遊戯王GX―とあるデュエリストたちの日々―   作:masamune

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第十六話 英雄VS妖怪、好敵手への矜持

 予鈴が鳴り、授業が終わる。通算三度目の桐生美咲による授業だが、今日もほとんどの生徒が終わると同時に机へと突っ伏している。

 

「はいは~い♪ 今日はこれでしゅ~りょ~♪ ややこしいから前回と今回で二つに分けたけど、『ダメージステップの処理手順』は重要なルールやで。次回もテストはあるから、頑張りや~♪」

 

 その言葉に、教室中からゾンビのような悲鳴が上がる。だが、ここはデュエルアカデミアだ。DMの専門学校なのだから、その生徒たちはルールぐらい全て把握しなければならない。

 

「宗達~! 助けてくれよ~!」

「僕はもう無理ッス~!」

「お、俺ももう駄目なんだな……」

「ダメージステップについては正直俺も怪しい部分があるしなぁ……。三沢はどうよ?」

 

 授業が終わると共にそう声をかけてきた十代、翔、隼人へと如月宗達はそう言葉を返すと、隣の三沢へと視線を向けた。学力においては学年主席である男、三沢もしかし、渋い表情をしている。

 

「俺も厳しいな……。正直、次のテストは苦戦しそうだ」

「三沢でもヤバいのかよ~。難し過ぎるぜ……」

 

 十代が机に突っ伏す。DMのこととはいえ、勉強が苦手な十代としてはこの授業は相当辛いのだろう。

 正直、宗達としても完全に把握しているわけではないので厳しい部分である。

 

「ああ、そうや。侍大将、十代くん、三沢くん」

 

 授業後の質問時間――二回目の授業の後から必死になって質問する生徒は増えた。相変わらず変なプライドでブルー生はいないようだが――を終え、職員室に戻る準備をしていた美咲がこちらへと声をかけてきた。何だ、と十代が問いかけると、美咲は頷いて応じる。

 

「今の三名は校長室に今すぐ出頭するようにやて。後、十代くんは私のことを美咲先生、もしくは美咲ちゃん☆と呼ぶこと」

「はーい、美咲先生」

「ん、よろしい。……ほな、校長室に行くようにな~。特に侍大将、逃げたらアカンで?」

「……チッ」

 

 指まで刺されてそう言われ、舌打ちを零す宗達。全力で逃げよう思っていたのに……。

 立ち上がる宗達。翔たちに別れだけを述べると、三人で職員室に向かって歩き出す。

 

「でも、俺と三沢と宗達って何で呼び出されるんだろうな?」

「俺と十代だけなら授業態度の事とかいろいろありそうだけど、三沢もいるしなぁ」

「……キミたちはもう少し真面目に授業を受けるべきじゃないか?」

 

 三沢が呆れたように言うが、宗達にも十代にも改善するつもりはない。元々単位が緩いレッド生である上、宗達などは成績も十分いい。いちいち出る理由がないのだ。

 まあ、一部の尊敬する教師人の授業は真面目に受けているのだが。

 

「……ま、十中八九あの件だろうなぁ」

 

 ボソリと呟く。冬休みも近付いているこのタイミングで、この三人が呼ばれる……理由はおそらく、一つだけだ。

 あの日の夜、カイザーと一悶着があってからずっと頭から離れなかった『あの話』だろう。

 正直大会にはそこまで興味はないが……目的がある以上、断る道理もない。

 

「失礼します」

 

 三沢が先頭になり、礼儀正しく入室する。宗達も十代も無礼というわけではないが前者は敵意から、後者は無頓着故に難しい部分があるので妥当な判断だ。

 

「ふむ、来ましたか」

 

 部屋に入ると、三人の人間が待っていた。鮫島校長、クロノス教諭、そして――『帝王』丸藤亮。

 

「お、クロノス先生にカイザーもいるのかよ」

「ドロップアウトボーイ! 敬語を使うノーネ!」

 

 このやり取りは最早お約束だ。三沢と共に苦笑を零すと、宗達はそれで、と鮫島校長に向かって言葉を紡いだ。

 

「話ってのは?」

「ええ、キミたちを本校が誇るデュエリストと見込んで提案です。――今冬に行われる〝ルーキーズ杯〟という大会に出場してみませんか?」

「大会?」

 

 十代と三沢がほとんど同時にそう言葉を紡いだ。事情を知っている宗達とカイザーは特に反応は見せていない。

 

「ええ、そうです。I²社とKC社という二大会社を中心に、プロ・アマ合同で行われる大会です。その大会にアカデミアより二名のデュエリストを派遣することが決まっていましてね。キミたちはその候補です」

