幻想殺しと電脳少女の学園都市生活   作:軍曹(K-6)

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曖昧に過ぎていく日没 Hard_Way, Hard_Luck.

「おおー、雨が降ってる、ってミサカはミサカは夜空を見上げてみたり。ミサカはお月様を見たかったのに、ってちょっとしょんぼりしてみる」

 

打ち止めは真っ暗になった街の中で、手の平で雨滴を受けている。

パラパラと雨が降っている。

だが傘を差すほどではない。白夜にしてみれば雨など反射してしまえば良いのだから。

 

「痛っ!! ・・・・・・転んだー、ってミサカはミサカは地べたで状況報告してみたり」

「見りゃ分かる」

「すりむいた、ってミサカはミサカは掌をじっと眺めてみる」

「痛ェのか」

「消毒が必要かも、ってミサカはミサカはちょっと涙目になってみたり」

「・・・あーはいはい」

 

白夜は面倒くさそうに頭をかくと、近くのバス停を指す。

 

「?」

「そこにいろ、絆創膏と一緒に消毒液を買ってきてやる」

 

白夜は薬局に入ると、目についた絆創膏と、消毒液。そして、綺麗な天然水のペットボトルをレジに置いた。

 

「・・・・・・面倒くせェ」

 

こういう思いやりに溢れた行動は、自分には似合わない気がする。と白夜は頭をかく。

店を出て、夜道を歩く白夜はそこで足を止めた。

ゴン!! と。

猛スピードで突っ込んできた黒いワンボックスカーが、白夜の体に激突したからだ。

無論。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(何だァ・・・・・・?)

 

車は盗難車。運転手は顔を隠して素性を知られないようにしていた。

 

(つまり、まァ、あれか。・・・俺に恨みがあるかァ、俺を利用しようと躍起ンなってる研究機関かァ、そのどっちかっつー訳だ)

 

白夜は笑う。

憐れむような眼で。

 

(悪りィが俺は)

 

ワンボックスカーのベクトルを真下に蹴り飛ばす。

 

「―――もう、戻る気はねェ」

 

そんな白夜を囲むように、三台のワンボックスが急停止した。

しかし人間は降りてこなかった。そこから覗いたのは無数の銃口。

それを見た白夜はため息をつくと同時に、軽く、地面を蹴った。

変に隆起したアスファルトが、全てのワンボックスのエンジン部に突き刺さり、大きな爆発を生んだ。

 

「演出ゴクロー。―――華々しく散らせてやるから感謝しろ」

 

炎の中で白夜は楽しそうにいう。

圧倒的なその力を前に。

と、

 

「だーから言ったじゃねーかよお。あのガキ潰すにゃこんなもんじゃ駄目なんだよ。ガキィ相手だからって甘い事ばっかしやがって。だから最初から俺が出るっつってんじゃねえか」

 

開きっ放しの後部スライドドアから黒ずくめの男が蹴り落とされた。その後からのっそりと現われたのは、つい最近会った顔だった。研究者のくせに顔に刺青を彫っている。

両手に着けられた機械製グローブ(マイクロマニュピレータ)がはめられている。

 

「・・・・・・、キハラくんよォ、ンだァ? その思わせぶりな登場は。またあの木原神拳で遊ぼうってのかァ?」

 

木原数多。

かつて、学園都市最強の超能力者の能力開発を行っていた男だ。

だが今は、木原一族は上条当麻の手によってほとんど無力化しているはずだ。何故今? そんな疑問が白夜の中で渦巻く中、木原数多は口を開いた。

 

「いやぁ、俺としてもテメェと会うのはお断りだったんだけどな。上の連中が言うから仕方ねぇじゃねェかよ。何でも緊急事態だとかで手段を選んでる余裕はねぇんだと。だから、まぁ、悪りぃんだけどここで潰されてくんねーか」

