幻想殺しと電脳少女の学園都市生活 作:軍曹(K-6)
学園都市統括理事長アレイスター=クロウリーと、イギリス清教最大主教ローラ=スチュアートが話をしていた。
「聞き間違いだと信じたいんだけどな・・・。今なんと言った」
『だから、バチカンの特務局が動いたって言いけるのよ』
*
「―――我らは神の代理人。神罰の地上代行者」
「え、えぇ・・・」
*
『バチカン法王庁特務局―――』
*
「―――我らが使命は、我が神に逆らう愚者を、その肉の最後の一片までも絶滅すること」
*
『イスカリオテ機関第十三課』
「カトリックの絶滅機関か。兵力は?」
『派遣兵力はただ一人なりけりよ。「
*
「
「「『アレクサンド・アンデルセン』!!」」
遠く離れた二つの場所で。三人の言葉が重なった。そしてそう名前を呼ばれた男。アンデルセン神父はこちらへ歩きながら口を開く。
「我に求めよ、さらば汝に諸々の国を嗣業として与え、地の果てを汝の物として与えん。汝、黒鉄の杖をもて、彼等を打ち破り、陶工の器物の如くに打ち砕かんと。されば汝ら諸々の王よ さとかれ、血の審判人よ教えを受けよ。惧れをもて主に仕え、おののきをもて喜べ、子に接吻せよ。おそらく彼は怒りを放ち、汝ら途に滅びん。その怒りは速やかに燃ゆべければ。全て彼により頼む者は幸いなり。一撃で何もかも一切合切決着する。眼前に敵を放置して何が
「ふっふっふっふっふっ」
上条の体から吸血鬼の能力が九割五分抜かれた。そして姿を現したのは戦闘モードのアーカードだった。彼は笑いながら上条の前に出てアンデルセンの前に立つ。
「クククッククククク。そうでなくては、そうであろうとも。さあ!! 殺ろうぜ
「ハアハハハハハァ。以前の様にはいかないぞ
「止めようがないな」
「・・・ですね」
上条と貴音は、じゃれ合い始めた二人の化け物(一方は人間だが)を放っておく事にした。
「さて、吸血鬼の能力はあそこの赤い長身男に全部奪われたから今回は人間として戦うぜ」
「・・・・・・今一度言っておこう。私の望みは騒乱の元凶を断ち切る事である」
「お前等が勝手に起こしてんだろ・・・・・・。で? どうすりゃ良いわけ?」
「全ての元凶は貴様の肉体の一部を起点とする特異体質にある。ならば、命までは奪わなくても良いであろう。――――その右腕を差し出せ。そいつをここで切断するなら、命だけは助けてやる」
「だからそのズボンのジッパーを下げようとするんじゃありません」
「ん。そうか」
「・・・そういえば、近くに天草式がいたでしょう? 彼らは?」
「殺してはいない。私が倒すべきは、奴らではないからな」
お互いの距離は10メートル前後。
争いを回避するのは不可能。そんな事は百も承知だからこそ、下手な一手は打たず、最適のタイミングを把握して突撃しようとしていた。
だが、
真横。
「い、意外と速・・・」
上条が呟いた時にはすでにアックアは貴音の真横に飛び込んでいた。貴音も急いで反応していたが、彼女のクロスした腕の中心を横から殴るように肘が放たれた。
「大丈夫かー?」
上条の間延びした声が響く。アックアから上条はすでに距離を取っていた。
「さて、こりゃそれなりに本気を出さねばならんようだ」
「・・・・・・ご主人・・・」
上条がそう言って靴を脱ごうとすると、轟!! と音が聞こえた。音源は全長五メートルを超す得物。騎士が使うランスに似ているが違う。
その太さはまるでビルの鉄骨を使ってパラソルの骨組みをくみ上げたオブジェ。
それは撲殺用の
「行くぞ。我が標的」
「おいで、俺の食材」
上条が中途半端に身構えたよりも速く、アックアの筋肉が爆発的に膨らみ、残像すら渦巻かせて真上から巨大なメイスが振り下ろされる。
しかし、
ズドン。と、予想以上に間抜けな音を立ててメイスが地面に落ちた。
「・・・なるほど。“合気道”であるか」
「ほーぅ。良く分かったな」
「今の攻撃の威力をほとんど消した今の一撃。一瞬の事だったため良く分からなかったが、この手の感触は伝わってきた。ほとんど力の加えられていない手が一瞬の内にこちらの攻撃を利用して威力を相殺した。それができるのは」
「そうそう。早い話、西洋じゃ総じて体格とパワーに頼っちまうんだよ。力なんて『添え物』でいいだろ? 相手の力を受け流し利用すれば、アンタみたいな馬鹿力の攻撃をここまで落とせるんだから。言うほど簡単でもねーけど」
言いながら上条は靴と靴下を脱いで影にしまう。ペタペタと軽い音がその場に響く。
「そうか。どこまでいなせるかな」
「良い事を教えてやる。『
上条がそう言うと同時、アックアがメイスを放ってきた。またもや恐ろしい威力と速度で襲い来るそれに上条は冷静に左手を向ける。
一瞬。
上条の左手が消えた。いや、これは一瞬ではない。今も消えている。そして聖人の振るうメイスが動きを停止していた。
(う、動かない・・・ッ?! 一体何がッ)
「悪いな。これが俺の愛気道だ」
上条がそう言った瞬間。彼の左手が可視化する。そしてアックアの持つメイスが大きく吹き飛ばされた。それでも手に持っている当たり流石と言えよう。
(ご主人の・・・合気道・・・・・・?)
