幻想殺しと電脳少女の学園都市生活 作:軍曹(K-6)
午前十二時。
日付の変更と共に、それは起こった。
例えば。
北部アイルランドにあるベルファスト、エニスキレン、ロンドンデリーなど各地の都市の病院や警察署などの主要施設が、大勢の警官や軍人によって封鎖された。彼らは『騎士派』あるいは『王室派』の第二王女派閥の息がかかった集団だった。一般人はただならぬ雰囲気に屋内で脅えるか、好奇心に押されて野次馬になろうとした所を、警察に捕らえられたりしていた。
例えば。
スコットランドの独自通貨を製造している造幣局や、宗教的な拠点であるホリールード宮殿などが、その施設を守っているはずの警備員や騎士達によって占拠された。また、エジンバラのヨットハーバーで調査活動を行っていた元アニェーゼ部隊は、数で圧倒する『騎士派』の集団によって包囲される事になる。
例えば。
ウェールズにあるカーディフ城、スウォンジー城、オイスターマウス城、コンウィ城、ペンリン城、ボーマリス城、カナーヴォン城などの各種城塞が、『騎士派』の手によって次々と陥落していった。地方議会や裁判所などは言うに及ばず、だ。
例えば。
イングランドの中心部、ロンドンとその近郊にも『騎士派』の手が伸びた。というより、最も『騎士派』が多くいるのは、イングランドだった。彼らは聖ジョージ大聖堂やウェストミンスター寺院といった宗教的拠点、バッキンガム宮殿や国会議事堂などの政治的要衝へと、次々と足を踏み入れていった。
「うわぁ。そこら中『騎士派』の連中だらけですなぁ」
「どうするんです? ご主人。とりあえずあのうざいレッサーは眠らせておきましたけど」
「兵が多いなー。潰すか」
「ましゃか?」
「そのまさか。宣言は任せたぜ」
「えぇえぇえぇえええ!? マジでやるんですかぁ!?」
貴音の悲痛な叫びはロンドンの街中へと消えていく。
*
「何?」
「テムズ川を。何かが、さかのぼってきます!! 何かが・・・・・・!! 幽霊船が・・・・・・!!」
「幽霊船・・・だと?」
かつて、ある吸血鬼が英国にやって来た。自らが渇望する、一人の女を手に入れるために。
その吸血鬼が乗り込んだ帆船は、霧の中を波から波へと飛び移り、ありえない速度で疾走した。
乗組員を皆殺しにしながら。そして遂に、死人と棺を満載した幽霊船はロンドンへ着港した。
船の名はデメテル号。ロシア語でデミトリ号である。
槍衾の絵の前で集った彼らは、今こうして槍衾の前で再会した。
ロンドンの地を、白き騎士団が埋め尽くしていた。
その中央に空から降り立つ男が一人。上条当麻である。
大英帝国『王室派』 反キャーリサ対 残存総兵力72名。
大英帝国『騎士派』 キャーリサ親衛隊 残存総兵力2875名。
学園都市 独立行動隊 残存兵力二名。
降り立った上条当麻の目の前には騎士団長とアンデルセンが立っている。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「伴侶よ。我が伴侶、榎本貴音よ!
上条が見える位置の建物の屋根の上に貴音はいた。
「我が伴侶、吸血鬼上条当麻よ。命令する。白衣の軍には白銀の銃を以って朱に染めよ。黒衣の軍には黒鉄の銃を以って
「了解。認識した。
「拘束制御術式零号開放!! 帰還を果たせ!! 幾千幾万と共に、帰還を果たせ!!」
「―――わたしは多くの魂を喰らいこの身に宿す冥界への導き手・・・・・・・・・」
その口上はイギリス中に響いた。
遠く離れていたイギリス女王にも、インデックスにも聞こえた。
その口上を聞いて一番慌てたのは、『騎士派』のヘルシング家の人間だ。
「マズイ! 河が来るッ! 死の河がッ!!」
「主への忠誠を誓い、たとえ解き放たれようとも・・・・・・・・・」
上条の口上に合わせ、棺が開いていく。
騎士団も 戦闘団も 皆、唯一人の男に恐怖し 唯一人の男に、己が矛先を向け突撃していく。
「ここにいる全てが感じたのだ。『恐ろしい事になる』と。この化け物を倒してしまわないと、恐ろしい事になると!!」
「必ず・・・・・・舞い戻る」
「来るぞ。河が来る。死の河が!! 死人が舞い、
ズタズタのボロボロにされた上条当麻の影の中から大量のトランプが飛び出し、周りの人間を引き裂く。
「・・・No,Ⅸ。ジークフリード」
それに続いて銀色の鋼糸が周りの人間の首を次々ともいでいく。
「・・・No,Ⅶ。エクセリオン」
そして、それに続くように上条の血が、ロンドンの街に流れ出していく。まるで津波のように、全てを呑み込まんと襲いかかる。
「
「ワラキア・・・公国軍・・・!! お・・・お前は、お前は、自分の兵まで・・・ッ。自分の家臣まで・・・ッ。自分の領民まで・・・ッ!! 何て奴だ・・・ッ。お前は何だ!! 化け物!! 悪魔・・・!!
「死だ!! 死が起きている!!」
天も無く 地も無く。人々は突っ走り 獣は吠え立てる。まるで彼らの宇宙が、一切合切咆哮を始めた様だ。
死ねや、死ねや。人間は、歩き回る陽炎に過ぎない。闘え 死ね。あとは全てくだらないものだ。死んでしまえばよい。消えてしまえばよい。
きっと彼らの全てが仇人で、世界がその絶対応報に 頭を上げたのだ。
血の海の中を歩きながら上条はバッキンガム宮殿を目指す。今回のことの発端がいる。その場所を。