幻想殺しと電脳少女の学園都市生活 作:軍曹(K-6)
挨拶の書き忘れという。
ここのところ、小さな火種が乾燥した藁の山へ燃え移るように、ここ数日で世界の動きは大きく変わった。ローマ正教側が世界中で同時に起こすデモ活動と、それに対する一部の過敏の反応が、次々と争いを加速させてしまっている。
そんな今回の大きな『争い』の中心には、とある一人の少年の存在がある。
上条当麻。
そんな少年は、
「・・・調子悪いですねぇ・・・。ご主人」
学園都市統括理事会の地下室で、能力の測定と調整を行っていた。
より厳密に言うならば、能力の測定は上条だけではない。榎本貴音も一緒に測定を受けていた。
「・・・・・・完全に能力の暴走状態だ・・・。制御が効かねぇ・・・。ッ! 貴音・・・離れろ・・・ッ!! 第二波来るぞっ」
「うえぇえ!?」
ズドンッ!! と腹に響くような大きな音が響く。その音の発生源は上条当麻だった。
(えーと。先ほどまでが死ぬ気の境地状態だったから・・・・・・今度は?)
貴音が噴煙の向こうにいる上条をみると、そこにはコウモリのような翼を大きく広げ、紅の眼をした吸血鬼がいた。
(う、うえぇぇ!? ヴ、ヴァンパイア!? ま、マズいですよコイツァ!!)
「ここから早急に離れるんだ。お嬢ちゃん」
「逃げて、貴音ちゃん」
「・・・え? え? アーカード!? ミナさん!? なんかハッキリしてますけど!?」
「何故かはじき出されたようでね。今の彼は第三波が来るまで吸血鬼として暴れるだろうが・・・」
「・・・止める手段はないし、ね」
「ここからでられる確率は低いと思います。この密室は全方位窓の無いビルの外壁と同じ『
そういった瞬間。
上条当麻の一撃で、その恐ろしい耐久力を誇る窓の無いビルと同じ素材に亀裂が入った。
しかも、その一撃は拳ではなく掌で行われていた。
「What‘s!?」
「ハハハハハハハハッ!! やはり我がマスターは素晴らしい! 戦う気も失せるほどだ!」
「アハハ・・・・・・凄いね。やっぱり。
さらにその握る力を込めていくと、まるでスポンジが潰れて周りが引っ張られて行くように、壁にさらに亀裂が走る。
「ちょ、ちょっと待てやゴラァァァアアアアアアアアアアアア!!!!」
「ふむ。仲間内での闘争か。面白そうだ」
「楽しみすぎですよ。アーカードさん」
「闘争とは、それだけで良いものさ。今の私は、それほど闘争に興味も無くなったがね」
上条の脇腹を全力の勢いで蹴り飛ばす貴音。蹴り飛ばされた上条は
「暴走状態とは・・・ここまでに酷いものなのですか・・・・・・?」
「恐らく、暴走状態によって、シュレディンガーが暴れている」
「シュレディンガー・・・って、あの猫の実験を行った人物ですよね。確か平行世界の提唱をした・・・」
「私の喰らった命の中に同じ考えと名前を持つヤツがいた。マスターにあったのもヤツを喰らい、私が何者か認識できなくなっていたときだった」
「その考えを・・・ご主人は喰らっていたんですか?」
「ああ。自分を認識できていたのは恐らく、幻想喰いではなく、マスター自身の強い精神力によるものだろう。だが今は暴走状態にあり、精神が不安定、そして、ヤツのどこにでもいてどこにでもいないというチカラが、彼自身を血を求めるだけの化物にしてしまっている」
「じゃあ、私が元に戻して見せます」
「できるのか?
