幻想殺しと電脳少女の学園都市生活 作:軍曹(K-6)
海の家に戻ってきた上条は緊迫した顔をやめようとしない。
『神の力』も、それが放つ『一掃』も、その気になれば世界のどこへ逃げたって一瞬で上条達を殺す事ができる。あれは、それぐらいかけ離れた相手なのだ。事情を良く呑み込めてない刀夜は、肩で荒い息をしながら、
「と、当麻! 少し待ってくれ、休ませてくれないか。あれは何なんだ、今ここでは何が起きている? 一緒にいた男はテレビで見た事があるような気もするし、これは映画か何かの撮影なのか?」
「質問は一個にしろよ。いいぜ、休憩ついでに教えてやる。あれは天使だよ。天の使いと書いて天使。今ここって言うか全世界で御使堕しっていうオカルトがアンタが買ってきたお土産で作られた回路によって発動したんだ。ちなみにこれは撮影なんかじゃない。科学とは全く別の異能の力さ」
その時、ふと上条の視界におかしなものが映った。床に置かれた丸いテーブルの陰に隠れるように、誰かがうつ伏せに倒れている。
御坂美琴だった。
「な・・・・・・、おい。ちょっと待て、大丈夫か? 何があった!?」
上条は思わず走り寄って声をかけたが、反応が無い。
一瞬、『一掃』の可能性を考えたが、鼻につく、微かな異臭―――――と、その正体に気付いて上条はその可能性を捨てる。
CHC13。クロロホルムだ。
「く・・・・・・、あ・・・」
別に吸い込んでも平気だが、慣れるまでに時間がかかるため吸い込んだ化学物質が脳に入り込んだのだろう。一瞬上条の意識がぐらりと揺らいだ。かなり大量なのだが、かろうじて意識が落ちるのだけは免れる。
「おい、当麻。どうしたんだ、おい!」
刀夜の心配そうな声を受けて、上条は片手を振って大丈夫だと答える。しかし、誰がこんな事をしたのかだ。クロロホルムはトリハロメタンの中で最も有害なもので、発ガン性さえ確認している。美琴が自分からこんなモノを吸い込むはずがない。
(誰だ・・・? 砂浜に来る前にミーシャがやったのか・・・?)
CHC13は極めて揮発性が高く、放置しておけば数分で気化してしまうはずだ。つまり、美琴を眠らせた相手はまだ近くにいるかもしれない。
(・・・近づけさせたくないのなら・・・、人払いすればいいのに・・・何故それをしなかった? 魔術が使えない人物・・・・・・?)上条はふと思いついて「土御門!」
「流石カミやん。一発で俺に辿り着くとはな」
突然。部屋の入り口から声がした。
上条は振り返る。刀夜も振り返って、そこにいる人物にギョッとした。
土御門元春。
刀夜には彼がテレビで見るアイドルにでも見えるのだろう。突然現れた男に目を白黒させている。
「ああ、そこらに倒れてんのは俺がやった。下手に一般人を巻き込む訳にもいかんのでな」
土御門の声は、いつもと違っていた。
日常の中にいたはずの土御門の姿に、亀裂が走るような気がした。
「カミやんなら分かってんだろ。この魔術が起きた原因を」
「ああ。『
サラリと答えた上条に、土御門は感嘆の息をつき。
「本当に何者だ。全くの素人と思っていたんだがな。その通りだ。あそこは
「―――
上条は自嘲気味にそう言った。
「土御門。お前に聞く。止める方法はお前の中にあるのか?」
「あるぜ?
