比企谷八幡の幻想縁起   作:虚園の神

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学校の試験が色んな意味で終わった。特に古典。今時いとおかしとかいうやついねーだろ。古典って何のために勉強するの?


彼は人里に行く

修行を始めてから7日が経ち、俺は既に弾幕を作り、放つまでに至った。更に空まで飛ぶことにも成功した。当初はいつ墜落するか分からない様な不恰好な飛び方をしていたが、今では決して早くはないが、自在に飛ぶことができる。

弾幕に関しては今のところ最高で20発が限界だ。だから弾幕、というよりも弾を連射している様な感じである。それしか撃てなくても、スペルカードを作れるようなのでつい昨日、三枚のスペルカードを作った。

 当初、スペルカードとは何ぞ?と思ったが何てことはない。弾幕の動きをカードにコピーし、何時でもそれが発動できるカードだ。うん、充分すごいね。

 どうやら個人の能力や性格などがカードに現れるらしい。だからか俺も性格が弾幕に反映されたものとなっている。

 そして今日この日、唐突ながらも霧雨と弾幕ごっこすることになった。

 霧雨はあれから毎日神社に通い続け、何が面白いのかただ縁側で茶を啜りながら修行を見ているだけだった。忠犬かと思うくらいに通い詰めてるので、いつか銅像でも建てられるんじゃないの?と思ったほどだ。

 そして今日も例に漏れず来たところ、博麗に『比企谷と弾幕ごっこしてみて』と言われたのだ。まいっちゃうね!

 

「ルールはどうするんだぜ、霊夢」

「そうね…比企谷が三枚しか持ってないから三枚勝負ね。あと魔理沙は比企谷に三発、比企谷は魔理沙に一発でも当てたら勝ちよ。比企谷とあんたじゃ実力差があり過ぎるからハンデが必要だしね。」

 

 それでも負ける気しかしない俺は如何すればいいんでしょう……。

 

「私はそれでいいぜ。さぁ始めようぜ八幡!」

 

 何その少年漫画的なセリフ。これはあれだな、調子に乗ってかっこいいセリフ吐いたけど後から恥ずかしくなって布団の中で身悶えるパターンだ。現にホラ顔を見れば…………、笑ってる。何こいつ?羞恥心がないのか?俺だったら絶対うずくまって叫んでるよ。あれ。

 

「ん?私の顔ジロジロ見てどうしたんだ?顔になんか付いてるか?それともこの魔理沙さんに惚れちゃったか?」

「べべ、別に惚れてねねねぇし」

そう返すと腕を持ち上げ、やれやれといった雰囲気で言葉を返す。

「おいおい、こんなに女の魅力が詰まった私に惚れないなんて罪だぜ」

「へっ、女の魅力ねぇ……」

 

 関東平野を常時装備した奴に魅力とか言われても説得力ねぇよ。おっと誰も胸の事なんて言ってませんよ?

 馬鹿にした様な笑いを零し、上半身の一部を意味深に見る。

 

「なんだよ。私に魅力が無いって言いたいのか?流石に私も傷つくぜ?」

「傷つく様な乙女心持ってなさそうだけどな」

 

 その言葉が気に入らなかったのか、こめかみがピクッと動く。

 少し言い過ぎたか……。

 

「いや、悪いな。霧雨は女の子(・・・)だからな。そのうち魅力的になるよ」

 

 俺にしては少しキザったらしくなってしまったかな。まぁ、それなりにフォローしといたし機嫌も直っただろう。流石、できる男(俺)は違うぜ。

 霧雨を見れば顔を赤くして俯いてる。おっとこれはフラグ立てちゃったかな?

 驚き半分、期待半分で霧雨を見ていると彼女の口から注意しなければ聞き逃してしまう位に小さな声が聞こえてくる。

 

「それは……お……くが…って…とか」

 

 やべぇ注意しても全然聞こえねぇ。

 

「悪いな。聞こえんからもう一回言ってくれ」

「それは私に……くが……ってことか」

「も、もう少しボリューム上げてくれ」

「それは私に大人な魅力が無いってことかっ‼︎」

 

 そう言うと彼女は箒に乗って上空へ飛び、紙、いやカードを掲げた。

 

「魔符『スターダストレヴァリエ』!」

 

 え、えぇ〜。いきなり開始かよ。どうやら俺は彼女の逆鱗に触れてしまったらしい。

 おかしいな……。俺フォローしたつもりだったんだけど。うーん女の子発言と将来を示唆したのがマズかったか。

 考えてる間にとてつもない数の七色の星が円を描きながら俺に迫ってくる。それをステップで右に左に時には身を屈めて避ける。避ければ当然地面に当たる。見れば弾幕が当たったところの地面が陥没していた。背中にツーッと嫌な汗が流れる。

 あれ?弾幕ごっこって殺しちゃダメなんだよね?あれ死なない?大丈夫?

