遊戯王GX―とあるデュエリストたちの日々―   作:masamune

102 / 104
第十三話 立ち上がる意志

 

 

 

 

 本来、自身の力では戻ってこれるはずのない異空間より姿を現したのは、一人の少年。

 ――夢神祇園。

 かつての大戦であまりにも多くの犠牲者と不幸を生み出したが故に〝悲劇〟と呼ばれる存在。その心臓を持つ精霊と出会ってしまったが故に、己の運命を捻じ曲げられた者。

 同情はあった。だが、必要な犠牲だと割り切った者たちがいて、そうではない者もいて。

 

「何故、どうして……まさか、『魔導書の神判』が答えを……?」

 

 茫然と呟くのはサイレント・マジシャンだ。二人を異空間に封じていたのは神判の力を用いてのことである。その封印を内側からこじ開けることができる者など、この円卓の者ですら単独では不可能だろう。

 ならばもう一つ。神判そのものの意志という可能性がある。神判はそれ自体が意志を持つ強大な魔導書だ。その審判が、彼を開放することを選んだのならば辻褄が合う。

 

「いいえ、違うわ」

 

 だが、それを否定したのは魔導法士ジュノンだった。彼女もまた動揺を隠せないままに少年を見つめ、言葉を紡ぐ。

 

「異空間への扉がまだ閉じてない。それに、左腕の鎖。神判はまだ、彼を開放することを答えとしていない」

「成程、神判もまた答えを求めているようですね」

 

 頷くのはブラック・マジシャンだ。そのまま彼は、アビドス三世と向かい合う一人の王へと視線を向ける。

 

「どうされますか、神聖魔導王エンディミオン」

「……そこを退くがいい、〝決闘の神〟よ」

 

 エンディミオンが厳かに告げる。アビドス三世は少年の姿を見、小さく笑みを浮かべた。右手を挙げ、従者たちを下がらせる。

 

「余もそこまで無粋ではない。だが、精霊の王よ。そなたは知ることになるだろう。人の可能性を、想いを、意志を。……我が友は、強いぞ?」

「そのようなことはどうでもいい。我はただ、我が責務を果たす。この地の王として。円卓の筆頭として。何より、あの戦を生き残った者として」

 

 エンディミオンの左腕に、デュエルディスクが展開される。神判は答えをこちらに委ねた。いつの時代も、答えを得るために行われたのは闘争だ。そもそも今回の論点は彼が〝悲劇〟の手の者と再び見えた時、為す術なく敗北するという前提の下に成立している。

 ならば、その前提が崩れれば?

 彼が、その実力を示すことができれば?

 

「わかり易い構図だな。議論を重ねるよりもシンプルでいい」

「そうじゃのう。要はその小僧が力を示せばよい、ということじゃ。これ以上わかり易い決着もない」

 

 可々、とギルフォード・ザ・レジェンドの言葉を引き継ぐ形で笑う紫炎の老中エニシ。その視線の先で、石造のように固まっていた少年が不意に動いた。

 確かめるように一度息を吐き、少年が前を見る。その視線の先にいるのはエンディミオンだ。

 

「己が何をすべきかは、理解しているようだな?」

「……まだ、整理はついてないです。でも、それでも」

 

 少年の左腕にデュエルディスクが現れた。この円卓の間は神判の力によって通常とは異なる状態となっている。想いが力となり、具現化する領域。故に奇跡も起こり得る。

 

「もう一度、敢えて問おう。大人しくその身を封印し、世界のためとなる気はないか?」

「前までの僕なら、多分頷いていたと思います」

 

 生きている意味がわからなくて、過去に縋りついていた頃の自分なら。その言葉に説得されたかもしれない。

 

「けれど、願われたんです。生きていて欲しい、って」

 

 己の胸に手を当て、呟くように言う少年。円卓の者たちが、一様に息を呑んだ。

 まさか、という予測はあった。だが、こんな。

 

「だから、生きます」

「そうか。……残念だ」

 

 エンディミオンは嘆くように嘆息した。そして、睨み付けるように少年を見据える。

 

「力ずくでその未来を奪うことになるのは避けたかったのだが……これも、我が背負うべき業か」

 

 円卓に、風が吹く。

 一都市を統べる王が、その魔力を解放したのだ。円卓の者たちやアビドス三世が思わず眉を顰める中、対面の少年は眉一つ動かさない。

 

「ゆくぞ」

 

 そして、決闘が始まった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 体を、温かいものが包んでいる感覚がある。彼女の力――いや、存在だ。

 理屈はよくわからないし、どうしてこういう形になったかもわからない。もっと上手い方法があったのかもしれないし、これは最悪の方法だったのかもしれない。

 冷静に考えれば、あそこで自身と彼女が犠牲になることは最善だったと言える。彼女の記憶にあった地獄のような光景。あんなものを再び繰り返してはいけないというエンディミオンの言葉には同意できる。

 だがそれでも、ここにいる自分は望んだのだ。

 ――生きることを。

 己のエゴを貫き通すことを。そして彼女は願ってくれた。

 生きていて欲しいと――言ってくれた。

 

「先行は我だ。我はフィールド魔法、『魔法都市エンディミオン』を発動。魔法が発動する度に魔力カウンターが乗り、更に破壊される際は魔力カウンターを一つ取り除くことで免れることができる。更に『融合賢者』を発動し、デッキから『融合』を手札に。更に『召喚士のスキル』と『竜破壊の証』を発動。『ブラック・マジシャン』と『バスター・ブレイダー』を手札に加え、『融合』を発動。――降臨せよ、『超魔導剣士ブラック・パラディン』!!」

