幻想殺しと電脳少女の学園都市生活   作:軍曹(K-6)

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雨粒を血の色に変える Revival_of_Destruction.

死体(死んでいない)の海の中に一人立つ上条は銃口を依然水平に構えたままだった。

打ち止めは首を傾げるが、その疑問の正体は前方から歩いてくる人物によって解消される。

 

見えない一撃。

 

距離も離れているのに、一、二歩下がった上条がいた場所を潰すように、アスファルトの地面にクレーターができている。

 

「ハッアァーイ♪ びっくりしちゃったカナ。怖くないよー?」

「そんな戯れ言を信じろってのかよ」

「ハハッ。怖がってるねぇ。でもさー、こっちにも事情があるからさー、あんまり言うコト聞いてくれないとー」

「んだよ」

()()()()()()()()()()()()()()()

「あ?」

 

上条は数歩後ろに下がる。

ドッ!! という轟音が響く。

見えない一撃が、上条の体を横に吹き飛ばす。

 

「っ・・・・・・」

 

ガラガラと、瓦礫をかき分けながらビルの中から這い出た上条は、右目が神々の義眼、左目が吸血鬼の魔眼で開いていた。そんな彼はうなるように言う。

 

「・・・・・・お前は」

「『神の右席』の一人、前方のヴェント」

 

ヴェントと名乗った女は、イタズラのように舌を出す。

 

「目標発見。まぁそんなワケで、さっさとぶっ殺されろ上条当麻」

 

舌に取り付けられた細い鎖がじゃらじゃらと落ちた。

 

―――その先端にあったのは、唾液に濡れた小さな十字架。

 

 

上条は無言で携帯を取り出すと、とある場所に発信する。

打ち止めはそれを怪訝そうに見ていた。

 

「よう。今回の犯人(ターゲット)を見つけたぜ?」

『・・・ふむ。そうか』

「どうする? 殺るか?」

『・・・だが』

「そうだ。相手は人間だ。魔術という玩具(オモチャ)を持った人間だ。だが、俺は殺せる。微塵の躊躇も無く、一片の後悔も無く鏖殺できる。この俺は化物だから、ではお前はどうだ? 銃は俺が構えよう。照準も俺が定めよう。弾を弾装にいれ遊底を引き、安全装置も俺が外そう。だが殺すのはお前の殺意だ。さぁどうする!? 命令(オーダー)を!! 学園都市統括理事長、アレイスター=クロウリー!!」

 

電話の向こうで歯軋りが聞こえる。おそらく悔しがっているのだろう。上条は返答を確信してニタリと笑う。

釣り上がった唇から白い牙が何本も見えた。

 

『私をなめるな従僕!! 見敵必殺(サーチ&デストロイ)!! 見敵必殺《サーチ&デストロイ》だ!! 従僕!! 私は命令を下したぞ!! 何も変わらない!! 我々に敵対するあらゆる勢力は叩いて潰せ!! 全ての障害はただ進み押し潰し粉砕しろ!! それが例え誰であっても!! それが例え何であっても!! 逃げも隠れもせず正面玄関から打って出ろ!!』

「クッククク・・・」

 

上条は携帯電話の通話を終了させると、ハーディスを影にしまう。

そして同時に、もう一丁の拳銃を取り出した。

ジャッカルに似た白色の拳銃。454カスールカスタムオートマティックだ。

 

「さあ、夜はこれからだ!」

 

 

 

 

 

            ▽

 

 

 

 

 

榎本貴音は掃除をしていた。学園都市には喰屍鬼(グール)が稀に訪れる。それも訪れるときは一度に大量に現われる。それは何故か、上条達が学園都市の中心にエサを置いているからだ。だからそれを食べたいグールはなにも考えずに学園都市までやってくる。グール専用として解放した入り口から入れて処理する。

定期的に処理しなければ、被害が出る。彼らはゴミ処理係に変わってゴミ処理をしているのだ。

入り口近くで待機していた貴音はハルコンネンの銃口をグール達に向ける。

そこに情は無い。これはただの掃除なのだから。

 

「意思もない、ただ血を求めるだけのなり損ないが、死ね」

 

引き金を引く貴音。ベルトに運ばれ次々と二門のハルコンネンに装填されては撃ち出されていく。三十ミリという化け物級の銃弾が、グール達を死滅させていく。

 

御主人様(マスター)のためだ。せめて苦しまずに逝かせてあげようか? いや、もう死んでるんだったな」

 

貴音はクスリと笑う。ハルコンネンの引き金から指を離し、前を見る。吸血鬼としての視力が、視界を綺麗に映し出す。

 

「・・・まだ来るか。ご主人、そっちは大丈夫でしょうね?」

 

 

 

 

 

            ▽

 

 

 

 

 

打ち止めも、ヴェントも困惑していた。

目の前の、上条当麻という高校生はいなくなったと言っても過言では無かった。

代わりに立っていたのは赤いコートに赤い帽子、サングラスに白い手袋をした、高身長の青年だった。その両手には、上条が先ほど握っていた二色の拳銃が握られている。

 

「へぇ。姿も変えられるのかい? 面白いじゃん」

「な、なんで変えてるの? ってミサカはミサカは恐る恐る尋ねてみる」

「姿形など俺にとっては何の意味もない。つまるところ、ただの余興だ」

 

上条当麻の声では無かった。低い、高校生とは思えないほど低く、それでいてどこか色気を匂わせる。そんな声だった。

 

