幻想殺しと電脳少女の学園都市生活   作:軍曹(K-6)

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イギリス迷路の魔術結社 N∴L∴

「大方、イギリスのお偉いさんの所に行けばいいんだろ。こういう時」

「じゃあバッキンガム宮殿ですかね?」

「ほんじゃまあ、行ってみますか」

 

上条は手袋をつけるとハイパー化する。同様に貴音は空の女王となり、インデックスを抱えて空へと舞った。

 

「・・・どこだ?」

「あの辺じゃないですかね。公園みたいな」

「んじゃあ行ってみるか」

 

上条達はとりあえずそこに向かってみることにした。

英国の首都の一区画が丸々抜けている場所。それがイギリス女王の暮らしているバッキンガム宮殿らしい。

 

敷地に降りようとした上条達に魔術攻撃が飛んできた。

 

「ゲッ」

絶対防御圏(aegis)展開!!」

 

上条の前にインデックスと共に躍り出た貴音がバリアを張って魔術攻撃を防ぐ。

 

「いきなり攻撃か。手厚い歓迎ありがとよ」

 

上条は悪態をつきながら魔術攻撃をしてきた女性を睨む。

 

「・・・あなた方でしたか。もっとまともに来てください」

「至極まともな方法なんですが?」

「・・・・・・」

 

二人そろって首を傾げられ、神裂は頭を抱えた。

神裂に連れられ上条達は宮殿の中に案内される。そこには『景色』と呼べる世界が広がっていたが、上条と貴音は大して気にもしていない。

 

「・・・とうま。凄いって私は思うんだけど。とうまとたかねは何も思わないの?」

「・・・あー。なんだっけ。既視感は感じるんだが」

「紅魔館と地霊殿がこんな感じですよ」

 

上条がうなっていたのを見かねて貴音が教える。上条はすぐに『ああ!』と手をたたくが、景色を思い出せたわけではない。

 

「おなか減ったんだよ」

「・・・また食うんですかこの腹ペコシスター」

「何か言ったかな!?」

 

「来たか」

 

貴音の発言にインデックスが怒った。その少し後、スーツの男がやってきた。スーツと言っても、パーティで着るようなそんなスーツだが。

 

「はい?」

「ん?」

「ふむ。君達が禁書目録の管理業務を負う者か」

「いやいや管理業務と言われたら微妙なんすが・・・。どちら様?」

「ああ、すまない。騎士団長(ナイトリーダー)と呼んでくれ。しかし、あの一〇万三〇〇〇冊を保全する人物とは、どのような者かと興味を抱いていたのだが・・・・・・まさか頭に張り付ける形で管理していたとはな。恐るべき東洋の神秘」

「どっちかって言うと西洋の神秘っすけど。インデックスが噛み付いてるだけですし」

「んなこと言ってないで助けてくださいよッ!!」

 

上条はインデックスを貴音の頭から引きはがすと、バッキンガム宮殿の廊下を歩きだした。

 

「っつか、そもそもなんで俺達はここに呼ばれたの?」

「・・・・・・学園都市の案内役である土御門は何も言っていなかったのですか・・・・・・?」

「いや、大体当たりは付いてんだ。ユーロトンネルの爆破と何か関係があるんだろ?」

「その通り。今から行うのは作成会議のようなものだ。王室派、騎士派、清教派のメンバーが集まった、な。王室派のトップ―――つまり、王の血を引く方々が参加するため、建前では『謁見』という形になるが」

「あ、そうなの?」

「んじゃあ仕方ありませんね」

 

そう言った上条と貴音の着ている服が、黒を基調としたスーツに変わる。

 

「・・・魔術?」

「「姿形など私にとっては何の意味もない」」

 

無駄に上条達は決めて言うと、それきり何も言わなくなった。騎士団長がその先はないと判断し、巨大な扉のノブを回す。

しかし扉が開け放たれる前に、隙間からこんな言葉が漏れてきた。

 

「ぐおおー・・・・・・。ドレスめんどくさいな。ジャージじゃダメなのかこれ・・・・・・」

 

騎士団長の動きがピタリと止まる。

貴音は聞き取れなかったのか頭にはてなマークを浮かべていたが、上条は

 

「あはは。なんか親しみやすい人っすね」

「・・・・・・しばしお待ちを」

 

ボソッと放たれた言葉と共に、扉の隙間に身を挟むように室内に入る込む騎士団長。

 

「ぬぐお!? 入る時はノックぐらいせんか貴様!!」

「謝罪はしますがその前に一言を。―――テメェ公務だっつってんのにまたジャージで登場しようとしただろボケ馬鹿コラ!!」

「いえーい騎士団長が一番乗りー」

「部屋へやってきた順番とかそんなのはどうでも良いんです!! いいから、女王らしく!! いや良いです。意外なキャラクターとか誰も求めていませんから無理にエレキギターとか持ち出さないでくださいッ!!」

