幻想殺しと電脳少女の学園都市生活   作:軍曹(K-6)

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ARISAとENE

―――上条家。

 

第七学区にそびえるタワーマンション“アルコバレーノ”一階のロビー入口の屋根に虹がかかっているのが特徴。その最上階のスイートルーム。それは最上階の敷地をまるまる使い、「一〇LDK」バス・トイレ別を実現している。そのスイートルームを“所有”しているのが、現在少女三人に囲まれている少年。上条当麻である。

 

「なあ、インデックスさん?」

「何かな、とうま」

「その捨て猫拾ってきたから飼っても良い? みたいな目で俺を見ないでくれる? アリサ、人間だから。匿う分には問題ないから」

「そうですね。ところでアリサには心当たりはないんですか? さっきの連中」

「ううん・・・・・・何も・・・・・・。そもそもあの人達なんだったの? 水や炎を操って・・・・・・」

「フフン。それはね―――魔術・・・・・・」

 

言いかけたインデックスの口を貴音が塞ぐ。

 

「まじゅ・・・?」

「エスパー系の能力者だったのかね~。いやー科学じゃ割りきれない力ってあるよな~」

「当麻くんも信じてるの!?」

「え? 信じてるって・・・・・・?」

「えっと、不思議な・・・・・・科学じゃよく分からない力のこと。そんなのもあるのかなって・・・・・・」

「あるよ? とうまの右手!」

 

貴音の拘束を脱出したインデックスが言う。

 

「当麻くんの・・・・・・右手?」

「ん、ああ。俺のはここの開発なんかじゃなくて、生まれた時からなんだけどな。幻想殺しっていってそれが異能の力なら、戦略級の超電磁砲だろうが、奇蹟を起こす神の力であっても問答無用で打ち消しちまう能力なんだよ」

「・・・・・・アリサはそれを信じているんですか?」

「・・・・・・実は、わたしも()()なんだ」

「・・・・・・・・・!?」

「まさか、アリサちゃんもご主人と同じような力を―――ッ」

「黙ってろ」

「ふぎゃ!」

「わたしが歌を歌う時だけ・・・・・・、なんか計測できない力みたいなのがあるらしくて。今も桐ヶ丘で定期的に検査を受けてるんだけど。結局・・・・・・よくわかってなくて。・・・・・・もしかしたらみんながわたしの歌を聞いてくれてるのって、その力のせいじゃないのかなっ・・・・・・て・・・」

「それって“天性の才能”って事か?」

「!?」

「確かにアリサの歌声には何かしらのチカラがあるのかもしれないな。だったら、俺はもうアリサの歌を聞かなくていいのか?」

「え・・・・・・?」

「右手が邪魔してアリサの歌が届かない俺は、その歌を聞かなくていいのか?」

「い、嫌だよ!?」

「だろ? だから前向きに考えようぜ? アリサはその才能があったから仕方なく歌を歌ってんのか? 違うだろ? 歌いたかったら、その力が手に入ったと考えればいいんだよ」

「でも」

()()()そういうのが専門の街だ。生まれた時からそんな力を持ってる奴は数えられるほどしかいない。超能力者の七人のうち六人が後天的なんだぜ?」

「え、えと。そうだよ! アリサの歌は本物だよ!」

「・・・・・・ありがとう」

 

彼女はスフィンクスをだっこして、ベランダに出る。最上階は周りに同等の高さの建物はなく、あったとしても三階、もしくは四階下の高さだ。そのため綺麗な夜景が見える。

 

「・・・・・・でも、それならどうしてあの人達に襲われたんだろう。・・・・・・ごめん。巻き込んじゃったよね・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・わたしね、歌でみんなを幸せにしたかったの。歌っていればわたしも幸せになれる気がした・・・・・・。でも、それでもし誰かが傷つくなら、もう・・・・・・」

「ねえ。まさかオーディション合格したのに辞退しよう思ってないですよね?」

「・・・・・・!! だって・・・・・・歌いたいって私のワガママだよ。そのせいで周りの人に何かあったら・・・・・・」

「・・・だから、諦めるんですか? 逃げて、自分の夢を殺すんですか。言いなさい! 本当はどうしたいんですか!」

「・・・・・・っ。・・・歌いたいよ! だって・・・・・・、私にはそれしかないんだもん」

 

アリサの瞳からポロポロと大粒の涙が零れ落ちる。それを見た貴音は微笑んで、

 

