幻想殺しと電脳少女の学園都市生活   作:軍曹(K-6)

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とある御坂の最終信号

―――とある研究所。

 

「おーい。白夜くーん? いないのかーい?」

 

上条が白夜が打ち止めを連れて来たはずの研究所を訪ねたが、人影はおろか電気すらついていなかった。

 

「仕方ない・・・電話してみるか」

 

スマホを取り出し友達のお気に入りにいる番号にかける。

 

「・・・あ、白夜か? 今どこに」

『ナイスタイミングだ上条ォ!』

「ん? どうした白夜」

『打ち止めが連れ去られた!』

「は?」

『ユーカイだよ! 誘拐!』

「いや、分かるんだけどさ。何で?」

『・・・・・・アイツがコンビに行きたいって言うから言って・・・』

「行って?」

『新発売のコーヒーがあったんで、興奮してたら。いつの間にかいなくなってたんですゥ』

「・・・何やってんだか。コンビニのトイレとか、周辺の公園とかは?」

『既に捜索済み。俺がお前に頼みたいのは、アイツの捜索だ! お前なら得意だろ!』

「無茶言ってくれるなコンチクショウ! ちょっと待っとけ、一〇秒だ」

『いにさしごろなはくと!』

 

掟破りの高速数かぞえを行う白夜。そんな友達に上条は、

 

「はえーよ! でもできたわ」突っ込みつつ、「・・・よっしゃ。探索かけるぞ・・・」

『おう』

「・・・移動してるな。速い。車だ」

『ああ? バスか?』

「・・・路線図にはない動きだ。自家用車、もしくはタクシーだろう」

『・・・そうか』

「場所は・・・あ? そこは研究所の近くだぜ・・・?」

『研究所ォ?』

「どうやら、緊迫した状況らしいな」

『あ?』

「・・・とりあえず白夜。量産型能力者の研究所・・・妹達の培養施設に向かってくれ」

『あ? どうしたンだよ』

「これは俺の仮説だが、もしも打ち止めを誘拐した奴が『何か』を企んでいたとしたら、とてもマズイ・・・一刻も早くウイルスの正体を知る必要がある」

『だったら、アイツを連れ戻せば良いンじゃねェの?』

「・・・目的すら分かってないんだ。もし運が悪ければ打ち止めが死ぬ可能性がある」

『・・・着いたぜェ』

「ワオ。俺が話した瞬間向かってくれた。白夜くんマジ最高。んじゃ、こっちはこっちで打ち止めを追ってみる」

『任せた』

 

上条と白夜。二人は別々の場所で同じ目的に向って走り出す。

 

 

 

白夜は上条に言われた通り、研究所に到着した。

 

「よォ。誰かいるか」

「あら、一方通行。お帰りなさい。ドアは壊さずともあなたのIDはあと九〇日ほどは有効だから安心なさい」

「壊した後で言うな」

 

白夜は机に座る女性。芳川桔梗にそう告げると、

 

「妹達の最終信号。打ち止めにウイルスが打ち込まれてるってのは本当か?」

「! どこ情報か定かではないけど凄いわね。その通りよ」

「内容は?」

「端的に言って、人間に対する無差別な攻撃という所かしらね」

「・・・待て待て。あいつ等が全員そうなるとしたら・・・」

「あなたが想像している通りよ一方通行」

「・・・学園都市の終わりってどころの話じゃねェぞ・・・。ソレ・・・」

 

白夜は、乱暴に携帯を取り出すと通話履歴から上条にかける。

 

『はい。こちら上条当麻』

「大変な事が分かったぜ」

『ん? 何だ?』

「打ち止めに打ち込まれたウイルスは、人間に対する無差別な攻撃。それが全妹達にミサカネットワークを通じて送られるらしい」

『二万体の能力者の一斉蜂起? 笑えない冗談だなオイ。で? どうすりゃ止められるんだ』

「俺の手元に天井亜夫(はんにん)の手掛かりと打ち止めのウイルス感染前データがある」

 

どっちを選ぶか、『壊す』か『守る』か。そう続けようとした白夜の声をさえぎり、

 

『データを持って外に出ろ白夜! 場所が割れた。凍結された量産型妹達の研究所! 地図で送る。こっちはちょっと忙しくなりそうだ!!』

「・・・・・・分かった」

 

白夜はデータの入った封筒を掴むと、そのまま研究所を後にする。

 

「・・・迷い無かったわね、彼。電話の相手の言葉を信じてるみたいね」

 

 

―――街中。

そこは夕方だというのに警備員や風紀委員といった人間で覆い尽くされていた。

 

(んだよこりゃ! クソッ、貴音はどこにいる!)