「『できる』『できない』じゃないです。
貴音は駆け出すと同時、いくつかのカードを出現させる。
その中の一枚が輝くと同時、貴音は息を吸い込んだ。
「麗装「博麗式段幕」!」
その一枚のカードに描かれた二つの陰陽玉と一本の
陰陽玉は彼女の両腰の辺りに一つずつ、少し間を開けて浮く。御札は左手に、お祓い棒は右手に握って彼女は上条の懐に入る。
「妖器「無慈悲なお祓い棒」!」
「ガァ・・・ッ!!」
振るわれた右手のお祓い棒で上条の体は吹き飛ぶ。数メートルノーバウンドで飛ぶと、床を転がった。
「・・・どうやら、“人間”の時の防御力は無くなってるみたいですね。なら、いけますッ!」
大量の御札が意思を持って飛び出し、そのいくつかが上条の体を肉体的に引き裂く。
「・・・・・・ほぅ。血を求めるだけのグールになっても回復するという知識はありますか、大抵のグールは傷ついてもそのままなんですけどね」
貴音は褒めると同時、ジャッカルをその左手に持つ。
「安心しなさい。心臓は狙いませんっ」
放たれた銃弾は上条の額に吸い込まれたが、それは頭を破壊する一撃にはならず、上条の指で挟まれて止まった。
「ヌルフフフ。撃たれてみて初めて分かりますが、もの凄い破壊力ですねぇ。この銃弾」
「当たり前だ、マイマスター。それは我らが王立国教騎士団HELLSINGの対化物用戦闘拳銃『ジャッカル』だからな」
「まあ最も、私には効きませんがね」
「ご主人は何で彼のモノマネしてるんですか」
「あっはっはっ」
上条が愉しそうに笑うと、スピーカーからアレイスターの声が聞こえてきた。
『上条君。君宛にイギリスからの贈り物だ』
「贈り物・・・・・・?」
『君の部屋の前に置いておいた。開けてみてくれ。彼からの手紙では、生ものだからすぐ開けるんだぜい。だそうだ』
「・・・・・・ふーん」
上条は上っ面だけの返事をして黒い炎を灯し空間を渡る。
「お、第八属性“夜の炎”」
窓のないビル内に造られた、上条当麻専用ルーム(無駄に豪華)の前に大きな段ボールがあるのが上条の眼に見えた。
「・・・中身は何だよ」
(・・・この大きさ。身長低い人間なら余裕で入るのではなかろうか)
丁寧に段ボールのガムテープをはがしていく上条。その一方で、雑念が結構多かったのだが。
段ボールのふたを開けると、銀の逆さ十字が見える。
「ハッ。吸血鬼に棺桶送るとは・・・。眠ってろってか?」
上条が右手でその棺桶に触れると、幻想殺しが発動した。上条がびっくりして停止していると、中から衣擦れの音がし始めた。
「・・・小さな吸血鬼でも送ってきたのか・・・?」
上条が棺桶を開けると、可愛らしいゴスロリ衣装を着たレディリーと目が合った。
「不死者ってトコはあってたか。元だけど」
「と、当麻ぁ~!!」
「おとと・・・」
涙目で上条に抱き着いてきた彼女には、以前のような大人っぽさはどこにもなかった。
「どうした? レディリー。何しに来た?」
「あ、えと。当麻にほら、私、面倒見なさい、って、言ったれしょ? らから・・・」
「落ち着け落ち着け。後半呂律回ってないから」
「ひっひっふー、ひっひっふー」
「それ、ラマーズ法だから。お前妊娠してないから、落ち着け」
数度深呼吸を繰り返したレディリーは落ち着いたらしく、上条を見る目が変わった。
「約束したでしょ。面倒見てもらうって。ようやく、戻ってこられたのよ」
「・・・ほほう、なるほど。こりゃ本格的にアルコバレーノへの引っ越しを考えた方がよさそうだな・・・」
『手配しておこうか?』
「・・・相変わらず、どこから聞いてんだよ。引っ越し業者、というより俺の学生寮の管理を誰かに任せたい」
『・・・ふむ。美咲ちゃんでどうだ?』
「あいつか。キレイ好きの家事万能少女だから、期待はできそうだな。頼めるか?」
『君の頼みだと言えば、喜んで引き受けるだろう』
「まあ、それでいくつかのアジトの管理をあいつらに任せてるからな・・・」
「ね、ねぇ。何の話してるの?」
「こっちの話だ。お前は気にしなくていいんだよ。レディリー」
上条は優しくレディリーの頭を撫でた。