「マジかよ!? プロアマ合同って事はプロデュエリストも出るのか!?」

「ええ。その予定です」

「く~っ! 燃えてきたぁ! なぁ校長先生! それってどうやったら出られるんだ!?」

 

 十代が身を乗り出して鮫島校長へと迫る。三沢は苦笑しているが、落ち着きがないのは一目瞭然だった。妙にそわそわしている。

 

「お、落ち着いてください遊城くん。今言ったように、参加できるのは二名だけです。――よって、明日。代表決定戦を行いと思います。この中で二人ずつデュエルを行い、その勝者が出場するという形を取ります」

「対戦相手はどうやって決める?」

 

 宗達が問いかける。すると、鮫島は頷いて言葉を続けた。

 

「明日、ランダムに決めさせてもらいます。他には何かありますか?」

「何故自分たちが選ばれたのでしょうか?」

 

 挙手しつつ、三沢が問う。その問いにはクロノスが答えた。

 

「職員会議でシニョーラたちの推薦があったノーネ。この大会は他のアカデミアからも生徒が参加するイベント。我が校こそが大本であるということを証明する必要がありまスーノ。故にシニョーラたちのウチの二人を送り出すという形になったノーネ」

「実力的には雪乃とか明日香とかは?」

「その二人も候補には挙がりましたが、やはり実力についてはキミたちこそが適任と思いましたので。特にキミたちは桐生プロの授業で未だ全勝を維持している唯一の四人ですし」

「……ん、了解」

 

 特に反論する理由はない。差など僅かなものであるとは思うが、それでも差があるのは事実だ。確かにこの四人は現アカデミアのトップ4だろう。

 

「では、明日の放課後に試合を行います。皆さん、健闘を祈ります」

 

 鮫島のその言葉で、この場は解散となった。

 

 

 …………。

 ……………………。

 ………………………………。

 

 

 廊下に出ると、カイザーがこちらへと視線を向けてきた。無視することも考えたが、それは問題を先送りにしているに過ぎない。故に、こちらも視線を向ける。

 

「……如月」

 

 カイザーは何かを言おうとしたが、言葉にする前に思い留まったらしい。ただ一言、静かに告げてくる。

 

「明日の決闘、楽しみにしている」

 

 それだけを言うと、カイザーは立ち去って行った。それを見送り、宗達は吐息を零す。

 

「難儀な性格なことで。別にどうでもいいけど、そのうち折れるんじゃねーか?」

「宗達、どうしたんだ?」

「べっつにー。それよりも十代、やっぱり出てみたいか?」

「おう、当たり前だぜ! プロと戦えるんだろ!? めちゃくちゃ楽しみだぜ!」

 

 瞳を爛々と輝かせて言う十代。宗達は三沢は、と問いかけた。三沢も頷く。

 

「ああ。勝てるかどうかはわからないが、興味はある。出られるのなら是非出てみたい」

「ま、普通はそうだな」

 

 頷く。確かに生のプロデュエリストを知らない二人からしてみたら興味があるだろう。美咲がいるが、アレは色々と例外だ。……負けた宗達が言えることではないが。

 まあともかく、全米オープンに出場した宗達としては生のプロというものを知っている。故に正直、そこはモチベーションにはならないが――

 

 ……祇園が出てるかも知れねーし。

 

 流石に〝祿王〟は参加しないと思われるので、ウエスト校にいるはずの祇園が代表になっている可能性は十分ある。荒削りであっても、祇園の実力は確かだ。

 しかしまあ、そんなことは今考えても仕方がないことである。

 

「とりあえず、明日はお互い頑張ろうや。誰と当たるかは知らんけども」

「ああ、手加減なしだぜ」

「無論だ。全力を尽くそう」

 

 三人で頷き合い、歩き出す。

 その途中で。

 

 ……カイザー、か。

 

 明日戦うことになるのであろう男のことを、宗達は思い浮かべた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 翌日。アカデミアの生徒たちはそのほとんどが決闘場に集合していた。放課後であり、観戦は自由参加なのだが……今日の一戦は見逃せないとして彼らは集まっている。

 すでに〝ルーキーズ杯〟のことは知れ渡っている。大会そのものは全国放送されるということもあり、代表となった者は文字通り『アカデミア本校』の看板を背負って戦うことになる。

 ――だが、そんなことよりも。

 アカデミア最強のデュエリスト、『カイザー』丸藤亮。

 そのカイザーに最も近い位置にいると謳われる、『侍大将』如月宗達。

 レッド生でありながら文字通りの『ヒーロー』の如き活躍をする遊城十代。

 名実共に学年主席であり、教師陣からの期待も高い『博士』三沢大地。

 紛れもないアカデミアにおけるトップデュエリストたちであり、どのような組み合わせになっても楽しめるデュエルとなることは間違いなかった。

 