「なら・・・歌いなさいよ」

「!」

「やりたい事があって、やれる力があるならやらなきゃダメです。ですから一緒に考えましょう。安全に歌える方法を」

「・・・・・・。・・・うん!」

「ならアリサはしばらくここにいればいいんだよー!!」

「ああ。そうだな」

「魔術師は人目があれば手出しできないから!」

「まじゅ・・・・・・?」

「敵です。敵」

「ここは広いんだ、部屋も洋室五部屋、和室五部屋あるからな。キッチンもそれなりの大きさだ。ここなら何人増えても大丈夫だっつうの。この上条さんに任せときなさい!」

 

 

 

―――学園都市某所。マンションの一室。

 

「―――はい。・・・敵は分類不能な能力を使っていました」

『能力ねぇ・・・。今時能力なんていくらでも生み出せるのでしょう? 特に()()()では』

「・・・今回の敵は相当に珍しい」

 

「あらあら『希土拡張(アースバレット)』・・・レアアースを自在に操るあなたの能力も、十分に珍しいと思うけど? シャットアウラ」

「単に少ないという意味でも珍しさではありません。あなたのおっしゃる通り鳴護アリサは襲われた。一体何者なのですか?」

『あら、知らないと戦えない?』

「・・・ところで、この回線は本当に安全なのですか? ノイズを感じるのですが」

「ノイズ? ! ああ、そうだったわね」

 

『どう? ノイズはなくなった?』

「・・・・・・はい」

「じゃあ、引き続きあの子の警護よろしくね」

「・・・・・・はい」

 

 

 

次の日―――

 

上条達が通う学校。

 

「えーか、カミやん! アイドルを応援する醍醐味っちゅーんは青田買いにあるんや。特にこのご時世ARISAちゃんみたいに突然火がついて、あっという間にメジャーになってしまうんや。ほんま一瞬たりとも気ィ抜けへん世界なんやで~?」

「ふ~ん。なに? 彼女にフられでもしたの?」

「何を言うてんねんカミやん。僕らは超ラブラブなんやで~? 顔かと思ったら話して見て超ビックリ。趣味まであってもうラブラブ。僕は幸せもんやで、あの時カミやんが教えてくれへんかったら、やっと会えた・・・・・・! て泣きながら僕に抱きついてくるあの子は見れへんかったしな」

 

くねくねする青髪に、土御門が拳を握りしめて、

 

「カミやん。俺はモーレツにこいつに腹が立ってるにゃー」

「・・・さいですか・・・」

「はいはーい。席について下さーい。授業を始めるのですよ~」

 

 

 

 

―――その夜

上条家お風呂。

 

「・・・だからね。とうまはいーっつも私のこと子供あつかいするんだよー!」

「それはインデックスちゃんが可愛いからじゃないかな?」

「えっ何? 聞こえなかったよ!」

「・・・インデックスちゃんと当麻くんってさ。どーゆー関係なの?」

「とうまかたかねがご飯を作って、私が食べるんだよー!」

「へ・・・へぇ」

「・・・あと、私が困った時は必ず助けてくれるかな! ああ見えて実は結構すごいんだよ! とうまは」

「うん。それは知ってる。そっか・・・不思議な二人だよね・・・。でもちょっとステキかな・・・!」

 

何かに気付いたアリサは湯船を飛び出す。

 

「アリサ!?」

 

慌ててインデックスも追いかけると、机に向って何かを書いているアリサがいた。

 

「どうしたの?」

「歌詞! 思いついたから・・・」

「へー! そーやって歌作るんだね! 見せて見せて!」

「だめ! はずかしいから~!」

「え―――っ、ずるいよ~」

「できたらちゃんとみせるから! 一緒に歌お!」

「ただいまー」

「たっだいまー!」

「わかった! 約束だよアリサ!」

 

二人がじゃれ合っている時に返ってきた上条と貴音。

 

「・・・とっ」

「当麻く・・・」

「ご主人。グッジョブ!」

「たかねぇぇぇええええ!!!」

 

一瞬上条に向かったインデックスだったが、貴音が親指を立てたのを見つけて貴音に目標を変えた。

 

「ノォォォ!! 不幸だぁぁぁぁぁ!!!」

「ヤレヤレだな」

 

 

―――夕食後。

 

「・・・・・・明日?」

「うん。オービット・ポータルの人と契約の話とか写真撮影があるの」

 

上条が洗浄、アリサがふき取り、インデックスが歩いて棚に片付けをする。貴音は今エネとなり、上条が頼んだ調べ物をしているところだ。

 