上条は軽く笑う。そして土御門を強く睨みつけると、
「させると思ってんのか? そんな事」
「それ以外に止める方法が無かったとしても?」
「それでも止めるさ。誰かが犠牲にならなきゃいけない残酷な解決法なんて、そのふざけた幻想を喰い殺す!!」
そっか、と土御門は笑った。
一瞬だが、その表情は確かに子どものように笑っているように、見えた。
「それではこうしよう、カミやん」
笑みは一瞬で消える。
両者の距離は三メートル強。完全に互いの間合いの中での土御門は極めて気軽そうに、
「一〇秒。耐える事ができたら、誉めてやる」
ドン!!という壮絶な土御門の足音。
土御門は一瞬で三メートルの距離を詰める。だが、その足音は床を踏みつける音ではない。
足。
上条当麻の足の親指を踏み潰す、壮絶な反則技の足音。
「ガッ・・・・・・あ!」
足に釘を打ち込むような壮絶な激痛に上条は自身の身体を大きくのけぞらせ・・・・・・微笑む。
そして、踏まれていない方の足で思いっ切り、土御門の股間を蹴りあげた。
そのまま床に手を着き、バク宙するように一回転。その際、踏まれていた足で土御門の顎を蹴りあげる。
「く・・・・・・」
急所への攻撃と脳を上下に揺さぶられ、少し判断が手薄になった土御門の頭頂部に上条のかかと落としが落ちる。それは頭蓋骨を砕くような衝撃を土御門に与えた。
しかし、土御門は止まらない。
その右手がようやく動く。大きく外側へ向かう土御門の拳が上条の側頭部へ向かう。ボクシングで言うならフック。水平にカーブする軌道で、上条のこめかみを狙う必殺必中の拳闘技。
上条はとっさに己の手で側頭部を守るようにガードして、
その拳が空振りした。
(は?)
一秒にも満たない空白だが、上条は困惑した。鼻と鼻がぶつかるほどの近距離で、拳を外すも何もない。なのに、何故この近距離で土御門は拳を外したんだろう。
そうか、
その答えは一秒も待たずにやってきた。上条の側頭部を通り越した土御門の拳が、回り込むように上条の側頭部へ向かったのだ。ちょうど、首に手を回して抱き締めるのように。
後頭部。
空手やボクシングでさえ、後遺症の残る危険があるとして反則技認定している急所へ。
ベキィ!! という嫌な音。
「・・・・・・ガッ」
その瞬間、一撃で上条の全身から力が消し飛んだ。その体が真下に沈むように崩れ落ちる。土御門は思わず二、三歩下がっていた。
だが、上条はそのチャンスを活かす事はできない。
変な態勢で受けた上条の後頭部からは血が出ていた。もう力もなく、床に倒れてしまう。二本の腕が支える事も出来ずに上条の体を床に叩き落とす。
頭蓋骨が砕かれていた。
その破片が脳に突き刺さり、上条の脳を壊していた。一度傷ついた脳はもう二度と元に戻らない。例えそんな状況になっても誰も動かなかった。貴音が、刀夜を抑えていたのだ。戦いの邪魔はするな、と。
そんな事を言っても上条は一目でもはや戦える状況でないのが分かる。土御門も自分の右拳を見つめて震えている。それを見た貴音は、素直にああ、突発的に親しい人を殺した奴はこんな顔をするんだろうな。と思っていた。
「・・・三秒すら、保たんか」
土御門は、倒れている上条を見下ろして言った。
これが、上条と土御門の差。
「聞こえているか? カミやん。今のオレには何もない。本当に何もないんだ。元々あった魔術の才能はとっくの昔に枯れ果てたし、付け焼刃の超能力なんざチャチな
だけど、と土御門は言った。
「―――それでも、敵は待ってくれなかった」
だから、と土御門は告げた。
「―――そうして、オレは何が何でも勝たなければならなかった」
その静かな言葉の中に、貴音は薄ら寒い冷気のようなものを感じた。
生まれ持った才能はもはやどこにもない。努力をした所で何一つ報われない。それでも勝たねばならないという獄炎のような執念こそが、土御門の力。煉獄のような戦場で拳を熱し、地獄のような死闘で拳を打ち鍛え、数多の傷と共に手に入れたのが死突殺断の反則絶技。
反則である事など大前提。
土御門元春は、法則に反してでも勝利を掴みたかったのだから。
そうまでして土御門が勝利を掴みたかった理由は何か。
そんなものは、いちいち本人の口から聞かなくたって分かる。
土御門には守りたいものがあった。
たとえ泥を這ってでも。血をすすってでも。誰を騙しても何を裏切っても、それでも守りたい何かがあったに違いない。だからこそ、土御門はどんな汚れ仕事もためらわない。絶対に。
「勝てたのか、カミやん」聞き分けのない子どもを諭すように「それでも勝てたと思えるか?