「それで~ワ、始めるノーネ」

 

 デュエルフィールドの中心に立つクロノスが宣言し、大画面に電源が灯る。そこに表示された二人が最初にデュエルを行うことになる。

 その光景を職員用の席から見ながら、桐生美咲は小さく欠伸を零した。正直、彼女の予測では出場選手は決まっている。

 まず、『カイザー流』の正統継承者である丸藤亮。これは鉄板だ。宗達とやり合うことになっても6対4くらいの割合で彼に分があるだろう。

 だが、普通ならば宗達とカイザーがやり合うことはない。二人がトップ2であることは疑いようもなく、〝ルーキーズ杯〟はノース校が棄権しているものの他の二校は参加してくる。本家本元たるアカデミア本校が負ければメディアの的にされるし、一度付いた評価というものは中々覆らない。負けてしまえば来年の入学者は他のアカデミアに奪われることとなるだろう。

 それを避けるためにただでさえ激務な美咲を非常勤講師としてアカデミア本校へと海馬社長は配属したのであり、ここで最高のカードを出場させないのはありえない。

 まあ、十代と宗達が当たったりした場合、十代の引き如何によっては番狂わせが起こるかもしれないが……現時点の実力として、十代と三沢はトップ2に劣っている。

 ランダムとはいえそんなものはいくらでも弄ることができる。故に美咲はそう考えたのだが――

 

 

『第一試合 オシリスレッド所属 遊城十代 VS ラーイエロー所属 三沢大地』

 

 

 それが画面に映し出され、一瞬目を疑った。

 

「な……」

 

 この二人が戦い、勝者が〝ルーキーズ杯〟に出る。それは、つまり。

 ――アカデミアのトップ2が、潰し合うということ。

 

『おい、アレ……!』

『まさか、まさかだよコレ……! 本気であの二人のデュエルが見れるのか……!?』

『中等部から一度もなかった、カイザーと如月宗達のデュエル……!』

 

 周囲からざわめきが聞こえてくる。クロノスに呼ばれ、十代と三沢が決闘場へと上がっていく。教師陣を見ているとほとんどの者たちが戸惑っており、隣に座っている響緑も困惑した表情を美咲へと向けてきた。

 カイザーと宗達を送り出すのが最善だというのは職員会議で満場一致に決まったことだ。クロノスは何か言いたげだったが、彼とて馬鹿ではない。気に入らない生徒であったとしても宗達の実力そのものは理解している。

 だが、生徒の納得を得るためとアカデミアの結束を促すために、そして可能性と将来性を考えて十代と三沢も候補に挙げられ、デュエルが行われることになったはずだ。

 故に、組み合わせは最初から決まっていたのだ。――丸藤亮VS如月宗達だけはありえないという、形で。

 

「鮫島校長……!」

 

 誰が口にした言葉だったのか。

 決闘場の上でクロノスでさえも戸惑っている中、教師陣の中で『唯一』動じることのなかった男へと教師たちの視線が向く。

 

「どうかしましたか、皆さん?」

 

 鮫島はいつもと変わらない笑みを浮かべている。その鮫島に、美咲は酷く冷たい視線を向けた。

 

「見た目だけかと思ったら、中身もどす黒い狸やったとは思いませんでしたわ」

「おや、それは酷いですね。あれはランダムに決められた結果です。そうでしょう?」

「ええ、そうですね。その通りです。アレは偶然。偶然の結果、アカデミアのトップ2を送り出すことができなくなってしまいました」

 

 互いに、表情は笑み。しかし、その瞳はどうしようもないほどに……冷たい。

 

「不幸なことです」

「ええ、不幸なことでしょうね。――クズな教師に人生を狂わされてる如月宗達が可哀想すぎて、泣けてきますわ」

 

 ピクリと、鮫島の眉が跳ねあがった。美咲は、静かに告げる。

 

「社長への報告は間を置きます。結果が正義や。もし、この結果としてアカデミアの評判が落ちるようなことがあれば……覚悟、したほうがええですよ」

「ふむ、何のことかわかりませんね」

「経営者が経営のことをわかっていない時点で首切られる理由は十分って理解しといた方がええですよ」

 

 美咲の視線は微動だにしない。鮫島を捉え、離さない。

 周囲の教師たちは何も言えず、ただ黙して二人を見守っている。

 

「別に、ウチも清廉潔白な人生を送ってきてるわけやありません。せやけど、他人の人生を台無しにした経験はない。それだけはあらへん。――あんた、祇園だけじゃ飽き足らず侍大将の人生まで潰す気か?」

