幻想殺しと電脳少女の学園都市生活   作:軍曹(K-6)

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上条当麻達の目線で話は進み、学園都市の裏(十五巻)のさらに裏を駆け回っている設定です。


ゆっくりと動き出した者達 Hikoboshi_Ⅱ.

下部組織である妹達(シスターズ)の識別番号00001“美咲(みさき)”が回してきたキャンピングカーの中に、上条当麻(かみじょうとうま)榎本貴音(えのもとたかね)个鐘弥美(こがねやみ)の三人は乗り込んでいた。

時間は昼時。

ボルトで床に固定された小さなテーブルには、上条当麻作の小さく摘まめる昼食が並んでいた。上条当麻はおにぎりと沢庵を、榎本貴音は定番の種類を揃えたサンドイッチを、个鐘弥美は粒・漉のたい焼きを、それぞれ食べている。昼飯一つにしても手を抜かない料理人の意地が垣間見える瞬間だった。

 

「ねぇ。ご主人(リーダー)。諸々の報告や説明に入る前に質問してもいい?」

「ん?」

「さっきZで聞いたけど、正直言って親船最中は私的に殺すだけの価値はないと思うのよ。確かに『目の上のたんこぶ』だったんだろうけど、表裏がないし放っておいても問題はなかったんじゃない?」

「ですが、『スクール』は目を付けられるリスクを負ってでも、予定を無理に遭わせて狙撃を決行しました。彼等のスナイパー、一度『アイテム』(別の暗部組織)によって潰されているんです。そこをわざわざ補填してまで」

「じゃあ逆に考えればいい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「価値がないからこそ? 意味が分からないんだけど」

「『スクール』にとっては誰でも良かったんだよ。とにかく騒ぎを起こせれば構わないから、できるだけ『死んでも影響の少なそうなVIP』・・・・・・『つまり最も警備の手薄なVIP』が選ばれたんだ」

 

上条は愉しそうな声で、

 

「他のVIP。まぁ統括理事会だけで考えても、ここ数日内に野外で公演するような人間は他にいなかった。潮岸は四六時中駆動鎧を着込んでる。そんな相手に狙撃が成功するわけがない。だから『もっと狙いやすい相手』を選択したと考えた方がいい」

「それが正しいと仮定するなら、『スクール』は何を求めていたのでしょう?」

「じゃあ私は、ここまでの話で仮定して、『VIP用安全保障体制』を提唱したい」

 

貴音はどれだけ張っても主張しない胸を張って言った。

 

「十二人の統括理事会を始めとして、学園都市にはいくつかVIP認定された人員・組織が存在する。こいつらは普通とは違う警備で守られてるし、命の危機に見舞われれば様々な部署から招集がかけられる。救急車の移動用に道路が封鎖されたり、手術のために各業界の大物が病院に集められたりってね」

 

つまり、と貴音は言葉を切って、

 

「VIPが暗殺されかけたら、どうなると思う?」

「治療先の施設を守るために、よその人員が呼ばれますし、特殊な研究者や機材等も、必要なものは片っ端からかき集められます。なるほど、その混乱に乗じて『スクール』は何かをしようというわけですか」

 

面白くない手です、と弥美は付け足す。

 

「保険の可能性の方が高いからな。『スクール』の連中なら、本気になれば力業で大抵の施設は突破できるだろう。だがその保険に対し『スクール』の連中はかなり神経質な調整を行った」

「となると結局親船は『保険の一つ』で、『スクール』はこれから本命の『どこか』または『誰か』襲う予定ね」

「ああ」

 

上条はあっさり頷いた。

 

「親船暗殺は実行時点で保険としては機能したも同然。仮に死んでたとしても、その場合も心肺蘇生、検視や解剖で多くの人員が割かれるからな。曲がりなりにも統括理事会、十二人しかいない最高のVIP。学園都市の得体の知れない技術を総動員して対処する」

 

うわぁ、と貴音は嫌そうな顔をした。

上条は構わず、楽しそうな表情で告げる。

 

()()、親船最中暗殺未遂によって、警備が手薄になった施設をチェックしろ。その際に気を付けるべきは、暗殺の『成功』と『失敗』の二パターンとも洗い出す事。両方の場合で『警備が手薄になる施設』が存在するはずだ。十中八九『スクール』は次にそこを狙う」

「了解」

 

