幻想殺しと電脳少女の学園都市生活   作:軍曹(K-6)

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禁書目録の少女の結末 Index-Librorum-Prohibitorum.

「と、まぁこんな所かな? 他に何か質問は無いよな? 無いよな?? 最初に言ってるけどどうやってあいつの首輪を壊したかは明言できかねます。・・・・・・だからそんなに睨むなって。少なくとも後遺症が出たりすることは無いよ。保障する。つーかそれを言うならお前らだって話してない事があるだろ? お互い様だよ」

 

窓の無いビルの一室で、上条当麻はもう何回告げたかも分からない言葉を口にした。まったく、説明だとか解説だとかは師匠だとか教授だとかそういう人向けの仕事だと改めて認識させられる。

 

誰かに分かりやすく物を教えたり解説したりすると言う事は苦手だった。自称スーパープリティ電脳ガールが横にいればまた違ったのかもしれないが、彼女はインデックス救出作戦が終了した直後から、首輪に仕掛けられていた術式や、その目で見て、耳で聞いて、鼻でかいで、体で感じたと言う『十万三千冊の魔道書』の解析や応用やらで不眠不休で作業し続けている。

(時々「えへ、えへへへへへへ」と言う不気味な笑い声が聞こえてくるのが凄く怖い・・・・・・)と、思っていたのは数年前までで、今ではもう慣れたものだが

まぁ作業に入る前に、首輪の中であった事や仕掛けられていた術式。告げるべきこと、告げないべき事を(彼女にしては)分かりやすく解説してくれた為、想像よりはずいぶんうまくいったと思うのだが・・・・・・

 

「・・・・・・」

「あのさぁ・・・・・・いい加減その警戒心丸出しの視線は止めてもらえませんかねぇ、お前はあれですか、最近の切れやすい若者ですか? カルシウム不足はイライラの原因になるので効率よく採取する事をお勧めします。お勧めなのは朝昼晩一杯の牛乳ですが、猫よろしくニボシという手もじつに・・・・・・」

 

机を挟んで上条の向かいに座る炎の魔術師は、今にも炎剣を振り上げて襲い掛からんとする勢いで上条を睨みつけている。まったく、率先して質問してきたのはそっちだろうにと上条は思うが、気持ちは分からんでもない。

 

「だから何度も言うけど俺は本当にあの夜、お前には関与してないんだって。そりゃあ目が覚めたらハゲ化してたのは不幸だし、ショックだとは思うけどでもだからって自爆を人のせいにするのは筋違いってもんだろ」

 

何かがブチッ、と切れる音が聞こえ、炎の魔術師は問答無用で立ち上がって手を振り上げ炎剣を顕現させようとするが、横に座る聖人に目線でたしなめられやむなく振り上げた手を下げて畳へと座りなおす。

どうでもいい事かもしれないが、あの夜、エネがステイルに小細工を仕掛けて自爆させた際に燃え尽きた髪は、魔術を使っても何故か全く、一ミリも戻る事はなく、現状で(ほぼ)ハゲかけているという事と、意識を取り戻した際に神裂に爆笑された(神裂としては堪えたつもりらしい)と言う事実をここに記しておく。

(それと、念の為に言っておくが、上条は決して『嘘』は付いていない。実際「上条は」あの夜、ステイルには一切関与していないのだから)

 

質問→答える→雑談→キレる→たしなめ→質問・・・・・・

 

もう一時間以上前からこの繰り返しだった。ステイルは話を始める前からキレかけていたし、神裂は接触してきた人物が危険か安全かを確かめる犬のようなオドオドとした視線を上条に向け続けていて、上条はいい加減この停滞した状態にうんざりしてきたのか、ゲッソリとした表情を浮かべている。

 

「にしてもさぁ。学園都市の中で行動するならせめてゲストIDくらいは取っとけよ。いくら科学側のトップに許可を取ってるとは言え、事情を知らない風紀委員や警備員に見つかったらどうするつもりだったんだか」

 

あんたらこの街を舐めてるだろ。という上条の視線に、ステイルは問題ないとでも言いたげに鼻息をしながらそっぽを向き、神裂は

 

