幻想殺しと電脳少女の学園都市生活   作:軍曹(K-6)

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評価はうれしいですけど、批判だけはやめてください。

ブロークンハートしてしまいますので。

もちろん感想は待ってます。


イギリス清教 Anglican_Church.

争いは終わった。

それは建宮という司令塔を失った事で天草式の統率が一気に崩れたからか、と上条は考える。遠くから聞こえる物音がピタリと止んだ所からも、ピリピリと張り詰めた気配がなくなっていく所からも、上条は理解していた。

建宮斎字は拘束され、少し離れた所に座らされていて、彼の手足、胸板、背中、額にルーンのカードが張り付けてあった。今の姿勢が崩れると、即座に体が火ダルマになるらしい。

そして(上条と貴音は見ていないが)ステイルはオルソラを連れてアニェーゼ達の元へと行ってしまったため、今は上条と貴音とインデックスと建宮の三人しかいない。

で、

 

「とうま、とうま! 大丈夫、怪我とかない? どこか痛むところとかは!?」

「大丈夫だ。心配するな」

 

未だ頭部の死ぬ気の炎が消えていない上条の周りを、インデックスが心配そうにクルクルと回っていた。

 

「・・・・・・静かですね。あれだけ多くの人が暴れてたとは思えないですよ」

「ああ。そうだな」

 

貴音の意見に賛成するように上条は頷く。

 

「おい」

 

と、その時、不意に離れた所に座らされている建宮斎字が上条に声をかけてきた。妙に焦った音色を秘めていた。

建宮はそんな三人を睨みつけながら、

 

「くそ。お前さんよ、悪いがこいつを解いちゃくれんかな? いや、無理を言ってんのは分かってんのよ。けどな、このまま彼女を放っておけるはずもないんでな」

「彼女? ・・・別に放してやっても良いが、お前が良い奴だって証拠はあるのか?」

「なあオイ、一個だけ聞かせろや。お前さん、まさか本当にローマ正教へ彼女を引き渡す気か。その後彼女がどういう扱いを受けるか分かってんだろうな」

「駄目だよ、とうま」むしろ、インデックスの方が冷静な声で、「この人は今、言葉を武器に戦ってるだけなの。だから耳を貸しちゃ駄目。大体、敵がこっちに正直に話をして一体何の得になるっていうの?」

「殺されんのよ、彼女はな」

 

インデックスの言葉に被せるように、建宮斎字は言う。

 

「いいか、先に結論だけを伝えとくのよ。彼女をローマ正教に引き渡すな。ローマ正教の本当の目的は、彼女を殺す事なのよな」

「・・・・・・なるほどな。そういう事か。やっぱあいつ等『裏』があったんだな」

「とうま!? その人の言葉に耳を傾けちゃ駄目だよ! 大体、今まで一緒にいたローマ正教が・・・・・・」

「インデックス。お前は黙ってろ。おかしいと思ってたんだ最初から、アイツは追われていたのに、味方であるはずのローマ正教に戻ろうとせず学園都市に来ようとした。そこで気付くよな。両陣営から逃げたんだって」

「・・・・・・なるほど。天草式の面々には迷惑をかけられないと、まるでどこかの純白シスターですね」

「誰の事かな?」

「・・・・・・って、ちょっと待て。オルソラは? どこへ行った」

「え? ステイルが連れて・・・・・・」

 

 

その時、どこか遠くで悲鳴が炸裂した。

いや、悲鳴などという生ぬるいものではない。

絶叫。咆哮。号叫。()()()()()()()()、女の叫び声だった。しかしそれが本当に人間が出したものなのか、それすらも上条には自信が持てなかった。甲高い轟音はガラスや黒板を引っ掻くような物理的に人間の身をすくませるものであり、それなのに大音響の中には人間の生々しい感情が存分に込められていた。恐怖。拒絶。絶望。苦痛。泥水を吸い込んだスポンジを手で握り潰すように、人間にあるまじき絶音の中から人間的すぎる感情が染み出してくるのが分かる。

インデックスは上条の顔を見る。上条はインデックスの顔を見ていない。

 

「オルソラ?」

「もう一度、念のために聞きゃならんようだが・・・・・・お前さん、彼女をローマ正教に預けるだなんて言ったのか? 彼女はローマ正教じゃなくてお前さんを信用してたんじゃねえのよな?」

「そうだな。俺は学園都市の人間だ。アイツは今、俺が守ってる学園都市の保護下にあるって何度も何度も言ってきた。それなのにこのざまか・・・・・・。フハハハハハ!」

「ご主人」

「オイ天草式。お前等も手伝え。あの少女達を―――」

 

