幻想殺しと電脳少女の学園都市生活 作:軍曹(K-6)
血の臭いがする。
バリケードのこちら側でこの臭い。恐らく警備員はそれほど役には立っていないのだろう。
「あちゃー、これじゃあ予定していた作戦が使えねーな」
「よし、分かりました。プランBで行きましょう。・・・・・・プランBは何です?」
「あ? ねーよそんなもん」
「・・・強行ですか」
「それしかねーだろ」
上条は右手にはめた腕章を外すと、黒いジャケットに黒いネクタイという。葬式の時に着るような喪服にも見えなくもない服装に着替える。そして、大きな軍用ゴーグルをかけた。
「さて、掃除を始めようか」
「ですね。汚物は消毒です」
上条と貴音はバリケードへと一歩近づく。そして、警備員の目に止まらぬ内に、バリケードの中へ飛び込んで言った。
後ろから気付いた者が制止の声をかけるが、もう黙っておいて欲しかった。
「うふ。こんにちは。うふふ。うふふうふ」
「こんにちはマドモワゼル。さて、早速で悪いのですがあなたには消えてもらいます」
「あら、コイツらと一緒では無いのね。一体あなたはなんなのかしら?」
誰が来ても問題ないと言った調子で女性は呟く。それを聞いた上条は、軽く地面を蹴って飛ぶと、ほぼ亜音速に近い速度で右手を振り切った。
衝撃と音は遅れてやってくる。
女性の盾になるよう立っていた土くれの巨人はもう跡形もなく吹っ飛んでいた。
「な・・・・・・」
「俺はこの街を住み処にする黒き龍・・・。あいにく、お前に名乗る名前は持ち合わせていない」
「お前ではなくて、シェリー=クロムウェルよ。覚えておきなさい」
「一応聞いておこう。何をしようとしている」
「戦争を起こすんだよ。その火種が欲しいの。だからできるだけ多くの人間に、私がイギリス清教の手駒だって事を知ってもらわないと、ね? ―――エリス」
シェリーがそう言うと、崩したはずのがれきが集まり、ゴーレムを形成する。そして、手首のスナップを利かせオイルパステルをくるりと回す。
その様子を見た貴音は、
「“
そう言うと貴音は親指を下に向ける。そうした瞬間。シェリーの体中に赤い裂き傷ができる。
「これは・・・能力者の魔術拒絶反応・・・!」
「別に能力開発を受けていないはずなのに何故? とお思いでしょうが、ネタばらしをすると、あなたの身体の中に一部のAIM拡散力場を送り込んでいます。私が止めない限り、あなたは常にダメージを負い続けるという訳です」
シェリーは地面に何かを慌てて書くと、エリスを爆発させた。
「・・・・・・こんなもので攻撃ですか?」
「馬鹿。逃げられたんだよ」
「ウゲ」
「さ、追いかけるぞ。ソナーは得意だろ?」
「・・・・・・誰に言ってるか分かってます?」
「もちろん」
貴音は数歩前に出ると、着ていたスーツを脱ぎ捨てる。いや、殻を脱いだ。と言った方が適切だ。隣には青いジャージを着たエネが浮いている。
「学園都市に充満せしAIM拡散力場よ、今すぐ私の為に働きやがれ!」
「オイオイ・・・」
「・・・・・・まだ地下にいるようですね・・・。地上に向かったって事はないですかね?」
「そう・・・だな・・・・・・。上条当麻として、アイツと向き合うか・・・・・・」
「・・・ですね」
上条はその足を、シェリーが出てくるであろう場所へ向けて歩きだした。
が、その時上条の携帯が鳴る。
「んだよこんな時に・・・。小萌先生?」
もしもし? と不機嫌を隠さずに上条はヘッドセットの通話ボタンを押す。
『あっ! 上条ちゃんですか!? やったやった、ようやくつながったですー。上条ちゃん、今までどこにいたんですかー?』
「事件のあった地下街ですー。それも敵さんのど真ん前ですよー?」
『む、それは私の真似ですかー? っと、姫神ちゃんが一度そっちに電話をかけたはずなんですけど、電波の調子が悪かったそうなのですよー? ってちょっと待てください敵さんのど真ん前ってどういう事ですかー!?』
「上条ちゃんは問題児さんなので問題なしですー」
『何で私の真似をするんですかーっ!』
「すみません小萌先生。ちょっと面白くって。で? なにか用っすか?」
『そうでしたそうでした。ちょっと大事な話があるのですよ』
「なんすか」
『カザキリヒョウカさんについてなんですけどー』
「風斬が? なんすか? 端的に頼みますよ?」
『あー、もしかしたらカザキリヒョウカさんは人間じゃないかもしれません』
「それはアイツがAIM拡散力場の集合体だっていう意味ですか?」
『はい?』
「ウチの貴音がね、アイツに触れた瞬間。突然AIM拡散力場への干渉権と主導権を握ったんっすよ。それを俺達の中で仮説を立てて、プログラム“エネ”の中にそれができる何かがインストールされたと考えたんです。だから、アイツは。風斬氷華は科学の使者なんじゃないかって思った次第です」
『・・・・・・本当に上条ちゃんは頭が良いですね。手が掛からないのは良い事ですが、もうちょっと先生を頼ってほしいです』
「・・・時がきたら、全力で頼ります」
上条はそう言うと、隔壁の前までたどり着く。おそらくシェリーは上条当麻じゃない二人。インデックスと風斬を狙いに行ったと考えられる。
「・・・・・・邪魔だな」
「人の波も相当ですよ?」
そう。隔壁の周りには出たがって群がる人が。
「どうします? ご主人」
「ぶち破っても出るさ」
上条のその言葉を聞いた周りが少し不思議そうな顔をする。そして、警備員の一人が近づいてきた。が、上条は捕まる前に実行することにした。二メートルほど跳躍すると、握りしめた拳を隔壁に叩きつける。すると、轟音を立てて隔壁がぶっ飛んだ。
「え・・・・・・」
誰が発したかは分からないが、驚愕の声も漏れる。上条と貴音はそんな事は気にせず、外へと飛び出して行った。
「・・・・・・いや、マジあいつらどこ行ったんだよ。黒子! お前はあいつ等をどこへテレポートさせたァ!!」
「叫んだって黒子さんは―――」
「当麻お兄様呼びまして?」
「来た・・・」
「なあ、御坂とインデックスと風斬。あいつらどこへテレポートさせた?」
「確かこの辺りですの」
黒子が地図を取り出して上条達に場所を教える。
「移動している可能性もありますの」
「・・・・・・だよなー。でもなー・・・ありがとな黒子。とりあえずこれ俺のメアドと電話番号。教えてなかったよな」
「感激ですのっ!! 私これで三回はイケますわ!」
「ごしゅじーん! 行きますよー?」
「はいはい。今行くよ。んじゃ黒子。変態さんもほどほどにな」
黒子に教えてもらい、場所が分かった上条達は最短距離で道無き道を駆けだした。
補足、道なき道とは、ビルとビルの間の空中だったりします。