幻想殺しと電脳少女の学園都市生活 作:軍曹(K-6)
グワッと空気が一瞬で変わる。
闇の中で無数の眼が、ヴェントの方を見ているというなんともおぞましい光景が広がっている。
「こんな膨大な魔力・・・。アンタただの吸血鬼じゃ無いね!?」
「んー? そうかもな。何せ俺の吸血鬼の
「ドラキュラ伯爵・・・? 馬鹿言ってんじゃ無いよアンタ」
「公爵、ね。伯爵って・・・位一個下がってんじゃん」
上条はその闇の中でどこにいるのか既に分からない状態で、なお喋り続ける。辺り一面の眼の大群の中に、上条の体はある。
「魔術師がさ、信じる神様を冒涜する。この右手とこの体質・・・。嫌うのは分かるけどさ、科学を敵に回したら駄目だろ」
「私は科学が嫌い! 科学が憎い!!」
ヴェントは闇雲にハンマーを振るい、風の魔術を起こし闇に当てる。その度に彼女の口から血が流れ出るが、それでもなお続ける。
「私をこんな風にした科学が嫌い! 私の弟を見殺しにした科学が憎い!!」
上条の闇を天使の攻撃が貫こうとする。が、突き破れずに終わるが、それは別に上条を狙って攻撃をしているわけでは無い。
「科学なんてこんなモンだ!! アンタもその一員なのよ! 気持ち悪いと思わないワケ!?」
闇を払うように今一度、ヴェントの攻撃が空を切る。
「無駄だよ魔法使い。お前は今水面に映る月を相手に攻撃しているんだ。吸血鬼ってのはそういうものさ。特に、俺みたいに大量の命を持っているタイプは、な」
それと、と上条は続けて言う。
「お前さぁ。俺の主人の事を侮辱したらしいな。それだけで理由は十分」
上条は最初から返答など求めていないように言葉を紡ぐ。
「お前、
上条が姿を現した。だがその手に持っているものは異常だった。
髪から、腕から、腰から、電気がポジトロンスナイパーライフルに吸い込まれていく。
「外さねェよ。何の因果か知らないが、ここでは魔術師は魔術を使うと暴走・自爆する。ならば、今のそれがお前の限界だ。人を使った盾すらも使えないお前はな!!」
「『神の右席』を・・・・・・舐めてんじゃねぇぞおおおお!!」
姿を現した上条に向かってヴェントは攻撃を仕掛けようとする。が、その距離はどれだけ走っても数十秒はかかってしまう。それだけあれば上条には十分だ。
「科学が嫌いって言ってたよな」
スコープ越しにヴェントを覗く上条は呟く。
「その科学の力によって倒されな」
引き金が引かれ、莫大なエネルギーが光弾を放つ。それは文字通りヴェントの体の中心を撃ち抜いた。
「科学を否定するって事は、お前どうやって
「・・・・・・は?」
「世界は自然科学で溢れてる。例えば、ギリシャ神話で太陽は金の馬車に乗った英雄と例えたらしい」
「は? 馬鹿じゃ無いの?」
「そうだよな? そうさ。太陽は熱を持った熱の星。恒星さ。それが分からなくても、熱を持つ球体ってのは分かる。それが自然科学だ。家が建つ仕組み、食事を作るまでの工程、国から国へ渡る手段。全て、科学だ。お前が否定しようとしているのは、全人類が生活に必要としているものだ。『神の右席』なんて大層な場所に座ってて、そんな事も分かんねぇのか。お前等の信じる神様は下界の進歩を全く認めようとしないんだな」
「ふざけんじゃ、ないわよ・・・・・・」
「うるさいガキが。テメェがどんな理由で科学を嫌ってるのなんか全く、これっぽっちも、興味なんかねーよ。だがな。それだけで、なんの関係も無い人間を巻き込むのは間違ってる。何も知らずに、ただそこにいるだけの人間をな!!」
「・・・・・・私の弟は、科学によって殺された」
「・・・急にどうした」