 

上条はここに来るまでの間で何度も彼女に呼び掛けているが、答える気配はない。

 

「一体・・・・・・何があったんだ・・・? すいません。何があったんですか?」

「ん? ああ。能力者の暴動らしいよ。学生寮を破壊した後、何かを追いかけるようにこの辺りまで傷跡が残っているだって」

「・・・そう、ですか・・・」

 

上条は顎に手を当てて目をつむり、眼を『開く』。

 

(朝、貴音が張ると言っていた結界符・・・、あれは反射だ。つまり破壊されたのは向かい側。それを魔術だと見破ったインデックスがオレに迷惑をかけまいと部屋から逃亡。貴音がそれを援護しているといった具合か・・・?)

「クソッ! 消化不良すぎんぞ!」

(白夜の方を手伝いに行くか・・・? まあ向こうのやっこさんもこの騒動の検問とかで学園都市どころか学区からも出れなさそうだしな・・・。心配する必要はないか・・・?)

 

その時、上条の携帯が鳴る。

 

(・・・白夜か?)「もしもし」

『ご主人っ!』

「貴音か? 何やってんだ!」

『絶賛逃亡中です! でも安心してください! 家は壊れてませんから! ホントなんであんたは逃げだしたんですか!』

『うぅ・・・面目ないんだよ』

「はぁ・・・・・・。相手は何なのか分かってるのか?」

『うん。多分魔術師だと思う』

「魔術師? またなんで」

『確証は能力じゃないって事だけです。相手は右手に訳の分からないものつけてたので!』

「・・・なるほど、変な道具をつけるイコール『()()()()()()()()()()()()()()()』ってことか」

『そう言う事です!』

「・・・ま、安心したよ」

 

上条はそう言って笑うと、研究所に向って走り出す。

 

 

 

―――研究所付近

 

上条は研究所に辿り着いた。が、白夜はおろか打ち止めの姿も見えない。

 

「学園都市の検問を打ち止め(裸の少女)を連れて突破できるわけないし・・・」

 

貴音、インデックス。グッジョブ。と上条は心の中で親指を立てると考える。

 

「・・・まあ、大体裏だよな」

 

研究所の裏に回った上条は、スポーツカーを見つけた。

 

(おっ。白夜もいたいた・・・。ん? アイツ汗をかいてる。あれは緊張から来る汗かな・・・ってのんきな事考えてる場合じゃねェよ。反射使えてないだろ、アイツ!)

「・・・・・・残りコード数は五万九八◯二。いける」

 

白夜がボソリと呟く。上条は思わず首をかしげた。コード。上条も聞き覚えのある単語だった。

ふと、上条の思考は強制的に遮られた。

 

「邪魔を・・・・・・す、るな」

 

運転席のドアに挟まれた男が声を発した。 そして聞こえてきた金属音。

 

(白夜に向かって何やってんだか。あ。いや、そうか。白夜は今反射を切っているんだっけか)

「く・・・・・・っ!?」

「邪魔を、するな」

 

白夜が予想以上に焦った顔をしたのを見た上条は、イタズラに笑って。

 

「よいしょぉーっ!」

 

天井亜雄(オジサン)の頭に華麗な飛び蹴りをお見舞いした。

華麗に着地を決めた上条は、白夜の方を見た。 文字通り、目が点になっていた。

天井は完全に意識を失っていた。

 

「あー、悪りぃな。ムチャクチャ地味な倒し方で。つか揃いも揃って何で俺の存在に気づかないんだか」

「―――Error.Break_code_No000001_to_No357081.不正な処理により上位命令文は中断されました。通常記述に従い検体番号二◯◯◯一号は再覚醒します」

「・・・・・・それより何でオマエは一字一句同じセリフなンだよ」

「あん?」

「何でもねェよ」

 

あ、そう。と上条が言おうとした瞬間。上条の額に銃弾が突き刺さった。視界の端で天井が拳銃を構えてフラフラと立ち上がる。

 

「・・・やってくれた・・・。お前さえいなければ・・・全て上手く行っていたのに!!」

「・・・そう思うのも無理はないと思うがな、でもどっちにしろ、お前の負けだ」

「オマエはチェスや将棋で言う詰み(チェックメイト)にハマったンだ!」

「う、うあぁぁぁああああぁぁああぁあぁぁああぁぁぁあああ!!!」

「うるせェ」

 

そう言って白夜が天井を蹴ると、一〇メートルほどノーバウンドで飛んで行った。

 

「・・・おい。上条、ホントに大丈夫か?」

「おう。一応大丈夫だけどな・・・後遺症とか残らなかったら良いんだけど」

「・・・早く病院に行こうぜ? 連れてってやるからよォ」

「・・・・・・あ、ああ」

「オイ、芳川。打ち止めを頼む。上条は俺が病院に・・・・・・!」

「必要ないわ」

「は!? 上条がヤバいんだぞ!?」

「はい。それを聞いてミサカが駆けつけました」

「ミサカ・・・? 一号か?」

「ノー! ミサカは美咲です!」

「ああ。美咲か。頼めるか、上条を」

「お任せ下さい。とミサカは」

 

妹達が数人で上条を車に乗せる。

 