 

 現れるのは、竜破壊の力を纏う黒魔導士。かつてバトル・シティで最強のドラゴンである『青眼の白龍』を三体同時に葬り去った逸話を持つ、『決闘王』の切り札。

 

 魔法都市エンディミオンカウンター0→4

 超魔導剣士ブラック・パラディン☆8闇ATK/DEF2900/2400

 

 魔導剣士を従え、エンディミオンは威厳を感じさせる声で言葉を紡ぐ。

 

「ドラゴン・ウイッチの主というのであれば、ドラゴン使いだろう? 悪いが容赦をする気はない。我はカードを一枚伏せ、『クリバンデット』を召喚。エンドフェイズ、クリバンデットの効果を発動。デッキトップから五枚のカードをめくり、魔法・罠を一枚手札に加えて残りを墓地へ送る」

 

 クリバンデット☆3闇ATK/DEF1000/600

 捲られたカード→破壊剣士の伴竜、ワンダー・ワンド、死者蘇生、神聖魔導王エンディミオン、混沌の黒魔術師

 

 奇跡的とも呼べる落ち方である。だが、驚くことはない。ここは精霊界であり、目の前にいるのはこの都市の王だ。ここでは夢神祇園という存在こそが異端であり、向こうの思い通りにいかないということがあればそれこそが異常なのだから。

 

「我は死者蘇生を手札に加え、ターンエンドだ」

 

 超魔導剣士ブラック・パラディン☆8闇ATK/DEF2900/2400→3400/2400

 

 墓地にドラゴン族が落ちたため、ブラック・パラディンの攻撃力が上昇する。竜殺し――成程確かに、祇園のデッキとは相性が悪い。祇園のデッキはシンクロのために用いられる下級モンスターたちはともかく、メインアタッカーとなるモンスターはドラゴン族が多い。そして墓地が肥えれば肥えるほど力を発揮する。そうなると、ブラック・パラディンとの相性は非常に悪いと言えるだろう。

 そう――以前の夢神祇園ならば。

 

「僕のターン、ドロー。――相手フィールド上にのみモンスターが存在するため、『聖刻龍――トフェニドラゴン』を特殊召喚します」

「ほう……」

 

 聖刻龍―トフェニドラゴン☆6光ATK/DEF2100/1400

 

 聖なる刻印を持つ龍が現れる。だがこれはまだ準備段階だ。

 

「更にトフェニドラゴンを生贄に捧げ、『竜宮のツガイ』を召喚。生贄に捧げたトフェニドラゴンの効果により、『ギャラクシーサーペント』を特殊召喚」

 

 竜宮のツガイ☆6水ATK/DEF2000/1200

 ギャラクシーサーペント☆2光・チューナーATK/DEF1000/0

 

 現れたのは仲睦まじい様子の水流と、銀河の小さな竜だ。その場のほとんどが怪訝に思う中、ロード・オブ・ドラゴンのみが息を呑む。

 

「そして竜宮のツガイの効果を発動。手札を一枚捨て、一ターンに一度デッキからレベル4以下の幻竜族モンスターを特殊召喚します。僕は『魔轟神獣ケルベラル』を捨て、デッキから『破面竜』を特殊召喚し、更に手札から捨てられたことによってケルベラルが蘇生」

 

 魔轟神獣ケルベラル☆2光・チューナーATK/DEF1000/600

 破面竜☆3炎ATK/DEF1400/1100

 

 幻竜族――その聞き慣れない響きにエンディミオンが眉を顰める。祇園はそれを無視すると、手を前に突き出した。

 

「レベル3、破面竜にレベル2、魔轟神獣ケルベラルをチューニング。――シンクロ召喚、『TGハイパー・ライブラリアン』」

 

 TGハイパー・ライブラリアン☆5闇ATK/DEF2400/1800

 現れるのは、司書の姿をした魔法使い。だがこれはまだ序の口に過ぎない。

 

「レベル6、竜宮のツガイにレベル2、ギャラクシーサーペントをチューニング。――力を貸して欲しい、来て――」

 

 祈るような言葉と共に。

 光が、降る――

 

 

「――『輝竜星―ショウフク』!!」

 

 

 大きな音が、響いたわけではない。

 大きな衝撃が、響いたわけでもない。

 ただ優雅に、その竜は降臨する。

 

 輝竜星―ショウフク☆8光ATK/DEF2300/2600

 

 黄金の輝きを纏うその竜はしかし、ドラゴン族とはまた違う。

 これこそが、少年が望み、彼女が導いた新たな力。

 

「竜星だと……? まさか、ドラゴン族が昇華したという……?」

 

 エンディミオンが呻くように呟く。その彼に対し、祇園は宣言した。

 

「ショウフクの効果発動! このモンスターのシンクロ召喚に成功した時、素材とした幻竜族モンスターの数までフィールド上のカードをデッキに戻せる! ブラック・パラディンをデッキに戻します!」

「何だと!?」

 

 ブラック・パラディンがエクストラデッキへと戻っていく。くっ、とエンディミオンは呻いた。

 

「バトル! ショウフクでダイレクトアタック!」

「させん! 永続罠『永遠の魂』! 墓地のブラック・マジシャンを蘇生する!」

 

