幻想殺しと電脳少女の学園都市生活   作:軍曹(K-6)

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夏休み最終日新学期と詰め込みたくなるのはしょうがない。


始業式

カツンッ。と早朝の誰もいない通学路に音が響く。

その音の正体は、少年が使っている現代的なデザインの杖から発せられたものだった。

 

「っつかよ。何だってこんなもんつけて歩かなきゃならないの?」

「ご主人がバッタバッタ転ぶからじゃないですか」

「仕方ないだろ。三半規管が上手く機能しないんだから」

「だからこその杖ですよ。我慢我慢」

 

上条は隣を歩く少女を軽く小突く。

貴音は上条と同じ学校に通っているので、制服はセーラー服である。

上条は首をかしげる少女に似合ってる、と一言だけ言うと。全力で走りだした。

 

「ちょ。ご主人っ! 走るなんて馬鹿ですか!!」

「うるさい! こちとら走ってないとやってらんないんだよっ!」

 

学校まであと少し、別に遅刻をするわけでもないのに上条達は全力で走っていた。

 

 

 

学校に着いた上条は開いてない校門を乗り越え、中に入る。貴音の場合、乗り越えるというよりは飛んで。の方が正しいが。

 

「・・・・・・さて、学校すら開いてない訳ですが」

「・・・全く。病院から登校なんて初めてですよ。それにまた抜け出す形ですし」

「いや、だってあの先生しつこく診断するんだぜ?」

「今回に限ってはご主人の治癒力が大幅に落ちていたんですからしょうがないでしょう! ま、私の見立てではその脳の欠損。九月中に治りますよ」

「ふーん。そう」

 

冷たーいっ! と叫ぶ貴音を放って、上条は学校へと向かう。今日早く来たのは理由がちゃんとあっての事だ。

 

「貴音。見えるか?」

「いつも通り・・・ですね。本当にご主人は見えないんですか?」

「ああ。俺はこの学園都市全ての能力を消してる訳じゃないからな・・・。まだピースは揃ってないんだよ」

「はぁ・・・」

「で? 何が見える」

「簡単に言えばもう一つの学園都市、ですね。干渉はできませんがそこに確かにあります」

「流石電脳少女。見えないWiFiを掌握するだけあるな」

「褒めてるんですか? それ」

「褒めてる褒めてる」

 

上条達が早く街に出たのは、誰にも見られずAIM拡散力場の確認をするためだ。

数刻前、上条の元へアレイスターから指令が来たのだ。榎本貴音がAIM拡散力場にアクセスするようにと。

AIM拡散力場は本来能力者が無意識に放つ磁場のようなものだ。だから見る事はできないし、意識的に触った事を感じる事はできない。

だが、上条の隣にいる少女エネは違う。上条とは違い学園都市の全ての能力を掌握する『多種能力(マルチスキル)』の持ち主に加え、日々電脳少女としてインターネットを駆けまわったりしている為か、時にAIM拡散力場を目視したりしている。

流石に干渉まではできないらしいが・・・。

 

「これで任務達成か?」

「・・・そうみたいですね」

「いつもに増して楽だな・・・。何か裏がありそうだぜ」

「勘ぐり過ぎな気もしますが・・・、あながち外れじゃない気がしますね」

 

それから二人は学校に初めの一人が登校してくるまで、なんとなくで勉強をした。

 

 

 

(AM08:00)

 

少しずつ生徒が登校し始めた頃。上条は教室に、貴音は職員室に向かう。

 

「そう言えばちょっと復習です当麻。『AIM拡散力場』とは何ですか?」

「An_Invountary_Movementの略。意味は『無自覚』。能力者が自然に発する力のフィールドだろ?」

「その通りです」

「何だよ復習って・・・」

 

上条は呆れ気味に教室のドアを開け、席に着く。数名が注目するがすぐに自分達の話に突入した・・・と見せかけて全員上条の方を向いた。

 

「上条! お前どうしたんだよ首の!」

「首? ああ。チョーカーか・・・。ちょっといつもの不幸でね」

「大丈夫なの?」

「おう。心配すんな」

 

上条は今日から貴音と授業を受けられることにわくわくしていたのだが、そう言えば。と、ふと別のことに気付いて

 

「んー? どしたんカミやん。まさかここまで来て夏の宿題全部ウチに忘れてもうたー、なんて愉快に不幸な事実に気がついたとか?」

「あ、なに? 上条ひょっとして宿題忘れてんの?」

「えっと、上条君。本当に宿題忘れちゃったの?」

「うおおやったーっ! 俺達だけじゃねえ! 仲間は他にもいたーっ!」

「バンザーイ! 先生の注目浴びんのはどうせ不幸な上条だけだから、これで僕らのダメージは軽減されるかも! バンザーイ!!」

 

いろめき立つクラスメイト達に上条は愉快な奴らだ。と上条は笑う。

 

「はいはーい、それじゃさっさとホームルーム始めますよー。始業式まで時間が押しちゃってるのでテキパキ進めちゃいますからねー」

 

そう言いつつ入って来た小萌先生は少し停止すると、そっと口を開く。

 

「み、みなさーん? 席についてくださいねー?」

「「「「はーい」」」」

 

小萌先生が来た事で、みんな席に次々と着いていく。

 

