幻想殺しと電脳少女の学園都市生活   作:軍曹(K-6)

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黄金に輝く天空にて Star_of_Bethlehem.

「ハイ、外れ。残念でした」

 

上条は笑う。フィアンマが振るう攻撃をかわしたり受け止めたりしながらケラケラ笑う。

悪魔は楽しんでいた。この状況を誰よりも。この戦争に参加する人間、全てが真剣に争っているというのに、彼は笑っていた。人を、世界を嘲笑っていた。

 

「あっちゃも、こっちゃもみぃ~んなご破算。さぁて、願いましては!」

 

大きく手を広げて上条は詠う。

 

「何が起きてるのか良く分かってないが、どうやら世界中全員が協力してこの浮遊大陸と、そこに乗るお前をどうにかしようとしてる事は分かったぜ。だからこそ言わせてもらう。お前、本当に世界を救う気があったのか?」

 

上条の疑問に、フィアンマは嫌悪感を持ったようだ。だがそれがアウト。彼の言葉に反応を返してはダメなのだ。

 

「ないんだな? ないんだな? 明確な手段なんてないんだ。ただ、救いたいって言う気持ちがあったから救おうとしたんだ、そこまでは良いけど何でそれが救ってやるなんて上から目線に変わったんだよ。そんなヤツに救われるほどこの世界は腐ってるのか? 腐ってないだろ。どうせお前は神話のような世界崩壊が怒るなんて幻想にとりつかれて、それを阻止するために世界を救う気だったんだ。今この瞬間までは」

「な・・・に・・・・・・?」

「今お前は自分の目的が分かってないだろ? そもそもなんで俺と対立してるんだ? 右手を取ったらハイお終いのはずだろ? なんで俺はお前と戦ってる? その答えは簡単だ。お前が世界を変えれないからだ」

「貴様・・・・・・」

「それに空気が変わった。お前も世界を変えるために何かをしているんだろうが・・・。どうせ暴走するんだろ? 止める気もないが・・・、もう終わりにしようぜ?」

「お前は・・・分かっているのか」

「神々の義眼・・・イヤ違うな。神々の眼球はウソはつかない。テメェの力は人の悪意によって強くなる。だが、人が動く最大の理由に善意がある。恐らく悪意<善意の式ができてしまって、天罰的な何かが暴走するってトコか」

「俺様の知っている上条当麻と大分違うようだな」

「お前がどんな俺を知っていたのかとか、俺は全然知らないんだけどさ。誰がなんと言おうと俺は俺なんだよ。悪魔なんて呼ばれたり魔王なんて呼ばれたりした事もあったが、今の俺は何だ? たった一人で敵に立ち向かった無鉄砲のバカか? それともヒーローか・・・」

 

上条はクスリと笑う。その間にもベツレヘムの星は崩壊を始めている。大きな振動があった。おそらく誰かが暴走を阻止したのだろう。

 

「もう、良いか?」

 

上条は先程までとは違った口の端が引き裂けるぐらいに釣り上げた笑い方で。

 

「もう、この辺りがお前の引き際さ」

 

上条の体が文字通り消えた。

 

「とりあえず、テンプレ言っとくぞ。テメェが、そんな方法でなけりゃ誰一人救えねぇって思ってんなら」

 

フィアンマの眼前に現われた、上条当麻の右手から肩口にかけてが波打つ紋様で彩られていた。

 

「まずは、その幻想を喰い殺す!」

 

幻覚が見えた。獲物を喰らうサメのように顎を開いた巨大な龍がフィアンマに襲いかかる幻覚が。

喰われたように見えた全身は五体満足で、地面に無様に転がっていた。

 

「さてと。とりあえずこの男を地上に降ろすか・・・・・・」

 

上条は状況も分かっていないが、とりあえずで行動を開始する。

だがついてみてびっくり、残されたコンテナは一人用が一機だけだった。

 

「あー、これはアレだ。俺が残るからお前は先に行けパターンだ。面倒くさい」

 

乱暴にフィアンマをコンテナに乗せた上条は、コンテナを発進させる。

 

「さて、せっかく目が覚めたのに。死ぬのかね。もったいない」

 

上条はそんな事を呟いたが、別に策がない訳じゃなかった。

現に、すぐ側までにVTOL機がやってきていたのだった。

 

「何だぁ? コイツは・・・・・・」

 

上条はそんなVTOL機の風防を開けて出てきた少女に見覚えがあった。

 

「アレは・・・誰だ? やっべ、老人みたいに記憶が曖昧だなぁ・・・・・・」

 

どうやら一生懸命上条を助けようとしてくれているらしい。

 

「・・・・・・フッ」

 

上条はなるべく普通の笑顔で笑うと、首を横に振った。

少女もその反応に驚いているらしい。

 

「悪いな。まだやらなきゃならねー事があるんだ」

 

上条はそう言うと、VTOL機に背を向けた。

 

 

暫く歩いていると、上条自身はそれが何なのか分かっていないが、インデックスの制御霊装を見つけた。

 

「ん?」

『とうま』

「んん?」

 

ガクンガクンと揺れる地面で平気そうに立ち続けたまま、上条は逆さまに浮かぶシスター服の少女を見つめる。

 

『どうして脱出しなかったの?』

「何も終わってないからだ」

 

上条はそう答えた。そう答える以外なかった。

 

「悪いな。シスター。俺はお前の事を現在進行形で忘れてる。誰だっけ?」

『とう・・・ま?』

「そんな泣きそうな顔されてもなー。覚えてねーもんは覚えてねーんだよ。そもそも何でこんな浮いた大陸に乗ったのかすらも分からねー。まぁ落ちながらゆっくり考えるさ。俺がどうしてこんなとこにいるのかを、な」

『覚えてないんだ』

「知らない。の方が正しい。お前の知っている俺を“A”とするなら今の俺は“B”。そして“B”は以前から過ごしていた記憶がある。つまり“B”から何らかの理由で“A”になり、現在“B”がいるって所だろう。なるべく“A”の記憶も思い出せるように頑張るわ」

『うん。分かった。・・・とうま。私こういう時なんて言ったら良いか知ってるよ』

「・・・へぇ? どんなのだ?」

『プラチナムカつく!』

「中の人ネタは止めろっ!? ・・・まぁ、いいや。俺はこれからこの浮遊大陸を何とかする事にする」

『何もできないけど応援してるね』

「・・・誰に向かって言ってんだ? この俺だぜ? 何も心配は要らねーよ」

 

上条はそう言って遠隔制御霊装を右手で壊す。

 

「さて、もう一仕事しますかネ」




基本悪魔はお気楽思考です。

遠慮なく相手に毒を吐いたり、女・子どもでも容赦なかったり。
人間の三大欲求に忠実だったり。

新約勢がかわいそうになりますね。

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