幻想殺しと電脳少女の学園都市生活 作:軍曹(K-6)
オービット・ポータル社。
「やっぱり、あなた達は引き合ってしまうのね。・・・三年前のあの日、オリオン号に乗っていたのは乗員乗客八八人。そして事故の直後生存者八八人が確認された。つまり「全員無事救出」誰もがこれを「奇蹟」と言ったわ。でも本当は一人だけ死亡者がいた―――・・・オリオン号の機長ディダロス=セクウェンツィア」
「・・・・・・」
「・・・そう、あなたの父親。でもその事実が確認された時にはもう手遅れ、世界は「奇蹟」に湧き―――八九人目の存在は隠蔽され・・・そして「奇蹟」だけが残った。八八人しかいないはずの機体に突如として現れ「奇蹟」を演出した少女―――・・・それがこの娘よ」
「あなたはあくまで奇蹟だと言い張るのか」
「だって本当は誰も助かるはずなかったのよ。あの事故は」
「! まさか・・・」
「地上じゃ無理でも宇宙なら上手くいくと思ったのよ。なのにあなたの父親以外はみんな助かるなんて、これが奇蹟でなくて何?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」
「まあ思わぬ副産物ができたのだから、ある意味成功と言えるのかしらね」
「おまえ・・・なの・・・? おまえのせいで・・・父は・・・・・・っ」
シャットアウラは後ろ越しからナイフを取り出すと、レディリーの心臓を的確に突き指す。
「・・・・・・っ。こいつは・・・こいつは・・・なんなんだ・・・」
その時、天井から男と女が下りてくる。そして、少女の笑い声が部屋に響いた。
慌てて振り返ると、そこで刺されたはずのレディリーが、起き上がったのだ。
それと同時、襲い掛かってきた男の顔にシャットアウラは見覚えがあった。ナイフを弾き飛ばされ、女の方に羽交い絞めにされる。
「ナイフで刺されるのは一六回目・・・相変わらず痛くて苦しいわ・・・」
「・・・・・・、化け物め・・・!」
「・・・あらそう?
「・・・貴様が何者でも何を企んでいても、絶対に潰してやる・・・絶対にだ!!」
「・・・期待しているわ」
そして、シャットアウラは女の方に羽交い絞めにされたままどこかへ連れて行かれた。
「さて・・・、あとはあなたね」
「――――・・・」
「お・は・よ。あなたにお願いがあるの。鳴護アリサさん―――・・・」
―――次の日。
上条当麻と榎本貴音は行方不明になっていた。
「とうまがどこに行ったか短髪は知らないの?」
「アンタが知らないのに私が知ってると思う? 私は昨日アイツに会ってもいないのよ」
「・・・・・・はぁ。全く仕方がないな彼は」
「どうせ宇宙にでも行ってるんだにゃー」
「・・・・・・私も行くわよ」
「・・・・・・とうまを怒りに行かなくちゃ」
「地下のリニアトンネルや資材搬入路はどうなってるじゃん?」
「すべて
「・・・と、いうことは・・・今使えるのはこの橋のみ・・・か」
―――エンデュミオンでは、ちょうどアリサのライブが始まった。
「・・・宇宙・・・。生と死・・・有限と無限・・・全てが交差する空間では地上とは違う法則が働く・・・。人々の熱狂は神々の宴に捧げる供物。その息吹がエンデュミオンの永久の呪いを打ち破る!!」
「うっは~。無茶苦茶な巨大な魔法陣。一体何の為かなんて想像つかないぐらい恐ろしい力ですねぇ」
「誰!?」
「私ですか? 私は榎本貴音。学園都市裏書庫の
「れっ・・・・・・レベル7?」
その頃。地上では警備員がロボット兵器と戦っていた。
「応援は!?」
「まだしばらくかかるそうです!」
(どうする・・・!? 無茶を承知で突入するか・・・!?)