「俺を潰すとアイツが黙ってねェぜ」

「そう言うなよ。誰がテメェのチカラを発現してやったと思ってんだ?」

「あ? ナニ? 何ですかその義理と人情に溢れた台詞。似合わねェよ。今すぐ捨てちまえ。忘れてやるからよ」

「・・・大人の事情だ。だが安心しろ。統括理事長サマはカンケーねぇからよぉ!!」

 

金属製の細いグローブに包まれた拳が白夜の顔面に飛来する。

それと同時、白夜は自ら木原数多の方に歩み寄りながら、威力だけを倍増した拳をカウンター気味に放った。

 

ゴン!! と。

双方の拳が、お互いの頭蓋骨を揺さぶった。

 

「あ・・・・・・? ナニ反射切ってんだこの野郎?」

「反射したらフェアじゃねぇだろォが」

 

数発。殴打の連打が続く。さながらボクシングの試合でも見ているようだった。

一撃。重たい一撃が白夜の鳩尾に入った。

 

「がッ・・・・・・!」

 

さらに数発。顔面に入る。

 

そこからは罵声と拳の殴打だった。

惨めに地面に這いつくばって、反射をしても木原神拳は防げない。

絶体絶命の状況で、白夜は目にした。

一〇〇メートルほど離れた場所。

そこに、

その先に。

黒ずくめの男に二の腕を掴まれ、

だらりと残る手足を揺らしている、小さな少女がいた。

 

「回収完了、って所だな」

 

やらせるか、と白夜は思った。闇に少女を落とすものかと、白夜は全力で空気を操り暴風を起こす。

 

打ち止め(ラストオーダー)ァァあああああああああああああッ!!」

 

ベクトル操作で、木原数多は弾けない。空気を操った暴風を使っても、即座に打ち消(ジャミング)されてしまう。

ならば、

 

操られた暴風が、打ち止めの元へ突っ込んだ。

風速一二〇メートル。

少女の体が地面から離れ、風景の影へと消えていった。

 

「あーあーあーあー」

 

木原がのんびりした声を上げる。

 

「ゴルフボールじゃねーんだからよー。ヤード単位で人間を飛ばすんじゃねーよなーもう。飛距離抜群じゃねーかよ。一体誰が回収すると思ってんだ。俺はやんねーけどな」

 

その後の白夜の耳に届いた声は打ち止めの回収やら、自分の始末といった言葉ばかりだった。

 

「せっかく不意をついたんなら俺を殺さなくちゃーなぁ。起死回生の一手のつもりかも知んねーけど、あれは一〇分もしねー内にカゴの中だぜぇ?」

「・・・・・・、黙れ。オマエにゃ・・・一生、分かんねェよ」

「そーかい。じゃあ殺すけど、今のが遺言でイイんだよな?」

 

くそ、と白夜は口に出さずに呟く。

助けは? 来ない。そんな都合良く来てくれるはずがない。自分の力で何とかできない状況に遭遇した所にパズルのピースのようにその解決方法を携えた人間がポンと現われるようなら誰だって道を踏み外さない。人類皆兄弟。みんなで笑ってみんなが幸せ。極めて優しい幻想だが実際にそんな事が起こるはずがない。

 

(・・・・・・、誰か)

 

それでも、白夜は思う。

 

(起きろよ幻想(ラッキー)・・・・・・。手柄ならくれてやる。俺を踏みにじって馬鹿笑いしても構わねェ)

 

雨で濡れた地面に転がり、頭蓋骨を叩き潰される直前で、どこまでも無様に。

 

(誰か、誰でも良いから、あのガキを・・・・・・)

 

願いが届くはずがない。

工具箱(ハンマー)は容赦なく振り下ろされる。

その直前で、

 

爆音と共に工具箱が吹き飛ばされる。

 