上条は何も答えない。
貴音すらも黙っている。
「寝ていろ、素人が」
吐き捨てるような土御門の言葉。
すでに敗北した上条をまたいで、土御門は刀夜に向って一歩。
「・・・何のつもりだ?」
貴音は部屋の入口に立ち塞がり、刀夜を廊下に出した。
「まだ、勝負はついていませんよ。それともなんですか? 不戦勝でもしますか?」
「・・・・・・何を・・・?!」
土御門は慌てて振り返る。貴音が見ているのが自分でない事に気がついたのだ。振り返るとそこには、ゆらりと立ち上がる上条の姿があった。
「・・・な・・・」
「そう言えばさっきから好き放題言ってくれましたよね。ぬるま湯に浸かってるだの、なんだの。でもね。死線ならご主人の方がくぐって来ているとだけ言っておきましょうか。大丈夫ですか? ご主人」
「・・・ああ。少しばかり頭痛がするけど問題ねェ。いやー土御門。避けるのに失敗したとだけ言っとくぜ。滑稽だろ? 打ち所が悪くて頭蓋骨砕けたんだしな」
ケラケラと笑いながら言う上条に、幽霊でも見たかのような土御門は、
「カミやんどうやって・・・」
「人とは体の作りが少々違うんでね。本当に好き勝手言ってくれたよな・・・。犠牲なんか出させねェよ。この俺が、この世に生き続ける限りなッ」
「へぇ、ようやく良い眼になったな。それでこその対等だ。いいぜ、認める。これより上条当麻は土御門元春の『
余裕の表情でそういう土御門と対象に、ハイライトの消えた金色の瞳で上条は、
「お前は俺の『
その瞬間。上条の姿が大きくぶれ、消える。そこで土御門は風のウワサを思い出した。
(そう言えば―――ッ。ねーちんが禁書目録の時に邪魔した少年に倒されたって・・・ねーちんが頑なに認めなかったから信じる奴は少なかったが・・・まさか!!)
後ろに現れた気配を感じた土御門が振り返ろうとした瞬間。眼前に上条の掌があった。その手は土御門の胸板を突き飛ばすように押すと、床に叩きつけた。
そして、倒れた土御門の心臓と水月と鳩尾。その三か所に合計二回。拳が一瞬で叩き込まれた。
「気絶しなかった事誉めてやるよ、土御門」
「・・・手を抜いていたのか、カミやん」
「なるべく級友を傷つけたくはなかったんでね。貴音君。頼んでおいた物はできたかね?」
上条がそう問うと、貴音が嬉しそうに近寄って来た。
「もっちろんです! はいはいはいご主人! コレですよ
そう言ってどこからともなく貴音がとりだしたのは、綺麗な白銀の腕輪だった。
「・・・何をする気だ・・・?」
「貴音。説明の前に土御門の治癒を頼めるか?」
「任せておいてください!」
貴音が上条が与えた痛み・傷の治癒にかかったと同時に、上条は刀夜を息一つで気絶させた。
「?!」
「ちょっと! 動かないで!」
その動きに土御門は驚く。上条がした事はいたって単純だった。特殊な業によって、刀夜の意識を刈り取った。ただそれだけだった。
「土御門。儀式場の事。任せてもいいか?」
「・・・・・・カミやん?」
「俺は神裂を手伝ってくる」
そう言って上条は、海の家から飛び出して行った。
「カミやん!」
「もう治りましたけど、貴方にはご主人が託した仕事があります」
貴音は上条の後を追おうとする土御門を平手で叩くと、左腕に白銀の腕輪をはめた。
「・・・・・・? これは、何だぜい?」
「超能力。科学の異能の回路を断つ枷、です。ご主人か私にしかこの世界では作れません。これをもう土御門。あなたに差し上げます。それで守りたい者を守ってください」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。状況がつかめないんだが」
「あー。その枷を付けている間は、アンタは最強の陰陽術師に戻れるっつう事ですよ! 分かりました!?」
「り、理解したんだぜい!」
