幻想殺しと電脳少女の学園都市生活   作:軍曹(K-6)

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打ち合わせ

「なるほどね。道理でアニェーゼ=サンクティスを見た途端に彼女が茫然自失としていた訳だ。僕達をローマ正教の主力隊から切り離したのも、始めから見下されていたからかもしれないね。ふん・・・・・・イギリス清教がいると命令系統が乱れる。か、言ってくれるね」

 

テーマパーク『パラレルスウィーツパーク』を出た所で、ステイルはのんびりと言った。彼もオルソラの悲鳴を聞いていたはずだが、それでも引き返してアニェーゼにその事を問いかけたりはしなかったらしい。事情を知らなければ、ましてそれがイギリス清教とローマ正教という二つの組織間の外交問題になるかもしてないとなれば軽率な行動には移れないのは分かるが、それを聞いた後その前から機嫌が悪かった上条はステイルの胸ぐらをつかみ上げ、

 

「オイ。何で勝手にオルソラを引き渡した! 言っただろ、相手の安全が完全に確保されるまでオルソラは学園都市の保護下だってよ!」

 

あれから上条はアニェーゼの元へと飛んだが、彼女達はすでに撤退した後でそこには誰もいなかった。建宮を追撃してくる刺客も現れない。彼の仲間の大人数が捕まった事で、もう天草式は壊滅したものと判断されているのかもしれない。

あれだけの大人数が最初から存在しなかったかのような手際の良すぎる撤退をした事を上条は称賛していた。

 

「その男が言っている事が全て事実だったとしても、オルソラ=アクィナスはすぐには殺されないだろうね。ヤツらにはヤツらなりの事情がある。・・・・・・だから上条当麻、今この瞬間にどこかに駆け出そうとするのはやめろ。君が出張ると余計にややこしくなる」

「はあ? ふざけんな。外交問題が恐くて何もできねェ奴は口出しすんじゃねーよ」

「・・・・・・、事情って何ですか」

「ローマ正教は世界最大の宗派なんだよ、たかね。その大多数はオカルトなんて知らないとはいえ、二十万人以上の信徒を抱え、教皇と一四一人もの枢機卿が管理し、一一三ヶ国に教会を持つほど肥大しちゃってるの。大きくなるのは良い事だけど、大きくなりすぎると困った問題が生まれちゃったりもするかも」

「・・・・・・派閥、か」

「あー。分かりました。むやみに殺せないですものね。オルソラには罪無いですし」

「そうだな。だからあいつ等はローマ正教で魔女裁判のような事でもするんだろ」

「良く分かってるじゃないか」

「俺と貴音も、神の教えに背く者。だからな」

「「「?」」」

 

上条のその言葉にインデックス、ステイル、建宮の三人が首を傾げる。が、上条は気にした様子もなく、

 

「あいつらが今、どこにいるか。お前達は分かってんのか?」

「大体予測はついてるけどね。知ってどうする気だい?」

「分かってんだろ?」

「気持ちは分かるがね」ステイルは、悠々と煙を吐き、「少しは気を静めたらどうだ。この街に集まっているだけで、彼女達は二五〇人近くいるという話だったろう? 君の拳はそれらを全て薙ぎ払えるほど便利な代物なのかい?」

「アホか。そんな便利なものちゃうで」

「なにゆえ関西弁?」

「・・・・・・確かに俺の幻想殺し(みぎて)だけじゃあ、そないな大勢の人間相手に戦われへんやろうな。せやけどな、俺の武器が右手(こいつ)だけだと思わんといてや」

「だから何で関西弁?」

 

貴音が冷静に突っ込みを入れる。入れられている上条の目は闘志に燃えている。それも、まるで新しいゲームで遊ぶ子供のような無邪気な闘志が―――。

 

「だけど、良く考えるんだな上条当麻。これはローマ正教内で起きた事件を彼らのルールで裁いてるに過ぎないんだ。外部へ何の影響もない以上、下手に僕達イギリス清教が文句を言えば、それを内政干渉と取られてイギリスとローマの間に大きな亀裂が走る可能性すら考えられる。・・・・・・残念だが諦めるんだね、上条当麻。それとも君は戦争を起こしてでも彼女を助ける気かい?」

「嫌われ役には慣れてる」

「それと、イギリス清教にしても、ローマ正教にしても、所属している全ての人間が僕達みたいな戦闘要員だと思わない事だね。むしろ、そのほとんどは君と同じような人間なんだ。学校へ行って、友達と過ごして、帰りにハンバーガーでも食べて、それが世界の全部だと思ってる人々さ。その陰で魔術師が暗躍している事も知らないし、魔術的な戦争が起きないよう様々な組織が色々な取引を行っている事にも気づいていない、まさに善良で無力な小羊達だ」

「だから?」

 

上条の声は予想以上に平坦だった。そんな事は分かりきっている。と、言った風に。

 

「それでここで問題なんだけど、君は彼らを巻き込めるのかい? 真実を何も知らないままイギリス清教やローマ正教に所属しているだけの人々を戦争に巻き込んで、略奪して、虐殺して、そこまで奪いに奪ってでもオルソラ=アクィナス一人を守りたいと思えるのか」

「・・・・・・。お前は前提条件から間違ってるぞ、ステイル」

「なに・・・・・・?」

「俺はイギリス清教の看板なんか背負ってない。今回に限っては学園都市っていう後ろ盾も一回地面に置いてやる。良いか、これは俺が、俺個人があのアニェーゼ達に仕掛けるケンカだ。そんな大したもんじゃねえっつってんだよ大馬鹿野郎が」

 

上条はステイルの目を射抜く。覚悟を纏ったその眼光で。

 

「だから、お前らは安心して帰れ。建宮だっけ? 一緒に来るか? 天草式の面々ぐらいなら守ってやれっぞ?」

「・・・・・・いや、遠慮しとくよの。天草式としては、狙う時は移動中が一番なのよ」

「あっそ。行くぞ貴音」

「イエッサー」

「まぁ、せめてイギリス清教にオルソラ=アクィナスを助けるだけの正当な理由があるなら話も変わったかもしれないが、今の僕達にはここが限界だよ」

「何だよ、負け惜しみか?」

「ああ。それと上条当麻。一つだけ聞いておきたい事があるんだ」

「んだよ」

「前に僕が君にやった十字架。今、君は持っていないようだが、どこへやったのかな?」

「ん? 貴音にパスして・・・・・・」

「今はオルソラの首にかかってます。私が着けましたから」

「ほんと何でそんな事したんだよ」

「いや、十字架ってシスターさんの首にあるものじゃないですかー。だから」

「理由になって無くない?」

 

上条と貴音は暗闇の中に消えていく。文字通り姿が消えたのだが、誰も気にはしなかった。


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