幻想殺しと電脳少女の学園都市生活   作:軍曹(K-6)

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魔術師と能力者の競技場 “Stab_Sword.”

競技場から貴音と別れた場所までは結構な距離がある。

なので、上条は直接次の競技場に向かう事にする。

現在、上条がいるのは学園都市に数多く存在するビルの上である。そこを、車顔負けのスピードで上条は疾走していた。

下では沢山の人が歩いているが、上条は気にも留めなかった。チラリと見知った神父がいたように見えたが気にしない。と、その時貴音から上条にお話が聞こえてきた。

 

「(ご主人。今大丈夫ですか?)」

「絶賛移動中ですが何でせうか?」

「(どうやらこの街に魔術師がいるそうなんです)」

「へぇ。だからステイルがいたのか。何か問題があるなら『界』出現させればいいじゃねーか」

「(そう、思ったんですけどね。流石に学園都市という広大な敷地内。しかも大覇星祭中に行ってしまうと、マズイらしいんですよ)」

「で? そいつらは何しに来てんの?」

「(取り引き、だそうです)」

 

取り引き? と上条は立ち止まる。屋上にいた作業員がびっくりして腰を抜かすが、上条は気にせず今一度走り出した。

 

「何を運んでんだ?」

「(霊装「刺突杭剣(スタブソード)」っていうらしいです)」

「へぇ~。で? 人員は」

「(今のところステイルと土御門だけですね)」

「何で天草式連れて来なかったし」

「(・・・・・・ですね)」

 

一度脳内会話が途切れる。恐らくその場にいる土御門かステイル(もしくは両方)に抗議でもしているのだろう。

 

「(盲点だったらしいです)」

「馬鹿か。何とでもなっただろう。あいつ等隠密行動のプロなんだろ? そん所そこらの魔術師一人や二人・・・・・・」

『悪いけど、それはムリだぜい。カミやん』

「!? 土御門!?」

『あー気にしないで欲しいぜい。貴音っちが飛ばしてる思念波に乗せて俺も言葉を送ってるにすぎないんだぜい』

「あーそうか。で? 無理ってどういう事だよ」

『相手はプロの運び屋なんですたい。それに、今ステイルは上条当麻の知り合いだから、個人的に遊びに来ているって事になってるんだにゃー』

「はっ。集団で押し寄せても良かったんだぜ? そんときゃ貴音と一緒に全魔術師『界』で消し飛ばすから」

『物騒な考えだぜいカミやん。でもある意味それは普通の戦争での核以上の兵器となる。抑止力にはぴったりかもにゃー。そんな事は置いといてだ、カミやん。お前はどうするんだ?』

「さぁな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ら考えるさ」

「(ご主人。それなら私も何もしなくていいですか?)」

「動かなくていいよ。もし万が一、()()()()()()()()()()()()()()()首を突っ込むしかないけどね。だって、邪魔だもの」

「(分かりました!)」

「それと、土御門。さっきの話を蒸し返すんだけど。建宮ぐらいなら連れてきても良かったんじゃないか? あいつなら俺の知り合いでいいだろ」

『そこまで頭が回らなかった。とだけ言っておくぜい』

 

上条は周りにある魔術、思念波の類全てを幻想喰いで喰い殺すと、競技場に走り続けた。

 

 

 

 

次の競技は大玉転がし。

上条当麻と同学年の生徒達は、すでに競技場の中に入場していた。

上条達が出す空気は第一種目と同じ戦闘の覇気。大玉がまるで今か今かと発進を待つ戦車のようにも見えてくる。

上条は、先ほどの土御門との会話などとうの向こうに消えていて、目の前の大玉転がしに全精力をつぎ込もうとしていた。

 

試合が始まり、上条はクラスの皆と一緒に大玉を押す。ゴロゴロとそれなりのスピードで転がって行く大玉からは、敵軍は見えないが、上条は気にしない。

 

 

 

 

結果から言うと悲惨だった。勝負の結果ではなく、上条自身の話だ。彼は初めに味方の大玉に轢かれ、戻ろうとした所を敵軍に吹き飛ばされ、切れて能力ぶっ放した所で退場になりかけ、無能力者がインチキじゃないかと一度勝敗にうんぬんかんぬんだったが、なんとか勝利を収めた。

大玉転がしが終わり、競技場から退場した後。上条は貴音と土御門と話をしていた。

 

「ですからね。ご主人。万が一の時のために説明しておきますけど。今回取り引きが行われるのは、『刺突杭剣』。距離に関係なく、切っ先を向けられただけで、聖人を一撃で葬るらしいです」