 ブラック・マジシャン☆7闇ATK/DEF2500/2100

 

 現れるのは最高位の黒魔術師。ショウフクとライブラリアンではその攻撃力を超えられない。

 

「僕はカードを二枚伏せ、ターンエンドです」

「我のターン、ドロー!……よもや幻竜族とはな。侮っていた。だがそれもここまで。『永遠の魂』の効果を発動し、『黒・魔・導』を手札に加え、発動! 貴様の魔法・罠を全て破壊する!」

 

 ブラック・マジシャン必殺の魔法が放たれる。だがこれは想定内だ。

 

「罠カード、『スターライト・ロード』! 自分の場のカードが二枚以上破壊される時、その効果を無効にして『スターダスト・ドラゴン』を特殊召喚します! 飛翔せよ、スターダスト・ドラゴン!!」

 

 スターダスト・ドラゴン☆8風ATK/DEF2500/2000

 

 降臨する星屑の竜。エンディミオンがぬうっ、とその表情を歪めた。

 

「貴様も我らに逆らう気か、星屑の竜!!」

 

 その言葉に応じるように、大きく嘶くスターダスト・ドラゴン。エンディミオンは更なるカードをデュエルディスクに差し込んだ。

 

「ならば、そのまま消えるがいい。――魔法カード『死者蘇生』発動! 甦れ、『混沌の黒魔術師』! 更に魔法カード『ティマイオスの眼』を発動! ブラック・マジシャンを素材とする融合モンスターを特殊召喚! 来るがいい、『呪符竜』よ!」

 

 混沌の黒魔術師☆8闇ATK/DEF2800/2000

 呪符竜☆8闇ATK/DEF2900/2500→3100/2500

 魔法都市エンディミオンカウンター4→6

 

 二体のモンスターが降臨し、祇園たちを見据える。おいおい、と呆れたような声を上げるのは冥府の使者ゴーズだ。

 

「いくらなんでもこりゃあ、無茶しすぎなんじゃねぇのか?」

「何とでも言うがいい。――呪符竜の効果で『召喚士のスキル』と『竜破壊の証』を除外。そしてエンディミオンの効果を発動。魔力カウンターを6つ取り除き、我自身を蘇生! その瞬間、墓地の『ワンダー・ワンド』を手札に加え、我自身に装備する!」

 

 神聖魔導王エンディミオン☆72700/1700→3200/1700

 魔法都市エンディミオンカウンター6→0→1

 

 一瞬で展開されるモンスターたち。その全てがエースであり切り札たる力を有している。

 

「まずはその鬱陶しい星屑の竜から消えて貰おう。我自身で攻撃!」

「……ッ、スターダスト……!」

 

 祇園LP4000→3300

 

 なす術なくスターダスト・ドラゴンが破壊される。そこへ更なる追撃が行われた。

 

「厄介な司書にはゲームから退場してもらおう。混沌の黒魔術師でハイパー・ライブラリアンを攻撃! 混沌の黒魔術師が戦闘で破壊したモンスターは、ゲームから除外される!」

「――――ッ」

「そして最後だ。――呪符竜で輝竜星ショウフクを攻撃!」

 

 祇園LP3300→2900→2100

 

 祇園の場が伏せカード一枚を残してがら空きとなる。どうした、とエンディミオンは言葉を紡いだ。

 

「この程度の力で〝悲劇〟に立ち向かうつもりでいたというのか? ならば我は絶対にそれを認めることはない。貴様程度のデュエリストなど、いくらでも存在している。そんな程度の者に我らの運命を託すことはできん」

 

 言い切ると、エンディミオンは自身を生贄としてワンダー・ワンドの効果でドローを行う。そのままカードを一枚伏せると、エンドフェイズに『死者蘇生』を手札に加えた。

 

「犠牲となれ、人間。ドラゴン・ウイッチが貴様に何を望んだのかなど知らん。だが、貴様が犠牲になることこそが、世界にとっての最善なのだ」

 

 魔法都市を統べる王が、感情を乗せぬ声でそう告げる。

 犠牲になること。それを夢神祇園は望まれた。

 

「受け入れよ。世界がために」

「……世界、と言われても。正直、僕にはわかりません」

 

 そう、わからない。

 彼女から伝え聞いた時も、今目の前でエンディミオンが言っていることも。正直、理解などできていなかった。

 確かに、彼らならわかるのかもしれない。世界を見続けてきた高位の精霊たちや、今目の前にいるエンディミオンのような王ならば。あるいは、彼女もまたわかっていたのかもしれないと思う。だからこそ世界を救うために己を犠牲にしたのだから。

 

「僕は、毎日を生きるだけで必死で。世界っていうのは、僕にとってその毎日だけだった」

 

 必死に歩み、走り続けてきた場所。それだけが夢神祇園にとっての世界であり、学校の授業で学ぶような世界は、ニュースの向こう側にある傍観するだけのものでしかない。

 

「その認識がありながら、何故抗う。貴様が守るのは、その世界だ」

 

 問いかけ。それに対し、祇園は静かに首を振る。

 

「僕の世界は、僕が守らなければ壊れてしまうほどに脆い世界じゃない」

「…………」

「だから、生きるんです。僕はそれを願って、ウイッチがそれを願ってくれた」

 

 どうして生きているのか。今まで歩んできたのか。その答えは、ずっと心にあったのだ。

 生きていたいと、ここにいたいと、歩み続けようと、自分自身が願ったのだ。そうでなければ夢神祇園はとっくにどこかで死んでいる。

 

