幻想殺しと電脳少女の学園都市生活 作:軍曹(K-6)
「ペテロの十字架!?」
「なんですか。それ」
ステイルがつぶやいた言葉に、身を乗り出す上条と、首をかしげる貴音。昏倒術式から回復した土御門も合わせて、四人はオープンカフェにいた。
「ペテロは人名・・・ですよね?」
「その通り。十二使徒の一人で、主から天国の鍵を預かったものだと伝えられている。しかし、ここで重要なのはそっちの神話ではなく、別の伝承だよ」
「別の?」
「ペテロさんの遺産である広大な土地に、教皇領バチカンがあるんだにゃー」
「それで? 何が問題なんです」
「どーやってローマ教皇領を作ったか、ってとこ。ペテロさんの遺産である広大な土地に、ローマ正教は何をやったのかという部分ですたい」
「はい?」
「墓を建てたんだよ。ペテロの遺体を埋めて、十字架を立ててよ」
貴音はへ? といった。
「分からないのか? 貴音。ローマ教皇領は広大な空間に使徒十字を立てたところから始まったんだ。つまり、逆がいえる」
「「使徒十字を建てた場所はもれなくローマ正教の支配下に置かれる」」
「そう。それはこの学園都市であっても例外じゃない」
「自分で言っておいてなんですけど、マジですか!」
貴音は驚く。そして慌てる。・・・と、そこで気付いた。
「待ってください。その、ローマ正教の支配下に置かれるとどうなるんですか?」
「何やってもローマ正教にとって都合が良くなるように、幸運や不幸のバランスがねじ曲げられてしまうんだ」
貴音の疑問に土御門が答える。十万三千冊の魔道書の原点を頭に所有する上条は、その正体と危険性を即座に辞書を引いて調べている。
「つまりあいつ等の目的は、この学園都市をローマ正教の庇護下に入れることか」
「ぬぁんですとぉ!?」
「ま、今思えば無駄なんだぜい。今目の前にいるカミやんと貴音っち、お二人さんには魔術は効かない。例え世界を歪める神の術式であってもだろう?」
「ん?」
「まぁ・・・」
土御門はやれやれとため息をついて。
「一度発動した変わった空気は元に戻すのに時間がかかるよな? それと同じで、カミやんの幻想殺しで、刺さった十字架を壊したとしても、待っている結末は放射線の除去作業よりも長いだろうぜい」
「タイムリーっつうか。大変なんだろうな」
「それに、カミやんが貴音っちに触れてしまえば学園都市はもう元通りに戻るぜい」
「・・・・・・ん?」
ステイルは話が見えないのか土御門に説明を求めるまなざしを向ける。
「貴音っちが使える『界』の出現。に伴う“彼女”に魔術は効かないんだろう?」
「ええ。直接的なもので無くても、彼女は人間じゃありませんから。魔術は効きませんよ?」
「つまり、カミやんが魔術を受けてもなお正常であること、貴音っちに触れること、『界』が出現すること。この三段階が揃えば、学園都市は再び元通りになるだろうぜい。いちいち放射能で例えて悪いが、『界』の出現は、放射能汚染土と空気を丸ごと一瞬にして入れ替えるようなものだからにゃー」
貴音は目をパチクリさせて。
「つまり・・・どういう事ですか?」
「あいつ等がやってることは最終的に無駄になるから放っておこうって意味だぜい」
「ちょっと待つんだ土御門。上から命令が出ているんだ。このまま野放しにするわけには」
「んー。確かにそうだにゃー。ここで俺達が引いたら向こうも怪しむだろうし、何か理由付けして他にも安全を確保しておきたいにゃー」
「使用条件が分かるまで待機って事で、俺達は家族と合流せねばならんのだ」
「アデュー! っです」
*
*
「ご主人! 満席ですよ満席!」
キャー。とテンションが上がっている少女。貴音は刀夜達の姿を見つけると、跳ねるように走って行く。
「おう当麻。こっちこっち」
「あらあら。そんな大きな声を出してはいけませんよ」
貴音が行っているんだから場所はもう分かってるよ。と上条は思いながらも窓際に座る彼の両親に近づいていく。
「いや、毎年毎年思うんだが、大覇星祭っていうのはすごいな。とにかく場所取りがハードだ。こちらも子供に混じって一緒に競技しているような気分にさせられる」
「そりゃいいや。外の学校は同じグラウンドでやるから、親はずっと日陰とかにいれるんだろ? 子供からしてみれば不公平以外のなにものでもないだろーからな」
「親が一緒に炎天下の中、子供を見るために慌てていると思うと少し気分は楽ですよね」
上条と貴音は嫌みのように言ったが、刀夜は笑って。
「そうだなあ。父さんも子どもの頃は日陰でずっと座っている両親や先生を恨んだものさ」
「・・・・・・とうま、とうま。もしかして私のこと見えてない?」
「うぉっ! なんでチアガールの格好してるんだ? インデックス」
「こもえがとうまを応援するために貸してくれたの」
「あ、そう」
上条は理由が分かるととたんに興味をなくしたのか、席に着く。席順は通路側から上条・貴音・詩菜である。向かいは刀夜とインデックスが座っている。
ふと、上条は店内を見渡して向かいのテーブルに座る美琴を見つけると、わざと聞こえるような声で『触らぬ神に祟りなし、だな』と言ってテーブルに向き直った。
「ちょっとアンタ! なんで私のことだけ検索件数ゼロ状態なのよ!」
「ああ。いや、流れ的にこんなもんかと」