「マジか! そうか、護衛がてら一緒に行きますか。と言ってもそのまま貴音を連れていく訳にはいかないからな・・・・・・」

「なんで?」

「言ったろ? アイツは有名人なんだ。青い髪じゃないって言ってもバレる時はバレる。()()()()()()()の人の場合は余計にな。だからこそ、もう一人ぐらい誰か欲しいところだな。誰かいないか? 頼れそうで一緒に行ってくれる奴」

「・・・頼れる人か・・・」

 

 

 

 

 

―――次の日。

 

アリサは街中で、壁に背中を預けていた。その隣で上条はイヤホンをした状態でエネと話していた。

 

『だから、こういう状態なんですよ』

「ほう・・・・・・。何が原因とか分かるか?」

『それがさっぱりでして、写真とかはあるんですけど・・・・・・』

「異能。だと思うか?」

『九〇%』

「よし」

「あはは・・・・・・」

「やっほ、久しぶり」

 

アリサと上条にとっての待ち人がようやく来るが、上条自身気付いていない。

 

「こんにちは~」

「こっ・・・・・・こんにちは」

「ごめんごめん。あなたに会うって話したら、みんなどうしても会いたいっていうから。特にこの娘があなたの大ファンなの」

 

現れたのは、美琴・黒子・初春・佐天の四人。美琴が佐天を紹介するが、緊張でガチガチになっている

 

「そんなわけでこんな大人数になっちゃったけど大丈夫かな?」

「じゃあ・・・今日は皆さんは私のマネージャーってことで」

「『くっ。ハハハ!! マネージャーww。ビリビリがー!?ww あっはっはっはwww』」

「あ!? あ、アンタ! 何してんのよこんな所で!」

「なに? なにって護衛だよ護衛」

「は? え? じゃアリサが言ってたもう一人ってアンタァ!?」

「そのアスカみたいな喋り方やめてくらい?」

『みっともないですよ鳴神娘』

「あんたらねェ・・・・・・特にそこのスマホの少女! アンタスマホごとバンさせてやろうか!?」

『勘弁っですね!』

 

 

 

―――ところは変わって

 

「・・・・・・え? オービット・ポータルって三年前のあのオリオン号の事故を起こした会社なの?」

「はい。社運をかけたスペースプレーンが落ちた事で倒産状態だったんですが、直後に買収されて奇跡の復活! 今回のエンデュミオンを実現に導いたんですよ。ちなみに社長は女の子なんですよ確か一〇歳ぐらいだったかと」

「えっ! じゃあ当時は七歳ってこと!?」

 

そんな話をする美琴達の横で佐天はアリサと楽しそうに話している。

 

「そんなのただのお飾りじゃありませんの? 大体『ゴスロリ美少女社長』なんて盛り過ぎて胡散臭いですわ」

「そんなぁ~。『包帯ツインテール車いす』ほどじゃないですよ~?」

「初春ゥ~?」

 

「混じれないな」

『ですね~』

 

「で、ここからは都市伝説なんですけど。彼女は実は宣伝用ホログラフィーとかロボットじゃないかっていう話があるんですよ」

「はっ。マユツバですわね~」

「あながち嘘じゃないかもですよ! 思いません? なんかお人形さんっぽいっていうか」

 

その時、美琴が一つの“人形”を見つける。

その人形は立ち上がると、アリサに向かって、

 

「・・・あなたの歌、好きよ。こんなに気に入ったのはジェニー・リンド以来かしら。・・・がんばってね」

 

それだけ言うと、どこかへ去って行った。

 

「・・・・・・今の」

「えーーー~~っ!?」

 

初春の言葉に上条、貴音以外の全員が驚く。

 

「エネ、ジェニー・リンドって」

『古臭いですねェ。二百年ぐらい前じゃなかったでしたっけ?』

「詳しい事は俺もしらねーよ」

 

上条は黒子に、スマホを差し出すと、

 

「じゃあ俺は周辺警護に出かけてくるわ。エネをよろしく」

「分かりましたの!」

「スマホに名前付けてんの?」

「どうとでも思え」

 

そういうと上条は、暗闇の中へ消えていった。

 

『ご主人・・・?』

 

 

 

イベントが始まり、美琴・初春・佐天の三名もなぜか衣装を着てステージにいた。そして、上条が同時刻地下に到着した瞬間。ステージ、いやビル全体の電気が落ちる。

 