 

ドッタンバッタン、という物音に、扉へ不審そうな顔を向ける貴音。ネイティブな発音に戸惑っているのだろうから上条はクスリと笑う。

ややあって、騎士団長が扉の隙間から顔を覗かせた。

 

「色々と面倒をかけて申し訳ない。もう大丈夫だ。女王エリザードは目を覚ました」

「? ・・・・・・私のスキル!?」

「そっちじゃねぇ。大変そうっすね」

 

上条は苦労が分かるといった具合に笑いながら扉をくぐって中に入る。

RPGなどでよく見る階段状の壇上に玉座があるのではく、パーティ会場のような大広間に、丸く木の年輪のように何十にもテーブルが配置されている。

その中央。

『彼女』こそが英国の女王様なのだろう。確か、エリザードと呼ばれていた。五〇代前後の年齢の割に上条達十代の芯や骨格を凌駕しているようにも見える。

気になる点と言えばもう一つ。彼女が来ているドレスもそうだが、それより右手に持った一本の剣。

イギリスの淑女の見本たる女王様なのに剣を・・・・・・しかも抜き身のままウロウロ状態。

貴音はその剣を見て、真っ直ぐに感想を抱いた。

そして真っ直ぐに感想を述べた。

 

「い、意外なキャラクター・・・・・・ッ!? う、ウチの姫神があれほど努力しても手に入らなかった強大な個性を、こんなにも簡単に・・・・・・ッ!!」

「いや違う、あれで正常だ! エレキギターや、サッカーボール、剣玉、サーフボードなどのいらぬ道具は全て撤去してある!! 馴染みがないかもしれないが、あの剣こそが英国女王(クイーンレグナント)エリザード様の象徴なのだ!!」

「あ、はあ・・・。って、その台詞の時点で大分キャラクターが・・・」

「・・・だな。・・・・・・って、あの、そちら様はどちら様で?」

 

貴音が驚いている間に入ってきた初老の男を上条は指して言う。どこかの執事だろうか。上条はどことなく見覚えがあったが。

 

「ん。彼は」

「私の従僕だよ少年。本来はもう一人、従僕が居たんだがな」

 

上条の返答に答えた人は上条達と同じように扉から入ってきた。金髪の女性が二人。答えたのは葉巻を咥えた長髪の女性の方だ。

 

「あ、貴女は・・・」

「ああ、彼女は『騎士派』の団長さんだ」

「大英帝国王立国教騎士団団長――――――インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング!」

「・・・ほう。私の名前を知っているとは」

「なんで、この次元に・・・・・・」

「久しいな。インテグラ」

「?!」

 

上条の体からよく出てくる命の一人がまた顔を出す。まあ今回ばかりは仕方ないのだろうが。

 

「ア、アーカード!!」

「マ、マスター!?」

「セラス、ウォルターも、久しいな」

「・・・久しぶりの再会か? アーカード」

「ああ、そうだな」

「・・・ご、ご主人ご主人。セラスさんとインテグラさんです! さ、サインとかもらった方が良いのでしょうか?」

「・・・馬鹿言え。お前こんな時に何言ってんの? ヘルシングに喧嘩売る気かよ」

 

言わずもな。ここに集まったのは大英帝国国教騎士団。通称ヘルシング機関に所属するメンバー。団長インテグラル。吸血姫セラス。死神ウォルターの三人だった。

 

「アーカード。貴様が消えてから三十年だ。生きていたのなら、何故帰ってこなかった」

「そうですよマスター! しかも、闇夜の黒猫とか言う殺し屋に殺されたって聞きましたし!」

「・・・私はもうヘルシングのゴミ処理係ではなくなった」

「「「!?」」」

「今の私はそこに居る上条当麻の吸血姫の核となっているただの命。意識を持つのは彼が私を吸ったのではなく喰らったのだから」

「何があって彼の核になったのだ」

 

睨まれた上条は『おぉ怖い怖い』と笑い飛ばす、アーカードも少し楽しそうに。

 

「負けたのだ。人間である我がマスターにな」

「負けッ?! マスターが!?」

「ほう。負けた・・・か。そこの少年。上条とか言ったな」

「・・・ええ」

「君が闇夜の黒猫。だな?」

「えぇ!? でもマスターが居なくなったのって三〇年前ですよっ!?」

「私が過ごした時間はそれ以上だがね」

「・・・俺は黒猫」

「私が闇夜です!」

「なるほど。二人で一人の暗殺者という訳か」

「クックックッ。さて、二人が怖いからな。私はマスターの中へ戻るとしよう」

「俺に逃げるんじゃねーよ・・・」

「・・・ちょっとあなた! マスターを、どうやって倒されたんですか!?」

 

ガクガクとセラスに胸ぐらを掴まれて揺さぶられる上条は少し目を回したようにして。

 

