幻想殺しと電脳少女の学園都市生活 作:軍曹(K-6)
平穏から破滅に続く道筋 Battle_of_Collapse.
本日の四時間目はとある事情で異様に長引いた。
平凡な高校生・上条当麻を含むクラスの面子が購買や食堂へ走った時には、すでに後の祭り。完璧に出遅れたために購買のパンは全て消滅し、食堂の席も埋め尽くされ、昼休みが終わるまで空く様子もない。トドメに食券販売機は、真夜中の煙草の自販機みたいに軒並み売り切れランプが点灯中。なんという不幸。この状況も榎本貴音が歴史教師に放った一言『へー。じゃあもしも織田信長が安土・桃山幕府を作っていたら日本はどうなっていたんですか?』によって全てが脱線してしまったせいである。
「・・・で? どうするんだよ。お前等は」
自動販売機でMAX缶コーヒーを買って教室に戻った上条は、貴音特製の弁当に箸を突っ込みながら、教室で唸っている食糧難にあえぐ食堂&購買組に話しかける。
「・・・脱走だ!! 脱走してコンビニへ行くんだ!!」
「は?」
一体誰が叫んだのか。
気がつけば食堂&購買組の男女が円陣を組んで作戦会議を実行する。
こういう時、やはり力を発揮するのは吹寄制理だ。
そんな馬鹿騒ぎをする彼らを横目に貴音はため息をつく。上条は既に食べ終わり、マッ缶を飲んでいた。
「・・・今気づきましたけど。今日はマッ缶ですか?」
「ん、ああ。今日はマッ缶」
「それコーヒーじゃないですよね」
「飲むか?」
「ご主人の飲みかけ限定でいただきます」
「・・・・・・お、おう」
騒がしい昼休みが過ぎ去って、何事もなく放課後になった。
下駄箱で靴を履き替え、校門を出た上条達が見つけたのは、黒服を着た男達だった。
「なあ、あれなんだと思う?」
「・・・さあ?」
『何か騒動かなー?』と言った具合で通り過ぎようとした所で、男達が動いた。
「・・・上条当麻だな」
「ああ。そうだけど」
「・・・貴重な放課の時間、邪魔してすいません。こちらを」
男達の一人が差し出してきたのはアタッシュケースだった。その大きさは薄く小さく、タブレットが二、三枚入る程度に見える。
「見ろって事か?」
「こちらで」
受け取った上条が開こうとすると、男達は後ろに止めてあったバンに乗れと指示してきた。それは黒塗りのハイエースで、外から中は覗けないようになっていた。
(・・・なるほど。見られちゃマズい内容って事か)
「おぉっ!
真剣な上条とは違い、貴音は別の所でテンションが上がっていた。
バンに乗り込んだ上条はアタッシュケースを開ける。そこには上面と下面にディスプレイとキーボードが組み込まれていた。
二人で見るために、上条はイヤホンの片方を貴音に渡す。それを貴音が耳に付けたのを確認した上条はエンターキーを押す。
『―――やぁ、上条君。悪かったね、貴重な放課後を潰して。ああ、君の寮に向かいながらこのお話はする事にするよ』
アレイスターの映像と声が聞こえると同時、車が動き出した。黒服が運転しているのだろう。
『さて、後方のアックアという名前に覚えはあるかい?』
「『神の右席』の一人だろ? 九月三十日に会った」
「一瞬でしたけど、この間のアビニョンでも。地殻破断より一フレーム速くテッラを回収してましたよ」
「ん、そうなのか。で、そいつがどうしたんだ?」
『後方のアックアはだね。どうやら上条君、君が狙いのようだ』
「毎度毎度、どこから情報を仕入れてくるんだ? 滞空回線?」
『今回に至っては後方のアックアから果たし状が届いているんだ』
「は、果たし状・・・・・・」
「変な所で律儀なんですね。アックアというのは」
「どうせ、始末するから覚悟しろってトコだろ」
『まあその通りだがね。今回の介入はあまりできそうにない』
「介入?」
「やっぱり、ヴェントの時の天使。テッラの時の超音速爆撃機はアンタの仕業だったんだな? アレイスター」
『当たり前だ。君は毎回毎回無茶をする。君が止めなければ勝手にアビニョンまで連れて行った土御門を三枚に下ろす所だった』
「止めて良かったんだな。危うく俺の友達が切り身になる所だったか」
「・・・晩ご飯は何にするんです?」
「買ってあるわ」
バンの後ろの席から買い物袋がにょきりと出てきた。振り返るとレディリーが座っていた。
「れ、レディリー・・・。何やってんだ?」
「別に。マンションへの引っ越しは完全に完了してる訳じゃないし、まだ学生寮には
「どうやら和食ぐらいが作れそうな材料ですね・・・」ツンデレ?