貴音はそう頷くと『目を覚まし』て、電子の世界へ潜っていった。その間貴音の体の方からは意識が無くなり、力が抜けたような状態で椅子から落ちそうになった所を、金髪を束ねて巨大な手にした弥美が、その体をベッドに寝かせた。

上条はその様子を見ながら、テーブルの上のお握りに再度手を伸ばす。

 

「いつ見てもスゲーよな。その体」

「最終調整前に放り出された未完成品ですけどね」

「完成品がもう見れないってのが残念だよな」

 

と、そこで唐突に運転席と後部の居住区を隔てる壁に設置されたスクリーンに電脳少女、エネが表示された。

 

『そう言えばご主人。結局『スクール』の狙いは分かってるんですか?』

「警備を手薄にして施設を狙うのでは?」

「襲おうとする施設には何があるか。その役割は何か。それが聞きたいんだろ? まぁ、時間つぶし程度に教えてやるよ」

 

上条は指についたご飯粒をペロリと舐め、沢庵を口に放り込んでから話し始めた。

 

「まず、暗部の連中が一番に考えるのは『何故、学園都市に暗部(こんな所)があって尚且つ自分が所属しているのか』だろう」

「私はリーダーに救われましたので」

『もともとご主人にはついていきますし』

「うるさいうるさい」

 

上条は手を叩いて場を仕切り直すと、

 

「そしてその原因の一端と怒りの矛先は、学園都市の権力的頂上である統括理事長。アレイスター・クロウリーにあるわけだ。そしてそんな事を考えるヤツらの最終目標はその統括理事長の『裏』、弱みなんかを握ってしまうことだ」

『ですがそれは、実質的に不可能に近いじゃないですか。だってアイツ、外に情報を漏らすことなんてほとんどないんですし』

「それでもさ貴音。やってみようって意志だけは無駄に強いのが人間だ。それに、何事にも『裏』ってのは存在するんだよ」

 

どこかの飲食店のメニューや大学の入学方法、知っての通り学園都市にも『裏』はある。だったら、

 

「こう考えないか? 統括理事長の秘密は正規の方法じゃ絶対手に入らない。なら非合法な手段で手に入れればいい。例えどんな手を使っても、さ」

『それは・・・・・・まさか・・・・・・』

「そう、『滞空回線(アンダーライン)』学園都市におけるアレイスターの直通情報網を形成する中核だ。その体内に収められている内容は、一般の『書庫(バンク)』に収められているモノとはレベルが違う。そしてそれを閲覧するための小型デバイスがあるらしい」

『え。そんな物、私達の備品には全部載せてあるじゃないですか』

 

使ってないだけで、とか余計な事を貴音は付け足した。

だが、実質その通りだ。先ほどまで乗っていたZにも、オルソラを乗せたバイク・更には携帯端末まで。基本的に彼等に支給されている装備や、所有物には『最高機密(アンダーライン)』への接続権が搭載されている。

例え、滞空回線の接続権(そんなもの)を持っていたとしても、上条は中の情報を真っ先に疑ってかかるし、時に『滞空回線』のネットワークに“エネ”を差し向けることもあるぐらいだ。ゆえに使用頻度は低い。

ピーッ! という警告の電子音がキャンピングカーに響き渡った。

車内スピーカーから、オペレーターも兼ねた運転手の慌てているようには聞こえない声が飛んでくる。

 

『緊急です。とミサカは慌ててデータを送りながら報告します』

 

エネのバックに学園都市の地図が表示される。

 

「第五学区・ウィルス保管センター?」

『学園都市のコンピュータウィルスを解析してワクチンソフトを作る施設ですよ。私もよくここ製のワクチンと喧嘩をしますから。・・・・・・どうやらそこがクラッキングを受けているようですね』

 

連続的に表示されている文字列を目で追いながら、エネが言う。

 

「何する気だ?」

「確かそこには意図的に作り上げられた実験用ウィルスもたくさんありましたよね?」

「おいおい・・・。ソイツが外部に漏れ出したら大パニックだぞ?」

『その「外」はどこまでの「外」ですか?』

「さてね。もし『外』なら真っ先に狙うべき場所があるはずだ」

『外部ターミナル緊急遮断を開始しました。と、ミサカは現状を報告します。第三学区・北部ターミナル遮断、第十二学区・東部ターミナル遮断、第二学区・南部ターミナル遮断、おっと。第十三学区西部ターミナル遮断確認できません。と、ミサカはぶっちゃけ危機的状況だと言うことを伝えます』

 