「ミサカが運転します。急いで病院に」

「一方通行は?」

「天井をブッ飛ばす」

「そいつは殺してほしいですね。とミサカは」

「殺れ。白夜・・・」

「上条・・・!?」

「ソイツは、許せねェ奴なんだろ? だったら眼をつむってやる。好きにしろ」

「・・・早く行け」

「イエッサー」

 

上条を乗せたミサカ救急車は病院へ向かって走り出した。

 

「一方通行? あなたのする事って?」

「アイツを殺す。だが、殺すのは俺じゃねェ・・・『上』だ」

「?」

 

芳川が首を傾げた途端。ゆっくりと起き上がっていた天井の体が、銃弾で穴だらけになった。

 

「うわ・・・」

「・・・見たことあんだろ。これが学園都市の裏側だな・・・」

 

白夜はそれを見届けると、上条の携帯を拾い上げる。

 

「・・・よォ、榎本貴音。元気やってるか」

『何でアンタがご主人の携帯に? なんて事は聞きませんが、元気に思えます?』

「焦りと動揺。それと激しい動悸が電話越しに伝わってくるな」

『それなら結構。で? 何です?』

「上条が撃たれた。正面から」

『ぬぁんですと!? こんな事してる場合じゃないですよ!』

「今どこにいンだよ」

『外です。外! 裏口ルートを通ってです』

「何してンだよ」

『人助けって奴です。もう終わりましたのでこれからマッハで帰ります! あのいつものカエル病院ですよね!?』

「ああ」

『ほら、行きますよインデックス!』

『とうまが大変なんだね! 急ごうたかね!』

「・・・・・本当に早く帰って来いよ」

 

 

 

―――病院。

 

手術室前の廊下に置いてあるベンチにインデックス・白夜・貴音の三人は並んで座っていた。

 

「・・・・・・びゃくや・・・・・・とうまは無事かな・・・・・・?」

「アイツを信じるしかないだろ。アイツは殺しても死なないようなゾンビヤロウなンだ。しかも今回の執刀医はあの冥土帰しだ。大丈夫だ。こんな所で死ぬ訳がねェ!」

「・・・・・・そう・・・・・・だね。信じるしかないんだよ」

(・・・ご主人。無茶しやがって・・・。おっと、ボケてしまった)

 

手術が一段落したのか、扉が開き冥土帰しが出てくる。

 

「うん? まだいたのかい?」

「帰れる訳ねェだろ」

「とうまは!? どうなんですか?」

「ご主人は?」

「・・・前頭葉に刺さった頭蓋骨の破片を取り除くのに苦労したよ。言語機能と計算脳力―――この二つには少なからず影響が出るね」

「計算能力・・・」

「とうまは・・・もう喋れないの?」

「まあ、問題ないだろうさ。どうにもならない事をどうにかするのが僕の信条でね。“二万ものクローン体を使った並列演算ネットワーク”そいつを使ってあの少年の脳の欠損部分を補わさせてもらうよ? なに、電子体の意識を脳波に戻すのではなく、あくまで欠損機能の代用だからね、それほど難しい事でもないよ?」

「なにそれ」

「・・・アレか」

「面目ないです・・・」

「ま、すぐ起きると思うよ? 彼は」

 

 

 

次に上条の眼が覚めたのはいつもの病室だった。

 

「あ、見慣れた天井だ」

「寝起きでボケれる余裕があるか・・・流石だな。上条」

「おっ白夜。おはよう」

 

上条はふと自分の首に手をやって

 

「何これ・・・。チョーカー?」

「オマエ拳銃で頭を撃たれたろ? その時の砕けた頭蓋骨の所為で言語機能と計算機能が使えなくなっちまったンだと。だから、ミサカネットワークに演算補助を頼むらしい・・・あと、充電式だからなァ」

「そうか。あれからどれぐらいたった?」

「まだ一日も立ってねェ。九月一日の朝三時だ」

「あと数時間で登校か・・・」

「カバンはここにあるぜ? バッチリ宿題も入れてンじゃねェか」

「ありがとう・・・。貴音達は?」

「シスターは死角になるが病室のベンチ。榎本は家にカバンと制服を取りに行ってる」

「何でお前は持ってきてやらなかったんだよ・・・」

「女子の制服は触りたくないんでね」

「あ、そう。これは・・・?」

 

上条は自分のベッドのテーブルに置かれた赤い液体を指す。

 

「ああそれ? 冥土帰しに榎本が頼ンで作らせたものだ。何かは知らンが絶対飲めってよ」

「・・・おう」

 

スープ皿から直飲みする上条。それを横目に白夜は帰ってきていた貴音に尋ねる。

 

「なァ。何だよアレ」

「ご主人の力の源。パワードリンクみたいなものです。まあ、バレたらインデックスの傍には居られないでしょうけど。私も、ご主人も」

「・・・・・・シスターの?」

「美味い! もういらない!」

 

飲み干した上条の第一声である。それを聞いた貴音は半分呆れながら、

 

「それ飲まないとご主人ダメなんですよ!? 今度からどんな手を使っても飲んでもらいますからね!」

「うえぇ・・・」

「・・・ま、頑張れ」


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