「・・・それじゃ、本日の料理当番として腕によりをかけて作らねーとな」ツンデレ
学生寮前についたバンから降りて上条達は寮に帰る。
「・・・・・・で、とうま。何で
「この前話しただろ? 少ししたらマンションに移るって、その時からの同居人だよ」
「じゃあ何で今いるの?」
「晩飯の食材を買ってきてくれたんだ。さて、作るから待ってろー」
上条は台所に入ると調理を始める。
(おー。様になってる)
レディリーが台所に立つ上条にそんな感想を抱くと、貴音が肩を叩いてくる。
「にゅ?」
「・・・えっと、お風呂掃除を頼めますか?」
「・・・うん。いいよ」
お互い、触れない事にしたようだ。
「さあ私達はお部屋の片付けをしますよー・・・。ってなに台所にむかっとるか―――!!」
空腹に負けて台所に向かって歩いていたインデックスを貴音は、彼女をジャーマンスープレックスでベットに突き刺す。
「むぎょおおっ!? たっ、たかね、これは一体どういう事!?」
「どういう事でも何でもないですよっ!! お片付けするっつってるでしょうが!」
「えー。今から『
「そんなどこかの大英帝国国教騎士団長の名前のカナミンは見なくて良いんですよ!!!」
そう言って貴音が読み散らかしてあったラノベを本棚に戻そうとした所で。
「こっ、この本格的な和食の匂いは何なのかーっ!?」
唐突に少女の叫び声が上がったと思ったら、ベランダの方からメキャメキャーッ!! というプラスチックの破壊音らしきものが響いてきた。インデックスがギョッとして首を回し、貴音がびっくりして本を落とすと、そちらから出現したのはメイド服を着た土御門舞夏だ。
どうやら『火災時とか緊急時以外は壊さないでね的に各部屋のベランダを区切っているボード』を遠慮なく破壊し、侵入してきたらしい。
「・・・なんだ。舞夏か」
「・・・匂う、匂うぞー。・・・・・・その味噌汁・・・・・・隠し味に粉末状に削った乾燥ホタテを入れているなー・・・・・・?」
「・・・正解正解大正かーい! ・・・・・・何なら味見するか? 我が弟子よ」
今まさに味見しようと小皿に少量の味噌汁をよそっていた上条は、ゆっくりとした動作で土御門舞夏へ小皿を手渡す。
まるで茶道みたいな挙動で舞夏はそれを受け取ると、全く無音で唇をつけ、一泊の間をおいて――――――クワァアア!! と勢い良く両目見開いた。
舞夏はわなわなと肩を震わせながら、
「さ、流石ししょー・・・。負ける・・・・・・!」
「流石に弟子より劣ってはいられんよ」
「こ、こうしてはおれん!!」
何やら口調を百八十度変えたまま、舞夏はいそいそとベランダを通って隣室へ再び戻っていった。その後ろ姿を見送るかのように、髪の毛が洗剤の泡だらけになったレディリーが脱衣所から顔を覗かせる。
「な、何があったの・・・・・・?」
「ん、弟子が料理を教わりにきた」
「そ、そう・・・ていうか、騒がしかったけど、なんでそんなに平気そうなの?」
「な、なんで舞夏が・・・・・・」
「慣れだ。高校上がってアイツが最初に訪ねてきたときからずっとだからな」
「当麻はあれに七ヶ月も付き合ってるの?」
「意外に楽しいもんだぞ? と言うか見てたのかよ」
「とうま、とうま。レジャー温泉ってなにー? 初めて会った時に行ったセントーと何が違うの?」
いつの間にかテレビを点けたインデックスがCMでやっていたレジャー温泉を指して問う。
「・・・うし。飯食ったら行ってみるか」
「どこに?」
「そのレジャー温泉。第二十二学区のだろ? 行ってみりゃどんなものか分かるだろ」
上条はそう言うと、晩飯の用意を再開した。
五和好きの皆様すいませぬ。
だって、超便利なアレイスターさんがいるんですもの。動いてくれちゃう。