幻想殺しと電脳少女の学園都市生活   作:軍曹(K-6)

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日常世界のマイベトレイヤー

上条当麻は憂鬱だった。

閉め切った病室の中で、ほぼ軟禁状態にされていたのだ。イライラが募る。

 

「出せよ! いい加減出せよ! 何で閉じ込められなきゃいけないんだよ!!」

「仕方ないですよご主人。伯父さん心配症ですから。天使とぶつかった事、怒ってるんですよ」

「貴音~。何とかしてくれ!」

「まあまあ。今日中に退院できるでしょ。ほら、お見舞いが来たみたいですよ」

 

上条は病室の扉の方を見る。

 

「ひっさしぶりだにゃーっ! カミやん、元気にしてたぜよ?」

「・・・よぉ、土御門。初めは元気だったんだけどよ・・・」

「あー。カミやんが鬱状態ぜよ。まあ一週間も軟禁されてたらそりゃ、参るよな!」

 

ケラケラと楽しそうに笑う土御門に、上条は枕を投げつけて。

 

「そこに座れ土御門! 俺の軟禁生活聞かせてやらぁ!」

「おとと。聞いてやってもいいが。その前に報告だにゃー、カミやん」

「報告?」

 

上条は思わず首をかしげる。

 

「今回の異変がどう解決したか、ですね? 意外と大事なんですよ、これが」

「・・・・・・・・・カミやん。どちら様だにゃー?」

「え? いや、海の家の時いただろ。榎本貴音だよ」

「どもです」

「・・・どーゆー関係だにゃー?」

「ん? えーと」

「恋人。ですかね」

「長い間お前が入院してたからあったのは三年ぶりぐらいだけどな」

「・・・・・・カミやん」

「?」

 

土御門は親の敵でも見たような顔になった後、

 

「これは夏休み明けに期待だぜい。ボッコボコにしてもらうんだにゃー!」

 

報告も何もあったもんじゃない。土御門はメモ用紙をこちらに放り投げ、涙ながらに全速力で逃げて行った。貴音はそのメモ帳を拾い上げ読む事にする。

 

「えーとなになに? カミやんに、今回の事は適当にでっちあげると伝える。カミやんの実家を爆破四散させた事を(軽く)謝る。入れ替わっていた人間の記憶は戻るという事を伝える」

 

上条はその中の一単語が気になった。

 

「おい、ちょっと待て。あいつ実家ぶっ壊しやがったのか?」

儀式場(じっか)の中にはたくさんのおみやげ(ブースター)があったでしょ? だから家自体を破壊しないとダメだったんですよ」

「両親そろって家なき子かよっ! 絶対あの家ローン払い終わってねぇぞ!?」

「まあ、大丈夫なんじゃないですか? 私達にあまり関係ないですし」

「そういうものなのか・・・?」

 

その時、上条の携帯が特徴的な着信音を鳴らす。

 

「! これは・・・」

滞空回線(アンダーライン)からですね」

 

上条は携帯を手に取り、通話に出る。

 

『やぁ、上条当麻。今更だが一ついいかい?』

「ん? なんだよアレイスター」

『樹形図の設計者。壊したの君達が禁書目録の救出をした時なんだ。直してもらえるか?』

「・・・貴音」

「・・・・・・まさかそんな事になっていようとは・・・思いませんでしたが、直しに行きますか」

「ハァ・・・めんどくせェ・・・」

 

上条は貴音を連れて病室を出る。

 

「・・・どこから跳ぶ?」

「窓の無いビルが安定でしょう。あそこなら本気で蹴っても崩れません」

「ほんじゃまあ、そうしますか」

 

病院の廊下で看護師さんとすれ違ったら挨拶をしながら入口を目指す二人。

 

「何で行く? やっぱ足か?」

「この病院に止めてあるのってなんでしたっけ?」

「バイクがハーレー。車が日産のGT‐Rだな」

「うーん・・・。普通ですね。超電動リニア二輪とか置いてないんですか~?」

「家の方には置いてあるだろ。さすがに外出先に常駐させるのには向いてないよ」

 

上条がそう言うと、貴音はどこか納得したような、

 

「・・・それじゃ、GT‐Rで行きましょう」

「・・・はいよ。ほんじゃ、行きませう」

 

上条は駐車場に止めてある一台の車のカギを開ける。黒のGT‐Rである。

 

「貴音。乗りな」

「はいな!」

 

貴音が乗り込んだのを確認して、上条は窓のないビルへ、車を走らせた。

 

 

―――窓のないビル屋上。

 

「・・・それじゃあ、跳びますか」

「私はスマホの中にいますので!」

「はいはい」

 

貴音がエネとなりスマホに入ったのを確認した上条は、屈伸を始める。(意識を失った彼女の体は影の中に収納してある)

そして、窓のないビルを蹴ってジャンプした。

ズズン・・・と、その衝撃で学園都市の窓のないビルが少し低くなったような気がしたが気にしない。

ものの数秒で宇宙まで跳び出した上条は、片手で爆発を起こし体勢を整える。

 

『・・・貴音。もう出てくるか?』

『もうちょっと。もうちょっと』

『・・・ハァ』

 

水中を泳ぐような感じで、樹形図の設計者の残骸(レムナント)に向う。

 

