幻想殺しと電脳少女の学園都市生活 作:軍曹(K-6)
「いやー。忘れてたわwww」
「何が忘れてたよ・・・。白々しい!」
バチバチと地面に紫電が迸っては消えていく。上条は常盤台中学代表生、御坂美琴の指名により、グラウンドの真ん中辺りで少女と向き合っていた。
「あのー。上条さんはこの後も連戦なので、お手柔らかに・・・」
そう。上条はこの後も長点上機学園の代表生鈴科白夜こと一方通行と戦うことになっている。
「知らないわよ。怪我しないようにすれば?」
「はぁー・・・・・・」
観客席の方からは、上条が強いのかどうかの議論が聞こえてくる。上条は実況解説の言葉に耳を傾け、
『無能力者を指名してきたと言うことですからね。あえて弱い相手でかっこいいところを見せに行くのでしょう』
『何せ常盤台の超能力者ですからね』
「・・・余計なお世話だっつの」
上条の味方、というか応援もちらほらいた。というより、今この学園都市で競技が行われているのは実質ここだけなので、見に来る人の数が半端ではないのだ。
「一番デカいグラウンドってどうなのよ」
「そこであんたを負かしてやるわ!」
試合開始のホイッスルが鳴った。と同時、上条の元へ代名詞である超電磁砲が飛んでくる。
「おっと」
「・・・消さないのね」
「まぁな」
『かわしました! いえ、これは当てなかっただけでしょうか!?』
『手加減でしょうか?』
「・・・あー」
「こっちは本気よ!」
電撃の檻が上条を囲む。上条を焼かんと通り過ぎた。
「ビリビリィって、相変わらずビリビリしてんのな」
直撃だった。上条の着ていた体操服はあちこちが焦げ付き、破れているところまであった。かわしてすらいなかった。
「・・・あんた」
「手加減してるって言われるな。だって俺無事だから」
「ふっざけんじゃないわよっ!!」
特大の電撃が上条に向かって飛んでくる。それを上条は数歩下がって右手を前に突き出した。
美琴にとっては何度か聞いたことがある能力を無効化されたときのガラスが割れるような音。それと同時、美琴の髪から飛んでいた電撃も消えていた。
「・・・ハァ・・・ハァ」
「ホラホラどうした。みこっちゃん。お前の電撃そんなもん?」
「こ、このやろぉぉ!!」
ズゾゾゾゾゾゾゾゾ。と、砂鉄が美琴の頭上に集まっていく。
「お、おお?」
「電流に沿って砂鉄が高速で動いてるわ」
「全面体チェーンソーって訳か!?」
ザザザザザザザザザザザザ!!!! と上条がいた位置の地面が美琴の落とした砂鉄で削られる。
「ど、どうよ」
『あーっと。これはやり過ぎのようにも見えますが!?』
『地面をえぐるほどの威力ですからね・・・』
全員が心配する中。
「これ、中に空間があるんだな。砂鉄の流れが目に見える。面白ッ!」
「え・・・・・・。アンタそこにいんの!?」
「ん。はいはーい。上条さんはここですよー」
地面が削られる音をかき消し、砂鉄が強制的に元の状態に戻される。そして中から無傷の上条が姿を現した。
「は、はは・・・。アンタ強すぎよ・・・」
「そうか? お前もまだ伸び代あると思うぜ? なんて立って人は無限の可能性を秘めてんだからな」
「・・・・・・もうダメ」
そう言って美琴は座り込む。
「ん? もう終わりか?」
「これだけやってアンタに傷一つ付かなかったのよ? どうしろって言うのよ」
「さぁな」
「今日は私の負けでいいわよ・・・」
「へぇ。負けず嫌いのお前が負けを認めるとはねぇ・・・」
「むっ」
「まぁ学生応援席で見てろ。次はあのアクセラレータだからよ」
「負けないでしょうね?」
「そんなバカなぁ」
美琴が退場すると同時。白夜がリングインする。
「連戦で大丈夫かァ? 上条」
「心配されることでもねぇぜ。白夜」
『学園都市第一位の登場です』
『これは、面白くなりそうですね』
開始の合図とともに、上条の元へ砂の津波が襲いかかる。
「連続・普通のパンチ」
これを拳で吹き飛ばす上条。
「ハッ。やっぱ聞く分けねぇか」
そういう白夜の手元には小さな風の集まり・・・いや、
「お、おい・・・」
「クカカカッ! 吹き飛べェッ!!」
それが一気に巨大化した。
(アイツ・・・。これを生み出すための演算スピードが上がってやがる!? マズっ。このまま打ち消せるわけが・・・いや、枷を外してもいいんだったな)
上条は半身になって腰を落とすと、白夜が先ほど美琴がやったように上条に落とそうとする高電離気体を目標にする。
「必殺マジシリーズ。マジ殴り」
軽い声と同時、高電離気体を拳から放たれた拳圧が吹き飛ばした。
「なっ・・・・・・!」
グラウンドはその風であれ、観覧席にまで被害は及んでいた。それのヤバさは誰もが感じていた。それを上条が一撃で葬ったのだった。
「この程度か」
「このッ・・・!」
右の苦手左の毒手。その両方が上条に触れて―――。
「・・・ア?」
何も起きなかった。これには研究者達も、美琴も、妹達も、もちろん本人の白夜も驚いた。
そして上条は不思議そうに。
「体がプルプルする。なんだ? これ。筋肉が震えてんのか?」
バッ。と白夜は思わず上条から距離をとる。
(化け物だ・・・。思わず一瞬でもアイツを殺そうとして本気で向き変換をしたンだ・・・。だが、アイツは・・・)
「案外大したことねぇんだな。一方通行も」
「アア?」
「学園都市第一位。なんてはやし立てられても所詮は人間が生み出せる者の限界か・・・」
「ンン?」
上条はため息をつくと、目を閉じてからこう言った。
「―――平眼球共。俺に従え―!!」
瞬間。会場を混乱が襲った。恐ろしい莫大な数の視界が突然シャッフルされたのだ。実況者は見えないながらに叫ぶ。
『な、何が起こったのでしょう! 我々も何が起こっているのか分かりません! どうやら今この場の全員の視界がシャッフルされているようです! 原因は彼なのでしょうか!!』
運悪く、いや、もしくは良く。白夜の視界と入れ替わった美琴は見た。上条の両目が青く、まるで芸術品のように輝いていたのを。
(・・・な、何よ・・・これ・・・・・・)
平眼球共。俺に従え。
この台詞、上条さんの眼を確定的に表現する言葉ですね。
そう、芸術品と称されるあの眼とはあの眼です。まだ名前が出てきていないんですよね。
番外編。
「ご主人」
「ん? どうした?」
「案外簡単に彼女、負けを認めましたね」
「ああ。そうだな」
「もしかして、罰ゲーム自体を忘れていたりして」
「だったらそれでいいじゃねーか」
「私は満足しませんけどね」