貴音の勢いに押された土御門はする必要もないのに敬礼をする。
「・・・・・・本当にいいのか。こんなものもらっちまって」
「それはご主人に聞いてください。ご主人が土御門さんの為に作ったんですから。寝ずにかっこいいデザインをパソコンで調べて」
「にゃー・・・。感謝するぜいカミやん」
そう言うと、土御門は立ち上がる。
「―――
土御門は懐からフィルムケースを取り出すと、フタを開けて中身をばら撒いた。
一センチ四方の四角い紙片が大量に舞い上がる。
「―――
周囲の空気が凍る。
空気が変わった。うだるような熱帯夜から深い森の奥の泉のようなものに。
「―――
土御門は構わず、さらに何かを呟きながら四つのフィルムケースを取り出す。
亀、虎、鳥、龍。小さな動物の折紙が入ったフィルムケースを部屋の四方へと放り投げ、
「―――
土御門の言葉に対応するように、四方の壁が淡く光り始めた。
黒、白、赤、青。折紙の色に合わせて四つのフィルムケースを中心に壁が輝いている。
「―――
天才だ、と貴音は思う。
自分も風水は会得しているが、土御門の歳でこの領域には辿り着けなかったと思う。
「「―――
貴音も詠う。楽しそうに。自らの魔力もこの異変を止めるために。
神上だけにおいしい所は持って行かせまいと。
「「―――
それでも祈る。ご主人様である、上条当麻の安全を願って。
「神裂ィ! 退けェ!」
「上条当麻!?」
上条は右手を握って跳躍する。その高さ約十メートル。海上に浮かぶミーシャより高く、距離を考えれば申し分ない高さだ。
「上条当麻! 無謀です! やめなさい!」
「黙ってろ! この神対聖人のカード。ちょっと切らせてもらうぜ?」
そう言うが早いか、一閃。上条が振るった右手が当たるはずのない『神の力』の水翼を砕いた。
「まあ、焦るわけないよな。俺は十字教徒じゃないし、ましてや宗教なんかにゃ属してない。まあ
そう言った上条の右手。正確には甲の部分にルーンのような紋様が浮き出る。
そして手の甲から肩口にかけて、波打つように紋様が浮かび上がってくる。
「スペル! 幻符「
そう唱えた上条の右手が炎を纏い、それが巨大な炎の柱となって『神の力』に直撃する。
「よしっやったか!?」
『・・・人はそれをフラグというんですよ!』
水翼が、上条を貫かんと迫る。
一本が五〇メートルから七〇メートルまで届く巨大な水翼の剣山が、上条の進路を塞ぐ。ここは空中、跳んだ肉体は止まれない。それは何人にも越えられぬ壁に見えた。
「悪いが、
プラスチックのような何かが砕ける音。それが響いたのは上条の右手からだった。それは、カニやエビなどの甲殻類が、古い皮を脱ぎ棄てた時のような見た目だった。上条の右手の皮膚がはがれ落ちていく、そして姿を現したのは一つの大きな竜の顎だった。
「喰らい消す!!」
眼前に迫るソレを喰らう竜の顎。上条はそうして進路を作ると、瞬時に右手を元に戻し拳を握った。
―――だがその瞬間。
「?! 上条当麻!!」
「―――j負gfdx」
神の力が嬉しそうに笑う。が、その直後首をかしげる。
「――――っは。この程度で俺を殺したって思ってちゃ、いけねェぜ?」
一つの塊になっていた水翼が全て砕け、上条当麻が姿を見せる。その体は重力に逆らい、神の力へと跳んでいく。
「―――いいぜ! お前が天に戻るためだけに一掃を使うっていうんなら・・・まずはそのふざけた幻想をオルソラァ!」
最後まで言わせろよ! とか叫びながら上条が吹っ飛んでいく。水翼が横薙ぎに振るわれたのだ。
「―――上条当麻。貴方も無茶をします。あれは神の力の一端。そうやすやすと勝てる相手ではありません!」
神裂は重心を落とし、七天七刀へ手を伸ばす。
神を裂く者と、神に仕える者の勝負が始まろうとしていた。
大分離れた砂浜が見える崖。
上条はそこにアニメのように背中を預けて埋もれていた。