『見た目的にそんなに散らばってなさそうだな。四十枚でいけるか?』

『一応五十枚でいっときましょう』

『りょーかい』

 

上条はどこからともなくお札を取り出すと、それをばら撒き樹形図の設計者を囲む。

 

『貴音。いいかげん出てこい』

『・・・ハァ。求めてますねーご主人』

『求めてるとかじゃなくてさ。元に戻すのにはお前の力も必要だろうが』

『ですよね。分かってましたけど』

 

ブツブツ言いながら影から出てくる貴音。

 

『さて、ほんじゃまあ。やりますか』

『待ってました!』

『行くぞ。 修復「エレメントハンター」』

 

上条がそう唱えると、お札が輝き樹形図の設計者が破壊される前の状態に戻る。

 

『・・・一応通信機器や内部コンピュータの調子も見ておくか』

『・・・ですね』

 

中に入り込んだ二人は、内部の点検を始める。といっても電子が専門なので。貴音にまかせっきりな上条だったが。

 

「・・・・・・アレイスター。一応直ったぞ。何か依頼を出してくれ。こっちで最終調整をする」

 

 

―――統括理事会。

 

「・・・ふむ。流石上条君と言ったところか」

「本当に地上で直すより速く直して見せましたねえ」

「・・・自慢の甥ですね。アレイスター」

「・・・・・・ああ。本当に立派だ・・・上条当麻・・・!」

 

「おい。聞こえてんのか? アレイスター!? 誰でもいいや。誰か樹形図の設計者(こっち)に依頼をだせっつうの!」

「ご主人。通信機器の損傷なし、超高度並列演算機の方も異常はありませんでした」

「・・・そうか? んじゃ、そう言う事だから。これより地球に帰還するぜ」

 

上条は宇宙空間にルーンの巨大バージョンを作り出す。

貴音がスマホに入ったのを確認すると、上条はそのルーンを蹴って数秒で地上に戻る。

ズズン・・・と、本日二度目の窓のビルが地面に沈む事案が起きる。

 

「・・・到着っと」

「・・・・・・相変わらず人外離れした動きできますね」

「・・・なんだ? 貴音も出来るだろ?」

「私は連続無酸素運動をできませんので」

「・・・俺も三十分が限度だぞ?」

「・・・私は一分も無理です」

 

え!? そうなの!? と驚く上条を放って、貴音は下を見る。

 

「あ・・・。ご主人! Rが! 不敗神話のR‐32がっ!」

「はいはい。イニDネタはいいから・・・って、ヤベ。警備員じゃん!」

「ご主人・・・、どうします?」

「あいつらの眼が全部逸れた瞬間。突っ込む」

「・・・・・・彼らは今車に夢中に・・・って何手榴弾投げてんですかあんたーッ!?」

「よし行くぞ!」

「ちょまっご主人!」

 

窓のないビルの壁を重力そのままに降りて行く上条と貴音。

地面まであと数メートルの所で手榴弾が爆発した。

 

「な、なんだ!?」

「貴音!」

「はいな!」

 

助手席側から運転席まで跳び込んだ上条は、スロットルを回しエンジンをかけアクセルを踏み込む。貴音が飛び込んだと同時、アクセルONでドアを閉めた。

 

「うおっ! ご主人。逃げれるんですか?」

「逃げる!」

「ですよね」

 

逃亡に気付いた警備員が追いかけてくる。

 

「・・・そもそも、駐車禁止で追いかけられるんですか?」

「逃げてるからだな。まあ、あの場で払う金なんかないし、レッカー代なんか馬鹿にならねェからな。逃げるが勝ちさ」

「改造車で良かったですね~。ナンバープレートすら着いてませんよケケケ」

「それも追いかけられる原因だろーな」

「赤信号。どうしますか?」

「捕まるか?」

「嫌ですよ?」

「・・・だよな!」

 

上条の運転する32は止まらない。交差点の為、交差車線からどんどん車がやってくるが、上条は気にしない。

アクセル踏みっぱなしでハンドル操作だけでケツを振り、車をかわし直進する。

 

「・・・よし」

「今の危ない運転のおかげで警備員テンパってますね」

「このまま逃亡だ!」

「どこまで!?」

「地下駐車場まで! あそこに逃げれば・・・」

「車が収納できますからね! 影に!」

「そーゆー事。って前からぶつけに来たァ!?」

「えぇ!?」

 

慌てて回避する上条だったが、少しバランスが崩れる。

 

「あぶねェ・・・」

「ロスサントス警察ですか!? いつの間にか私達はGTAの世界に来たのでしょうか・・・!」

「んな事があってたまるか!」

 

上条達の乗る32が、急にぶれる。そして、真下に落ちるように消えて行った。

 

「・・・・・・消えた!?」

「どこへ行った!」

 

 

―――地下道。

 

「・・・あぶねェ・・・」

「一種の絶叫系ですよマジで」

「・・・しかし・・・影抜け標準装備のこの車だからこそ入れた地下道ってワケだな」

 

小さな明かりしかない地下道を走りながら上条はカーナビの特殊機能を付ける。

 

「このままいけば家の近くの・・・ああ、あそこに出れるのか」

「・・・おおっ! いいですね!」

 

―――こんな一コマも、彼らにとっては日常の一部である。




・・・書いて思ったけど、残骸事件がなくなるのでは・・・?

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