「こ、こちらにも色々と事情があるのです!それに私が元所属していた魔術集団は隠れる事や周りの風景になじむ事を主としていたのでそういう魔術には長けて・・・・・・いえ、そういう認識がいけないのでしょうね……急いていたとは言え、軽率でした・・・・・・」

 

と、ションボリと俯いている。

 

はぁ、と疲れたように溜息を付いた。どちらか片方だけならまだ対応のしようがあるものの、こうも反応が違うとどうも調子が狂ってしまう。

二人だけでこれなのだから、この約十五倍の人数をまとめ上げる「先生」って凄いんだなー、と、上条はランドセルがこれでもかと言うほど似合う自分のクラス担任に尊敬の念を向けた。

 

「んじゃ、最後にもう一回確認するぞ。まず一つ目。インデックスが一年に一度記憶を消さなきゃ生きていけないってのは真っ赤な嘘だ。 つーか確かお前らの話じゃインデックスが十万三千冊の魔道書を頭に叩き込まれたのは確か歳が二桁に突入してからだったよな? もし人間の脳が一年で十五パーセント分の記憶しか出来ないんだったら完全記憶能力者はみんな七歳ちょっとで死んじまう計算になる。 こっからは科学側の分野になるんだけど、そもそも人間の脳ってやつは知識を記憶する「意味記憶」運動の慣れを司る「手続記憶」思い出を司る「エピソード記憶」ってな具合にだな、そもそも記憶しておく為の容器が違うんだよ。十万三千冊の魔道書を「意味記憶」に入れたとしてもそれが原因で「手続記憶」や「エピソード記憶」が圧迫されることは脳医学上絶対にありえねーし、そもそも人間の脳が何かを「忘れる」のは別にその記憶を「消失」した訳じゃなくて、単に「容器の中のどこにしまったか忘れている」から取り出せないだけなんだ。文字通りな。そういう意味じゃお前も皆も完全記憶能力を持ってるって言えるな」

 

本当は続けて「これくらい学園都市の外の高校や大学でも普通に習う内容だぞ」と言いたい上条だったが、己の中の良心に従い、言わないでおいてあげることにした。別に恥をかかせる為に話している訳ではないのだから。

 

「二つ目、お前らの上司・・・・・・イギリス清教の事情なんて知らねーから大幅に省くぞ。その上司はインデックス、十万三千冊の魔道書の手綱を握り続ける為に「なんの問題もなかったインデックスの脳に細工をした」・・・・・・これが真相ってとこだな。んで三つ目、これが一番重要なんだけど・・・・・・」

 

ガチャリと、上条が話している途中で部屋のドアが開く。アレイスターこだわりのオンボロアパート風の木製ドアのギイィィィ・・・・・・という軋む音と共に

 

「ただいまー!!」

 

禁書目録の少女のご機嫌度MAXの喜声が聞こえてきた。すぐ後ろに両手でスーパーの袋を持った青年もしくは女性(エイワス)の姿も見える。

 

「おう、おかえりー。で、どうだった?」

「ふっふっふー♪ じゃーん! 女性限定販売の豪華焼肉セット「Elegant」!! 私とエイちゃんで二つキチンと確保してきたんだよ!」

「おお、ナイスだインデックス! これで今日は焼肉パーティが開けるぞ!!」

「焼肉パーティ!? もしかしてこれ今日全部食べていいの、全部食べていいの!!?」

「おお! 全部だ! 全部食っちまえ!! つーか足りなかったら買い足しに行く勢いで大盤振る舞いだワハハー!!」

 

おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! と言う歓喜の声を上げ、インデックスは自分の頭よりも大きい焼肉セットを頭上に掲げながらキラキラとした視線で上条を見上げる。

その後ろからはエイワスが呆れたような目で

 

「インデックス、野菜もしっかりと食べろ。私の推測だがインデックスは野菜に少しも目をくれずに肉を食い尽くそうとしそうだからな、と言うか私は苦労してここまで運んだのだから食べてもらわないと困るのだが。って、か、上条! 一体どうした。え? ちょっと外に出ててくださいって? なるほど、分かりました」

 

と言っていたりする。

 

