幻想殺しと電脳少女の学園都市生活   作:軍曹(K-6)

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巨大な歪みを正す時 Broken_Right_Hand.

上条当麻神上の統魔と右方のフィアンマ。

『ベツレヘムの星』の上で、二人の男は対峙していた。

本来、『第三の腕』なんてものを持つフィアンマに一人で挑むのは、恐ろしいほど無謀なものなのだろう。

だが、

対するは神上の統魔と呼ばれた実質、最強の人間(そんざい)だ。

どんな覚悟で、そこに立つか。どんな気持ちで拳を握るか。

その違いが、そこにはある。上条は()()のため、フィアンマは自分のため。

 

「結局。正しい力って何だよ」

「・・・簡単だ。いくら悪魔の王を斬り伏せる剣を持っていたとしても、悪の権化が目の前にいないのであれば、剣を振り下ろす事はできんのだからな」

 

直後だった。

斬撃が、来た。

 

真横からの一撃。

距離など関係なく、ベツレヘムの星ごと大きく削り取られていた。

だが、

そんな斬撃も途中で止まっていた。

確かに、幻想殺し(イマジンブレイカー)では処理速度の問題上、打ち消しきれない。だが、上条の恐ろしいほど鍛え上げられた肉体が、その強大な一撃を右手一つで受け止めていた。

 

「ほう」

 

フィアンマの笑み。

 

「これを受け止めるか。それは右手ではなく、お前の身体能力だろうな」

 

実際にはそれだけではない。上条の左手から出る柔の炎。ダメ押しで出していたこれは、彼の体が浮く事を押さえていた。

その時だった。

次にやってきた攻撃は、その場の誰も予想できないものだった。

 

砲撃。

上条はソレがなんなのか分かっていた。そこら中を適当に貫く青い光線。フィアンマ、ではなく『ベツレヘムの星』を狙って撃たれているものだった。

 

「ふむ。俺様を狙ってこないとは・・・ロシアの兵器か・・・? いや、光学兵器だから学園都市か?」

「いや、違うな」

「?」

「ヤマトだ」

「大和? 第二次世界大戦で海に沈んだ日本の軍艦か」

「そっちじゃねぇ。アニメの方だ。宇宙からの侵略を止めるために二十九万八千光年の旅に出たヤマトだよ」

「・・・・・・学園都市は、アレまでも実現していたのか?」

「いんや。俺達だ。秘密裏に俺達が作り上げたものさ」

「・・・まぁ良いだろう。お前の味方ならお前を撃つ事はしないだろう。邪魔は入らない」

「遊ぼうか?」

「いや、良いさ。世界を救ってから考える事にしよう」

「あ?」

 

直後。

真下から真上に巨大な剣が跳ね上がった。

それは上条の右の脇の下を潜る形で、一気に右肩へと向かって行った。

回避する時間も、受け流す余裕もなかった。

 

トン、と。

信じられないほど軽い音と共に、上条当麻の右腕が肩の所から切断された。

 

「あら?」

 

 

 

 

 

 

――――――そして、気がつくと上条当麻の意識は全くみたことがない部屋の中にいた。

 

 

「やあ上条当麻くん。久しぶり、と言っても君は何も覚えていないんだろうけど」

 

「・・・誰だ? お前」

 

「誰だって聞かれたら、蛇としか答えようがないよ」

 

 

黒いセーラー服を着た彼女はそう言った。

 

 

「蛇? それって目の蛇か?」

 

「そう。私は『目に焼き付ける蛇』元々の君の能力だ」

 

「俺の蛇・・・? 聞いたことがないな、それは」

 

「聞いたことがなくても良いよ。榎本貴音が君に話していなかっただけだろうからね」

 

「・・・・・・で。お前の望みは何だよ」

 

「いやいや特に何もないよ。幻想喰いが暴走状態になってくれたおかげで榎本貴音が私に掛けた封禁は解かれた。望みってほどじゃないけど、君には全てを思い出してもらおうかと思ってね」

 

「は?」

 

「『目に焼き付ける蛇』っていうのは簡単に言うと完全記憶能力のこと。例え何度忘れても私がいれば全てを思い出せるはずだ」

 

「じゃあ何で、貴音は。アイツはお前を封印したんだよ」

 

「それは君が悪魔(ドラキュラ)だったからじゃないかな」

 

「・・・・・・どういう事だ?」

 

楽しそうな少女に上条は怪訝な顔で尋ねる。だが少女は久しぶりの会話を楽しんでいるのか遠回りの回答を返してきた。

 

「簡単な話だよ。思い出したら笑っちゃうだろうけど、君は人を人としてみないような残虐性の持ち主だったんだよ。仲間は要らない。自分は天才。才能に順風満帆すぎた君は師匠達から様々な枷をつけられている。そのいくつかは既に外れているけど」

 

「・・・俺がねぇ・・・。はっ! そりゃ笑えねぇや」

 

「いやいや。本能に染みついてるんだと思うよ。君はこの世界でも十分過ぎるほど残虐だった。暗部仕事中の君の顔は楽しんでたよ。情報を聞き出す時とか特にね」

 

「あっはっはっ。自覚無しって怖いな」

 

「そうさ。君は元々朴念仁じゃなかったのに、いつの間にか人の好意に鈍感になっちゃって。そろそろ全部思い出そうよ」

 

「『目に焼き付ける蛇』とやらを使って、全部を思い出せと?」

 

「そうさ。君は思い出さなきゃならない。彼女達のことを。ずっと一緒に冒険してきたみんなのことを。君を好いてくれている数多の人のことを」

 

「―――上条さんがモテるわけないだろ?」

 

「それも含めてさあ使ってみよう。思い出せば全てが分かる。君の言う嘘が誠で、私の言う誠が嘘か。確かめようじゃないか」

 

「・・・・・・・・・・どうやって使えば良いんだよ」

 

「ああ、そうか。修行をしていないから不安なんだね? でも、大丈夫。他の蛇の目と同じように開けば良いし、私もサポートするよ。さあ、開こう?」

 

「・・・・・・分かったよ」

 

 

上条は言われたとおりいつも通りに一度目を閉じて、

 

「『目に焼き付ける』」

 

 

その赤い蛇の目を開いた。

 

 

「――――――――――――――――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・―――――――――――――――――――――ッ!!!」

 

 

見たことのない景色、聞いたことのない会話、感じたことのない感覚が上条の体を襲う。

だが、ほんの少し後には上条は笑っていた。

 

 

「は、ははっ。はははっ。はっはははっはっは!」

 

「思い出せたかい?」

 

「ああ。さっさとアイツをぶちのめさせろ」

 

「もう引き留める必要はなさそうだね。行っておいで」

 

「ああ。○○○、学園都市の方を任せても良いか?」

 

「僕で良いなら」

 

「頼む」

 

 

上条当麻の意識は、再びベツレヘムの星に戻っていった。


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