「……仰る意味がわかりませんね」

「一つだけ言うとくで、鮫島校長。あんただけやない。この場にいない倫理委員会にもや。あんたに伝えとけば伝わるやろうからな。――生徒は、あんたらの玩具やない」

 

 言い切り、美咲は席を立つ。その彼女を制止する声が上がったが、美咲は振り返りもせずに言い放った。

 

「気分悪いわ。サイバー流?――これ以上勝手するようやったら、ウチが直々に潰したる」

 

 帰る――そう言い残し、立ち去っていく美咲。鮫島は、呟くように言葉を紡いだ。

 

「……若いですねぇ」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 決闘場に立ち、十代は一度大きく周囲を見回した。ほとんど全校生徒と呼んでいい数の生徒が集まっている現状。これだけの人の前でデュエルをするのは、初めてだ。

 

「十代。手加減はしないぞ」

 

 そして、そんな十代の前に立つのは三沢だ。彼は笑みを浮かべ、自信満々にそう言い放ってくる。十代も笑みを零すと、勿論、と腕を突き出した。

 

「俺も全力だ!」

「そうか。ならば、遠慮は不要だな」

 

 そして、二人はデュエルディスクを起動する。

 

「「――決闘(デュエル)!!」」

 

 ……かつての入学試験において、十代は三沢に対し『二番目に強い』という評価を下した。その際、三沢は後に行われた十代とクロノスの決闘を見てそれを冗談を込めて肯定。十代を『一番』と呼称する。

 それはその場の流れや冗談による言葉であり、互いに心の底からそう思っているわけではなかった。当たり前だ。互いが互いを『ライバル』と認めている以上、優劣など二人の中には存在していない。

 そして、今。

 ここで、一つの答えが出る。

 技術指導最高責任者であるクロノスを倒した遊城十代と。

 入学試験をトップで合格した三沢大地。

 一体どちらの方が強いのかという問いの、答えが。

 

「先行は俺だ! ドローッ!」

 

 先行は十代だ。三沢はデッキをいくつも持っているうえ、珍しい『メタ』の概念を利用とするデュエリストだ。ならば、先行のこのタイミングで動けるだけ動いておいた方がいい。

 

「俺は手札より、魔法カード『E―エマージェンシーコール』を発動! これにより、デッキからレベル4以下の『E・HERO』と名のつくモンスターを一体、手札に加える! 俺が手札に加えるのは勿論『E・HERO エアーマン』だ! そしてそのまま召喚!」

 

 E・HERO エアーマン☆4風ATK/DEF1800/300

 

 両肩にファンを背負った風のヒーローが現れる。『E・HERO』において最重要キーカードとも呼べるモンスターであり、下級ヒーローの中では最高クラスの攻撃力と優秀な効果を持っている。

 

「更にエアーマンの効果を発動! 召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから『HERO』と名のつくモンスターを一体手札に加えることができる! 俺は『E・HERO スパークマン』を手札に! 更に手札から『沼地の魔神王』を捨て、効果発動! このカードを捨てることでデッキから『融合』を手札に加える!」

 

 融合素材の代用となると同時に、『融合』のサーチ効果も併せ持つ優秀なモンスター『沼地の魔神王』。特に『E・HERO』には『ミラクル・フュージョン』などといった墓地利用のカードも存在するので、非常に相性がいい。

 

「俺はカードを二枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

 連続サーチを終え、デッキ圧縮を加速させる十代。フィールド上には攻撃力1800のエアーマンがおり、滑り出しは上々と言えた。

 

「成程。流石だな十代。俺のターン、ドロー!」

 

 対し、三沢がカードをドローする。三沢は引いたカードを確認すると、ふむ、と小さく頷いた。

 

「このターンで攻略するのは無理か。……ならば、俺は手札より『召喚僧サモンプリースト』を召喚! このカードは召喚・反転召喚に成功した時守備表示になる!」

 

 召喚僧サモンプリースト☆4闇ATK/DEF800/1600

 

 長い白髭を生やした老人が現れる。その衣装はどこか黒魔術を連想させた。

 

「そして召喚僧サモンプリーストの効果発動! 一ターンに一度、手札から魔法カードを一枚捨てることでデッキからレベル4以下のモンスターを攻撃表示で特殊召喚できる! 俺は魔法カード『リロード』を捨て、デッキから『馬頭鬼』を特殊召喚!」

 

 馬頭鬼☆4地ATK/DEF1700/800

 

 次いで現れたのは、馬の頭を持つ一体の鬼だった。巨大な斧を筋骨隆々な腕で軽々と持ち上げている。

 馬頭鬼――その単純でありながら強力な効果により、制限カードに指定されているモンスターだ。その効果は『墓地のこのカードを除外することで墓地からアンデット族モンスターを一体蘇生する』というもの。この類の効果には『一ターンに一度』や『デュエル中一度』という制約がつくことが多いのだが、馬頭鬼にはそれがない。故に墓地へ戻すギミックさえあれば何度でも使用できるのだ。