そしてそんな三人のやり取りを、二人の魔術師は呆然とするように眺めていた。

話が違う。あの子が帰ってくるなんて聞いてない。そんな魔術師二人を見て、上条はいたずらっぽく笑う。瞬間、仕組まれた、と気づいた。

 

三つ目、その『首輪』を上条が破壊した為、インデックスはもう記憶を失う必要など無いと言う事。

最初は、歓喜に震えた。 ずっとずっと、何があっても守りたかった大切な人が、何に苦しむことも無く笑っている。 次の瞬間、自分達を騙し続けてきた教会に対する怒り、インデックスを助けられなかった自分に対する失望と、いとも簡単にそれをやり遂げた(ように見える)上条に対する羨望、嫉妬が心を歪ませ、こんなときにそんな事しか考えられない自分に苛立ちがつのり 最後に、今この場面でどうしていいのか全く分からず、二人の魔術師は動きも思考も止まってしまったのだ。

 

あ・・・・・・、と、そんな二人に気づいたインデックスは少しばかり表情を引き締めて二人へと近づいていく。ビクリ、と二人の魔術師は体を震わせた。今の今まで自分達はインデックスを何度も追い回し、傷つけ、そして記憶を消してきた。それが、インデックスを救う唯一の方法だと信じて。

 

いくら教会の差し金で、騙され続けていたとは言え、とてもではないが許される行為とは思えないし思わない。 だからこそ、震える。 記憶を消す必要も、敵に回る必要も無くなり、インデックスがすべてを知った今、彼女から下される判決は、絶対に覆すことが出来ない文字通り『最後の審判』なのだ。

 

インデックスの記憶を消し続けていた時は死ぬほど望んだ展開なのに、体が震えて動いてくれない。頭の芯まで真っ白になっていくような感覚に呑まれそうになる。

覚悟なら、とっくの昔に決めたはずだったのに、決意は、決して揺らがないと思っていたのに、ああ、自分の精神とはこんなにももろい物だったのかと思い知った二人の魔術師の目の前に座る白い修道服を着た少女は残酷な判決を下した。

 

「・・・・・・えっと、は、はじめまして! 私の名前は、インデックスって言うんだよ!!」

 

は?、と呆けた風に、声とも言えない声を出す。自分達の中に溜まっていた緊張感やら動揺やらが一瞬完璧に凍りついた。

 

「もう何回も会ってるならはじめましてはおかしいかな・・・・・・」

 

インデックスは困ったような表情を浮かべ、下を向きながら何かをブツブツと呟いている。まるで面接官の前に立たされた新入社員のようだった。

 

「で、でも私は覚えてないし・・・・・・、だけど私が覚えてる記憶の中でも会ってるし・・・・・・。う、うーん・・・・・・。ど、どうすれば一番良いのか分からないかも・・・・・・」

 

相手の顔色や仕草を伺いながら上目遣いで話すその様は、紛れも無く自己紹介だった。まるでこれから長い時を共にするクラスメイトに自分の事を説明するように、これから「友達」になる人、「友達」になりたいと思ってる人にする最初の挨拶のように

 

「う、う~・・・・・・と、とうま! こ、こんな感じで良いのかな? 何か間違ってない?」

「あ~? んなもん個人のさじ加減だろ。つーかお前から言い出したんだからほれ、最後まで頑張りなさい。上条さんは生暖かい目線を送りながら応援します」

「む! 今の言葉からそれとなく馬鹿にしてる感覚を感じ取ったんだよ!! とうまはあれなの? ひょっとして調子に乗ってるのかな?」

「んな事ねーっての! つーか、んな細かい事はあとあと!! ほらほら、兼愛なシスターであるインデックスさんは自分で言った事を曲げたりしませんよねー?」

 

ぐぬぬぬぬぬ、という威嚇寸前の子犬みたいな表情と声で上条を睨みつけていたインデックスだが、

 

「・・・・・・だからほら、な?」

 

と、急に声のトーンが真剣になった上条に促され、再び魔術師たちの方へと体を向けた。

 

「・・・・・・わ、私と―――もう一度私と、友達になってくれる?」

 

その言葉で、二人の魔術師は今度こそ本当に、体の芯まで完全に固まった。

 