「!?」

「照明が・・・」

「・・・・・・!?」

「なになに?」

「停電?」

「どーなってんの?」

「やだぁ」

「・・・・・・!」

 

―――地下。

 

「貴様! なにが目的でこんな所にもぐりこんだ!?」

 

シャットアウラという名前の少女が、男か女か分からない(おそらく男)と対峙していた。

 

「・・・・・・・・・」

「鳴護アリサは我々黒鴉部隊の庇護下にある! 干渉するなら・・・・・・全力で排除する!!」

 

その声を合図に、肉弾戦が繰り広げられる。一度は優勢に見えたシャットアウラだが、男の攻撃で時に尻をつけてしまう。そして追撃が迫った瞬間。

 

「うっほほーいっ! っと!」

 

強烈なドロップキックで、男が吹っ飛んで行った。

 

「・・・・・・・・・!?」

「ヘイヘイピッチャービビってるゥ?」

「・・・・・・・・・!! 貴様・・・何故・・・」

『クロウ7からクロウリーダーへ!』

「なんだ!!」

『Dブロック基部に爆弾を発見! それも複数個です!』

「爆弾!? すぐに退避しろ! 他のユニットは鳴護アリサを誘導しろ!」

「爆弾? 過激だなァ。あんた等」

 

男が迫って来るが、上条は物怖じすることなく、本気でぶん殴り、吹き飛ばす。だが、次の瞬間、男は取り出したスイッチを押してしまった。

 

「・・・・・・・・・!!! 待っ・・・」

 

基部が破壊されたビルはバランスを崩す。それによりイベント会場にも被害が及ぶ。

 

(爆発・・・・・・!?)「黒子! みんなを外へ!」

「初春! 佐天さん行きますわよ!」

「わっ!」

 

黒子が消えた後、上からステージに落ちてきた鉄骨を、美琴の電撃で防ぐ。

が、

 

「! ぜ・・・・・・全部はムリ・・・! 間に合わない!」

「!」

「なるほど、こうなることを見越して、ご主人は私をここへ置いたんでしょうかねー?」

 

その声は何よりも透き通って聞こえた。爆発や崩壊音が全て止み、ありとあらゆる構造物がゆっくり淡く光って、瓦礫なども空中で停止していた。

 

「な、何・・・・・・が・・・・・・?」

「全く、欠陥工事は訴えなくてはいけませんね。いくらぐらい分捕れるでしょうか」

 

全員がその姿を目撃する。両手を腰に当て、短い青いツインテールをユラユラ揺らし、足の先がノイズのように欠けた青いジャージの少女の姿を。

 

「ENE・・・・・・!?」

「おんどりゃー! 邪魔ですよー! ホラホラ退かないと瓦礫落としますよー?」

 

ヌハハハッ! と笑うエネに皆、目を見開く。それもそのはず、少女は有名人だったのだ。学園都市で誰も知らない人はいないとまで言われた超有名人。どのテレビ番組にも出演せず、出るのは動画の中のみ、一体どれだけの番組が彼女の出演を希望したかもわからない。

 

「お姉様!」

「黒子・・・・・・!」

「皆さ・・・・・・ん・・・? え、ENE?」

 

瓦礫はどんどん人がいない所へと落ちていく。これだけの量の物質を一つ一つ別々に動かすという事は、超能力者に分類されても良いほどの腕なのだ。美琴は、その様子を感心するように見ていた。憧れを見つけた、当時の黒子のように。

 

「ENEさんが助けてくれた!」

「いてくれたことが奇蹟だ!」

「ENEさんがいなかったら・・・・・・!」

「ありがとう!!」

「? ・・・ッ! う、うぅ・・・・・・。あわわわ」

 

急に自分のしたことに気付いたエネは、慌てて地面に降り、アリサの後ろに隠れる。

 

「エネちゃん?」

「ちょっと匿って。マズイ、です。ご主人に怒られます」

「あ、あはは」

 

 

―――地下。

シャットアウラが目覚めると。目の前には少年が座っていた。先程現れた少年、上条当麻だった。

 

「ん、起きたか」

「あ、ああ」

「上の状況分かるか?」

「・・・・・・ちょっと待ってろ」

 

どこかに連絡を取り始めたシャットアウラ。

 

