」

 

 はぁ、と少女がため息を零す。そうしてから、ほな、と呟いた。

 

「続きやろか、社長。そういうことならウチも容赦はせんよ」

「ふん、来るがいい」

 

 海馬が応じ、更なる手を進める。それを見つめながら、ふと、少女は思った。

 

(多分、DMの環境は大きく変わる)

 

 混乱が生まれるかもしれないし、多くの変化が訪れるだろう。

 だが、大丈夫。きっと、大丈夫だ。

 これは、未来のために必要なこと。

 

(――なぁ、祇園)

 

 小さな頃からずっと一緒にいた、あの少年のことを思い出す。

 強いくせに自信がなくて、いつも必死に頑張っていた彼を。

 そんな彼を見てきたから……だから、私は。

 

(待ってるよ)

 

 この世界で、ずっと。

 あの日交わした約束を、彼が果たしてくれるのを。

 ずっと、ずっと――……





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