「こっ、こんなもんじゃないわよ! 流れっていうならアンタの周りに自然な流れなんてあるもんか! そもそも、いつもアンタの側にくっついているそいつ等はどこに住んでる誰なのよ!?」
む? と指を指されたインデックスが顔を上げた。貴音もめんどくさそうに顔を上げる。
「誰ってそりゃオマエ―――――」
上条は何気なく言いかけて、ふと口を閉じた。男子寮に居候と同棲相手がいるのはいかがなものかと思うので、彼が挽回用の答えの文字列を作り上げようとしたところで。
「そうだぞ当麻。言われてみればその子は誰なんだ? 泊まりがけで海へ行ったときにも一緒についてきていたが、海の家では父さん達の質問も上手くはぐらかされていたし」
「う、海って! と、ととととと泊まりがけで海ってアンターっ!?」
うるさいのは貴音だけで十分だっつの。と上条はうざそうに顔を歪めると、ポツリと言った。
「かくゆう短髪だって、どこに住んでる誰なの? とうまのガールフレンドかなんか?」
「えっ!? い、いや、別に私はこんなのと何かあるわけじゃ・・・・・・」
「とうまの学校の応援にも来てたよね。確か『ぼうたおしー』の時」
「ちがっ、ちょ、黙りなさいアンタ!!」
インデックスの言葉に、上条と貴音は『あー、それで借り物競走の時・・・・・・』と納得していた。
インデックスはインデックスで興味がないのか、テーブルの上にある詩菜のお弁当をそわそわした目で眺めながら。
「とうま、たかね。私はいい加減にお腹がすいたかも。今日はたかね、お弁当作ってこなかったの?」
「あら。今日は、という事は、いつもはどうなのかしらね。当麻さん」
「だから、インデックスは貴音の所に居候してるんだって」
「あら、そうなの?」
「ええ。私と一緒に住んでますよ?」
嘘は言ってない。と、二人して心の中でガクブル震える上条と貴音だったが、同時にバレたらマズいな。と思っていた。
「まぁ、とりあえずご飯を食べるとしようか。当麻、そちらのお二人にはありがとうって言っておくように。わざわざ当麻が来るまで何も食べずに待っていてくれたんだぞ」
「うぇ。マジかぁ。俺さっきたい焼き食ったとこだわ」
「おいしかったですよね。たい焼き」
「当麻さん?」
「母上? あなたはこの大覇星祭の中、いい匂いが充満する屋台の間を我慢して通れとおっしゃるので!?」
「思わず財布のひもが緩むに決まっているでしょう!」
「とうま!? 私にはだめって言っておいて、自分では食べるのかな!?」
「うるせぇインデックス! オマエは食べる量が常人と違いすぎんだよ!」
「そうですよ! 十字教では暴食は七つの大罪の一つです!」
「私はいいんだよ!!」
*
*
お昼休みが終わり、美琴と分かれた上条と貴音、インデックスは次の競技場へと向かっていた。
「・・・・・・なぁインデックス。この前のローマ正教ってどうやって出来たんだ?」
「唐突だねとうま。そうだねとうまは十二使徒って知ってるかな?」
「ああ。知ってるよ」
「その十二使徒のペテロって言う人がね・・・・・・」
――――――――――――
―――――――――
「という訳なんだよ」
「ふーん」
「その十字架を霊装とかにしたら強そうですね。ここはローマ正教の土地だーって言えそうですし」
「あるよ」
「「え??」」
「使徒十字っていう今貴音が言った霊装があるんだよ」
「どうやって使うんですか?」
こっそりと、貴音は後ろ手で土御門にダイヤルしていた。
「使徒十字は正座の力を借りて使用される大規模霊装。十字架を大地に立てて夜空の光を集めるんだよ。角度を合わせて空からの光を正確に受け止め、それを術式に組み込んで魔術的効果を発動させるんだよ!」
「おおっ。さすがインデックス。魔術の事に関しては一級品だな!」
「えっへん。でも突然どうしてそんなこと知りたくなったのかな?」
「学園都市の始まりはとある一つの研究所だったと言われてるんだ。その研究所は今どこにあるのかはもう分からない。そんな風に何事にもルーツがあるんだったら、十字教一つ一つにもそれぞれの始まり方があるんだろ?」
「なーんだ。ってっきりとうまがまた一人で突っ走ってるのかと思ったんだよ」
「毎回毎回走り回っていられるかっての」
「じゃあとうま、私はこもえとお話があるんだよ!」
「おお。じゃあな」
上条はインデックスに手を振ると、貴音の持つケータイに視線を落とす。
『カミやん。どうやったかは知らないが、自然にインデックスから情報を引き出したな』
「人ってのはこうやって使う物なんだよ」
上条はそのままケータイを耳に当てると。
「そんじゃまあ。そっちで調べておいてくれ。こっちはこっちでやることがある」
『ああ。また何か分かったら連絡するぜい』
そして上条は、貴音の腕を引っ張ると抱き寄せて地面を蹴る。そのままビルの屋上に着地すると、上条は貴音に聞いた。
「なぁ、お前。俺に何か隠してないか?」
「お、おぅ? な、何のことですか?」
「俺の知らないこと。いや、忘れてることはたくさんあるだろうな。だけど、教えてくれてもいいんじゃないか?」
「ご主人。そんなのありすぎて困ります。答え合わせはまた今度にしましょうよ」
「・・・・・・そう・・・だな。じゃあ次の競技場まで競争な!」
「え、あ。ちょっと待ってくださいよっ!」
上条はそのまま一気にかけ出した。
こういう伏線の答え合わせは過去編でやりたいですね。