「……愚かな話だ。ならば貴様は、己が生き残るために100を、1000を犠牲にしてもいいと言うつもりか?」

「わかりません」

 

 祇園はきっぱりと言い切った。本当にそういう場面になったらどうするかの答えは何となく出ている。けれど、今はそうじゃない。

 それに、自身が犠牲になることを、きっと彼らは許してくれないだろう。

 

「ただ――ウイッチが願ってくれた命を、諦めるわけにはいきません」

「……愚か。その言葉に尽きる」

「それでもいいです。それがあれば、戦える。生きていい理由があれば、生きていく理由があれば、僕は――」

 

 デッキトップに手をかける。少年は、静かに。

 

「――立ち上がれる」

 

 今までは、闇の中を歩むだけだった。

 けれど、ようやく――光が見えた。

 

「魔法カード、『シャッフル・リボーン』を発動! 墓地からモンスターを一体、効果を無効にして特殊召喚します! 『聖刻龍トフェニドラゴン』を蘇生し、更に永続魔法『幻界突破』を発動!!」

 

 聖刻龍―トフェニドラゴン☆6光ATK/DEF2100/1400

 

 聖なる龍が再臨し、祇園の周囲の空間が歪む。そのまま、効果発動、と祇園は宣言した。

 

「一ターンに一度、自分の場のドラゴン族モンスターを生贄に捧げ、同レベルの幻竜族モンスターをデッキから特殊召喚する!! 生まれ変われ――トフェニドラゴン!!」

 

 竜宮のツガイ☆6水ATK/DEF2000/1200

 ガード・オブ・フレムベル☆1炎・チューナーATK/DEF100/2000

 

 並び立つ二体のモンスター。祇園は更に、と言葉を紡ぐ。

 

「竜宮のツガイの効果を発動! 手札の『レベル・スティーラー』を捨て、デッキから『光竜星―リフン』を特殊召喚!」

 

 光竜星―リフン☆1光・チューナーATK/DEF0/0

 

 小型の光を纏う竜が現れる。その姿を確認すると、祇園は右手を突き出した。

 手札はこれで0。ここで示さなければらない。己の意志と、その意味を。

 

「レベル6、竜宮のツガイにレベル1、ガード・オブ・フレムベルをチューニング!――シンクロ召喚、『邪竜星―ガイザー』!!」

 

 邪竜星―ガイザー☆7闇ATK/DEF2600/2100

 

 闇を纏う竜が降臨する。大地を揺らす怒りの咆哮が、円卓の間を大きく揺らした。

 

「新たな竜星か。だが、それでどうするという?」

「邪竜星―ガイザーの効果を発動。一ターンに一度、自分フィールド上の竜星モンスターと相手の場のカードを一枚ずつ選び、破壊する。僕はガイザー自身と永遠の魂を選択」

「何!? くっ……!」

 

 ガイザーと永遠の魂が破壊される。その瞬間、二つの効果が同時に発動した。

 

「ガイザーが破壊された時、デッキから幻竜族モンスターを一体特殊召喚できる! 『獄落鳥』を特殊召喚!!」

 

 獄落鳥☆8闇・チューナーATK/DEF2700/1500→3000/1800

 

 地獄に住むという煉獄の魔鳥が降臨する。同時、相手の場が全て吹き飛んだ。

 

「永遠の魂がフィールドを離れた時、自分フィールド上のモンスターはすべて破壊される。――だが、破壊された呪符竜の効果を発動! 墓地から魔法使い族モンスターを一体、蘇生する! ブラック・マジシャンを蘇生!」

 

 ブラック・マジシャン☆7闇ATK/DEF2500/2100

 

 黒魔導士が蘇生される。祇園は更に、と言葉を紡いだ。

 

「墓地のレベル・スティーラーを獄落鳥のレベルを一つ下げて特殊召喚!――レベル1、レベル・スティーラーにレベル7、獄落鳥をチューニング! シンクロ召喚!!」

 

 相手の場を開ける。まずはそれからだ。

 

「『ダークエンド・ドラゴン』!」

 

 ダークエンド・ドラゴン☆8闇ATK/DEF2600/2100

 

 漆黒の闇を纏う竜が咆哮する。同時、その口から闇が放たれた。

 

「ダークエンド・ドラゴンの効果を発動! 攻守を500ずつ下げることで相手モンスターを一体、墓地へ送ります!」

 

 ブラック・マジシャンを墓地へと叩き込む。更に、と祇園は言葉を紡いだ。

 

「バトル、ダークエンドでダイレクトアタック!」

「ぬっ……!」

 

 エンディミオンLP4000→2100

 

 エンディミオンへと一手が届く。だが、まだだ。次のターン、そこへ望みをつなぐためにも。

 

「ダークエンドのレベルを一つ下げ、レベル・スティーラーを特殊召喚! そしてレベル7となったダークエンドに、レベル1の光竜星―リフンをチューニング!」

 

 光が、吹いた。

 そこに、そのモンスターが降臨する。

 

 

「闇を、切り裂け――『閃光竜スターダスト』!!」

 

 

 光を纏い、星屑の竜が降臨する。

 まるで歓喜の咆哮を上げるように、その竜は嘶いた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 向かい合う二人のデュエル。それを見守る者たちは、皆それぞれの思いを抱いていた。

 

「思ったよりやりおるのう」

「そのようだな」

 