 

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「へへっ、やっぱり凄ぇな三沢は! 俺のターン、ドロー!――俺は手札より魔法カード『融合』を発動! 手札の『E・HERO バーストレディ』とフィールド上の『E・HERO エアーマン』を融合! 炎属性モンスターとHEROの融合により、灼熱のHEROが降臨する! 宗達から貰った四属性HEROの一角! 来い、『E・HERO ノヴァマスター』!」

 

 E・HERO ノヴァマスター☆8炎ATK/DEF2600/2100

 

 紅蓮の炎を纏ったHEROが現れる。十代は、バトル、と指示を出した。

 

「ノヴァマスターで馬頭鬼へ攻撃だ!」

「くっ……! リバースカードオープン! 『ガード・ブロック』! 相手ターンの戦闘ダメージ計算時のみ発動可能なカードで、戦闘ダメージを0にしてカードを一枚ドローする! ドローッ!」

「けど戦闘破壊は防げないぜ! そしてノヴァマスターの効果! 相手モンスターを戦闘で破壊した時、カードを一枚ドローできる! ドローッ!」

 

 十代の手札が増える。十代の使う『HERO』もサイバー流も、融合主体のデッキはそれだけ手札の消費が激しい。そういう意味で、条件付きだが手札を補充できるノヴァマスターはかなり優秀なカードだ。

 

「俺はターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

 

 これで三沢の手札はガード・ブロックの分を合わせて五枚。『決闘王』武藤遊戯も語っている。『手札の数だけ可能性がある』と。今の三沢はまさしくそれだ。

 十代も感付いている。三沢が攻めてくるのは、ここだと。

 

「俺は手札より魔法カード『大嵐』を発動! フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する!」

「げっ!? 俺の『ヒーロー・シグナル』と『攻撃の無力化』が!?」

 

 制限カードと禁止カードの間を行き来し続ける『大嵐』。そのカード単体のパワーはやはり凄まじい。

 互いに伏せカードが消えた状況。攻め込むにはこれ以上ない状況だ。

 

「俺は手札から魔法カード『生者の書―禁断の呪術―』を発動! 相手の墓地のモンスターを一体除外することで、墓地のアンデット族モンスターを蘇生する! エアーマンを除外し、馬頭鬼を蘇生!」

「げっ!? エアーマンが!」

 

 相手の墓地のカードに依存するとはいえ、強力な蘇生カードである『生者の書―禁断の呪術―』。これにより、三沢の場に二体のモンスターが並ぶ。

 

「いくぞ、十代! 俺はサモンプリーストと馬頭鬼を生贄に捧げ――『赤鬼』を召喚!」

 

 赤鬼☆7地ATK/DEF2800/2100

 

 巨大な棍棒を持つ、全身が赤色の肌をした鬼が降臨する。絵本やおとぎ話に出てくる鬼そのものの姿に、会場の者たちは皆一様に息を呑んだ。

 

「攻撃力2800!?」

「それだけじゃないぞ十代! 赤鬼の効果発動! このカードの召喚に成功した時、手札を任意の枚数捨てることでフィールド上のカードを持主の手札に戻す! 俺は手札を一枚捨て、ノヴァマスターを手札へ!」

「ぐっ……! ノヴァマスターは融合デッキに戻るぜ……!」

「往くぞ十代! 赤鬼でダイレクトアタック!」

「うあああっ!」

 

 十代LP4000→1200

 

 十代のLPが一気に減らされる。会場が大きく湧いた。

 

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 これで三沢の手札は0。ノヴァマスターを残しておくと厄介なことになることはわかりきっていた。故に三沢のこの選択に間違いはないはずだが――

 

「俺のターン、ドロー! へへっ、やっぱ強ぇな三沢! 楽しいぜ!」

「ああ、俺もだ。だが、勝つのは――」

「「俺だ!」」

 

 互いの言葉が重なる。十代は、手札のカードをデュエルディスクへと指し込んだ。

 

「俺は魔法カード『サイクロン』を発動! 三沢の伏せカードを破壊する!」

「ぐっ、俺の『リビングデッドの呼び声』が……!」

 

 三沢の伏せカードが破壊される。赤鬼が破壊されたとしても巻き返すために伏せておいたカードだったのだが――

 

「更に手札から『E・HERO ワイルドマン』を召喚!」

 

 E・HERO ワイルドマン☆4地ATK/DEF1500/1600

 

