幻想殺しと電脳少女の学園都市生活   作:軍曹(K-6)

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ミサカとミサカの妹と Sister_and_Sisters.

上条当麻は地下街の待ち合わせ用小広場(禁煙)のベンチに腰掛け、陰から取り出した五〇〇ミリリットルのペットボトルに入った特製ドリンク(BLOOD)を飲んでいた。

今は一人きりである。

美琴に店から追い出され、『候補が出揃ったら連絡するから、あんたの連絡先教えなさい!』と半ば強引に携帯電話を奪われ、上条は返してもらったそれを持って待っていた。

 

「・・・暇だな」

 

上条はそう呟くと、神々の義眼を開き辺りを見渡す。

 

(・・・学生の街って言ってるけど、用は小さな国だよなー。犯罪や悪質な裏の顔。政治問題に高齢者問題・・・命がけでぇぇっ↑へぇぇっ!)

 

フッ。と上条は自分の頭の中での自分のモノマネに少し笑う。と、上条の視界に()()()()()()()()()()が映り込んだ。

上条は慌てて神々の義眼を閉じると、目の前の少女に話しかける。

 

「よう。御坂妹。・・・一〇〇三〇二号でいいよな?」

「はい。毎度毎度、よくあなたは私とお姉さまを見間違わないものです」

「まーな。で? ゴーグルはどうした?」

「・・・・・・これぐらいのサイズのミサカをご覧にならなったでしょうか、とミサカは自分の胸のちょっと下あたりに掌を水平に差し出します」

 

御坂妹が示しているのは、小萌先生と同じかちょっと低いぐらいの高さだ。上条は彼女の仕草を見ながら、やや怪訝な顔をして、

 

「お前ら、サイズ変更とかできたっけ」

「その反応からして知らないようですね、とミサカは「ああ! 打ち止め(ラストオーダー)か!」・・・知っているのですか」

「ああ。この辺からアホ毛が飛び出たミサカはミサカは~! ってやつだろ? あいにく今日は見てないが・・・どうかしたか?」

「平たく言えばゴーグルを取られてしまったのです」

「そうか」

 

上条は御坂妹の言葉に被せるように言葉を放つ、その理由は彼女の語尾が長いからだ。どれだけ短い返事でも、その後のミサカは~がやたら長い時があるため、上条は御坂妹との会話を苦手としていたりする。

 

「・・・とは言っても俺は打ち止めを見たわけじゃないしなー」

 

そこで上条は、一旦区切って。

 

「お前らは? 見たか?」

 

と、いつの間にか同様にベンチに座っていた黒猫、植木にとまるカラス、お座りする犬に話しかけた。

御坂妹はその行動の真意が読み取れないのか、首をかしげるし、後ろのベンチに座る中学生ぐらいの少年は、可哀想なものを見る目でこちらを見ていたのだが、

 

「あのお嬢ちゃんやろ? 見てへんで」

「ごめんなーマスター。何なら今から探してこようか?」

「探し物なら任せてほしいのだが・・・・・・?」

「いや、いいさ。知らないならそれでいい。だとよ、御坂いも・・・うと・・・?」

 

上条はクルリと御坂妹のほうへ振り返ったが、御坂妹は何かとんでもないものでも見たかのように目をパチクリさせていた。

 

(あれー? なんか御坂妹固まってるんだけど。いや、猫とか犬とか普通に喋るでせうよ? カラスも話しかけたら喋ってくれるし・・・。あ、ヤベ。一般常識自体を忘れてたわ)

 

半分以上弁解を諦めた上条は完全に開き直ったのか、固まる御坂妹にさも当たり前の顔をして、

 

「え? どうしたの御坂妹? 何その顔。え?」

「あ、いえ。何でもありません。・・・そうですよ。学園都市なのですから、実験で喋る動物が生み出されても不思議ではありません・・・」

 

後半ぶつぶつと何か言っていたが、上条は御坂妹のためにも聞かないでおいた。

 

「ちょ・・・・・・アンタ達何やってんのよ!?」

 

上条達の元へ御坂美琴が駆け寄ってくる。どうやら御坂妹の顔を見て慌てたようだ。彼女は携帯電話を持ったまま、こちらへ近づいてくる。

 

「しかし・・・見た目だけはソックリだなお前ら」

 

魂の波長が見える上条にとって、御坂美琴と御坂妹の違いは大きい。だが見た目だけは、本当にどうしようもないほどにソックリなのだ。

 

「ミサカは奪われてしまったゴーグルを取り戻すために遠路はるばる地下街までやってきたのです」

「・・・おい、お前ら。とりあえず散開。打ち止めを見かけたら報告入れろ」

 

こくりと頷き三匹は散り散りになっていく。美琴は不思議そうに首を傾げた後。

 

