幻想殺しと電脳少女の学園都市生活   作:軍曹(K-6)

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天草式十字清教 AMAKUSA_Style_Remix_of_Church.

オルソラ教会は七つの聖堂で構成されている。

十字教における七つの秘儀をそれぞれの聖堂が担当する。聖堂の大きさは均一ではなく、使用頻度は重要度によって、建物のサイズや金のかけ方も変わってくる。ちなみにオルソラ達のいた場所は結婚にまつわる『婚姻聖堂』で、一番収入が大きくなる予定なので建物も巨大だ。

上条はその教会の天井に貴音と一緒に足を着けていた。オルソラを抱きかかえ、まるで重力が逆にあるように。

 

「なあ貴音」

「なんです? ご主人」

「あれ、持ってない?」

「あれ? ですか」

「学園都市製小型核弾頭だよ。手榴弾型の」

「持ってますけど」

「ピン引っこ抜いて床に落とせ」

「・・・・・・過激ですねェ」

 

貴音が上条の言葉通りに、どこからか現れた手榴弾のピンに指をかけた時、ステイルはすでにインデックスを小脇に抱えて走り出していた。建宮も天草式の面々を押しだす形で反転。アニェーゼも避難指示を出すが、二〇〇人が一斉に動ける訳もなく。

 

音もなく空気が酸素が消し飛んだ。

と言っても、外にあった足場がパラパラと宙を舞い。シスター達がゴロゴロと地面を転がっている所を見ると、そこまで強いものではなかったのかもしれない。幸いにも、嫌どうやったのかは知らないが『婚姻聖堂』は無事だった。

 

「・・・・・・それ普通の手榴弾じゃね?」

「威力的にそうですね。私、このオルソラ教会全てが吹き飛ぶと思ってましたもん」

「残念だ」

 

心底残念そうにため息をついた上条の所へ、炎の塊が飛んでくる。

それを上条はひらりとかわして、実行犯を見る。

 

「まったく、僕達まで消し飛ばすつもりとは・・・・・・。君はあの子を傷付けて良いと思ってるのか?」

「大丈夫。そいつが着てんのは歩く教会だぜ? まったくもって無問題だよ」

「そう言う事を言ってるんじゃない!」

「あーうるさいうるさい」

 

上条はエネとしてフワフワ浮いている少女にオルソラを預けると、その頭部の炎を両の拳に灯す。そしてそれが大きく燃え上がった。

 

「俺の死ぬ気は、覚悟の炎だ!!」

「オルソラの事は任せてくださいご主人!」

「ああ。頼む!」

 

そう言った上条の元へ何十という魔術が飛んでくる。一度ヒラリとかわした上条は、さらにもう一度放つ準備に入っているのを目撃する。

 

「こい!」

 

彼は躊躇なく右の掌を相手に、左の掌を自分に向ける構えを取る。それは空中で静止することを意味していた。が、それを見たエネは満足げに微笑む。彼女は確認したのだ上条の頭部と両手の炎が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

空中で静止した上条の元へ、数十という魔術攻撃が今一度向かってくる。それはものの見事に上条がいた地点で煙をあげ、上条の体を覆い隠した。

 

「とうま!」

「はっ! 馬鹿ですね・・・・・・。避けなければ当たり前に当たるってんですよ」

 

アニェーゼが勝ち誇ったような声をあげる。そう、誰もが見ても一番の危険因子は上条当麻だ。その彼に従っている貴音も、彼の指令なしにはむやみに行動は出来ない。

だが、

 

「・・・・・・そうだな。だから、好都合なんだ。・・・・・・死ぬ気の零地点突破 改」

 

少しだけ静かな夜空から、少年の声は響く。さきほどよりも大きく、強く、炎は燃え上がる。その両手のグローブの甲にはX・・・・・・いや、ローマ数字の十が現れていた。が、それは変形するように元の留め具に戻った。

 

「なっ!?」

「一体・・・・・・何を・・・・・・」

 

味方であるステイルも説明を求めているような口ぶりだった。先程まで、やはり彼は素人だ。などと呆れていたのに、今では咥え煙草を落としている。

 

「魔力と死ぬ気ってとても良く似ているんですよ。それは超能力にしても同じ。全部人や地球の『生命のエネルギー』です。あれは本来相手の死ぬ気の炎を自分の炎に変える業ですが・・・・・・。ま、こういう例外もあるでしょう」

「すでに発動した魔術を自分の力に変換だと・・・・・・ッ! くっ、どこまで例外な人間なんだ上条当麻」

「魔道書にも載ってないんだよ! そんな事。多分誰も考えなかったんだと思うけど」

「そうですね。確かに誰も考えそうにはないですね。でも、ご主人は思い付いたんです。相手の力も自分の力に変えてしまうっていう。己が右手を参考にして」

「行くぞ」

 

そして、本格的な戦闘が始まった。あちこちに散らばるアニェーゼ部隊と、それぞれの場所で交戦する天草式、ステイル、インデックス。エネはオルソラを守るようにどこかへ身を隠している。

上条は八メートルほど上空から、斜め下にいるシスター達に向かって急降下する。単純な打撃だが、高速で行われたのが原因か。一撃で膝を着けさせる。

上条の戦法は基本一撃必殺だ。圧倒的攻撃力で敵を一撃粉砕する。だが、相手の器量が分からないままでは大きすぎると、相手を完全に殺す事になる。なので初撃は大抵弱めの攻撃だが、今回はそれだけで倒せる相手だったようだ。

 

「シスターって言っても所詮女子。貴音みたいには強くないか」

 

上条はつまらなさそうにため息をつくと、グローブの炎だけを消す。

その時、イタリア語で何かが聞こえてきた。

 

「攻撃を・・・重視? 防御を・・・軽視? 玉砕覚悟で主の敵を殲滅!?」

 

上条はとっさに両の手に再び炎を灯すと、一気に飛び出した。金色の瞳で辺りを見渡し、貴音が隠れている『終油聖堂』に飛び込み、インデックス達に声をかける。

 

「こっちだ!!」

 

インデックス、ステイル、建宮の三人はかろうじて聖堂の中へと飛び込む。上条が即座に扉を閉めると同時、厚さ五センチを超す黒樫の板が、無数の刃に次々と貫通された。

 

「とりあえず、全員無事みたいだな」

「ですね」

「・・・・・・で、どうするよ。これから」

 

その問いに答える者はいなかった。今まで危ういバランスを保ってきた戦局は一気に傾いてしまった事に、この場の誰もが気付いていた。

 

「あの、インデックスさん」

「何かなたかね」

「法の書の原典の一部でも良いです。暗号書き記してくれませんか?」

「どうする気だ」

「解読するんです」

 

ステイルの問いに、貴音は迷う事なく答えた。だが、ステイルは激高するように

 

「それでは、この子が『法の書』の中身を記憶してしまう。そうなれば今以上に大勢の魔術師が彼女の身柄を狙って襲ってくる羽目になるんだ!」

「心配してくれるの? ありがとうステイル」

「私がですか?」

 

オルソラの言葉に上条と貴音は首を振る。

 

「誰も解読できなかったんだ。()()()はな」

「書けたよ」

「どれどれ?」


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