幻想殺しと電脳少女の学園都市生活 作:軍曹(K-6)
学園都市 Science_Worship.
薄い風が彼の髪をなびかせ、道の向こうへと抜けていく。そこで上条はボロボロで正座している男三人と、無傷で正座をしている男二人を見下ろしていた。
「・・・・・・で? そいつらは新しいメンバーかなにかか? いきなりケンカ吹っかけてくるとは御挨拶だな」
「す、すみません上条さん。俺達の教育が足りてませんっしたね。ホラ謝れ!」
「はぁ? 何でこんな奴に謝らなくちゃいけないんっすか! ナワバリに入って来たのはコイツが先っすよ!?」
「良いから謝れ! すみません上条さん」
「いや、お前らは怒ってねーよ。俺が怒ってんのはお前等だ」
「まだ負けた訳じゃねェっつてんだろウニ頭!!」
「ああ?」
「あ、上条さん。後はこっちに任せてくれませんかね・・・? コイツらマジで指ツメさせるぐらいの事はさせますんで・・・・・・」
「は? ちょっと待って下さいよ! 何でこんなウニに頭下げてんすか! 俺あんたが頭下げるのなんか見たくないっすよ!」
「じゃあお前も謝れ!」
「それは嫌っす!」
「じゃあ死ね」
上条による粛清が行われた。意識はあるが動けない状態にした上でのオーバーキル攻撃。これでこのスキルアウトも懲りただろう。
「本当に勘弁してくれよ? 俺も暇じゃないんでね」
「マジですいませんでした。上条さん」
「・・・・・・」
黙って頭を下げるスキルアウトもいる。上条の姿が消えた後、彼らは顔を合わせる。
「いや、マジかっこよくないっすか上条さん!」
「マジでな。迷惑かけたのは謝るけどコイツらのおかげで上条さんに会えたしな!」
「あ、アニキ達・・・・・・。何であんな奴の事・・・・・・」
「本当にお前等しらねーんだな。あの人裏の世界じゃ有名な人だぜ? と言っても、顔と名前が一致してるのは一度でもあった事ある人間だけって言われてるがな・・・・・・」
*
上条はようやく学生寮まで帰って来た。途中で合流した買い物帰りの貴音に質問攻めにされながら帰って来たので、もうヘトヘトだったりする。
と、学生寮の入口に差し掛かった所で、不意に頭上から女の子の声が聞こえてきた。
「あー。しっ、しししっしっ、
ん? と上条が顔を上げると、七階通路にある金属の手すりから、土御門舞夏が上半身を乗り出して右手を振っていた。いつも通り清掃ロボットの上に正座した状態であるため、ものすごくバランスが危うく見える。左手はモップを握り、それで床を突いている。どうも、前進しようとしている清掃ロボットの動きをそれで封じているらしい。
「よ、よよ用事あったの急用があったの。というかししょーは携帯電話の電源を切ってるだろー」
「?」
言われてポケットの中のスマホを取り出すと、確かに電源は切れている。受信履歴を見ると、土御門舞夏からばんばんメールが送られてきていた。
そういえば舞夏の声は間延びしたものだったが、少しその顔が青ざめているようにも見える。
上条は首を傾げたが、急ぎのようなのだろうと、地面を蹴り七階まで跳ぶ。
舞夏がいる手すりに立つと、廊下に降りる。同様にして貴音も登って来た。
「緊急事態だ緊急事態だぞ。銀髪シスターが何者かにさらわれちゃったー」
「は?」
上条は思わず声を出した。舞夏は白く青くなった顔で、
「だから誘拐だよ人さらい。通報したら人質殺すって言われてたから何もできなかったの。ごめんなーししょー」
銀髪シスターと言うのはインデックスだろう。上条は少し考えると、
「んで? 何か証拠とか脅迫状とかないか?」
「去り際に、誘拐犯が封筒を渡してきたのー。そこに色々書いてあって・・・・・・」
ダイレクトメールに使われるような、横に細長い封筒を舞夏は手渡してきた。彼女の声は、多少以上に震えていた。単なる恐怖だけでなく、自分が何もできなかった事に対して負い目があるのだろう。
上条は一度だけ封筒に目を落としてから、
「そんで、その馬鹿野郎はどんな感じのヤツだった?」
舞夏はちょっと考えるように頭上を見上げてから、
「うーん。まず身長が一八〇センチを超えててなー、白人さんっぽかったぞ。でも日本語は上手だったし、見た目だけでどこの国の人かまでは分からなかった」
「ふんふん」
「それで神父さんみたいな格好でなー」
「ふん?」
「神父のくせに香水臭くて、肩まである髪が真っ赤に染まってて、両手の十本指には銀の指輪がごてごて付いてて、右目の下にバーコードの刺青が入ってて、くわえ煙草で耳にはピアスが満載だったー」
「・・・・・・、おい。すっごく見覚えあるぞ、その腐れイギリス神父」
舞夏は『?』と首を傾げる。上条は改めて封筒を調べた。中には一枚の便箋が入っている。
そこには、定規を使って描いたようなシャーペンの字で、
『上条当麻 彼女の命が惜しくば 今夜七時に 学園都市の外にある 廃劇場『薄明座』跡地まで 一人でやってこい』
と書かれていた。
「・・・・・・。今時、定規で筆跡隠しかよ」
今日び、定規で筆跡を隠した程度で身元が割れないと本気で考えているのだろうか。CDの表面をレーザー光で読み取る技術を応用した、個人差のある細かい『指先の震え』を文字の溝から調べる確定方法もあるし、何より学園都市には
本人は真面目にやっているつもりだろうが、ここまで来ると狙って笑いを取ってんのかと上条は少し呆れてしまう。
(ナニ考えてんだか。一足遅い夏休みでももらって遊びに来たのかあの馬鹿)
上条が封筒を降ると、中からさらに折り畳まれた紙切れが出てきた。広げてみると、それは学園都市の外出許可証と関連書類だった。すでに必要事項は記入済みだ。一体どこでこんなの手に入れたんだろう、と上条は首をひねる。確かにこれがあれば堂々と正面から学園都市の外へ出れるが、入手するには一定のステップを踏まなければならないはずなのに・・・・・・。
「荷物置きましたよご主人」
「・・・・・・一人、ね。エネ、スマホに入れ。今からアイツの所に行って一発ぶん殴る」
「電動自動二輪で行きましょうよ!」
「いや、技術漏洩を嫌がる学園都市が技術の塊を通す訳がないだろ? だから普通ので行くぞ」
「カワサキのZ‐2にしましょうよ!」
「なんで?」
「ヨシムラ管の音が聞きたいです!」
「あー。はいはい」
舞夏に大丈夫だ。と声をかけて上条と貴音は七階から下の二輪置き場に飛び降りた。
上条さん。どうやら裏とかかわりがあるようで・・・・・・。