「あれ? 先生、土御門は?」

「お休みの連絡は受けてませんー。もしかしたらお寝坊さんかもしれませんー」

 

上条の問いに、小萌先生は首をかしげながら答えた。

 

「えー、出席を取る前にクラスのみんなにビッグニュースですー。なんと今日から転入生追加ですー」

 

おや? とクラスの面々の注目が小萌先生に向く。

 

「ちなみにその子達は女の子ですー。おめでとう野郎どもー、残念でした子猫ちゃん達ー」

 

おおおお!! とクラスの面々がいろめき立つ。

そんな中、上条は一人、窓の外を眺めていた。完全に我関せずと言った調子だ。何故か、言い知れぬ嫌な予感の襲われたからだ。

 

ありえない。不幸な不幸な上条当麻の日常において、ごく普通に美少女転校生がやってくるなんて事はまずありえない。

 

(・・・・・・、何か。とんでもないオチがついた方がいい気がする)

 

一人目は我らが電脳少女、榎本貴音で決定だが。

二人目はどうだろう。小萌先生繋がりなら姫神秋沙辺りが怪しいが、世界は広いのだ。年齢詐称した御坂美琴や神裂火織が突撃してきたり、二万体以上もの妹達が押しかけてきて一気に生徒総数が一〇倍以上に膨れ上がったり、羽を隠した天使が降臨してくる場合もあるかもしれない。

 

「い、いけない! それはちょっと楽しそうだとか思った自分がいけない!」

「上条ちゃん? なに頭を抱えてぶつぶつ言ってるんですかー?」

 

小萌先生はちょっと首を傾げた後、

 

「とりあえず顔見せだけですー。詳しい自己紹介とかは始業式が終わった後にしますからねー。さあ転入生ちゃん達、どーぞー」

 

小萌先生がそんな事を言うと、教室の入り口の引き戸がガラガラと音を立てて開かれた。

一体どんなヤツがやってくるんだ、と上条が視線を向けると、

 

「私。姫神秋沙、よろしく」

(あ、姫神か・・・)

「初めまして、ニコニコ動画から転校してきました! 榎本貴音です。よろしく仲良くしてください!」

「・・・・・・ぷっ」

「「「「あははははははは」」」」

「なんやねんそれ! 君面白いわぁ!」

「『笑うな』」

 

上条、小萌、姫神を覗くクラスメイト全員に螺子がぶっ刺さる。

 

「『人の冗談を笑うなんて、人として最低ですよあなた達!』」

 

次の瞬間には全員の体から螺子は消えてなくなっていた。

 

「・・・あーあ」

 

 

 

ある程度長い始業式も終わり、上条は教室でホームルームを聞いていた。

新学期の諸注意など、学校によって違うものの大半の事はどの学校も共通なのであまり気にする事ではない。

宿題も集められ、姫神・貴音の詳しい自己紹介も済んだ所で上条はふと気付く。

 

(あれ、今日まで大きなイベントが起きてない・・・! 暇だ)

 

それが当たり前の人間が送る日常というものだが、この少年の観点は人と少しずれている。

さて、帰るか。と上条が席を立つと、転校生と言うことで囲まれていた貴音がトコトコと向かってきていた。

 

「一緒に帰りませんか? ご主人様(マイマスター)

「・・・帰ってどうする気だ?」

「どこか遊びに行きましょう!」

「んー。そうだな」

「・・・カミやん。リア充はどうなるか知っとるな?」

 

青髪ピアス筆頭に、クラスの男子が拳を鳴らす。だが、負けじと貴音も殺気を放とうとするが、上条がそれを止めるように貴音の胸の前に手を出し、自ら立ち上がった。

 

「お? カミやん。やる気か?」

「そういやこの前。俺、聞かれたんだよなー」

「?」

 

クラスの半数が上条の言葉に首をかしげる。

 

「あなたの隣にいたイケメンの青い髪の男の人は誰ですか? って」

「なっ!」

 

それを聞いた青髪が、上条の両肩を勢い良く掴む。そして前後左右に振りながら怒鳴り散らすような勢いでまくしたてる。

 

「一体どんな子や! 野郎とかやったらすまさんでカミやん!」

「あああああああ、安心しろろろろよ青ピいいいい。かかか、可愛らしい女ののの子だだだったよおおお。なな、何かお礼がしたいいいいとか一目惚れれれとかいい言ってたあなあ・・・」

「どこやカミやん! 今すぐ言うんや!!」

「だだだ、第七学区のセセセブンスミストォォ。ままま、毎日四時から五時に待ってててるらしいぃぃ」

「今すぐ行くで僕のマイエンジェェェル!!」

 

青ピが全速力で教室を出て行ったのを見た上条は、一仕事終えたサラリーマンのようにため息をついた。

 

「・・・上条本当かよ。青ピに一目惚れした子がいるなんて」

「本当だぜ? なんか青ピが助けたみたいでな。お礼がしたいって言ってた。顔しか知らないって言ってたから青ピの写真見せたけどハズレじゃなかったぜ」

「・・・・・・敵が増えるかもしれない。覚悟しておくぞ皆」

「おう」

 

変な所で一致団結するよなこのクラスは、と思いつつも青ピ・・・いや、少女の恋を応援する上条であった。


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