幻想殺しと電脳少女の学園都市生活   作:軍曹(K-6)

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―――東京西部の未開拓地を切り開かれて作られた街。それが『学園都市』埼玉・東京・神奈川の三県にまたがる円形の形をしたその街は、人口二三〇万人弱を抱える“学生”の街だ。この街は誰もが認める『超能力開発機関』だ。といってもその人口の約八割が、脳の血管ブ千切れるまで頑張ってもスプーン一つ曲げられませんと言われているようだから、何も全員が人間をやめているという訳ではないらしい。これはそんな街に住む一人の少年を中心に進む生活記録(ストーリー)である。


プロローグ
幻想喰いを持つ少年のお話 The_Imagine-Eater.


「――――あっはっはっ! くっそー! 今日もトッポみたいに不幸タップリだぜこんちくしょうがァァあああああ!!」

 

その叫び声に続くように哄笑をを上げながら上条当麻は凄まじい逃げ足を止めようとしない。

深夜の路地裏をかれこれ二キロ近く走り回っているのに、まだ八人。

基本平和主義者の上条当麻からしてみればこの人数を相手にケンカを挑む事はできない。()()()()()()()殺めてしまう可能性があるからだ。

現在は七月十九日。

そう、この日が悪いのだ。明日から夏休みだという皆が幸福になる日には、必ずと言って良いほど上条には尋常ではない量の“不幸”が襲いかかってくる。

それでもせめて他人だけは、と人助けに乗り出したのがそもそもの間違いだった。

そして、さらに二キロほど走って大きな川に出た。大きな川にはそこを渡れるよう大きな鉄橋が架かっている。それを渡りながら中心当りで上条は後ろを振り返る。

 

「やっと撒いたか・・・・・・。あーあ。何してんだろーな俺」

「ったく、本当何やってんのよアンタ。不良を守って善人気取りか、熱血教師ですかぁ?」

「やぁ、御坂美琴嬢。君がここにいるって言う事はアレだ。後ろの連中は」

「うん。めんどいから私が焼い(ヤッ)といた」

(可哀想に、コイツに関わったのが運のツキだ。俺はもう半ば諦めてるよ。ハァ、不幸だ)

 

別に出会いは普通だった気がする。上条は通学路の邪魔をする不良(スキルアウト)共を片付けようとしただけだったし、その不良に絡まれていたのが御坂美琴だった。それだけだ。

それなのに彼女は勝負とかこつけて上条を追い回す。いい加減にしてくれと言うのは上条の言葉だった。

 

「・・・・・・つか、俺が一体お前に何をしたってんだよ。強いて言うならお前をぞんざいに扱ったかもしれないけどさ」

「・・・私はね。自分より強い『人間』が存在するのが許せないの。それだけあれば理由は充分」

「お生憎様。俺は『人間』じゃあないよ」

「アンタはそうやって馬鹿にする。私は超能力者なのよ? 何の力もない無能力者相手に気張ると思ってんの? アンタは、一体。何を、隠してんのよ」

「俺はお前と会ってから嘘は一度もついてないと思うぜ?」

 

大体、と上条はそこで区切って、

 

「スプーン曲げるならペンチ使えば良いし、火が欲しければ一〇〇円でライター買えば良い。テレパシーなんかなくてもケータイあるだろ。頭の血管千切れるまで頑張って手に入れるもんかね? 超能力ってのは?」

 

上条は呆れたような目で、美琴というレンズを通して学園都市(この街)を見据えて、

 

「大体どいつもこいつもおかしいんだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。俺達の目的ってな、()()()()()()()()だったよな?」

「はぁ? ・・・・・・ああアレね。何だったかしら、確か『人間に神様の計算はできない。ならばまずは人間を越えた肉体を手に入れなければ神様の答えには辿り着けない』だっけ?」

 

少女は鼻で笑う。

いや、目の前にその“答え”がいます。とは流石の上条も言い出せなかった。

 

「・・・・・・ていうか。まったく、強者の台詞よね」

「は?」

「強者、強者、強者。生まれ持った才能だけで力を手にいれ、そこに辿り着くための辛さをまるで分かってない―――マンガの主人公みたいに不敵で残酷な台詞よ。アンタの言葉」

 