あ? と木原は工具箱が飛ばされジンジンと痛む手を止める

装甲服を着込んだ連中が、原因を探す。

誰も、誰も吹き飛ばされた工具箱が、()()()()()()な事に気づかない。

その証拠に、吹き飛ばされた工具箱の飛んだ先には、大きな穴が開いていた。

距離は二〇メートルもない。そこらの脇道から、不意に出てきたのだろう。小雨の降り注ぐ夜の街の中、傘も差さずに立っているその人影は、街灯の光を浴びてぼんやりとその姿を見せている。

青いツインテールに耳元にはヘッドフォン。口元・・・、首には悪趣味なガスマスクを付け、黒くダボついたジャージを羽織った目付きの悪い少女。そこまでは()()だった。

圧倒的に異質なのだ。

その両手に持つものが。

 

それは口径にして三十ミリ。最大射程は四キロと広い。ハルコンネン。

それが二丁。そして少女は背中に某ロボットアニメのようなタンクを背負っていた。

白夜は、倒れたまま思い出す。

どこかで。

どこかで見た事がある。

彼女の名前は。

 

 

 

 

            ▽

 

 

 

 

「くっそー。エネのヤツ、出会ったと思ったらすぐに消えちまいやがって。一体どこまで行っちまったんだ?」

 

人気の無い地下街でぼやく上条は、そのまま階段を上がり地上に出る。

 

「あーらら。雨が降ってやがる」

 

上条は夜空を見上げて呟いた。パラパラと小粒の雨滴が路面を黒く濡らしている。

 

(・・・傘・・・、はいらないか)

 

上条は全身を覆うように能力を展開させる。その瞬間から彼に当たる雨滴が傘の表面のように弾かれていく。

 

(・・・・・・にしても、なんか警備員の数が多いような・・・・・・?)

 

上条は少し考えてみる。が、その思考は簡単に遮られた。たった一瞬だけ発動した、西洋の術式によって。

 

(・・・・・・天罰術式!? ・・・だったか? 今確かに魔術の気配が・・・・・・。考えすぎかな)

 

周りでバタバタと警備員が倒れていく。上条はその様子を見て確信する。

 

(対象に対して敵意を向いたものを昏倒させ、無力化する・・・。天罰術式であってそうだ)

 

上条は倒れた警備員のトランシーバーに耳を当てると状況を確認する。

 

(ゲートを破壊して侵入者? おそらく・・・魔術師か。学園都市が何の対策も取らないわけがない・・・。だが、なぜアイツは俺を頼ってこない? 言いくるめられているのか?)

 

上条はたまに会う統括理事会の面々を思い出す。くだらない事で真剣に会議したり、学園都市のピンチには珍しく息の合っていたりする彼らは、何かあると真っ先に上条当麻を頼る。

 

(大丈夫・・・だよな?)

 

そこへ、

上条の腹に小さな衝撃が走った。

誰かがぶつかったらしい。と、上条が視線を下に向けると、小学生ぐらいの少女の頭が見える。

良く見覚えのある顔だ。

 

「ど、どうした? 打ち止め」

 

ぶつかった。というのは上条は間違っていない。だが、彼女は上条のお腹から背中に手を回すように抱きついていて、離す気はないといった感じだ。

 

「助けて・・・・・・」

 

打ち止めは、上条のシャツを掴んだまま、顔を上げた。

その大きな瞳は真っ赤に充血していて、透明な液体が頬を伝っていた。

冷たい雨の中でも、それがなんなのかすぐに見分けられた。

 

「お願いだから、あの人を助けて・・・・・・ッ! ってミサカはミサカは頼み込んでみる!!」

 

やっぱその説明口調、雰囲気台無しだな。頼み込んでる事は報告しなくて良いんだよ。と上条は苦笑しながら。打ち止めの頭に手を置き頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園都市統括理事長・学園都市科学天使・学園都市科学魔神はそれぞれ別の場所で、別の状況で、こう言った。

 

「「「さあ。久方ぶりの楽しい楽しい潰し合い(ショータイム)だ」」」


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