幻想殺しと電脳少女の学園都市生活 作:軍曹(K-6)
学園都市・第二十三学区。
航空・宇宙産業だけに特化しただけの学区で(もはや
「第二十三学区って事は、飛行機に乗るのか」
「ま、国外に出るからな」
「でしょうねー。しかも騒動の中心だろ? どうせ行くの。バレたら国際的非難の的だな」
バスターミナルから国際空港行きのものに乗り込んだ土御門に、上条達もついて行く。
「なあ? 土御門。俺達はどこに行くんだ」
「フランス」
「フランス?」
「ヨーロッパか・・・。また遠いな。っつーと、大体一時間ちょっとか」
「・・・? ご主人。一〇時間ぐらいかかりません?」
上条の回答に疑問を持った貴音が質問するが、上条は分かりきった様子で。
「いや、どうせあれに乗るだろうし」
上条は空港のターミナルビルからやや外れたところの滑走路に止めてある、全長数十メートルクラスの大型旅客機をさして言う。
「あの、嘘ですよね?」
貴音は半分絶句しながら、上条に確認する。
「あれ、ですよね。確か―――」
「「―――
はっはっはっ、と土御門は笑いながら、
「何事も速い方が良いだろ」
「速すぎなんですよ!! 乗った事あるんですか、乗ってる間分厚い鉄板でゆっくり体を押し潰されてるみたいな感覚がするんですよ!? 胸が小さくなっちゃいますっ!」
「もー。貴音っちったら、これから非公式国外活動をするっていうのに、まさか機内食をゆったり食べて映画を観ながらフランスへ向かおうとか思ってたんじゃないだろうにゃー?」
「それ以上小さくなる胸なんてないだろ・・・・・・」
「い、いや、流石にそこまでは思ってませんけど・・・・・・。え、マジであれ乗るの? わっ私はあまりオススメはしませんよ!? ・・・って、ご主人今失礼な事言いませんでした!?」
「大丈夫だって。マッハ3を超えちまえば感覚的にもう違いなんて無いから。安心しろよ貴音」
「どの辺がどう大丈夫なのか説明してください!! あと謝れ!」
貴音がグダグダと文句をつけたが、上条と土御門は『はいはい機内でな』と言うだけで取り合わない。
土御門の案内で業務用の扉や通路を潜り抜けると、一般的なゲートを使わずに超音速旅客機へ向かった。
*
「C文書。―――それが今回のカギとなる霊装の名前だにゃー」
広い機内に、土御門の声が響く。
超音速旅客機のサイズは、一般的な大型旅客機より一回り大きい。そんな広々と感じてしまう空間を、どうせ三人でしか使わないのだからと、上条と貴音と土御門は一番高級なファーストクラスのど真ん中を陣取っていた。箱詰めのようなエコノミーとは違い、足を伸ばしてもスペースが余るぐらいの余裕があった。
そんな中、土御門は隣の席にいる上条達の方へ顔を向けて。
「正式にはDocument of Constantice。初期の十字教はローマ帝国から迫害を受けてたわけだが、この十字教を初めて公認したローマ皇帝が、コンスタンティヌス大帝。で、このコンスタンティヌス大帝がローマ正教のために記したのがC文書って事になるぜい」
「それに記されていたのが、十字教の最大トップはローマ教皇であるという事と、コンスタンティヌス大帝が治めていたヨーロッパ広域の土地権利などを全てローマ教皇に与える。だろ?」
「・・・・・・なんか、ローマ正教にとって胡散臭いぐらい有利な証明書ですね」
土御門は座席横にあるタッチ式の液晶モニタをいじりながら言った。
「霊装としてのC文書の力は・・・・・・そうだな、コンパスみたいなもんだって言われてる」
「コンパスぅ?」
「C文書が示した土地・物品は全てローマ正教に開発・使用の決定権が委ねられるって事になるんだ」
「はぇー。コンパス兼礼状ですね・・・」
「このC文書、その真偽はもの凄く胡散臭いんだろ?」
「ああ。だが、C文書の真の効力――――――霊装としての力は、
「はぁ?」
「その程度って事は・・・・・・」
「C文書の真の効果はもっとスケールがデカいんだ。そいつは『ローマ教皇の発言が全て「正しい情報」になる』というものだった」
「そ、それって!!」
貴音は身を乗り出して。
「『学園都市にはホモしかいない』と言ったら、誰もが信じるって事ですかぁ!? 根拠がなくても!?」
「そういう事になるが・・・、なんで同性愛者の話なんだよ・・・・・・」
「カミやん。貴音っちの例えはあながち間違ってないぜい。どんなにくだらない事でも、『教皇様の言う事だから間違いない』って思わせるだけのものだにゃー」
「物理法則がねじ曲がるわけではない。と」
「人間の心理ですね。従わない人間がでると困るから、威厳を保つための小細工が必要なんですね」
「神は絶対なんて言葉は揺らぐさ。それこそ、神を信じなくなる人間も多数出てきた。でも、ローマ正教としては、『神は絶対』を貫かなきゃならなかった。だから必要だったんだよ。大きな危機の前に、人々の心が離れちまわないように。C文書っていう霊装が」