 武人二人が楽しそうに笑う。それに対し、だけど、と言葉を紡いだのはジュノンだ。

 

「あのレベルが限界だというのなら、それこそ神聖魔導王の言う通りいくらでもいるわ。彼は〝王〟でなければ〝英雄〟でもなく、〝巫女〟でもない」

「おやおや、それでは望み薄ですねぇ」

「そうかしら?」

 

 ククッ、と笑い声を上げるカオス・ソーサラーにジュノンは挑戦的な笑みを浮かべる。彼女の主は〝巫女〟だ。それも、当代最高峰とまで謳われるほどの存在である。

 確かに彼女は精神的にまだ未熟。しかし、彼女は今まで数多くの精霊と出会い、見続けてきたのだ。その彼女が認める存在が、何もないとは思えない。

 

「逆にこれ以上があるのなら、きっとみんなが認めるわ。そうでなくて?」

「ふぅむ、成程……。しかし、今のところ期待はできませんねぇ」

 

 それについてはジュノンも反論はない。幻竜族――いまだその姿がほとんど確認できない彼らを従えているというのは驚いたが、それだけだ。まだこちらを納得させるだけの力は示していない。

 

「アビドス三世、あんたはどう見る?」

 

 そんな中、ゴーズが自分たちと同じように彼を見守る人の王へと問いかけた。その人物は口元に笑みを浮かべ、優雅に応じる。

 

「知れたこと」

 

 絶対の信頼と共に。

 

「祇園は負けぬ。ただの人でありながら、祇園は〝三幻魔〟と正面から向かい合った。〝英雄〟と呼ばれる者のような素養もない者が、だぞ? それだけで十分だ」

 

 本来ならば、あの場に立つことさえも許されなかったはずの存在。しかし彼は、あの場で命を懸けて戦い抜いた。

 力は足りないかもしれない。だが、普通はそうなのだ。矮小で、ちっぽけで。彼らが見守ってきた人間は、その大多数がそうだった。

 だからこそ、この戦いには意味がある。

 人の可能性――それを、示すという意味では。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 現れた閃光の竜。それを眺め、エンディミオンは威厳を滲ませた声で告げる。

 

「それが貴様の切り札だというのであれば――」

 

 エンディミオンが魔法カードを発動する。手札に加えるのは、『バスター・ブレイダー』と『融合』だ。

 

「――底は見えた。ここで終わりだ」

 

 伏せカードが発動する。発動されたのは『思い出のブランコ』。甦るのはブラック・マジシャンだ。

 

「我は再び『融合』を発動! 来るがいい、超魔導剣士―ブラック・パラディン」

 

 超魔導剣士ブラック・パラディン☆8闇ATK/DEF2900/2400→5900/2400

 魔法都市エンディミオンカウンター3→5

 

 再び降臨する魔法戦士。更に、とエンディミオンは言葉を紡いだ。

 

「魔法カード『死者蘇生』を発動! 甦れ、ブラック・マジシャン! 更にエンディミオンのカウンターを取り除き、我自身を蘇生する! そしてその効果により再び『死者蘇生』を手札に加え、発動! 甦れ、『バスター・ブレイダー』!!」

 

 ブラック・マジシャン☆7闇ATK/DEF2500/2100

 神聖魔導王エンディミオン☆7闇ATK/DEF2700/1700

 バスター・ブレイダー☆7地ATK/DEF2600/2300→5100/2300

 魔法都市エンディミオンカウンター5→6→0→1

 

 四体のモンスターが立ち並ぶ。終わりだ、とエンディミオンは告げた。

 

「まずはブラック・マジシャンでレベル・スティーラーに攻撃!」

「…………ッ!」

「最初のターンから伏せているそのカード。使い道のないブラフといったところか? そのようなものに臆するほど、府抜けた覚えはない。――エンディミオンでスターダストを攻撃!」

「ッ、まだです! スターダストの効果を発動! 一ターンに一度だけ、破壊を免れることができる!」

「無駄だ! バスター・ブレイダーで攻撃!」

 

 竜殺しの剣士が迫る。その瞬間、祇園は伏せカードを発動した。

 

「永続罠、『竜星の具象化』! 一ターンに一度、自分の場のモンスターが破壊された場合、デッキから竜星モンスターを特殊召喚できる! その代わりのこのカードが存在する時、僕はシンクロ召喚以外のエクストラデッキからの特殊召喚を行えない! 『地竜星―ヘイカン』を守備表示で特殊召喚!」

 

 地竜星―ヘイカン☆3地ATK/DEF1600/0

 

 地属性の竜星が出現する。エンディミオンが追撃の指示を出した。

 

「あくまで生き延びることを目指すか。だが、そんなものは無意味。――ブラック・パラディンでヘイカンを攻撃!」

「ヘイカンの効果を発動! 更に墓地の光竜星―リフンの発動する! ヘイカンが破壊されたため、デッキから『炎竜星―シュンゲイ』を特殊召喚! 更にリフンを自身の効果で蘇生!」

 

 炎竜星―シュンゲイ☆4炎ATK/DEF1900/0

 光竜星―リフン☆1光・チューナーATK/DEF0/0

 

 現れる二体のモンスター。それを見て、不愉快そうにエンディミオンが眉をひそめた。

 

「くだらぬ。抗って何になる? ただ苦しみを長引かせるだけだ。まさかとは思うが、我に勝てると本気で思っているわけではあるまい?」

「――思ってる。ううん、違う」

 

 勝たなければならない。そうでなければ、いけない。

 託されたモノを、決して無駄にはしないために――!