 全身に入れ墨をした、ゲリラ戦士のようなHEROが現れる。『トラップカードの効果を受けない』という、中々に強力な効果を持ったモンスターだ。

 だが、赤鬼の攻撃力は2800。ワイルドマンでは届かない。

 

「そのモンスターでは届かないぞ十代。どうするつもりだ?」

「こうするのさ! 俺は手札より魔法カード『ミラクル・フュージョン』を発動! フィールド・墓地より融合素材となるモンスターを除外し、『E・HERO』を融合召喚する! 俺はフィールド上のワイルドマンと墓地のバーストレディを除外! HEROと地属性モンスターの融合により、大地の力を宿すHEROが姿を現す! 来い、『E・HERO ガイア』!」

 

 E・HERO ガイア☆6地ATK/DEF2200/2600

 

 地面を割るようにして、黒い鎧を身に纏うHEROが姿を現す。十代は、へへっ、と笑みを浮かべた。

 

「ガイアの効果発動! このカードの融合召喚に成功した時、相手フィールド上のモンスター一体の攻撃力の半分をエンドフェイズまで半分にし、その数値分ガイアの攻撃力を上げる!」

「何だと!? それは『フォース』の効果と同じ……!」

「バトル! ガイアで赤鬼に攻撃だ!」

「ぐううっ!?」

 

 三沢LP4000→1800

 

 三沢のLPが削られる。ガイアの効果は、決まってしまえばそのままガイアの攻撃力である2200ポイントが相手ライフに届くことを意味する。四属性HERO……その全てが、確かに強力なモンスターたちだ。

 

「俺はターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!……ぐっ……!?」

 

 三沢の引いたカードは『愚かな埋葬』だった。この場面では効果はない。

 十代ほどのドロー運はない。それはわかっていても、これは――

 

「いや、まだだ! 俺は墓地の『馬頭鬼』の効果発動! このカードを除外することにより、墓地のアンデット族モンスターを一体特殊召喚する! 甦れ、『赤鬼』!」

「げっ!?」

「バトルだ! 赤鬼でガイアへ攻撃!」

 

 十代LP1200→600

 

 十代のLPがとうとう危険域に突入する。十代の手札は一枚。だが、アレは最初のターンでエアーマンの効果を使って手札に加えた『E・HERO スパークマン』だということがわかっている。ならば、次のドローで全てが決まる。

 

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「へへっ、ゾクゾクするぜ……! 俺のターン、ドローッ!!――来たッ! 俺は手札から魔法カード『平行世界融合』を発動! 融合モンスターの素材に指定されているゲームから除外された状態のモンスターをデッキに戻し、『E・HERO』の融合召喚を行う! ただしこのカードを使うターン、他に特殊召喚を行うことはできない!

 俺はエアーマンとバーストレディをデッキに戻し――風属性モンスターとHEROによる融合! 来い、『E・HERO Great TORNADO』!」

 

 E・HERO Great TORNADO☆8風ATK/DEF2800/2200

 

 竜巻を纏った暴風のHEROが姿を現す。一見すると赤鬼と同じ攻撃力のモンスターだが、その攻撃力の凶悪さにこそその効果の真骨頂はある。

 

「トルネードの効果発動! このカードの融合召喚に成功した時、相手フィールド上の表側表示モンスターの攻撃力・守備力を半分にする! 赤鬼の攻撃力・守備力を半分に! 更に『E・HERO スパークマン』を召喚!」

 

 赤鬼☆7地ATK/DEF2800/2100→1400/1050

 E・HERO スパークマン☆4光1600/1000

 

「バトル! スパークマンで赤鬼に攻撃! 更にトルネードでダイレクトアタック!」

「ぐおおおおおっ!?」

 

 三沢LP1800→1600→-1200

 

 決着が訪れる。三沢はふう、と息を吐くと、負けたよ、と頷いた。

 

「やはり強いな、キミは」

「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」

 

 満面の笑みを浮かべる十代。三沢も頷き、二人は握手を交わす。

 周囲から、万雷の拍手が降り注いだ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 英雄と妖怪。数多の物語で描かれるその戦いは、ひとまず英雄の勝利で幕を閉じた。

 だが、彼らは互いをライバルと認め合う間柄である。今日の戦いが全てではなく、これからも競い合い、高め合っていくことだろう。

 ――しかし。

 彼らとは違い、今日この戦いこそが全てとする二人がいる。

 

 一人は、『帝王』と呼ばれ、サイバー流の正統継承者として栄光の道を歩み続けてきた者。

 一人は、『侍大将』と呼ばれ、己の主義故に卑怯者と謗られ、孤独の中で栄光に手を伸ばし続けてきた者。

 

