幻想殺しと電脳少女の学園都市生活 作:軍曹(K-6)
御坂美琴は困っていた。
コンビニで立ち読みをしようと思っていたら、常盤台の理事長の孫。海原光貴に捕まって、立ち読みにいけない状態なのだ。
「あー、けど、でも、誘ってくれるのは嬉しいんだけど私にも用事があるというか・・・・・・」
「では早く行きませんか? ご一緒しますよ」
「うー、あー、確かに用事はあるのだけどなんというか・・・・・・」
「・・・・・・?」海原はわずかに眉をひそめ、「もしかして、自分と一緒では行きづらい場所ですか」
「そ、そうよそれ!」美琴はポンと手を打ち、「い、今から(えーっと)そう、ちょこっとデパートの下着売り場まで出かけようかと思って、ほら、男の子には辛い場所でしょ?」
「ご一緒しますよ」
寸分の狂いもなく、キラキラ光る笑顔で海原は即答。
素で突破された―っ!? と美琴は心の中で頭を抱えた。
(うう、どうしようどうしよう。あ、そうだ他の男と待ち合わせしている事にしよう。さすがにそれならご一緒できまい。よし、ベタな手段だけどテキトーな男にくっついて『ごめーん待ったー?』と何とかアドリブで演技してみるべし! 巻き込んだヤツには迷惑かけそうだけどジュースの一本ぐらい奢ってやるわよ!)
美琴は『恋人役』となるべき男性を探すべく視線を左右に走らせた。が、今日は八月三一日。住人の八割が学生である学園都市にとって今日一日は『家に引きこもって残った宿題と格闘する日』である。
つまり、見渡す限り誰もいない。
うわもーこれ絶望的だわー、と美琴が心の中で頭を抱えたその瞬間、まるで神様からの贈り物のように通りの角から三人の少年が現れた。
正直、邪魔。
それが上条の感想である。土御門とファミレスに行く途中。青髪ピアスに出遭ったのだった。
「うぉあー、もう夏休みも今日で最後ですよカミやんつっちー。あー結局今年も空から女の子が降ってきたり雨の日の段ボールの中に猫耳少女が収まってたり玄関開けたらいつの間に決まっとったのかも分からへん可愛い許婚が待っとたりせんかったなー。っていうか何やねんこのイベント数の少ない夏休みは、小説やったら『その高校生は夏休みを過ごした。』の一行で全部スルーやないかい」
この後ろ向きなエセ関西弁は青髪ピアスの言葉である。
「青ピ、だからと言って野郎と一緒にいても何にも変わらんのぜい」
「いやカミやんとつっちーが一緒に歩いてたら、デルタフォースの一員であるボクも混ざらんとあかんやろ?」
「そんな所で変な協力心を持つんじゃねーよ」
「そもそもオレは、カミやんには奢るけど青ピには奢らんぜよ」
「酷ない!? つっちー」
「そもそも金の為についてきたのか? お前は・・・」
上条がため息交じりにそう言うと、
「そもそもだな。ラブコメとか言ってるけど具体的にどんな子が希望なんだよ。あんまり狭いと見つからないぞ?」
「はっ、何を言うてんねんカミやんは。ボクぁ落下型ヒロインのみならず、義姉義妹義母義娘双子未亡人先輩後輩同級生女教師幼なじみお嬢様金髪黒髪茶髪金髪ロングへアセミロングショートヘアボブ縦ロールストレートツインテールポニーテールお下げ三つ編み二つ縛りウェーブくせっ毛アホ毛セーラーブレザー体操服柔道着弓道着保母さん看護婦さんメイドさん婦警さん巫女さんシスターさん軍人さん秘書さんロリショタツンデレチアガールスチュワーデスウェイトレス白ゴス黒ゴスチャイナドレス病弱アルビノ電波系妄想癖二重人格女王様お姫様ニーソックスガーターベルト男装の麗人メガネ目隠し眼帯包帯スクール水着ワンピース水着ビキニ水着スリングショット水着バカ水着人外幽霊獣耳娘まであらゆる女性を迎え入れる包容力を持ってるんよ?」
「一個明らかに女性じゃねーのが混じってんだろ」
上条が呆れながら何とか答えると、土御門がニヤニヤ笑いながら、
「けっどー、カミやんはどんなのがストライクゾーンなんだにゃー?」
「・・・・・・、元気な先輩。我儘&俺より馬鹿じゃないとダメ」
「カミヤンより馬鹿な人なんてごまんといるんだにゃー。元気&我儘って難しいぜよ!?」