 

「勝たなくちゃ、いけないんだ! ドロー!」

 

 カードを引く。引いたカードは、一枚のモンスターカード。

 夢神祇園という少年をずっと支えてくれた、大切なカードだ。

 

「『ドラゴン・ウイッチ―ドラゴンの守護者―』を召喚!!」

 

 ドラゴン・ウイッチ☆4闇ATK/DEF1500/1100

 

 その女性の登場に、その場の全員が表情を変えた。だが、祇園の表情は変わらない。女性もまた、何の感情も見せずにそこにいる。

 

「……何のつもりだ?」

 

 ポツリと、呟くようにエンディミオンが言った。その声色には僅かに怒気が含まれている。

 

「その者を出せば、我が躊躇するとでも思ったか? 侮るな人間。既に覚悟は終えている。その者は貴様が喰らったのだろう? 姿形を似せただけのモノに価値などない!」

「価値なら、ある」

 

 彼女はもう、話さない。

 笑うことも、ない。

 

「ずっと見守っててくれたんだ。一緒に戦える――それだけで、僕はまだ」

 

 この体の奥底に、彼女はいる。だけどもう、言葉は交わせない。

 ならば、せめて。

 ずっと、ずっと共にあったこのカードと共に――

 

「墓地のシャッフル・リボーンの効果を発動! このカードを除外し、自分の場のカードをデッキに戻すことでカードを一枚ドローする! 竜星の具象化を戻し、一枚ドロー!」

 

 いこう、と彼は呟いた。

 答えてはくれぬ、己を信じてくれた人に。

 

「何を――待て。シンクロ召喚を行えない……? 貴様、まさか――」

 

 周囲にざわめきが広がっていく。祇園はただ、凛とした口調で言葉を紡ぐ。

 

「ドラゴン・ウイッチと炎竜星―シュンゲイで、オーバーレイ!!」

 

 エクシーズ召喚――その言葉に、全員が表情を変える。

 それは失われた召喚法。少年が知らぬはずの力。

 

「もう一度、いや、何度でも、ずっと一緒に――」

 

 紅蓮の炎が立ち上がり、そこに、それは現れた。

 

 

「――『竜魔人クィーンドラグーン』!!」

 

 

 炎の翼と、竜の体躯を持つ者。

 竜の守護者が、己の同胞を守るために自らの姿を変えた、気高き姿。

 

 竜魔人クィーンドラグーン★4闇ORU2ATK/DEF2200/1200

 

 エンディミオンが表情を変えた。そして、畳みかけるように祇園は言葉を紡ぐ。

 

「竜魔人クィーンドラグーンの効果を発動! ORUを一つ取り除き、墓地からレベル5以上のドラゴン族モンスターを一体蘇生する! ただしその効果は無効化され、攻撃もできない! 閃光竜スターダストを蘇生!!」

 

 閃光竜スターダスト☆8光ATK/DEF2500/2000

 

 不死鳥のごとく甦る閃光の竜。ふん、とエンディミオンが鼻を鳴らした。

 

「貴様の魂の形――閃光の竜か。だがそれでどうする? その竜では、我を超えることは不可能だ」

「だからこうします。手札の『ブースト・ウォリアー』を特殊召喚! 場にチューナーがいる時特殊召喚できる! そしてレベル1、ブースト・ウォリアーにレベル1、光竜星―リフンをチューニング! シンクロ召喚、『フォーミュラ・シンクロン』!」

 

 ブースト・ウォリアー☆1炎ATK/DEF0/0

 フォーミュラ・シンクロン☆2光・チューナーATK/DEF200/1500

 

 神速の車が駆け抜ける。ここまではいい。ここまでは見えていた。

〝彼女〟の意志の中に、これはあった。

 

「フォーミュラ・シンクロンの効果でカードを一枚ドロー!」

 

 後は、自分がそこへ辿り着けるかどうかだけ。

 ――思い出せ。あの戦いを。

 ――思い出せ。命を懸けて紡いだ奇跡を。

 夢神祇園は、この時のために――

 

〝大丈夫です、マスター〟

 

 意識が加速する。星屑の竜の背中が、酷く遠く見えた。

 

〝だって、あなたは〟

 

 ついて来いと、ついて来れぬなら置き去りにすると、そう告げる背中へ。

 

 

〝私が信じた、人ですから〟

 

 

 右手が、届く――

 

 

 ――世界が、閃光に染め上げられた。

 誰もが目を覆い、顔を背ける中で。

 

 

「――集いし力が拳に宿り、鋼を砕く意志と化す!!」

 

 

 少年は、その可能性を掴み取る。

 

 

「――光さす道となれ――」

 

 

 その時、ほんの一瞬。

 意志を持たぬはずの彼女が、誇るように――微笑んだ。

 

 

「――アクセルシンクロ――」

 

 

 それは、人の可能性。

 折れぬ意志が紡ぎ上げた、小さな奇跡。

 

 

 

「――立ち上がれ、『スターダスト・ウォリアー』!!」

 

 

 

 轟音と共に風が吹き、その戦士が現れる。

 星屑の鎧を纏い、両の腕を組んで少年の背後に佇む姿は、見る者を圧倒した。

 

 

 スターダスト・ウォリアー☆10風ATK/DEF3000/2500

 

 