「姿に合わせて声を変える必要も無いのだが、変えた方が面白いでは無いか」

「へー? どう楽しませてくれるんだい?」

「それはお前が知る必要は無い。お前は今からここで、一つの命として散るのだから」

 

上条が持つ両手の銃が火を噴いた。その重たい反動が、驚異的な破壊力の反動を、上条当麻の吸血鬼の体は受け止める。ただそれだけじゃ無い。異様なまでに似合っているのだ。今上条当麻がなっている姿に、二丁の拳銃が。

それもそのはずだろう。彼が今なっているのは、両の拳銃の元持ち主で、上条の吸血鬼としての能力の核。アーカードの姿なのだから。

それに対抗するように風の塊が飛んでくる。

だがそれは、ヴェントが振るうハンマーの動きとはどこか軌道がずれている。

 

(・・・まあ問題は無いだろ。吸血鬼の回復力どうこうの前に、俺の肉体の防御力を突破できるヤツがいるとは限らないし・・・。いやーそれにしてもビアージオの時の十字架はビビったよな。流石に吸血鬼の体も聖十字には敵わねーか)

(「当たり前だろう。そもそも何故敵うと思った」)

(いや、だってアンタ最強のチート吸血鬼じゃん。それに加えて俺、幻想喰いの持ち主ですよ? そう簡単にやられるとは俺自身でも思わないわけでして)

(「まあ、目の前の敵は大丈夫だろう。油断はするなよ。上条」)

(誰がするかっての)

 

上条は自信が取り込んでいる命との会話を終わらせると、改めてヴェントに向き直る。

 

「幻想殺し、って言ったっけ? その右手、報告にあった通り効き目バツグンみたいねぇ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

(本命ってこれのことか? いやいや、こんなしょぼい魔術消せなくてどうする。こっちが今まで何を消してきたと思ってんだよ、コイツは)

 

打ち止めがビクビクと震えている。それに気づいた上条は一瞬で影になり姿を元に戻すと。打ち止めのおでこに貼ったお札を剥がし、目視できる結界を打ち止めの周りに張った。

 

『これは!? ってミサカはミサカは一人で戦おうとするあなたに問い詰めを行ってみる!!』

「邪魔なんだ。怪我をされても困るからそこでじっとしててくれ、どうせアンタの狙いは俺なんだろ? 前項のウェンポ・・・だっけ」

「前方のヴェントだよ。しかしよく分かってんじゃん。そうだよ。()()()()()()()()()

 

話しながらもヴェントは巨大なハンマーで空気を薙いでくる。

 

()()()()()()()()()()。あの禁書目録ですら、アンタに比べりゃ軽いってコトよ。今のアンタは間違いなくローマ正教の敵、いやもしかしなくても十字教の敵。そして我々はどんな手を使っても敵を殺す。極端な発言をしてあげよう。我々は、日本という一国家を消滅させてでもアンタを殺すわよ。・・・・・・と言っても、()()()()()()を考えると、私のいつものパターンは使えなさそうだけど。何せ、直接殺さなくちゃならないみたいだしね」

 

良いながらヴェントは手品のように書類を取り出しヒラヒラと振った。

何かの命令書のようだ。暗がりで見づらいが、上条の目には見えている。それは日本語では無かった。書かれていた内容は、

 

「この通り、ローマ教皇直々のサインつき。アンタは二十億人から狙われる身なのよ」

 

それを聞いた上条の表情は読めない。顔全体が闇のように黒く、その表情は読み取れない。

ようやく読み取れるようになったと思ったとたん。その唇の両端は釣り上がっていた。

 

「フッ。フハハハハハハハハハハハ!!! そうだ。そうで無くてはならない。私のような化物は、人間に倒されなくてはならないのだ。良いぞ、良いぞ! 二十億人か!」

 

その変化に誰もが驚いていた。

次の瞬間。上条の後ろから出てきた半透明の何かが()()()()を殴りつける。それと同時に、殴りつけられた反対側から、半透明の、先ほど上条がなった青年。()()()()()が現われた。

 

「何、人の主導権乗っ取ってんだよアーカード」

「い、いやすまない。つい楽しくなってしまってな」

「なら戻ってくれ」

「ああ。分かってる」

「確かにアンタにとって、それは嬉しい事なのかもしれない。だがな、アンタは既に人間に倒されてるんだ。そこの所分かっとけよ、公爵」

「ククク。分かってるさ」

 

そう言って半透明のアーカードは上条の体に消えていった。

 

「まあ最も俺を殺すのは、人間で無くてはならないし、それをするのは意外と簡単だ。ただ単純に、心臓を破壊すれば良い。それもたった数百万回だ! 楽しいだろう?」

 

上条は聞いたが、もう答える者はいなかった。

ヴェントが口元から血を流していた。彼は思わず『もったいない』と口にする。

彼女は苦しみながらどこかへ飛び出していった。

 

(攻撃を受けて慌てて避難した・・・? いや、でも、一体誰が? 貴音・・・は俺が勝つって信じてるし。アレイスター・・・は過保護だけど闘争に口を出す奴じゃ無い・・・・・・。それにしても)

 

『神の右席』。

前方のヴェント。

そして、ローマ正教。

 

上条は目下の問題を解消する策を考えるために必死に頭を回転させる。気がついたら周りに打ち止めの姿は無くなっていた。


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