 どちらの主義が正しかろうが、間違っていようが。そんなことは今更関係ない。

 ただ、二人は……譲れない想いを抱いてこの場に立つ。

 片や、己の流派の正しさを証明するために。

 片や、己の人生に深く影響を与えた流派と決着を着けるために。

 向かい合うは、帝王と侍。

 望まれ続け、それでも実現しなかった戦いが――遂に始まる。

 

 

「……如月」

「あん?」

「キミに対し、俺から謝罪の言葉を述べたところで意味などないのだろう。それはキミへの侮辱だ。キミに対し、サイバー流はあまりにもリスペクトを欠く行為を行い過ぎた」

「……それで?」

「だが、それでも俺はキミを全力で叩き潰しに行かせてもらう。それが俺の信じるリスペクトであり、同時に唯一キミに報えることであると考えるからだ」

「どうでもいいさ、あんた個人の考えなんて」

 

 大歓声の中心で。

 二人のデュエリストが、向かい合う。

 

「俺はサイバー流を許さない。それだけだ。許すなんて言葉を吐くには、あまりにも憎み過ぎた」

「そうだろうな。キミに今更許してもらおうなどとは考えていない」

「観客席を見る限り、俺とあんたのデュエルは教師陣も予想外だったらしい。……あんたの師範はさ、そんなにも俺のことが憎いのか?」

「……そうなのだろう。俺には理解できないが」

「自分の考えと全く違う人間がいるのが許せない――子供かよ、いい歳したジジイが。たださ、俺ももうそろそろ本気で疲れてきた。――今日のデュエルで、俺は俺自身の過去に決着を着ける」

 

 全ては、アカデミア中等部の入学式の日だった。あの日、同学年のサイバー流を名乗る男とトラブルになり、それが全ての引き金となる。

 勝利しても卑怯と蔑まれ、敗北こそしなかったが一度でも敗北すれば文字通り居場所を失っていただろう。

 如月宗達が――侍が生き残れたのは、全て〝勝利〟という理由があったからこそだったのだから。

 

「勝ちたい、とかじゃないんだよ俺のデュエルは。『勝たなければならなかった』んだ。つまんねぇ中学時代だったよ。雪乃がいなければ、明日香や万丈目がいなければ――俺は、本当の意味で道を踏み外してた。その全てはサイバー流のせいだ。誰がどう弁護しようと、言い訳しようと、俺の中でそれだけは変わらない」

「勝利のみをリスペクトする、とキミは言ったな」

「勝たなければ生き残れなかった。俺は勝っていたからこそ、勝ち続けていたからこそどうにか自分自身を保つことができていたんだ。勝利以外、何を信じて戦えばいいってんだ。勝利が正義で勝者が絶対だ。そうだろうがよ」

「……一つだけ、問わせて欲しい」

 

 互いに距離を取り、向かい合う中で。

 最後に、カイザーと呼ばれる男がそう言った。

 

「キミは、デュエルを楽しんでいるのか?」

「……どこぞの流派のせいで、そんなもんは忘れちまったよ」

 

 開始の声が響き。

 二人が、デュエルディスクを構える。

 

「「決闘(デュエル)」」

 

 互いに、静かな宣誓。

 片や、自分自身の証明のために勝利を求める者と。

 片や、自らの流派の正しさを証明するために戦う者。

 互いに、退く理由はない。

 

「俺の先行。ドロー。……カードを二枚伏せ、ターンエンド」

 

 侍の立ち上がりは静かだ。彼のデッキ――『六武衆』は本来、速攻の展開力の凄まじさが目立つデッキである。しかし、彼のドロー運の無さは中々速攻を許してくれない。

 故に、立ち上がりの静かさはいつものことだ。それを受け、カイザーもデッキトップへ手を伸ばす。

 

「俺のターン、ドロー。……手加減はしないぞ、如月。俺は手札より魔法カード『パワー・ボンド』を発動! 手札またはフィールドから、融合モンスターによって決められたモンスターを墓地に送り、機械族の融合モンスターを特殊召喚する! 更にこのカードで特殊召喚したモンスターは、攻撃力が二倍になる! 手札の『サイバー・ドラゴン』二体を融合! 来い、『サイバー・ツイン・ドラゴン』ッ!!」

 

 サイバー・ツイン・ドラゴン☆8光ATK/DEF2800/2100→5600/2100

 

 現れるのは、二頭の頭を持つサイバー・ドラゴンだ。だが、その威容は圧倒的な大きさを誇り、攻撃力は完全にオーバーキルである。

 会場が大きく湧く。これが決まればそれで決着だ。宗達は、ただただ無表情にカイザーを見つめている。

 

「いくぞ、サイバー・ツイン・ドラゴンで攻撃! 二連打ァ!」

「――リバースカード、オープン」

 