 その威風堂々たる姿を見て、馬鹿な、とエンディミオンは呻いた。彼はこの魔法都市の王であり、最高峰の知識を持つ存在だ。他種族のモンスターを含め、彼の知らないモンスターなどほとんど存在しないと言ってもいい。

 だが、目の前に現れた戦士を彼は知らなかった。そんなことは、あってはならないはずなのに。

 

「人の可能性……その答え」

 

 茫然と、そう呟いたのはロード・オブ・ドラゴンだった。彼は他の者たちと同じように星屑の戦士を眺めながら、震える声で言葉を紡ぐ。

 

「そうか、友よ。お前が信じたのは……」

 

 その瞳から涙を零し、体を震わせるロード・オブ・ドラゴン。

 誰よりも人を愛し、信じ続けた精霊。それに応えた、名もなき少年。

 ――きっと、彼女が信じていたものがこれだったのだろうと彼は思った。

 他の精霊たちの多くが、己を見ることのできる者にのみ期待を寄せ、意識を向ける中で。彼女だけは己を見ることさえもできない脆弱な者たちだけを愛し続けた。わかっていたのだろう、彼女は。その脆弱な者たちこそが、可能性であるのだと。

 

「――お見せします。僕の――僕たちの、全てを」

 

 少年が告げると共に、ゆっくりと戦士がその両腕を解いた。侮るな、とエンディミオンが吠える。

 

「言ったはずだ! 我に力を見せよと! その力が〝悲劇〟に届くというのなら! それを示して見せるがいい!!」

 

 戦いが始まったのは、その言葉と同時だった。星屑の戦士が宙を蹴り、その拳をエンディミオンへと叩き付ける。それをエンディミオンは展開した障壁で防いだ。

 バチバチと火花を散らせ、拳と障壁がぶつかり合う。

 

「その程度か!? ならば貴様はここで終わりだ!」

「まだです! まだ――終わってない!!」

 

 祇園が吠えた。同時、スターダスト・ウォリアーがその右拳を一度引く。そして次の瞬間、その両の拳を以て障壁を連打した。

 拳と障壁がぶつかる度に衝撃波が大気を揺らし、轟音が鼓膜を叩く。だが、まだだ。まだ届いていない。

 

「我を倒したところで! 勝利できなければ意味はない! 王とはそういうものだ! 己を犠牲にしてでも国を! 民を守る者! 我一人の身と引き換えに勝利を得られるならば安いものだ!」

 

 それは、エンディミオンの矜持。王として彼がこの場に立つ理由。

 

「貴様に何がわかる小僧!? 犠牲など生みたくはない! 当たり前だ! 誰も犠牲にならぬならばそれが最上だ! 我とてそれを願っている! だが不可能なのだ! 犠牲は出る! 生まれてしまう! ならばその犠牲を最小限にするのが我が役目! 汚名は背負おう! 恨みも買おう! たとえ何と思われようとも! 我は〝王〟であるが故に!!」

 

 同時、エンディミオンの障壁がスターダスト・ウォリアーを弾いた。確かにこのままエンディミオンを破壊したところで、次のターンに敗北が待っている。

 

「鋼をも砕く意志――そう言ったな!? ならば示して見せよ! その拳、この我に届かせて見せるがいい!!」

 

 鈍い音が響き渡る。スターダスト・ウォリアーが、その両の拳を打ち合わせた音だ。

 そのまま半身を捻り、スターダスト・ウォリアーが駆け抜ける。

 

〝ありがとう、マスター〟

 

 少年の手札から、一枚のカードが墓地へと送られた。

――『ラッシュ・ウォリアー』。

 

〝あなたに出会えて――幸せでした〟

 

 その効果は、ウォリアーシンクロモンスターの攻撃力を倍にするというもの。

 光が、拳に収束する。

 

「届け……ッ!!」

 

 祈るようなその言葉。星屑の戦士が咆哮し、その拳を解き放つ。

 

「届けええええええぇぇぇっっっ!!」

 

 その拳が、モンスターたるエンディミオンを破壊し。

 深々と、〝王〟を貫いた。

 

 エンディミオンLP2100→-1200

 

 神判が魔力を失い、異空間への扉が閉ざされる。

 残ったのは、星屑の戦士を従える――少年だけ。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「――答えは出た」

 

 倒れ伏すエンディミオンの代わりに告げたのはロード・オブ・ドラゴンだった。彼は未だ星屑の戦士を背後に従える少年を見つめ、言葉を紡ぐ。

 

「キミの勝ちだ。キミは我らに、その力を示した」

 

 全員が無言。だが、反対の声は上がらない。

 エンディミオンの力は円卓でも間違いなく最上位のモノだ。それを紙一重――そう、文字通りの紙一重とはいえ少年は打ち破った。それを今更否定する者はいない。

 

「キミは――……」

 

 更なる言葉を紡ごうとしたロード・オブ・ドラゴン。しかし、それを遮る声が出現する。

 

「――失礼します!!」

 

 現れたのはサイレント・ソードマンだった。この都市の守備隊長として勤務する彼はあちこちが壊れた円卓の間を見て驚きながら、声を上げる。

 

「会議中に申し訳ありません……! 緊急事態です! 所属不明の軍隊がこちらへ向かっています!」

「何ですって!?」

 

 声を上げたのはジュノンだ。だが、彼女以外も驚愕に目を見開いている。

 精霊界も絶対的に平和な世界では決してないが、この周囲にはわざわざ魔法都市エンディミオンに攻め込む者などいないはず。

 