 そんな俺の心配なんかお構い無しに次々星達が降ってくる。流れ星として見るのであったら綺麗だっただろうが、生憎なことに観賞するなんて余裕はない。

 上に開いた隙間を縫って、空へ我が身を踊らせる。地上よりも空中の方が避けやすいのだ。

 避け続けていると時間が切れたのか弾幕が途切れた。その隙をすかさず狙い、俺もスペルカードを発動させる。

 

「独符『黒歴史』!」

 

 もうこの名前の時点で黒歴史。何でこんな名前にしちゃったんだろう……。

 弾幕が霧雨に向かっていく。

 俺は一度に20発しか弾幕が撃てない。だがこの弾幕は弾数が少ないことを補うため、追尾型になっている。因みに色は灰色だ!美しさのかけらもねぇな。

 三列で構成され、一列目が6発の通常追尾弾幕。二列目がゆっくりめの追尾弾幕3発。三列目が緩急をつけた上下左右に激しい動きをする弾幕11発で、列ごとに黒歴史の心境を表した弾幕だ。

 だがまぁ流石と言うべきかやはりと言うべきか、その悉くは全て避けられ、カウンターを仕掛けられる。

 

「そんなんじゃ、私には勝てないぜ!魔符『ミルキーウェイ』!」

 

 そう言って二枚目を出してくる。

 またも星型弾幕が全方向に散りばめられる。今度はでかい星の隙間に小さい星が走る弾幕のようで、敵を討たんと迫ってくる。

 ていうかミルキーウェイでなんで全方向に弾幕放ってんだよ。天の川なんだから一直線にしろよ。

 心中突っ込みを入れていたからだろうか、何時の間にか弾幕が目の前にあった。何とか半身をずらそうとするが避けられるはずもなく、見事に胸にクリーンヒットした。

 こひゅっと息が漏れ、動きが止まる。

 ただ俺には2回まで当たっていいというハンデがある。そのため弾幕ごっこは続いているのだ。そんなに休憩していられない。

 しかしこのまま攻められ続けられたらおそらく負ける。そして前のスペルカードの様に少ない弾数ではまず当たらない。スペルカードは残り2枚。どう使うか……。

 そうしてる間にも相手の弾幕達はどんどん自身の間隔をせばめていく。……迷ってる時間はなしか。

 カードを一枚左手に持ち、宣言する。

 

「独符『比企谷菌(トラウマ)』!」

 

 すると彼女の両脇から8発ずつ弾幕が出て、残る4発は正面から攻撃を仕掛ける追尾型。三方を囲まれた状態だ。

 霧雨は開いた上空へ素早く回避。だがそれは読んでいた。

 上、下、後ろが開いていたら普通は次に攻撃を仕掛けやすい上に逃げるだろう。

 だから先回りをして霧雨の正面で宣言する。

 

「独符『虚偽欺瞞』!」

 

 全て正面に真っ直ぐ、20発全てをばら撒く。

 

「おいおい。もう三枚目かよ。これ避け切ったら私の勝ちだぜ?」

 

 そう余裕の笑みを湛え、ひょいひょい避けていく。

 そして霧雨が帽子のつばを直したときには、俺の光弾は彼女の後ろへ飛んで行き、見えなくなった。

 

「これで私の勝ちか。スペルカード切れなんて案外呆気なかったぜ」

 

 そうドヤ顔でこちらに近づく彼女。

 だがこの時俺は凄く嫌な笑顔をしていただろう。

ちらっと博麗を見る。彼女は気付いたか。終了の合図を出さないのと、苦笑いを浮かべているのがその証拠だ。

それを確認してから霧雨に向き直る。

 

「ああそうだ霧雨、一つ言い忘れてたことがあった」

「うん?」

 

 左手に隠し持ってたスペルカード(・・・・・・)を霧雨の目の前、ほぼゼロ距離で発動させる。

 

「独符『奉仕部』」

「え?」

 

 咄嗟のことについていけなかったのか暫く固まるが、その硬直からもすぐに脱する。だけどもう遅い。この距離だ。当たらないはずがない。

 箒を駆使し、右へ左へ避けるが2発彼女の背中と足に当たった。勝敗は決した。俺の勝ちだ。

 

「どういう事だよ‼︎3枚じゃ無かったのか⁉︎」

 