貴音が打った背中をさすりながら戦場を見ると、そこにはまるで洗濯機の中の洋服のようにアックアの周りをバラバラの状態で回っている上条がいた。
「あ、愛気道!! 風歩!」
「風歩・・・だと」
「名前だけ分かってもしゃーねーだろ。捉えられてないんだからな」
そこから上条の動きはさらに変化する。なめらかな曲線だったのが、角張った四角形が中心的となってくる。
「・・・くっ!」
「・・・雷歩・・・」
「イテ。あ、イテテテテ。でっ、いでででっ! あだだた、あだ―――っ!!」
「ご主人!!」
「・・・何か知らんが好機!!」
ドゴォッ!! と、轟音が響いた。雷歩がとけた上条の体をメイスが吹き飛ばす。数十メートルをノーバウンドで飛んでいった上条は、ビルに当たって止まった。その後を光速でエネが追う。
「ご、ご主人!!」
「外れたかー」
「雷歩で外れたんですか?」
「いんや。雷迅はできるから雷歩のさわり程度で外れる訳がない・・・。今のはその上をやろうとしたんだよ」
「・・・私もやりましょうか?」
「いや、いい」
上条はゆっくりと立ち上がる。その体に貴音の手が入る。骨が一瞬で外れはめ直された。
「でーっ!! 何すんだよ!!」
「本当はあのスキマ達に止められてるんですが、いたしかたありません。あんなむさ苦しい男にご主人が負けるところなんて見たくないですから。枷を、外してあげます」
「・・・・・・なんか、よくわかんねーけど。ありがとな」
上条はニコリと笑うとそのままビルから跳びだした。
「帰ってきたか」
「ああ。そう簡単に逃げるわけにも行かないんでな。俺の奥義の一つを特別に見せてやるよ。しかも、七十%っつー手加減付きだ」
「聖人相手に手加減とは」
言葉の続きを聞く前に、巨大なメイスが襲いかかってきた。
「すぐに本気が出るのである!!」
その力を目の前にしてなお、上条当麻は笑っていた。
「合気道は常に相手の力を利用する。それを分かっててそっちから来てくれるとはねん。じゃ、遠慮なく」
(ご主人の奥義。七十%で出せるものと言ったら・・・)
「居合い払い
(居合い払い 奈惰嶺!)
「ッ!?」(こ、これは・・・!! まるで激流に放り込まれたような感覚!)
「逃がすかよ」
(あー。あれはご主人完全に調子に乗ってますわ。・・・・・・ッ)「ご主人!!」
「んあ? ・・・おわっ!!」
貴音が気づいて声をかけた時には時すでに遅し。上条の手は止まり、彼の足元に銃剣が数本刺さっていた。
「アンデルセンか・・・。ぐぅっ!?」
「よそ見とは。余裕であるな」
上条の体全身から血が流れ出した。
「ご、ご主人!」
「安心しろ・・・全部擦り傷程度だ。数が多いから酷く見えるがな・・・・・・」
「もう意識も朦朧としているようだ。ひと思いに、気絶させてやる」
ドゴォ! と、上条の脇腹にメイスが食い込む。振り抜かれなかったメイスには、力をなくした上条の体が引っかかる。
「ご、ご主人! ご主人!!」
「一日待つ。麻酔もなくここで引き抜かれるのも酷だろう。義手の準備でもしておくが良い。期限までに騒乱の中心―――その元凶たる右腕を自ら切断し、我々に差し出すと言うならば、その命は見逃してやるのである」
「は? ふざけ」
それだけ言うと、アックアは無造作にメイスを横へ薙いだ。
『神の右席』にして、聖人としての資質をも兼ね備えた怪物の一撃。
メイスに引っかかっていた少年の体が、砲弾のような速度で鉄橋から飛んだ。手すりを飛び越した体は数百メートルも真っ直ぐ突き進み、少女にキャッチされた。しかし、少女もまたその速度に空中で踏ん張れず、川に沈んだ。
誰にいうでもなく、アックアは言った。
「一日待つ」
上条さんの肉体はアーカードが突然抜けたせいでバランスが悪くなって強度が落ちていました。