その時、何かが出現する音と同時。車椅子に乗った少女とその背もたれに足をかけた少女が現れる。
「―――ったく。勝手に置き去りにするとか―――・・・どっかピントかズレてんのよね! あいつのやる事って!!」
美琴の代名詞。超電磁砲が放たれる。それは余裕でロボット兵器を粉砕した。
「ありがとね。黒子」
「お姉様・・・!」
「・・・ねぇ黒子。頼みがあるの。あんたはここを守って」
「! お姉様、まさか・・・」
「あんたにしか頼めないの。だからお願い!」
「お姉様!」
「頼んだわよ!!」
―――中継ステーション
「・・・下は大騒ぎみたいね」
「ですね」
「・・・でももう間に合わないわ」
「それはどうかな」
「「!」」
二人の少女が振り向く。そこにいたのはシャットアウラだった。
「・・・バカな子! 来てしまったの?」
その問いかけに答えたのは一発の銃弾だった。
「・・・言ったはずだ。絶対に許さないと!!」
球切れになるまで銃が乱射される。レディリーの体のあちこちに穴があくが、少女は暫くすると話し出す。
「・・・・・・。・・・そう・・・、もう千年は生きたかしらね・・・。オリオン号の実験も結局失敗・・・でも思わぬ副産物が生まれたわ。・・・それがアリサよ。あの奇跡の力で・・・私は死ぬことができる!!」
「・・・・・・」
「さあ一緒に終わりましょう!! この星も・・・何もかも! みんな道連れにしてあげるわ!!」
「させるかッ!!」
今一度銃を構えるシャットアウラだが、先日の爆発事件の時のあの男が、また邪魔をしに来た。
戦闘に入る双方だったが、突如銃声が響く。
そして、その場に平坦な声が響いた。
「どっちもガキですね」
「・・・・・・は?」
「・・・ご主人。レディリー=タングルロードの方頼みます」
「はいはい」
その声にどこからともなく現れた少年、上条当麻はレディリーの頭にチョップをする。
「いたっ!」
「不死身って言っても、やっぱり痛覚はあるよな」
「ほらほら、お父さんの仇、とりたいんでしょう!?」
ドゴォッ!! と轟音が響き、シャットアウラの体が吹き飛んで二十メートルほどノーバウンドで転がっていく。
「さて、こっちはこっちでゆっくり話そうか。レディリー=タングルロード」
「何なのよ。あなた、邪魔しないで!!」
「自殺しようとする奴を止めない奴がどこにいる?」
「うるさい! 私はもう十分生きたっ!!」
上条は無言でレディリーの口を右手で塞ぐと、何かを紡ぐように呪文を唱える。そして、右手を離したとき、その手に乗っていたのはレディリーにとって忌まわしい記憶の果実だった。
「アンブロシア・・・か・・・。これが原因か」
「そ、それ・・・・・・」
「お前の中の不老不死の原因だ」
「なら!!」
慌てるようにシャットアウラの銃に手を伸ばすレディリーの腰をおさえつける上条。
「なんで! なんで!!」
「お前は確かに長生きしたのかも知れねェ。千年以上もな。だけどそれはただの生の積み重ね。経験を積み重ねてきたにすぎねえだろうが。そんなのは生きているうちには入らない。お前はまだ何も知らない子供だよ」
「じゃあ! どうしろっていうのよ!」
「それはお前が決める事だ。そうじゃないと意味がない。だけど俺から言えることが一つだけある」
「・・・なによ」
「お前の長い長い悪夢は終わった。前を向けばお前の“人生”が始まるぞ」
「・・・・・・」
「どうだ? 生きたいと思うか?」
「・・・その代わり、あなたが面倒みなさい・・・」
「ん?」
「あなたがその気にさせたんだから! あなたが私の人生の責任もってよね!!」
「・・・マジですか?」
―――貴音の場合。
「ねぇあんた。一つだけ答えなさい。あんたはお父さんが好きだったの?」
「・・・・・・お前の答える義理はない!」
「・・・あなたの父親は「奇蹟」が好きそうなのにね」
「私の前で「その言葉」を口にするな!!」
銃が撃たれるが、貴音は避けようともしない。
「私を殺したいのなら、
「違う! “奇蹟”なんてものじゃない! 父さんは・・・」
「周りがみんなもう駄目だって諦めてる中で、あなたの父親はたった一人でも頑張って、みんなを助けたんです。 アンタを助けたんですよッ!」
「それをあいつ等が・・・・・・」
「アンタがその、親父さんが起こした奇蹟を否定するって事は、アンタ自身が親父さんを否定するって事です! アンタは、逃げてんのよ。自分の父親が死んだっていう現実から逃げて、三年前の“奇蹟”を否定し続けて・・・。それがアンタ自身がもう一度父親を殺してるって事に何で気付かないのよ!!」
「黙れ黙れ黙れ!」
「うっさい。黙るのはあんたの方だよ大馬鹿者が」
「これ以上、私の邪魔をするなら貴様も容赦しないぞ!」
「娘に殺されるって哀しいでしょうねェ、お父さん。あんたはいつまでそうやるの? もしかして自分では止まれないんですか。そうですか」
銃弾を体に受けながら貴音は踏み込む。
「そのみじめな幻想・・・私がぶち殺して上げますよッッ!!」
原始的な暴力の音がその場に響いた。
「―――どうする? このエンデュミオン」
「そうですね・・・。レディリーはどうしたいですか? あなたの悪夢の象徴ですけど」
「残しておいても良いんじゃない? みんな宇宙に興味あるみたいだし」
「だよな。だけど、魔術師が狙ってくるかもな。魔術的な意味をもった巨大な構造物って危ないんだろ?」
「じゃあ聞くけど。万里の長城に魔術師が行く?」
「いかないな」
「観光地ですし」
「それにここは学園都市。魔術師がほいほい入って来れる所じゃないわ」
上条と貴音は顔を見合わせてイギリス清教の二人を思い浮かべる。
「さて、これからどうするか」
「とぉぉおおおうまぁぁぁあああああ!!」
「ゲッ! インデックス!!」
「悪タイプ威力八〇の技!!」
「かみくだく!?」
上条の頭にインデックスが飛び付き、その頭にかみつく。
「ギャァァァァアアア!! 何!? なんだよっ! なんですか!!」
「とうま、また一人で先走ったね!」
「私もいたんですが」
「たかねととうまはもう一緒にカウントだよっ! とうまはどうしてこう誰かに頼ろうとはしないのかな!? 私も魔術の専門家だよ! 今回の敵は・・・・・・レディリー=タングルロード!! あなたのせいで!!」
「ま、待って待って。私はもうこの魔術を発動させる気はないわよ・・・・・・!」
「インデックス。もう終わったんだ」
「・・・・・・終わったの?」
「終わったんです」
「・・・・・・結局。当麻はいつも通り一人で突っ走って、終わらせたんだね」
「まーな」