「あぁ! そうよ! 何でアンタ電話に出ないのよ!」

「は? え・・・・・・」

 

上条が慌ててスマホを確認すると、そこには“不在着信鳴神娘”とあった。

 

「あー悪い。ミュートにしてたから全然聞こえてなかったわ」

「ほら、あんたが言ってたプレゼント。選んであげたんだから感謝しなさいよね! ほら店舗に戻る。キリキリ歩く」

「はいはい」

 

と上条が立ち上がり、美琴について行こうとしたところで、

 

「わーい。ヒーローさんだー! ってミサカはミサカは救世主を見つけたことに若干驚いてみる!」

 

上条の左腕に十歳ぐらいの少女がぶら下がってきた。

上条はその声に心当たりがありすぎて、ゆっくりそこを見ると、御坂妹と同じゴーグルを首に引っかけた打ち止めがそこにいた。

 

「な、何やってんの?」

 

上条はとりあえず事情を聞こうと疑問を投げかける。

しかし、答えが返ってくる前に、

 

「検体番号二〇〇〇一号、ミサカの前にノコノコと顔を出すとは良い度胸ですね、とミサカは本気モードに移行します」

「ふふふミサカはもうそのゲームには飽きてしまったのだ、ってミサカはミサカはry」

「逃すとお思いですか! とミサカはカバンの中からサブマシンガンを取り出します!」

 

ジャゴッ!! という鈍い金属音に美琴が『ぶっ!?』と吹き出し、打ち止めはその間に高速で人混みの中へと消えてしまった。

 

「・・・・・・楽しそうだな。で? どんなの見つけてくれたんだ?」

 

店の中へ戻っていく上条に美琴は慌ててついて行った。

 

 

 

 

            ▽

 

 

 

 

午後五時。

鈴科白夜は冷房の効いたマンションから外へ出ると、ガードレールにもたれ掛かる。片方の手には連絡用の携帯電話が握られていた。

結局、いつまで経っても帰ってこない打ち止めを捜すことになった。

今日は学園都市全体が半日授業だったらしいが、この時間になると平日とも区別はない。

 

「・・・・・・そういや夕立が降るってたなァ・・・」

『あちゃー。そりゃ降り出す前に見つけて帰りたいじゃんか』

 

同じくどこかで頭上を見上げているのか、電話の向こうから居候場所の主、黄泉川愛穂の声が聞こえる。

子供を捜すのは時間がかかるとはよく言うが、白夜は幼少期からいうところの手のかからない子供だったため、その経験は無い。最も、一番身近にいた少年達の影響で誰よりも早く大人になっていったのだが。

 

「オマエは車だろォがよ」

『ドア開けて傘を差すまででも濡れるのは嫌じゃんか』

 

それぐらいはいいだろ。と思わず白夜はツッコミそうになったが踏みとどまる。経験上、ボケる人間は大抵、ツッコまれると調子に乗るからだ。

 

「で、あのガキがどの辺にいるのかは大雑把に掴めたンかよ」

『あの子の後ろで流れてたのは近くの地下街で使われてる室内音楽っぽいじゃんか』

「あァ? 事件でもねェ迷子捜しに解析機材でも使ったのか」

『だから迷子捜しもウチらのお仕事じゃんか。えーっとね。あの子がかけてきた電話の、音声の後ろで流れている音楽を解析して場所を確認してるじゃんよ』

「はン。そりゃ町中に流れてる『耳に入らない音』の事か」

『へー。気づいている人がいるなんて。厳密には可聴域外の低周波だけどね』

 

馬鹿が、と白夜吐き捨てた。彼は世界のあらゆるベクトルを観測、計算、制御する能力者だ。目に見えない、耳に聞こえない程度で見逃していたら、放射線など防ぐことはできない。

まぁもっとも白夜がそんなものが流れていると知ったのは上条が教えてくれたからなのだが。

 

「ありゃ店内BGMとかのスピーカーから、音楽に混ぜてこっそり流してるモンだよな」

『そ。あの低周波だけじゃ意味がないんだけど、私達警備員が持ってる特別な周波数をぶつけると、きちんとした音になるって訳じゃん。スピーカー、一つ一つが違う音を検出するようにできててね、その音を調べると「どこから電話を使っているか」が大体分かる。ま、今じゃ逆探知を欺く機械なんて簡単に手に入るから、こういった努力が必要じゃんよ』

 

っつてもこれも探索法の一つで、普通は何種類かの方法を使って多角的に情報を整理するんだけどね、とか何とか黄泉川は言っている。

面倒な仕組みだ、と白夜は息を吐いた。

この手の大雑把な仕掛けを難なく実行していくのが学園都市の特徴だろう。実際には制度の改定や装置の配備など様々な問題があっただろうが、それらを全て『実験だから』の一言で押し通せるのである。