「へぇ。なあ土御門。そのスタブなんちゃらの写真とかないの?」

「あるぜい。これだにゃー」

 

土御門が見せてくれた携帯の画像をじっくり見て、上条は頭を抱えた。

 

「なぁ、お前等のお偉いさんは()()()()()()()()()()のか?」

「ああ。公式見解という奴だぜい」

「オレにはどう見ても、()()()()()()見えないんだけどな」

「・・・・・・カミやん。今何て言った」

「その画像の白い奴。十字架にしか見えないって言ってるんだよ」

「・・・ふむ。それが本当なら全く違った・・・」

 

ブツブツ言いながら土御門はどこかへ電話をかけ始めた。そんな土御門に上条はため息をついた。

 

「で? その運び屋さん。もしくはそのラスボスさんを見つけ次第ぶん殴りゃいいのね」

「その通りなんだが・・・・・・。カミやんは物騒ぜよ」

「大丈夫大丈夫。もし腹が立ったらジャッカルとハーディス持ち出すかそれなりの力でぶん殴るだけだから大丈夫」

「大丈夫じゃないですよ。ご主人。ご主人のそれなりはビルをも砕きます」

「いやいや、大丈夫だって」

「じゃあご主人。一回蚊を潰して見てください」

「蚊を? 握り潰せは良いのか?」

 

ズドンッとかいう変な音で空気が握りつぶされた。

 

「・・・・・・それがご主人の()()()()でしょ?」

「ん? ああ」

「相手が死ぬのでやめてください」

「ちぇっ。はいはい、分かりましたよ」

 

上条は握った手をひらひらと開いて、歩き出す。それに貴音がひょこひょことついていった。

 

 

そして、上条達は途中で吹寄に捕まった。

 

「ねえ、上条。榎本さん。大覇星祭ってつまんない?」

「いや、楽しいよ?」

「・・・どうもあなた達は浮ついているというか、別の事が気になっているような感じがする!」

「・・・・・・相手が弱い、張り合いがないって意味合いでなら確かに大覇星祭はつまらない。これでもかってほど子供のお遊戯にしか見えないからな」

 

そう言った上条は余所見をしていた為、誰かとぶつかってしまった。周りも混んでいるのですみませんと言って立ち去ろうとそちらを向いた所で、固まった。

露出狂か? と行っても失礼じゃないようなはだけた作業服を着た外国人らしき女性だった。

その女性は流暢な日本語で。

 

「ああーっと。ごめんねごめんね、こんな人混みはあんまり慣れてなくて。どこか痛い所とかないかしら」

「大丈夫です。人一倍頑丈なもんで」

「それじゃあ」

 

そう言って女性は握手をするように手を差し出してくる。

 

「ぶつかってしまったお詫びに、ね。日本じゃ頭を下げるみたいだけど、こちらではこういうやり方の方が一般的ね」

「へぇ・・・・・・」

「あら。キスのほうがいい?」

「いえ、握手でいいです。一応俺、彼女がいる身なんで」

 

と、上条は差し出された手を、()()()()()()()()()()()

 

バギン!! と。

何かが砕けるような、奇妙な音が響いた。

 

「は?」

 

という声を出したのは、上条でも貴音でもお姉さんでもなく、それを見ていた吹寄制理だ。当事者の二人は、それぞれ何が起きたのか理解しているため、そんな声は出さない。

上条当麻は()()()()()()宿()()()()について思い出している最中だし、

塗装業者のお姉さんは、()()()()()()()()()を確認している最中だ。

 

「っとっとっと」

 

お姉さんはムリに苦笑いを浮かべようとし、それすらも失敗して、

 

「そろそろ、こっちもお仕事に戻らなくっちゃならないから。行っても良いかしら?」

 

言うだけ言うと、上条達の返事も待たずに立ち去ってしまった。上条はその背中を眺めて。

 

「・・・・・・面白くなってきた、かな」

 

上条はそのまま吹寄に別れを告げると、路地裏で行動に移る。携帯電話を取り出し、土御門に発信する。

 

『どうもー。カミやん、インデックスは巻き込むなっていうのが最新の命令だぜい。こっちは今オリアナが取り引きに使いそうな警備の薄いスポットを割り出してるんだけど、第七学区は意外にポイントが多い。だから一応は、インデックスが近づかないように気をつけてもらえると―――』

「いや、それよりも。それらしき人物を見つけたぜ。なんだっけ刺突杭剣だっけか」

「オリアナ=トムソンらしき人間を発見したって言ってんです」

『カミやん。お前今どこにいる』

「一財銀行の前だけど」

 