「ど、どうって・・・普通に・・・倒したというか・・・食べたというか・・・」

「た、食べたぁ!?」

「いや、あんまり正確には覚えてないんだけど・・・っていうかアンタが説明してくれアーカードォオォオォオォォ!!」

 

上条は叫ぶが特に何ができるわけでもない。ふと気づくと三人ぐらい女性が増えていた。

 

「そろそろみんな集まってきたな」

「なぁなぁ。どちら様?」

「えっと。第一王女リメエラ。第二王女キャーリサ。第三王女ヴィリアン。だそうです」

「ふーん」

「さて、それじゃ適当にトンズラするか」

 

『は?』と上条と貴音は声を揃えて言った。エリザードは笑顔で言った。

 

「大きすぎる議場の場合、全ての発言が記録されるため、思うように自分の意見を述べられない事も多い。それに現在一秒一秒進行中の事態に対して、一〇〇人単位の人間がああでもないこうでもないと言い合っても時間を浪費するだけだ。時には少人数短時間で話を決めてしまった方が効果的な場合もある」

「・・・・・・女王陛下の場合、その事例が多すぎる気もしますけど」

 

騎士団長がボソッと言う。

上条と貴音は巨大な会場を見渡し。

 

「ならわざわざこんなデカいとこ用意しなくて良かったんじゃ・・・」

「国の舵取りをする場面では、専門家づらして『意見』を言おうとするヤツはいらないからなー」

 

上条の言葉に、第二王女のキャーリサも頷く。

 

「最低でも『王室派』、『騎士派』、『清教派』の各代表が揃ってれば構わないの。・・・・・・私としては、禁書目録を招集した『清教派』のトップがここにいないのが気に食わないけど、まぁ『聖人』が代理に現われたんなら許容しよーか、といった所か」

「す、すみません。ウチの最大主教は例によって、裏でコソコソやっているようです」

「あの女狐ェ・・・。というか、清教はカトリックで、ヘルシングはプロテスタントですよね。仲良くできるんですか?」

「・・・・・・ステイルは嫌うでしょうが、私はそこまで気にしていませんので」

「「まさに聖人!!」」

「それにしても、『騎士派』は騎士団長(ナイトリーダー)、ヘルシング、『清教派』は神裂として・・・『王室派』は『女王』に第一、第二、第三王女と目白押しだな・・・。何というか、招待される人員に偏りがあるような、ないような・・・」

「うふふ。結局、良かれ悪しかれ、この国は『王国』・・・・・・王様の国という事なのよ」

「・・・なるほど」

 

第一王女のリメエラが、上条の顔を見てそんな事を言った。国家としての意思決定に関して、やはり『王室派』の意見が最重要視される、という訳か。上条がそう思っていると、何故か第三王女のヴィリアンが申し訳なさそうに無言で頭を下げてきた。

一方で、キャーリサは上条を指差して言う。

 

「ところで、『王室派』、『騎士派』、『清教派』の代表はよしとして・・・・・・そこの小僧達はどーいう役割なの? 会議に出席させる上での立場を明確にしておきたい」

 

不要な人員なら省きたい、と暗に示しているような口調だった。

上条としても、特に絶対参加しなくては気が済まない。という訳ではないのだが、というかできれば場違いすぎて、目線が痛いので(特にヘルシング勢)でたくはないのだが、女王はニヤリと笑ってこんな事を口にした。

 

「そいつは学園都市統括理事長を裏から操る腕の持ち主で、聖人二人に無傷で打ち勝ち、天使に拳一つで挑み、ローマ正教に喧嘩を売り、幾多の戦闘で勝った実力を持つ少年と、それと同等の力を持つ少女だと聞いている」

「拳一つで・・・聖人に?」

「神裂も、アックアもたいして強くなかったから。どっちかっていうと弱い」

「なっ・・・!」

 

神裂が上条の言い分に少し怒ったように身を乗り出すが、記憶が本当の事だと強く告げていたのか、引っ込んだ。

 

「まあ、俺に勝ちたきゃ恒星にでも放り込むんだな。ま、宇宙空間でも数分は生きてる自信があるが」

「「「「「・・・・・・は?」」」」」

「ちなみに聞きますけど。どうやったらそんな自信が?」

「いやだって、息止めときゃ何とかなるだろ」

「・・・いやいや」

「・・・・・・それでは、適当に会議を始めるか。このまま時間を浪費しては、何のためにトンズラするか分からなくなる」




あれ。アックアに無傷だっけ? あれ?

「ご主人が怪我をしますか?」

え、じゃあ何で?

「怪我をしても一瞬で治った。そう言う事実があるので“無傷”です」

それはアリなのかい?

「ライフ一個失わない限り無傷ですよご主人は」

・・・だそうです。どうやらものの見方が違うようです。

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