学園都市に七人しかいない超能力者、そこに辿り着くまでにどれだけ『人間』を捨ててきたのか・・・・・・それを匂わせる暗い炎が言葉の端に灯っている。

それを、上条は否定した。

たった一言で、たったの一度も振り返らなかった事で。

たったの一度も、負けなかった事で。

 

「ありゃま。自分の言動には気を遣ってるつもりだけど、流石に傷つきやすいプライドって言うか、沸点低くない?」

「本当にアンタはうるさくて、余計な事しか言わないわね!」

 

苛立ちをぶつけるように、普通の人間が壁を殴るように、彼女は自分の必殺技を繰り出した。

 

「レ・・・電磁加速砲(レールガン)・・・!? おまっ! 艦載兵器をどうやって再現しやがった!」

「簡単よ。コ・レ」

「ゲーセンのメダル? それ持ち出し禁止じゃなかったか? というか、それをどうやって・・・」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()超電磁砲(レールガン)としては使える代物ってわけ」

「絶対、人に向けて使うなよ!? 俺、中学生が殺人事件で少年院行きとか見たくねーからな!?」

「ばっかねぇ。使う相手ぐらい選ぶわよ」

「選ぶ選ばないの問題じゃねぇ! 人に向けて撃つなっつてんだ!」

「うるっさいわねぇ・・・。あんな無能力(レベルゼロ)―――追い払うにゃコイツで十分でしょ、っと!」

 

少女の前髪から角のように青白い火花が散った瞬間。

槍の如く一直線に稲妻が襲いかかってきた。

激突音は一瞬遅れて耳に届く。

上条が顔面を庇うように差し出した右手に激突した電撃の槍は、彼の体内で暴れるのみならず、四方八方へ飛び散って鉄橋を形作っている鉄骨へと火花を撒き散らした。

・・・・・・、ように見えた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「なあビリビリ。お前のコレって何なんだ? 雷も稲妻もどっちも自然現象でしかもデッカイ静電気だっていうじゃねーか。お前のも体内で発電した電気を相手に向かって撃ち出してるのか? まるでピカ◯ュウみたいだな」

 

上条の挑発じみた言葉には耳を貸さず少女は続けて言葉を紡ぐ。

 

「まったく何なのよ。そんな能力、学園都市の書庫(バンク)にも載ってないんだけど。私が三二万八五七一分の一の天才なら、アンタは学園都市でも一人きり、二三〇万分の一の天災じゃない」

 

忌々しげに呟く少女に、上条は一言も答えない。

 

「そんな例外を相手にケンカ売るんじゃ、こっちもレベルを吊り上げるしかないわよね?」

「・・・・・・、それでもいっつも負けてるくせに」

 

返事は額から飛び出す『電撃の槍』を使い、音速を軽く超える速度で襲いかかってきた。

だがそれはやはり上条の右手にぶち当たった瞬間、四方八方へと散らされてしまう。

さながら水風船でも殴り飛ばすように。

 

幻想殺し(イマジンブレイカ―)

一般的にはテレビの笑い物―――そして学園都市(このまち)の中では数式の確立された超能力。その『異能の力』を使うモノなら、それが例え神様の奇跡であっても力の善悪強弱問わず問答無用で打ち消す異能力。

それが異能の力であるならば、少女の超能力『超電磁砲』にしたって例外はない。

ただし、上条の幻想殺しは『異能の力』そのものにしか作用しない。簡単に言えば、超能力の火の玉は防げても、火の玉が砕いたコンクリの破片は防げない。効果も『右手の手首から先』だけだ。他の場所に火の玉が当たれば問答無用で火だるまである。

それが、上条当麻以外の人間についていたら、である。

だから上条は心の底から、負け犬の遠吠えをしている少女を見下しながら鼻で笑いながら笑みを浮かべる。

まるでサンタクロースの正体を分かっている少年のような小悪魔の笑みを浮かべて、上条は笑う。学園都市をこの世界を

 

「なんていうか、不幸っつーか・・・・・・ついてねーよな」

 

上条は今日一日、七月十九日の終わりをこう締めくくった。

たった一言で、本当に世界の全てを嘆くように。

 

「オマエ、本当についてねーよ」




次回からもちょくちょく手を加えたり、

新しい話を付け加えていくつもりです。

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