「私はあなた達の事をこれっぽっちも覚えてないし、いきなり元親友だったって言われてもいまいちピンと来てないんだけど・・・・・・」

 

でも、と、白い修道女を着た少女は言葉を区切って。

 

「とうまから話を聞いて、よく考えて、悩んだの。私と、あなた達の、今までの悲しい記憶を全部清算するにはどうすれば良いのかなって」

 

魔術師を見つめるインデックスの少女の瞳には、明確な光が宿っていた。 有無を言わさないその輝きは、強者と評される者のみが宿す事が出来るもので、二人の魔術師にはそれがとても眩しく映る。

 

「それでね、決めたの。全く同じものを作ることは無理かもしれないけど、出来る限り、やれる限り、もう一度、ちゃんとやり直したいなって―――だから」

 

二人の魔術師と、しっかりと視線を交わせて

 

「私と、友達になってくれますか?」

 

少女は、言った。かつて自分を追い回し、傷つけ、何度も何度も記憶を奪ってきたであろう二人の魔術師に。恐怖はあった。違和感もあった。だけど、それでも告げた。それは、少女が持つ優しさや、今まで自分が当然だと思っていた行為で深く傷つけてしまった二人の魔術師への贖罪で、無くしてしまった大切な物と引き換えになる物を手に入れるというとても強い決意の表れで

 

「「・・・・・・」」

 

だが、二人の魔術師は何も答えない。

これだけの決意を見せたインデックスの前で、迷いと痛みで顔を歪める彼らはどこまでも弱者だった。そんな二人に、上条は「はぁ・・・・・・」と軽くため息を付いて「俺からも少し話があるから」と、返事をまだ聞いてないと駄々をこねるインデックスを半ば強引に外へと追いやる。

 

「お前らあれか?「この子にあれだけの事をしてきた自分達にそんな資格は無い」とか「助ける事も出来なかったから」とか「またこの子を危険な目に合わせてしまうかもしれないから」とか、んなどうでもいいつまんねー事でインデックスの決意を無駄にする気か?」

 

その声は二人の魔術師の耳にこれでもかと言うほど良く聞こえた。

 

「ふざけやがって・・・・・・俺を無視するってんならそれでも良いけどよ。これだけは答えてもらうぞ魔術師

 

上条は、息を吸って

 

「―――テメェは、インデックスを助けたくなかったのかよ?」

 

魔術師の吐息が停止した。

 

「テメェら、ずっと待ってたんだろ? インデックスの記憶を奪わなくても済む、インデックスの敵に回らなくても済む、もう一度「友達だ」って胸を張って言えるような、そんな関係に戻りたかったんじゃねぇのかよ?」

 

畳の上にあぐらを掻いて座り、インデックスと同じように二人の魔術師をじっと見つめる。

 

「ずっと主人公になりたかったんだろ? 絵本みてえに映画みてえに、命をかけてたった一人の女の子を守る、そんな魔術師になりたかったんだろ?」

 

そうだ。でも自分たちは教会に誑かされてインデックスを傷つけ続けてきた。ずっと助けたいと思っていた少女を、助ける事ができなかった。

それこそ、なんでもないかのように一人の少女を救いあげた、目の前の少年のような本当の主人公に―――なれなかった。―――だから

 

「だったらそれは全然終わってねぇ!! 始まってすらいねぇ!! ちっとぐらい長いプロローグで絶望してんじゃねぇよ!!」

 

魔術師の声が、消えた。

―――まだ、終わってない?

 

「考えてもみろ。インデックスに仕掛けられてた「首輪」が壊されたと知った協会が「とりあえず様子見」なんて甘い判断をすると思うか? ありえねぇ。何か策を考えてるに決まってる」

 

そうだ。あの残酷なシステムを作った教会が、今の現状を良しとし続ける訳が無いのだ。

もしかしたらもう動き出してるかもしれない。今すぐじゃなくても、数ヵ月後でも、数年後でも、インデックスをこのままにしておく理由など無いし、もしかしたらインデックスを放っておいても余裕でいられるだけの「別の理由」がある可能性だってある。そしてそれは、彼女を苦しめるようなものでないと言う保障など、どこにも無いのだ。

 