そこで待ってろ、とだけ声が聞こえ、携帯電話がいきなり切れた。上条は軽く舌打ちをすると、貴音に。

 

「・・・・・・お前ここで待ってろ。俺はあのビッチを追う」

「了解です!」

 

 

上条が追いつくと、女性はどうやら誰かと話しているようだった。

 

「・・・・・・まずは、後ろにいる坊やを撒かないといけないわね」

 

そう聞こえた瞬間。おそらく運び屋のオリアナ=トムソンがいきなり角を曲がった。

 

(・・・・・・気付いてたか)

 

尾行より鬼ごっこの方が上条は得意だ。なぜなら、見つかっても追い付けば結果的によいのだから。

上条はその場で高く跳び上がると、ビルの壁を走って行く。ビルの輪郭に従うように、直角の交差点の頭上を曲がる。思ったより遠くにいたので、上条はとある少女とした鬼ごっこを思い出した。

 

「さあオリアナ=トムソン」

 

その声は道に良く響いた。オリアナの耳にも届いている。道行く人は何事かと頭上を見上げて、壁に立つ少年に目を丸くする。

 

「鬼に捕まったら(ゲームオーバー)鬼ごっこ(デスゲーム)を始めようか!」

 

上条はそういうと、壁を蹴って斜めに向かい側のビルの壁へ、それを繰り返し、あっという間に追いついた。

 

「(ごっしゅじーん。今どこですか?)」

 

その脳内少女の声に上条は少し笑う。ほぼ真下のオリアナは路地裏に入って行った。

 

(あそこは・・・・・・)「G-4に来い」

「(了解です!)」

 

上条は道に降りると、自分も路地裏に入って行く。

路地裏を進むと、入り組んだ道の向こうに貴音が立っていた。

 

「オリアナは?」

「土御門さんが追っています。目の前で飛び出してきたので、全力疾走で追い駆けてますよ」

「あとは専門家に任せるか・・・・・・?」

「・・・いえ、どうせ見失うでしょう。でしたらいっそのこと。こちらの手札全てを使いましょうよ」

「・・・・・・んじゃエネ。頼むぞ」

「了解です!」

「お前らも、さっきの金髪。探して来い!」

「「「「イエッサ――――!!! Foooooooooooooooo!!!」」」」

 

上条の影から大量の『何か』が飛び出していった。

 

 

 

 

そして、案の定土御門とステイルは。オリアナの時間稼ぎにまんまと引っ掛かり、見失っていた。

 

「『追跡封じ(ルートデイスターブ)』のオリアナ=トムソン、か。・・・・・・ふざけやがってッ!!」

 

その時、土御門の携帯電話が鳴る。上条からだった。

 

「なんだ、カミやん」

『どうやら撒かれてるみたいだな。オリアナが余裕そうに歩いてる。周りにお前等の姿もない。俺がちょっかい出させてもらうぜ?』

「―――は? 待てカミやん! お前今どこにッッ!!」

 

通話は一方的に切られた。土御門は慌てて上条のGPSを確認するが、すでに使い物にならなくなっていた。

 

 

 

(さてさて、上手く撒けたかしら・・・・・・)

 

オリアナ=トムソンはチラチラと後ろを振り返りながら、表の道を歩いていた。すると。

 

「見つけたで。見つけましたぜオリアナはん」

「!?」

 

慌ててオリアナはキョロキョロするが、周りに追手らしき人物はいない。

 

「滑稽やな。そっちにはおらへんで」

 

声のした方向を見てみると、一羽のカラスが。オリアナの方を向いていた。

 

「カラス・・・・・・?」

「うんうん。もうすぐマスターが来るから、楽しみにしといてや」

「おしゃべりが過ぎるぞ」

「・・・・・・すんませんねぇ、マスター」

 

カラスはそういうと、マスターと呼んだ少年の影に隠れていった。

 

「あら、あなたの使い魔かしら?」

「その通り。運び屋オリアナ=トムソン。オレの暇つぶしに付き合ってくれよ」

「ふふっ」

「あ、それとお前が仕掛けた単語帳みたいな一ページ。すでに破壊済みだから」

 

心無き悪魔(かみじょうとうま)は裂けたような口の端を不敵につり上げて、猟奇的に、狂気的に笑っていた。それにつられてオリアナも笑う。その場を一瞬にして人払いが覆う。

結果は見えた戦い(ワンサイドゲーム)が始まった。


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