「……敵の種族は?」

 

 問いかけたの声は、酷く緩慢だった。倒れ伏していたエンディミオンが、ゆっくりと起き上がる。見た目からも軽い傷ではないことがわかった。

 

「機械族です。指揮官は不明、すでに関所を一つ突破してきました」

「機械族とな。ふむ、連中が従うとなると相応の黒幕がおりそうじゃが……」

 

 顎に手を当てて言うエニシ。エンディミオンは静かに告げた。

 

「何にせよ、真意を見極める必要がある。……小僧、お主の勝ちだ。好きにするがいい」

 

 言い切ると、僅かにふらつく足取りでエンディミオンが部屋を出ようとする。サイレント・マジシャンが慌ててその肩を支えに行き、ブラック・マジシャンが同行する。

 そんな中、ジュノンが祇園へと言葉を紡いだ。

 

「ごめんなさいね、祇園。慌ただしくなっちゃって」

「あ、い、いえ、こちらこそすみません……」

 

 小さくなる祇園。先程エンディミオンと向かい合っていた人物とは別人のようだが、彼のことを一応とはいえ知っているジュノンとしては驚くことではない。

 

「悪いけれど、向こうに戻るのはちょっと待ってくれるかしら? とりあえず、今はこの状況を乗り切らないと」

「大丈夫なんですか……?」

「何とも言えないわね。向こうの目的次第なところもあるから」

 

 肩を竦めるジュノン。そんな彼女に、あの、と祇園は言葉を紡いだ。

 

「僕も何か、お手伝いできませんか?」

「……手伝ってくれるの?」

 

 その言葉にジュノンは驚きの表情を浮かべた。そのまま何かを言おうとする彼女に、待て、と声を上げたのはアーカナイト・マジシャンだ。

 

「戦わせるつもりか?」

「あら、じゃあこんな戦力を放っておくつもり?」

 

 アーカナイト・マジシャンに挑戦的な笑みを向けるジュノン。いいじゃないですか、と言葉を紡いだのはカオス・ソーサラーだ。

 

「彼の実力は疑う必要もありませんからねぇ?」

 

 くっくっ、と笑いながら言うカオス・ソーサラー。そうじゃの、と頷いたのはエニシだ。

 

「期待しておるよ、少年。――さて、わしらも行くかギルフォード卿」

「……そうだな」

 

 二人の武人が立ち上がり、その護衛もそれに追従する。そこへ、更なる声がかかった。

 

「余も手を貸そう」

 

 名乗り出たのは人間のファラオだ。その顔に、祇園は驚きの表情を浮かべる。

 

「アビドス三世、様……!? どうしてここに……」

「やはり気付いていなかったか」

 

 アビドス三世は苦笑。しかし、と彼は笑みを浮かべて祇園の肩を叩く。

 

「お前を助けに来たつもりであったが、杞憂であったようだな。流石は我が友だ。素晴らしいものを見せてもらったぞ」

「あ、いえ、ありがとうございます」

 

 頭を下げる祇園。アビドスは再び苦笑すると、良い、と言葉を紡いだ。

 

「友とは助け合うものだろう?……行くぞ、この地の王に指示を仰ぐ。祇園、また改めて語り合おうぞ。その時は、その身に何を受け入れたのかを話してくれると嬉しい」

「え、あ……でも、そんなに面白い話じゃないですよ?」

「構わぬ。長く在り続けると退屈なことも多くてな。何、お前が死ぬまでの退屈凌ぎの一つだ」

 

 笑いながらそう言うと、アビドス三世が立ち去って行った。それを見送り、祇園もジュノンにどうすべきか聞こうと視線を向けようとする。そこへ、横手から声がかけられた。

 

「少年……祇園、といったな」

 

 ロード・オブ・ドラゴンだ。彼は真剣な表情で祇園を見据えている。祇園は頷くと、その瞳を正面から受け止めた。

 

「一つだけ、聞かせてくれ。――我が友は、ドラゴン・ウイッチは」

 

 絞り出すような問い。そこに含まれていた感情は、あまりにも多過ぎて。

 

「笑って、いたか?」

 

 祇園は、目を逸らすことができなかった。

 

「――はい」

 

 頷く。彼女は最後まで笑っていた。信じていてくれた。

 信じて、自分自身の魂を使って祇園の器を元に戻そうとしてくれたのだ。

 

「生きろと、キミに願ったのだな?」

「――はい」

「ならば、生きてくれ。私もそれを、心から願う」

 

 祇園の手を握り、ドラゴンの長が告げる。彼と彼女に何があったのかを知る術はない。ただ、彼もまた願ってくれた。

 

「――はい」

 

 だから、頷く。

 とくん、と、まるでうちに眠る彼女が微笑むように……音が鳴った。

 


















人の可能性、ここにあり。
腕組んで登場とか、どこのスーパーロボットだ貴様は。





というわけで、主人公完全覚醒。ぶっちゃけ二期はこの降りやりたいみたいなとこがありました。クィーンドラグーンはドラゴン・ウイッチを精霊にする時にずっと使おうと思っていた流れです。
とりあえずウイッチ登場からの流れでお好きな処刑用BGMをイメージしてください。一気に主人公度が増します。

生きることを願われた少年が、ようやく立ち上がります。
ここから一気に進むんじゃ……ないかな?


さてさて、今回のラスボスは誰なのやら。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。