「答えろ魔術師。お前はどうしたい」

 

上条は、もう自分が今どんな表情をしているのかすら分からなくなった魔術師に語りかける。

 

「インデックスと友達になって、無くしたものを取り戻す為に、あいつの笑顔にする為に、どんなに惨めでも、プライドを捨ててでも、もう一度あいつを守る為に頑張るのか! あいつの気持ちを押し殺してでも、傷つけても、教会に戻って裏方役に徹して陰ながらあいつを守るのか!  それとももうたった一度成功しただけのどこの馬の骨とも知れないようなパッと出の奴に見せ場も出番も全部譲っちまうのか!! お前ら本当にそれでいいのか!!?」

 

その姿は、上条がずっとずっと師事を仰いできた、とある人物の説法に良く似ていると言う事を、上条は全く自覚していない。

 

「決めろよ魔術師。ためらう必要なんかねぇ、悩む必要なんかねぇ! テメェらが思い描いてる幻想を、テメェらの口で言ってみやがれ!!」

 

もう上条は、自分の選択を決めているのだろう。迷ったかもしれない、悩んだかもしれない、誰かに相談したかもしれない、それでも最後にはしっかりと自分の手で決めたのだろう。そして、そんな事を繰り返し続けてきたのだろう。

 

だからこそ、揺らいでいる二人の魔術師には、嫌というほど響く。

そんな姿が、とても眩しく映る。

やがて、二人の魔術師は、どちらともなく口を開き―――

 

それぞれの選択を、告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新約聖書に措いて、人という生き物が神に食す事を許されたのは六本足で現れ、悪魔の使いとも例えられる事もある害虫「いなご」のみであった。 だが、人という業の深い生き物は、意図も簡単にその禁忌を犯す。最初の人とされるアダムとイヴでさえも、知恵の実を食した事により楽園を追放された。

そして、彼らの子孫である人も、当然のようにその掟ルールを守るはずなど無い

その熱された鉄の大地に下ろされた、二本の雄雄しき角を持つ異形なる物の肉は、すぐさまその桃色の鮮やかな肉質を茶色く濁った白色へと変える。 やがて、熱され続けたその白色の一部が、すっかり暗くなった外の景色と同じ、少しばかりの黒色で彩られたタイミングで

 

「あーん♪」

 

一人の修道女の口へと吸い込まれていった。

 

「んなっ!? おいこらインデックス! テメェその上カルビは俺の取り分だろうが!!」

「ふっふーん! とうま、知らないの? エイワスが言ってたんだよ「一人だけでは孤独に沈み、人が集えば戦が起こる。これ即ち焼肉の摂理なり」つまり、この鉄板を主としてすでに戦争が起こっているわけであってつまりこれは当然の略奪ジャスティスなんだよおおぉぉぉぉぉ!!」

 

ババババババババババババババババッ!!

戦争における常。虐殺、陵辱、そして略奪。インデックスと言う名の悪夢は、瞬く間に上条の国(領域)の物品(肉)を己の口へと放り込んでゆく。

 

ぎゃぁぁあああああああああああ!! という敗北国の王の絶叫が部屋に響いた。ただ、その絶叫はたった一人の少女のみの手によってもたらされるような物なのではない。

 

「・・・・・・ほら。こっちも食べごろみたいだ」

「テ、テメェ、ステイル! お前最初は「こんなくだらない事・・・・・・」とか言ってイラついてたくせに・・・・・・!! あと取った肉をインデックスの皿に盛るのはギリ納得できるけどテメェで食うなら上条さんは徹底抗戦を」

「はい、インデックス。でも野菜もキチンと食べてくださいね? それと、食べすぎにも要注意です」

「神裂ぃいいいい!! お前に関してはもう論外だよ論外! 聖人の力をこんな事に使ってんじゃねぇよ!! (たっく、あの夜といいインデックスとの仲直りの時といいピーピー泣いてやがった神裂はどこに)ぐおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」

 

ボソボソと小声で愚痴っていた上条に、神裂が放った音速を超える拳が迫る。バシン! という音を立てて神裂の拳が上条の手の平と激突した。空気は勿論、ちゃぶ台に乗っているホットプレートや数多の食器。挙句の果てには畳までビリビリと振動し、食事中の面々の行動が一瞬ピタリと止まる。 瞬速の拳を上条に向けて放った神裂の顔面はホンの少し赤くなっていた

 

(テ、テメェなに考えてやがる!! まともに決まってたら顔面が見るも無残な事になってるぞゴルァ!それでも大和撫子か!!)

