幻想殺しと電脳少女の学園都市生活   作:軍曹(K-6)

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ガラスの要塞 The_Tower_of_BABEL.

何なんだろう、上条はそう思った。

ここはファーストフード店の二階、満員満席の禁煙席である。窓際の一角の四人掛けのテーブル、そこに上条とインデックスと(何故か)青髪ピアスが座っている。

そこまでは良いらしい。

 

「―――――――――、食い倒れた」

 

何故、こんな俗っぽいお店に巫女さんがいて、あまつさえテーブルに突っ伏して謎なセリフを投げかけてくるのか。それが問題なようだった。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

『・・・ご主人』

「・・・・・・、な、何だよ」

「・・・・・・ほらカミやん。話しかけられたらには答えてやらなっ!」

「・・・・・・そうだよそうそう。とうま、見た目で引いてはいけません。神の教えに従い、あらゆる人に救いの手を差し伸べるのですなんだよ。アーメン」

『その巫女さんが美味そうな血です』

「ああもう分かったよ。話しかければ良いんだろ!? おい巫女さん。食い倒れたって何で? いやまあ美味しかったからとか理由はあるんだろうけど」

「一個五十八円のハンバーガー。お徳用の無料券(クーポン)がたくさんあったから。とりあえず三十個ほど頼んでみたり」

「そりゃお得だ。何だってそんなに食ったんだ」

「やけぐい」

「やけっ!?」

「帰りの電車賃。四百円」

「まさか」

「全財産三百円」

「帰れない、と。・・・三百円分でも電車に乗れば良いじゃん、そうすりゃ歩く距離は百円分なんだし。それ以前に誰かに借りられないのか」

「―――。それは良い案」

「何故そこでまっすぐこっちを見る? ってかテメェ、期待の眼差し向けんじゃねぇ!」

 

・・・まーた面倒事か。と上条が嘆息するより早く。青髪が絶叫する。

 

「う、ウソや。カミやんが女の子と喋ってる・・・・・・、今この場で初めて出会った女の子とナチュラルに会話してるなんてウソやーっ!!」

「ちょっと待て! 人をコミュ障みたいに言うな! 俺は別に普通なんだよっ! 巫女さん(おまえ)もどうにか残り百円調達してさっさとお家に帰りやがれください!」

「どういう事!? カミやん話は終わってへんで! 十六年も負け組だった男がこの二週間の内にシスターさんだの巫女さんだの属性強すぎな知り合い増やしてるってどういう事やねんな! 何? これは何の電脳世界(ギャルゲー)ですかセンセーッ!」

 

おそらく電脳少女の世界(エネズワールド)だと思う。と上条は心の中でツッコんだ。それよりも。

 

「俺が十六年負け組? 笑わせるね! 俺は将来を誓い合った年上のお姉さんがいますぅー!」

「はっ。何を言うとんねんカミやん。将来を誓い合ったってあの引きこもりカミやんが?」

「お前どこで聞いたその話」

「有名やで。大事な先輩を事故で失ったカミやんが二年ほど学生寮に引きこもって先生を困らせたって言うな」

「ぐがぁ! 知らない奴が多い学校に行ったと思ったのに・・・」

「学園都市なんて狭いから、すぐにウワサはこっちに来るんやでー」

 

そんな青髪ピアスと上条のやり取りなんてお構いなしで、巫女さんは上条に手を出して、

 

「百円。無理?」

「トゴでいいなら貸してやる」

「とご?」

「十日で五割。十日で百五十円を返してもらうことになるぜ」

「・・・・・・、」

 

巫女さんはちょっとだけ考えて、

 

「じゃあちょうだい」

「やるか馬鹿!」

 

そんな言い争いをしていると、少女の塾講師が迎えに来て、百円を渡して一緒に消えていった。

 

その後。上条とインデックスが並んで帰っていると、

 

「あ」

 

上条の隣を歩いていたインデックスが、何かに気付いたように唐突に立ち止まった。

彼は少女の視線の先を追いかけ、風力発電の柱の根元に、段ボールに入った子猫が一匹みーみー鳴いているのが見えた。

 

「とうま、ネ――――」

「ダメ」

 

――――――コ、とインデックスが続ける前に上条は割り込んだ。

 

「・・・・・・、とうま、私はまだ何も言ってないんだよ?」

「飼うのはダメだ」

「何で何でどうしてどうしてスフィンクスを飼っちゃいけないの!?」

「じゃあお前は! 人間よりも速いスピードで老いる猫との別れを考えたことがあるのか! 生き物の生死ってのは人間と同じなんだ。時間が短いだけで猫も死ぬんだよ。オモチャを買って貰えないガキみたいにギャーギャー騒ぐんじゃねぇ!!」

「why don't you keep cat! Do as you're told!」

「うるっさい! わがまま言うなっ!」

「やだっ! 飼う飼う飼う飼う飼う飼う飼う飼う飼う飼う飼う飼うかーうーっ!!」

「じゃあ交換条件だっ! 家じゃそいつは飼えません。飼いたきゃどっか別のところへ行け!! ていうか野良猫ビビって裏路地に逃げてったな」

「とうまのせいっ!」

「何だとこのエセシスター! テメー一回イギリスでシスターの何たるかを学び直して来いっ!!」

 

と、インデックスは魔術を感知しどこかへ走って行ってしまった。

 

「さて、わざわざ人払いまで仕掛けやがって。俺がこんな右手を持ってることを知ってる奴って事だよな?」

『ええ。ご主人の右手は人払いにも干渉しますから』

「久しぶりだね。上条当麻」

 

上条はゆっくりと後ろを振り返って、

 

「髪の毛は生えたんだな。ハゲ神父」

 

魔術師、ステイル=マグヌスのトラウマをあっさりと掘り返した。

 

「炎よ―――巨人に苦痛の贈り物を!」

「おっちょっ何すんだよ」

「ふん、久しぶりだというのに挨拶も何し暴言を吐くからだ。僕は一切ハゲたことなんて無い。嘘偽りを並べ立てないでくれるかな」

「いやいやいや。俺はこの目で見たし、インデックスも見ただろ。お前のハゲあた―――」

「―――Fortis931!」

「ちょっ魔法名はなしなし! OKOK! 真面目に話を聞くから炎剣を閉まってくれないかな?」

「・・・・・・端的に言うと、『三沢塾』って進学予備校の名前は知ってるかな?」

「あー・・・おう」

「そこ、女の子が監禁されてるから。どうにか助け出すのが僕の役目なんだ」

「・・・任務か」

「まあ資料を見て貰えれば分かると思うけどね」

 

上条は言われたとおり空中に浮かぶコピー用紙を見る。そこには様々な事柄が書いてあった。

 

「今の『三沢塾』は科学崇拝を軸にした新興宗教と化しているんだそうだ」

「はっ。超能力(サイエンス)魔術(オカルト)に頼るのか。ま、しょうが無い話だわな」

「まあ正直、『三沢塾』がどんなカルト宗教に変質していようが知ったことじゃないんだ。現在はもう潰れていることだしね」

「潰れ・・・?」

「端的に言って、『三沢塾』は乗っ取られたのさ。科学かぶれのインチキ宗教が、正真正銘、本物の魔術師―――いや、チューリッヒ学派の錬金術師にね」




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