そこまで言って、カツンという足音が聞こえてきた。上条は建宮から視線を外す。足音のした方を振り返ると、暗闇を割って出てくるように、二人の黒いシスターがやってきた。ローマ正教の者達だろう。背の高いのと低いのに分かれていて、背の高い女性はちょっとした丸テーブルほどの大きさを超す馬車に使うような木の車輪を担いでいて、背の低い少女は腰に巻いたベルトに皮の袋を四つほどぶら下げている。袋の中に硬貨でも詰まっているのか、歩くたびにジャラジャラと音が鳴る。袋の大きさはソフトボールほどで、あれにぎっしり硬貨が詰まっているとすると砲丸投げの鉄球ぐらいの重さはあるだろう。

背の高いほうのシスターは袂から皮張りの古い手帳のようなものを取り出してページをめくり、何かを確認するように頷いてから上条の方へ来た。写真でも張ってあるのかもしれない。

 

「外部協力者の御方ですね。あなた達が捕らえた異端の首謀者の身柄を預かりに参上しました。神の敵は・・・・・・そちらですか?」

「いや、アイツは神の敵じゃねーよ。ま、俺と貴音は()()()()()()()()だけどな」

「?」

 

上条の言葉の理解ができなかったのか、インデックスが首を傾げる。

 

「まあいいや。今からオルソラに会えるか?」

「残念ですが、ご辞退願います。シスター・オルソラの身柄は無事に保護できたとはいえ、敵戦力の実態が明らかでない今はまだ安全とは言い難いのが現状です。こういった場合、我々の規則に従い人員の安全を最優先させていただきます。彼女をローマ内に確保したのち、改めて招待状を送りましょう」

 

完璧な答え。

それを聞いた上条は、

 

「ん。あ、そう。じゃあいいや。勝手に会いに行くから。何、ちょっと顔を合わせて最後の挨拶するだけさ」

「しかし、規則では・・・・・・」

「はいはい。規則規則うるさいよ」

 

上条は背の高いシスターの肩を掴んで、ぐいっ、と横へどける。

 

「・・・・・・、」

 

背の高いシスターは心配症の人間を見て呆れるように肩の力を抜いた。背に預けている巨大な車輪を、ごん、と自分の手前に盾のように置く。

と、インデックスの顔が急に緊張を帯びて、

 

「駄目だよ、とうま―――ッ!?」

 

彼女が叫び終える前に、

木製の車輪が、勢い良く爆発した。

 

「ん?」

 

その音で振り向いた上条の方にだけまるで散弾銃のように、数百という鋭い破片が恐ろしい速度で襲いかかってきた。彼は冷静に横に振るった右手で炎の壁を作る。が、それを超えて無数の破片が上条の手足や腹に直撃した。その威力に上条が浮きかけるが、何とかして留まる。

 

「・・・・・・いてーじゃねーか」

 

そう言って顔を上げた上条は、その体に刺さっていた木片が全て地面に落ち、血もすでに止まっていた。

 

「し、シスター・ルチア。あの、えと、よ、よろしいんですかぁ、これって? 確か・・・・・・シスター・アニェーゼは()()()との不用意な接触は避けるようにって・・・・・・」

「黙りなさい、シスター・アンジェレネ。くそ、だから異教の徒などは我らの懐などへ潜らせずに、もっと早く追い払っておくべきだったのに、アニェーゼのヤツ。放っておけなんて楽観的な命令など聞いていたからこんな羽目に・・・・・・」

 

上条はその様子をニマニマと眺める。不敵に唇の端を吊り上げて、まるで次に言う言葉が分かってるように。

 

「悲鳴などいちいち変に勘ぐったりしなければこちらの仕事も増えずに済むのに・・・・・・。くそ、どうして、どうして私がこんな、異教の者の、爛れた手で、肩を、肩を、肩を。シスター・アンジェレネ! 石鹸は、いえ洗剤はどこですか! ひどすぎます、最悪の気分です。この私に話しかけるなら一言申してくれませんか。泥除けのエプロンでも着なければ耐えられません」

「グローブしてるでしょうが」

 

そう上条は言うと、綺麗な透き通るようなオレンジ色をした炎を両手に灯す。さらに、そこら中の影から犬、猫、カラス、虫。数百種にも及ぶ使い魔が湧き出してくる。

 

「確かに、魔力の無いご主人は魔術を使えません。ですが、私なら可能ですよ~?」

 

ニヤニヤと笑い、その体を宙に浮かせた青いジャージの少女エネは楽しそうに見える。

その時、遠くから甲高い笛のような音が聞こえてきた。背の高いシスターは忌々しげに黒い夜空を見上げて、

 

「退却命令ですか。シスター・アンジェレネ!!」

「は、はい!」

 

二人揃って。いや、背の低いシスターが背の高いシスターの後を追うようにして暗闇の向こうへと消えていく。

 

「これで分かったろうよ」

 

建宮斎字は夜空を見上げながら、苦虫を噛み潰したような声で、

 

「あれが、十字教内最大宗派・ローマ正教の()()()()()()




エネさーん。勝手に使い魔召喚しないで・・・・・・。まだそのネタばらしは先だから・・・

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