赤く染まった歯を食いしばり、光弾を受けた体を起こし、全力でハンマーを振り上げ、彼女は続ける。
「遊園地のアトラクションの
「お前・・・・・・」
「だから私は科学が人を救うなんて信じない。そこの天使も同じってコトよ。何が人を守ってるだ。その陰でしっかり破壊してんじゃない!!」
「当たり前だろ。そんなこと」
上条は呆れたような顔でそういった。ヴェントも思わず『は?』としか声が出なかった。
「
上条は反論しようとしたヴェントの口が開くより先に口を開く。
「さっきからテメーが吐いてるその血だが、RH-だろ? 今この空間は俺の体の一部みたいなものだから分かるんだけどよ。確かにこりゃ珍しい。おそらく、一人分しか用意できなかっただろうな。それで、あんただけが助かった。だから科学を信じない? 馬鹿か。お前の弟がどうやって死んだかとか、どんな気持ちでお前が助かったとか。至極どうでもいい。お前の人生だから、ケチをつける事はしねーけどさ。もっと楽しく生きようとか思わなかったわけ? 弟さんの分までさ。まあホントにどうでもいいんだけど」
上条は面倒くさそうにそう言うと、拳を構える。
「悪いけど、殺すのは『遊び』のルールに反するんでな」
上条は一瞬で距離を詰める。ヴェントは驚きのけぞるが、もう遅い。
「通常「普通のパンチ」」
上条の恐ろしい威力の拳が、ヴェントの胸の中心を撃ち抜いた。
「チャンスをやるよ。じっくりもう一度自分の人生と向き合ってこい。この大馬鹿者」
▽
「どうですか? エイムさん」
『問題ありません。インデックスさんと御坂美琴さんの協力によって、エラーは順調に回復されています。一時は私自身が暴走しそうになりましたから』
「私もちょっとやばい状態です。輸血パック何袋目か、分かりませんからね」
貴音は数十個目の輸血パックを唇で挟み、牙を立て、中身を吸い出す。
「・・・・・・・・・・・・んむ?」
『・・・あれは・・・』
少女二人が見る方向には、巨大な気が移動していた。
▽
上条は気絶したヴェントを放って、吸血鬼の能力を再拘束し始める。
その時、
ゴンッ!! と。
突然目の前のコンクリートの山が砕け、周りが灰色の粉塵で覆われた。
「・・・お前誰だよ。まあ神の右席の関係者なんだろうけどよ」
だが、上条の眼には関係ない。吸血鬼としての“魔眼”に、眼球の王と呼ばれる“神々の義眼”彼の眼の前では、目くらましなど通用しない。
ちなみに粉塵の原因は、風力発電のプロペラだった。
上条はぐったりとしたヴェントを抱える男に向かって話しかけていた。
「失礼」
男は言った。流暢な日本語で。
「この子に用があったものでな。手荒な真似を避けるために目を眩ませてもらったが、気に障ったかね」
「誰だ? って聞いてるんだけど」
「後方のアックア。ヴェントと同じく、『神の右席』の一人である」
「・・・へェ」
上条は異常なまでの闘争心を剥き出しにした。あれだけの風力発電のプロペラを引き千切れるのだから、相当強いと踏んでの事だ。
「アンタ強いんだろ? だったら遊ぼうぜ?」
「一つだけ、貴様に教えてやる」
彼は堂々と背中を向け、それから言った。
「私は聖人だ。無闇に喧嘩を売ると寿命を縮めるぞ」
「・・・・・・なんだ。つまんねーの」
上条がそう言うと、彼が剥き出しにしていた闘争心が消える。忠告を受けたからではない。ただ単純に興味がなくなったような雰囲気だった。
既に消えたアックアに向かって上条は言う。
「聖人ってさ。俺の中では弱い方なんだよ。神様のご加護ってだけで自分自身は何も強くない。でもさ、アンタが俺と戦いに来たときは、その時は遊んでやるよ」