 カイザーの掛け声とは対照的に。

 酷く静かな、宗達の声。

 

「『デモンズ・チェーン』」

 

 その言葉が紡がれた瞬間、無数の鎖がサイバー・ツイン・ドラゴンを拘束した。これにより、サイバー・ツインが動きを止める。

 

「永続罠、デモンズ・チェーン。相手の効果モンスター一体の効果を無効とし、攻撃宣言および表示形式の変更を不可能とする。サイバー・ツインは攻撃不可だ」

「くっ、ならばバトルフェイズは終了だ」

 

 縛られたサイバー・ツインを見、悔しげに唸るカイザー。周囲から――主にブルー生から――宗達へと非難の声が飛んだ。

 

『卑怯だぞ如月!』

『そんなカードでカイザーの邪魔をするなど……!』

『お前はそれでもデュエリストか!』

 

 あんまりといえばあんまりな罵倒の数々。だが、宗達とカイザーの立場を考えればある種当然とも言える状況だった。

 一時期は相手にトラウマを植えつけるような勝ち方を続け、何人ものデュエリストを再起不能にまで追いやった『デュエリスト・キラー』と呼ばれ、当時から神格化されていたカイザーの掲げるリスペクトとは程遠い、悪く言えば『勝つために手段を択ばない』宗達と。

 互いをリスペクトし、楽しむデュエルをしようと語り、同時にプロにも名を通す『サイバー流』の正統継承者でもあるカイザー。

 どちらが好かれ、嫌われているのか。

 それはもう、今更語る必要などないことだ。

 

「……俺はメインフェイズ2へ入る」

 

 だが、それらの野次で動揺しているのは宗達ではなくカイザーだった。宗達のカードは、確かに『曲解された』サイバー流においては外道と呼ばれる類のカードだ。『互いが全力を出す=相手を妨害しない=相手を妨害することは卑怯である』という論理へすり替わってしまっているのはカイザーも知っている。しかし、これほどまでに如月宗達という少年は非難されなければならないのか。

 彼は、こちらの手を読んで。

 その上で、全力なだけだというのに。

 ――そして、何より。

 これほどの非難の中、表情一つ変えず――それどころか、当たり前のように振る舞っている宗達の姿に、カイザーは唇を噛み締めた。

 

「俺は手札より『サイバー・ジラフ』を召喚。このカードを生贄に捧げることで、このターンのエンドフェイズまで俺の受ける効果ダメージは0になる――」

「リバースカードオープン、カウンタートラップ『神の警告』。LPを2000ポイント支払い、召喚・反転召喚・特殊召喚及びそれらの効果を含むカードの発動を無効にし、破壊する。……サイバー・ジラフには消えてもらう」

 

 宗達LP4000→2000

 

 宗達のカードの効果により、サイバー・ジラフが消える。コストこそ重いが、召喚に関しては『神の宣告』をも上回るカバー範囲を誇るカードだ。

 

「くっ……俺はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 カイザーが呻きながらターンエンドを宣言する。再びブルー生から宗達への非難が飛ぶが、宗達はその全てを無視し、静かに言葉を紡いだ。

 

「『パワー・ボンド』は確かに強力なカードだ。一度決まればそのままゲームエンドに持っていける可能性も高い。だが、カイザー。――俺を誰だと思ってやがる?」

 

 鋭く、静謐な気配を携えて。

 如月宗達は、カイザーへと言葉を紡ぐ。

 

「俺は常にサイバー流と戦ってきた。ずっと、勝つことだけを考えてきた。他の奴ならいざ知らず、俺にその程度の策が通じると思ってんじゃねぇ。……強力な力には、相応のリスクが付きまとう。さあ、ダメージを受けてもらうぞ……!」

「――――ッ!」

 

 亮LP4000→1200

 

 カイザーのLPが一気に削られる。パワー・ボンドのデメリット効果――エンドフェイズ時、融合モンスターの元々の攻撃力分のダメージを受けるというものが発動したせいだ。

 普段のカイザーならばものともしなかったそのデメリット。しかし、如月宗達というデュエリストは今まで数多くの『サイバー流』と戦ってきたデュエリストであり、勝利し続けてきたデュエリストだ。彼のデッキは、サイバー流と戦うことに関しては圧倒的な力を有する。

 それもまた、一種の歪みだということに……気付いていて、カイザーは気付かない振りをした。

 

「こっちは命懸けで戦ってんだ。そっちも覚悟を見せやがれ」

 

 侍と帝王の戦い。

 アカデミアにおける頂点のデュエルが、加速する。










……うん、もう仕方ないね
鮫島校長がド外道の下衆になりつつあるけど、うん、しょうがない
………………どうしてこうなったんだか。

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