全く緊張感のない声に、上条は苦笑しながらも仲間に指示を出す。

 

「エネ。西部ターミナルの制御権を奪取。速やかに学園都市に返してこい」

『了解です!』

「弥美は俺と来い当分の間は行動を共にしてもらうぞ」

「分かりました」

 

上条達を乗せるキャンピングカーが第七学区を突き進む。

 

「・・・・・・第十八学区に入るまでざっと五分って所か」

「素粒子工学研究所に一体何があるんです?」

「正式名称を超微粒子物体干渉用吸着式マニピュレータ。平たく言って原子よりも小さな素粒子を掴む機械の指だ。通称を『ピンセット』」

 

学園都市に五千万個ほど散らばる目に見えない機械の情報を閲覧するために作られた学園都市の最暗部への『鍵』だ。

またもや警告の電子音が鳴り響いた。

上条が応じるように大声で言う。

 

「今度は何だ!?」

『第二十三学区でもクラッキングを確認。航空宇宙工学研究所附属の衛星管制センターが電子攻撃を受けています。と、ミサカは再三の事件を報告します』

 

衛星ですか? と弥美は眉をひそめる。

学園都市が打ち上げたものといえば、気象衛星という建前のスパイ衛星だ。これを使って学園都市や周辺地域を逐一監視しているのだが、

 

「ハッ。ますます面白くなってきたな。衛星ひこぼしⅡ号には地上攻撃用大口径レーザーが搭載されてたはずだ」

「マズいですね。ウィルス保管センターへのクラッキングも継続中なんでしょう?」

「対策チームは右往左往してるだろうな。いつもの実力を出させないための囮かもしれないが、『スクール』の作戦に便乗した他の組織の仕業かもしれん」

 

にしても何のために・・・? と、上条は首を傾げた。

地上攻撃用のレーザーはあるが、そこでどこを狙うのかは全く想像がつかない。候補がたくさんあるため、どのような行動に出るのか予想はつかない。

 

『奴さんの狙いは第十三学区です』

 

第十三学区? と弥美は眉をひそめた。

姿を見せないエネは声だけで彼等と会話をしていく。

 

「そんなところを狙ったって、外部接続ターミナル以外にめぼしい施設なんかありませんよ? あるのは幼稚園やら小学校ばかりで」

『ですから、それが狙いなんですよ』

 

エネは説明するのも嫌だという感じで忌々しそうに低い声で答える。

 

『第十三学区は学園都市でも最も幼稚園や小学校が集中している学区です。そこを攻撃すれば最年少の住人の大半が虐殺される。するとどうなるか。・・・・・・そんなところへ自分の子供を預けたいと思う親がいると思いますか』

「・・・・・・、」

『学園都市はあくまでも学生の街です。どれだけの住人がいてもいつかは卒業していきます。新入生がいなくなってしまえば、都市の人口は減るばかりで、最後には機能もできなくなるでしょう』

「・・・・・・十年単位で、この街をゆっくりと殺していくつもりか」

 

実際には学園都市は様々な科学技術を掌握しているため、財政面ではそれほど簡単には倒せないだろう。しかし、それにしても『子供のいなくなった学園都市』はその存在意義を奪われるにも等しいことに変わりはない。

 

「・・・・・・だからって、子ども達に手を掛けていいわけないだろうが!」

「リーダー・・・」

『管制センターのクラッキングから逆探知したところ、この行動を起こしているのは「ブロック」という組織であることが確認されました』

「ほぉ・・・。学園都市を潰すっつー手前勝手な理由で子供達を虐殺しようとしてんのはそいつ等か」

 

上条は凄まじく憎悪に満ちた笑みでもって立ち上がった。

 

「美咲。送迎ご苦労さん。後は俺達でやるから問題はねェ」

『了解です。と、ミサカは務めを果たしたことを誇ります』

 

上条はキャンピングカーの側面ドアを足の裏で蹴り付け、強引に開ける。

そして逆上がりのようにキャンピングカーの屋根に登ると、そこに置いてあったアメリカンタイプのバイクに乗り込んだ。

 

「リーダー!」

「飛び乗れ!」

 

上条はバイクを操り車の屋根から飛び降りる。

側面ドアに平行するようにバイクを走らせれば、その後部座席に弥美が飛び乗る。

 

「エネ、ナビゲート任せられるか?」

『人使いが荒いご主人様ですこと』

「頼んだぞ」




バイクのイメージはヤマハのドラッグスター

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