幻想殺しと電脳少女の学園都市生活   作:軍曹(K-6)

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・・・・・・では教育してあげましょう。本当の吸血鬼の『闘争』というものを!! by榎本貴音

開いた扉から出てきたのは、大きな牙を剥き出しにした上条当麻だった。アニェーゼは思わず二、三歩下がる。先ほど、扉の向こうから感じ、今も感じる強大な吸血鬼のオーラ。それは目の前の少年から放たれていた。普段は吸血衝動が幻想殺しによって押さえられているはずだが、上条の目は虚ろで、アニェーゼを狙っているようにも見える。

 

(いや、狙っているんでしょうね。吸血鬼が好んで吸うのは童貞と、処女の血ですから・・・。まぁ別に、十字教に未練はありませんし、吸われても・・・・・・)

 

そこまでアニェーゼが考えたところで、上条を抱き留めた者がいた。電脳少女、榎本貴音だった。

 

「・・・ふぅ。間に合いました。まさか拘束制御術式を解除するとは・・・・・・自分で言っておいて、案外簡単にバラすものですねぇ」

 

貴音はそう言うと上条の唇を奪う。すると、上条に残された二割の理性が戻ってきた。

 

「たか・・・ね・・・」

「ご主人。吸うなら私です。絶対に他の人のは吸わない約束でしょ?」

 

貴音はそう言いながら服の首元を開け、肩を露出させる。

 

「あ、あの。上条当麻は、大丈夫なんですか?」

「・・・ええ。安心してください。こういうときでもなけなしの理性だけは強く持つ男ですので」

 

上条はその会話に加わる事はせず、貴音の首筋に噛みついた。

 

「あ・・・っ。んんっ・・・」

「なんちゅー声を出してるんですか」

「いや・・・。だって・・・! 何度吸われてもっ・・・んっ! 慣れないものは慣れないんですものぉ・・・・・・! んん~っ!」

 

貴音が体をビクビク跳ねさせたと同時、上条が首から牙を離す。

 

「あの、上条当麻。吸血鬼って眷属から血を吸うものなのですか?」

「あ、アニェーゼか。いや、他のヤツはそんなことしないだろうな。貴音と俺が特別なだけだ。アイツは吸血鬼眷属だが、常に美味い血・・・、まぁ要するに処女の血な訳だが・・・。を有してるから、俺は他の人間の血を吸わなくてすむんだよ。まぁ後数秒でお前の血を吸うところだったんだけど」

 

上条が貴音の方へ向くと彼女はビクビク震えていたのが嘘のように、シャキッと立っていた。(頬は赤く紅潮しているが)

 

「まぁなんにせよ。一件落着という事で、降りたら色々待ってますよ。まぁこれからの事はアニェーゼさん方自身が決めないと――――――」

 

貴音の言葉は、最後まで進まなかった。

ガクン、と。不意にアニェーゼの膝が崩れたからだ。

 

「おい、アニェーゼ?」

 

上条が慌てて支えるが、アニェーゼの体から力が一瞬抜け、持っていた天使の杖が、ガランと妙に響く音を鳴らした。

 

「がっ・・・・・・」

 

上条に支えられたアニェーゼは、そのまま上条の右手を包み込むように手足を丸め、

 

「・・・・・・ぃ、ぎ。がァァああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

ガチガチと歯を鳴らしながら叫んだ。

何が起きたか分からない。

が、冗談ではないのは、その苦痛に満ちた表情から簡単に理解できる。痛みのほどは想像もつかないが、アニェーゼの顔から一気に泥のような汗が噴き出した。

 

「おい、アニェーゼ! どうし―――」

 

言いかけた上条は、ふと視界の隅におかしなものを捉えた。

 

榎本貴音。

 

彼女が滅多に使わない。使うことを嫌っている『吸血鬼の力』を()()()()していた。真っ赤な瞳がそれを表し、それだけでなく彼女の体中から吸血鬼としての魔力があふれ出る。

榎本貴音は元々病気だった。突発的に眠くなる病気(ナルコレプシー)で、覚醒剤(安全)などを使って目を覚ます治療が現在最も有効と言われている。完全な治療は出来ないため、エネとなり病気が無くなった彼女のテンションは恐ろしいほどに高まっていた。(そのおかげで上条も、彼女が先輩だと気付かなかった)

そんな彼女は、“吸血鬼”としての上条の『眷属』となり、夜の王になったため、病気は眠気という概念が“幻想殺し”によって中途半端にかき消され、夜普通に眠れば、朝眠気に襲われることはないという。(吸血鬼の眷属は親吸血鬼の能力を使役することが出来るため、貴音は上条の持つ体質(イマジンイーター)も使えるらしい)

 

話が逸れたが、そんな吸血鬼の力を好んで使わない(上条の力はバンバン使う癖に)貴音が、解放しているのだ。その目線の先には、

 

ビアージオ=ブゾーニ。

 

つい先ほど、上条がボコボコにしたはずの司教が、よろよろと扉にもたれかかりながらこちらを睨んでいた。血走った目はギロギロとせわしなく動き、本当に焦点が合っているのかも分からない状態だった。口の端から、だらだらと粘性の強いよだれが溢れている。

そして。

ビアージオは右手をまるで胸を掻き毟るように、首にある四本のネックレスに繋げられた十字架を全部まとめて握り潰していた。その手は不自然に震えている。

上条はその十字架を“芸術品”と称される青い眼で見つめる。

 

「『刻限のロザリオ』・・・・・・。まさか、()()が? 霊装を介してアニェーゼに何かしたのか!!」

 

上条は青く光るその両目を極限まで見開いてビアージオを睨み付ける。

その様子に少し気圧されたようなビアージオは笑う。

興奮と緊張を伴う、熱した息の塊を吐き出しながら、

 

「ハッ、『刻限のロザリオ』か。未調整では使えんよ。今ではまだ正規の『アドリア海の女王』()()()()動かせん」ぐらぐらと揺れる瞳で、上条を睨みつけ「だが、『力』だけならすでにここにある。少しは考えなかったか。ローマ正教はこれを奪われて自分たちに向けられることを恐れたが故に、照準制限や女王艦隊など様々な手を加えたのだ。ならば実際に敵へ渡ってしまった際、最後の最後の手段として何を用意していたと思う」

 

()()()()()()、と。

ローマ正教の司教は、自らをも呑み込むその言葉を、心底楽しそうに告げる。

 

「ビアァジオォ!!!」

 

貴音は怒り狂っていた。殺気という殺気がその視線に乗せられビアージオを貫いていた。

 

「絶対許しません・・・ッ! あなたに教育してあげます! 人間というものが持つ強さを! 逃げ場を探し続けるアンタの方が、人間じゃないって事をねッ!!」

 

貴音は影を操る、上条も手伝うことにする、彼女が本気になったんだ。手伝いくらいはしてあげよう。

上条はそう思い、世界を操作する。青白い月が浮かぶ夜だったのが、真っ赤な血塗られたような月が顔を出す。同じような色をした霧が空を、女王艦隊を覆う。

 

 

 

 

 

 

『女王艦隊』が崩れていく。

核となる十字架を破潰された事で。

全てを巻き込む大爆破を妨げたと確信すると同時に。

上条は大きな黒い翼を広げ空を飛ぶ。貴音は木の枝に宝石がいくつもぶら下がったような綺麗な羽を広げていた。

 

「おーい? なんでその羽なんだ?」

「かわいいでしょう?」

「まぁいいか」

 

そして上条達は、そのままイタリアの地に降りたった。




上条→レミリアウイング

貴音→フランウイング

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