(うるっせえんだよ、怪物が! あなたならマトモに食らったところで大したダメージになるとはとても思えないんだよおぉおおおおおおおおお!!)

 

勿論、主に上条に非が有るであろう事は認めるが、それにしたって常人だったら間違いなく顔が陥没するであろう一撃を、何の躊躇もなく放つことは無いと思う。 

全く、クラスメイトのオデコが広いアイツ(頭突き女)といい神裂といい・・・・・・何故自分の周りの黒髪ロングはバイオレンスチックな奴が多いのだろうと考えるが、当然のように答えは分からない。

・・・・・・あれだけ渋っていた二人が、なぜこうもアッサリともう一度インデックスの友達になることを決めたのかも、分からない。自分の言葉が原因だという事の可能性など、この少年は微塵も計算に入れてはいない。

 

あれからすぐに神裂は深々と、ステイルもギコチなくではあるがしっかりとインデックスにこれまでの事を謝罪し、感謝の言葉を告げ、三人とも元の鞘である『友人』に納まった。神裂はポロポロと嬉し涙を流し、ステイルはキャラが崩壊している位の優しい笑顔を浮かべ、インデックスは面白そうにクスクスと笑う。

そして上条はそんな三人を見て多少の疎外感を覚えつつも、脱力したように、ホッとしたように、ゆっくりと微笑んだのだった。

 

「とうまー。さっきから何の話?」

「・・・・・・気にしないであげるほうが良いんじゃないかな? おもに彼女の為に」

 

ステイルにしては珍しい同僚を全面的に守ろうとする言葉に、神裂は感謝の言葉を送ろうとするが、いつの間にかインデックスに物凄く(肩が触れるどころの騒ぎではない)接近していたステイルに気づいてその拳を放つ。

当然、上条のように身体能力が高くないステイル(スポーツ狩りハゲ)はその拳をまともに食らってしまい「ぐぶぉぁあああああ!」という悲鳴を上げながら仰向けに倒れて気絶した。

 

「ふわぁ~・・・・・・よく寝たぁ・・・・・・ん?・・・・・・な! はい!? なぜです! なぜもう宴が始まっているのですか!?」

 

そのままステイルを寝室に引っ張っていった神裂にしばらく呆れていた上条だが、遅れてようやくやって来たエネに気づいて顔を上げる。

 

(おお、やっぱお前寝てたのか。おはよう)

「おはようございます、じゃない! ご主人、私を放っておいて勝手に宴を始めるなどと・・・・・・それでも相方!? パートナー!? というかインデックスの呪縛を直接的に解いたのはこの私でしょう!!」

 

上条としては、何度連絡しても出てくれなかったし、そもそも寝てたっぽかったから起こすのもアレかなと思っての行動だったのだが。エネは座る上条の元に駆け寄り、同じように座ると半ば押し倒す勢いで顔をグイッ、と近づけた。

 

彼女にしてはキツイ口調とは裏腹に、目はウルウルと潤いを纏い、自分より身長が高い上条を睨みつけるために必然的に上目使いになっている貴音は、いまいち(と言うか圧倒的に)迫力に欠ける。なんだか全く別の、なんというか不純な感情を刺激しそうな勢いだ。

 

(い、いや、だってお前さぁ・・・・・・)

「なんですか! 何の理由があって私を除け者にするんですか!!」

 

上条はため息を付きながら、言った。 彼女はどうやら一番肝心な事を忘れているらしい。

 

「お前、そもそも飲み食い出来ねぇだろ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ」

 

その時、上条はふと思いだして

 

(そういやエネ。お前首輪破壊すんのに喰らう者(イーター)使ったろ)

「はへ!? な、何故それを!」

(俺の能力だぞ? 分からなくてどうする。おかげで首輪作れるじゃねーか。誰に使えと?)

「・・・すみませんでした!」


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