 霧雨の叫び声が聞こえる。怒りと驚きが混じったような声音だ。

 だが生憎なことに俺はルールは破ってない。

 

「ちゃんと3枚しか使ってないぞ」

「4枚使っただろ‼︎」

 

 そんなに怒鳴るなよ。怖いから。

 

「いいか?黒歴史、比企谷菌、奉仕部。この3枚だ」

「もう一つ虚偽欺瞞があっただろ!」

「ああ、あれは名前の通り虚偽欺瞞だ。嘘だよ。あれはスペルカードじゃなくて宣言した後ただの弾幕を撃っただけだ。『スペルカードを使う時は宣言する』、っていうルールがあったが『ただの弾幕を撃つ時にスペルカード宣言をしない』ってルールは無かったはずだ」

「ず、ずっるー!セコイぞ!」

「ルールには則ってる」

 

 まぁ怒るのも分かる。ほとんど騙し討ちに近いからな。

 

「霊夢!これってズルだよな!霊夢も気付かなかったよな‼︎」

「私は気づいてたわ」

「え……」

「彼、私にだけ見えるようにワザと最後の一枚体の後ろから見せてきたから」

 

 そう言って湯呑みを縁側に置くと俺に少々ジトッとした視線を向けてきた。

 

「今回はあんたの勝ちでいいわ。だけどあれは次から禁止。もし鬼相手にあんな事やったら絶対に殺されるわよ。あいつら嘘が嫌いだから」

「……気をつける」

「気をつけるんじゃなくてやらない事。いい?」

「りょーかい」

 

 騙し討ちは今後禁止か……。次からどうやって勝とうかな。

 思案してると後ろから肩を突かれた。振り返ると博麗が小声で話しかけてきた。ふぇぇ顔が近いよう……。

 

「あと魔理沙に一応謝っておきなさい」

「ん。分かった」

 

 言われ、少し離れたところでふくれっ面をしてる霧雨のところへ行く。俺が視界に入るとムッとした表情を作った。

 

「あー霧雨、騙し討ちみたいなことして悪かったな」

 

 同時に軽く頭を下げる。

 

「む、まぁ気付かないで不用心に近づいた私も悪いしもう良いよ」

 

 すると今度は打って変わってニッと笑う。

 

「それに弾幕ごっこした後は仲直りだ。そんなにいつまでもひきずる魔理沙さんじゃないぜ!」

「……ありがとな」

「いいって、それなりに楽しかったしな」

 

 ちょうど一陣の風がふいた。彼女の金髪はそれに流れ、たゆたう。

 

「お昼にしましょ」

 

その博麗の声を皮切りに俺も霧雨も神社に入った。

 

 

♢♢♢

 

 

5日が経った。つまり、博麗神社に来てから12日。幻想郷に来てから13日だ。

あれから更に修行した。霧雨とも勝負したがあれから一度も勝ってない。

だが弾幕の数は30に増えた。中々の進歩だ。スペルカードも2枚増やした。

そして今日は博麗神社を後にする日だ。

 

「じゃああんたを人里に送ってくから。その後の事は人里にいるハクタクにでも聞きなさい。あと、幻想郷では弾幕ごっこで雌雄を決するって言ったけど、主に異変解決のときぐらいだから。そこらの野良妖怪に『弾幕ごっこで勝負しよう』なんて言っても相手にされないわ。普通に倒すか、逃げるか、ね。あんただったら逃げるくらいはできるだろうけど。」

「覚えとく」

「結構短かったわね。はぁ、暫く備蓄があるからいいけど、そのうちまた雑草食べることになるのかしら」

 

この12日間使った金は10円(約10万)と結構多い。これ以上使いたくないところだが、こいつを見るとどうもな……。

賽銭箱の前に行き、1円札を3枚突っ込む。

 

「……賽銭入れといたぞ」

「……へー、あなた結構優しいのね」

「なんだ、今頃気づいたのか。そうだ俺は優しいんだ。メチャクチャぶん殴りたいほどにウザい奴がいても恨んで呪詛唱えるだけで我慢してやってんだ。俺が優しくなかったら二桁の人間はこの世にいないな」

 

特にクリスマスなんかはデスビームを放ちたくなる。あのカップル共はなんなの?非リアへの当てつけか?公然でイチャイチャしやがって。サイゼはお前らの愛を育む場所じゃねーんだよ。

博麗は疲れたようなため息をついた。

 

「はいはい、あなたが優しいことは分かったから。くだらないこと言ってないで人里に行くわよ。」

 

そう言って青空へ飛び出していった。

広い青に吸われる赤。

見失わぬように、彼女を視界に収めながら後を追った。

 