「・・・・・・大分飛ばされたか・・・? あーめんどくさい。何だってこんな演技何か・・・。そもそもあいつが言いだしたんだろうが・・・!」
それは、昨日の夜の事。
土御門達を見送った後の出来事である。
「ミーシャさん。お宅、我々に何か隠してるでしょう?」
「解一。何の事かわかりません」
「とぼけなさんな。天使ガブリエルさん」
「?!」
飛び退くように距離をとり、L字バールを構える。
「おっと、敵対する意思はないぜ?」
「・・・・・・」
「そう疑るな。一度会ってんだぜ? ・・・幻想殺しなんて変な自己紹介したから分かんなくなってんのか?」
上条は一呼吸おいて
「
「!! ―――――gy苛rhgvァ(・・・なるほど、貴方だったか。魔神ジョジョ)」
少女の口から出たのは異界の言葉、だが上条はその意味を正しく理解しているらしく。
「あーやっぱりそっちが浸透してる?」
「
「ちょっと待ってろ。シメてくる」
腹を抱えて笑う貴音の関節を、本来曲がらない方向へ曲げながら上条はいつも通り友達に話しかけるような口調で言った。
「なぁ。どうだ。地上は」
「(無理やり下ろされた事で気分が悪い。少し苛立っていた。許してほしい)」
「まあ父さんも悪気はないようだし。本当に偶然で起きたんなら、ヤバい事だよ」
「(先ほどあなたも私を騙した)」
「あ? あれの事? 嫌だってああしないと物理的に殺されるだろ」
「(そのつもりだった。しかし、貴方ならこの事件簡単に解決できるのでは)」
「無理無理。変に行動しちまうとどこかで犠牲を出しちまう。最低限の干渉しかできねーよ」
「(嘘つき)」
「うぐっ」
「(そもそも貴方はここのところ一人の犠牲も出さずに幾多の事件と関わっている。その事から貴方の言動は全て嘘となる。嘘の理由は)」
「面倒だからに決まってる」
「ごしゅ・・・じん・・・っ! 折れてる! 折れてますから!!」
「大丈夫治る治る」
「いーやー!」
「(・・・・・・本当に、大丈夫なのか? かなり心配だが・・・)」
「じゃあやめておこう」
「にゃー! はずれてるぅぅ! 脱臼のレベルじゃないですよコイツぁ!!」
上条の手が離れてなお苦しむ貴音。見た目以上に酷い事になっているに違いない。
「(これからどうするか?)」
「・・・特に何も」
「(なら、一つ頼みごとをしてもいいか?)」
「は? 言っとくけど俺は台本通りに事を進める事なんて―――」
「(嘘はいい。真面目な話だ。私は悪者になる。それを止めてくれ)」
「ハァ!? どういうつもりだよ」
「(・・・つまりだ。私にあの魔術師二人のどちらかの前でそげぶをかましてほしい)」
「んだ? その略称」
「(叫んでいるだろう? そのふざけた幻想をぶち殺す。と)」
上条は乱暴に頭をかくと、
「分かったやってやる。その代わり、俺はいつでも直感勝負だからな!」
「(本気で戦い合え、という事でいいのか?)」
「好きに捉えとけ」
「―――あんな事言うんじゃなかったぁぁぁぁぁ!」
上条は頭を抱える。崖から脱出したとはいえ、問題はたくさんあった。
「天使の本気ってどのくらいだよ・・・」
『ご主人! こちらから一方的になるんですが、残り十秒です! テンカウントの後、そげぶです!』
「・・・・・・テンカウントね」
上条は砂浜を蹴って飛び出した。
ほんの数秒で、神の力は見えてきた。上条は一気に跳躍すると右手をグーからパーにした。
「―――いいぜ! お前が天に戻るためだけに一掃を使うっていうんなら・・・まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!」
右手の文様が巨大化したと同時、神の力の顔面を上条の右手が捕らえる。それと同じタイミングで儀式場が破壊された。
「―――終わった。か」