 

「で、俺はこっから地下街に向かやァ良いのか」

『ひとまずは、ね。あのすばしっこいのが一ヶ所に留まっているとは思えないから、そこから聞き込み開始じゃんよ』

「・・・・・・、この鈴科白夜(おれ)が? この格好(シロずくめ)でか?」

『はーいスマイルスマイル笑顔の練習―』

 

無理だろ、と白夜は舌打ちをする。

とにかく彼は悪い意味であまりに有名すぎる。この超能力者が笑顔なんぞ作って接近したら、相手はショックで死ぬかもしれない。『殺人犯に狙われてるかと思ってとっさに撃っちゃっいました』という事態になっても彼は納得する。はっきり言えば、それは仕方がないだろう。仕方がないから返り討ちにするしかない。

だが、何にしても打ち止めを捜すには情報を集める必要がある。

学園都市掲示板にでも聞くか、と白夜は思わず呟いた。

と、黄泉川は不意に言った。

 

『ねぇ一方通行(アクセラレータ)

「何だ」

『そんなに他人に好意を向ける事が怖いの?』

「・・・・・・また随分と楽しげな話題だなァオイ」

『暴君ってのは楽じゃんか』

 

黄泉川は話を聞いていない。

というよりも、聞いた上で受け流している。

 

『そりゃ人それぞれで苦悩もあんでしょうけど、でもやっぱり気楽な部分もあるはずじゃん。だって、暴君は裏切られない。仲が冷める心配もない。自分の見せた好意を跳ね除けられる恐れもない。何故なら恐怖と憎悪の対象でしかないから』

 

すらすらと言葉は出た。

白夜はそれを聞く。

 

『人間関係ってのが好意と悪意のみで成立している、なんて単純な事は言わないじゃん。でも、今までの君は目の前の全てを拒絶と悪意で跳ね返せば良かったのは事実じゃん。楽だよね。これからは違うけど。だから尋ねてるんじゃんか。好意と悪意、どちらを見せるのか選ぶのはそんなに怖いのかって』

「見せる見せないの問題じゃねェ」

『ん?』

「俺は見せ方を知らねェ。要するにガキなンだ。何でもかンでも反射してきた俺は相手に対しての見せ方を知らねェ。そんな俺にも友達はいる。オマエの言う好意を見せれる友人がな」

『なら―――』

「だがな」

 

白夜は黄泉川の言葉を遮る。

 

「あいつに俺は好意を見せた事はねェ。あいつが勝手に見てきたンだ。俺の反射の膜を喰い破って、強引にな。見せるのが怖いンじゃねェ。見せ方がわからねェンだよ」

『・・・でも逆も言える』

「見せ方がわからねェから、見せるのが怖い」

『その通りじゃん。距離を詰める方法がわからないから、これ以上それを離されるかもしれない行為に出るのは怖い。自分の行いが裏目に出てさらに距離が遠ざかれば、もう自分からもとに戻すことができなくなるのが。でもね、それをしないことには始まらないじゃんよ』

「説教か」

『柄じゃないのは理解してるけど、私も一応は教師だからじゃん。ま、私ごとき下っ端警備員に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「回りくどいな」

『君が昔いた所なんだけど・・・・・・。出てきた名前が名前だけにね』

「特力研だろ」

 

正式名称は特例能力者多重調整技術開発所。鈴科白夜が、九歳までいた『学校』だ。そこは()()()()()の特性を元に多重能力者の研究・実験を主体としていた。今でこそその少女以外、学生は一つの能力しか使えない、二つ以上の力を同時に発現させるのは不可能だという結論が出ているが、そのデータは主にここで採取された。

つまり、法則を発見するまで延々と『失敗』を繰り返していたのだ。

能力開発は暗示や薬物すら用い、脳の構造に直接影響を及ぼす。その『失敗』という二文字がどれほどの参事を生んだかは想像しない方が良い。死んだほうがマシ、というふざけた言葉の意味を知ることになるからだ。

そしてあそこは潰れた。鈴科白夜がなおも沈み続ける闇の底の底に巣くう黒き龍の(おう)によって。白夜はその事を人伝に聞いた。時を同じくして聞いた『少女』は誰よりも嬉しそうだった。自分がその原因の一つだから。幾千もの偶然の中のたった一ピースにハマってしまった事で、『置き去り(チャイルドエラー)』の子ども達を酷い目に合わせてしまった自分に重い責任を。学園都市の学生の誰よりも大人びた白夜の友人達は、その責任をだれに言われるでもなく自ら背負っている。

 

「ま、やれるだけやってみンよ」

『頑張るじゃん』


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