「そうか。鳴護アリサは無事なんだな。・・・・・・死傷者は? ・・・・・・ゼロ!? ・・・わかった。私は自分で脱出する」

「さっきの爆発で、上の連中は無事だって?」

「ああ。全員無事だ。観客も、鳴護アリサも、・・・私の黒鴉部隊もな」

「そっか。まさに「奇蹟」ってやつだな」

 

その言葉を聞いた瞬間。シャットアウラによって上条は首を壁に打ち付けられる。

 

「私の前で「その言葉」を口にするな!!」

「ッ!?」

「偶然の結果がたまたまその方向に向いただけだ。あるのは量子力学的な偶然の偏差と「見えざる手」を求める人の欲望だけ、人は怠惰で愚かだ。本当に必要なのは「秩序」だ!」

「あんた。ふざけてんじゃねーよ」

「何だと?」

「奇蹟は存在する。しかもそれは偶然じゃなく、な!!」

「キ、サマ・・・・・・」

「『人が努力し必然的に掴む大きな成功』それが奇蹟ってやつだ!! 確かに人は怠惰かもしれない! だけどな、人が起こした『奇蹟』を否定するって事は、その人の生を、努力を踏み躙るって事なんだぞ!」

「くっ・・・・・・どうやら」

「意見は絶対にかみ合わないみたいだな」

 

 

―――その後

 

『第七学区内ショッピングモールでの爆発事故のニュースです。ショッピングモール地下の施設でなんらかの爆発があり、警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)の協力のもと原因の調査が進められています。事故当時歌手のARISAさんのライブイベントが行われており・・・・・・、およそ一五〇人が会場にいましたが、一人の死傷者もなく・・・』

「奇蹟じゃん!」

「!」

「奇蹟?」

「奇蹟でしょ! あれは絶対。ENEとARISAのコラボが見れたんだぜ!?」

「ARISAさまさま―――!」

「まさに奇蹟ね!」

 

その言葉を聞いたアリサは複雑な気持ちになるが、すぐにそれも晴れる、足元で膝を抱えて魂が抜けている貴音のおかげで。

 

「うっわ。恥ずかしい。何あのみんなの歓喜の視線。嫌ですよあれが見たくないからテレビ出演は断って来たってのに・・・・・・」

「・・・アリサ、貴音」

「! 当麻くん」

「ご主人」

「・・・大丈夫か?」

 

「・・・奇蹟ねぇ」

「なんか、ヘンだよね・・・。本当に奇蹟なら、そもそもあんな事故は起こらないんじゃないかって」

「いやいやあれが起きて、何の被害も出なかったことが奇蹟なんですよ。おもに私のおかげですけどっ!」

「貴音・・・・・・」

「あはは。そうだね。今回の事は、奇蹟でも何でもないのかな」

「いや、奇蹟は起きたんだ。いや、貴音が起こしたんだろ? 奇蹟」

「ええ」

「え?」

「俺はさ。これは俺の見方なんだけど、俺は奇蹟を誰かの努力の上に成し得るものって思ってる。だから、努力した人は報われるべきだし、偶然のせいにして努力した人をほめないのは良くないとは思うけど、それでも。俺達は『奇蹟』って言葉を信じたいんだと思う」

「当麻くん・・・。・・・ありがとう。私・・・わたしがんばるね。・・・見ててくれる?」

「・・・ああ!」

 

 

―――そして

 

『いよいよ明後日はエンデュミオンの完成披露式典ですね』

『はい! 当日は我がオービット・ポータル社の総力をあげて、皆様に奇蹟とはいかなるものかお見せできると思います』

 

 

「『奇蹟の歌声』・・・平凡だけど()()()が伴えばこれだけ強いコピーはないわ。そう思わない?」

「・・・いえ。私は奇跡など信じていませんので」

「・・・本当につまらない子ねぇ。オリオン号と共に地に落ちるハズだったオービット・ポータルの命脈を保ったのは「八八の奇蹟」のイメージよ。ある意味『奇蹟』は我が社最大の売り物なのよ」

「・・・オリオン号の事件は決して『奇蹟』などではありません!」

「八八人()()が助かってるのに? あれが『奇蹟』でなくて何?」

「・・・・・・・・・・・!」

「まぁ・・・、私が買ったのはあなたの「戦闘力」 信仰までよこせとは言わないわ・・・・・・フフフ」

「・・・・・・ッ。失礼します」

 

シャットアウラが去った後、レディリーはエンデュミオンの模型を触る。

 

「フフフ・・・、これで・・・、全ての準備が整ったわ・・・。私の希望・・・私の夢が・・・ようやく叶う・・・」


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