「いわば、理想と現実の隙間を埋めるための霊装、と言ったところですね」
「なあ、貴音。お前大丈夫か?」
「言わないでください・・・。我慢してる・・・んですから」
「貴音っち、本当に大丈夫か。辛かったら深呼吸してみろ」
「ほら吸ってー」
「すー」
「吐いてー」
「はー」
「もう一度吸ってー」
「すー」
「また吐いてー」
「はー」
そんな事をやっている内に機内のスピーカーからポーンと柔らかい電子音が聞こえてきた。更に続けて、まるで合成音のように整えられた女性のアナウンスが流れる。
「・・・っと、そろそろ時間がなくなってきたみたいだにゃー。カミやん、貴音っち本当に大丈夫か?」
「しんどそうだけどな。こりゃ一度吐いちまった方が楽になるのか?」
「それならほらほら。案内するからこっち来いこっち。シートベルトの着用ボタンとか外しちゃって。フライトアテンダントとかいねーから気にする必要はないにゃー」
土御門は何の気なしに席から立つと、貴音ものろのろとそれに従う。自分の意思で動いていると言うよりも、朦朧となった頭が勝手に動いているような感じだった。
上条はそんな二人の後ろを歩いていた。土御門は通路を歩き、扉を開け、更に細い通路を歩き、頭がぶつかりそうになるほど低いハッチを潜り抜け、金属が剥き出しで周囲から轟々と音のする所まで歩いてきた。
「というか、どこだここは?」
上条の質問を無視して、土御門はリュックサックのようなものを押しつけてくる。
「はいこれ着けてこれ」
「おい? これって」
「??? 土御門さん? あの、吐いた方が楽になるっていうのは?」
「大丈夫大丈夫。すぐ開くから。ほら早く着けて」
言いながら土御門は既にリュックサックのベルトを体に巻いている。両肩の他にお腹や胸にもベルトを固定させる方式の、なにやらごつい仕組みだ。
上条はそれが何か分かっているからテキパキと着けていくが、貴音は頭が回らないのだろう。見よう見まねでベルトの固定器具を留めている。
「よし、貴音っちもオッケーだにゃー」
土御門は壁についている缶詰の蓋ぐらい大きなボタンに掌を叩きつけると
「じゃ、思う存分吐いちゃおうぜーい!!」
ごうん、という妙な音が聞こえてきた。何らかの太いポンプが動いているのだ、と貴音が気づいた直後、
ガバッ、と。
唐突に機体の壁が大きく開き、その向こうに青空が見えた。
「はい?」
と貴音は思わず目が点になった。
そして、目を点にしている場合じゃないほどの烈風が畿内を吹き荒れ、あっという間に全てが機体の外へ放り出されそうになる。
「つっ、つつつつつつつ土御門ォーッ!?」
貴音は慌てて機内の壁の突起に両手をかけたが、何秒持つか分からない。
轟々と風が流れる中、土御門はニヤニヤと笑いながら、
「さあ貴音っち、準備は終わったから思う存分吐いちゃうにゃー」
「吐いちゃうにゃーじゃねーですよっ!! どうなってんですかぁ!! あっ、あんた。さては荷物搬入用の後部ハッチを思いっきり開放しやがりましたかーっ!!」
「いや、貴音。馬鹿正直にフランスの空港に着陸しちゃったらローマ正教のクソ野郎どもにバレちまうだろ」
「そうだにゃー。この飛行機はロンドン行きですよ? オレ達はここで途中下車」
「馬鹿ですか!! 機体の速度を考えなさい! 時速七〇〇〇キロオーバーでハッチなんか開放したら、この飛行機が中からバラバラになっちまうっちゅうんですよ!!」
「悪いもう開き済み」
「死!!」
「バーカこれくらいじゃ死なねーだろ。ほら行くぞ」
上条が貴音を壁から引きはがし、そのまま大空へと投げ捨てた。土御門が続いて飛び出そうとした瞬間に、リュックサックを投げ捨て上条が飛び出した。
「ちょ、カミやん!?」
現在時間はお昼過ぎ。
清々しいほど青い空の下、女子高生の悲鳴と男子高校生の笑い声が炸裂する。
「いやぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
「イヤッホォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
三六〇度で青空展開中。
上条は完全に楽しんでいるが、貴音はものすごい勢いで回り始めている。
「貴音ー。お前エネになれば飛べるだろー?」
「・・・・・・ハッ!!」
上条がそう声をかけると、貴音は何かに気付いたようで、とっさに大きな白い天使の羽がリュックサックを強制分離させて広がり、風に逆らい始める。
「戦略用エンジェロイド・・・。Type“α”『イカロス』・・・・・・モード
呟いた貴音の衣装が変わり、彼女の頭上に光の輪が浮かぶ。その様子はまさに天使だった。
「おおっ。ウラヌスクイーンか・・・。じゃあこっちも」
上条は手袋をはめると一息でハイパー化した。
上条と貴音。両者ともそれぞれの方法で減速していく。