 

♢♢♢

 

 

出張!比企谷八幡、in人里ー‼︎

というわけで人里到着。そこ、どういうわけだとか言わない。

人里、その名の通り人の住む里である。妖怪は通常、この里は襲わない、そうだ。通常ということは時々襲ってくるのがいるのだろう。

この人里、中々広い。店が豊富にあるし、人も多く行き交っている。

だが何よりも印象深いのは映画のセットの様な街並み自体だろう。まるでタイムスリップした様な感覚に陥るほどの江戸時代然とした風景がそこには広がっていた。

コンクリートはないし、街灯もない。カルチャーショックっていうか、エラショックって感じのものをを受ける。

「何してるの。早く行くわよ」

その言葉を受け、慌てて付いていく。

「俺の住んでたところとは全然違うな。木造住宅なんてほとんど見たことないぞ」

「これぐらい普通でしょ。私の神社も木張りだし。そもそも木以外に何使うのよ」

「神社と寺はいいんだよ。何?こう、長屋っていうの?それを見たことがないって言ってんだ。それにこっちは木じゃなくてコンクリート使ってるしな」

「こんくりいと?何かしら……」

「固まると石みたいになる液体だ」

「ふーん、便利なものがあるのね」

そっけない返事。彼女の性格がよくわかる。

歩く度に巫女装束がひらひらと舞う。邪魔そうだがそれを気にも留めず歩いていく。

一つ道を曲がったその時、

「お」

気になるものがあったのでつい、足を止めてしまった。刃物屋の前、包丁や鎌が並ぶ中で小刀を見つけたのだ。

40円か……。高いな。

刃渡り一尺(約30cm)ほど。刃がかなり厚い。

「何道草食ってるのよ」

後ろから声をかけられた。

わざわざ戻ってきたのか。

「ああ、悪いな。護身用に小刀欲しくてな」

「どれどれ……40円⁉︎高いわよ!無理無理、諦めなさい」

「そうだよなぁ」

何か商売でもできればいいんだが。

「買えないものを見ててもどうしようもないわ。行くわよ」

その言葉を最後にして俺たちは刃物屋を後にした。

 

 

♢♢♢

 

 

人里の守護者は生憎家にいなかった。今は寺子屋で授業をしているらしい。と言っても家からそれほど離れていないらしく、5分と経たず寺子屋に着いた。

寺子屋に入り、一つの教室のドアを無造作に開ける。

ガラッと音がし、教室中の視線が俺と博麗に集まる。

「なんだ、博麗の巫女か。悪いが今は見ての通り授業中でな。用があるなら後でにしてくれないか?」

教卓に立つ白く、長い髪が特徴的な女性、もしかしなくても教師だろう。おそらく彼女が人里の守護者、上白沢慧音。

しかしこの寺子屋、人間の生徒は勿論いるのだが、それらに混じって明らかに人間じゃねーだろって感じの生徒までいる。羽生えてるし。

「すぐ終わるから。用件だけ説明するとここにいるぬぼーってした人が外来人の比企谷八幡。冴えないし、目腐ってるけど悪い奴じゃないわ」

「ねえ、俺のこと貶しすぎじゃない?色々余計だから」

「冴えない目の腐ってる奴」

「悪い奴じゃない、を省くんじゃねーよ…」

博麗は面倒くさそうに首を振る。

「余計と言うなら今の会話の方が余計よ。私だって早く終わらせたいんだから」

そう言うと俺から目を外し、女教師の方に向き直る。

「こんなやつだけど、人里に置いとける?」

「ああ、いいぞ。だが詳しいことは授業が終わってからだな。比企谷と言ったか?しばらく時間がかかるから授業でも見ていったらどうだ」

確かに何もせずにただぼーっと待っているのも暇だ。ならここは言葉に甘えとくべきか。

「じゃあちょっと見学させてもらいます」

うむ、と一つ頷いた彼女は席を案内しようとする。

「私は帰るわ。何かあったら博麗神社に来なさい」

博麗はそう言って背を向けた。

「博麗」

その背を無意識に呼び止めたのは社交辞令として身についているからなのか、それとも本心なのか。

「ありがとな。世話になった」

歩き始めていた背は止まり、目が片方だけこちらを向いてる。

「あっそ」

そう言うと再び歩き始める。

「……私も楽しかったから礼なんていらないわよ」

ボソッと呟かれた声。聞こえてしまったが、あえて聞こえてないふりをする。

巫女装束はもう見えない。

「授業を再開する」

その声で教室に目を戻し、席に向かった。

 




以上、第6話でした。
お昼ご飯おいちい

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