「狭いと見つからないとか行っておいて、カミやんが狭いやん」
「む。しかし『先輩』と来たか。逆に年下キャラはピンと来ないのかにゃー? なんだかんだ言っても基本はやっぱり妹だぜい」
と、リアル義妹のいる土御門は力強く頷いたが、逆に上条と青髪ピアスは辛そうな視線を向けた。友人代表として上条は言う。
「あのな、これは友人としてお前ら義兄妹の関係を良好にするためにあえて忠告するが」
「ど、どうしたっていうんだぜい?」
「お前の義妹はな、誰にでもお兄ちゃんと言う女だ」
何だとコラァ!! と、土御門が両手を振り上げて激怒する。
「そ、そんなはずないぜよ! オレの妹がいつどこで誰にどういった理由でオレ以外の男にお兄ちゃんなどと呼んだというんだにゃーっ!」
「そやねー。一昨日駅前のデパ地下のレストランでご飯おごったらありがとうお兄ちゃんって言われたでー」
「っつーか昨日、そこの表通りで出会い頭にこんにちはお兄ちゃんって言われたぞ」
土御門の奥歯の辺りで何かを噛み潰すような音が聞こえた。
「殺す。っつーか人の妹と勝手にコンタクト取ってんじゃねーぜよ!!」
かくして、怒りに満ちた兄の拳が上条達へ襲いかかる。
「は!? どこで誰に会おうが俺達の勝手だろ!」
「せやでつっちー!」
「うるさいんだぜい! そもそもカミやんに関しては師匠呼びだろう!」
「その辺の気まぐれは舞夏に言えー!!」
「人の妹を呼び捨てにするんじゃ無いぜい!」
「理不尽っ!」
御坂美琴はその三人組を見るなり、たっぷり一〇分間も凍り付いてしまった。その間、彼らはハリウッド映画終了一五分前みたいな最後の戦いを繰り広げていた。
御坂の意識が解凍されたのは、土御門の攻撃で上条が常盤台の寮の外壁を突き破った時だった。
「・・・あ」
(うっそ。壊しちゃった!?)
「・・・・・・っテッメェ。土御門! 殺す気かっ!」
「殺す気だぜいカミやん。この際青ピはどうでもいい。今のオレの最大の『敵』はカミやんだぜい」
「ふざけんな!!」
瓦礫の中から飛び出した上条は車道にまで飛び出す。土御門もそれに続き車道に飛び出す。車がない事を幸いに、二人はそこで戦い始める。
「・・・・・・いやー。何か知らんけどハブられてもーたわ。こっちの寮の方も野次馬化してきてるし。ボクぁ逃げる事にするか」
青ピが逃げ出したのに気付かず、土御門の一撃が上条のクロスさせた腕の中心に当たる。重たいものが落ちたような音がするが、上条の体は数メートル後ろに吹っ飛ばされただけだった。
「土御門。提案だ」
「何だぜい」
「・・・・・・今さっき壊した壁の弁償するのヤだから逃げてもいい?」
「・・・賛成だぜい!」
急に息を合わせた二人。全速力で逃げだす。
それと入れ替わりに寮から出て来た寮監が御坂に、
「御坂。白井と一緒にあいつ等を追いかけろ。ったく夏休み最後だからってはしゃぎおって・・・」
「あ・・・はいっ! 行くわよ黒子!」
「ハイですの!」
白井と一緒に追跡を始める御坂。結果的に逃げれる事になったので、上条達に感謝である。
「お姉様。彼らの居場所わかりますの?」
「え? いや・・・悪いけど・・・・・・」
できれば門限までこうして追いかけておきたい御坂。なので言葉を濁す。
「そうですか。私も顔はよく覚えておりませんの。にしても・・・足速いですわね・・・。もう見えませんの」
「そうね!」
―――その頃。
上条と土御門は、案外常盤台の近くにいた。
「・・・しかし、カミやん。よくこんな場所知ってるな」
「ああ。使われてない元カラオケ店。防音はバッチリだな・・・」
「灯台下暗しっていう分。見つかり辛いぜよ」
「・・・だな」
逃げたふりをして近くにいる。これは上条の戦法でもあったりする。と言っても最近は奇襲などする必要がなくなったため、こういった手は使わないのだが。
「・・・・・・土御門。ちょっと悪いな。昼にまたどこかで集合な」
「・・・ん? 何か用事か?」
「・・・ちょっとな」
さあ、上条当麻を狙う愚かな魔術師の掃除を始めよう。